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神戸地方裁判所 平成10年(ワ)959号 判決 1999年9月28日

原告

木谷勝郎

右訴訟代理人弁護士

斎藤浩

西垣泰三

伊藤裕志

市瀬義文

被告

右代表者法務大臣

陣内孝雄

右指定代理人

森木田邦裕

杉田隆夫

粟井英樹

足立孝和

安田英生

久井亮仁

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、五〇万円及びこれに対する平成一〇年六月一一日(訴状送達の翌日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

3  仮執行の免脱宣言

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、主たる事業として不動産貸付を行い、平成七年一月一七日当時、共有する神戸市長田区大橋町四丁目二番所在のマンション「ダイヤパレス西神戸」(以下「ダイヤパレス」という。)のうちの二戸、同市東灘区西岡本一丁目四九番地二所在のマンション(以下、「西岡本マンション」という。)のうち一二戸等を住居として貸し付けていたほか、西岡本マンションの一階及び敷地の大部分を住居とは別個に同マンション居住者以外にも駐車場として貸し付けていた。

2  原告は、平成七年一月一七日に発生した阪神淡路大震災(以下「震災」という。)により、ダイヤパレス及び西岡本マンションが損壊したことから、同年三月一四日から平成一〇年七月三一日までの間に、業者に依頼して主に西岡本マンションの一階部分及び駐車場部分の補修を行い、次のとおり、補修費及びその消費税を支払った(平成七年六月三〇日はダイヤパレス分)。

平成七年三月一四日 七二万一〇〇〇円

四月二八日 一九万円

五月 一日 一〇〇〇万円

六月三〇日 三五万四〇〇〇円

九月 一日 一八万三九五八円

七日 一〇万〇七二一円

二九日 一一五万一四九〇円

一〇月一六日 二〇〇〇万円

一二月二九日 一〇〇〇万円

平成八年一月三一日 三一万九六〇〇円

四月五日 一六〇〇万円

平成九年三月一九日 一六五万円

(以上は、いずれも税率三パーセントの割合による消費税を含む。)

平成一〇年 七月三一日 一一〇万二五〇〇円

(右は、税率五パーセントの割合による消費税を含む。)

3  原告は、右補修にあたっての消費税の負担が重いことから、次のとおり、税務署等の所管ないし関係官署の職員(以下、併せて「税務署員ら」ともいう。)に対してその救済措置の相談ないし願い出をした。

(一) 平成七年八月

原告は、加古川税務署個人課税第一部門において、被災住宅の補修にかかる消費税はおかしい、震災補修は消費ではないと主張してその救済措置の相談をしたが、応対した同署職員宮川清文(以下、「宮川」という。)は「何ともならない。支払ってもらうしかない。」と回答した。

(二) 平成七年九月

原告は、再び加古川税務署に赴いて(一)と同じ相談をしたが、同署職員の回答は(一)と同じであった。

(三) 平成八年三月

原告は、加古川税務署において、また(一)と同じ相談をしたが、同署職員の回答は(一)と変わらなかった。そこで、原告は、さらに姫路税務署に行き、同じ相談をしたが、同署職員の回答も同じであった。

また、原告は、平成八年に入ってから、被災建物の補修費につき仕入税額控除ができないとする法令上の根拠は何かなどという形で税務署員らに質問、相談した。

(四) 平成八年九月二五日

原告は、右各税務署員の説明に納得できず、大阪国税不服審判所神戸支所に現行消費税の不当性を上級官庁に伝えてもらいたいと申し出たが、応対した同所職員池田一男(以下「池田」という。)は「窓口がない。」と回答しただけであった。

