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盛岡地方裁判所 昭和44年(ワ)185号 判決 1969年12月24日

主文

被告は原告より金三四五万円の支払を受けるのと引換に原告に対し別紙目録記載の建物を明渡せ。

原告その余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の、その余を被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は「被告は原告に対し別紙目録記載の建物を明渡せ。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決および仮執行の宣言を求め、その請求の原因として

一、別紙目録記載の建物(以下本件建物という)は、その敷地とともに、もと訴外斎藤正雄の所有であつたが、斎藤は昭和四四年三月一一日原告からの借受金四〇〇万円の債務の弁済に代えて、原告に対し本件建物およびその敷地の所有権を移転し、同年三月一三日右所有権移転登記を経由した。

二、しかるに被告は権原なく本件建物を使用占有している。

三、よつて原告は被告に対し本件建物の明渡を求める。

と述べ、

被告主張の抗弁に対し、

一、原告は被告主張の売買契約の当事者でないから、かような原告に対し同時履行の抗弁を主張することはできない。

二、被告主張の、訴外斎藤正雄に対する建物の引渡請求権は、その成立が本件建物の存在と相当因果関係になく、右斎藤との特殊な契約によつて発生したものであるから、留置権を発生せしめる債権であるとはいえない。そしてまた右債権は履行期が到来していないから、留置権は発生しない。

と述べた。

証拠(省略)

被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁および抗弁として

一、請求原因第一項の事実中、本件建物およびその敷地がもと斎藤正雄の所有であつたことは認めるが、その余の事実は知らない。

同第二項の事実中、被告が本件建物を使用占有していることは認める。

二、本件建物は、その敷地とともに、斎藤正雄が取得する以前は被告の所有であつたが、被告は昭和四三年七月二〇日これを代金六八〇万円で斎藤に売り渡したものであつて、右代金は左記の方法で支払う旨約した。

1、内金四〇万円は本件建物およびその敷地の所有権移転登記と同時に支払うこと。

2、内金一一〇万円は昭和四三年八月一〇日限り支払うこと。

3  内金一八五万円については、被告の盛岡信用金庫に対する全一三五万円の債務および秋田相互銀行に対する全五〇万円の債務を免責的に引受けて支払うこと。

4  残金三四五万円については、金銭の支払えに代え、建物を建築してその敷地とともに被告に譲渡する。

5  本件建物および敷地の明渡しは斎藤が右4記載の建物を完成して被告に引渡すと同時にする。

6  昭和四三年一一月末日まで本契約の履行を完了する。

しかるに斎藤は前記4記載の義務を履行せず、したがつて右給付に相当する残代金三四五万円の未払となる。よつて被告は同時履行の抗弁権および留置権を主張し、本件建物の明渡を拒絶する。

と述べた。

理由

本件建物が、訴外斎藤正雄の所有であつたことは当事者間に争いがないところ、成立に争いのない甲第一、二号証、証人斎藤正雄の証言および原告本人尋問の結果によると、原告は、昭和四四年二月一九日、右斎藤の代理人小笠原勝雄に対し金三四八万円を貸与し、その担保のため、右斎藤所有の本件建物およびその敷地である盛岡市八日町七四番二宅地一四一・六八平方メートルに抵当権設定契約および停止条件付代物弁済契約を締結したが、右斎藤は右借受金を所定の期限に弁済しなかつたため、原告は、右代物弁済契約により、昭和四四年三月一一日本件建物およびその敷地の所有権を取得したことが認められ、他に右認定を覆する足りる証拠はない。

