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神戸地方裁判所 平成6年(行ウ)26号 判決 1997年4月28日

兵庫県宝塚市逆瀬川二丁目九番二一号

原告

山本慶子

右同所

原告

山本善治

同県西宮市一里山町二〇番八号

原告

加藤ヱイ子

右三名訴訟代理人弁護士

中嶋俊作

右訴訟復代理人弁護士

近藤信久

兵庫県西宮市江上町三番三五号

被告

西宮税務署長 中村成明

被告指定代理人

河合裕行

西浦康文

冨田誠

坂本幹夫

松本正信

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  被告が原告らの昭和六三年一二月二九日相続開始に係る相続税について、平成二年一二月一七日付けで一告山本慶子及び同山本善治に対してした更正処分のうち、課税価格金六三七七万九〇〇〇円、相続税額金二四〇〇万二九〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分のうち、過少申告加算税額金二六万九四〇〇円を超える部分をいずれも取り消す。

二  被告が原告らの昭和六三年一二月二九日相続開始に係る相続税について、平成二年一二月一七日付けで原告加藤ヱイ子に対してした更正処分のうち、課税価格金四八二四万五〇〇〇円、相続税額金一八一五万六八〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分のうち、過少申告加算税額金二四万〇六〇〇円を超える部分をいずれも取り消す。

三  被告が原告らの平成元年一一月九日相続開始に係る相続税について、平成二年一二月一七日付けで原告山本慶子及び同加藤ヱイ子に対してした更正処分(ただし、被告の平成六年九月二二日付け更正後のもの)のうち、課税価格金一億四一五五万五〇〇〇円、相続税額金六二六三万八五〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分(ただし、被告の平成六年九月二二日付け更正後のもの)をいずれも取り消す。

四  被告が原告らの平成元年一一月九日相続開始に係る相続税について、平成二年一二月一七日付けで原告山本善治に対してした更正処分のうち、課税価格金一億八二八一万五〇〇〇円、相続税額金八〇八九万六二〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分のうち、過少申告加算税額金一八二万二一〇〇円を超える部分をいずれも取り消す。

第二事案の概要

一  本件は、昭和六三年一二月二九日に死亡した亡山本政清(以下「政清」という。)及び平成元年一一月九日に死亡した亡山本ことみ(以下「ことみ」という。)の相続人である原告らが、政清及びことみの各相続に係る相続税について被告がした更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分には、いずれも相続財産の範囲の認定に事実誤認があるとして、右各処分の一部取消しを求めている事案である。

二  争いのない事実等

1  課税の経緯

(一) 政清は、昭和六三年一二月二九日死亡し、妻ことみ長女山本清美(以下「清美」という。)、養子山本正法(以下「正法」という。)、養子山本雅彦(以下「雅彦」という。)、四女原告山本慶子(以下「原告慶子」という。)、養子原告山本善治(以下「原告善治」という。)及び五女原告加藤ヱイ子(以下「原告ヱイ子」という。)が相続した。

(二) ことみは、平成元年一一月九日死亡し、清美、正法、雅彦、原告慶子、原告善治及び原告ヱイ子が相続した。

(三) 原告らの政清の相続に係る相続税の申告及びこれに対する更正処分(以下「本件更正」という。)等の経緯は、別表一の(一)「課税の経緯」記載のとおりである。また、本件更正による相続税の更正額及び過少申告加算税は別表二の(一)「政清関係の過少申告加算税計算書」記載のとおりである。

(四) 原告らのことみの相続に係る相続税の申告、これに対する第一次更正処分、第二次更正処分(以下、それぞれ「第一次更正」、「第二次更正」という。)等の経緯は、別表一の(二)「課税の経緯」記載のとおりである。

平成四年三月一八日、神戸家庭裁判所伊丹支部において、ことみの相続人間で同人の遺産の一部分割の調停が成立した。原告慶子及び同ヱイ子は、同年七月九日、右調停に基づき、ことみの相続に係る相続税の更正の請求をした。被告は、右請求を受けて、平成六年九月二二日付けでことみの相続に係る原告慶子及び同ヱイ子について相続税更正処分」(以下「第三次更正」という。)を行った。なお、原告善治については、遺産分割による修正申告がなされたが、第三次更正はなされていない。第二次更正、第三次更正による相続税の更正額及び過少申告加算税は、二の(二)のとおりである。

