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神戸地方裁判所 平成元年(ワ)1338号 判決 1991年11月26日

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別紙当事者目録に記載のとおり

主文

一  第一ないし第三事件原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は右原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1(一)  第一事件被告は同事件原告らに対し、それぞれ別表二第一賃金表合計欄記載の金員及びこれに対する平成元年六月二六日から支払済まで年六分の割合による金員の支払をせよ。

(二)  第二事件被告は同事件原告らに対し、それぞれ別表二第二賃金表合計欄記載の金員及びこれに対する平成元年六月二九日から支払済まで年六分の割合による金員の支払をせよ。

(三)  第三事件被告は同事件原告らに対し、それぞれ別表二第三賃金表合計欄記載の金員及びこれに対する平成元年六月二六日から支払済まで年六分の割合による金員の支払をせよ。

2  訴訟費用は第一ないし第三事件被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1(一)  第一事件ないし第三事件被告は、いずれも一般乗用旅客自動車運送業を目的とするいわゆるタクシー会社であり、第一ないし第三事件原告らは、それぞれ被告らの従業員として、タクシー運転の業務に従事しているものである。

(二)  第一事件原告らは、第一事件被告(以下「被告阪神タクシー」という。)の従業員により組織された阪神タクシー労働組合(以下「阪神労組」という。)に、第二事件原告らは、同事件被告(以下「被告甲南交通」という。)の従業員により組織された甲南交通労働組合(以下「甲南労組」という。)に、また、第三事件原告らは、同事件被告(以下「被告明石タクシー」という。)の従業員により組織された明石タクシー労働組合(以下「明石労組」という。)に、それぞれ加入しているものである。

2(一)  阪神労組と被告阪神タクシーは、平成元年四月二四日、賃金の歩合給部分の算定について、「歩合給を月間水揚額が、三五万六七〇〇円(以下単に「基礎控除額」という。)を越える金額の四七パーセント(以下「歩合率」という。)とする。」旨の賃金協定(平成元年三月一六日より実施、以下「阪神賃金協定」という。)を締結した。

(二)  被告甲南交通の就業規則(平成元年五月一一日一部変更届が出され、同年四月一日から遡及的に実施されたもの、以下「甲南就業規則」という。)には、賃金の歩合給部分の算定について、「基礎控除三三万円以上の超過運収に対し四七パーセントを支給する。但し日勤者は基礎控除額四一万五〇〇〇円以上の超過運収に対し四五パーセントとする。深夜手当については、歩合給についても基準内賃金の七パーセントを加算して支給する。」と定められている。

(三)  被告明石タクシーと明石労組は、昭和六三年五月一九日、水揚歩合給並びに水揚歩合給を基準に算定される深夜手当及び割増賃金の支払につき、労働契約として「歩合給は月間水揚げ額三七万円以上の者に対し、その水揚げ額から三五万三〇〇〇円を控除した額の四六パーセントを支給する。」との協定を締結した(実施日昭和六三年五月二一日、以下「明石賃金協定」という。)。

3  ところが、平成元年四月一日から消費税施行に伴うタクシー運賃の改定(以下「本件運賃改定」という。)が実施されると、被告らは、右各労組の反対にもかかわらず、右同日以降同年六月末までの間については、原告らの歩合給の支給に当たっては、水揚額(阪神賃金協定では「水揚額」、甲南就業規則では「運収」、明石賃金協定では「水揚げ額」というが、いずれも同義であり、以下「水揚額」という。)より消費税相当分の金額(後記のとおりの本件運賃値上分)を控除した額を水揚額の代りにその算定の基礎として使用し、それに基づく歩合給のみの支払しかしない。

そのため、第一事件原告らは、被告阪神タクシーから、それぞれ別表一第一控除額表(略)記載の額に阪神賃金協定における歩合率及び所定労働時間を皆勤した場合の歩合給に対する「はね返り率(一・〇九一七)」を乗じて算出された別表二第一賃金表(略)記載の賃金の支払を受けていない。また第二事件原告らは、被告甲南交通から、それぞれ別表一第二控除額表記載の額に甲南就業規則における歩合率及び深夜手当に対する割増賃金率(一・〇七)を乗じて算出された別表二第二賃金表記載の賃金の、第三事件原告らは、被告明石タクシーから、それぞれ別表一第三控除額表記載の額に明石賃金協定における歩合率及び深夜手当、割増賃金に関する割増賃金率(一・〇七)を乗じて算出された別表二第三賃金表記載の賃金の、各支払を受けていない。

