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神戸地方裁判所 平成6年(行ウ)3号 判決 1997年2月24日

原告

北澤孝夫(X)

右訴訟代理人弁護士

森賢昭

梶尾節生

被告

兵庫県収用委員会(Y1)

右代表者会長

高木多喜男

右指定代理人

大藤潔夫

柳瀬安功

井本満也

被告

川西市(Y2)

右代表者市長

柴生進

右訴訟代理人弁護士

上田茂實

理由

第三 争点に対する判断

一  争点1について

1  一般に行政処分には公定力があるから、先行処分に瑕疵が存在しても取り消されない限り適法として後行処分を行うほかなく、先行行為の違法(瑕疵)が当然に後行行為に承継されることはない。しかしながら、先行行為と後行行為とが相結合して一つの効果を形成する一連の手続に属する場合には、一連の行為の目的ないし法的効果は最終の行政行為に留保されている。よって、先行行為に争訟の機会が存在する場合であっても、後行処分において先行行為の違法(瑕疵)につき争えないとすると、先行行為について早期に争う機会を与えたことが、かえって国民の権利保護を弱めることになる。したがってこのような場合には、違法性の承継が認められ、後行処分の取消訴訟において先行処分の違法を主張できると解するのが相当である。

2  そこで本件について検討するに、都市計画事業については、土地収用法二〇条の規定による事業の認定は行われず、新都市計画法五九条及び六三条の規定による事業計画(又はその)変更の認可又は承認をもってこれに代えるものとされている(同法七〇条)。また、土地収用法は、起業者が事業のために土地を利用しようとするときは、建設大臣又は都道府県知事による事業の認定を受けなければならず(同法一六、一七条)、建設大臣又は都道府県知事は、起業者の申請にかかる事業が法定の要件を満たす場合に事業の認定をすることができ(同法二〇条)、事業の認定がされた場合には、起業者は、事業認定の告示があった日から一年以内に限り、収用委員会に収用の裁決を申請することができ(同法三九条)、収用委員会は申請却下の裁決をすべき一定の場合を除いて収用裁決をしなければならず(同法四七条、同条の二)、また、起業者は、土地の収用に伴い明渡裁決の申立てをすることができる(同法四七条の三)と定めている。そうすると、新都市計画法五九条及び六三条の規定による事業計画(又はその変更)の認可と収用及び明渡裁決は、相互に結合して当該事業に必要な土地の収用という一つの法的効果の実現を目指す単一の手続に属すると解することができる。また、都市計画変更・追加決定自体は処分性がないと考えられるが、後続の処分等がされた場合に、右都市計画変更・追加決定の瑕疵を根拠に後続の処分等の取消しを求めることができるから、事業計画の変更の認可の違法事由の一つとして本件都市計画決定の違法を主張できると解される。

3  被告委員会は出訴期間の制限や裁判の矛盾、抵触の危険性を指摘して、これらを理由に違法性の承継を否定する。しかし、先行の行政処分が出訴期間の制限により、その取消しを争えなくなるとしても、これによって違法がないことを確定されるものでもなく、また判断の矛盾、抵触は訴訟指揮等によって回避可能なものである。したがって、ずれも違法性の承継を否定する根拠とはならない。

また、被告委員会は、収用委員会が都市計画決定及び事業計画の変更の認可の適否を審査する権限を有しないことを問題とする。しかし、被収用者の立場から見ればこのことは行政庁相互間の権限分配の問題にすぎないし、仮に収用委員会が右審査権限を有するのであれば、都市計画決定及び事業計画の変更が違法であるのに収用委員会がこれを適法であるとした場合には、裁決自体に固有の毅疫が存在することになり違法性の承継の問題自体が生じない。したがって、右被告委員会の主張は採用できない。

4  よって、本件取消訴訟において、本件都市計画決定及び本件変更認可の適法性も審理判断の対象となるというべきである。

二  争点2について

本件都市計画決定当時、旧都市計画法が施行されていたのであるから、たとえその当時既に都市計画決定への住民参加の手続を定めた新都市計画法が成立・公布され、その一か月後には施行されることになっていたとしても、都市計画決定を旧都市計画法により受けるか新都市計画法により受けるかは事業施工者たる被告市の裁量によるというべきである。しかも、裁決書(〔証拠略〕)によれば、起業者である被告市は、新都市計画法施行以前に計画決定された事業を実施する際は、新都市計画法の趣旨を生かし事業説明会等を開催し関係住民の理解を得るよう努めなければならない旨を規定した建設省地方建設局用地取得事務取扱規程を受けて、公聴会の開催等住民の意見を都市計画決定に反映させるために必要な措置を講ずることを定めた新都市計画法一六条の趣旨を尊重し、本件都市計画決定後ではあるが、昭和五六年一二月七日、同五七年二月二七日及び同五八年一一月一五日の三回にわたり事業説明会を開催し、関係住民の理解を得るように努めた事実が認められる。したがって、被告市に裁量権の逸脱、濫用があったとは認められない。

