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神戸地方裁判所 平成10年(ワ)377号 判決 1999年7月07日

原告

西村泰子こと李泰子

被告

三宮自動車交通株式会社

ほか一名

主文

一  被告らは、原告に対し、連帯して金三八〇万八四四二円及びこれに対する平成九年三月一五日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを五分し、その三を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは、原告に対し、連帯して金九九二万二九七三円及びこの内金九四二万二九七三円に対し、平成九年三月一五日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告が客として乗車していたタクシーと、他のタクシーとが側面衝突した後記の交通事故(以下「本件事故」という。)により、原告が損害を被ったとして、双方のタクシー会社である被告らに対し、民法七〇九条及び自動車損害賠償保障法三条に基づき、損害の賠償を求める事案である。

一  前提となる事実(争いがないか、乙一により認める。)

1  本件事故の発生

(一) 日時 平成九年三月一五日午前二時頃

(二) 場所 神戸市兵庫区下沢通三丁目四番一七号先路上(市道山手線)

(三) 加害車

<1> 被告三宮自動車交通株式会社(以下「被告三宮交通」という。)所有の普通乗用自動車(タクシー。神戸五五を二五四四。以下「被告車<1>」という。)

<2> 被告平和タクシー株式会社(以下「被告平和タクシー」という。)所有の普通乗用自動車(タクシー。神戸五五を七七六六。以下「被告車<2>」という。)

(四) 右運転者 被告車<1> 訴外姜峯吉

被告車<2> 訴外手崎こずゑ

(五) 態様

原告が客として乗車していた被告車<2>が市道山手線の第二車線を東から西に向けて進行していたところ、第一車線を同方向に走行していた被告車<1>が反対車線へ転回しようとしたため、被告車<2>が被告車<1>の側面に衝突した。

(六) 原告の負傷

原告は本件事故により、頸椎捻挫、両前腕・手関節打撲、両膝関節・左足部打撲挫傷の傷害を負い、事故当日、神戸医療生活協同組合神戸協同病院(以下「神戸協同病院」という。)で治療を受けたほか、谷口外科・整形外科(以下「谷口外科」という。)に、平成九年三月一七日から平成一〇年四月三〇日まで通院加療した。(負傷の事実は争いがないが、通院の必要性については争いがある。)

2  被告三宮交通は加害車<1>の所有者であり、被告平和タクシーは加害車<2>の所有者であるから、ともに民法七〇九条、七一九条及び自動車賠償保障法三条により、それぞれ本件事故により原告が被った損害を賠償する義務がある。右賠償義務は不真正連帯の関係にある。

3  損益相殺

被告三宮交通は、原告に対し、平成九年四月二五日、休業損害の一部として五五万円を支払った。

二  争点

本件の主要な争点は、原告の損害である。

1  原告の主張

(一) 原告は、本件事故による前記の負傷のため、本件事故当日、神戸協同病院で治療を受けたほか、谷口外科に平成九年三月一七日から平成一〇年四月三〇日まで通院して治療を受けた。

(二) また、本件事故当時、原告は五年前に購入したスイスコルム社製の腕時計をはめていたが、本件事故の衝撃により、留め金が歪んで腕に止められなくなり、フレームとベルトとレンズに傷が付き、作動しなくなり、全損となった。

(三) 原告の損害は次のとおりである。

(1) 治療費 一二九万五三二八円

本件傷害にかかる谷口外科の通院治療費

(2) 休業損害 四五四万七四四五円

事故の日から平成一〇年二月末まで一一か月間休業した分を、平成八年度所得の給与収入年間四九六万〇八五〇円を基準として算出した。

(3) 通院交通費 一六万〇二〇〇円

(4) 慰謝料 一五〇万円

(5) 時計代 一九二万円

(6) 弁護士費用 五〇万円

2  被告らの主張

(一) 原告の受傷は争う。当初の傷病名は単なる打撲であって、加療期間は一週間程度で足りるはずである。

(二) 腕時計の損傷及びその程度は争う。

(三)(1) 治療費

一一か月もの治療の必要はなかった。

(2) 休業損害

原告の傷害は打撲であって、通院も公共交通機関を使って徒歩で可能だったのであるから、原告の職業であるホステス業に何ら影響がなく、休業の必要性がない。あったとしてもせいぜい診断書記載の加療期間である七日分の休業で十分仕事に復帰できたはずである。

(3) 通院交通費 争う。

(4) 慰謝料 争う。

(5) 時計代

本件事故による腕時計破損の程度は軽微で、修理費用は五万六〇〇〇円ほどである。

三  証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

第三判断

一  原告の傷害

前提となる事実1(六)のほか、証拠(甲二の1、2、三、五、六の1ないし14、七、原告本人)並びに弁論の全趣旨を総合すると、次のとおり認められる。他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

原告(昭和四二年六月一一日生。当時二九歳)は、事故当日、神戸協同病院で手当てを受け、「左足背部打撲、右下腿打撲、左肘打撲、右前腕打撲で、七日間の加療を要する。」と診断された。さらに原告は、翌々日の三月一七日に谷口外科を受診し、「頸椎捻挫、両前腕・手関節打撲、両膝関節・左足部打撲挫傷で、七日間の加療の必要を認める。」と診断された。