なお、被告阪神タクシーの賃金支払日は毎月二五日、被告甲南交通の賃金支払日は毎月二八日、被告明石タクシーの賃金支払日は毎月二五日である。

4  しかし、被告らの歩合給の算定方法は、それぞれ前記阪神賃金協定、甲南就業規則、明石賃金協定(以下、併せて「被告らの賃金規定」という。)に反するものである。

よって、原告らは、各自の賃金請求権に基づいて、第一事件原告らは被告阪神タクシーに対し、別表二第一賃金表合計欄記載の賃金及びこれに対する平成元年六月二六日から、第二事件原告らは被告甲南交通に対し、別表二第二賃金表合計欄記載の賃金及びこれに対する同年六月二九日から、第三事件原告らは被告明石タクシーに対し、別表二第三賃金表合計欄記載の賃金及びこれに対する同年六月二六日から、各支払済まで商事法定利率年六分の割合による各遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の(一)、(二)に記載の各事実は認める。

2  同2の(一)ないし(三)、同3記載の各事実は認める。但し、前記消費税導入に伴う本件運賃改定後においては、被告らの賃金規定中の月間水揚額は、本件運賃改定の性質からして、本件運賃改定後においては、水揚額から消費税相当分である本件運賃値上分を控除した額を指すものと解すべきである。

3  同4記載の主張は争う。

三  被告らの主張等

1  被告らは、平成元年二月七日、近畿運輸局長に対して、同年四月一日より消費税が導入されるに伴い、当時の運賃(昭和五九年五月二二日認可)に一〇三パーセントを乗じ、一〇円単位に四捨五入をした金額に変更したい旨の運賃料金変更認可申請をした。

同局長は、同年三月一七日、改定運賃の実施時期を同年四月一日として、右運賃料金の変更の申請を認可した(本件運賃改定)。

2  本件運賃改定は、消費税の導入に伴い、消費税の負担を円滑かつ適正に消費者たる乗客に転嫁するため消費税相当分の値上げを行ったものであり、営業収入の増加・経営改善のために行われた従前ないしその後の運賃改定とは、その性質が異なる。

本件運賃改定により改定された運賃(以下「本件改定運賃」という。)には、営業収入(以下、売上運賃そのものを「運賃収入」といい、値上げ額を控除した額を「営業収入」という。)の他に運賃値上げ額に当る消費税相当分が含まれている。そして消費税相当分は、国に納付するものであるから被告会社の経営に寄与しないため、労使間の配分の対象にはならない。そのため歩合給の算定の基礎となる水揚額に当然含まれるものではない。したがって、歩合給算定の基礎となる水揚額は、原則として営業収入と解すべきである。

3  運賃収入(メーター運賃)に含まれる消費税相当分は、自動車運送事業会計の処理上も、預り金勘定に計上される「預り金」として処理されている。

右の預り金という処理は、実体に則した処理であって、国会運輸委員会における政府答弁においても明らかなとおり、政府の指導によるものである。

4  現実に納税する消費税額(以下「納入消費税額」という。)と前記のとおり本件改定運賃のうちの値上げ分を預り金として計上した金額(以下「預り消費税額」という。)とは必ずしも一致はしない。即ち、現実の納入消費税額は、前記のとおりメーター運賃から消費税(乗客から実質上預った金額)を控除した右営業収入の課税対象期間の総額に、三パーセントを乗じて計算された金額である。これに対し、預り消費税額は、乗客(消費者)が現実に負担し、タクシー会社が預り金勘定に計上した金額の合計額であるが、メーター運賃に含まれる消費税は一〇円単位に四捨五入して計算されるために、両者は必ずしも一致しないこととなるのである。

そして、運賃メーター上、一〇円単位に切り捨てられる場合(四捨)が多ければ、乗客(消費者)からの預り消費税額は、国に納付すべき納入消費税額を下回ることとなるが、その差額は、タクシー会社が負担しなければならないため、右のことはむしろ被告らに、より大きな負担を負わせるものとなっている。

