大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

盛岡地方裁判所 平成9年(ワ)93号 判決 1999年9月24日

岩手県釜石市<以下省略>

原告(反訴被告)

右訴訟代理人弁護士

石橋乙秀

東京都中央区<以下省略>

被告(反訴原告)

株式会社コーワフューチャーズ

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

肥沼太郎

三﨑恒夫

主文

一  本訴

1  被告(反訴原告)は、原告(反訴被告)に対し、金七四四万八九一八円及びこれに対する平成八年八月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  原告(反訴被告)のその余の請求を棄却する。

二  反訴

1  原告(反訴被告)は、被告(反訴原告)に対し、金一三三万八三一三円及びこれに対する平成一一年四月二二日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

2  被告(反訴原告)のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、本訴反訴ともにこれを二分し、その一を原告(反訴被告)の負担とし、その余を被告(反訴原告)の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  本訴

(一) 被告(反訴原告)は、原告(反訴被告)に対し、金一四八〇万円及びこれに対する平成八年八月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(二) 訴訟費用は被告(反訴原告)の負担とする。

(三) 仮執行宣言

2  反訴

(一) 原告(反訴被告)は、被告(反訴原告)に対し、金二六七万六六二七円及びこれに対する平成一一年四月二二日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

(二) 訴訟費用は原告(反訴被告)の負担とする。

(三) 仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  本訴

(一) 原告(反訴被告)の請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は原告(反訴被告)の負担とする。

2  反訴

(一) 被告(反訴原告)の請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は被告(反訴原告)の負担とする。

第二当事者の主張

一  本訴

1  請求原因

(一) 当事者

(1) 被告(反訴原告、以下単に「被告」という。)は、東京穀物商品取引所等の会員であり、商品取引所法(以下「法」という。)による主務大臣の許可を受けた商品取引員である。

(2) 原告(反訴被告、以下単に「原告」という。)は、昭和一九年○月○日生まれで、土木及び建築を目的とするa株式会社●●●に勤務していたが、商品先物取引の経験はなく、商品先物取引の仕組みや実情を知らなかった。

(二) 本件取引

(以下、別紙売買一覧表記載の取引を「本件取引」ともいう。)

(1) 原告は、平成八年五月末ころから、被告甲府支店より、二、三回電話で「コーンはもうかる」旨言われて先物取引の勧誘を受けたが、いずれも断っていた。

(2) 原告は、同年六月一一日、被告甲府支店の従業員であるB(以下「B」という。)から電話で、「当社は甲府駅前にある農林水産省の管轄にあるちゃんとした会社です。とうもろこしは不足しているから高くなっています。これからも上がります。中国ではもう栽培しないし、アメリカでは干ばつで不作だから絶対数が足りないから絶対上がります。絶対もうけさせますから一〇〇万円位やってみませんか。」「銀行の利子以上の利益がある。」等と取引を勧誘された。

原告は、Bから商品先物取引の仕組みや実情についてほとんど説明を受けず、株のようなものであると考え、一〇〇万円を出すことを承諾し、翌一二日午前一〇時ころ、被告甲府支店に九九万九二七九円を送金した。

なお、Bは、原告に対し、被告が送金料を負担する旨述べており、被告は、右送金に際し、七二一円を負担した。

(3) 右送金後、原告が勤務先に戻り、Bに電話して送金したことを伝えると、Bは、「すごくもうかって利益が出ているのでもっとやらないか」等と述べた。そこで、原告はさらに一〇〇万円を出すことにした。

そして、同日五時ころ、原告が出先から勤務先へ戻ると、被告甲府支店から、約諾書、商品先物取引委託のガイド(以下「委託のガイド」という。)、申出書、確認書及び準備金による委託証拠金充当同意書等の書面が郵送されていたが、それまで原告に被告から何ら書面が送付されることはなかった。

(4) 原告は、翌一三日午前一〇時ころ、委託証拠金として九九万九二七九円を被告甲府支店に送金し、被告は七二一円を負担した。

原告は、同日、Bから電話で、前記約諾書、申出書、準備金による委託証拠金充当同意書及び確認書に記載をするように求められ、約諾書、確認書の一部に記載をし、また委託証拠金充当同意書及び申出書についてはBの指示どおり日付を記載しないで住所氏名を記載して押印し、確認書を除き、これら書面を被告甲府支店へ返送した。

なお、原告は、同月一二日午前一〇時ころ送金した九九万九二七九円ですぐにとうもろこしを買い、同月一三日午前一〇時ころ送金した九九万九二七九円で更にとうもろこしを買い、合計二回買ったものと考えていたところ、現実には右資金で同月一三日に買二〇枚が建玉されていた。

(5) 原告は、同月一七日、Bから、電話により「絶対にもうかるからもっと出したほうが得だ。」等と言われ、原告は、同日委託証拠金として九九万九二七九円を被告甲府支店に送金し、被告は七二一円を負担した。

しかし、Bは、既に原告名義で同月一四日、原告に無断で、しかも委託証拠金もないのに、東京穀物商品取引所後場三節で九七年五月限のとうもろこしの買一〇枚の建玉をしていた。

(6) 原告は、同月二〇日、被告の従業員であるC(以下「C」という。)からの電話で、担当が替わったこと及び現在利益が出ていることを聞き、同月二六日、再びCから電話で、「追証がかかったが、コーンはもうかるから請求書は送付するが気にするな。」等と言われたため、言われたとおりそのままにしていた。

(7) 原告は、同年七月一〇日ころ、Cから電話で、「コーンの値段が上がってきた、利益を合わせると約七〇〇万円ぐらいになっている。」と言われ、「もうそろそろ止めたい。」と言ったが、Cは手仕舞しなかった。

原告は、同月一二日、Cから電話で、「コーンを増やした。」と言われたため、「止めたいと言ったのになぜ止めなかったのか。」と苦情を言うと、Cからは「指値がなかったから止めなかった。」と言われた。Cは、原告に無断で既に同月一一日と一二日に手仕舞いして帳尻金を委託証拠金に振り替えて建玉を増加させていた。