(五) 平成八年九月下旬

原告は、大阪国税不服審判所に赴いて(四)と同じ申出をしたが、同所職員の回答は池田と同じであった。

(六) 平成九年二月一二日

原告は、加古川税務署個人課税第一部門において、宮川に対し、「事業者は、原則的に消費税を負担しなくてよいはずであるが、税法のどこから震災に起因した消費税を支払うという結論になるのか。」と質問した。これに対し、宮川は、非課税売上げに対応しているから仕入税額控除できない、したがって、課税事業者となっても控除されないから無駄だと回答した。そして、宮川は、(一)のとき同様、どうしようもない、形式的納税者(課税事業者)に該当しない以上不服申立の資格もないなどと回答したが、納税義務の免除措置を受けない旨の届出をすることによる還付の可能性などの具体的救済策については説明しなかった。

(七) 平成九年二月二一日

原告は、姫路税務署において、(六)と同じ質問をしたが、同署職員の回答は同じであった。

4  税務署員らの過失

(一) 税務署員らは、職務行為ないしその密接関連行為として、納税者からの税務相談に応対し、相談内容について公正かつ適正に処理する義務を負う。そして、税務知識に乏しい納税者は相談すべき事項の真の税務上の問題点を把握しないで相談することも多いのであるから、相談を受けた税務署員らは、納税者の表面的な相談に対する回答を行うだけでは足りず、納税者の相談の真の意図を把握し、その意図に沿う救済措置ないし租税負担の予防措置のための事情を聴取し、そのための情報提供をする義務がある。特に、震災に際しては、被災者の租税負担を軽減するため、国税・地方税とも様々な救済措置が講じられたが、納税者は右救済措置についての明確な知識を有していなかったのであるから、右のことは特に強調されるべきである。

(二) ところで、消費税については、課税事業者は、その課税期間における課税標準額に対する消費税額からその課税期間中に国内において行った課税仕入れに係る消費税額を控除することができる(消費税法三〇条、以下「仕入税額控除」という。)が、免税事業者はその適用を受けることはできない。しかし、免税事業者であっても、納税義務の免除の規定(同法九条一項)の適用を受けない旨の届出書(以下「課税事業者選択届出書」という。)を提出することによって(同法九条四項)、課税事業者を選択すれば、仕入税額控除を行うことができる。

そして、原告は、課税期間に係る基準期間における課税売上高が三千円以下の免税事業者であったが(同法九条一項)、消費税の課税対象とならない住宅貸付事業のみでなく、消費税の課税対象となり得る駐車場の貸付事業も行っていた。したがって、原告が課税事業者選択届出書を提出すれば、駐車場の賃料は課税対象となるが、この課税売上について仕入税額控除をすることができた。すなわち、駐車場賃料に係る消費税額から補修費に係る消費税額を控除することができたのである。加えて、原告が所轄税務署長に対し課税期間を三か月宛に短縮する旨の届出書(以下「課税期間特例選択届出書」という。)を提出すれば(同法一九条一項一号、三号)、その提出した日の属する短縮期間の翌短縮期間以降は課税事業者となり得るので、原告は、年度途中からでも仕入税額控除を行うことができたのである。

(三) 原告は、前記3項のとおり、税務署員らに対して、西岡本マンション等の補修に係る消費税の負担が過重であることを訴えており、平成八年に入ってからは被災建物の補修費につき仕入税額控除ができないとする法令上の根拠は何かなどという形で質問、相談していたのであるから、応対した税務署員らは、原告の真の相談意図が消費税の不必要な負担防止にあることを明確に認識できたはずである。そして、集合住宅により住宅貸付を営んでいる者であっても、駐車場については住宅とは別個の契約としていることが多いのであるから、応対した税務署員らは、原告の事業内容等を詳細に聴取し、課税対象となり得る駐車場貸付事業があることや補修費の多くがその駐車場に係るものであることなどを把握し、原告に対し、課税事業者選択届出書及び課税期間特別選択届出書の提出により速やかに仕入税額控除を受けるよう示唆すべきであり、かつ、それが可能であったのに、これを怠り、原告に何らの示唆をせず、とりわけ宮川は「支払ってもらうしかない。」と回答し、あるいは「課税事業者となっても控除されないから無駄だ。」と虚偽の説明をしたのであるから、税務署員らにはその職務を行うについて過失があった。

