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神戸地方裁判所 平成5年(ワ)399の6号 判決 2000年4月28日

神戸市<以下省略>

原告

X1

兵庫県姫路市<以下省略>

原告

X2

右両名訴訟代理人弁護士

井関勇司

右同

後藤玲子

井関勇司訴訟復代理人弁護士

内橋一郎

東京都中央区<以下省略>

被告

岡三証券株式会社

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

大江忠

右同

大山政之

主文

一  被告は、原告X1に対し、金五二八万円及びこれに対する平成五年三月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を、原告X2に対し、金一二三万円及び内金一一二万円に対する平成五年三月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用中、原告X1と被告との間に生じた費用はこれを五分し、その四を原告X1の負担とし、その余を被告の負担とし、原告X2と被告との間に生じた費用はこれを一〇分し、その七を原告X2の負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告は原告X1(以下「原告X1」という。)に対し、金三七五六万七五三六円及びこれに対する平成五年三月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は原告X2(以下「原告X2」という。)に対し、金四一一万一八八二円及びこれに対する平成五年三月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  事案の要旨

1  原告X1は、被告に対し、被告の違法行為ないし被告の従業員の違法な勧誘によりワラント取引を行った結果、未売却のワラントの購入代金合計相当額(金三七五六万七五三六円)の損害を被ったとして、主位的に民法七〇九条、予備的に民法七一五条一項、七〇九条に基づき、右損害の賠償を請求している。

2  原告X2は、被告に対し、主位的に被告の従業員の違法な勧誘によりワラント取引を行った結果、金三七四万一八八二円の取引差損及び本訴の追行のための弁護士費用金三七万円の損害を被ったとして、民法七一五条一項、七〇九条に基づき、右合計額金四一一万一八八二円の賠償を請求し、予備的に被告がそのうち一部のワラントを無断で原告X2名義で購入したとして、右購入代金合計相当額(金九八万八四七六円)の預託金の返還を請求している。

二  前提となる事実

以下の事実は、当事者間に争いがないか、各項末尾掲記の証拠により容易に認められる。

1  当事者

(一) 原告X1(明治四四年○月○日生)は、平成元年当時七七、八歳の女性であり、旧制女子専門学校を卒業後、Bと婚姻し、婚姻後は専業主婦として家事に携わり、Bの死後は主としてその遺産で暮らしており、職業に就いたことはなかった(甲A一〇、原告X1本人)。

(二) 原告X2(昭和七年○月○日生)は、平成元年当時五六、七歳の女性であり、兵庫県立a高等学校を卒業後、自宅で洋裁の内職をし、昭和四一年にCと婚姻した。婚姻後、昭和四八年ころまで小学生にピアノやオルガンの個人教授をしていたが、昭和五九年ころからb火災の代理店を営業していた(甲B一、原告X2本人)。

(三) 被告は、肩書地に本社を有し、有価証券の売買等の取引を行う総合証券会社である。

2  原告らの投資経験

(一) 原告X1について

原告X1は、昭和三八年ころから当時の大阪屋証券であるコスモ証券株式会社(以下「コスモ証券」という。)との間で、昭和四七年ころから大和証券株式会社(以下「大和証券」という。)との間で、昭和六〇年ころから被告との間でそれぞれ証券取引を開始し、それ以来自己名義及び親族名義で株式、転換社債、投資信託等の証券取引を継続していた(甲A一〇、原告X1本人)。

(二) 原告X2について

原告X2は、昭和五六年ころ、被告との間で証券取引を開始し、それ以来自己名義及び親族名義で株式投資を行っており、昭和六一年ころからは信用取引も行ってきた(甲B一、原告X2本人)。

3  原告らの本件ワラント取引

(一) 原告X1について

原告X1は、平成元年三月三〇日以降、被告神戸支店従業員で当時原告X1の担当者であったD(以下「D」という。)及びその後原告X1の担当者となったE(以下「E」という。)を介して別表1のとおりの各ワラント(以下、順に「新日鉄ワラント、第一製薬ワラント①、②、ダイセル化学ワラント、ウシオ電機ワラント、ブリジストンワラント、大京ワラント、阪急百貨店ワラント、イトマンワラント①~⑦、阪和興業ワラント①~③、西華産業ワラント①~④、東京建物ワラント、東芝ワラント①~④、西華産業ワラント⑤」という。原告X1が右各取引により購入したワラントをまとめて「本件ワラント(X1)」ともいう。)の購入並びにこのうち新日鉄ワラント、第一製薬ワラント①、②、ダイセル化学ワラント、ウシオ電機ワラント、ブリジストンワラント、大京ワラント、阪急百貨店ワラント、イトマンワラント①~⑦及び阪和興業ワラント①~③の売却の取引を行った。

西華産業ワラント①~⑤、東京建物ワラント、東芝ワラント①~④については、売却しないまま権利行使期間が経過した。

本件ワラント(X1)の購入時に原告X1が支払った代金の合計額から、新日鉄ワラント、第一製薬ワラント①、②、ダイセル化学ワラント、ウシオ電機ワラント、ブリジストンワラント、大京ワラント、阪急百貨店ワラント、イトマンワラント①~⑦及び阪和興業ワラント①~③の売却時に原告X1が受領した代金の合計額を差し引くと、金二六四二万三一五一円となる(乙一~三、五、一〇、二五、原告X1本人)。

(二) 原告X2について

原告X2は、平成元年一二月八日以降、被告姫路支店従業員で当時原告X2の担当者であったF(以下「F」という。)及びその後原告X2の担当者となったG(以下「G」という。)を介して別表2のとおりの各ワラント(以下、順に「大和ハウスワラント、上組ワラント、ダイキン工業ワラント、三菱自動車ワラント」という。原告X2が右各取引により購入したワラントをまとめて「本件ワラント(X2)」ともいう。)の購入並びにこのうち大和ハウスワラント及び上組ワラントの売却の取引を行った。

ダイキン工業ワラント、三菱自動車ワラントについては、売却しないまま権利行使期間が経過した。

本件ワラント(X2)の購入時に原告X2が支払った代金の合計額から、大和ハウスワラント及び上組ワラントの売却時に原告X2が受領した代金の合計額を差し引くと、金三七四万一八八二円となる(乙一一、一六、証人F、原告X2本人)。

三  主要な争点

1  ワラント取引勧誘自体の公序良俗違反の有無(争点1)

2  本件具体的勧誘行為における違法行為の有無(争点2)

(一) 適合性の原則違反の有無

(二) 説明義務違反の有無

(三) 情報提供、助言義務違反の有無(原告X1について)

3  原告らの損害(争点3)

4  本件ワラント(X2)の取引における無断売買の有無(争点4)

四  争点に関する原告らの主張

1  ワラント取引の背景には、次のような危険性、問題点がある。

(一) 証券会社の優越的地位

証券会社は免許制であり、必要な基準や条件を満たして免許を受けた証券会社は、その存立の根本からして専門的基盤を有しており、証券取引についての知識、経験、情報の収集、利用、判断すべての面において、一般投資家に比してはるかに優越した地位にある。

(二) 顧客の証券会社に対する信頼の悪用

一般投資家は、公的な免許を取得して証券業を営む証券会社は公正かつ誠実な業務遂行を行うものと信頼している。

(三) ワラントの新規性、非周知性

ワラントは、株式や社債などの旧来の金融商品とは全く異なる商品構造を有し、昭和六一年一月一日から外貨建てワラントの国内での取扱いが解禁されたものであり、市場そのものにとって未経験の商品であった上、新聞等に掲載されるようになった平成二年ころまで、一般投資家が目にしうる雑誌、新聞等にはワラントに関する記事はほとんどなかった。

(四) ワラントの超ハイリスク性、難解性

ワラントには、価格変動は基本的に株価に連動するもののその数倍の値幅で変動する性質(ギヤリング効果)を有すること、権利行使期間の経過により無価値になること、権利行使期間内でも無価値になることがあること等の危険性がある。