2  政清の相続財産の課税価格

(一) 政清の相続財産等の種類、価額等についての原告ら及び被告の主張は、別表三の(一)「政清の相続財産等の種類別価額表」記載のとおりである。

(二) 結局、政清の相続財産については、同表<3>有価証券のうち、厚木自動車部品株(以下「本件厚木株」という。)及び同表<6>「その他の財産」のうち、株式売却代金未収金二〇九八万〇三一九円(ただし、住友化学工業株(以下「本件住友株」という。)の売却代金の未収金九三〇万四七八〇円のうち本件厚木株購入資金六五五万一一七五円を差し引いた二七五万三六〇五円)(以下「政清株式売却代金未収金」という。)が政清の相続財産を構成するか否か並びに同表<10>「相続開始前三年以内の贈与加算」のことみに対する五〇〇万円の贈与(以下「本件五〇〇万円の贈与」という。)が存在するか否かを除いては、いずれも当事者間に争いがない。政清に係る相続税の課税価格は、被告の主張によれば、別表四の(一)「政清の相続税額の計算」記載のとおりであるが、右相続税や過少申告加算税の計算方法自体については、いずれも当事者間に争いがない。

3  ことみの相続財産の課税価格

(一) ことみの相続財産等の種類、価額等についての原告ら及び被告の主張は別表三の(二)「ことみの相続財産等の種類別価額表」記載のとおりである。

(二) 結局、ことみ相続財産については、同表<3>のうち、同表の付表1「有価証券の明細表」の順号5ないし15のアルプス電気株ほか一〇銘柄の株式(以下「本件株式」という。)及び同表付表2「その他の財産の明細表」の順号1ないし3のアツギユニシア(旧厚木自動車部品)株等の株式売却代金未収金(以下「ことみ株式売却代金未収金」という。)が相続財産を構成するか否かを除いては、いずれも当事者間に争いがない。また、ことみに係る相続税の課税価格は、被告の主張によれば、第二次更正については別表四の(二)「ことみの相続税額の計算(第二次更正)」記載のとおりであり、第三次更正については同表四の(三)「第三次更正における相続税の計算」記載のとおりであるが、相続税や過少申告加算税についての計算方法自体にいては、当事者間に争いがない。

三  争点

1  本件厚木株及び政清株式売却代金未収金は政清の相続財産を構成するか

(一) 被告の主張

本件住友株の名義は政清であり、原告らも政清が本件住友株をもと所有していたことを自認していること、政清が本件住友株を取得後、右売却までの間における配当金や無償増資をすべて取得しており、他に譲渡された形跡もないことからすれば、本件住友株は政清が所有していたものというべきである。

そして、本件厚木株の取得代金の決済は、本件住友株及び政清の所有であることに争いがない鹿島建設株の売却代金と対等額での相殺により行われていること、購入した本件厚木株の名義が第三者名義のままで政清以外の者に名義変更手続がとられていないことからすれば、本件厚木株及び政清株式売却代金未収金は政清の相続財産を構成する。

(二) 原告の主張

(1) 原告慶子は、政清から本件住友株の贈与を受け、右株式の売却代金の一部を本件厚木株の取得代金に充てた。したがって、本件厚木株及び本件住友株の売却代金未収金から本件厚木株の取得代金を控除した二七五万三六〇五円は、原告慶子の所有に属する。

(2) 光世証券神戸支店「山本琴美」口座(以下「本件口座」という。)は、原告慶子の口座であるから、この口座において売却された本件住友株の売却代金未収金(ただし、そのうち、本件厚木株購入資金を差し引いた残額)及び本件口座において取得された本件厚木株は、原告慶子の所有に属するものであり、政清の相続財産を構成しない。

(3) また、本件厚木株の株券は原告慶子が占有しており、株券の占有者は所有者と推定されるから、右株式は原告慶子の所有に属する。

(4) 正法、清美及び雅彦ら(以下、右三名を併せて「正法ら」という。)が、原告らを相手方として、ことみ株式売却代金未収金及び本件株式がことみの遺産であることの確認を求めて神戸地方裁判所伊丹支部に提起した遺産確認請求事件(以下「本件遺産確認事件」という。)は、平成八年一月二九日、棄却され(以下「本件棄却判決」という。)、右判決に対する正法らの控訴も棄却されて右判決は確定した。

