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神戸地方裁判所 平成7年(ワ)1290号 判決 1997年3月26日

第一事件原告

小林眞知子

右訴訟代理人弁護士

滝本雅彦

北山真

第二事件原告

住吉パームス管理組合

右代表者管理者理事長

濱田園美

右訴訟代理人弁護士

滝本雅彦

北山真

第一事件、第二事件被告(以下「被告」という。)

井住建設株式会社

右代表者代表取締役

住井節子

右訴訟代理人弁護士

岡嶋豊

右訴訟復代理人弁護士

黒木理恵

主文

一  被告は第二事件原告に対し、六八万円及びこれに対する平成七年七月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  第一事件原告の請求をいずれも棄却する。

三  第一事件の訴訟費用は、第一事件原告の負担とし、第二事件の訴訟費用は、被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  第一事件原告(以下「原告小林」という。)

(一) 被告は原告小林に対し、別紙物件目録記載(一)の建物一階部分に設置した別紙図面記載AないしHの壁を撤去せよ。

(二) 被告は同原告に対し、別紙物件目録記載(二)の建物につき神戸地方法務局東神戸出張所平成六年一一月四日受付第二六六七七号の所有権保存登記の抹消登記手続をせよ。

(三) 訴訟費用は被告の負担とする。

(四) 主文(一)につき仮執行宣言

2  第二事件原告(以下「原告組合」という。)

(一) 被告は原告組合に対し、六八万円及びこれに対する平成七年七月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(二) 訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告小林及び原告組合の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  第一事件について

(一) 原告小林は、別紙物件目録記載(一)の建物(通称「住吉パームス」、以下「本件マンション」という。)の一室の区分所有者である。本件マンションは、昭和四七年一月二五日に建築されたものであるが、平成六年三月二〇日に本件マンションの区分所有者で構成する団体である原告組合が設立され、原告小林は、平成六年一一月二七日開催された集会の決議により、他の区分所有者全員のために本件訴訟を提起すべく選任されたものである。

被告は、本件マンションを建築、販売した業者で、現在も本件マンションの二室を所有する区分所有者である。

(二) 本件マンションの一階部分は、一部に壁面があるものの、その他の部分は八本の脚柱があるだけで壁はなく、全体的にみれば壁のない柱だけのいわゆるピロティーと呼称される空間であり(以下「本件係争部分」という。)、周囲との遮断性は認められず構造上の独立性はない。

本件係争部分には、配電盤や排水設備等の本来共用部分に設置されるべき設備が設置されている。また、本件マンション住民は分譲当初より、同部分を自転車置場や集会場として利用しており、住民が当番制で清掃を行い、同部分にかかる電気料金もマンションの管理費から支払われていることから、本件係争部分には利用上の独立性も認められない。

以上のことから、本件係争部分は構造上の共用部分(法定共用部分)にあたり、本件マンションの区分所有者全員の共有に属するものであるから、全員の合意か集会の決議によらなければその部分の変更をすることは許されない(建物の区分所有等に関する法律《以下「区分所有法」という。》一七条)。

(三) しかるに、被告は、平成六年一〇月上旬、本件係争部分の外周に別紙図面記載AないしHの壁を設置する工事を行った。

さらに被告は、右工事完成後、右壁の設置により外部と遮断された空間を被告の専有部分として神戸地方法務局東神戸出張所平成六年一〇月一八日付の被告を所有者とする表示登記及び平成六年一一月四日受付第二六六七七号の同人を所有者とする所有権保存登記を行った。

(四) 右行為は本件係争部分の変更に当たることは明らかであるにもかかわらず、右変更につき、他の区分所有者全員の合意も集会の決議もない。

したがって、被告の右行為は、区分所有法一七条に違反する共用部分の変更であり、同法六条一項にいう「区分所有者の共同の利益に反する行為」に該当する。

(五) よって、原告小林は被告に対し、区分所有法五七条により、共同の利益に反する行為の結果の除去のため、請求の趣旨記載のとおりの判決を求める。

2  第二事件について

(一) 原告組合は、平成七年六月二四日の臨時総会において、阪神大震災により被害を受けた本件マンションの復旧工事のための修繕費用一〇三〇万円の分担として、区分所有者が一戸あたり三四万円を負担し、これを同年七月一四日限り支払うことを決議した。

