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神戸地方裁判所 平成6年(ワ)1273号 判決 1995年7月05日

原告

氷上急行運輸倉庫株式会社

ほか一名

被告

下関小型貨物有限会社

ほか一名

主文

一  被告らは、原告氷上急行運輸倉庫株式会社に対し、連帯して金一八万六三五一円及びこれに対する平成五年九月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは、原告兵庫県交通共済協同組合に対し、連帯して金四四五万五〇〇〇円及びこれに対する平成六年七月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用はこれを五分し、その一を原告らの、その余を被告らの、各負担とする。

五  この判決は、第一項及び第二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告らは、原告氷上急行運輸倉庫株式会社に対し、連帯して金八一万九一二六円及びこれに対する平成五年九月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは、原告兵庫県交通共済協同組合に対し、連帯して金四九五万円及びこれに対する平成六年七月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  本件は、原告氷上急行運輸倉庫株式会社(以下「原告会社」という。)が、後記交通事故により物損を生じたとして、被告緒方義人(以下「被告緒方」という。)に対しては民法七〇九条に基づき、被告下関小型貨物有限会社(以下「被告会社」という。)に対しては民法七一五条に基づき、損害賠償を求める事案である。

また、これに併せて、本件において、原告兵庫県交通共済協同組合(以下「原告組合」という。)は、原告会社との損害保険契約により同社に保険金を支払つたとして、商法六六二条に基づき、被告らに対して右保険金相当額の支払を求める。

なお、被告らの債務はいずれも不真正連帯債務であり、付帯請求は、原告会社の請求については後記交通事故発生の日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金、原告組合の請求については訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金である。

二  争いのない事実等(1及び2は原告らの主張を被告らが認め、又は、被告らが明らかに争わないことを明示し、3は甲第一二号証及び弁論の全趣旨により認められる。)

1  交通事故(以下「本件事故」という。)の発生

(一) 発生日時

平成五年九月二日午後〇時二三分ころ

(二) 発生場所

福岡県山門郡山川町 九州縦貫自動車道上り一二六・六キロポスト先路上

(三) 加害車両(以下「被告車両」という。)

被告緒方運転の普通貨物自動車(山口一一く二〇〇二)

(四) 被害車両(以下「原告車両」という。)

原告会社所有、訴外藤本直幸(以下「訴外藤本」という。)運転の大型貨物自動車(神戸一一く五七二三)

(五) 争いのない範囲の事故態様

被告緒方が被告車両を運転していた際、雨天であつたにもかかわらず、少なくとも時速九〇キロメートルを上回る高速で走行していたため、スリツプして中央分離帯に衝突し、その後、積載していたタンクを路上に落下させた。

訴外藤本は、原告車両を運転して被告車両の後方を走行しており、右タンクに衝突し、さらにその衝撃で左側壁に衝突した。

2  責任原因

(一) 被告緒方は、本件事故の発生につきハンドル操作等を誤つた過失があるので、民法七〇九条による損害賠償責任がある。

(二) 被告会社は被告緒方の使用者であり、本件事故は被告緒方が被告会社の業務に従事中に発生したものだから、被告会社には民法七一五条による損害賠償責任がある。

3  保険契約の締結と保険金の支払

原告会社と原告組合とは、原告車両について損害保険契約を締結していた。

そして、原告組合は、原告会社に対し、原告車両について生じた損害を填補するため、保険金四九五万円を支払つた。

三  争点

本件の主な争点は次のとおりである。

1  本件事故の態様及び過失相殺

2  原告会社に生じた損害額

四  争点1(本件事故の態様及び過失相殺)に関する当事者の主張

1  被告らの主張

(一) 被告緒方は、被告車両を運転して、走行車線を時速約九〇ないし一〇〇キロメートルで走行中、急に蛇行して、中央分離帯に衝突した。その後の経緯については、被告緒方の記憶がないが、被告車両が積載していたタンクを道路上に落下させ、これが訴外藤本運転の原告車両と衝突したもののようであり、被告らは、この限りにおいては、本件事故態様を明らかに争うものではない。