原告は、右のとおりCから指値がなかったので手仕舞いをしなかった旨言われたため、同月一六日に二万〇八〇〇円の指値をした。

(8) 原告は、同月一七日、Cから電話で、「コーンの市場が急下落して何日も続くようだ。追証拠金ではとても対処できないからコーンと米国大豆の両建にした方がよい。コーンが下がれば大豆も下がり、大豆は売りで下がれば利益が出る。大豆は一〇五〇万円送金すればすぐに決済できて二八〇〇万円から一四〇〇万円は返せる。三〇〇万円が保証される。」等と言われた。原告は、売りも両建も初めて聞く言葉であり、追証のこともよく分からず、Cに対し、よく意味が分からないから説明しに来てほしいと述べた。

原告は、翌一八日午前中に被告に一〇〇万円を送金した。Cは、同日午後四時ころ原告の自宅を訪れた。Cは、原告とその妻に対し、「両建してよかったですね。私に安心してまかせて下さい。絶対にもうけさせますから。」等と言い、原告は九五〇万円を支払うことにした。

しかし、Cは、原告が未だ委託証拠金を支払っていないにもかかわらず、既に同月一七日前場三節で九七年六月限米国産大豆の売一五〇枚を建玉していた。

(9) 原告は、同月二二日、被告甲府支店に不足の証拠金九五〇万円を送金し、C及び被告甲府支店長であるDに電話で早く決済してほしい旨述べた。

そして原告は、前記のとおり指値をしなければ決済できないと思っていたため、同日、Cに対し、「一五五〇万円の指値で決済してほしい。」と言うと、Cは、「早く決済するには関西輸入大豆に変更した方がよい。私もうっかりしていた。コーンと関西大豆の取引時間が同じだから指値も計算しやすい。」等と言った。

原告は、早く手仕舞いしたいと考え、Cに対し、同月二五日には「一三五〇万円の指値でお願いします。」等と言い、同月二六日、二八日及び二九日にも手仕舞いするように言った。

しかし、原告は、同月三〇日、Cから電話で、「大豆を五〇枚落としてコーンを一八〇枚で両建にし、それには約一二五〇万円必要だ。」と言われたため驚き、Cに説明に来るように言い、さらに、同年八月二日、Cに対し、再び手仕舞いするように言ったが、Cは手仕舞いせず、同月七日にようやく手仕舞いとなった。

(三) 本件取引の違法性

商品先物市場とそこにおける先物取引は、商品流通における価格変動のリスクを公権的手段ではなく、経済主体間の自律的な活動を通じて調整又は回避するための重要な経済制度であって、その自由かつ公正な機能を確保するために、法及びその下位法令及び諸規制が制定されている。その精神に照らすと、商品取引員たる被告は、委託者である原告に対し、その投資勧誘等を行うについて、法令等を遵守することはもとより、大臣免許を受けた専門業者として、高度な善管注意義務を負っている。

そして、一般に、商品先物取引は、所謂ハイリスク・ハイリターンの投機性を有する取引であるところ、少額の委託証拠金により多額の取引を行うことができることから見て誘惑的なものであるが、他方、種々の専門的特殊用語が用いられていて、実際に取引経験のない者にとっては、その意味内容を理解することは相当に困難である。更にその取引価格は、経済状況の変化等によって短期間に激しい値動きを示すことがあるところ、その変動を的確に予測するためには、その要因となる経済的政治的社会的要素を詳細に調査研究することが必要であるにもかかわらず、そういった研究を一般人が行うことははなはだ困難であるから、一般人が商品先物取引に参加した場合、予期せぬ損害を被る危険性が極めて大きい。

そうすると、本件取引においても、被告の担当者は、商品先物取引の経験のない原告に対し、商品先物取引を勧誘するに当たっては、信義則上、原告が取引の危険性を十分に理解しうる程度に取引の仕組みを説明すべき義務を負い、また右契約締結後においても、委託契約の本旨に基づき、原告の経歴、資力、取引についての経験や理解の程度、意向等を十分に調査、把握した上で、原告が各取引について自主的、合理的な意思決定をするのに必要な情報の提供、助言、指導等を行い、その意思に基づく建玉や手仕舞いを受託すべき義務を負っている。

しかるに、B及びC等の前記した勧誘行為及びその他の行為は、以下に述べるとおり、故意又は過失により法及びその下位法令及び諸規制に違反する違法な行為であり、原告に対する不法行為を構成する。

(1) 断定的判断の提供

法九四条一号、受託契約準則二二条(2)は、顧客に対し利益を生ずることが確実であると誤信させる断定的判断を提供して勧誘することを禁止しているところ、Bは、前記のとおり、原告に対し、「絶対もうかる。」等、利益が確実である旨の断定的判断を提供して違法な勧誘等を行ったものである。

(2) 利益保証

法九四条二号、受託契約準則二二条(3)は、顧客に対し利益を保証して勧誘することを禁止しているところ、Bは、前記のとおり、原告に対し、「銀行の利子以上の利益がある。」等と述べ、Cも「三〇〇万円が保証される。」等と述べており、これらは利益保証として違法な勧誘である。

(3) 書面の不交付

法九四条の二本文は、受託契約を締結しようとするときは、あらかじめ顧客に対し受託契約の概要、その他の主務省令で定める事項を記載した書面を交付しなければならないとしており、商品取引所法施行規則(以下「施行規則」という。)三四条一項にはその書面に記載しなければならない事項が挙げられ、受託契約準則三条一項ないし三項も事前交付書面を交付せずにその委託を受けることを禁止しており、さらに、受託業務指導基準Ⅰ一も委託のガイドを交付することを義務づけ、委託のガイドにつき委託者に対し十分に説明を行い、かつ精読を求める等の対応が必要であるとする。

また、受託契約準則三条二項及び三項において、約諾書についても、委託者から取引に先立って差し入れを受けるものとし、差し入れを受けたあとでなければ取引の委託を受けてはならないとされている。

しかるに、被告は、原告が既に最初の委託証拠金を送金した後の平成八年六月一二日午後に至るまで委託のガイドを送付せず(原告が実際に委託のガイドを見たのは同月一三日であった。)、また、原告が被告に約諾書を差し入れたのは同月一四日以降であった。