(二) 本件係争部分は共用部分であるから、被告の負担金は、右一〇三〇万円の二五分の二である八二万四〇〇〇円となる。仮に、同部分が被告の専有部分であるとすると、被告の負担金は右一〇三〇万円の三〇分の七である二四〇万三〇〇〇円となる。

(三) よって、原告組合は、右決議に基づき、或いは区分所有法一四条、一八条、一九条に基づき、被告に対し、右修繕費用負担金の一部として、六八万円及びその支払期日の翌日から支払済までの遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1について

(一) (一)及び(三)の事実は認める。

(二) (四)のうち被告が本件係争部分に壁を設置する工事を行うについて他の区分所有者全員の承諾や集会の決議を得ていないことは認める。

(三) (二)のうち、本件係争部分には一部に壁があるのみで、他の部分は八本の脚注があるだけの構造であること、本件マンションの住民が本件係争部分を自転車置場や集会場として利用していたことは認める。本件係争部分が法定共用部分であることは否認する。

2  請求原因2について

(一)は認める。

三  被告の主張

本件係争部分は、以下のとおり、法定共用部分ではなく、被告の専有部分である。

1  構造上の独立性

本件マンションの一階部分は、本件マンションの住民のための郵便受け等が設置されているロビー部分と本件係争部分であるが、両者は、建築当初から鉄筋コンクリートの壁及び扉によって仕切られている。

2  利用上の独立性

本件マンションの住民は、本件マンションの二階以上の階に居住しており、その出入りは、北西の玄関からロビー部分を通ってされており、本件係争部分を通行することはなく、コンクリートの壁及び扉によって遮断されていることから、避難用通路としての利用も考えられない。

共用の施設である機械室及び電気室にはロビーから出入りできる。

原告組合が、本件係争部分を自転車置場や集会所として利用していたことがあったとしても、被告が住民の申入を受けて使用させていたものにすぎない。

3  被告の意図及び本件係争部分の持分割合

被告は、本件マンション建築の当初から、本件係争部分を建築資材置場として利用することを意図していた。

被告は右意図に従い、本件マンションの敷地持分を三〇等分し、二五戸のうち売れ残った二戸分と本件係争部分を併せて三〇分の七の持分権を有し、本件係争部分は、資材置場として利用してきたのである。

4  本件係争部分への課税

被告は、本件係争部分を含む一階部分全体の土地に対する固定資産税等の税金を支払ってきた。

5  本件マンション居住者の認識

本件マンションの住民は、被告に対し本件係争部分を集会所として利用させてくれるように申入をしており、平成五年に自己の専有部分を売却した区分所有者は、その広告中に共用部分の記載をしていない。また、平成六年に被告以外の区分所有者らによって作成された原告組合の管理規約には敷地の利用関係は専有部分比によると記載されているが、敷地の持分割合は、被告が三〇分の七であり、その他の住民は各三〇分の一である。

これらのことから、本件マンションの住民は、本件係争部分が被告の専有部分に属することを認識していることは明らかである。

第三  証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

第一  第一事件について

一  請求原因1(一)(三)の各事実及び(二)のうち、本件係争部分には一部に壁があるだけで他の部分は、八本の脚柱があるだけのいわゆるピロティーであること、本件マンションの住民が本件係争部分を自転車置場や集会所として利用していたこと、(四)のうち、被告が本件係争部分に壁工事をする際に他の区分所有者の承諾や集会の決議を得ていないことは、いずれも当事者間に争いがない。

二  右争いのない事実及び証拠(甲一ないし四、五の1ないし8、六の1ないし8、七の1ないし4、一三、乙一の1・2、二の1・2、三の1ないし8、四、六の1・2、七の1、八、九、証人平田浩、原告小林眞知子)によれば、以下の事実を認めることができる。