その後原告は谷口外科に通院を続けた。バスや電車といった公共交通機関と徒歩で通院していた。両前腕・手関節打撲に対する治療は三月中に終わり、左足部打撲挫傷に対する治療も六月中には終わった。その後は専ら頸部の介達牽引と膝部の手技・装置を併用しての消炎鎮痛処置を受けるのみであったが、翌平成一〇年四月二八日まで、実通院日数二三四日、一か月平均一七日という頻度であった。

そしてこの日、症状が固定したものと診断された。主訴は、肩凝りや、左膝の長時間歩行時の痛みであった。レントゲン線上及びMRI上、著明な所見はなかった。頸部は、前屈が五〇度(正常六〇度)、後屈が二五度(五〇度)、左右屈三〇度(五〇度)、左右旋五〇度(七〇度)と運動制限があるが、膝は、左右とも運動範囲は正常であった。左膝内側の膝蓋大腿関節に圧痛が認められ、膝蓋骨軟骨痛と見られた。

二  損害

1  治療費

前記甲六の1ないし14、弁論の全趣旨によると、右谷口外科への通院による治療費は合計一二九万五三二八円に達し、谷口外科は被告三宮交通にこれを請求したが、支払いがないため、原告が請求されていることが認められる。

右通院状況や診断内容からして、谷口外科における治療は本件事故と因果関係があるものと認められる。

2  休業損害

甲三、四、八、原告本人によると、原告は事故の数年前から株式会社とみさとが経営するスナック「マドンナ」に店長として毎日午後七時ころから勤務し、主に客に対して軽食や酒を提供する接客に当たっていたもので、平成八年度の年収は四九六万〇八五〇円であったことが認められる。

原告は本件事故による負傷のため平成一〇年二月末まで一一か月間休業したと供述し、甲八にはその主張に副った記載がある。そして、乙三によると平成九年一一月現在においてはマドンナでは他の者が店長を勤めていたことが認められるから、少なくともこのころ原告が同店での勤務を休んでいたことは認めることができる。

しかし、前記認定のとおり、手の傷害は早い段階で治療を終えており、また通院も公共交通機関と徒歩でほぼ連日の通院が可能であったのであり、さらに勤務時間からして通院のために休業する要はないから、足部の手当てが行われていた平成九年六月末までは休業の必要があったとは認められるものの、それ以降は休業していたとしても、本件事故による負傷のためとは認めがたい。

したがって、休業損害は、平成八年度分の給与収入を基準として、一四四万六九一四円と認めるのが相当である。

4,960,850÷12×3.5(月)=1,446,914

3  通院交通費

甲一〇によれば、原告の自宅から谷口外科までの往復運賃は公共交通機関を利用して、九八〇円であることが認められ、原告が通院した実日数は前記のとおり二三四日であるから、通院交通費一六万〇二〇〇円の請求は理由がある。

4  慰謝料

原告は谷口外科で前記のとおりの後遺障害診断を受けたが、この程度の障害は自動車損害賠償保障法所定の後遺障害とは言いがたい。従って、前記したとおりの通院を要した事実を考慮すると、原告が本件事故により被った精神的苦痛に対する慰謝料は、一〇〇万円と認めるのが相当である。

5  時計修理費

検甲一ないし三、検証の結果、原告本人によると、原告は、本件事故の際に、五年前に購入したスイスのコルム社製の腕時計を着用していたが、事故の弾みで、留め具(金属製のベルト)が捩じれて腕に嵌められなくなったことが認められる。原告本人の供述中には、このほかに、フレーム部分の細いかすり傷が生じ、あるいは文字盤のガラスに傷が生じたかのごとき部分があるが、検証の結果に照らせば、前者は五年間の日常的な利用により生じ得る傷と思われ、後者はその傷の有無さえ判然としない程度のものであって、いずれも本件事故によって生じたものとは認めがたい。

そして、留め具の修理費は、調査嘱託の結果によると、五万六〇〇〇円程度であることが認められ、この限度で本件事故による損害と言える。原告本人は新たに購入する同程度の費用を要する旨供述し、甲九の1、2にはこれに副う記載があるが、右嘱託の結果に照らして信用できない。

6  損害填補

被告三宮交通が原告に対して休業損害金として五五万円を支払ったことは当事者間に争いがないから、以上の認容額三九五万八四四二円から控除すべきものである。

7  弁護士費用

原告が原告訴訟代理人弁護士に本件訴訟の提起、遂行を委任したことは当裁判所に明らかであるところ、本件訴訟の難易度、認容額、その他本件に現れた一切の事情に照らすと、被告に負担させるべき弁護士費用相当額の損害は四〇万円が相当である。

8  結論

以上のとおり、原告の損害は三八〇万八四四二円となる。

三  結論

よって、原告の本訴請求は、右三八〇万八四四二円及びこれに対する平成九年三月一五日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから、この限度で認容し、その余の請求は理由がないから、これを棄却することとし、民訴法六一条、六四条本文、二五九条一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 下司正明)

別紙

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