(4) 説明義務違反

商品取引員の受託業務に関する指示事項(以下「指示事項」という。)1(3)、受託業務に関する規則五条(2)は、顧客に対し、商品取引の仕組み及びその投機的本質について十分説明し、先物取引の危険性を告知しなければならないとしているところ、被告は、前記のとおり、商品の相場要因、先物取引の仕組み、「売り」や追証、その投機的本質、損をした場合の対処、売買報告書の見方等についての説明をしておらず、また、商品取引の仕組み及びその投機的本質等を記載した委託のガイド及び約諾書を原告が最初の委託証拠金を送金するまでに交付しておらず、原告はこれらについてほとんど理解していなかった。

(5) 詐欺行為及び不実の告知

前記のとおり、Bは、原告に対し、中国ではもう栽培しないとかアメリカでは干ばつで不作だとか虚偽の事実を告げている。また、Cは、原告に対し、指値をしなければ手仕舞いができない旨虚偽の事実を告げており、このため、原告は、指値をしなければ手仕舞いができないと考えて指値をし、しかも指値について全く誤った理解をしていた。

また、平成八年七月一〇日ころ、Cは、とうもろこしと米国産大豆の両建にしたほうがよい旨述べて勧誘しているが、両建とは同一商品、同一限月の売り玉と買い玉を同時期に建てておくことを言うのであるから、右のような建玉は両建ではなく、このようなCの発言は原告の無知に付け込んだものである。これらの行為は、いずれも詐欺行為であり、違法な行為である。

さらに、右のとおり、Cの手仕舞い又は両建といった重要な事項につき事実と反することを告知している点は、平成八年三月一五日の受託業務に関する規則の改正により、取引を行なうか否かの判断に影響を及ぼすこととなる重要な事項について、事実と反することを告げて勧誘してはならないとされているところにも違反する。

(6) 無断売買

法九四条三号、施行規則三三条三号、受託契約準則二三条は、無断売買を禁じている。

しかるに、前記のとおり、平成八年六月一三日の二〇枚の買建玉は、原告の意思と異なる買い方であった。

また、前記のとおり、Bは、同月一四日、とうもろこし買一〇枚の建玉をし、また、Cは、同年七月一一日と一二日に手仕舞いするなど、いずれも原告に無断で売買を行った。

(7) 委託証拠金の負担

取引所指示事項3(3)は、委託証拠金等について、商品取引員が委託者に融資又は融資の斡旋をすることを禁止しており、その趣旨からして、商品取引員が委託者の委託証拠金等の全部又は一部を負担することを禁止していると考えられるところ、前記のとおり、被告は、原告の委託証拠金の一部を負担しており、右規定の趣旨に反するものである。

(8) 無敷及び薄敷

法九七条一項、受託契約準則八条、九条一項及び二項は、委託者が取引の委託をするときに委託証拠金を徴収しなければならないことを定めている。また、商品取引所の定める要件に該当しない者については支払の猶予は認められていない。

右規定は、商品取引員が、委託を受けた取引につき、将来委託者に対する債権が発生した場合にそれを担保する企業防衛的な意義を持つほか、建玉継続についての決断の判断材料を提供し、過当投機を防いで委託者を保護しようとする目的を併せ持つものである。

しかるに、前記のとおり、平成八年六月一四日及び同年七月一七日に、委託証拠金が預託されていない状態で建玉がなされた。

(9) 利乗せ満玉

受託業務指導基準Ⅳ3(4)②は、利益金から証拠金への振り替えが過度にわたらないように規制している。

原告は、本件取引において売買による利益を全く受領しておらず、Cは、原告に無断で売買による益金を全て証拠金に振り替え、証拠金で建玉が可能な範囲ですべて建玉していた。

通常先物取引においては、証拠金に余裕をもった建玉がされるべきであり、証拠金全部に対応する建玉をすれば値の動きによって直ちに証拠金の不足することが予想され、顧客は証拠金以上の損失を被ることになる。したがって、利乗せ満玉は違法な行為である。

また、売買後の帳尻金は、原則として顧客たる原告に返還されるべきであるが、被告は原告に益金を全く返還せず、原告が先物取引の仕組みを十分理解していないことを利用し、平成八年七月一五日に帳尻金合計二〇三万二九六一円を、同月二三日に帳尻金合計一三一九万六九三六円を、それぞれ、原告に無断で委託証拠金に振り替え、委託証拠金でできる限度一杯の建玉をしていた。

(10) 仕切拒否

施行規則三三条一号は、委託者の指示等債務の履行を拒否することを禁じているが、前記のとおり、Cは、原告を欺罔して手仕舞いを拒否し、また原告が手仕舞いの意思表示をしたにもかかわらず指示どおりにしなかった。

(11) 新規委託者の保護規定違反

新規委託者については、受託業務に関する規則に基づく被告の受託業務管理規則に保護規定があり、三ヶ月の習熟期間を定めてその間は二〇枚の建玉の制限がある。

B及びCは、原告が先物取引については新規委託者であるにもかかわらず、平成八年六月一四日時点で既に三〇枚の建玉を勧誘して原告に建玉させ、同月一二日から三ヶ月を経過しない間に多いときで三六〇枚もの建玉をさせたものであって、これは新規委託者の保護規定に違反する過度な取引である。

(12) 一任売買

法九四条三号、受託契約準則二三条は、一任売買を禁じているところ、原告は、前記のとおり「私に任せて下さい」等とCらに言われるまま事実上一任売買の形で売買をしたものである。

(13) チェックシステムについて

農林水産省は、商品先物取引の受託者事故の未然防止、委託者保護の強化、商品取引員の社会的信用の向上を図ることを目的として、平成元年四月一日から「委託者売買状況チェックシステム」(昭和六三年一二月二七日付農林水産省食品流通局商業課長通達、以下「チェックシステム」という。)を導入し、監督官庁が、売買回転を月間三回以内にとどめる、手数料化率を一〇パーセントとする方向で指導していく基準であるとされているが、このチェックシステムの基準は、司法の場において先物取引の違法性を判断する上でも有用である。