5  被告の責任(国家賠償法一条)

税務署員らは、内国税の賦課徴収等の実施という公権力の行使にあたる公務員であり、納税者の税務相談に応対するという担当職務を行うについて右のとおり過失があったから、被告はこれによって原告に生じた損害を賠償する義務がある。

6  損害

原告は、税務署員らが違法に消費税の負担を緩和する方法を示さなかったために、速やかに仕入税額控除を受けることができず、平成八年一〇月に無意味な抗告訴訟を提起せざるを得ないなどして多大な精神的苦痛を被った。右苦痛を慰藉するには少なくとも五〇万円が相当である。

7  よって、原告は、被告に対し、国家賠償法一条に基づき、慰藉料五〇万円及びこれに対する不法行為後である訴状送達日の翌日の平成一〇年六月一一日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する被告の認否及び反論

(認否)

1 請求原因1の事実は不知。

2 同2のうち、平成七年一月一七日に震災が発生したことは認めるが、その余の事実は不知。

3 同3のうち、平成七年八月及び平成九年確定申告期に加古川税務署で宮川が原告に応対したことは認めるが、宮川が課税事業者になっても控除されないから無駄だと説明したこと、原告が平成八年に仕入税額控除について質問、相談したこと、池田が平成八年九月二五日に大阪国税不服審判所神戸支所職員として原告に応対したことは否認する。池田は、当時、大阪国税不服審判所職員であった。

4 同4(一)のうち、税務署員等が納税者からの税務相談に対し、公正かつ適正に処理する義務があることは認め、その余の義務内容は争う。同(二)のうち、原告が住宅貸付事業及び消費税の課税対象となり得る駐車場賃貸事業を行っていることは不知。その余は認める。同(三)のうち、宮川の説明内容は否認し、税務署員等に過失があったとの主張は争う。

5 同5の主張は争う。

6 同6のうち、平成八年一〇月の抗告訴訟提起による精神的苦痛と平成九年の相談結果との間に因果関係があることは否認し、慰藉料額は争う。

(被告の主張)

1 原告の主張は、宮川及び池田を除く応対した税務署員らの氏名、原告の相談や願い出の内容、税務署員らの応対の内容及び原告の被った損害の内容等が具体的にされておらず、主張自体失当である。

2 仮に原告の主張を前提としても、税務署員らの応対に何ら過失はない。

(一) 税務署における税務相談は、専ら行政サービスの一環として、納税者のために税法の解釈や運用、申告手続等に関する相談に応じ、相談者の相談内容に応じて、税務署の取扱いに係る事項を中心に、参考として情報を提供すれば足りる。それ以上に、当該納税者の具体的な資産内容や事業・収入の状況に応じて、その意向に従った問題解決の方策を提示する義務はない。このことは、税務代理に関する相談は税理士の業務とされている(税理士法二条)ことからも明らかである。

(二) 加古川及び姫路各税務署員の不法行為について

(1) 平成七年八月、同年九月、平成八年三月に加古川及び姫路各税務署員が、震災補修は消費ではないから、被災住宅の補修は消費税の課税対象外である旨の原告の主張に対し、「支払ってもらうしかない。」等と返答したことについて

<1> 消費税法四条、二条一項八号、六条一項によれば、国内において事業者が「事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供」を行った場合には、同法別表第一に掲げるものを除き、消費税の課税対象となる。そして、補修工事の請負業者が行う「被災住宅の補修」は、「役務の提供」として消費税の課税対象になるものであるから右請負業者は消費税を負担する義務がある。そうすると、税制改革法一一条により、事業者は「消費に広く薄く負担を求めるという消費税の性格にかんがみ、消費税を円滑かつ適正に転嫁するものとする」とされているから、原告は、右請負業者に対して、補修費及びその消費税の支払を免れない。