三  争点3について

1  覚書に反する違法について

(一)  〔証拠略〕によれば、火打地区の自治会である火打親和会(以下「親和会」という。)は、本件都市計画による計画道路が住宅が密集する火打地区の中心部を縦断しこれまで一体であった集落を分断すること等を理由として本件都市計画案に反対していたこと、昭和五三年一月、被告市は、原告ら地域住民に対して何の連絡もなく、本件都市計画案に関して測量を実施しようとしたため、再び被告市と親和会の間に軋轢が生じ、親和会は、道路対策実行委員会を設置して、反対署名簿等の提出、抗議集会及びデモ活動の実施等の反対運動を行ったこと、同年四月二三日、親和会は、同年五月一五日に上京して建設省に本件計画道路建設反対の陳情を行うことを決議したこと、被告市は、親和会に対して、国に補助金を申請しておりこれが受けられなくなると困るので右陳情を中止して欲しい旨を申入れたが、親和会は、これに応じなかったこと、そこで、被告市の当時の市長は、地元住民を説得するため、同月一四日「川西市都市計画街路の火打地区縦断計画を変更し将来火打地区迂回道路を建設する。」旨記載した覚書(〔証拠略〕)を作成したこと、同月一五日、地元選出の代議士等が、陳情団に対し、右覚書を示して、被告市長から本件計画道路を変更する旨の約束を受け、確約書も取ったので陳情の必要がない旨の説明を行い、陳情は中止となったこと、右覚書は、火打地区の住民であり当時市議会議員であった徳永義人(以下「徳永」という。)に宛てたものであり。「上記の件については一切他言しないことを確約する」旨が記載され、徳永の署名押印がなされていたこと、右覚書は、徳永が保管していたが、昭和五四、五年ころ、被告市に返還されていることが明らかになって騒ぎとなり、徳永が被告市からこれを取戻したが、その後、再び被告市に返還されたことが認められる。

(二)  右認定の事実によれば、本件覚書が徳永個人宛てに作成されたものであり親和会宛てに作成されたものでないこと、右覚書には本件については一切他言しない旨が付記されこれに徳永が署名押印していること、本件覚書は徳永が保管し、その後被告市に返還されていること、並びに本件覚書作成の経緯に微すると、本件覚書は、被告市の市長が本件都市計画決定を変更することを公約した趣旨のものとはいえない。のみならず、被告市において右覚書を前提とした本件都市計画決定の変更の手続きは何ら採られていない。してみると、被告市において本件都市計画決定が変更されたとはいえないから、本件都市計画決定を前提とした本件変更認可の申請及び本件変更認可は適法であり、この点に関する原告の主張は理由がない。

2  本件土地を本件事業計画に用いるのが相当でなく、土地の適切かつ合理的な利用に寄与するものでないという違法について

都市計画事業については、土地収用法二〇条の規定による事業の認定は行われず、新都市計画法五九条及び六三条の規定による事業計画(又はその変更)の認可又は承認をもってこれに代えるものとされている(同法七〇条)。したがって、事業計画の変更の認可については、当該土地を当該事業計画に用いるのが相当であり、土地の適切かつ合理的な利用に寄与するものであること(土地収用法二〇条参照)は認可のための要件となっていない。のみならず、本件変更認可は、都市計画法六一条により、事業の内容が都市計画に適合するとして認可されたものであり、同条が「認可又は承認することができる」と規定していること及びその性質からすると、事業計画の変更の認可は行政庁の自由裁量行為であると解されるところ、これにつき被告市の裁量の逸脱があったことを認めるに足りる証拠は存在しない。

よって、原告の主張は理由がない。

四  争点4について

1  原告の被告市に対する損失補償請求を検討する前提として、主位的に被告委員会に対して本件収用裁決及び本件明渡裁決の取消しを求め、予備的に起業者である被告市に対して損失補償を求める主観的予備的併合が認められるかについて判断する。