1  被告は、昭和四七年に本件マンションを建築し、その二階から六階までを居住用専用部分とし、一階につき五戸合計二五戸を設けて分譲した。そして、本件マンションの敷地所有権の持分割合につき、一階部分も五戸分相当として全体を三〇分し、一戸につき三〇分の一の敷地持分権を割り当てた。被告は、一階部分のうち、本件係争部分は専有部分として分譲の対象とせず、資材置場に使用する意図で、売れ残った二戸分と一階分を併せて三〇分の七の持分権の登記を経由した。他の区分所有者の持分権はすべて三〇分の一として登記が経由されている。なお、原告組合が平成六年ころに設立された際に作成された管理規約(甲二)の別表第一の「対象物件の表示」中には「敷地の権利関係は、専有持分比による共有」との記載がある。

2  本件マンション一階部分は、居住者が出入りのために利用する北西部の玄関に続くロビー部分と本件係争部分に分かれており、ロビー部分には住民のための郵便受けが設置され、二階に出入りするための階段に続いている。右階段の下付近には本件マンション全体の機械室及び電気室があるが、ロビー部分から出入りすることができる。本件係争部分は、いわゆるピロティーであって、八本の脚柱のある空間部分であり、東部、南部には壁面がなく、西部分にはその北側半分程にコンクリート製の壁面があり、北部のうち、ロビー部分と接している西側部分にコンクリート製の隔壁があり、鉄製の扉も設置されている。

ロビー部分は当初からタイル貼りであるのに対し、本件係争部分は、当初は舗装がなく、土のままであったが、平成五年にコンクリート舗装されている。

当初、排水の会所(マンホール)は本件係争部分の北側にあったが、平成六年ころに本件係争部分の外側に移設された。また、廊下等の共用部分及び本件係争部分の共通の配電盤は本件係争部分の北側のロビーと接する付近に設置されていたが、本件係争部分の外側西部に移設された。なお、現在、右電気料金は、原告組合が管理料の中から一括して支払っている。

3  本件マンションの住民は、従来、本件係争部分を集会の際に使用し、当番制で本件係争部分も他の共用部分と共に清掃の対象としていた。また、本件係争部分の南西部に自転車を置いていた住民もいるが、平成五年にコンクリート舗装された際に撤去され、被告に今後も自転車置場として利用させて貰いたい旨申し入れるも、今後は有料である旨返答されたことから紛糾した。

被告は、本件係争部分を当初から資材置場として使用し、また、本件係争部分を含めた一階部分の敷地面積に応じた固定資産税・都市計画税を支払っている。

4  本件マンションの分譲に当たって、各戸の購入者に本件係争部分が共用部分であるとの説明はされておらず、また、区分所有者がその専有部分を売却する場合にも、本件係争部分を共有部分として広告することもなかった。

5  被告は、平成六年一〇月ころから、本件係争部分の外周に壁面を設置する工事に着工し、右工事完成後、本件係争部分を被告の専有部分として表示登記を経由した上、所有権保存登記手続をした。

三 以上の認定事実によれば、本件マンションの建築分譲当初、区分所有者にとって、その専有部分の所有、利用に必要である本件マンションの構造部分としては、玄関とそれに続く郵便受けの設置されたロビー部分、階段、廊下、電気室、機械室等であり、本件係争部分は、専有部分の所有、利用にとって不可欠な部分ではなかったというべきである。

本件係争部分は、その構造上、脚柱のみの開放部分が多いが、北部の西側ロビー部分に接する部分にはコンクリート製の隔壁が設けられ、西部の北側半分もコンクリート製の壁面が設置されており、ロビー部分はタイル貼りであるのに対し、本件係争部分は、舗装されていなかったのであって、ロビー部分と本件係争部分との境界は明確であり、住民が二階以上の専有部分への出入りのために自由に立ち入ることができる構造ではなく、一応独立の物的支配が可能な程度に他から遮断されているものといえる。

