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神戸地方裁判所 平成2年(ワ)371号 判決 1991年11月27日

原告

西川惠

ほか二名

被告

株式会社トヨタレンタリース大阪

主文

一  被告は、

1  原告西川惠に対し、金七万八一三九円及び内金七万一〇三九円

2  原告斎所至に対し、金四三万四二九五円及び内金三九万四二九五円

3  原告川崎潔に対し、金一一九万五六〇〇円及び内金一〇八万五六〇〇円

右各内金に対する平成元年一一月一〇日から支払ずみまで年五分の割合による各金員を支払え。

二  原告斎所至、同川崎潔のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用中、原告西川惠と被告間の分は、全部被告の、原告斎所至と被告間の分は、これを五分し、その二を右原告の、その三を右被告の、原告川崎潔と被告間の分は、これを五分し、その一を右原告の、その四を右被告の、各負担とする。

四  この判決は、原告ら勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

以下、各原告を、その氏のみで略称する。

第一請求

1  原告西川関係

主文一同旨。

2  原告斎所、同川崎関係

被告は、

(一)  原告斎所に対し、金七六万七二三七円及び内金六九万七五三七円

(二)  原告川崎に対し、金一五七万九二〇〇円及び内金一四三万五六〇〇円

右各内金に対する平成元年一一月一〇日から支払ずみまで年五分の割合による各金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、賃借普通乗用自動車から衝突された各車両の所有者兼運転者らが、右衝突により人的・物的損害を受けた等として、右加害普通乗用自動車の賃貸会社に対し、自賠法三条・民法七〇九条に基づき各損害賠償を請求した事件である。

一  争いのない事実

1  被告は、各種自動車の賃貸を営業の目的とする株式会社である。(以下、被告会社という。)

2  被告会社は、平成元年一〇月二〇日、大阪市北区所在新阪急ホテル内営業所において、政井雅信(以下、政井という。)の運転免許証の呈示を受け、右会社所有の普通乗用自動車一台(以下、被告車という。)を賃貸(以下、本件レンタカー契約という。)した。

3  被告車と原告ら主張の各車両と衝突する事故(以下、本件事故という。)が、平成元年一一月九日午前七時三〇分頃、神戸市垂水区平磯四丁目五番一二号先国道二号線上で発生した。

二  争点

1  本件事故の具体的内容

2  被告会社の本件責任原因の存否

(一) 自賠法三条関係

(1) 被告会社の主張

本件事故は、本件レンタカー契約上の返還時期を二〇日も経過した後の事故である。

したがつて、右事故は、右契約上の使用時間もしくはこれと接着していて右契約関係が未だ客観的に見て存続していると見られるような時間の範囲外であつて、借主がレンタカー業者である被告会社の承諾を得ずに勝手に運転するなど右契約関係がもはや客観的に見て存続していないと見られる場合に発生したものである。それ故、被告会社は、右事故当時、被告車に対する運行支配及び運行利益を喪失していたというべきである。

よつて、被告会社には、本件事故による損害中人的損害について、自賠法三条による責任がない。

(2) 原告斎所の主張

被告会社の主張は、全て争う。

(二) 民法七〇九条関係

(1) 原告ら

被告会社には、本件レンタカー契約を締結し被告車を貸出すに当たり、無免許運転防止のため借受人が運転資格を有することを確認したうえ右貸出をなすべき注意義務があるのに、宮崎健司(以下、宮崎という。)が普通乗用自動車の運転免許を有さず他人である政井雅信(以下、政井という。)の普通乗用自動車運転免許証(以下、本件運転免許証という。)を呈示して右契約を締結しようとしているのに宮崎が政井本人であるか否かの確認を怠り、漫然右無免許者である宮崎と右契約を締結し、被告車を同人に貸出して、その結果、宮崎が、本件事故を惹起して、原告らに対し、本件物的損害を与えた。よつて、被告会社には、民法七〇九条に基づき、原告らの右各損害を賠償する責任がある。

なお、自動車の運転は、一定の技能・知識等を備えた者に対してのみ許容される本来は危険な行為であるから、今日のような過密・複雑な交通社会にあつては、無免許者に自動車を貸出すことと事故発生との間には明らかに相当因果関係が存在する。

したがつて、本件においても、被告社会の本件貸出と本件事故の発生との間に相当因果関係が存在することは明らかである。

(2) 被告会社

原告らの右主張中、被告会社が本件レンタカー契約を締結し被告車を貸出したことは認めるが、その余の主張事実及び主張は全て争う。

本件においては、被告会社が本件貸出をするに当たり、本件事故が発生するであろう事情を予見でき、かつ、予見すべきであつたのに過失によつてこれを看過した等の特段の事情は認められないから、被告会社の右貸出と本件事故の発生との間に相当因果関係は存在しない。

3  原告らの本件損害の具体的内容

第三争点に対する判断

一  本件事故の具体的内容

証拠(甲六、九、証人宮崎、原告ら本人。)によれば、次の各事実が認められる。

1  宮崎は、本件事故直前、被告車を運転し右事故現場の存する国道二号線の西行き車線上を西に向け進行していたが、右事故現場付近に至つた時、居眠りのためセンターラインを越えて東行き車線内に進入した。

