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盛岡地方裁判所 昭和60年(ワ)387号 判決 1990年3月15日

当事者

別紙当事者目録記載のとおり

主文

一  別紙認容額一覧表・被告欄記載の被告らは、各自、当該被告欄に対応する同表・原告欄記載の原告に対し、これに対応する同表・認容金額欄記載の各金員及びこれに対する当該被告に対応する別紙被告一覧表・起算日欄記載の日から各支払済みまでいずれも年五分の割合による各金員を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを五分し、その一を原告らの負担とし、その余を被告らの連帯負担とする。

四  この判決は、一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、各自、別紙不法行為一覧表(疎明=略)・原告欄記載の原告に対して、これに対応する同表・請求金額欄記載の金員及びこれに対する当該被告に対応する別紙被告一覧表(疎明=略)・起算日欄記載の日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は、被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

(被告熊谷浩、被告井上道雄、被告東忠男、被告高屋敷久人、被告千田稔、被告熊谷しのぶ、被告藤田謙治、被告鈴木昇、被告山崎昇、被告佐藤保三)

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は、原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1(一)  豊田商事株式会社(以下「豊田商事」という。)は、昭和五六年四月二二日、亡永野一男を代表取締役として、資本金一〇〇〇万円で設立された株式会社である。

(二)  豊田商事は、昭和六〇年七月一日午後一時、大阪地方裁判所で破産宣告を受けた。

(三)  被告らは、いずれも豊田商事のもと従業員であり、別紙被告一覧表・就職日欄記載の日から、同表・退職日欄記載の日までの間、豊田商事盛岡営業所において勤務していたものである。

2(一)  豊田商事は、設立後間もなくから、イ まず、豊田商事のパート女子社員が電話帳等により無差別に電話して金地金への投資を勧誘し、多少とも見込みある反応が得られた客を営業社員に連絡する、ロ 連絡を受けた営業社員は、早速その客を訪問し、金地金への投資の有利なことを説いてその購入を勧める、ハ 客が金地金購入に乗り気になると、営業社員は、さらに「もっと良い話がある。」として「純金ファミリー契約」への加入を勧めるという方法により、多数の者から巨額の資金を集めてきた。

(二)  ここにいう「純金ファミリー契約」とは、客が右のように購入する金地金を豊田商事に預け(契約書上はこれを「賃貸借」と称していた。)、豊田商事は一年又は五年後に、同種・同量の金もしくは満期時の金地金取引価格相当の金員を客に返還するとともに、その間の賃借料として、購入価格の一〇パーセント(一年契約の場合)又は一五パーセント(五年契約の場合)相当の金員を支払うというものである。

3(一)  被告ら又は豊田商事盛岡営業所のその他の従業員は、原告らに、別紙不法行為一覧表・被害日欄記載の日に、同表・被害金額欄記載の各金員を交付させた。なお、同被害金額欄記載の金額は、被害と同一の日に被告らその他の者から交付を受けた金員がある場合には、それを差し引いた残額である。同表・控除額欄記載の金額は、被害とは別個の日に被告その他の者から交付を受けた場合の金員の額で、請求債権額の算定にあたっては、これを控除して計算した。また、鈴木サダは昭和五九年二月二日井上道雄に六〇万五〇一〇円を、高林斉は昭和六〇年四月六日二二三万三〇〇〇円をそれぞれ交付させられたが、同日交付額を上回わる八四万円、五四九万円の交付を受けたので、右の分は同表には記載せず、かつ、交付額を上回わった金額を同表・控除額欄に記載した。

(二)  右被告らの行為は不法行為である。すなわち

(1) 被告らは、豊田商事盛岡営業所の他の従業員と共謀の上、原告ら一般市民が金地金は安全確実な資産保有手段であると思い込んでいる一方、その取引方法について、未経験、無知であることに乗じて、原告らに金地金売買契約及び「純金ファミリー契約」を締結させて金地金売買代金名下に金員を騙取することを企て、事実は右契約の履行期において豊田商事が契約どおり金地金又は約定金を返還する意思も能力もないのにこれあるように装い、別紙不法行為一覧表・被害日欄記載の日に、各原告の自宅又は豊田商事盛岡営業所で、同表・不法行為者欄記載の者において、同表記載の原告に対し、「税金がかからず、銀行預金よりも安全確実だ。」、「金は会社で預かって運用しているから心配はいらない。」、「賃料や元金の返済は絶対間違いない。」、「通産省の認可を受けており、国が保証する。」等と虚偽の事実を申し向け、各原告をして「純金ファリミー契約」によって確実に利益が上がり、かつ途中解約によって違約金なしに利殖を図ることができ、返還時期には契約どおり金地金もしくはその時価相当の金員の返還を確実に受けられるものと誤信させ、よって、そのころ同表記載の原告から同表・被害金額欄記載の各金員の交付を受けてこれを騙取したものである。