したがって、被災住宅の補修は消費ではないとして、消費税の課税対象外であるとの相談をした原告に対し、右相談を受けた税務署員としては、その解釈が妥当でなく、消費税の支払を免れない旨回答すれば足り、還付の方策についてまで言及する必要はないから、右各税務署員の応対に過失はない。

<2> 原告が右相談結果に納得せず、その後抗告訴訟を提起するに至ることは、右各税務署員にとって予見不可能である。

(2) 原告が平成九年二月に加古川及び姫路各税務署において、「事業者は消費税を負担しなくて良いはずである」として、消費税の還付についての相談をしたことに対する右各税務署員の応対について

<1> 原告が平成九年二月に課税事業者選択届出書及び課税期間特例選択届出書を提出したとしても、課税事業者となり得るのは平成九年四月一日以降であり(消費税法一九条一項三号)、同年三月三一日までに支払った消費税について還付申告書を提出する余地はなかったから、右各税務署員の応対に過失はない。

<2> また、消費税における仕入税額控除は、多段階課税である消費税につき税の累積を避けるために認められているものであるから、非課税売上げに対応する課税仕入れについては、原則として控除の対象にならず、ただ、課税売上割合が九五パーセント以上の事業者については、事業処理の簡便化の見地から、仕入税額の全額控除が認められているにすぎない(同法三〇条一・二項)。原告の場合、その収入のほとんどは非課税売上げである「住宅の貸付け」(同法別表第一の一三)であるから、仮に原告が課税事業者選択届出書を提出したとしても、課税売上げに対応していない以上、還付になるとは限らない。そして、宮川は、原告に対し、書籍を示して仕入税額控除の仕組みを説明し、右のとおり、原告が課税事業者となっても、消費税の還付を受け得るとは限らないことから、税理士とよく相談するよう回答した上、課税事業者選択届出書等を交付しようとしたのに、原告がこれを断ったのである。したがって、宮川の応対に過失はない。

(三) 大阪国税不服審判所(神戸支所も含む。)職員の不法行為について

国税不服審判所は、異議申立前置を原則とした国税に関する審査請求に対し、原処分庁のした処分についての裁決を行う機関であり、原告の申出に対しては、原処分庁のした処分が存在しない以上、対処のしようがなく、右職員の応対に過失はない。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因2のうち、平成七年一月一七日に震災が発生したこと、同3のうち、平成七年八月及び平成九年確定申告期に加古川税務署で宮川が原告に応対したこと、同4(一)のうち、税務署員らは納税者からの税務相談に対し、公正かつ適正に処理する義務があること、同(二)のうち、原告が課税期間に係る基準期間における課税売上高が三千円以下の事業者であり、納税義務を免除された免税事業者であったこと、消費税法上、課税期間を三か月宛に短縮する旨の課税期間特例選択届出書を提出すれば、その提出した日の属する短縮期間の翌短縮期間以降は課税事業者となり得るので、年度途中からでも、仕入税額控除を行うことができることは当事者間に争いがない。

二  右争いのない事実及び証拠(甲一、原告本人)並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。これに反する原告本人の供述ないし陳述(甲一)部分は採用しない。

1  消費税における仕入税額控除について

(一)  消費税は、特定の物品やサービスに課税する個別消費税とは異なり、消費に広く薄く負担を求めるという観点から、金融取引や資本取引、医療、福祉、教育、住宅の貸付け等の一部のものを除き、国内におけるほとんどすべての商品の販売やサービスの提供等の取引(資産の譲渡等《事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付並びに役務の提供をいう。》、消費税法二条一項八号)及び保税地域から引き取られる外国貨物を課税対象として、取引の各段階ごとに、平成元年四月一日ないし平成九年三月三一日に行われた取引(普通乗用自動車を除く。)については三パーセント(所得税法及び消費税法の一部を改正する法律《法律第一〇九号》による改正前の消費税法二九条)、同年四月一日以降に行われた取引(普通乗用自動車を除く。)については四パーセント(右改正後の消費税法二九条、平成九年四月一日以降に行われた取引についてはさらに消費税額を課税標準額として二五パーセントの税率による地方消費税が課される《地方税法七二条の八二・八三》)の税率で課税する間接税である(消費税法四条、六条)。