また、その商品構造は非常に難解かつ複雑であり、これを一般投資家に理解させるのは容易ではない。

(五) 証券会社にとっての構造的うまみ

証券会社は、ワラント債発行に際して、幹事会社として発行業務を主催することにより発行手数料を、ワラント債発行により引き受けた外貨建てワラントを一般投資家に売却する際に売買益を、ワラント債発行により資金調達した企業が資金運用のために証券投資するに際して売買手数料を、それぞれ手にすることができる。

(六) 公正な価格形成が制度的に保障されていないこと

外貨建てワラント取引は、顧客と証券会社との相対売買であって、価格形成過程は不透明であり、公正な価格形成が制度的に保障されていない。

(七) 価格の周知方法が講じられていないこと

外貨建てワラントの価格情報は、平成元年四月までは新聞紙上等に一切公表されておらず、それ以後も、平成二年九月ころから日本経済新聞等に限定された銘柄の気配値がポイントで表示される程度で、一般投資家の投資判断材料としての価格情報は全く不十分であった。

(八) 証券の内容が一般投資者には全く理解不能であること

外貨建てワラントは、その原券自体入手することが困難である上、その証券券面は、全文が専門的英語で記載されており、一般投資家が自ら読解することは不可能であった。

(九) 実質的な国内募集・売出しであること

本件の外貨建てワラントは、形式的にはヨーロッパ市場で発行されたものであるが、その全部又はほとんどが計画的に直ちに日本で消化されており、実質的には国内発行と同視できるものであって、大蔵大臣への届出や目論見書の作成等の証券取引法上の規制の潜脱行為である。

2  ワラント取引勧誘自体の公序良俗違反(争点1)

外貨建てワラントは前項で述べたとおり欠陥商品といっても過言ではない証券であるにもかかわらず、証券会社は、その構造的うまみに目を付け、証券取引法を潜脱し、証券会社と一般投資家との証券取引の知識、情報量の圧倒的差異を利用して、一般投資家の利益を顧みずに外貨建てワラントを大量かつ強引に売りさばいたのである。

このような勧誘、販売行為は、社会的に許容された相当性を逸脱し、公序良俗に反する違法な行為である。

3  本件具体的勧誘行為における違法行為(争点2)

(一) 適合性の原則違反(争点2)

(1) 証券会社は、顧客の資力、能力、意向に適合した投資勧誘を行うべきである(適合性の原則)。

前記(第二の三1)のようなワラント取引の問題点、危険性を考慮すると、ワラント、特に外貨建てワラントについては、自らワラント取引の仕組みとリスク、適正価格等について積極的に研究するだけの能力と意向を有し、ハイリスクに耐え得るだけの資金的余力を有するような投資家、すなわち機関投資家や大手会社の財務部門、特殊な個人投資家等投資のプロのみが取引資格者といえるのであり、原告らのような一般投資家にワラント、特に外貨建てワラントを勧誘することは、適合性の原則に違反する違法な行為である。

(二) 原告X1について

原告X1は、株式や投資信託の取引経験はあったものの、証券会社の従業員が勧めるままに売買することが多かった上、ワラントはこれらの商品と多くの点で異なる難解な商品性を有するのであるから、旧制女子専門学校を卒業後、長年専業主婦として生活し、平成元年当時約八〇歳と高齢であった原告X1がワラントについて理解することは到底無理であった。また、原告X1の投資目的は、亡夫の遺産を運用し、自己の老後資金に充てるとともに、右遺産の目減りを防いでこれを子へ引き継ぐことにあったのであり、原告X1は、被告従業員に対していつも安全確実な取引をするように言っていた。

以上のように、能力、資力、意向のどの面からしても、原告X1がワラント取引の不適格者であることは明らかであった。

(三) 原告X2について

原告X2は、被告との間で昭和五六年ころから株式取引を行い、信用取引をしたこともあるものの、自ら投資情報を積極的に収集することはなく、専ら被告担当者の勧誘に従って取引をしていた。また、原告X2は預金代わりに金員を被告に預けたり有価証券を購入しているものであり、余資を証券取引に充てるという余裕のある資力状態ではなかった。

以上のとおり、資力、能力、意向のどの面からしても、到底原告X2がワラント取引のような仕組みが超難解でかつ超ハイリスクな取引に耐えられるだけの適性を有していたということはできない。

(二) 説明義務違反

(1) 前記(第二の三1)のようなワラント取引の問題点、危険性を考慮すると、証券会社は、顧客をワラント取引に勧誘するに際しては、取引開始時に取引説明書を交付し、直接口頭でワラントの商品構造、取引形態や危険性等につき本人に分かるように説明し、本人がそれを理解してリスク等につき納得したことを確認する作業として確認書を受け取る義務がある。そして、個別のワラントの勧誘に際しては、当該ワラントの具体的内容を説明する義務がある。

(2) 原告X1について

Dは、夜間の電話で原告X1を本件ワラント(X1)を勧めたものであり、本件ワラント(X1)の取引開始時にワラントの一般的な商品性に関して全く説明しなかった。Eも原告X1に対してワラント一般についての説明を行ったことはなかった。D及びEは、原告X1に対してワラントに関する取引説明書を交付していない上、確認書は取引説明書とは別個に、それも最初のワラント買付から二か月も遅れて徴求されたものである。仮に、後に取引説明書が原告X1に交付されていたとしても、その内容はプレミアムの説明がないなど極めて不十分かつ不正確な内容であった。

また、D及びEは、個別のワラントについても具体的内容を全く説明しなかった。D及びEは、個別のワラントについて権利行使価格、権利行使期限及びポイント数などを説明することは一切なく、買付け、売付けともすべてD及びEが判断してこれを原告に押し付けたものである。後に無価値となったワラントのうち、東京建物ワラントは五一ポイントという超高値で購入され、西華産業ワラント⑤の購入はいわゆるナンピン買いの手法で購入されているところ、右のようなワラントを購入することの危険性について原告X1が説明を受けていれば、原告X1が右ワラントの購入に応じるはずはなかった。

(3) 原告X2について

原告X2は、被告姫路支店で開催されたワラントのミニ講演会に出席していない。Fは、原告X2を本件ワラント(X2)の取引に勧誘するに際し、ワラントに関する説明を電話で約一分間程度しか行わなかったのであり、その中でワラントの危険性、権利行使期間の意味、ワラントが相対取引であること等についての具体的な説明は行わず、わずかに「ワラントが株よりも値動きが早い。」との説明をしたのみであった。その結果、原告X2は、ワラントが株より数倍激しく値動きをするなどという認識は持たなかった。原告X2は、F及びGからワラントに関する取引説明書を受領しておらず、確認書については、Fに言われるがままに署名捺印したに過ぎず、ワラント取引に必要な書類であるとの認識はなかった。仮に、後に取引説明書が原告X2に交付されていたとしても、F又はGからその記載内容について具体的説明がなされたことはない。

また、F及びGは、個別のワラントについても必要とされる情報を全く提供しなかった。原告X2は、Fから大和ハウスワラント及び上組ワラントの勧誘を受けた際、購入額の計算方法及び具体的な権利行使価格や権利行使期限等の説明を受けておらず、Fを信用して言われるがままに購入したものである。さらに、ダイキン工業ワラントは原告に無断で購入されたものであり、三菱自動車ワラントは「新発の転換社債である。」との虚偽の勧誘を受けて購入されたものであり、原告X2は右各ワラントがワラントであるという認識を全く持っていなかった。上組ワラント、ダイキン工業ワラント及び三菱自動車ワラントについて原告X2に時価が知らされてきたのは平成四年になってからであり、それまでは価格が下がっても原告X2には知らされず、放置されていた。

(三) 情報提供、助言義務違反(原告X1について)

ワラントの価格形成要因が極めて複雑であること、ワラントの価格の開示が不十分であること、顧客と証券会社との情報量、知識、分析力の格差を考慮すれば、証券会社は顧客に対し、推奨して購入させたワラントについて情報提供及び助言をすべき信義則上の義務がある。