(2) 原告藤原茂吉が購入させられたのは、ゴルフ会員証券であるが、これも実質はファミリー証券と同様、換金性がなく、紙片同様のものであったのに、銀行利息より有利な利息がつくと虚偽の事実を申し向け、そのように誤信させ、同原告から同表・被害金額欄記載の各金員を騙取したものである。

(3) また、被告らは、前記のとおり豊田商事のパート女子社員による無差別な電話勧誘によって少しでも反応のあった客に対して、営業社員である同表・不法行為者欄記載の各不法行為者が、原告らの自宅を訪問し、原告らが契約締結を固辞するにもかかわらず、長時間粘り続けて本格的に勧誘を行い、原告らが正常な判断ができないようにさせて、強引に「純金ファミリー契約」を締結させたものである。

のみならず、被告らは、意識的に、年金生活者や一人暮しの老人を勧誘対象とし、老後の生活資金とか自己の葬儀費用といった、原告らにとって今後生活していくうえで不可欠の資金を、郵便局や銀行の預貯金を無理矢理解約させて根こそぎ奪い取ったものである。

(4) さらに、被告らが、右別紙不法行為一覧表・被害金額欄記載のとおりの金員の交付をさせたことは、原告ら不特定多数の者から、業として、金地金売買代金名下に金銭の受け入れをしたことに外ならず、これらの所為は「出資の受け入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律」二条一項、八条、九条一項に違反する。

4  被告らは、右3の行為の違法性を認識し、若しくは容易に認識しえたにもかかわらず、過失によってこれを認識せず、原告らをして「純金ファミリー契約」を締結させ、別紙不法行為一覧表・被害金額欄記載の各金員を交付させたものであるが、被告らは、前記2記載の如きパターン化された会社ぐるみの商法を認識しつつ、共同の意思のもとに緊密な一体性をもって、その商法の一部を分担したものであるから、右3の行為により原告らが受けた損害につき共同不法行為責任を負う。

5  佐藤武は、昭和五九年一一月一六日死亡し、妻である、原告佐藤タマがその法定相続分(三分の二)を相続した。

6  よって、原告らは、いずれも不法行為に基づく損害賠償の内金として、被告らに対し、別紙不法行為一覧表・請求金額欄記載の各金員及びこれに対する不法行為の後である別紙被告一覧表・起算日欄記載の日(訴状送達の翌日)から各支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める。

二  請求原因に対する認否

別紙認否表記載のとおり

第三証拠(略)

理由

第一被告川村法子、同南野久及び同川村光正に対する請求について

右被告らは、請求原因を明らかに争わないので認めたものとみなされる。

第二被告川村法子、同南野久及び同川村光正を除く被告ら(以下、この項において「被告ら」という。)に対する請求について(なお、書証については全て弁論の全趣旨によりその成立を認め、その旨の記載を以下省略する。)

一  請求原因1

1  (一)及び(二)について

原告らと被告熊谷浩との間では、右各事実は争いがなく、被告鈴木昇は請求原因1(二)の事実を明らかに争わないので自白したものとみなされる。右事実に(証拠略)を総合すれば、被告熊谷浩を除く被告らとの間においても(被告鈴木昇については、同(一)の事実についてのみ)、その事実が認められる。

2  (三)について

当該被告が、豊田商事の従業員であったことは、原告らと当該被告との間では、いずれも争いがない。

被告らの在職時期については、原告らと被告千田稔との間では、同被告が昭和五八年六月一日から同年九月三〇日までの間在職したことは争いがなく、被告千田稔を除く被告らはいずれもその在職期間について、これを明らかに争わないので認めたものとみなされ、被告千田稔が自白した以外の期間において同被告が在職したことを証する証拠は存しない。

二  請求原因2について

1  (一)について

原告らと被告井上道雄、同高屋敷久人、同千田稔との間では、(一)の事実は争いがない。右事実に、甲第五一号証(略)を総合すれば、その余の被告らとの間においても、その事実が認められる。

2  (二)について

原告らと被告熊谷浩、同井上道雄、同東忠男、同千田稔、同鈴木昇との間では(二)の事実は全部争いがなく、原告らと被告高屋敷久人との間では、その計算方法を除き争いがない。右事実に(証拠略)を総合すれば、その余の被告ら及び被告高屋敷久人(計算方法につき)との間においても、その事実が認められる。