因みに、本件運賃改定によって認可された中型車の初乗運賃である四八〇円の内訳は、従前の認可運賃四七〇円と預り消費税分一〇円であるが、本来の納入消費税額は一四・一円であるから、四・一円が切り捨てられている。ところが、実際には一番利用頻度が多いのが、この初乗り運賃での利用であるのが各タクシー会社の実情であるため、預り消費税額は現実の納入消費税額に満たないのが実態であるからである。

5  被告明石タクシーは簡易課税制度を選択しているが、同制度は、消費税法において認められたものであって、仮に預り消費税額が納入消費税額を上回ったことによる剰余分が出たとしても、その分は乗客が国に納付するものとして支払ったものである以上、乗客サービスとして還元する原資とするのが当然であって、タクシー会社の労使のいずれかが取得すべきものではない。

6  したがって、本件運賃改定による運賃収入(消費税相当分を含むもの)を水揚額として、被告らの賃金規定による基礎控除額及び歩合率を歩合給算出の基礎とする原告らの請求は、国に納付すべき部分をも運転手が取得することになるもので到底その解釈上取り得ないものである。

四  原告の反論等

1  無条件に消費税相当分たる値上げ分を歩合給計算において控除すると、運賃値上げによって乗客数が減少した場合は、運転手にとっては賃下げとなり、本件運賃改定による収益減の危険を運転手のみに負担させることとなる。

2  本件改定運賃は、運賃そのものであって、運賃と消費税分とに区分できるものではない。そして、物やサービスの価格は、公租公課や人件費その他の様々なコストを含めての総合的なものであって、経営に寄与する収入とそうでないものとの区別はできない。

3  政府は、自動車運送業者の財務諸表作成に当たり、本件運賃改定による値上げ分を預り金として処理するように指導しているが、これはあくまでも会計処理上の問題であり、政府は、運転者の賃金計算の基礎となる所謂「水揚げ」は、労使間の協議により決定されるべきものとして指導している。

4  本件運賃改定による値上げ分と納入消費税額は一致せず、被告らに利益が残る。特に被告明石タクシーが選択している消費税法の簡易課税制度は、中小事業者の事務負担を軽減するために、仕入税額控除(二重の課税を防ぐため取引の前段階までに課された消費税額を課税標準額に対する消費税額から控除する仕組)の計算を、実際の仕入れにかかった課税額をもとに計算することなく、課税標準額に対する消費税額を基礎にして計算する特例である(消費税法三七条)。

この簡易課税制度を採用したタクシー業者は、運賃総額である運賃収入の八〇パーセントが仕入れと見做され、そのため運賃収入にかかる消費税額の八〇パーセントを仕入れにかかった消費税と見做してその額を売上にかかる消費税額から控除して納税すれば足りるのであるから、運賃収入に対する仕入れの割合がそれより下回る業者が同制度を採用した場合は、その差額分については仕入れ段階で課税されていないにもかかわらず右のとおり税額の控除がなされるため、その分がいわゆる「益税」として業者の収益として残ることになる。

大蔵省と国税庁の行った実態調査によると、サービス業の度合いが高まるほど益税が多くなることが認められ、タクシー業者はその性格上仕入れコストの売上に占める割合は多くないことから、益税が出る主な業種の二番目に挙げられている。このように、簡易課税制度を採用しているタクシー業者に、多くの益税が生じているのは明白であり、被告明石タクシーにも益税による収益が生じているものと思料される。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する(略)。

理由

一  請求原因1の(一)、(二)、同2の(一)ないし(三)、同3記載の各事実は当事者間に争いがない。

しかるところ、原告らは、被告らの賃金規定中の月間水揚額を運賃収入そのものと解釈すべきであると主張するのに対し、被告らは、本件運賃改定後はその運賃改定の趣旨から、それは運賃収入から本件運賃改定に伴う値上げ額分を控除した営業収入と解すべきであると主張するので、水揚額の解釈の相違が本件訴訟の争点である。

二  (証拠略)及び弁論の全趣旨によれば、本件運賃改定の経緯として、

1  被告らは、平成元年四月一日から消費税が導入されることになったので、消費者である乗客に消費税を転嫁する目的のために、同年二月七日付で近畿運輸局長に対し、それぞれ運賃料金変更認可申請をしたこと、これを受けて同局長は、同年三月一七日、その実施時期を同年四月一日として、機械的に従前運賃(昭和五九年五月二二日認可)に一〇三パーセントを乗じ、一〇円単位に四捨五入をした(タクシー運賃のこれまでの慣行から一〇円単位にするため)ものを新運賃として認可した(本件運賃改定は従前とは異なって運賃額を新たに設定する方法によらなかった)こと、そのため、本件運賃改定によって中型車の初乗運賃として認可された金額は、従前の運賃四七〇円と値上げ分一〇円の合計四八〇円となったが、従前の運賃額に一〇三パーセントを乗じた本来の納入消費税額は一四・一円であるから、初乗り運賃においては四・一円が切り捨てられることとなったこと、