2  右事故現場付近の東行き車線路上は当時車両が交通渋滞し、通行車両は一列になつて停車していた。右事故現場付近には、原告西川車、原告斎所車、原告川崎車の順で停車していたが、被告車は、先ず原告西川車右前部付近(原告車の進行方向を基準。以下同じ。)に、次いで原告斎所車の右前部付近に、さらに被告車の右側を持ち上げる形で原告川崎車の右前部付近に、順次衝突し、右事故が発生した。

なお、原告川崎車は、右衝突の衝撃により後方に押し出され、同車両の後部が後続車両の前部と衝突した。

二  被告会社の本件責任原因

1  被告車が本件事故当時被告会社の所有に属したこと、被告会社が平成元年一〇月二〇日締結した本件レンタカー契約に基づき被告車を貸出したこと、右車両による右事故が同年一一月九日午前七時三〇分頃右事故現場付近で発生したことは、当事者間に争いがなく、右事故の具体的内容は、前記認定のとおりである。

2  自賠法三条関係

(一) 証拠(乙一、二、四の一ないし三、五、証人森、同北上。)によれば、次の各事実が認められる。

(1) 本件レンタカー契約は、被告会社新阪急ホテル(大阪市梅田所在)内営業所において締結されたものであるが、右契約においては、借受人が運転免許取得者(普通・大型、一種・二種。)に限定され、借受人が借受車両(被告車)の運行につき、時間・使用目的・返還場所等につき特定の遵守義務を負い、貸与時間が短時間(六時間)であり、走行距離・使用時間に応じて預り金名目で賃料の前払いをさせている。

(2) 被告会社では、貸与した被告車が右約定時間を経過しても返還されないため、同年一一月八日まで右車両の行方を探究し、その間、同年一一月二日には、右借受人名義の政井宛、本件レンタカー契約に基づき本書面到達後直ちに右車両を被告会社に返還し一週間以内に未払代金金一一万二一九〇円を支払うよう催告する旨の催告状を送付した。

(二) 右認定各事実を総合すると、被告会社は、本件レンタカー契約により被告車を貸与した後にも、右契約関係を通じて借受人に対する運行支配・右車両についての運行利益を有していたところ、本件事故は、右契約による返還時間を著しく経過した後に発生したものであるが、右事故の時点においても、右車両の貸主である被告会社の右車両の借受人に対する右立場は依然として存続していたと認められる故、右返還時間の右経過のみから直に被告会社が右運行支配・運行利益を喪失したとは認め得ないというのが相当である。

よつて、被告会社には、自賠法三条に基づき、本件人的損害を賠償する責任があるというべきである。

3  民法七〇九条関係

(一) 証拠(乙一、二、証人森、同宮崎、同政井、同北上。)によれば、次の各事実が認められる。

(1) 宮崎は、平成元年一〇月二〇日当時、原付自転車の運転免許を有したものの普通乗用自動車の運転免許を有していなかつた。

宮崎は、同月一九日頃、中学校当時一年後輩であつた政井が普通乗用自動車免許を有しているのを知り、同人から右運転免許証を借受け、右免許証を使用してレンタカー(普通乗用自動車)を借受け、これを乗り回そうと考えた。

そこで、宮崎は、同日頃、政井に会い、同人に対して、自分は普通乗用自動車の免許を取得したが未だ一年未満だからレンタカーを借受けることができない、ついては君の運転免許証を貸して貰えないか旨申し向けた。政井は、宮崎の右言辞を信用して、自分の有した本件運転免許証を宮崎に貸与えた。

(2) 宮崎は、同月二〇日午前九時頃、被告会社新阪急ホテル内営業所に赴き、当時右営業所においてレンタカーの貸出手続業務に従事していた森一恵に対し、本件運転免許証を呈示してレンタカーの借受けの申出をした。

森は、宮崎から右運転免許証の呈示を受けたものの、右運転免許証に貼付された政井の写真と宮崎の容貌とを十分に比較対照せずに宮崎が右運転免許証の取得者であると即断して同人の右申出に応じ、右貸出に必要な書類(売上票。乙一。)を作成して、右貸出事務を完了させた。なお、右運転免許証貼付の写真は、当時、鮮明であつた。

宮崎は、右貸出手続終了後、直ちに右手続に基づいて被告車を借受け、これを運転して同所を立ち去つた。

(3) 宮崎と政井とは、年齢は似かよつているが容貌は似ていない。

(二)(1) 当事者間に争いのない被告会社の営業目的、前記認定の本件レンタカー契約の内容等からして、被告会社は、右営業目的の遂行としてレンタカー契約を締結する際、無免許運転防止のため借受申込人が当該運転資格を有することを十分に確認して右契約を締結し、当該車両を貸出すべき注意義務を負つているというのが相当である。

これを本件についてみるに、前記認定の各事実に基づくと、被告会社の従業員であつた森一恵は、本件レンタカー契約を締結するに当たつて右注意義務を怠り、無免許者である宮崎が他人である政井の本件運転免許証を呈示して右契約締結の申込みをしているのにもかかわらず、右借受申込人と右運転免許取得者とが同一であることの確認を十分行わず、漫然宮崎と右レンタカー契約を締結し、同人に対し被告車を貸出した過失により本件事故を惹起したというのが相当である。