右事件の訴訟物たることみ株式売却代金未収金の一部を構成するアツギユニシア(旧厚木自動車部品)株の売却代金未収金は、本件厚木株のことみの法定相続分に対応するものである。したがって、本件棄却判決は、本件厚木株、ひいては本件住友株の売却代金未収金が政清の相続財産でないことを意味する。

2  本件五〇〇万円の贈与は存在するか

(被告の主張)

相続開始前三年以内に被相続人から贈与により取得した財産は、相続税の課税価格とみなされる(相続税法一九条)ところ、昭和六二年一一月二〇日、大和銀行塚口支店において、政清の仮名預金と認められる中井吉太郎名義の定期預金が解約され、右解約金五二〇万九二三二円(元本四九九万〇二三九円とその利息(税引き後の手取り額)二一万八九九三円の合計額)のうち、五〇〇万円が同日、大和銀行塚口支店の振替処理により、ことみ名義の定期預金に預けられた。

したがって、ことみは、右同日、政清から五〇〇万円の贈与を受けたとみるのが相当である。

3  ことみ株式売却代金未収金のうち、アツギユニシア(旧厚木自動車部品)株の売却代金未収金がことみの相続財産を構成するか

(一) 被告の主張

争点1で述べたように、本件厚木株(現アツギユニシア株)は、政清の相続財産を構成する。そして、ことみは右アツギユニシア株を相続により取得したから、右株の売却代金未収金のうち、ことみの法定相続分二分の一にあたる五五七万六五一二円はことみの相続財産を構成する。

(二) 原告の主張

アツギユニシア株の売却代金未収金がことみの相続財産を構成するとする被告の主張は、右株式が政清の相続財産を構成することを前提としている。しかし、争点1において述べたように、右株式は政清の相続財産に属しないから、アツギユニシア株の売却代金未収金もことみの相続財産を構成しない。

4  アツギユニシア株以外のことみ株式売却代金未収金(以下「本件株式売却代金未収金」という。)及び本件株式はことみの相続財産を構成するか

(一) 被告の主張

本件株式及び本件株式売却代金未収金は、いずれも本件口座において取得され保護預かりされた株式及び株式の売却代金であるところ、本件口座はことみが原告慶子に依頼して開設したものであって、その取引主体はことみである。

そして、原告らにおいてことみの相続財産であることに争いがない別表三の(二)付表1記載の光世証券株、富士通株、岡崎工業株、新晃工業株が本件株式と同様に本件口座で取得され保護預かりされていた株式であること、本件株式の中には、クラリオン株、池上通信機株、松下通信工業株及びSMK株のように琴美名義に書き換えられたり、届出住所がことみの住所になっているものもあり、少なくとも琴美名義で届出住所がことみの住所になっている株式については、ことみがその配当等の利益を享受し、また、享受しうる立場にあったといえることなどを併せて考えると、本件株式売却代金未収金及び本件株式はことみの相続財産を構成する。

(二) 原告の主張

(1) 本件口座で取得し保護預かりされた株式が原告慶子の所有かことみの所有かは、株式の取得資金(原資)の出資者で決せられる。そして、本件株式売却代金未収金及び本件株式の原資はすべて原告慶子の固有資産である。したがって、本件株式売却代金未収金及び本件株式はすべて原告慶子が所有するものである。

すなわち、本件株式売却代金未収金の原資は、原告慶子の自己資金である。また、本件株式の原資は、原告慶子が政清から原告慶子所有のアパート建て替え費用等のため譲渡された三菱重工株、鹿島建設株、テイサン株及び原告慶子の自己資金である。原告慶子は、昭和三八年ころ、政清からアパートを贈与され、その賃料収入が昭和五四年ころまで年額一四〇万円程度あり、また、昭和四二年ころには、政清から安宅産業株式会社二〇〇〇株の譲渡を受けたことから、株式投資を行うだけの資力を有した。

(2) 本件口座で保護預かりされた株式の預り証について、原告慶子所有の株式のものは原告慶子が、ことみ所有のものはことみが占有保管することとされていた。そして、本件株式の預り証はすべて原告慶子が占有保管しているから、本件株式はすべて原告慶子が所有するものである。