しかるに、被告担当者は、原告X1に対し、値上がりしなかったワラントについては価格の連絡もせずに放置し、損失を拡大させないために適当な時期に売却するよう勧めなかったばかりか、かえって、右ワラントの損失が顕在化することを遅らせるために他のワラントを次々と購入させたものであり、情報提供、助言義務違反は明らかである。

3  被告の不法行為責任

(一) 原告X1について

以上のD及びEの違法行為は被告の営業行為そのものであるから、被告は民法七〇九条により不法行為責任を負うし、また、D及びEの違法勧誘行為は被告の事業の執行につきなされたものであるから、被告は同法七一五条一項、七〇九条により使用者責任を負う。

(二) 原告X2について

以上のF及びGの違法勧誘行為は被告の事業の執行につきなされたものであるから、被告は同法七一五条一項、七〇九条により使用者責任を負う。

4  損害(争点3)

(一) 原告X1の損害

原告X1が被告との間で行った本件ワラント(X1)取引における損失金三七五六万七五三六円が本件で原告X1が被った損害である。

(二) 原告X2の損害

原告X2は、本件ワラント(X2)の取引により前記「前提となる事実」3(二)記載のとおり金三七四万一八八二円の取引差損を被ったし、本訴の追行のために弁護費用金三七万円の損害を被った。右合計額は四一一万一八八二円である。

5  無断売買(原告X2について、争点4)

ダイキン工業ワラント及び三菱自動車ワラントは、前記のとおり被告担当者が無断で原告X2名義で購入したものであるから、原告X2は被告に対し、右ワラント購入代金合計相当額(金九八万八四七六円)の預託金返還請求権を有する。

五  争点に関する被告の主張

1  適合性の原則違反の有無について(争点2)

(一) 原告X1について

原告X1は、少なくとも三社の証券会社を通じた長い有価証券取引の経験を有しており、株式信用取引の経験も有する者である。そして、原告X1が被告を含め、三社の証券会社を通じて行ったワラント取引は、銘柄選択も含め、原告X1自身の意思により行われたものである。

よって、なんら適合性の原則違反に該当する事実は存しない。

(二) 原告X2について

原告X2は、昭和五六年ころから被告姫路支店に原告X2本人の取引口座を開設して有価証券取引を始め、それ以降親族を含む六つの口座を開いて現物のみならず信用取引も継続してきており、また、他の証券会社を通じた有価証券取引も行っていた。本件ワラント(X2)の取引において、原告X2が一回に買い付けたワラントの代金合計は、金一〇万円台から金二〇〇万円台の間であり、被告を通じた原告X2の取引全体からみてもさほど多大ではない。

以上のとおり原告X2の投資歴及び投資内容にかんがみれば、本件ワラント(X2)の取引が適合性の原則違反であるということはできない。

2  説明義務違反の有無について(争点3)

(一) 原告X1について

原告X1は、被告を通じ、原告X1、H、I、J、Kの取引口座でワラント取引を行ったが、それぞれの取引口座でワラント取引をするに当たっては、被告からワラントに関する取引説明書を受け取り、その内容を確認した上で確認書に署名捺印していた。また、Dは、平成元年三月ころ、原告X1がワラントを買い付けるに先立ち、ワラントの価格が株価に連動してその数倍の値動きをすることや、権利行使期限があること等、ワラントの基本的特質について、説明を行っていた。

また、原告X1は、信用取引も含む長い有価証券取引経験を有するのであり、有価証券取引で一般にハイリターンが見込めるものは、反面ハイリスクであることについて、当然認識を有していた。

よって、原告X1について説明義務違反に該当するような事実は存しなかった。

(三) 原告X2について

原告X2が本件ワラント(X2)の取引を開始するに際し、F及びその上司であるLは、原告X2に対し、電話でワラントの価格が株価に連動してその数倍の値動きをすることや、権利行使期限があることなどワラントの基本的特質について説明をし、さらに、Fは、同日夕方に原告X2の自宅を訪問してワラントに関する取引説明書を交付し、右説明書を示しながらワラントの危険性についての説明をし、原告X2は右説明書の内容を理解した上で確認書に署名捺印していた。

原告X2のような経験豊かな投資家の場合、このような点について知識を有していればワラントの買付けについての判断を誤ることはないということができるから、被告は説明義務を果たしていた。

3  無断売買の有無について(争点4)

ダイキン工業ワラント及び三菱自動車ワラントのいずれについても、無断売買ではなく、原告X2の注文に基づいて購入されたものである。

第三争点に対する判断

一  ワラントについて

証拠(甲一五の1、2、一六、一九、二〇、四〇~四四、四六~四八、五〇~五六、五八~六〇、甲B一三、乙二九、三六二)並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

1  ワラントの意義

ワラントとは、新株引受権付社債(ワラント債)の社債部分から切り離され、それ自体で独自に取引の対象とされる新株引受権ないしこれを表章する証券のことであり、発行会社の株式を予め定められた期間(権利行使期間)内に、予め定められた価格(権利行使価格)で、決まった数量を購入(引受)できる権利又はこの権利が表章された証券である。

2  ワラントの特徴

(一) ワラント価格は、理論的価値(パリティ)と株価値上がりへの期待(プレミアム)からなる。

ワラントの理論的価格は原則として株価に連動するが、その変動幅は株価のそれより大きい(ギヤリング効果)し、またプレミアム部分も不安定である(価格変動リスク)。

(二) ワラントは、発行時に定められた権利行使期間を過ぎると権利行使できなくなり、その価値がなくなる(権利失効リスク)。

また、権利行使期間経過前でも株価が権利行使価格を超える見込みがない場合には価値がなくなり、その可能性は、権利行使期限が近づくにつれて高くなる。

(三) 外貨建てワラント価格は、為替変動の影響を受ける。

(四) ワラントは、平成元年ないし二年当時、比較的新しく、周知性の低い商品であり、また、外貨建てワラントの取引形態は、証券会社と顧客との相対取引であり、価格形成の不明朗、価格情報の不足、売却が困難な場合があることなどが指摘されている。

3  ワラントの特徴として以上の各事実が挙げられるところ、このうち重要なのは、価格変動リスクと権利失効リスクであり、ワラント取引は、株式の現物取引に比べてはるかに大きな利益をもたらす場合もあれば、逆に投資額全額の損失をもたらす場合もある(ハイリスク、ハイリターンな取引)。

二  ワラント取引自体の公序良俗違反の有無(争点1)について

ワラントは、前項のような特徴を有し、大きな危険を伴うものではあるが、商法が分離型新株引受権付社債の発行を認め、証券取引法上もワラントの取引が予定されていること、少ない投資額で大きな利益を得る可能性があり、生じ得る損失も最大限で投資額に止まるという点で金融商品としての合理性を有すること、前項のようなワラントの特徴も説明を受けることなどにより一般投資家にとって理解可能であると考えられることからすると、一般的に、証券会社が一般投資家を対象として行うワラント取引それ自体が公序良俗に反するものとは認められない。

そして、本件全証拠によっても、被告のワラント取引それ自体について、これを公序良俗に反する行為と認めることはできない。

三  本件ワラント(X1)取引の経過等について

1  前記「前提となる事実」及び証拠(甲A一~一七、乙一~一〇、一七~二六、二九~三四、三八~四二、四五~八六、九五~一一七、一九〇~一九五、一九九~二四一、二八三~二八五、三〇二~三二〇、三二二~三三七、三三九~三六〇、三六四、原告X1本人)並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(一) 原告X1の証券取引一般について

(1) 原告X1は、昭和三八年ころに当時の大阪屋証券であるコスモ証券と、昭和四七年ころ大和証券と、昭和六〇年ころに被告とそれぞれ証券取引を開始し、それ以降、自己名義並びに長男I、その妻H及び次男Jその他の親族合計約一〇名の名義で、国内株式、海外株式、投資信託及び転換社債等の取引を頻繁に行っていた。原告X1は、平成元年当時、大和証券に対して約金二〇〇〇万円、コスモ証券に対して約金一億円を預託しており、昭和六二年から平成二年までの約四年間のコスモ証券、大和証券及び被告における株式、転換社債、投資信託及びワラントの買付け合計額は、金九億円を上回っていた。