(二)  消費税の納税義務は事業者に課されるが(消費税法五条一項)、税金分は事業者の販売する物品やサービスの価格に上乗せされ、次々と転嫁され、最終的には消費者に負担を求める税である(税制改革法一一条。)また、事業者の納税の事務負担を軽減するため、その課税期間に係る基準期間の課税売上高が三千万円以下の事業者については納税義務が免除される(免税事業者、消費税法九条一項)。

(三)  消費税は、事業者が国内において行った課税資産の譲渡等の各取引のすべての段階で課税されるが(多段階課税)、各取引段階の消費税の累積を排除するため、課税事業者は、その課税期間における課税標準額に対する消費税額から、その課税期間中に国内において行った課税仕入れ(事業者が、事業として他の者から資産を譲り受け、もしくは借り受け、又は役務の提供を受けることをいう。消費税法二条一項一二号)に係る消費税額を控除することができる仕組み(仕入税額控除)が採用されている(累積排除方式、同法三〇条)。他方、仕入税額控除の対象となる事業者は課税事業者に限られ(同法三〇条一項)、免税事業者は仕入税額控除を受けることができない。

(四)  課税資産の譲渡等のみを行っている事業者については、課税仕入れ等の税額の全額を控除することができる(消費税法三〇条一項)。一方、事業者の行った課税仕入れであっても、非課税売上げに対応する課税仕入れについては、税の累積を排除する必要はないから、原則として仕入税額控除の対象とならない。しかし、事務処理の簡便化の見地から、非課税売上げの割合が少ない場合(課税売上割合《事業者が課税期間中に国内において行った資産の譲渡等の対価の額の合計額に占めるその課税期間中に国内において行った課税資産の譲渡等の対価の額の合計額の割合、同法三〇条六項後段》が九五パーセント以上の場合)には課税仕入れの税額を全額控除できることとされている(同法三〇条一項、二項)。

課税売上割合が九五パーセント未満の事業者については、本則どおり課税資産の譲渡等に対応する課税仕入れ等の税額のみ控除の対象となるが、この場合の計算方法には個別対応方式と簡便法である一括比例配分方式とがあり(同法三〇条二項)、事業者はいずれかを選択することができる。

(五)  消費税の確定及び納付の手続は、原則として「申告納税方式」であり、事業者は、原則として、各課税期間の末日の翌日から二月以内に所轄税務署長に対して、所定の事項を記載した申告書(確定申告書)を提出しなければならない(消費税法四五条一項)。また、確定申告すべき義務がない事業者の場合においても、還付を受けるための申告をすることができる(同法四六条一項)。そして、右確定申告書等の提出があった場合において、その申告書に課税標準額に対する消費税額から控除しきれなかった仕入税額等の控除されるべき消費税額の記載がある場合には、所轄税務署長は、これらの申告書を提出した者に対して、その額に相当する消費税額を還付することとされている(同法五二条一項)。

(六)  免税事業者は、仕入税額控除を受けることはできないが、課税事業者選択届出書を提出することによって課税事業者となることができ(消費税法九条四項)、この場合には、原則として右届出書を提出した日の属する課税期間の翌課税期間から納税義務者となり、仕入税額控除を行うことができるようになる。課税期間は、個人事業者は一月一日から一二月三一日までの一年間とされているが(同法一九条一項一号)、所轄税務署長に課税期間特例選択届出書を提出することにより、一月一日から三月三一日まで、四月一日から六月三〇日まで、七月一日から九月三〇日まで、一〇月一日から一二月三一日までの各三か月の期間に短縮することができる。この場合、右届出の効力が生ずるのは、その提出があった日の属する課税期間(短縮期間)の翌課税期間(短縮期間)の初日以後である(同法一九条二項)。