ただし、被告緒方は、右蛇行の直前に後方を確認しており、その時には原告車両は後方にはいなかつた。したがつて、右車両が道路上のタンクと衝突したのは、右タンクが道路上に落下してから、相当時間が経過した後である。

したがつて、本件事故は、専ら訴外藤本の前方不注視により発生したものというべきである。

(二) 仮に、原告車両が道路上のタンクと衝突したのが、右タンク落下の直後であつたとしても、右に述べたように、被告緒方は、走行車線を走行していた。また、訴外藤本が走行車線を走行していたことは知らないが、原告らは、訴外藤本は時速一一〇キロメートルを超える速度で走行車線を走行していた旨主張しており、被告らは、このことを明らかに争うものではない。

これによると、訴外藤本には、雨天であつたにもかかわらず、制限速度を大幅に上回る速度で、しかも、被告車両と同一車線を充分な車間距離を保持することなく、原告車両を漫然と運転していた過失がある。

したがつて、少なくとも五〇パーセントの過失相殺をするのが相当である。

(三) 仮に、被告車両と原告車両とが違う車線を走行していたとしても、訴外藤本は、時速一一〇キロメートルを超える速度で自車を運転していた。

そして、被告緒方が落下させたタンクはグラスフアイバー製であつたから、原告車両に生じた損害は、右タンクに衝突したために生じたものではなく、その後、左側壁に衝突した際に生じたものである。

したがつて、訴外藤本の制限速度超過の過失は損害拡大の大きな要因となつており、相応の過失相殺を免れない。

2  原告らの主張

本件事故の直前、被告緒方は追越車線を、訴外藤本は走行車線を、いずれも時速一一〇キロメートルを超える速度で自車を運転していた。

そして、原告車両は、被告車両が落下させたタンクに、その直後に衝突した。

したがつて、被告らが(一)で主張する訴外藤本の前方不注視は事実関係を誤つている。

また、被告らが(二)で主張する訴外藤本の車間距離の不保持は、本件のように異なる車線を進行する車両同士では問題とならない。

さらに、被告らが(三)で主張する訴外藤本の制限速度違反は、右事実と本件事故との間に因果関係がない。

第四争点に対する判断

一  争点1(本件事故の態様及び過失相殺)

1  前記争いのない事実等に、乙第一ないし第一一号証、第一三号証を総合すると、次の事実を認めることができる。

(一) 本件事故当時の天候は雨であり、本件事故発生場所付近の最高制限速度は八〇キロメートル毎時に指定されていた。

(二) 被告緒方及び訴外藤本は、本件事故の発生場所の手前四〇〇ないし五〇〇メートルの地点で、相次いで、走行車線を時速約九〇キロメートルで走行していた訴外泉谷健一(以下「訴外泉谷」という。)運転の大型貨物自動車を、追越車線を走行して追い越した。

なお、この時点での被告車両及び原告車両の各車両の速度は、いずれも時速一一〇キロメートルを超えていた。

また、被告緒方は、右泉谷運転の車両を追い越した後も引き続き追越車線を走行したが、訴外藤本は、右泉谷運転の車両を追い越した直後に、走行車線に車線変更した。

(三) 被告車両が訴外泉谷運転の車両を追い越してしばらくした後、被告車両はハンドル操作により制御することが不可能な状態になり、まず、中央分離帯に衝突し、その後積載していたタンクその他の荷物を散乱させ、左側ガードロープに自車後部を衝突させて停止した。

そして、被告車両は、右停止時には、進行方向に対して運転席が後方にあり、反転した状態となつていた。また、被告緒方は、中央分離帯への衝突後、又は、左側壁への衝突後、車外に投げ出され、五か月余りの入院加療を要する右脛骨骨幹部開放骨折等の傷害を負つた。

なお、四〇〇ないし五〇〇メートルの距離を、時速一一〇キロメートルの速度で走行するのに要する時間は、一三・一秒ないし一六・四秒である。

(四) 被告車両が、右(三)のように制御不能の状態になつたのは、雨天であるにもかかわらず、時速約一一〇キロメートルの高速で走行していたためであり、いわゆるハイドロプレーニング現象が起きたものと推測することができる。