(2) コスモ証券の原告X1名義の口座には、昭和四〇年前後及び昭和六二年ないし平成元年ころに株式の信用取引が行われた記録がある(原告X1が主体的に行ったか、被告担当者が無断で行ったかについては争いがある。)。右昭和四〇年前後の信用取引では大きな損失が生じており、この出来事から、原告X1は信用取引の危険性を十分に認識した。

(3) 原告X1は、証券会社の担当者が勧める銘柄については、担当者に対し質問をするなどして慎重に検討し、有望な銘柄であると納得してはじめて購入を決定し、納得しない場合には購入しないのが常であり、勧誘に応じるよりもむしろ断ることの方が多かった。また、原告X1の方から銘柄を指定して注文することはもとより、担当者に対し他社から勧められた商品について意見を求めることもあった。原告X1は、担当者が交代した場合、すぐには新しい担当者の勧めに従って商品を購入することはなく、しばらく様子を見てその担当者が信頼できると思えるようになってからその勧めに従って商品を購入するようにしていた。

また、原告X1は、株式等の商品を購入した後、本券を証券会社に預けておくと悪用されると考えており、預り証の交付を受けるとほとんどの場合は証券会社から本券を出庫し、これを貸金庫に保管していた(稀に預り証を家で保管することがあった。)。

(4) 原告X1は、週に二、三回、三宮及び元町近辺の散策の途中でコスモ証券神戸支店や大和証券神戸支店に立ち寄り、カウンターにいる女性従業員と世間話をしたりするほか、株価等の情報を収集したり代金や預り証等の受渡しを行い、担当者と面談することもあった。

(5) 原告X1は、本件ワラント取引を開始する前に大和証券において伊藤ハムワラントの取引(昭和六一年四月一〇日及び同年五月二九日に代金合計金一六八五万三七六〇円で購入、昭和六二年二月五日に金一三二二万七〇四九円で売却、金三六二万六七一一円の損失)を経験していた。

(二) 本件ワラント(X1)の取引経過

(1) 原告X1は、平成元年三月三〇日に被告神戸支店において、当時原告X1の担当者であったDを介して新日鉄ワラントをJ名義で金三〇三万八二六二円(単価四五・五ポイント)で購入した。

それに先立ち、原告X1は、Dからワラントについて電話で「儲けがいい。今までの株よりずっといい。普通の株とは違う。」などと説明を受け、ワラントが普通の株式とは異なり儲けが大きいことは認識したが、権利行使期間を経過すると無価値になることなどの危険性についての説明を十分に受けることはなく、原告X1もワラントがどのような危険性を有するかについて関心を持って注意深く聞くことはなく、また、特に質問をすることもなかった。

原告X1は、平成元年四月四日、新日鉄ワラントを金三一四万九八一四円(単価四八・五ポイント)で売却し、金一一万一五五二円の利益を得た。

(2) 原告X1は、平成元年四月五日、第一製薬ワラント①をJ名義で金一七一万三四〇〇円(単価二六ポイント)で購入し、さらに、翌六日、第一製薬ワラント②を同様に金一六八万四九一二円(単価二五・五ポイント)で追加購入した。原告X1は、右両ワラントを同年九月一日に金三九六万四五九四円(単価二七・七五ポイント)で売却し、金五六万六二八二円の利益を得た。

(3) 原告X1は、平成元年四月一一日、ダイセル化学ワラントを原告X1名義で金二三一万三四八一円(単価三四・七五ポイント)で購入し、同月一八日に右ワラントを金二四七万二五八四円(単価三八ポイント)で売却し、金一五万九一〇三円の利益を得た。

(4) 原告X1は、その後、別表1のとおり、ウシオ電機ワラント(原告X1名義、金一一万八九七三円の利益)、ブリジストンワラント(原告X1名義、金一一万九一八一円の利益)、大京ワラント(原告X1名義、金八万二七六九円の利益)、阪急百貨店ワラント(原告X1名義、金五万六六五八円の利益)、イトマンワラント①、②(原告X1名義、金二三六万八六二七円の利益)、同③(H名義、金一三〇万八四八九円の利益)、同④(I名義、金一三〇万八四八九円の利益)、同⑤~⑦(J名義、金三七〇万六一七三円の利益)、阪和興業ワラント①(H名義、金二九万四七一三円の利益)、同②(原告X1名義、金二九万四七一三円の利益)、同③(J名義、金二九万四七一三円の利益)の各取引を行った。

(5) 原告X1は、別表1のとおり、平成元年一一月二九日以降、平成元年一二月二二日までの間に、西華産業ワラント①(原告X1名義、単価三六ポイント)、同②(I名義、単価三六ポイント)、同③(H名義、単価三六ポイント)、同④(J名義、単価三六ポイント)、東京建物ワラント(原告X1名義、単価五一ポイント)、東芝ワラント①(原告X1名義、単価二六・五ポイント)、同②(K名義、単価二六・五ポイント)、同③(I名義、単価二六・五ポイント)、同④(J名義、単価二六・五ポイント)、西華産業ワラント⑤(J名義、単価三一ポイント)を購入した。

(6) 原告X1は、いずれのワラントを購入する際にも、個別のワラントについてD又はEに質問するなどして情報を入手しており、値上がりすると納得してから購入していた。

(7) 原告X1は、平成元年六月一日、「外国新株引受権証券の取引に関する確認書」(乙二五)に自らJ名義で署名押印してDに交付し、同月五日、右確認書と同じ書式の書面(乙二二)に自己名義で署名押印してDに交付した。いずれに際しても、原告X1は、Dから「外国新株引受権証券の取引に関する説明書」(乙二九)を受領していたが、目を通すことはしなかった。

右確認書の内容は数行のみであり、受領した右説明書の内容を確認し、自己の判断と責任において外国新株引受権証券の取引を行う旨記載されている。右説明書には、ワラントの特徴と権利行使期間経過後はその価値を失うことなどのリスクが簡潔に分かりやすく、かつ、要点に下線付きで記載されている。

原告X1は、平成元年八月二二日、右確認書と同じ書式の書面(乙二四)に自らI名義で署名押印してEに交付し、平成二年四月二八日に右確認書と同じ書式の書面(乙二六)に自らK名義で署名押印してEに交付し、同年七月九日に「国内新株引受権証券及び外国新株引受権証券の取引に関する確認書」(乙二三)に自らH名義で署名押印してEに交付した。いずれの際にも、原告X1は、Eから「国内新株引受権証券取引説明書」又は「外国新株引受権証券取引説明書」を受領していたが、これらに目を通すことはしなかった。

右「国内新株引受権証券及び外国新株引受権証券の取引に関する確認書」の内容は数行のみで、受領した「国内新株引受権証券取引説明書」又は「外国新株引受権証券取引説明書」の内容を確認し、自己の判断と責任において、国内新株引受権証券の取引及び外国新株引受権証券の取引を行うとの記載がある。

(8) 原告X1は、前記各人の名義で初めてワラント取引をするに先立ち、それぞれ「外国証券取引口座設定約諾書」(乙三八~四二)に自ら各人の名義で署名押印していた。

(9) 原告X1は、本件ワラント(X1)を購入してから数日後には、被告から各ワラントにつき預り証(甲A一~九、乙九五~一一二)を受領していた。右各預り証には、いずれも銘柄名欄に「ワラント」との記載があり、数量欄には「US$5万*」又は「US$20ワラント」などの記載があったが、権利行使期限の日付は、償還日・信託終了日欄に記載されていた。

(10) 原告X1の担当者は、平成元年六月ないし八月ころ、DからEに交代した。Eは、交代後初めて原告X1にワラントを勧める際、特にワラント一般について説明をすることはなかった。