(七)  事業者の行った課税仕入れであっても、非課税売上げに対応する課税仕入れについては、原則として仕入税額控除の対象とならないところ、「住宅の貸付け」は非課税とされている(同法六条一項、別表第一第一三項)。右「住宅の貸付け」には、庭、塀その他これらに類するもので、通常、住宅に付随して貸し付けられるもの及び家具、じゅうたん、照明設備、冷暖房設備その他これらに類するもので住宅の付属設備として住宅と一体となって貸し付けられると認められるものが含まれる。そして、駐車場付き住宅としてその全体が住宅の貸付けとされる駐車場には、一戸建住宅に係る駐車場のほか、集合住宅に係る駐車場で入居者について一戸当たり一台分以上の駐車スペースが確保されており、かつ、自動車の保有の有無にかかわらず割り当てられる等の場合で、住宅の貸付けの対価とは別に駐車場使用料等を収受していない場合が該当し、その他の駐車場は「住宅の貸付け」には含まれない。したがって、その他の駐車場の貸付けは、消費税の課税対象となる課税売上げに該当する。

(八)  震災の被災者及び被災地の復興のための対策として、租税負担を軽減すべく、所得税に関して、所得税の軽減措置の所得限度額の引上げ(災害被害者に対する租税の減免、徴収猶予等に関する法律二条参照)、住宅・家財等の損失の雑損控除・事業用資産損失の必要経費算入等の措置がとられ(阪神・淡路大震災の被災者等に係る国税関係法律の臨時特例に関する法律二章参照)、住民税に関しても、住宅・家財等の損失の雑損控除等の措置がとられた(地方税法参照)のに対し、消費税に関してはこのような減免措置は取られていない(阪神・淡路大震災の被災者等に係る国税関係法律の臨時特例に関する法律三九条、四〇条参照)。

2  税務署及び国税不服審判所の権限について

税務署は、国税庁の下に置かれ、内国税の賦課徴収の実施を所掌し、納税者のために、申告手続や税法の解釈や運用についての相談に応じる機関である。国税不服審判所は、国税庁の附属機関として置かれ、国税に関する法律に基づく処分についての審査請求に対し、審理、裁決を行う機関である。納税者は、租税行政庁の処分に対して、当該処分をした税務署長等に対する異議申立て、国税不服審判所に対する審査請求、司法救済としての行政訴訟の提起をすることができるが、納税義務者でない者にはこのような不服申立ての資格はない。

3  原告の相談経緯等について

(一)  原告は、包装私財販売業を営む傍ら、不動産貸付業及び学習塾を経営する個人事業者であり、平成七年一月一七日当時、神戸市内では、ダイヤパレス七〇一号室及び一一〇四号室の二戸、西岡本マンションの一二戸を共有してこれらを貸し付けていた。西岡本マンションの一階部分はすべて駐車場として利用されており、原告は、そのうち三台分については同マンション居住者以外の者に貸し付けていた。原告は、右当時、課税期間に係る基準期間の課税売上高が三千万円以下で免税事業者の扱いを受けており、課税売上割合は平成七年から平成一〇年まで約一パーセントであった。

(二)  震災によりダイヤパレス及び西岡本マンションが被害を受けたため、原告と共有者は、業者に依頼して両マンションの補修を行い、補修費及び消費税として、請求原因2記載のとおり支払い、原告個人としては総額約三〇〇〇万円の補修費を負担し、約九〇万円の消費税を負担した。なお、西岡本マンションについての補修は駐車場部分にも及んでいるが、全体の補修費に占める駐車場部分の補修費の割合は明らかではない。

(三)  原告は、右補修にかかる消費税の負担が納得できなかったため、神戸税理士会、神戸会計士会、神戸弁護士会等に相談したが、原告の希望する回答は得られなかった。また、原告は、所得税の申告について依頼している顧問税理士にも相談したが、原告の希望する申告はできないと回答された。そこで、原告は、補修費にかかる消費税の支払は続けつつ、平成七年六月ころ、加古川税務署に相談に行き、応対した同署職員に対し、消費税は新築時に払っており、補修は現状回復であるので二重払になる、また、震災による補修は損害であるから、消費税が生じるのはおかしい旨を申し立てた。これに対し、同署職員は、結論的には支払ってもらうしかない旨を回答した。原告は、その後も同年九月ころまで何度か加古川税務署を訪れ同様の相談をしたが、回答は同じであった。