(3) 争点1で述べたように本件株式売却代金未収金及び本件株式がことみの遺産であることの確認を求めた正法らの請求を棄却した本件棄却判決が存在することからも、これらがことみの相続財産を構成しないことは明らかである。

第三争点に対する判断

一  争点1について

1  政清が本件住友株をもと所有していたことは当事者間に争いがなく、証拠(甲五七の2)及び弁論の全趣旨によれば、昭和六三年一二月二八日、本件住友株及び政清の所有であることにつき当事者間に争いがない鹿島建設株の売却がなされ、昭和六四年一月六日に両株式の売却代金から本件厚木株(購入約定日は同月二七日)の取得代金を差し引いた金額が本件口座に入金されたことが認められる。

2  原告らは、政清は本件住友株を原告慶子に対して贈与した旨主張する。

しかし、右事実を裏付ける証拠としては、原告慶子の供述(甲五六の陳述書を含む。以下同じ。)しか存在しないところ、原告慶子の供述は、以下に述べるように、不自然、不合理な点が認められ採用できない。

すなわち、原告慶子は、政清から、その運用によりアパートの建て替え費用や夫である原告善治が山本政清商店の支店を作る費用に充てるように言われて、昭和五五年ころから昭和五八年ころの間に、本件住友株一万株のほか、テイサン株六〇〇〇株、三菱重工業株三万六〇〇〇株及び鹿島建設株一万二〇〇〇株の贈与を受けた旨供述する。しかし、原告慶子自身、右供述の中で、右贈与の理由たるアパートの建て替えも支店の開設も行われていないことを認めている。

また、原告慶子は、同じく右供述の中で、右株式の贈与を受けた事実をことみの遺産分割協議の時点まで夫である善治にも話していなかった旨供述する。これは仮に右贈与があったとすれば極めて理解し難い言動であるにもかかわらず、その理由については何ら合理性のある供述をしていない。

さらに、右各株式の贈与を受けた時期があいまいであること、原告らは当初、政清から贈与を受けたと主張する右鹿島建設株の株式数を二〇〇〇株と主張していたことに鑑みれば、原告慶子の右株式の贈与に関する供述は極めて不自然、不合理であり、到底採用できない。

3  そして、証拠(乙四及び原告慶子)によれば、政清は、本件住友株を取得後、売却までの間、その配当金や無償増資をすべて取得していた事実が認められる。

以上の事実を考え併せれば、本件厚木株及び政清株式売却代金未収金が政清の相続財産であると考えるのが相当である。

4  原告らは、本件口座は原告慶子の口座であるから、本件口座において売却された本件住友株の売却代金未収金及び本件口座において取得された本件厚木株は、原告慶子の所有に属するものであり、政清の相続財産を構成しない旨主張するが、後記四1で認定のとおり、本件口座はことみの口座と認められるから、原告の右主張は採用できない。

5  また、原告ら、本件厚木株の株券を原告慶子が占有していることを根拠に、本件厚木株は原告慶子の所有に属するものであり、政清の相続財産を構成しない旨主張する。

しかし、証人正法の証言によれば、政清は昭和五八ないし五九年ころから重い痴呆症に罹っていた事実が認められ、そのころから政清の財産の管理は妻であることみが行っていたものと考えられること、また、本件厚木株が本件口座において取得された事実は当事者間に争いがないところ、後記四1で認定のとおりに本件口座はことみの口座であり、その取引は原告慶子がことみの代理人としてその包括的な委託を受けて行っていたことに鑑みれば、原告慶子が本件厚木株の株券を占有していることをもって、右株式が原告慶子の所有に属するということはできない。したがって、原告らの右主張は理由がない。

6  さらに、原告らは、アツギユニシア(旧厚木自動車部品)株の売却代金未収金などがことみの遺産であることの確認を求める正法らの請求を棄却した本件棄却判決の存在をもって、本件厚木株及び政清株式売却代金未収金が政清の相続財産でないとする。

しかし、本件棄却判決は、正法らを原告とし原告らを被告とするものであり、本件訴訟とは当事者及び訴訟物を異にするから、本件請求棄却判決の存在をもって、本件厚木株及び政清株式売却代金未収金が政清の相続財産でないということはできない。