被告は、当初から本件係争部分を資材置場として利用する意図で、自己の専有部分として留保し、実際にも資材置場として利用してきたのであり、本件係争部分を共用部分とする意図は全くなく、分譲の際にもそのような説明をしておらず、分譲価格の決定に当たっても本件係争部分の利用の対価を反映させなかったものと考えられる。本件マンションの各戸の分譲を受けた区分所有者も、本件係争部分の利用が可能であることを前提として専有部分の分譲をうけたものとは考えられず、また、各区分所有者としても、前記の原告組合の管理規定の記載や敷地の持分権の登記の記載、敷地にかかる固定資産税等の支払状況に照らせば、本件係争部分が被告の専有部分として留保されていることを認識することができたものといえる。

以上の認定判断によれば、本件係争部分は、被告の専有部分に属し、本件マンションの法定共用部分ではないというべきである。

四  本件マンションの住民は従前、当番制で本件マンションの他の部分と共に本件係争部分の清掃を行っており、また、本件係争部分を集会の際に使用したり自転車置場として利用してきたのであるが、被告はこれを黙認していたにすぎないのであり、平成五年に本件係争部分をコンクリート舗装するに際して、駐車していた自転車を撤去し、今後も同様に使用させてほしいとの住民の要請に対して、被告が有料であると応答したことから紛糾したのである(証人平田浩の証言)。また、従来、排水のための会所(マンホール)や配電盤が本件係争部分中に存在したが、住民が日常的に使用するものではなく、現在は他に移設されている。したがって、これらの事実をもって、本件係争部分が共用部分であるということはできない。なお、原告組合が他の共用部分と本件係争部分の電気料金を一括して支払ってきたとの事実があるが、本件係争部分にかかる電気料金は少額であることが窺われ、被告も従前は他の住民と相談の上、電気料金の負担に応じてきたのであり(証人平田浩の証言)また、一階部分の固定資産税はロビー部分も含めて被告が支払っていることに照らしても、右事実があるからといって、本件係争部分が共用部分であることの裏付けとなるものではない。

五  以上のとおりであるから、本件係争部分が本件マンションの法定共用部分であるとの原告小林の主張は認めることができないのであって、本件係争部分が法定共用部分であり、区分所有者の共有に属することを理由とする原告小林の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。

第二  第二事件について

一  原告組合が平成七年六月二四日の臨時総会において、阪神大震災による被災の復旧工事のための修繕費用一〇三〇万円の分担として区分所有者に一戸当たり三四万円の負担を徴収することとし、これを同年七月一四日までに支払うことを決議したこと(以下「本件決議」という。)は当事者間に争いがない。

右当事者間に争いのない事実及び甲八、乙一、二の各1・2、原告小林眞知子本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、原告組合は、本件マンションの補修について、各区分所有者に区分所有法一九条に規定する持分に応じる負担を求めるために同法一八条の決議をする趣旨で本件決議をしたものであり、被告に対しては、本件係争部分が専有部分か共用部分かについて争いがあることから、争いのない三〇分の二の持分についての負担金として六八万円を請求したものであり、本件係争部分が被告の専有部分であることが確定すれば、その部分をも含めて負担金を請求することが留保されているものであることが認められる。

二  そうだとすれば、本件係争部分が被告の専有部分に属することは前記認定判断のとおりであるから、被告の持分の割合は敷地に関する登記簿の記載のとおり三〇分の七であると認められ、その負担金は約二四〇万三〇〇〇円(一〇三〇万円÷三〇×七)であるところ、原告組合は本訴においてはそのうち六八万円及びこれに対する支払期日の翌日である平成七年七月一五日から支払済みまでの民法所定の年五分の割合による遅延損害金を請求しているから、右請求は理由があるというべきである。

第三  結論

よって、原告小林の第一事件にかかる請求は理由がないから棄却し、原告組合の第二事件にかかる請求は理由があるから認容することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官赤西芳文)

別紙<省略>

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