手数料化率、売買回転率は次の算式で求められる。

手数料化率=手数料÷全損害額

売買回転率=(落玉÷取引期間)×三〇

これを本件取引にあてはめれば、以下のとおりとなる。

手数料化率=七八八万五八〇〇円÷一三五〇万〇〇〇〇円=五八・四一パーセント

売買回転率=(一四回÷五六日)×三〇=七・五回

したがって、本件取引が前記基準をはるかに超過する過大な取引であったことが明らかである。

(四) 損害及び責任

(1) 本件取引における預託金 一三五〇万円

原告は、B及びCの勧誘及びその他の不法行為により、被告に対し、別紙売買一覧表に記載のとおり、平成八年六月二二日から同年八月七日までの間に、二六回のとうもろこし等の先物取引を委託し、また原告に無断で、原告の計算で取引がなされ、その間、原告は、合計一三五〇万円の証拠金を被告に預託し、これが全額返還されなかった。

(2) 弁護士費用 一三〇万円

原告は本件訴訟提起を原告訴訟代理人に委任し、その弁護士費用として一三〇万円を要した。

(3) 被告の責任

被告は、B及びCの使用者として、同人らの不法行為によって被った原告の右損害を賠償する義務がある。

(五) よって、原告は、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償として、右損害合計一四八〇万円及び不法行為終了の日である平成八年八月七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

2  請求原因に対する認否

(一)(1) 請求原因(一)(1)の事実は認める。

(2) 同(2)の事実のうち、原告に商品先物取引の経験がなかったことは不知、原告が商品先物取引の仕組みや実情を知らなかったことは否認し、その余は認める。

(二)(1) 同(二)(1)の事実のうち、原告が、平成八年五月ころから、被告甲府支店より、電話で先物取引の勧誘を受けたことは認め、その余は否認する。

(2) 同(2)の事実のうち、同年六月一一日、被告甲府支店の従業員であるBが原告に電話で、とうもろこしが値上がりするとの相場観を述べて先物取引を勧誘したこと及び同月一二日、原告が被告甲府支店に送金したことは認め、その余は否認する。

(3) 同(3)の事実は否認する。

原告に、約諾書及び受託契約準則、委託のガイド等の各書面が郵送されたのは、同年六月一一日である。

(4) 同(4)ないし(6)の事実のうち、同年六月一三日及び一七日に原告から被告甲府支店に送金があったことは認め、その余は否認する。

(5) 同(7)の事実のうち、同年七月一〇日ころ、Cが原告に電話でとうもろこしの値段が上昇傾向にあることを告げたことは認め、その余は否認する。

(6) 同(8)の事実のうち、同月一八日、原告が被告に一〇〇万円を送金したこと及びCが原告の自宅を訪れたことは認め、その余は否認する。

(7) 同(9)の事実のうち、原告が、同月二二日に、被告甲府支店に九五〇万円を送金したこと及び同日原告とCが電話で話をしたことは認め、その余は否認する。

(三) 同(三)のうち、商品先物取引に関する種々の規制が存在すること、原告が本件取引による利益を受領していないこと及び原告が新規委託者であること及び受託業務管理規則が新規委託者の習熟期間を三ヶ月と定めていることは認め、その余は否認し争う。

(四) 同(四)の事実のうち、原告の計算で別紙売買一覧表に記載のとおりの取引がなされたこと、原告が被告に、合計一三五〇万円の証拠金を預託したことは認め、その余は否認し争う。

3  被告の主張

(一) 本件取引の経緯について

被告甲府支店の従業員であるBは、平成八年五月下旬ころに原告に対して商品先物取引の勧誘を始めたころ、資料も郵送した。

Bは、同年六月一一日に、原告に電話をかけ、商品先物取引の仕組み、とうもろこしの相場の状況、売買取引の単位、取引に必要な委託証拠金の種類、金額、委託手数料、売買による損益の計算方法などについて改めて説明をした。

その結果、原告は、先物取引の危険性を了知した上で、被告との間で、自己の責任と判断により、被告に委託して商品先物取引を行う旨の契約を締結し、右契約に基づいて、本件取引を行ったものである。

右取引においては、被告従業員が電話又は面談により、各取引の都度原告の注文内容及び取引に必要な委託証拠金等を原告との間で確認して受注し、成立した売買については担当者から電話で報告するとともに、被告から原告に対し、「委託売付・買付報告書及び計算書」を郵送して確認を求めている。

さらに、被告は、原告に対し、毎月一回「残高照合通知書」を送付して未決済建玉の内訳、値洗差金額、委託証拠金必要額、預かり証拠金額及び変換可能額等につき照合、指示を求めている。

したがって、本件取引は全て原告の意思と判断に基づいて行われたものであり、その結果生じた損失が原告に帰属すべきことは当然である。

(二) 商品先物取引の適格者について

商品先物取引の仕組み及び相場変動要因は難解で一般人に理解できるものではなく、一般人は原則的に商品先物取引不適格者であるといった原告の主張は、差別的発想に基づく主張であり不適当である。

(三) 危険性の説明について

商品先物取引の勧誘においては、商品先物取引のプラスの部分を強調しないと勧誘にならない性格のものである。したがって、プラスの強調の度合が社会的相当性を超えない限り、商品先物取引の危険性の説明について、その勧誘活動と矛盾する行為まで要求すべきではなく、勧誘者に先物取引の仕組み自体から生じる一般的危険性の説明を超えた説明をする義務はない。

本件取引において、Bは、商品先物取引の仕組み自体から生じる一般的危険性については原告に説明している。

(四) 新規委託者についての規制の意義

原告は、新規委託者である原告について二〇枚を超える取引を勧誘したことを問題としている。

しかし、この規制は、そもそも以下の(1)から(3)に述べるとおり合理性のないものであり、そのため、本件取引当初は、新規委託者について、当初三ヶ月間は外務員の判断枠は二〇枚で、二〇枚を超える場合には責任者の許可を得る、という被告の内部規制(受託業務管理規則)が存在したものの、平成一〇年九月には廃止された。したがって、右の規制を裁判規範とすべきではない。

(1) 少ない枚数から始めるから商品先物取引の危険性(投機性)が理解しにくくなる。

(2) ある委託者にとって何枚くらいの枚数が適当かということについては千差万別であって、そもそも一定の数字(枚数)で線を引くことはできない。まして、二〇枚という数字はほとんど何の根拠もない。