二  争点2について

1  昭和六二年一一月一〇日、大和銀行塚口支店の中井吉太郎名義の定期預金五二〇万九二三二円が解約され、そのうち五〇〇万円が、同日、右支店の振替処理により、同支店のことみ名義の定期預金に預けられたこと、本件五〇〇万円が右預金に預けられた五〇〇万円であることは当事者間に争いがない。したがって、右中井吉太郎名義の預金が政清の仮名預金であれば、政清からことみに対する本件五〇〇万円の贈与が認められる。

2  そこで、右中井吉太郎名義の預金の帰属につき検討する。証人正法の証言及び弁論の全趣旨によれば、平成元年に行われた山本政清商店の税務調査に際し、尼崎税務署の職員が、山本政清商店と取引のあった大和銀行塚口支店において過去一〇年以上にわたって調査したところ、右預金は山本政清商店の預金と認められなかった旨を正法に対して説明したこと、昭和三九年に政清から右商店の代表取締役を引き継いだ正法も、会社の資産として右預金の引継ぎを受けておらず、右預金を会社の資産として管理していない旨を右職員に説明したこと、税務調査の結果、右預金は政清個人の預金とされたこと、山本政清商店は、昭和三二年に法人成りしたが、それ以前は政清が個人で営業し、金銭の管理をしていたこと、正法らは、右預金を政清の相続財産として申告している事実が認められる。

右認定事実を併せ考えると、右中井吉太郎名義の預金は、政清の仮名預金であると認めるのが相当である。

3  この点、原告慶子は、右中井吉太郎名義の預金がことみの預金である旨供述するが、右供述は、何ら裏付けのない単なる憶測にすぎないから、これを採用することはできない。

4  以上によれば、本件五〇〇万円は、政清の死亡前三年以内に同人からことみに贈与されたというべきである。

三  争点3について

争点1で述べたように、本件厚木株(現アツギユニシア株)は、政清の所有に係る本件住友株及び鹿島建設株の売却代金未収金をもって取得されたものであり、政清の相続財産を構成する。そして、ことみが政清の妻であり、政清の相続につき二分の一の法定相続分を有することは当事者間に争いがなく、証拠(甲三七、原告慶子)によれば、政清の相続に際し同人の相続人間で遺産分割協議が成立したが、右アツギユニシア株売却代金未収金は右遺産分割の対象となっていないことが認められる。したがって、右アツギユニシア株の売却代金未収金のうち、ことみの法定相続分二分の一にあたる五五七万六五一二円はことみが相続し、ことみの相続財産を構成するというべきである。

四  争点4について

1  まず、本件口座の帰属について検討するに、証拠(甲三四、乙三の1、一一、証人小松)によれば以下の事実が認められる。

(一) 本件口座は、昭和五五年一〇月、原告慶子が、光世証券神戸支店に対して、同人を通じて母であることみが取引をしたい旨申入れ、原告慶子が開設手続を行って開設された。本件口座の担当者である小松崇(以下「小松」という。)は、本件口座の取引は原告慶子を通じて行うとされていたので、本件口座が真にことみの口座であるかを確認するためことみ宅を訪問した。この際、ことみから本件口座における株式の売買の発注や受渡し等はすべて原告慶子に任せる旨の申入れを受けたので、以後、光世証券神戸支店は、本件口座はことみのものであり、本件口座の取引は、ことみの意思に基づいて原告慶子が行っているとの認識を持っていた。そして、本件口座で取引された株式の売買報告書や残高照会票などの書類は、原告慶子がことみの死亡する約三か月前である平成元年八月一〇日に書類の送付先を自己の住所に変更するまで約九年間にわたって、ことみのもとに送付されていた。

右事実に加えて、本件口座の名義が「山本琴美」であり、届出住所も原告慶子の住所でなくことみの住所とされていること、原告らにおいてことみの相続財産であることを争わない太陽神戸銀行逆瀬川支店の普通預金口座の名義も「山本琴美」であること、原告らにおいてことみの遺産であることを自認している別表三の(二)の付表1記載の光世証券株、富士通株、岡崎工業株、新晃工業株も本件口座で取得されている(甲五七の2、3)ことを考え併せると、本件口座は、ことみの意思に基づき開設され、取引を原告慶子に包括的に委託する形で運用されていたものであり、ことみの口座であると考えるのが相当である。