よつて、被告会社には、民法七〇九条に基づき、本件物的損害を賠償する責任があるというべきである。

(2) なお、本件レンタカー契約が被告会社の企業活動そのものであり、森一恵の右契約締結行為と被告車貸出行為は、被告会社の右企業活動に埋没しており、被用者が使用者の事業の執行につき第三者に損害を加えた場合(民法七一九条一項)のように、特定人の不法行為について法人(使用者)が責任を負う場合と自らその本質を異にするというべきであるから、被告会社には、民法七〇九条によつて、本件物的損害を賠償する責任があるというべきである。

(3) 本件事故発生の経過については、前記認定のとおりである。

しかして、自動車は利器であると同時に凶器にもなり得る。それ故、自動車の運転は、一定の技能・知識を備えた者、即ち特定の運転免許を取得した者に対してのみ許される。したがつて、今日の過密・複雑な交通社会においては、無免許者に対する自動車の貸与と借受者の過失による交通事故の発生との間には、一般的に見て相当性があるというべきである。

よつて、被告会社の本件レンタカー契約に基づく被告車の貸出と本件事故発生との間には、相当因果関係の存在を肯認すべきである。

右認定説示に反する被告会社の主張は、当裁判所の採るところでない。

三  原告らの本件損害の具体的内容

1  原告西川分

車両修理費 金七万一〇三九円

証拠(甲六、原告西川本人。)によれば、原告西川車は、本件事故によりその右前部付近を破損され、その修理のため金七万一〇三九円を要したことが認められる。

2  原告斎所分

(一) 事故救援作業費 金三万〇九〇〇円

証拠(甲三の一、二、原告斎所本人。)によれば、原告斎所は、本件事故後、原告斎所車を右事故現場から搬出する等の事故救援作業の費用として、合計金三万〇九〇〇円を支出したことが認められる。

(二) 車両修理費 金三五万九二九五円

証拠(甲一二の一、二、右原告本人。)によれば、原告斎所車は、右事故によりその右前部付近を破損され、その修理のために金三五万九二九五円を要し、実用上差し支えない程度に修理されたことが認められる。

(三) 治療費 金四一〇〇円

証拠(甲四の一、二、右原告本人。)によれば、右原告は、本件事故により頸椎捻挫の傷害を被り、神戸市中央区磯辺通一丁目所在神戸海岸病院において治療を受け、その費用金四一〇〇円を支出したことが認められる。

(四) 原告斎所の本件損害の合計額 金三九万四二九五円

3  原告川崎分

(一) 事故救援作業費 金三万五六〇〇円

証拠〔甲一の一、二、原告川崎本人(一回)〕によれば、原告川崎は、本件事故後、原告川崎車を右事故現場から搬出する等の事故救援作業の費用として、合計金三万五六〇〇円を支出したことが認められる。

(二) 車両補償費 金一〇五万円

証拠〔甲二の一、二、一三、右原告本人(一、二回)〕によれば、原告川崎車は、本件事故によりその前部付近及び後部付近を破損され、その修理見積り額が金一二六万九五二〇円であつたこと、しかし、修理関係者から、右車両に右修理費用をかけて修理しても修理後運転中に走行不安定となり安全面において問題があるとの予測が出されたこと、そこで、右原告は、右車両を修理に出さず廃車手続をし、別車両を購入することにしたこと、右破損車両の平成二年三月当時の時価は金一四〇万円であつたこと、しかし、右原告は、右別車両購入の際、右破損車両からエアコン(金三〇万円相当)及びカセツト(金五万円相当)を取り外して右別車両に取りつけ使用したことが認められる。右認定各事実に基づけば、右原告の車両補償費は、金一〇五万円と認めるのが相当である。

(三) 原告川崎の本件損害の合計額金一〇八万五六〇〇円

四  弁護士費用

前記認定の本件全事実関係に基づくと、原告らの本件損害としての弁護士費用は、次のとおり認めるのが相当である。

原告西川分 金七一〇〇円

同斎所分 金四万円

同川崎分 金一一万円

(裁判官 鳥飼英助)

事故目録

一 日時 平成元年一一月九日午前七時三〇分頃

二 場所 神戸市垂水区平磯四丁目五番一二号先国道二号線路上

三 加害(被告)車 宮崎健司運転の普通乗用自動車

四 被害(原告)車 原告西川惠運転の軽四輪貨物自動車(以下、原告西川車という。)

原告斎所至運転の普通乗用自動車(以下、原告斎所車という。)

原告川崎潔運転の普通乗用自動車

五 事故の態様 原告車らが、交通渋滞のため、本件事故現場付近(国道二号線東行き車線)路上に、原告西川車・同斎所車・同川崎車の順で停車していたところ、右国道二号線上を西進(西行き車線上)していた被告車が、右事故現場付近に至つた時、センターラインをオーバーして右国道東行き車線上に進入して、停止している原告車らに順次衝突した。

以上

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