三  請求原因3(一)について

(証拠略)を総合すれば、(一)の事実を認めることができ、この認定に反する証拠は存しない。

四  請求原因3(二)及び4について

請求原因3(二)(1)の事実は、共謀の点を除き、原告らと被告熊谷浩との間では争いがなく、被告らは同(2)の事実を明らかに争わないので認めたものとみなされる。また、(証拠略)を総合すれば、豊田商事は、客の金地金購入代金に相当する金地金が豊田商事において現実に保有ないし運用されているかのような外観を作り出しながら、実際は見本用としての僅かなものを除き客の金地金購入代金に相当する金地金を保有せず、客から受け取った金員を、豊田商事役員や従業員などに対する異常に高額な報酬、給与などとして費消し、その余の資金を商品取引相場への投資資金又は関連事業に対する貸付金などに支出していたものの、その収益性は極めて低く、設立当初から毎期多額の損失を計上し続けていたこと、マスコミは、昭和五六年九月に豊田商事の商法を取り上げ、その後も断続的に報道やキャンペーンがなされ、特に昭和五八年中ごろには、全国的に被害者からの訴訟が提起されたため現物まがい商法などとして豊田商事に対する数多くの批判報道が、また昭和五九年三月には、衆議員予算委員会で右商法が問題としてとり上げられ、被害者らから大阪地検に代表者であった亡永野一男らに対し、詐欺罪等で告訴がなされたこと、豊田商事盛岡営業所においても、被告らを含む従業員らに対し一般企業に比し、著しく高額な給与、歩合給が支給されていたことを認めることができるところ、被告らが右報道や同人らの給与が著しく高額であったことを認識していなかったことを窺わせる証拠は存しないし、他に前記認定に反する証拠はない。

そして、右の事実によれば、豊田商事は、設立の当初から、「純金ファミリー契約」上の返還時期に金地金を返還することは不可能であったばかりか、早晩倒産することは必至であったということができる。したがって、豊田商事は客の金地金購入代金に相当する金地金を保有せず、契約上の返還期限に契約どおりの金地金を返還することができないのに、これあるように装い、その従業員らをして客らに対し、本件金地金の売買及び「純金ファミリー契約」による投資が安全・確実な資産運用方法であるかのような虚偽の事実を申し向けさせ、客らにそのように誤信させて、客から金地金売買代金及び手数料名下に金員の交付を受けてこれを騙取することを目的とする会社ということができるところ、被告らを含む豊田商事従業員らとしても、豊田商事の財産状態について詳細な認識はしていなかったものがあるにしても、おそくとも原告らに対しファミリー契約を締結させた時点においては右マスコミ報道や高額な給与を受領していることについては当然認識していたものと認められるから、豊田商事の行っている商法が詐欺的な商法というべき違法なものであると認識していたか、又はこれを認識していなかったとしても、そのことは容易に認識し得たと認められるから、その点につき過失があったということになるものである。

したがって、右契約の勧誘を行い、金地金売買代金及び手数料名下に金員の交付を受けた豊田商事の従業員が、当該金員を騙取したものとして、不法行為責任を負わなければならないことは当然である。

また、直接契約の勧誘をしなかったその余の豊田商事従業員らについても前記認定事実に照らせば、同人らは、豊田商事が組織的に詐欺的商法を行っていたのであり、被告らはこのことを認識し、あるいは認識しなかったことにつき過失がありながら、その必要な業務の一部を担当したものであるから、これに加担したものであって、右のような被告らにおいては、原告らに損害を生じさせることについての共謀までは認められないとしても、前記認定のような豊田商事の組織的詐欺的商法に加担するという点で、各人の行為に関連共同性が認められる以上、自己の在職した期間、自己の在職した営業所の活動によって生じた全損害については、民法七一九条所定の共同不法行為責任による損害賠償義務を免れないものということになる。

五  請求原因5について

被告らは、請求原因5の事実を明らかに争わないので認めたものとみなされる。

第三結論

よって、原告らの請求は、別紙認容額一覧表(略)・被告欄記載の被告らに対応する同表・原告欄記載の原告が、右被告らに対し、同表・認容額欄記載の各金員及びこれに対する不法行為日の後である当該被告に対応する別紙被告一覧表・起算日欄記載の日から各支払済みまでいずれも民法所定年五分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める限度で理由があるのでその限度でこれを認容し、その余は棄却し、訴訟費用の負担について、民訴法八九条、九二条、九三条の規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中田忠男 裁判官 松井英隆 裁判官加藤就一は出張中のため署名捺印することができない。裁判長裁判官 中田忠男)

別紙

当事者目録

原告 南館一造

(ほか五一名)

右原告ら訴訟代理人弁護士 山崎正敏

同 菅原瞳

同 菅原一郎

同 沢藤統一郎

同 石橋乙秀

同 千田功平

同 阿部一雄

同 榊原孝

同 石川克二郎

同 田村彰平

同 山中邦紀

同 畑山尚三

同 岩崎康彌

同 及川卓美

同 八木橋伸之

同 泉舘久忠

同 熊谷隆司

同 小野寺正孝

被告 熊谷浩

被告 井上道雄

被告 東忠男

被告 高屋敷久人

被告 千田稔

被告 川村法子

被告 宮古こと 熊谷しのぶ

被告 藤田謙治

被告 鈴木昇

被告 南野久

被告 山崎昇

被告 川村光正

被告 佐藤保三

認否一覧表

<省略>

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