(二) 原告慶子は、本件口座は、友人から株取引の回数が年間三〇回を超えると課税されると聞いたので、税金対策として株取引を分散させるため、ことみから名義を借りて開設したものであり、原告慶子の口座である旨供述する。

しかし、本件口座が開設された当時の株取引における譲渡益に対する課税は、株式の売買回数が年間五〇回以上で、かつ、売買株数が二〇万株以上である場合になされることになっていた(所得税法九条一項一一号イ(ただし、昭和六三年法律第一〇九号による改正前のもの)及び所得税法施行令二六条二項(ただし、昭和六二年政令第三二九号による改正前のもの))のであり、株取引を頻繁に行う原告慶子がこのことを知らず、単に友人から株取引の回数が年間三〇回を超えると課税されると聞いただけで、証券会社にも確認せずに直ちにこれを鵜呑みにするとは到底考えられない。のみならず、原告慶子自身も右供述の中で、本件口座開設当時、原告慶子が取引を行っていた光世証券神戸支店の「山本慶似子」名義の口座(以下「慶似子」口座という。)、大和証券尼崎支店の「山本善治」名義の口座での取引回数は、合計でも年間三〇回に及ばないことを認めている。さらに小松も、原告慶子の取引が譲渡益に対する課税がなされるには至っておらず、原告慶子が借名の口座を設けて取引を行わなければならない必要性は認められない旨供述している。

また仮に税金対策のために借名口座を設ける必要性が存在したとしても、原告慶子は、同居家族名義の口座を開設するか、他の証券会社に自己名義の口座を開設すれば足りるのであり、わざわざ関係書類をことみの自宅に取りに行かなければならないという煩を厭わずに「琴美」名義の口座を開設する合理的理由は存在しない。

したがって、本件口座は原告慶子の口座であるという原告慶子の供述は採用できない。

(三) 原告らは、本件口座が原告慶子の口座である根拠として、本件口座の届出印がことみの届出印(甲七の1ないし3)ではなく、原告慶子所有のものであること、本件口座で取引された株式の株券、預り証及び売却代金はすべて原告慶子が占有保管し、その一部は同人の家族名義に書き換えられていること、本件口座の管理料を原告慶子が負担していることを挙げる。

しかしながら、証拠(甲七の1ないし3、乙五)によれば、ことみは証券会社や銀行の届出印として、原告主張の印鑑だけではなく、他の印鑑も使用していたことが認められるうえ、前記(一)で認定したように原告慶子は、ことみの代理人として本件口座における取引を包括的に委託されて行っていたのであるから、これらの事実は、本件口座がことみの口座であることと何ら矛盾するものでなく、原告の右主張は採用できない。

(四) 原告らは、本件口座が原告慶子の口座であることの根拠として、本件口座と慶似子口座との間で資金移動が行われていることを挙げる。

確かに、顧客勘定元帳(甲五七の2、五八)によれば、昭和六三年四月二七日に慶似子口座から出金した武田薬品株の売却代金の一部である二八三万四四一五円が、同日、本件口座に入金され、クラリオン株五〇〇〇株の購入資金に充てられている事実が認められる。しかし、証人小松の証言によれば、光世証券神戸支店では、両口座間の入出金は帳簿上で処理することなく、その都度、原告慶子方において現金の授受をし、会計上別々に処理していた事実が認められる。そして、光世証券神戸支店及び原告慶子の現金の授受における便宜の点から、両口座の入出金が同日となることはままあるものと考えられる。さらに、前記(一)で認定したように、ことみが本件口座における株式の取引を原告慶子に包括的に委任していた事実に鑑みれば、原告慶子がその権限に基づき資金の流用を行うことも充分に考えられることから、右事実をもって本件口座が原告慶子の口座であることの根拠とすることはできない。

(五) また、原告らは、本件口座が原告慶子の口座であることの根拠として、本件口座に関する資料の送付先がことみの住所から原告慶子の住所に変更されたことを挙げる。

しかし、原告慶子が変更したのは、関係書類の送付先であって本件口座の届出住所地が変更されているわけではないこと、前記(一)で認定したように、右変更がされたのはことみの死亡する約三か月前である平成元年八月一〇日であり、それまで約九年間にわたってことみのもとに送付されていたことに鑑みれば、右事実をもって本件口座が原告慶子の口座であるということはできない。