訴えの主観的予備的併合については、予備的被告の地位の不利益、不安定やいずれか一方に対し勝訴できるという裁判の統一の保障も必ずしも得られないこと等の問題点がある。しかし、本件のような場合に主観的予備的併合を否定すると、収用及び明渡裁決と損失補償裁決のいずれにも不服がある者は、出訴期間との関係で収用及び明渡裁決の取消訴訟と別個に損失補償請求訴訟を提起せざるを得ず、無用の訴訟の提起を強いられる。また、これを認めた場合、予備的請求の被告である起業者の地位が不安定となることは否定できないが、損失補償請求訴訟が別個に提起された場合でも、収用及び明渡裁決取消しの判決が確定すれば、別訴での審理、判決は無意味となるのであって、応訴上の不安定さに差異はない。むしろこれを認めた方が重複審理を避けることができ訴訟経済に適うし、判決の矛盾、抵触を避けることができる。そして、収用及び明渡裁決が認容され、これが上訴された場合に損失補償請求訴訟が移審しないとしても、収用及び明渡裁決取消訴訟が確定するまで損失補償請求訴訟の審理を続行しない等の措置を採ることにより裁判の矛盾・抵触を回避できる。したがって、本件のような場合には主観的予備的併合は認められると解するのが相当である。

2  被告委員会の本件損失補償額の算出方法

原告は、被告市が算出した損失補償額の正当性について争うが、土地収用法一三三条に基づく損失補償請求訴訟は、収用委員会が採決した損失補償額に対する不服を内容とするものであり、その対象は被告収用委員会が算出した損失補償額の正当性であるから、以下この点について判断する。

〔証拠略〕によれば、被告委員会は、基準要綱、補償基準、細則、取扱及び基準表に則り、以下の方法で算出したことが認められる。

(一)  建物移転料

被告委員会は、本件建物の移転料の算出に際し、細則第一五に則り移転工法として再築工法を、移転料の算定方法として、推定再建築費×再築補償率+取り壊し工事費―発生材価額という算式を採用し、現地調査に基づき、推定再建設純工事費単価を本件一建物につき二〇万四八八二円、本件二建物につき二七万六三七五円、本件三建物につき一八万六四二四円、本件四建物につき一五万四八七七円、本件五建物につき一七万四九三一円を各算出し、これに基準表18「その他」(1)「諸経費」により求めた諸経費率一・二二六を各乗じて各推定再建築費単価を求め、これに基準表6「移転料」(2)「再築工法」により求めた再築補償率〇・六一五(本件二建物については〇・八〇四)を乗じて一平方メートル当たりの各単価を算出し、これに補償面積を乗じた額に基準表6「移転料」③「取り壊し工事費」に基づいて算出した取り壊し工事費それぞれ二〇〇万七五九一円、一八万三〇六四円、二七万〇六五〇円、八一万五七二四円、五万八七九八円を加算して本件一建物は二九九〇万九四〇七円、本件二建物は四六六万九八七〇円、本件三建物は三六九万三三一〇円、本件四建物は九八八万九一四一円、本件五建物は七五万六五二七円と各算出した。

(二)  工作物移転料

被告委員会は、工作物移転料につき、基準表8「工作物単価」に基づき、構外に移設する費用として合計七七六万二八二八円を算出した。

(三)  立木補償

被告委員会は、立木補償につき、基準表12「立木の補償」に基づき、移植に要する費用と伐採補償に要する費用との比較を行い、より経済的な額を採用して、合計八三万八五一三円を算出した。

(四)  動産移転料

被告委員会は、本件二建物に存する屋内動産の移転料につき、基準表10「動産移転料及び保管料」に基づき、二トン車八台分の一回移転に要する費用三五万二二〇八円(四万四〇二六円×八台)、また、一般動産の移転料につき、二トン車二二台分の一回移転に要する費用七三万一八〇八円(三万三二六四円×二二台)、合計一〇八万四〇一六円を算出した。

(五)  移転雑費

被告委員会は、移転雑費につき、基準表11「移転雑費」に基づき、移転先選定補償費、法令上の手続に要する費用等、設計監理補償料、居住者移転費、就業不能補償、地鎮祭、上棟式費用、建築祝い金、電話移設料及び水道分担金の合計額一〇三九万六七二九円を算出した。