(四)  原告は、平成八年三月ないし四月ころ、加古川税務署において右同様の相談をし、また、姫路税務署を訪れて同じ相談をしたが、いずれも回答は右と同じであった。

(五)  原告は、平成八年九月二五日、大阪国税局税務相談室神戸分室を訪れ、また、そのころ、大阪国税不服審判所を訪れた。原告は、いずれにおいても現行消費税の不当性を上級官庁に伝えてもらいたい旨申し出たが、いずれも、結論としては支払ってもらうしかないとの回答であった。

(六)  原告は、平成八年一〇月、神戸地方裁判所に長田税務署長を被告とする抗告訴訟を提起したが(同庁平成八年(行ウ)第三三号)、同裁判所は、原告の訴えは処分性がないとしてこれを却下する判決をし、原告は控訴及び上告に及んだが、いずれも棄却された。

(七)  原告は、平成九年二月ころ、加古川税務署を訪れ、被災建物の補修費については仕入税額控除ができるはずであり、これができないとする法令上の根拠を示すように申し入れたが、特に具体的な資料等は持参してはいなかった。これに対し、宮川は、文献を示し、当該箇所のコピーを原告に交付するなどした上、原告の所得税確定申告資料によれば、原告の収入の約九九パーセントが非課税売上げであり、貸付けをしている住宅の補修費は非課税売上げに対応し、仕入税額控除はできない旨回答した(なお、原告は、宮川が原告に対し、課税事業者となっても無駄だと断言した旨主張し、これに沿う供述をするが、直ちには採用できない。)。また、原告は、姫路税務署でも右と同じ申入れをしたが、回答は同じであった。

(八)  原告は、平成一〇年四月、課税事業者選択届出書及び課税期間特例選択届出書を提出し、同年七月一日から課税事業者となり、同日から同年九月三〇日まで及び同年一〇月一日から同年一二月三一日までの各課税期間について確定申告を行い、前者の期間について約九〇〇〇万円、後者の期間については過年度分を含めて約五万円の還付を受けた。

三  税務署員らの不法行為について

1  税務署員らの納税相談に当たっての法的義務

税務相談については、その内容、程度を規律し、税務職員の教示義務を定めた明文の規定は存在しない。そうすると、納税者の相談に対してどの程度の内容を教示するかは、基本的には、当該税務職員の裁量に委ねられているものといわざるを得ない。しかしながら、納税が国民の義務とされる一方、税に関する法制度は多岐にわたっており、一般の納税者にとって、必ずしも、分かりやすいものとはいえないこと(このことは、消費税においても同様である。)、消費税の確定、納付について申告納税方式が採用されていることからすれば、消費税の申告方法や申告書の記載方法などの申告手続に関する事項は当然に教示すべきであろうし、また、具体的な対象事項に対する消費税支払の当否等の相談を受けた税務署員は、法の解釈、運用を示して、相談の対象事項が納税対象となるかどうかを明確に教示し、支払の当否について誤解を与えないようにする公務上の職責があるというべきである。右のような場合に、何ら具体的な応答をしないとか、あるいは誤った教示をするなどした場合には、著しく裁量の範囲を超えたものとして、右応答が違法性を帯びることがあり得るといえる。しかしながら、相談を受けた税務署員が、相談者が明示的に示している事項を超えてまでその真意を探り、当該納税者に有利な税負担方法を探るといった応答をすべき法的義務があるとまでいうことはできない(税務代理、税務書類の作成、税務相談等を独占的に行う民間の税務専門家としての税理士《税理士法一・二条》が制度化されていることも考慮されるべきである。)。このことは震災時においても異なるものではなく、この点についての原告の主張は採用することができない。