(3) 三ヶ月間で二〇枚という枚数では、日計り(その日に建てた建玉をその日のうちに仕切ること)を含め、短期間で建ち落ちを繰り返して概ね小さな利益を狙ってゆくという相場仕法がとれない。このような相場仕法は、特殊なものではなく合理性のある確固たるものである。

(五) 証拠金の遅れについて

委託証拠金は、商品取引員が委託者に対して有する委託契約上の債権担保を主目的とするものである。また、建玉時までに委託証拠金を預託するのを原則とする現行制度は、過当勧誘を抑制するという目的を持つものではない。過当勧誘抑制の機能は、委託証拠金自体が持つものであって、注文時に委託証拠金を預かることとは関係がない。

証拠金入金の遅延は、基本的には委託者自らの義務の不履行に過ぎず、証拠金入金の遅延は、委託者側から批判される筋合いのものではない。

(六) 利乗せ満玉

本件取引によって原告に生じた利益を委託証拠金に振り替えることについては、その都度原告の承諾を得ているし、委託証拠金は、原則的に、総建玉数に必要な金額を預からなければならないのであるから、委託証拠金でできる限度一杯の建玉をしていることは通常のことである。

故に、委託証拠金でできる限度一杯の建玉をすることが違法であるとの原告の主張は、建玉枚数以上の委託証拠金を預かることが原則的であるような制度のもとでないと成り立たないものである。

(七) 仕切拒否について

委託者が、自己責任を心理的に回避しようとして、営業マンに仕切の是非を相談し、そのアドバイスに従った場合、これは仕切の意思表示ないしその拒否とは言えないから、委託者の自己責任に何ら影響を及ぼすものではない。

本件取引における原告についても同様のことが言える。

(八) チェックシステムについて

チェックシステムは、商品取引員の受託業務全般を対象とするものであって、個別的事案の適否に導入することを予定したものではない。また、農林水産省は、原告主張のように売買回転率を月間三回以下にとどめあるいは手数料化率を一〇パーセント程度にするという決定をしたこともないし通達も出していない。

原告の主張する手数料化率という用語ないし概念は、チェックシステム上存在しないし、これが一〇パーセント程度とすべきとする主張は、取引の損益額が建玉時と仕切時の差引き損益の額であって、相場観や委託者の仕切の仕方に左右される偶然なものであるという点を無視した全く合理性を欠く主張である。

また、そもそも手数料の累計そのものに意味がないし、手数料合計額が多いこと自体を非難することも大きな誤りである。ある売買仕法そのものが相当なものか不相当なものかは手数料がかかることとは全く関係がない。

(九) 原告の理解度等について

原告は、商品先物取引について研究熱心な態度を示しており、本件取引についても十分に理解していた。本件における最初の建玉は、委託証拠金の入金と約諾書ないし通知書作成が確認されてから行われているのであるから、手続に全く問題はなく、約諾書ないし通知書作成前の委託証拠金入金が非難されるいわれはない。

本件取引は、平成八年七月三〇日に建てたとうもろこし買建て一八〇枚の損が大きかったものの、その他の取引についてはうまくいっていた。本件取引を違法とするのは、取引の流れからみても無理である。

二  反訴

1  請求原因

(一) 原告は、平成八年六月一三日、被告との間で、東京穀物商品取引所、関西農産取引所等の商品先物市場における取引を被告に委託する旨の契約(以下「本件契約」という。)を締結した。

(二) 原告は、本件契約に基づき、同日から同年八月七日までの間、被告に委託して、別紙売買一覧表記載のとおり、東京穀物商品取引所のとうもろこし及び米国産大豆、関西農産取引所の輸入大豆等の先物取引を行い、その間、委託証拠金として合計二八七二万九八九七円を預託した。

(三) 本件取引の損益状況は、別紙精算状況表のとおりであり、平成八年八月七日(取引終了時)時点において、原告が被告に支払うべき帳尻差損金額は、三一四〇万六五二四円となった。

(四) 被告は、平成九年三月二七日、前記のとおり、原告が預託していた委託証拠金二八七二万九八九七円をもって右帳尻差損金に充当した。

(五) よって、被告は、原告に対し、本件契約に基づき、差損金残金二六七万六六二七円及びこれに対する反訴状送達の日の翌日である平成一一年四月二二日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

2  請求原因に対する認否

請求原因(一)ないし(四)の事実は認める。

3  抗弁

本件取引は、一1(二)(三)記載のとおり、書面不交付等、断定的判断の提供、利益保証、説明義務違反、詐欺及び不実の告知、無断売買、被告の委託証拠金の一部負担、無敷及び薄敷、利乗せ満玉、仕切拒否、新規委託者の保護規定違反、一任売買等により、法及びその下位法令及び諸規制に違反する異常でしかも違法な行為であり、取引勧誘から取引終了に至るまで一連の行為が一体として不法行為を構成する。

したがって、被告の反訴請求は信義則に反し許されないものである。

第三証拠関係

本件記録中の証拠関係目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  本訴

1  請求原因(一)(1)の事実、同(2)の事実のうち、原告が、昭和一九年○月○日生れで、土木及び建築を目的とするa株式会社●●●に勤務していたこと、同(二)(1)の事実のうち、原告が、平成八年五月ころから、被告甲府支店より、電話で先物取引の勧誘を受けたこと、同(2)の事実のうち、同年六月一一日、被告甲府支店の従業員であるBが原告に電話で、とうもろこしが値上がりするとの相場観を述べて先物取引を勧誘したこと及び同月一二日、原告が被告甲府支店に送金したこと、同(4)ないし(6)の事実のうち、同月一三日及び一七日に原告から被告甲府支店に送金があったこと、同(7)の事実のうち、同年七月一〇日ころ、Cが原告に電話で、とうもろこしの値段が上昇傾向にあることを告げたこと、同(8)の事実のうち、同月一八日、原告が被告に一〇〇万円を送金したこと及びCが原告の自宅を訪れたこと、同(9)の事実のうち、原告が、同月二二日に、被告甲府支店に九五〇万円を送金したこと及び同日原告とCが電話で話をしたこと、同(四)の事実のうち、原告の計算で別紙売買一覧表に記載のとおりの取引が行われたこと、原告が被告に対し、合計一三五〇万円の証拠金を預託したことは、いずれも当事者間に争いがない。