(五) 訴外藤本は、前方の被告車両が中央分離帯に衝突したのを見て急ブレーキをかけたが及ばず、原告車両は、被告車両から落下したタンクに衝突し、ついで、左側ガードロープ及び左側壁に衝突して停止した。そして、右停止時には、原告車両(車長一一・九九メートル)は、進行方向に対してほぼ直角となり、二車線の道路を遮るような状態となつた。

また、訴外藤本は、一九日間の入院加療等を要する項部圧痛等の傷害を負つた。

(六) 訴外泉谷は、前方の被告車両が中央分離帯に衝突したのを見て、急ブレーキをかけたため、本件事故に巻き込まれることを避けえた。

2  右認定に反し、被告らは、争点1に関する被告らの主張(一)記載の事故態様を主張し、被告緒方義人の本人尋問の結果は右主張にそうものである。

しかし、乙第七号証によると、本件事故の直後に、本件事故の発生場所において、本件事故の目撃者である訴外泉谷の司法巡査に対する供述調書が作成されたこと、訴外泉谷は、被告緒方及び訴外藤本とは全く見識がなく、原告会社及び被告会社とは利害関係を有しないことが認められ、これに右供述内容を併せ考えると、訴外泉谷の供述は充分に信用することができると考えられる。

そして、乙第六号証による訴外藤本の供述は、同人に不利益な部分も含め、訴外泉谷の供述と整合しているから、これも充分に信用することができると考えられる。

したがつて、これらに反する被告緒方義人の本人尋問の結果は、同人の捜査段階における供述(乙第五号証、第一三号証)が訴外泉谷及び訴外藤本の各供述と同旨の内容であることをも併せ考えると、採用することはできない。

そして、他に、右1の認定を覆すに足りる証拠はない。

3  そこで、右認定事実を前提に、過失相殺について検討する。

被告らが、訴外藤本の過失として主張する前方不注視及び車間距離不所持の点については、右認定と異なる被告ら主張の本件事故の態様を前提とするものであるから、いずれも採用することはできない。

しかし、訴外藤本には、制限速度超過の過失があり、右過失が、原告車両の損害の拡大の一要素となつていることも明らかである。

この点に関し、原告らは、右制限速度超過と本件事故の発生との間には因果関係がない旨主張するが、過失相殺の問題は、不法行為者に対し積極的に損害賠償責任を負わせる問題とは異なり、不法行為者が責任を負うべき損害賠償の額を定めるにつき、公平の見地から、損害発生についての被害者の不注意をいかに斟酌するかの問題にすぎないから、民法七〇九条にいう「過失」と同法七二二条二項にいう「過失」とを同義に解釈する必要はない。そして、損害を公平に分担させるという損害賠償法の理念に照らし、事故の発生とは因果関係のない過失であつても、損害の拡大の一要素となつている過失があれば、民法七二二条二項を適用して過失相殺を行うのが相当である。

なお、被告らは、被告緒方が落下させたタンクはグラスフアイバー製であつたから、原告車両に生じた損害は、右タンクに衝突したために生じたものではなく、その後、左側壁に衝突した際に生じたものである旨主張する。しかし、右認定及び甲第二、第三号証によると、右タンクは原告車両の右前部に衝突し、左側壁は同車両の左前部に衝突したこと、同車両に生じた損害は、両者があいまつて発生していることが認められるから、被告らの右主張も採用することはできない。

4  弁論の全趣旨によると、訴外藤本は、本件事故当時、原告会社の業務に従事中であつたことが認められるから、訴外藤本の過失により、過失相殺として原告会社の損害を減額するのが相当である。

そして、右認定事実によると、右減額の割合を一〇パーセントとするのが相当である。

二  争点2(原告会社に生じた損害額)

1  原告会社に生じた損害額

(一) 修理費

甲第二、第三号証、第一二号証、原告会社代表者の本人尋問の結果によると、原告車両の修理費として、金五〇〇万円を要したことが認められる。

被告らは、乙第一二号証の見積書の存在を理由に、修理費としては金四三七万円余りが認められるにすぎない旨主張するが、乙第一二号証は甲三号証により訂正されたと考えられ、かつ、甲第一二号証により、右修理費に相当する金員が現実に支払われていることが認められるから、被告らの右主張によつては、右認定は左右されない。

