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盛岡家庭裁判所 昭和63年(少)1554号 決定 1989年11月14日

少年 R・T(昭49.6.10生)

主文

この事件については、少年を保護処分に付さない。

理由

一  本件送致事実の要旨は、

「少年は、昭和63年8月7日午後3時40分ころ、岩手県九戸郡○○町××番地××、A方北側勝手口から同家屋内に侵入し、同所において、同人管理にかかるファミリーコンピューター等2点(時価3万円相当)を窃取したものである。」というものである。

二  よって、審理したところ、昭和63年8月7日午後2時30分ころから4時30分ころまでのA方の家人が留守の間に、Aの管理にかかるファミリーコンピューター(正式名称PCエンジン)と「カトちゃんケンちゃん」のカードが盗まれたこと、同人の妻・B子が家を調べると、台所北側の窓の鍵が開いて、流しのステンレスの、洗い場よりも一段高い窓際近くのところに外を向いた足跡が1つと手の跡が2つ付いていたのを発見したこと、少年は、本件当日の午後1時20分ころから午後4時40分ころまでの間、同級生のCと共に、少年の部屋で、ファミリーコンピューターで遊んでいたこと、午後3時20分ころ、少年の母がお祭りに出て行ってからしばらくして、少年は、Cに対し、「ちょっと待っていろ。」と言って部屋を出て行ったが、その後、15分位して、少年が、PCエンジンと「カトちゃんケンちゃん」のカードを持って部屋に入って来たので、二人でこれで遊んだことが認められる。

三  次に、本件捜査の経過は、次のとおりである。

1  昭和63年8月9日午後1時ころ、B子が、○○警察署○○警察官駐在所(以下「駐在所」という。)の司法巡査○○に対し、電話し、被害を届け出た(B子作成の被害届)。○○巡査は、○○警察署の巡査部長○×及び巡査×○と共に被害者宅に臨場し、B子から事情を聴取する(B子の司法巡査×○に対する供述調書)と共に、現場の実況見分を行った(司法巡査×○作成の実況見分調書)。なお、実況見分調書に立会人として記載されているAは、当日ころは、出稼ぎのため家にはいなかった(B子の証言)。

2  鑑識担当の○×巡査部長は、流し台洗い場横のステンレス上から、不鮮明な素足こんを2個発見し、うちやや鮮明な1個につき採取した(司法警察員○×作成の現場足跡採取報告書)。

3  同様に、台所高窓の網戸等から、現場遺留指紋を採取した(司法警察員○×作成の現場指紋等採取報告書)。

4  他方、B子の供述から、当日現場付近にいたものとして、少年とその同級生のCが浮かんだので(○○巡査の証言)、付近を聞き込みする一方、Cから、「ファミコンをしている時に、少年がどこかに行き、しばらくしてPCエンジンと『カトちゃんケンちゃん』のカードを持ってきたので、一緒に遊んだ。」という情報を得た。そこで、×○巡査らは、少年を警察使用の白い自動車にのせ、駐在所に任意同行して、事情聴取するが、少年は、本件犯行を否認した(なお、この時、少年の母も自宅にいたにもかかわらず、警察官は、取調べの立会いを求めなかった。)。聴取後、自動車で少年を家まで送った。

5  翌10日、○○巡査らが、少年宅に赴き、少年を再度事情聴取するが、少年は、否認した。同じく少年宅において、Cからも事情聴取した。同日午後3時30分ころ、○×巡査部長が、少年宅において、少年から、左足紋と指紋を採取した。

その後、Cを駐在所に同行し、「Cの司法巡査○○に対する供述調書」が作成された。

6  同月12日、「鑑識課××作成の鑑定書」が提出され、足紋が、一致する旨の結果が得られ、同月18日、「鑑識課○△作成の遺留指紋等符合確認報告書」が提出され、指紋が一致する旨の結果が得られた。

7  9月7日午前中から夕刻にかけて、○○警察署において少年の取調べが行われ、「少年の司法巡査×○に対する供述調書」が作成された。

その内容は、「午後3時40分ころ、一人でA家の勝手口から中に入り、2階の部屋で、カトちゃんケンちゃんのカードとPCエンジンをとり、1階に下りたとにろ、車のエンジンの音がしたので、あわてて台所の流しの網戸から外へ出た。」という自白であった。

少年作成のPCエンジン及びカードの「任意提出書」が作成された。なお、母は、PCエンジンの指紋を採ってくれと頼むが、警察官は取り合わなかった。

8  10月28日「B子の司法巡査×○に対する供述調書」が作成される。その内容は、勝手日の戸締りについて、「刑事さんから、犯人は、近所のR・Tで勝手口から入り、台所窓から出たと聞いて、勝手口は、鍵など壊された跡がなかったので勝手口の鍵は掛け忘れたものだと思います。」というものであった。

このとき、B子にPCエンジンとカードが還付された(「還付請書」・「被害品確認書」)。

9  12月14日検察官から追捜査の依頼があり、駐在所において、「少年の司法巡査×○に対する供述調書」が作成されたが、その内容は、「被害者宅には、少学生のとき以来、行ったことがない。ファミコンが被害者宅にあることは、Aから聞いて知っていた。入ったのは、前の取調べでも話したように、勝手口からだ。」というものであった。なお、この際の立会人は、少年の母ではなく、担任教師○○であった。