2  右争いのない事実に、証拠(甲一ないし七、一四、一五、一八、一九、乙一ないし五、六及び七の各1、2、八の1ないし11、九の1ないし3、一〇の1、2、一二、一三、一四の1ないし10、一五及び一六の各1ないし8、一七ないし二三、証人B、同C、原告)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(一)  当事者

(1) 被告は、東京穀物商品取引所等の会員であり、法による主務大臣の許可を受けた商品取引員である。

(2) 原告は、昭和一九年○月○日生れで、b大学工業教員養成所を卒業し、土木及び建築を目的とするa株式会社●●●に勤務して土木の設計を担当している。

原告は、本件取引に至るまで、商品先物取引の経験はなく、株については、勤務先の会社の株式を売買したことがあるのみであった。

(二)  本件取引

(1) 被告甲府支店の従業員であるBは、平成八年五月末ころ以降、b大学の出身者の名簿をもとに、三回位原告の勤務先に電話し、原告に対してとうもろこしの先物取引の勧誘を行っていたが、原告からはこれを断られていた。

(2) Bは、同年六月一一日、原告の勤務先に電話し、再度とうもろこしの先物取引の勧誘を行った。その際、Bは、コーンはもうかる旨述べ、その理由として、今中国で経済が発展していて今まで肉を食べなかった中国人が肉を食べるようになり、家畜の需要が増え、それに伴ってとうもろこしの需要が増える、コーンは中国でも栽培をやめているし、アメリカでは干ばつによる不作で絶対数がないからコーンが値上がりする、今は値段が安く買いのチャンスである、絶対もうかる、銀行の利子以上の利益がある等と説明し、また、被告について、甲府駅の近くにある会社であり、農水省の管轄で、ちゃんとした会社である旨話し、とりあえず一〇〇万円くらいやってみないかと勧誘した。

原告は、Bの右話を聞き、Bの勧誘する取引について、値段が上がればもうかるし、下がれば損をする、おおよそ株と同じようなものであるとの認識を持ち、取引を行うことを承諾し、翌一二日、九九万九二七九円を被告甲府支店に送金した。被告は、原告の右送金手数料分七二一円を負担して、原告の委託証拠金を合計一〇〇万円として取り扱った。

原告は、同日、被告に送金をした旨電話したところ、Bから、今すごくもうかっていて利益が出るので、もっとやらないかと勧誘されたため、これに応じることとして、さらに一〇〇万円を振込むことにした。

原告は、同日、外出先から勤務先に戻ると、机上に郵便物が送付されており、封筒の中に、「商品先物取引委託のガイド」(乙三)、「商品先物取引委託のガイド別冊」(乙四)、「約諾書及び受託契約準則」(乙二)、「準備金による委託証拠金充当同意書」(甲二)、「申出書(委託本証拠金預託の特例)」(甲三)及び「ご確認書」(甲四)が入っていた。

右各書面のうち、「商品先物取引委託のガイド」(乙三)は、商品先物取引の仕組み、取引の限月、取引単位、委託証拠金の種類、売買報告書及び売買計算書、残高照合通知書、苦情等の相談方法等の説明があり、赤枠で囲まれた「商品先物取引の危険性について」と題する部分には、「先物取引においては、総取引金額に比較して少額の委託証拠金をもって取引するため、多額の利益となることもありますが、逆に預託した証拠金以上の多額の損失となる危険性があります」等の記載がされている。また、「商品先物取引委託のガイド別冊」(乙四)には、主要上場商品の取引単位と値動きによる差損、損益計算の具体例の記載がされている。

(3) 原告は、翌一三日、九九万九二七九円を被告甲府支店に送金した。このときも前同様に被告が送金手数料分七二一円を負担し、原告の委託証拠金が一〇〇万円と取り扱われた。

原告は、同日、Bの電話での指示に従って、前日に送付された「約諾書」(乙一)、「準備金による委託証拠金充当同意書」(甲二)及び「申出書(委託本証拠金預託の特例)」(甲三)に住所、氏名等を書いて捺印し、これを被告に返送したが、「ご確認書」(甲四)については、「1ご契約の前に『商品先物取引―委託のガイド』の内容についてのご説明と、交付をお受けになられましたか。」との質問には「受けていない」に、「2商品先物取引には元金の保証、利益の確約、安全確実等、いわゆる保証的要素となるものは全くなく、儲かることもあれば損することもあることをご理解していただけましたか。」との質問には「理解できた」に、「3取引により生じる損益は、お客様自身に帰属するものですから、取引はご自身の責任と判断によって行うことが重要であり、担当社員に任せたりしてはならないことをご理解していただけましたか。」との質問には「理解できた」に、「4初回取引の開始(買付、売付)は約諾書を作成後、委託証拠金を預託していただいてからであることを、ご理解していただけましたか。」との質問には「理解できた」に、それぞれ丸印をつけたものの、次第に出捐した金額よりも少ない金額しか戻ってこない可能性もある取引であることを認識して怖くなり、それ以降の質問には丸印をつけるのをやめて同書面を被告に送付しないことにした。原告は、後日、被告から送付された「委託売付・買付報告書及び計算書」を見て、右確認書の「8初回取引内容」欄に、銘柄「コーン」「五」月限(「二〇」)枚等と書き込んだ。

被告は、同日、原告の計算において、とうもろこしを後場三節で二〇枚買建玉し、以後、原告の計算において、別紙売買一覧表のとおりの各商品の取引が行われたが、取引による利益金が現実に原告の下に送金されたことはなかった。

原告には、右各取引の都度、成立した取引の内容を記載した「委託売付・買付報告書及び計算書」が送付され、同書面には、「万一、本報告書及び計算書が未着の場合や内容に不審な点、相違点等がございましたら、直ちに本社管理部(〇三―三六六一―三三四二)へご連絡下さい。」との記載があった。原告は、右書面の内容を確認したが、本件取引の終了に至るまで、BないしCもしくは被告本社管理部に対し、無断で売買された旨の申出をしたことはなかった。