(11) 株価は、全体として平成元年末に最高値を付けたが、平成二年に入ってからは下落し始め、同年八月のイラクのクウェート侵攻によりさらに下落した。Eは、右のような株価の動き及び原告X1の手持ちのワラントの値動き等について原告X1に電話で知らせるなどしていた。原告X1は、右のような株式市場の状況をみて、平成二年三月以降は、被告においても他の証券会社においてもワラントを購入しなくなった。

(5)項のとおり購入したワラントについては、結局売却することができないまま権利行使期間が経過した。

(三) 原告X1の被告以外の証券会社におけるワラント取引

(1) 原告X1は、大和証券において、前記のとおり昭和六一年ないし昭和六二年に伊藤ハムワラントで金三六二万六七一一円の損失を被ったほか、平成元年五月から平成二年五月までの間、合計一九銘柄のワラント取引を行い、金九〇四万七一三七円の取引差損を被った。

原告X1は、大和証券においてワラント取引を行っていた際にも、ワラントの取引説明書を受領し、確認書を提出していた。また、原告X1は、大和証券においてワラントを購入した数日後、大和証券から銘柄欄に「WR」の記載があり、権利行使最終日の記載がある預り証を受領していた。

(2) 原告X1は、コスモ証券において、平成元年四月から平成二年五月までの間、合計七銘柄のワラント取引を行い、金二三六万〇六四四円の取引差損を被った。

原告X1は、コスモ証券においてワラント取引を開始する際にも、ワラントの取引説明書の交付を受け、確認書を提出していた。また、原告X1は、コスモ証券においてワラントを購入した数日後、コスモ証券から銘柄欄に「WRT」又は「ワラント」との記載があり、権利行使期限の記載もある預り証を受領していた。

2  原告の供述について

(一) 原告X1は、被告からワラントに関する説明書を受領した覚えはないと供述する。

しかしながら、前記のとおり、原告X1は五枚の確認書(乙二二~二六)に自ら署名押印しているところ、右各確認書にはいずれも数行の記載しかなく、その中でワラントに関する説明書を受領した旨が明瞭に記載されていることからすると、原告X1の右供述は採用することができない。

(二) 原告X1は、本件ワラント(X1)につき被告からワラントであると聞いたことはなく、株式の一種であると考えていたのであり、被告担当者からワラントに関する説明を受けたことはないと供述する。

しかしながら、前記のとおり、(1) 原告X1は、ワラントについての確認書に署名押印して被告に提出していたこと、(2) 被告から受領したワラントの預り証の銘柄名欄には「ワラント」との記載があったこと、(3) 新日鉄ワラントの購入時にDから「普通の株式とは違う。」との説明を受けていたこと、(4) 原告が週に二、三回コスモ証券神戸支店や大和証券神戸支店を訪れていたことからすると、原告が証券取引に対してかなり積極的な姿勢を有していたことが窺われ(原告は、証券会社を訪れた際はカウンターにいる女性従業員と世間話をするだけで、証券取引の話は全くしなかったと供述するが、にわかに措信しがたい。)、全く説明を受けずに未知の商品であるワラントを購入するとは考えがたいこと、(5) 原告は昭和六三年から平成二年までの間に、被告において合計二八銘柄のワラントの取引を行ったほか、大和証券において合計二一銘柄、コスモ証券において合計七銘柄のワラントの取引を行っていることなどの事情が認められ、これらの事情に照らすと、原告X1の右供述は採用することができない。

(三) 原告X1は、被告担当者から勧めたワラントを言われるがままに買っており、個別のワラントの内容について説明を受けていなかったと供述する。

しかしながら、他方において、原告X1は、西華産業ワラントについて値上がりすると思わなければ買わないと供述しているのであり、前記のとおり、本件ワラント(X1)の取引以前の証券取引においても、原告X1は担当者の勧めた銘柄について担当者に質問をするなどして慎重に検討し、納得しない場合には購入しないのが通常であったことが認められることを併せ考慮すると、原告X1は本件ワラント(X1)についても十分に説明を受けてから購入していたと推認することができ、原告X1の右供述は採用することができない。

四  本件ワラント(X2)取引の経過等について

1  前記「前提となる事実」及び証拠(甲B一~一二、乙一一~二一、二七~二九、四三、四四、八七~九二、九四、証人F、原告X2本人)並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(一) 原告X2の本件ワラント取引以前の証券取引

原告X2は、昭和五六年八月三一日に被告姫路支店に原告X2名義の口座を開設し、それ以来、同支店との間で自己名義並びに長男M、実弟N及び夫Cその他の親族の名義で、株式の現物等の取引を頻繁に行い、昭和六一年四月一一日からは、「大きく儲けたい。」という気持ちから、信用取引も開始し、以後自己名義及び親族名義で信用取引を行っていた。

原告X2は、日本経済新聞を購読し、被告から届けられる会社四季報に目を通していたほか、毎日のように被告担当者と電話で話をするなどして証券取引関係の情報を入手していた。

被告姫路支店における原告X2の担当者は、昭和六一年一二月二〇日からFとなった。Fが原告X2を担当するようになった当時、原告X2は被告に対し、数千万円を預託していた。Fは、株式相場のある日は一日に二回くらい原告X2に電話し、市況や原告X2の手持ちの株式の値動きを伝えており、月に数回は代金の受渡しその他で原告X2の自宅を訪問していた。原告X2が購入する株式は、Fが勧めたものが多かったが、原告X2が自ら選んで買い付けた銘柄もあった。

被告姫路支店では、月に一回、支店会議室等で株式、転換社債、投資信託等をテーマとする株式講演会を開催していたが、原告X2はほぼ毎回右講演会に出席していた。

(二) Fとの本件ワラント(X2)の取引経過

(1) 平成元年一二月八日、Fがワラント取引を勧めるために原告X2に電話し、「ワラントについてご存じですか。」と尋ねたところ、原告X2は、雑誌で読んだことがある旨返答した。Fは、原告X2に対してワラント取引を行うことを勧め、ワラントの意義やワラントの価格が株価と連動するが、株価よりも値動きが早く、上下幅が大きいことなどのワラントの特徴について概括的に説明した。しかし、Fは、権利行使期間が経過するとワラントが無価値になることや権利行使期間が残り少なくなると事実上取引できなくなることなどのワラントの危険性については、原告X2が十分に理解できるように説明しなかった。これに対し、原告X2も、ワラントの危険性について関心を持って聞いたり、質問をすることなどはしなかった。

その後、Fは、原告X2に対し、大和ハウスワラントが有望である旨を説明し、N名義の山一証券株式の売却代金と住友信託銀行株式の信用決済益の一部で右ワラントを一〇ワラント購入することを提案した。原告X2はこれに応じ、大和ハウスワラントを金二七四万九三〇〇円(単価三八ポイント)でN名義で購入した。Fは、ワラント取引に際してはワラントの説明書を交付して確認書を受領しなければならないことを原告X2に説明し、同日夕方に原告X2の自宅を訪問することを約した。以上の電話に要した時間は、約一五分間であった。

Fは、同日午後四時か五時ころに原告X2の自宅を訪れて「外国新株引受権証券(外貨建ワラント)取引説明書」(乙二九、以下「取引説明書」という。)を交付し、原告X2は、「外国新株引受権証券の取引に関する確認書」(乙二八、以下「確認書」という。)に自らN名義で署名、押印して被告に提出した。

取引説明書には、ワラントの特徴と権利行使期間経過後はその価値を失うことなどのリスクが分かりやすく、かつ、要点に下線付きで記載されている。また、確認書の内容は二行のみで、「私は、貴社から受領した「外国新株引受権証券の取引に関する説明書」の内容を確認し、私の判断と責任において外国新株引受権証券の取引を行います。」と記載されている。しかし、Fは、原告X2に対して取引説明書を交付した際、電話で説明したこと以上の説明はせず、原告X2は右取引説明書に目を通すことなく放置した。