(六)  被告委員会は、右で算出した損失補償合計額六九〇〇万六三四一円に原告の本件土地の持分五分の一を乗じて、本件土地の明渡にかかる同人に対する損失補償額を一三八〇万〇〇六八円と算出した。

3  右損失補償額の正当性

そこで被告委員会が算出した右損失補償額が正当かについて判断する。

(一)  ところで憲法二九条三項にいう「正当な補償」とは、完全な補償、すなわち、収用の前後を通じて被収用者の財産的価値を等しくならしめるような補償をいうものと解すべきであり、右規定を受けた土地収用法七七条に規定する「移転料」についても、建物等の物件を解体しあるいは撤去し、これを他の場所に運搬し、従来の使用の目的に供することができるまでに要する費用と解すべきである。これを本件についてみるに、前記2で認定したように、被告委員会の本件損失補償額の算定方法は、本件土地及び本件土地上の物件を現地調査のうえ、基準要綱、補償基準、細則及び取扱に則り行われているが、これは憲法二九条三項及び土地収用法七七条に照らして何ら違法・不当な点は存在しない。また、証拠(丙二(説明書)、三の1(用地補償事務提要)及び証人金築久之)によれば、これに基づき算定された建物移転料及び工作物移転料は、建物及び工作物が移転後においても従前の客観的、財産的価値及び物的機能を損なわないように、土地と建物及び工作物の関係、位置、構造、用途、工事費その他の条件を考慮してその移転料を算出している事実が認められるから、建物及び工作物を解体しあるいは撤去し、これを他の場所に運搬し、従来の使用の目的に供することができるまでに要する費用に該当すると認められるし、右算定方法により算出された立木補償、動産移転料及び移転雑費は、それぞれ客観的社会的に見て収用に基づき被収用者である原告が当然受けるであろうと考えられる経済的・財産的な損失に該当すると認められるから、本件損失補償額は正当である。

(二)  この点、原告は、建物移転料は復元工法により算出すべきである旨主張するが、〔証拠略〕によれば、復元工法は、文化財保護法等により指定された建築物で、建物を原形で復元することが妥当と認められる場合に用いられる算出方法であり、本件建物の場合に該当するとは認め難い。

(三)  原告は、立木補償については移植による方法によってその補償額を算出すべきであり、移植に要する費用と伐採補償費を比較して低額な方を採用する被告委員会の立木補償費は違法であるうえ、被告委員会が採用する算定方法に従っていない旨を主張する。しかし、物件の移転料がその取得価額を超えるときにも移転料を補償しなければならないとすることは不合理であり、土地収用法七九条も移転料がその物件の取得費を超えるときは、起業者は、その物件の収用を請求できることを規定していることに鑑みれば、移植補償額と伐採補償額を比較してより低額の補償額を採用することは何ら違法とはいえない。

(四)  原告は、被告委員会が算定した動産移転料は、認定した車の台数が少ないうえ、車一台分の単価が安く、また工作物移転料は相当に単価が低い旨主張する。しかし、〔証拠略〕によれば、被告委員会は、屋内動産の移転料については、建物の占有面積及びその収用状況を調査し、一般区域貨物自動車に係る車扱運賃料金の認定金額を基準として算定しているし、また、一般動産の移転料については、形状、寸法、容量、重量、その他台数計算上必要な事項を調査し、一般区域貨物自動車に係る車扱運賃料金の認定金額を基準として算出した事実が認められ、また工作物移転料は前記(一)で認定した方法で算出されているから、何ら不合理とは認められない。のみならず原告主張の移転料の根拠となる見積書(〔証拠略〕)は、その算出方法・根拠が具体的でなく、これにより同人が主張する移転料が正当なものと認めることはできないから、原告の右主張は採用できない。

(五)  さらに、原告は仏壇の移転料を屋内動産として算出した被告委員会の算定は不当であり、不動産として算出すべき旨を主張する。しかし、仏壇は社会通念上屋内動産であり、原告の所有する仏壇が同人の主張するように立派なものだとしても、これを不動産としてその移転料を算出することは妥当でない。また、原告が主張する仏壇移転料の根拠となる見積書(〔証拠略〕)は、その算出方法・根拠が具体的でなく、これにより同人が主張する移転料が正当なものと認めることはできないから、原告の右主張は理由がない。

第四 結論

以上により、原告の被告らに対する請求はいずれも理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 將積良子 裁判官 下村眞美 桃崎剛)

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