Bは、同日ころ、委託者を原告とする「委託者調書」(乙一三)を作成し、支店長のDらの決裁を受けた。右調書には、商品先物取引の知識・理解度について「充分にある」、原告の収入について概算「一〇〇〇万円」、資産について概算「五〇〇〇万円」、預託可能額について概算「三〇〇〇万円」と記入されているが、右収入や資産等の額は、Bが推測で記入したものであった。

(4) Bは、同月一四日、とうもろこしの値段が急落したため、難平の仕法をとることにし、原告に連絡した上、未だ証拠金が入金されていない状態であったが、とうもろこし一〇枚を後場三節で買建玉した。

原告は、同月一七日、証拠金として、九九万九二七九円を被告甲府支店に送金した。このときも、前同様に被告が送金手数料分七二一円を負担し、原告の委託証拠金が一〇〇万円と取り扱われた。

(5) 原告は、同月二〇日ころ、被告の従業員であるCから電話を受け、Bから担当が替わったことを聞き、さらにとうもろこしの値段が下がっており、一万九〇三二円になると追証がかかるがそこまでは下がらないと思う旨話をされたが、追証とは何のことか理解できなかった。

原告は、同月二七日ころ、Cから電話で、追証がかかったが、今もうかるから、請求書が行くかもしれないがほうっておくようにと言われ、Cの言うとおりにすることにした。

原告は、同年七月二日ころ、被告から送付された「残高照合回答書」(乙一〇の一)の「記載内容の相違の有無について」の欄の「相違ない」に丸印を付け、また、「アンケート内容」と題する書面(乙二三)の「1商品先物取引について」欄の「ニ貴社(担当者)よりの説明で初めて理解出来た。」に、「2商品先物取引―委託のガイド―の内容について」欄の「ハ価格の変動により損することも益がでることも理解している。」に、「3情報収集の方法について」欄の「イ新聞、テレビ等により収集している。」に、「4証券取引のご経験について」欄の「イ現在取引中又は今までに取引したことがあるので理解している。」に、それぞれ丸印を付け、「5弊社に対して、ご要望ご質問等がございましたら下記へご記入下さい。」との欄に「進める時は良い事ばかりを云っているので良い方向にご指導下さい。元金内でおさまる様にして頂きたい。」と記入し、右各書面を被告に返送した。

原告は、同月一〇日ころ、Cから電話で、とうもろこしの値段が上昇傾向にあり、利益が七〇〇万円くらい出ていることを告げられたが、もうそろそろやめたい旨話すと、Cから、もっと長い付き合いをしてください等と説得され、最終的にはこれを承諾した。

(6) Cは、同月一一日、原告に連絡して、既存のとうもろこしの買建玉一〇枚を仕切り、利益を証拠金に振り替えて新たに一四枚の買建玉をし、翌一二日にも同様に既存の買建玉二〇枚及び一四枚を仕切って新たに五〇枚の買建玉をした。

原告は、同日、Cに対し、もうやめたい旨述べたが、再びCに説得された。原告は、Cとのこのやりとりの中で、指値をしなければ手仕舞いしてもらえないものと理解し、Cのアドバイスを聞いた上で二万〇八〇〇円の指値をする旨同人に述べた。

Cは、同月一五日、原告の帳尻金合計二〇三万二九六一円を委託証拠金に振り替えた。

(7) 原告は、同月一七日、Cから電話で、とうもろこしの値段が下落しているとして米国産大豆の売建玉を勧められ、そのためには一〇五〇万円が必要である旨聞かされたが、とても一〇五〇万円を払う気持ちにはなれず、売建玉の意味やなぜそんなに金がかかるのかよく理解できなかったため、Cに説明しに来るように求めた。

Cは、同日、未だ原告からの証拠金が入金されていない状態であるのに、前場三節で米国産大豆一五〇枚を売建玉した。

原告は、翌一八日午前、Cからはとりあえず五〇万円と言われていたが、手元に余裕があったため、一〇〇万円を被告に送金した。

Cは、同日午後四時ころ原告の自宅を訪れ、原告とその妻に対し、同日時点の残高照合通知書(甲一九)を示して証拠金一〇五〇万円が必要であることの根拠や損益の計算方法等について説明し、「私に安心してまかせて下さい。絶対にもうけさせますから。」等と述べた。

原告は、席上Cから、「ご確認書」(乙五)に記入するように求められ、同書面の「1ご契約の前に『商品先物取引―委託のガイド』の内容についてのご説明と、交付をお受けになられましたか。」との質問には「受けた」に、「2商品先物取引には元金の保証、利益の確約、安全確実等、いわゆる保証的要素となるものは全くなく、儲かることもあれば損することもあることをご理解していただけましたか。」、「3取引により生じる損益は、お客様自身に帰属するものですから、取引はご自身の責任と判断によって行うことが重要であり、担当社員に任せたりしてはならないことをご理解していただけましたか。」、「4初回取引の開始(買付、売付)は約諾書を作成後、委託証拠金を預託していただいてからであることを、ご理解していただけましたか。」、「5委託証拠金には4つの種類(委託本証拠金、委託追証拠金、委託定時増証拠金、委託臨時増証拠金)があり、また過当投機を防止する為に各限月毎に建玉制限があることを、ご理解していただけましたか。」及び「6相場が思惑とは逆の値動きをして委託追証拠金(追証)が必要になった場合、建玉を維持しようとする時には追証を預託する、また預託されない時にはその時点の相場で建玉を決済されることになりますが、ご理解いただけましたか。」等の問にいずれも全て「理解できた」に丸印を付け、署名捺印してCに渡した。

(8) 原告は、同月二二日ころ、九五〇万円を被告に送金し、また、同日ころ、被告から送付された「残高照合回答書」(乙一〇の二)の「記載内容の相違の有無について」の欄の「相違ない」に丸印を付け、「アンケート内容」と題する書面(乙二二)の「商品の値動きをみて損益計算ができる」「取引中の商品(コン)について損益計算ができる。」「売買報告書及び計算書で確認している。」「委託証拠金の種類とその預託方法については理解している。」等に丸印を付けて、これらを被告に返送した。