(2) その後、大和ハウスワラントは少し値上がりしたため、同月一一日、Fが原告X2に電話して右ワラントの売却を勧めたところ、原告X2はこれに応じ、同日、金二八一万三八五一円(単価三九・五ポイント)で右ワラントを売却し、金六万四五五一円の利益を得た。

(3) Fは、同月一三日、原告X2に電話して上組ワラントがおもしろそうなので、大和ハウスワラントの売却代金で上組ワラントを購入してはどうかと勧誘したところ、原告X2はこれに応じ、同日、上組ワラントを金二八四万七九五〇円(単価三九・五ポイント)で購入した。

(4) 株価は、全体として平成元年末に最高値を付けたが、平成二年に入ってからは下落し始め、同年八月のイラクのクウェート侵攻によりさらに下落した。

原告X2は、右状況を見て、平成二年八月にFと電話で相談し、数百万円の損失を被ることを覚悟の上で、株式の現物及び信用取引をすべて決済することを依頼した。Fは、上組ワラントについては、権利行使期間が平成五年まであったし、株価が戻るであろうと予測していたため、持続しようと原告X2に提案し、原告X2はこれを了承した。

(5) Fは、平成三年三月一日に被告姫路支店から転勤することになり、その前に原告X2に挨拶をしたところ、原告X2は、上組ワラントの価格が下落していることについて特に苦情は述べなかった。

(三) Gとの本件ワラント(X2)の取引経過

(1) 平成三年三月一日、原告X2の担当者はFからGに交代した。

(2) その後、原告X2は、ダイキン工業ワラントを注文して平成三年五月二日にC名義で代金八〇万九四七六円(単価二〇ポイント)で購入し、また、三菱自動車ワラントを注文して同年六月二四日にC名義で代金一七万九〇〇〇円(単価一七・九ポイント)で購入した。

そのころ、原告X2は、Gから「国内新株引受権証券取引説明書」及び「外国新株引受権証券取引説明書」を受領し、「国内新株引受権証券及び外国新株引受権証券の取引に関する確認書」(乙二七)に自らC名義で署名、押印して被告に提出した。右確認書には、受領した右各説明書の内容を確認し、自己の判断と責任で国内新株引受権証券と外国新株引受権証券の取引を行う旨が明瞭に記載されている。そして、右確認書の日付は平成三年五月二日と記載されており、扱者の欄にはGの押印がなされている。

原告X2は、右各ワラントを購入した数日後、それぞれについて取引報告書(甲B四、五)を受領していた。右取引報告書の銘柄の欄には、いずれも「分離ワ証券」と記載されている。

(三) 原告X2は、平成四年三月ころ、被告から上組ワラント、ダイキン工業ワラント及び三菱自動車ワラントの権利行使期限を記載した「ワラント権利行使期限のお知らせ」と題する書面(甲B一〇、一一)を受領したことにより、ワラントが権利行使期限後は無価値になることを知り、そのようなことは聞いていなかったとして被告姫路支店に赴き、苦情を述べた。

(四) その後の本件ワラント(X2)の取引経過

(1) 平成四年の夏ころ、原告X2の担当者はGからOに交代した。

(2) Oは、平成四年一〇月ころ、Oから上組ワラントについて、このまま放置しておくと価値が零になると言われたことから、同月二六日に上組ワラントを金二万九九九三円(単価〇・五ポイント)で売却し、金二八一万七九五七円の損失を被った。

(3) その後、ダイキン工業ワラント及び三菱自動車ワラントは売却することができないまま権利行使期限が経過した。

2  当事者の供述等について

(一) 原告X2は、平成三年五月にGに無断でダイキン工業ワラントを購入され、また、翌六月にも無断で三菱自動車ワラントを購入されたことから、被告姫路支店に苦情を言ったところ、Gからワラントではなく転換社債である旨の虚偽の説明を受けて当時は納得したと供述する。

しかしながら、前記のとおり、右各ワラントを購入した後、原告X2は取引報告書(甲B四、五)を受領しているところ、右取引報告書の銘柄名の欄には「分離ワ証券」との記載があり、右記載から転換社債と異なることが判別しうると解される。また、C名義で額面金四〇〇万円のダイキン工業ワラントを約金八〇万円で、額面金一〇〇万円の三菱自動車ワラントを約金一八万円でそれぞれ購入されているところ、通常の転換社債であれば、右のような代金で購入することができないことは認識しうると解される。そして、原告X2は、平成二年三月九日に新発の額面金一〇〇万円のハウス転換社債を代金一〇〇万円で買い付けた経験を有し(乙一一の50)、その旨の取引報告書も受領していたと解されるから、右各点については受領した取引説明書を見れば容易に認識しうると解すべきである。

そうすると、ダイキン工業ワラント及び三菱自動車ワラントについて、転換社債である旨の説明を受けて納得したとの原告X2の供述は採用することができない。

さらに、前記のとおり、原告X2は、「国内新株引受権証券及び外国新株引受権証券の取引に関する確認書」(乙二七)に自らC名義で署名押印していること及び右確認書の日付は平成三年五月二日と記載されており、扱者欄にGの押印がなされていることからすると、右確認書は、少なくともGが原告X2の担当者となった平成三年三月以降に作成されたものと解され、原告X2はダイキン工業ワラントを購入した前後に自ら右ワラントをC名義で購入する意思を有して右確認書に署名押印したということができるから、ダイキン工業ワラント及び三菱自動車ワラントを無断で購入されたとの原告X2の前記供述は採用することができない。

(二) Fは、原告X2が平成元年一一月ころに被告姫路支店で開催されたワラントのミニ講演会に出席していたことを確認しており、平成元年一二月八日にFが電話でワラントの購入を勧めた際には、原告X2はワラントについて相当の知識を有していたと供述する。

しかしながら、Fは、右電話の際に原告X2に対して「ワラントについてご存じですか。」と切り出したと供述しているところ、右供述に照らすと、原告X2がワラントのミニ講演会に出席していたことを確認していたとのFの供述は不自然というべきである。そして、原告X2がワラントのミニ講演会に出席していたことを裏付ける客観的証拠はないこと及び原告X2がワラントのミニ講演会には出席していないと供述していることからすると、Fの右供述を採用することはできない。

(三)(1) Fは、平成元年一二月八日に原告X2に対して初めて電話でワラントの購入を勧めた際、被告姫路支店で最もワラントに詳しかったLに電話を代わり、ワラントの値動きが株価に連動するが、株価の数倍の値動きをすること及び権利行使期間経過後は無価値になることなどのワラントの危険性について説明し、さらに、Fが原告X2の自宅を訪問した際にも、ワラントに関する取引説明書を示しながらワラントのリスクについて説明し、原告X2もこれを理解しているようだったと供述する。

しかしながら、前記のとおり、右電話による説明は個別の銘柄の推奨も含めて約一五分間でなされたというのであるから、果たして証人Fが供述するような詳細な説明がなされたかどうかについては疑わしいこと、原告X2は上組ワラントの値段が下がっていたこと自体に対しては苦情を述べなかったが、平成四年一〇月にワラントに権利行使期限があることを知って被告姫路支店に赴いて苦情に述べているところ、右のような対応は、当初から期限後は無価値になることを認識していた者の対応とは考えられないことからすると、Fの右供述を採用することはできない。

(2) 他方、原告X2は、前記の電話によるワラントの説明の際、ワラントの値動きが株価よりも早いとの説明は受けたが、値動きが大きいという説明は受けていないと供述する。

しかしながら、原告X2が約一五分間の電話による勧誘を受けてワラントの購入を決定していることからすると、Fは株式よりも少額で大きな利益が得られるというワラントの利点についても説明していたと推認するのが相当であるし、原告X2は、前記のとおり上組ワラントの価格が下落したこと自体よりも権利行使期限の存在について聞いていなかったことに関して苦情を述べていたことからすると、ワラントの値動きの大きさは認識していたものと解されるから、原告X2の右主張は採用することができない。