2  本件運賃改定は、消費税の導入に伴い、消費税の負担を円滑かつ適正に消費者たる乗客に転嫁するため消費税相当分の値上げが行われた特別・臨時的なものであって、タクシー事業者の経営改善、運転手の賃金等の待遇改善を目的にして行われたものではなかったこと、そのことから、本件運賃改定に伴って取り付けられた新料金メーター器は、従前運賃分に該当する部分と消費税相当分とは分離して集計され、別個に管理できる機構が組み込まれたこと、そして、メーター運賃に含まれる消費税相当分は、政府の指導もあってその経済的実体に則して、自動車運送事業者の財務諸表の作成に当たっての会計上は、預り金勘定に計上される「預り金」として処理されることとされていること、

が認められる。

三  (証拠・人証略)並びに弁論の全趣旨によれば、

被告らとその各労組の間においては、これまでに運賃改定が行われたときは、運賃改定の前後で運転手の取得することになる歩合給の変動を避け、また運賃の増額改定の理由の一つであるタクシー運転者の賃金等の待遇改善を図るため、運賃値上げの影響が強く現れる改定後の三か月程度の期間を調整期間とし、その間の水揚額の動向を見たうえ、その後の労使交渉により新たな賃金規定として妥当な基礎控除額及び歩合率を取り決めることが行なわれてきたこと、

そして、右調整期間内においては、後で清算ないし遡及的に見直すことを条件に、取り敢えず基礎控除額及び歩合率は従前のままとして、運賃総額から増収分として一定割合を直接控除する方法で暫定的な当面の歩合給を定めて支給する方法と、その期間の暫定的な歩合率と基礎控除額(足切り額)を定めてこれを基準に歩合給を算定して支給する方法が取られることがあったこと、

ところが、本件運賃改定に当たっては、被告阪神タクシーは、予め阪神労組との間で経営協議会を開き、平成元年四月一日以降の消費税導入による新運賃実施に伴う賃金問題については、本件運賃改定による運賃の値上げ分は会社の経営に資するものではないことを理由に、賃金協定を従前のままとして、直接、水揚額から消費税相当分たる値上分を引いた額を歩合給算定の対象とする旨説明し、さらにその後の団体交渉においては、運賃額から値上分を控除することは、単に消費税相当分を税金分として控除するだけであり、労働条件の引き下げを行うものではないから、必ずしも労使協議決定の対象ではないと主張したこと、これに対して阪神労組は、値上率に見合って水揚額が増える保証はなく、また、本件改定運賃が、消費税相当分を含んでいるとしても、右消費税相当分も運賃(水揚げ)であって労使協議決定の対象であり、従来どおり、労使の交渉により調整措置を取るべきであると主張したこと、そのため賃金協定中の歩合給の算定の前提である「水揚額」の解釈についての対立は解消しなかったこと、

そして被告甲南交通及び被告明石タクシーにおいても、本件運賃改定に伴う歩合給の算定については、右同様の経緯及び理由から同一の争いが生じていたこと、

が認められる。

ところで、(証拠・人証略)によれば、タクシー会社とその労組との消費税導入に伴う運賃改定に対する賃金問題の対応は、阪神労組の上部団体である関西旅客自動車労働組合連合会の加盟する私鉄総連が、単位組合に対して、改定運賃の内の消費税分(値上げ分)は分離して処理することによりこれに対処するとの指示をしたことなどから、多くの労働組合は、賃金収入から消費税を除いたものを歩合給計算の対象となる「水揚額」として承認(明示若しくは黙示)し、その内には、会社との間でそれを確認するために協定を新たに締結した組合もあり、中には、右解釈ないし右協約を締結すると共に右と関連して多少の一時金の支払をするものとしたタクシー会社も存したことが認められる。