四  ところで、少年は、当裁判所の審判において、非行事実を否認したが、その述べるところは大要「自分は、被害者の家に侵入したこともなく、PCエンジンやカードを盗んだこともない。8月7日の午後に、C君とPCエンジンで『カトちゃんケンちゃん』のゲームをしていたのは本当だが、これは以前自分で買ったものである。『カトちゃんケンちゃん』のカードを持ってくる前に部屋の外へ出たのは、台所で食事をしていたのである。8月9日は、○○の駐在所に呼び出された帰り、A家に警察の車で連れていかれ、台所の窓の網戸を開けて、中に入らされたり、また外に出さされたりしたことがある。」というものであり、なぜ、上記のような自白をしたのかについては、「9月7日に警察に呼ばれた時、指紋や足紋の鑑定書を見せられ、『おまえがやったことはわかっている。言わなければ何日でも呼んで調べてやる。』と言われたので、どうしようもなくて自白した。」と供述する。

五  そこで、少年の弁解を検討するに、少年は、昭和62年12月7日、岩手県久慈市○○××所在の「バラエテイーショップ・○○」から、1台目のPCエンジン(製造番号×××)を購入(付添人提出の証第二号証・保証書)するが、その後、同PCエンジンは、C・その兄○○を経て○○の手に移ったこと、少年は、昭和63年6月5日、2台目のPCエンジン(製造番号不明)を、「カトちゃんケンちゃん」のカードと共に、上記バラエテイーショップ○○(D店長)から購入したこと(証第一号証・D店長作成の同日付領収書)、その際、D店長は、少年が前と同じ物を買うというので、理由を聴いたところ、「1台目はこわれてしまった。」ような話をしていたこと(○○調査官のD店長に対する平成元年3月6日付電話聴取書)を認めることができ、PCエンジンの入手先についての少年の弁解は、一応否定できないところである。

六  そこで、少年と本件非行とを結びつける証拠について検討する。

1  当裁判所の証人尋問及び現場検証の結果によれば、B子が被害当日に発見した足跡が台所の窓際のステンレス上であるのに対し、○×巡査部長が足跡を採取したという位置は、それより一段低い水道洗い場横のステンレス上であり、50センチメートル以上の違いがあるほか、場所の性質からみて、足跡の第一発見者であり、かつ、その家の主婦として、発見後も台所を使用してきたB子が、足跡が残された場所を記憶違いすることは考えにくいこと、A家では、被害を発見した際、「誰かが借りるつもりで持っていったのなら、後で持って来るのではないか。夜でもこっそり持って来て、置いてくれればいいな。」という気持ちから、警察に被害を届ける意思がなかったことから、現場を保存しようという意図もなく、被害当日から、採取の日までの2日間、右水道洗い場横は、炊事のため、通常どおり使用されていたのであって、その間、足跡がそのままになっているとは考え難いこと、実況見分調書には、足跡が現場に残されていた事実は記載されていないこと、通常であれば撮影されるべき足跡の写真がとられていないこと及び8月9日に捜査のため少年を連れ出した際、母も自宅にいたにもかかわらず同行を求めていないことなど本件捜査には種々の問題点が認められること等の事実に照らし、○×巡査部長が採取したという足跡が、被害当日に現場に遺留されていたものであるとは必ずしも断定できない。

2  更に、指紋について検討するに、本件指紋は、被害者宅台所高窓の網戸のうち、家の中から見て右から2番目の網戸の枠の外側部分に付着していたものであって、右高窓が、公道に面し、空き地を隔てて公道から数メートルしか離れていない点、少年宅から被害者宅まで約150メートルしかない点を考慮すると、本件指紋がただちに本件犯行に結び付く証拠となるものとは言い難い。

3  少年の自白調書について検討するに、少年は、当初から犯行を否認していたところ、昭和63年9月7日にいたって、取調べに当たった×○巡査から、足跡と指紋がいずれも一致した旨の鑑定書を見せられ、当日の午後の取調べになってはじめて自分が盗った旨述べだしたものであるが、その内容は、「勝手口から侵入したが、出るときは、車のエンジンの音がしたので、だれか帰ってきたと思いびっくりして、台所の流しのところの網戸から飛び下りて、網戸を閉めて家に逃げ帰った。」というものであるところ、右網戸のある高窓は、上記のとおり、公道に面し、車を駐車すべき空地の前にあるのであるから、わざわざ家人に発見される危険を犯してまで脱出に困難な右高窓から抜け出すべき必然性に乏しく、その供述は、不自然なものであり、かつ、被害者らの「出る時には、勝手口の鍵はかけたはずだ。」という供述とも矛盾する。したがって、その信用性を完全には認め難い。

4  他方、少年に有利な事情について検討するに、前記のとおり、少年は、本件被害日時より2か月前に、「カトちゃんケンちゃん」のカードとPCエンジンとを購入しており、本件非行を犯す動機に欠けること、普段さしたるつきあいもなく、どのようなファミコンゲームを持っているかもわからない被害者宅をねらう必然性に乏しいこと等の事実が認められる。

以上のような事実に照らすと、少年には本件を犯したと断定するには、種々合理的な疑いを払拭できないところであり、結局本件においては、少年について非行事実を確認するに十分な証拠がないという外ない。

よって、少年法23条2項により少年を保護処分に付さないこととし、主文のとおり決定する。

(裁判官 山口均)

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