五  本件具体的勧誘行為の違法性の有無(争点2)について

1  自己責任原則と証券会社の義務

(一) 証券取引は、本来危険を伴うものであって、証券会社が投資者に提供する情報も将来の経済情勢や政治状況等の不確定な要素を含み、予測や見通しの域を出ないのが実情であるから、投資者は、右のような情報を参考にしつつも自ら投資判断に必要な情報を収集し、自らの判断と責任において証券取引を行うのが原則であり、このことはワラント取引においても妥当する。

(二) しかしながら、証券会社は、公的な免許を受けて証券業を営む者であって、証券取引及び当該商品に関する高度の専門的知識、豊富な経験、証券発行会社の業績や財務状況等の情報、それらに基づく優れた分析、判断力を有するのみならず、政治、経済情勢等、あらゆる面において情報的優位にあり、それ故に多数の一般投資家は、証券会社の推奨、助言等にはそれなりの合理性があるものと信頼して証券市場に参加し、その信頼を保護することにより市場秩序が維持されているという現在の状況下では、前記ワラントの特質にかんがみ、証券会社は、具体的にワラント取引を勧誘するに際して、顧客がその危険性について的確な認識形成を行い自己の判断と責任で取引し得る状態を確保するための配慮義務を負うことがあり、これに反した勧誘行為は違法と評価されることがあるというべきである。

2  適合性の原則違反の有無について

(一) 証券会社の情報的優位の状況における顧客の証券会社に対する信頼保護の要請のもと、証券取引法や公正慣習規則等が、証券会社に対し、顧客に対する投資勧誘に際しては、顧客の投資経験、意向及び資力等に最も適合した取引がなされるよう配慮することを要請していることからすると、証券会社又はその従業員が行った顧客への投資勧誘が、当該投資者の投資意向ないし目的に明らかに反し、投資経験、資産等に照らし明らかに過大な危険を伴う取引を積極的に勧誘したものである場合には、当該勧誘行為は違法なものというべきである。

(二) 原告X1について

原告X1は、前記のとおり、昭和三八年ころからコスモ証券と、昭和四七年ころから大和証券と、昭和六〇年ころから被告と証券取引を開始し、自己名義のほか一〇人近くの親族名義でも株式、投資信託及び転換社債等の多くの証券取引を頻繁に行っていたこと、コスモ証券における昭和四〇年前後の信用取引を巡るトラブルにより、ハイリスク、ハイリターンな商品の危険性を十分理解していたこと、平成元年当時、大和証券に対して約金二〇〇〇万円、コスモ証券に対して約金一億円を預託していたこと、週に二、三回はコスモ証券神戸支店や大和証券神戸支店を訪れるなど、証券取引に対する積極的な姿勢が窺えることなどからして、Dの本件勧誘行為につき、原告X1の投資意向ないし目的に反し、原告X1の投資経験、資産に照らして過大な危険を伴う取引への勧誘と評価することはできず、適合性の原則に反して違法であるということはできない。

(三) 原告X2について

原告X2は、前記のとおり、昭和五六年から被告において証券取引を開始し、自己名義のほか親族名義でも株式の現物取引等の証券取引を行っていたこと、昭和六一年四月からは、「大きく儲けたい。」という気持ちから信用取引も行っていたこと、昭和六三年当時、被告に対して数千万円を預託していたこと、毎月一回の被告姫路支店における株式講演会にほぼ毎回出席するなど証券取引に対する積極的な姿勢が窺えることなどからすれば、Fの本件勧誘行為をもって、原告X2の投資意向ないし目的に反し、原告X2の投資経験、資産に照らして過大な危険を伴う取引への勧誘と評価することはできず、適合性の原則に反して違法であるということはできない。

3  説明義務違反の有無について

(一) 前記のとおり、ワラントは、比較的新しい金融商品で、その仕組みも複雑である上、ハイリスク、ハイリターンという特徴や権利行使期間経過後は無価値になるという危険性を有すること、証券会社の情報的優位の状況における顧客の証券会社に対する信頼保護の要請のもと、公正慣習規則等の日本証券業協会の自主規制においても、証券会社がワラント取引をする際には、顧客に対して予め説明書を交付し、取引内容や危険性について十分説明し、自己の判断と責任において当該取引を行う旨を理解させ、確認を得るように要請されていることからすると、顧客が的確な認識形成をした上で投資決定するための前提として、証券会社あるいはその従業員は、ワラント取引に際し、顧客の年齢、職業、投資経験、能力、資産状況等に応じて、ワラントの特徴、仕組み及び危険性についての説明をする義務の生ずる場合があるというべきであり、これに違反する勧誘行為は違法となるものというべきである。

(二) 原告X1について

原告X1は、長年専業主婦として生活してきたものであり、本件ワラント取引当時七七、八歳と高齢であったのであるから、Dは、原告X1をワラント取引に勧誘する際には前記のようなワラントの危険性等につき特に念入りに説明する必要があったというべきであり、また、その後原告X1にワラントを勧誘したEも、初めて原告X1にワラントを勧める際には、原告X1がワラントについて自ら投資するか否かを決定をしうる程度の認識を有しているか否かを確かめ、それが十分でないと窺える場合には、改めてワラントについて説明する必要があったというべきである。

したがって、Dとしては、原告X1が本件ワラント取引を開始するに際し、ワラントの価格は株価と連動するが株価の数倍の値動きをすること及び権利行使期間経過後は無価値になることの二点を中心に、ワラントの仕組み、特徴、危険性等について十分に説明し、また、Eとしては、原告X1が右各事項について的確な認識を有しているか否かを確かめた上、それが十分でない場合には、理解できるように改めて詳細かつ具体的に説明する必要があったというべきである。

しかしながら、前記認定のとおり、Dは、本件ワラント(X1)の取引に際し、原告X1に対し、儲けが今までの株よりずっとよいなどとワラントの有利性を中心に説明し、投資額全額を失うことがあること、権利行使期間経過後は無価値になることなどのワラントの危険性については十分に説明せず、この説明不足のために原告X1は、ワラントの危険性を十分理解できないままに本件ワラント(X1)の取引を開始するに至ったと解すべきである。

また、Eが原告X1がワラントの危険性について理解しているか確認し、また、改めて説明して注意喚起したことを認めるに足りる証拠はなく、原告X1は右点について理解できないままに被告において合計二八回にわたりワラントを購入するに至ったと解すべきである。

(三) 原告X2について

原告X2は、本件ワラント取引当時五六、七歳の女性であり、Fは、原告X2をワラント取引に勧誘する際にはワラントの危険性等につき十分に説明する必要があったというべきであり、また、その後原告X2にワラントを勧誘したGも、初めて原告X2にワラントを勧める際には、原告X2がワラントについて自ら投資するか否かを決定しうる程度に的確な認識を有しているか否かを確かめ、それが十分でないと窺える場合には、改めてワラントについて説明する必要があったというべきである。

したがって、Fとしては、原告X2が本件ワラント取引を開始するに際し、ワラントの価格は株価と連動するが株価の数倍の値動きをすること及び権利行使期間経過後は無価値になることの二点を中心に、ワラントの仕組み、特徴、危険性等について十分に説明し、また、Gとしては、原告X2が右各事項について十分に認識しているか否かを確かめた上、それが十分でない場合には、理解できるように改めて詳細かつ具体的に説明する必要があったというべきである。

しかしながら、前記認定のとおり、Fは、本件ワラント(X2)の取引に際し、原告X2に対してワラントについて概括的に説明したものの、投資額全額を失うおそれがあることや、権利行使期間経過後は無価値になることなどの危険性については十分に説明せず、この説明不足のために原告X2は、ワラントの危険性を十分理解できないままに本件ワラント(X2)の取引を開始するに至ったと解すべきである。

また、Gは、原告X2が被告との間で既にワラント取引を行っていたことから、原告X2が十分な知識を有していると軽信し、原告X2がワラントが権利行使期間後は無価値になることなどのリスクについて理解しているか確認することなく、また、右点につき改めて説明して注意喚起することもなかったのであり、この説明不足のために、原告X2は右点について理解できないままに被告においてワラント取引を行うに至ったものと解すべきである。