また、(人証略)及び弁論の全趣旨によれば、これまでは運賃が増額改定されたときは、それに対する反発等から一時的に乗客数が乗り控えによって減少することが通常一般であったが、本件運賃改定の場合においては、その値上げの比率が前記のとおりこれまでの値上げに比して僅かであったこと、及びその原因が消費税施行による一般的価格改定の一つとして行われたことから、従前とは異なってその乗客数も殆ど変動はなかったことが認められる。

四  以上の認定の各事実及び(証拠略)及び弁論の全趣旨によれば、従前運賃を前提として締結されていた歩合給部分が大きな比重を占めるのが通常である賃金協定等は、運賃の増額改定がなされたときにはその前提となっていた水揚額に値上げ率とは異なる変動(増収)が生ずるため、その合理性を失うことになることから、タクシー会社の労使間においては、これまで運賃の増額改定時毎には、改定運賃による水揚額が安定した後に、それを前提として値上げによる増収分をどの様な割合をもって運転手の賃金等の待遇改善に当て、また如何ほどを会社の経営改善費用として当てるか等を勘案し、運賃改定時に遡って同賃金協定等の改正がなされるという措置が採られてきたものであり、これは被告らとその労組との間においても同様であったことが認められる。

したがって、本件運賃改定においても運賃の値上げが行なわれ、タクシー会社の水揚額が増加するのであるから、形式的には、労使間においては従前と同様の措置が採られる筋合であるが、前認定にかかる本件運賃改定の目的及びその認可の経緯によれば、本件運賃改定における運賃値上げによる水揚額の増加分は、経済上、実質的にはタクシー会社が国に納付すべき消費税に該当する乗客から預った金員(但し、右金員は、タクシー会社の納税額とは一致せず、法的観点からは、運賃の一部であって預り金ではないし、また、右消費税の納税義務者はタクシー会社であることは疑いがない。)であって、形式的には右運賃値上げによって水揚額の増加がもたらされても、それは実質的には従前の意義における水揚額の増加とは言い得ないことは明らかである。また、その場合における従前の水揚額に実質上該当するものは、運賃収入ではなく営業収入であることも疑いがない。

そして、右のとおりの本件運賃改定の趣旨からすると、右水揚額の増加分は消費税の原資に当てられるべきもので、これを労使で分配すべき性質のものでないことも明らかである。

また、(証拠・人証略)並びに弁論の全趣旨によれば、消費税導入による運賃値上げ日である平成元年四月一日の前後を通じて基礎控除額及び歩合率は変更されていないこと、並びに前認定のとおり本件運賃改定においては、結果的ではあっても原告らタクシー運転手の賃金収入には殆ど影響をもたらなさかったものと認められるのであるから、被告らの前記取扱が、原告らの賃金引き下げ、労働条件の切下げであるとの原告らの主張も採用できない。

以上のとおり、タクシー事業にあっては、通常の運賃の増額改定は、タクシー事業者の経営改善と従業員の待遇改善を目的とするものであるから運賃の増額改定がされた場合には、従前の賃金協定等は合理性を失うものとして改定時点から賃金協定等を新しく定めて、運賃増額分を労使間で配分する慣行が成立しているところ、消費税の導入に伴う本件運賃増額改定は、タクシー業者が消費税を納入するための原資を得るためにされた特別なものであって、その値上げ分は労使間で配分すべき性質のものではないから、右のような賃金協定等を合理的に解釈する限り、本件運賃改定による値上げ分は消費税相当分として、歩合給算定の基礎である水揚額から除外するのが相当である。

五  原告らは、被告らには消費税導入に伴っていわゆる益税が生じており、特に被告明石タクシーは消費税法上の簡易課税制度を選択していて、加えてそれによる税法上の利益を得ているのであるから、それらの利益は原告らにも還元されるべきであり、この点からも原告らの主張は認容されるべきである旨主張する。

ところで、納入消費税額は、前記のとおりメーター運賃から消費税分として乗客から実質上預った金額を控除した営業収入の課税対象期間の総額に、三パーセントを乗じて計算された金額であるのに対し、前記のとおり預り消費税額は、乗客(消費者)が現実に負担し、会社が預り金勘定に計上した金額の合計額であることから、メーター運賃に含まれる消費税相当分は一〇円単位に四捨五入して計算されるために、両者は原則として一致しないことは明らかである。