2  原告が問題とする税務署員らの応対について

(一)  加古川及び姫路各税務署員の平成七年及び八年の税務相談について

前記認定事実によれば、原告は、平成八年までは、加古川及び姫路各税務署の税務署員らに対し、震災による被害の補修は実質は損害であり、補修は現状回復であるから、新築時と補修時の双方に消費税が課税されるのは不当であり、補修による消費税は支払う必要がないのではないかとの相談をしていたものであって、その時点では仕入税額控除についてまで相談していたものではない。

しかるに、補修工事の請負業者が行う「住宅の補修」は、消費税法二条一項八号の「役務の提供」にあたると解するのが相当であり、消費税法の解釈としては、それが震災による被害の補修であっても消費税の課税対象となるといわざるを得ないのである。そして、右相談を受けた税務署員らは、原告に対し、補修工事の請負業者が行う「被災住宅の補修」は、消費税法二条一項八号の「役務の提供」にあたり消費税の課税対象になる旨説明しているのであるから、右応対に過失があったということはできない。右税務署員らが、それ以上に、原告の事業内容や補修費の内訳を積極的に聴取して仕入税額控除の可否を検討し回答すべき法的義務があったと解することはできない。

(二)  加古川及び姫路各税務署員の平成九年の税務相談について

前記認定事実によれば、原告は、平成九年二月には、右各税務署員らに対し、被災した賃貸マンションの補修費についての仕入税額控除の可否を相談したものである。しかし、原告は、それ以上に、住宅とは別個に賃貸駐車場があることやその補修についてまで明らかにして相談したものではないことが窺われる。また、原告の所得税確定申告資料によれば、原告の収入の約九九パーセントが非課税売上げであることは明らかであったのである。

そうすると、右各税務署員らは、仕入税額控除の仕組みやその適用対象者について説明した上、原告の相談から明らかな原告の事業内容や収入状況を前提として被災建物の補修費について仕入税額控除が可能かどうかを回答することで足りるというべきである。それ以上に原告の事業内容として住宅とは別個に賃貸駐車場を有しているか否かや補修費の内訳まで積極的に聴取して仕入税額控除の余地が少しでもあるか否かを詳細に検討し回答すべき法的義務を負うと解することはできない。そして、宮川は、先にみたように、文献を示して仕入税額控除の仕組み等について原告に説明をしているし、原告の所得税確定申告資料をもとに原告の課税売上割合の約九九パーセントが非課税売上げであることを指摘した上で、貸付けをしている住宅の補修費は非課税売上げに対応するもので仕入税額控除はできないと説明したのであるから、その応対に過失があったとはいえない。

原告は、集合住宅により住宅貸付を営んでいる者であっても、駐車場については住宅とは別個の賃貸契約としていることが多いから、その点についても聴取すべきであったと主張する。しかし、集合住宅に住宅とは別個の賃貸借契約にかかる駐車場部分があることが通常とまでいうことはできない上、納税相談を受けた税務署員に、そこまで聴取すべき義務があるとはいえないことは先にみたとおりであるから、原告の右主張は理由がない。

四  国税不服審判所職員らの不法行為について

前記のとおり、国税不服審判所は、国税に関する法律に基づく処分についての審査請求に対して審理、裁決を行う機関であり、消費税に関する納税者からの苦情を国税庁等に伝達する義務はない。したがって、原告が、国税不服審判所の職員に対し、現行消費税の不当性を上級官庁に伝達するように申し出たのに対し、それに応じた措置をとらなかった職員らの応対に過失があったということはできない。また、震災による補修であっても、消費税の課税対象となることは消費税法の正当な解釈であるから、池田が、原告に対し、消費税を支払ってもらうしかないと回答したことにも過失はない。

五  結論

よって、原告の本訴請求は、その余について判断するまでもなく理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 赤西芳文 裁判官 甲斐野正行 裁判官 大山徹)

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