(二) 休車損害

(1) 甲第四ないし第一一号証、原告会社代表者の本人尋問の結果、弁論の全趣旨によると、原告会社は、原告車両の修理のために、平成五年九月二日から同年一〇月一七日までの四六日間にわたつて右車両を使用することができなかつたこと、右期間は右車両の修理に相当の期間であること、同年五月二一日から八月二〇日(九二日間)の右車両の収入の実績が合計金三八六万二七〇〇円であること、同期間の右車両の経費の実績が合計金二五一万四三四五円であることが認められる。

これによると、次の計算式により、原告車両は、一日あたり金一万四六五六円の利益をあげていたということができる(円未満切り捨て。以下同様。)。

計算式 (3,862,700-2,514,345)÷92=14,656

(2) ところで、原告会社の主張する休車損害は、得べかりし利益の請求であるから、本件事故にかかわらず、原告会社が右利益を享受している場合には、右休車損害も発生していないというべきである。

そして、原告会社代表者本人尋問の結果によると、原告車両の休車期間中、八〇パーセントは自車便で、二〇パーセントは傭車でその仕事をまかなつたこと、自車便では原告会社の収入減は生じないが、傭車では原告会社には利益はほとんど出ないこと、原告会社にとつては、顧客を逃がさないために傭車を確保することが必要不可欠であつたことが認められる。

そうすると、1で認定した一日一万四六五六円の割合による四六日間分の利益のうち、二〇パーセントを原告会社に生じた休車損害として認めるのが相当である。

よつて、次の計算式により、原告会社に生じた休車損害は、金一三万四八三五円となる。

計算式 14,656×46×0.2=134,835

(三) 小計

右(一)及び(二)の合計は、金五一三万四八三五円である。

2  過失相殺

争点1に対する判断で判示したとおり、過失相殺として、原告会社に生じた損害の一〇パーセントを減額するのが相当である。

したがつて、右計算式により、過失相殺後の原告会社の損害は、金四六二万一三五一円となる。

計算式 5,134,835×(1-0.1)=4,621,351

3  保険代位

(一) 前記争いのない事実等記載のとおり、原告組合は、原告会社に対し、原告車両について生じた損害を填補するため、保険金四九五万円を支払つた。

(二) 保険者が第三者の行為によつて生じた保険事故に係る損害の一部を被保険者に填補した場合において、被保険者が第三者に対して有する債権の額が損害額を下回るときは、右保険者は、右債権のうち填補した金額の損害額に対する割合に応じた債権を取得し、被保険者は、その反面として、右金額の限度で第三者に対する請求権を喪失するものの、残額についてはなお第三者に対する請求権を保有しているものということができる(最高裁昭和五八年(オ)第七六〇号、第七六一号同六二年五月二九日第二小法廷判決・民集四一巻四号七二三頁)。

これを本件についてみると、被保険者である原告会社が第三者である被告らに対して有する債権の額(右過失相殺後の原告会社の損害である金四六二万一三五一円)の損害額(右過失相殺前の原告会社の損害である金五一三万四八三五円)に対する割合は九〇パーセントであるから、保険者である原告組合が取得する債権の額は、次の計算式により、金四四五万五〇〇〇円である。

計算式 4,950,000×0.9=4,455,000

また、被保険者である原告会社の被告らに対する債権の額は、過失相殺後の原告会社の損害である金四六二万一三五一円から、原告組合が取得する債権の額である金四四五万五〇〇〇円を控除した金一六万六三五一円である。

4  弁護士費用

原告会社が本訴訟遂行のために弁護士を依頼したことは当裁判所に顕著であり、右認容額、本件事案の内容、訴訟の審理経過等一切の事情を勘案すると、被告らが負担すべき弁護士費用としては、金二万円と認めるのが相当である。

5  以上によると、原告会社が被告らに請求することのできる金額は金一八万六三五一円、原告組合が被告らに請求することのできる金額は金四四五万五〇〇〇円である。

第四結論

よつて、原告会社の請求は主文第一項記載の限度で、原告組合の請求は主文第二項記載の限度で、それぞれ理由があるからその範囲で認容し、原告らのその余の請求はいずれも理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 永吉孝夫)

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