また、被告明石タクシーが簡易課税制度を採用していることは当事者間に争がなく、右簡易課税制度における納入消費税額は、運賃収入の八〇パーセントが仕入れ費用と見做されることから、運賃収入にかかる消費税の八〇パーセントを仕入れにかかった消費税額と見做してその額を運賃収入にかかる消費税額から控除して納税するものであることは税法上明らかであり、そのため右納入消費税額は会社が預り金勘定に計上している値上げ分の合計額とは原則として一致しないこととなる。

しかし、被告らには、本件消費税導入に伴ってその営業上どの程度の投資が必要とされ、また会計処理上ないしその納税手続によってどの様な負担ないしその費用の増加が必要であったのか、これに対して被告らが具体的にどの様な利益を享受しているのかは、本件記録上これを具体的に認めるに足る証拠はない。したがって、被告らに実質上、消費税導入による経済的利益が生じていることを認めることはできず、原告らの右主張も採用できない。

却って、前記のとおりメーター運賃は従前の運賃額にその三パーセントの消費税相当額分を加算しそれを一〇円単位に四捨五入したものとなるのであるから、切り捨てられる場合が多ければ、右預り消費税額は、納入消費税額を下回ることとなるところ、本件運賃改定によって認可された中型車の距離制運賃における初乗運賃では、一乗車毎に金四・一円ずつの右切捨てが行なわれるところ、(人証略)及び弁論の全趣旨によれば、タクシーの利用の実際では、この初乗り運賃での利用が一番頻度が高いことが認められる。したがって、預り消費税額は現実の納入消費税額に満たないのが各タクシー会社の実態ではないかとも推測されるものである。

また、(証拠略)及び消費税制度自体の趣旨によれば、消費税法における簡易課税制度は、従前の製品ないしサービス価格を本来最終の消費者が負担すべき消費税分を含むものに完全に転嫁することが事実上ないし社会経済的観点から困難なことが見込まれる中小企業者の救済を図り、またその税額の計算等の会計処理上の負担等の軽減のために政策上導入された制度であるから、簡易課税業者であるタクシー会社における納入消費税額がその預り金勘定に計上される値上げ分の合計額が一致しないことは、右制度上予定されたもので立法政策上の当否は別として、何ら異とするものではない。

なお、タクシー事業においては、通常、運賃の増額改定があった場合には、従前の賃金協定等は合理性を失うものとして、運賃改定時点以後の賃金協定等を新しく定める慣行があり、原告ら及び被告らもこれに従ってきたことは前記認定のとおりであるところ、原告ら主張のとおり本件運賃改定を右の通常の運賃改定として処理するものとすれば、増収分を配分するための新たな賃金協定等を定め(ただし、この場合は原則として従業員にとって従前より不利益な定めとなることがない。)、それによる賃金請求をするのが筋合であり、増収分を含む水揚げ額を基礎にして従前の賃金協定の基礎控除額、歩合率によって歩合給を請求できるものと解するのは合理的でない。

六  以上によれば、本件運賃改定後における被告らの賃金規定の客観的解釈としては、被告ら主張のごとく解釈するのが相当であると判断される。

従って、原告らの被告らに対する本件各請求は、いずれも理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法八九条、九三条に従って、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 長谷喜仁 裁判官 廣田民生 裁判官 野村明弘)

<別紙> 当事者目録

第一事件原告 西村弘道

同 川墨隆男

同 山口哲郎

同 黒田豁

同 角田秋男

同 岩本敏信

同 山本治道

第二事件原告 田中忠

同 高島実

同 小河勝義

同 赤田義晴

同 国馬幸文

同 松岡光男

同 平石徳光

第三事件原告 村岡土旨男

同 高宮宣夫

同 国田春雄

同 岩佐孝雄

同 島田康弘

右第一ないし第三事件原告ら訴訟代理人弁護士 足立昌昭

同 佐伯雄三

同 羽柴修

同 本上博丈

同 田中秀雄

同 筧宗憲

同 松山秀樹

第一事件被告 阪神タクシー株式会社

右代表者代表取締役 石田光男

第二事件被告 甲南交通株式会社

右代表者代表取締役 谷水茂

第三事件被告 明石タクシー株式会社

右代表者代表取締役 谷正富

右第一ないし第三事件被告ら右訴訟代理人弁護士 竹林節治

同 畑守人

同 中川克己

同 福島正

同 松下守男

右第三事件被告右訴訟代理人弁護士 池田隆行

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