4  被告の責任

(一) 原告X1に対して

前項(一)のとおり、D及びEは、いずれも原告X1を本件ワラント取引に勧誘するに当たって、証券会社の従業員として尽くすべき説明義務に違反したというべきであり、右勧誘行為は不法行為を構成するというべきである。

したがって、原告X1の主張するその余の違反行為を論ずるまでもなく(なお、前記のとおり、D及びEは原告X2に対して適宜個別のワラントに関する情報を提供していたことが認められ、相応の助言をしていたことが窺われる。)、D及びEの本件ワラント取引の勧誘行為は不法行為を構成するものであり、被告は、民法七一五条一項、七〇九条に基づき、右不法行為により原告X2に生じた損害を賠償する責任を負う。

(二) 原告X1に対して

前項(二)のとおり、F及びGは、いずれも原告X1を本件ワラント取引に勧誘するに当たって、証券会社の従業員として尽くすべき説明義務に違反したというべきであり、右勧誘行為は不法行為を構成するというべきである。

したがって、F及びGの本件ワラント取引の勧誘行為は不法行為を構成するものであり、被告は、民法七一五条一項、七〇九条に基づき、右不法行為により原告X2に生じた損害を賠償する責任を負う。

六  原告らの損害(争点4)について

1  原告X1について

(一) 損害額の基礎

前記のとおり、本件ワラント(X1)の購入時に原告X1が支払った代金の合計額から、売却することができた各ワラントの売却代金合計額を差し引くと、金二六四二万三一五一円となり、原告X1は、被告の前記不法行為により右同額の損害を被ったと認められる。

(二) 過失相殺

(1) 前述のとおり、D及びEの勧誘行為はワラントの危険性についての説明が不十分である点において違法なものではあるが、他方、D及びEがことさらに欺罔的手法や断定的判断の提供等を用いたとまでは認められないこと、口頭である程度の説明をしていること、本件ワラント(X1)取引の早期の段階でワラントの取引説明書を交付して原告X1が自ら検討する機会を与えていたことなどを考慮すれば、その過失ないし違法性の程度はさほど大きくはなかったものというべきである。

(2) 原告X1の過失及びその程度

本件ワラント取引についても自己責任原則が妥当するところ、(1) 原告X1は、本件ワラント(X1)の取引を開始するに際し、Dから不十分であったとはいえ、ワラントは株式と比べて大きく儲かることなどについて告げられていたのであるから、その反面として株式よりも危険性が大きい商品であることは認識し得たはずであり、このような危険性について関心を持ち、適宜質問をしたり、他の方法で調査するなどすべきであったのに、漫然とこれを怠ったこと、(2) 原告X1は、本件ワラント(X1)の取引開始後ではあるが、Dから、権利行使期間経過後は無価値になることなどのワラントの特徴及び危険性について、分かりやすく記載してある取引説明書を受領したのに、その内容を検討することなく放置したこと、(3) 原告X1は、被告以外の証券会社でも多数回にわたりワラント取引を行っており、その過程でも取引説明書や預り証を受領していたが、その記載内容を検討することなく放置したことが認められる。

そして、原告X1の右各過失行為の内容に加え、原告X1は、前示のとおり昭和三八年以来の長年かつ多数回の証券取引経験から相応の知識、能力を有し、昭和四〇年前後には信用取引を巡るトラブルによりハイリスク、ハイリターンな商品の危険性を十分認識しており、昭和六二年から平成二年の四年間に被告を含む証券会社三社において、合計金九億円を上回る株式、投資信託、転換社債及びワラントを購入し、週に二、三回は大和証券神戸支店やコスモ証券神戸支店を訪れて証券取引に関する情報を入手するなど積極的に証券取引を行っていたことが認められるのであるから、原告X1としては、わずかの注意、努力を払うことにより容易にワラントの危険性の大きさを知ることができ、それにより本件損害の発生の防止又は本件損害の拡大の回避が可能であったと認められるから、その過失は大きいものというべきである。

(3) 前記(第三の三)において認定した事実のほかに、右認定の諸事情(D及びEの過失が大きいものでない反面、右損害の発生、拡大につき原告X1にも相当程度の過失があったこと)をも考慮すると、過失相殺として、原告X1の右損害のうち八割程度を減ずるのが相当である。

(三) よって、被告が原告X1に対して賠償すべき損害額は、金五二八万円とするのが相当である。

2  原告X2について

(一) 損害額の基礎

前記のとおり、本件ワラント(X2)の購入時に原告X2が支払った代金の合計額から、大和ハウスワラント及び上組ワラントの売却時に原告X2が受領した代金の合計額を差し引くと金三七四万一八八二円となり、原告X2は、被告の前記不法行為により右同額の損害を被ったと認められる。

(二) 過失相殺

(1) 前述のとおり、F及びGの勧誘行為は特に権利行使期間経過後は無価値になるという重要事項の説明が不十分である点において違法なものではあるが、他方、F及びGがことさらに欺罔的手法や断定的判断の提供等を用いたとまでは認められないこと、右権利行使期間経過後は無価値になるという点を除いて口頭で相当程度の説明をしていること、本件ワラント(X2)の取引の早期の段階でワラントの取引説明書を交付して原告X2が自ら検討する機会を与えていたことなどを考慮すれば、その過失ないし違法性の程度はさほど大きくはなかったものというべきである。

(2) 原告X2の過失及びその程度

本件ワラント(X2)の取引についても自己責任原則が妥当するところ、(1) 原告X2は、本件ワラント(X2)取引を開始するに際し、Fから不十分であったとはいえ、ワラントの値動きは株価と比べて早く、上下幅が大きいことなどについて告げられていたのであるから、新商品であるワラントの危険性について関心を持ち、適宜質問をしたり、他の方法で調査するなどすべきであったのに、漫然とこれを怠ったこと、(2) 原告X2は、本件ワラント(X2)取引開始時に、Fから権利行使期間経過後は無価値になることなどのワラントの特徴及び危険性について、分かりやすく記載してあるワラントの取引説明書の交付を受けたのに、その内容を検討することなく放置したことが認められる。

そして、原告X2の右各過失行為の内容に加え、原告X2は、昭和五六年以来の証券取引経験から相応の知識、能力を有していた上、昭和六一年からは信用取引も経験してハイリスク、ハイリターンな商品の危険性を十分認識していたのであるから、原告X2としては、わずかの注意、努力を払うことにより容易にワラントの危険性の大きさを知ることができ、それにより本件損害の発生の防止又は本件損害の拡大の回避が可能であったと認めるのが相当であるから、その過失の程度は大きいものというべきである。

(3) 前記(第三の四)において認定した事実のほかに、右認定の諸事情(F及びGの過失が大きいものでない反面、右損害の発生、拡大につき原告X2にも相当程度の過失があったこと)をも考慮すると、過失相殺として、原告X2の右損害のうち七割程度を減ずるのが相当である。

したがって、右過失相殺後の原告X2の損害額は金一一二万円となる。

(三) 弁護士費用について

原告X2が本訴提起をその訴訟代理人である弁護士に委任したことは、記録上明らかであり、その費用のうち金一一万円が、被告の不法行為と相当因果関係にある損害と認められる。

七  原告X2の預託金返還請求について

前記(第三の四)のとおり、ダイキン工業ワラント及び三菱自動車ワラントは、原告X2に無断で購入されたものではなく、原告X2が自らの判断により購入したものと認められるから、原告X2の預託金返還請求は理由がない。

八  結語

よって、原告らの請求は、原告X1について金五二八万円及びこれに対する不法行為後である平成五年三月二五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を、原告X2について金一二三万円及び内金一一二万円に対する不法行為後である平成五年三月二五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容することとし、その余の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法六一条、六四条本文を、仮執行の宣言につき同法二五九条一項をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松村雅司 裁判官 宮﨑朋紀 裁判官徳田園恵は転勤のため署名押印することができない。裁判長裁判官 松村雅司)

<以下省略>

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