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盛岡地方裁判所一関支部 昭和40年(ワ)7号 判決 1965年7月14日

原告 村上正平

右訴訟代理人弁護士 吉田政之助

被告 金野富五郎

右訴訟代理人弁護士 浅野幸一

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一双方の申立

一、原告の申立

1、原、被告間の大船渡簡易裁判所昭和三八年(ノ)第四一号土地所有権確認調停事件について昭和三八年一一月一一日になされた別紙記載の調停が無効であることを確認する。

2、被告は原告に対し金一五〇、〇〇〇円及びこれに対する昭和四〇年二月一六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

3、訴訟費用は被告の負担とする。

との判決を求める。

二、被告の申立

主文同旨の判決を求める。

第二、双方の主張

一、原告の請求原因

1、原、被告間の大船渡簡易裁判所昭和三八年(ノ)第四一号土地所有権確認調停事件につき昭和三八年一一月一一日別紙調停条項記載のとおり調停(以下本件調停という。)が成立した。

2、ところが、本件調停はつぎの理由によって無効である。

すなわち本件調停条項第一項は土地の地番の境界線を形成、創設したものである。

しかし、土地に地番を付することは登記所が行い、土地に移動があったときには地番は登記所の調査により登記所がこれを定める。

したがって、地番は当事者の申請だけでは定まらず、また当事者の合意のみによっては定まらない。そのことから地番に影響を与える地番の境界は私人によって定めることはできないもので、調停和解に適さないものといわなければならない。

境界について争いがある場合には当事者の主張に関係なく裁判所は境界を形成創設する形成判決をなすものとされていて、これは非訟事件の性質を有するものと考えられる。

ところで、非訟事件における形成裁判を求める申立は、当事者が相手方に対して有する実体法上の権利の存否の確定または実現を求めるのではなくて、裁判の形式による実体法上の新たな規律をなすべきことを国家に対して要求する申立である。

したがって境界形成事件においては裁判所がこれを定めるということが必要であって、これを当事者の合意にのみ委ねるということはできない。すなわち境界確定事件は和解の対象とならないとされている所以である。

かかる性質を有する境界形成申立非訟事件においては、当事者が裁判所の面前で和解をしたとしても当事者にその処分権はないから裁判上も裁判外も効力を生じないというべきである。

かりに境界確定ということにつき当事者が処分権を有するとしても境界形成事件は非訟事件であり、非訟事件手続法に特に規定がないから裁判上の和解は許されない。

要するに、土地の境界は公法上のものであって、関係当事者の合意で左右することのできない性質のものであって、当事者が合意でこれを定めても効力を発生しないものである。

ところで、本件調停条項第二項以下は、右の第一項を前提としてなされたとりきめである。

したがって、右第一項が無効である以上他の条項もすべて無効であるといわなければならない。

3、しかるに被告は昭和四〇年一月中本件調停条項第三項に基き、原告所有の動産に対し強制執行し、その動産の競売期日が指定されたので、原告はやむなく昭和四〇年一月二八日右差押えられた動産の解放を受けるため動産にかえて現金一五〇、〇〇〇円を執行吏に提供して差押えを解いて貰った。そして執行吏は即時右一五〇、〇〇〇円を被告に交付した。しかし被告はこれを受領する法律上の原因がないのであるから、被告はこれを原告に返還する義務がある。

4、よって、原告は被告に対し本件調停が無効であることの確認と、右金一五〇、〇〇〇円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和四〇年二月一六日から支払ずみまで民事法定利率の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二、被告の答弁

請求原因1の事実は認める。

同2の主張は争う。本件調停条項第一項は原告所有の大船渡市猪川町字今出二〇番の山林と被告所有の同字二一番の一の山林との範囲がどこまでであるかを定めたものであって、かかる調停、和解は有効である。

同3のうち被告が原告に対しその主張の頃本件調停条項第三項に基き原告所有の動産に対し強制執行し、その主張の頃原告がその主張の金員を執行吏に提供し、被告が執行吏からその主張の金員の交付を受けた事実は認めるが、その余の事実は否認する。

第三、証拠関係≪省略≫

理由

一、原、被告間の大船渡簡易裁判所昭和三八年(ノ)第四一号土地所有権確認調停事件につき昭和三八年一一月一一日別紙調停条項記載のとおりの調停が成立したことは当事者間に争いがない。

二、原告は、右調停は無効であると主張するのでこの点について判断する。

土地の地番と地番との境界は公法上のものであって関係当事者の合意で左右することのできない性質のものであり、当事者の任意の処分が許されないものであるから、当事者の任意の処分ができることを前提とする和解または調停ができないことはいうまでもなく、したがってかかる調停をしてもそれが無効であることは原告主張のとおりである。

しかしながら、≪証拠省略≫によれば本件調停は、原告が自己所有土地内に被告が立入ってその立木を伐採し、同土地が被告所有の土地であると主張しているとして、その土地が原告の所有に属する旨の確認を求める調停事件において成立したものであるところ、同条項第一項は原告が大般渡市猪川町字今出二〇番の山林を所有し、被告が同字二一番の一の山林を所有し、その各山林が隣接していることは争いがないが、その接触する部分がいずれの所有権の範囲に属するのかについて争いがあるため、その双互の所有権の範囲の一側面を確認したものであり、かつ同条項の第二項により被告の所有地に属するものとされた部分の一部分の所有権を原告に移転することを約したものであることが認められ、この事実を覆えすに足りる証拠はない。そして右第一項が単に境界を定めた趣旨であるとすれば、かえって他の条項特に第二項を合理的に解釈することが困難となるであろう。

しかして、当事者間に争いのある場合に双互の土地所有権の限界について当事者が合意することは何ら差支えなくこれは当事者の処分の許される事項であると考えられるから、この点においては本件調停条項第一項が無効であると解すべきではない。

そうすると、他に本件調停条項を無効とする理由につき主張、立証がない以上本件調停条項中他の条項についてもこれを無効と解することはできない。

三、つぎに、被告が昭和四〇年一月中本件調停条項第三項に基き、原告所有の動産に対し強制執行し、原告が昭和四〇年一月二八日現金一五〇、〇〇〇円を執行吏に提供し、執行吏が右金員を被告に交付した事実は当事者間に争いがない。

そして、原告は、本件調停が無効であることを理由に被告が右金員を受領する法律上の原因がない旨主張するが、前記判断のとおり本件調停が無効であるとはいえないのであるから、被告は本件調停条項第三項に基き原告から金一五〇、〇〇〇円を受領する権限のあること明らかであって、この権限に基いて右金員を受領したものといいうるから原告のこの点の主張も理由がない。

四、以上の判示によれば原告の本訴請求はいずれもその理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条の規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 小倉顕)

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