よつて被告主張の留置権の抗弁について検討する。

被告が本件建物を現に占有していることは当事者間に争いがなく、しかして前記甲第一、二号証、証人斎藤正雄の証言および被告本人尋問の結果によると、本件建物は、その敷地とともに、前記斎藤正雄の所有であつた前は、被告および加賀谷ヨシ子の共有であつたが、被告等は、昭和四三年七月二〇日、本件建物およびその敷地を併せて代金六八〇万円で斎藤に売り渡したものであつて、右代金の支払方法の定めは被告主張のとおりであり、そして右代金のうち金三四五万円については、金銭で支払う代りに、斎藤において右金額をもつて、他に土地を購入して家屋を建築し、これを被告に譲渡することとし、本件建物およびその敷地の明渡は、斎藤が右家屋を建築してその敷地とともに被告に引渡すと同時にすること、右期限は昭和四三年一一月三〇日とする旨約したこと、しかるに斎藤は未だ右約旨の家屋および敷地を被告に譲渡する義務を履行していないことが認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

ところで留置権は、他人の物の占有者がその物に関連して生じた債権を有する場合に成立するが、物の占有者がその物を売却して、買主に対し取得する代金債権と、所有権を取得した買主の目的物の引渡請求権が同一の売買契約という法律関係から生じたときは、右関連性があるものと解される。したがつてかような場合、売主である目的物の占有者は買主に対する代金債権の担保として、その物のうえに留置権を取得するものというべきである。

そうすると、本件において、被告は本件建物および敷地の代金債権が完済されるまで、留置権に基づきその引渡を拒絶することができるものといわなければならない。もつとも本件では、前記認定のように、未だ買主によつて履行されていないのは、代金六八〇万円のうち金三四五万円につき、右金銭の支払に代わる建物および敷地の譲渡義務であつて、かような買主の給付義務は、その内容において、右金銭に相当する物を給付することを要し、かつそれをもつて足るものであるが、しかしそれでもなお、単なる金銭債務とは異なり、どのような建物、敷地を譲渡すべきかの問題が残り、譲渡すべき建物、敷地の所在地、面積、建物の構造等を容易に一義的に確定することができず、かような物の給付義務の未履行を理由として、右契約当事者以外の第三者である原告に対し、かかる物の給付あることを担保として持ち出して主張するのは問題である。しかし前記認定のように、右建物、敷地の譲渡義務は、代金六八〇万円のうち金三四五万円の金銭の支払に代わるものであるから、右物件の給付は法律上残代金三四五万円の支払と等価関係にあるから、かかる場合には、契約当事者以外の第三者である原告に対しては、右物件に代わる右金三四五万円の給付請求権について留置権を主張することが許されるものと解する。

もつともまた、前記認定のとおり右売買代金六八〇万円は本件建物とその敷地を併せたものの代金額であつて、このうち本件建物の代金額とがそれぞれいかなる割合を占めているのか明確にすることができない。ところで原告は本訴においては建物の所有権に基づいて建物のみの明渡を請求しているのであつて、これに対し建物のみならず敷地を含む代金六八〇万の残代金三四五万円の債務の未払があることを理由として、留置権の行使を認めるのは、原告に酷であり、被告に不当な利益を与える感がしないではない。しかし前記認定のように原告は本件建物とともにその敷地をも取得して、現に右敷地もまた原告の所有に属し、そして前掲各証拠によると、原告においては本件建物の明渡を得られれば、その敷地の完全な占有をも取得でき、したがつて被告に対し本件建物の所有権に基づいてその明渡を訴求すれば、事実上、その敷地の所有権に基づいてその明渡をも併せ求めた場合と同一の結果がもたらされることが認められるから、かような場合においては前記金三四五万円の給付請求権について留置権を主張することが許されるものと解する。

そうすると原告の本件建物の明渡は、右売買残代金三四五万円の支払と引換えにのみこれを求め得べく、右請求はこの限度においてこれを正当として認容し、その余は失当として棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条を適用し、なお仮執行宣言は本件事案に照らし相当でないので、これを付さない。よつて主文のとおり判決する。

目録

盛岡市八日町七四番地の二

木造亜鉛メツキ鋼板瓦交葺三階建東側

家屋番号四一番

一、木造亜鉛メツキ鋼板瓦葺三階建店舗

床面積 一階 二五坪九合三勺

二階 一六坪七合

三階 四坪

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