2  本件株式及び本件株式売却代金未収金は、いずれも本件口座において取得され保護預かりされた株式及び株式売却代金未収金であるところ、前記1で認定したように、本件口座はことみの意思で開設され、ことみを取引主体とすることのみの口座である。

そして、本件口座における株式の取引のように、株式を購入した者が直ちに株券の占有を取得せず、証券会社に開設してある口座を通じてその決済がなされ、株券が証券会社において保護預かりとされる場合、その口座の取引主体以外の者が勝手に株式を売却したり、株券を受け出したりすることはできないことから、その口座の取引主体がその口座において取得された株式の所有者であるのが通常である。

3  この点、原告らは、本件株式売却代金未収金及び本件株式の原資はすべて原告慶子の固有資産である旨主張する。

(一) 原告らが右原資として主張する三菱重工株、鹿島建設株及びテイサン株を原告慶子が政清から贈与を受けた事実を裏付ける証拠としては、原告慶子の供述しか存在しないところ、前記一2で認定したように、右供述は極めて不自然、不合理なものであり、到底採用できない。

(二) また、原告らが同じく原資として主張する原告慶子の自己資産についても、これを裏付ける証拠としては、原告慶子の供述しか存在しない。そこでその信用性について検討するに、右供述は何ら客観的な裏付けが存在しないうえ、前記一2及び四1で認定したように原告慶子の政清からの三菱重工株等の贈与及び本件口座に関する供述が信用性がないものであることに鑑みると、原告慶子の供述は全体として信用できないといえることから、右供述は採用できない。

4  以上の事実を総合すれば、本件株式売却代金未収金及び本件株式はことみの相続財産を構成すると考えるのが相当である。

5  この点、原告らは、本件株式の預り証はすべて原告慶子が占有保管していることを根拠に、本件株式はすべて原告慶子の所有に属する旨主張する。

しかし、前記四(一)で認定したように原告慶子は、ことみの代理人として本件口座における取引を包括的に委託されて行っていたのであるから、右事実は、本件株式売却代金未収金及び本件株式がことみの相続財産を構成することと何ら矛盾するものでなく、原告の右主張は採用できない。

6  また、原告らは、本件株式売却代金未収金及び本件株式がことみの遺産であることの確認を求めた正法らの請求を棄却した本件棄却判決が存在することを理由に、右財産はことみの相続財産を構成しない旨主張する。

しかしながら、本件請求棄却判決の存在をもって、本件株式売却代金未収金及び本件株式がことみの相続財産でないといえないことは前記のとおりである。

7  以上によれば、本件株式売却代金未収金及び本件株式はことみの相続財産を構成すると認められる。

第四結論

以上説示のとおり、被告がした政清及びことみの相続財産の範囲の認定は適法と認められる。

しかして政清に係る相続税の課税価格、相続税の更正額、過少申告加算税等は、別表二の(一)、四の(一)記載のとおりとなるから、本件更正は適法と認められる。

また、ことみに係る相続税の課税価格、相続税の更正額、過少申告加算税等は、別表四の(四)記載のとおりとなり、右範囲内である別表四の(三)を基に計算された相続税の更正額、過少申告加算税は別表二の(二)記載のとおりとなるから、原告慶子、同ヱイ子に対する第三次更正、原告善治に対する第二次更正は適法というべきである。

よって、原告らの請求はいずれも理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 將積良子 裁判官 桃崎剛 裁判官宮下村眞美は、転官につき、署名捺印することができない。裁判長裁判官 將積良子)

別表一

課税の経緯

(一) 被相続人山本政清に係る相続税

<省略>

別表一

課税の経緯

(二) 被相続人山本ことみに係る相続税

<省略>

別表二(一)

政清関係の過少申告加算税計算書

<省略>

別表二(二)

ことみ関係の過少申告加算税計算書

<省略>

別表三(一)

政清の相続財産等の種類別価額表

<省略>

別表三(二)

ことみの相続財産等の種類別価額表

<省略>

別表三(二)付表1

有価証券の明細表

<省略>

別表三(二)付表2

その他の財産の明細表

<省略>

別表四(一)

政清の相続税額の計算

<省略>

別表四(二)

ことみの相続税額の計算(第二次更正)

<省略>

別表四(三)

第3次更正における相続税の計算

<省略>

別表四(四)

遺産分割後の相続税額の計算

<省略>

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