Cは、同日、原告に勧めて、米国産大豆の売建玉一五〇枚を仕切ってさらに三〇〇枚の売建玉をさせ、同月二三日には原告の帳尻金合計一三一九万六九三六円を委託証拠金に振り替えた。

(9) Cは、その後、米国産大豆が値上がりしたため、同月二四日に三〇〇枚の売建玉を仕切り、関西農産取引所の輸入大豆一六五枚及び六四枚、翌二五日には、右輸入大豆が値下がりしたため、一六五枚及び六四枚の売建玉を仕切って新たに二三〇枚を売建玉し、翌二六日にはとうもろこし五〇枚の買建玉を仕切った。そして、同月三〇日、大豆の値上がりの事態が生じたため、既存の関西大豆の売建玉二三〇枚のうち五〇枚を仕切り、とうもろこしを一八〇枚買建玉をした。

この間、原告は、被告甲府支店に電話し、幾度か、C及び支店長のDに対し、利益が出なくても損をしない程度でやめたい旨の意向を述べていたが、Cから、もう少し待てばもっと利益がでる等と説得され、結局これに応じて右のような取引を行うことになった。

(10) 原告は、同月三〇日の取引について、Cから証拠金一二五〇万円が必要であることを告げられたため、もう支払えない旨述べて、支店長のDに説明に来るように求めた。

原告は、原告代理人の助言を受け、同年八月二日、Cに対して手仕舞いするように求めたが、CからはDが原告宅に向かっているので話を聞いてくれと述べられるにとどまった。しかし、原告は、Dに会うことを拒否し電話にも出なかった。

被告は、同月六日、原告に建玉を処分する旨の電報を打ち、同月七日、本件取引を手仕舞いした。

3  本件取引の違法性について

(一)  説明義務違反及び書面の不交付について

商品先物取引は、株式等の証券取引に比して極めて高い投機性を有し、少額の証拠金で高額の取引ができる仕組みとなっているところから、商品先物取引を勧誘する外務員には、初めて商品先物取引を行おうとしている委託者に対し、右取引の仕組み及びその投機的性質、短期間の間に投資資金の全額のみならずそれ以上の損失を被る危険性があること等を説明することにより、委託者が右取引を開始するか否かの判断をするに必要な理解を得させる義務があると解すべきであり、右理解を得させるため、委託者が資金を拠出する前に、右の危険性等について説明した書面等を交付するだけでなく、その内容に説明を加える等の方法をとることが当然に求められているものと言うべきであって、指示事項1(3)が、「商品先物取引の有する投機的本質を説明しない勧誘」を不適正な勧誘行為とし、受託業務に関する規則五条(2)が、「取引の仕組み及びその投機的本質について、顧客に十分な説明をしないで勧誘すること」を禁じていること、法九四条の二本文が、「商品取引員は、受託契約を締結しようとするときは、主務省令で定めるところにより、あらかじめ、顧客に対し受託契約の概要その他の主務省令で定める事項を記載した書面を交付しなければならない」とし、受託契約準則三条も、「商品取引員は、新規の委託者から取引の委託を受けるときは、当該委託者に対し、次に掲げる事項、並びに当該書面の内容を十分に読むべき旨及び商品取引には危険が伴う旨を記載した書面並びにこの準則を契約に先だって交付しなければならない。」としていること(右各種規制の存在については争いがない。)等もこのような趣旨に出たものと解するのが相当である。

ところで、Bは、本件取引の開始時において、先物取引の経験もなくその知識が不十分であると考えられる原告に対し、コーンが値上がりする、今は値段が安く買いのチャンスである、絶対もうかる、銀行の利子以上の利益がある等と説明したのみであったこと、原告は、最初の委託証拠金を送金するまでに、商品先物取引の危険性について記載した委託のガイド、約諾書及び受託契約準則等の書面を一切交付されておらず、その結果、先物取引というのは値段が上がればもうかるし、下がれば損をする、おおよそ株と同じようなものである旨全く不十分な理解のままに本件取引を開始しているのであり、また、既に三〇〇万円を出捐して取引を行っている段階に至っても、Cから追証や売建てのことを言われてこれを理解できず、Cに説明に来るように求めており、さらに、取引終了直前に至るまで、指値がなければ手仕舞いできない旨誤った理解をしていたことは前記2認定のとおりであって、右によれば、原告は、本件取引の全体を通じ、先物取引の仕組みや危険性についての十分な理解を有していない状態であったと言うべきである。そうすると、Bは、本件取引を開始するに当たり、原告に対し、右取引の委託を受ける前に前記書面等を交付し、外務員としてこれらの点について十分な説明をしておかなければならない義務があったのに、これら義務に違反していることが明らかである。

Bの供述及び陳述書(乙二〇)中には、原告に対し、電話で、六月一二日以前にとうもろこしの証拠金制度のこと及び手数料のことを説明し、あるいは六月一三日に原告に委託のガイドを電話口まで持って来させて説明した旨の部分もある。しかしながら、Bの右供述等を裏付けるに足りる客観的な証拠はなく、また、前記2認定のとおり、その後の原告の理解の程度ないし誤解や、理解できずにCに説明を求めている点等に照らせば、Bから原告に対し、先物取引の危険性、とりわけ先物取引が信用取引であって、投資金額を超える損失が発生する可能性があること等について十分な説明が行われたとは到底考え難く、Bの右供述等を前提としても、未だ右判断を左右するに足りるものではない。

なお、被告は、原告に対しては、七月一八日にCが原告宅で十分に説明している旨主張するが、右説明義務は、第一次的には先物取引を開始するに先立ってされるべきものであり、右取引の開始後に何らかの説明がなされたとしても、これをもってBのすべき説明義務が免れるとすべき理由はない。殊に、本件においては、Cが原告に説明をした後においても、原告の先物取引に対する理解の程度に十分なものがないことは、前記説示のとおりであるから、Cの説明をもってしても、未だ原告に対する説明義務が尽くされているものとは到底言えない。

(二)  断定的判断の提供について

法九四条一号、受託契約準則二二条(2)は、商品市場における取引について、顧客に対し、利益を生ずることが確実であると誤信させるべき断定的判断を提供してその委託を勧誘することを禁じており(右規制の存在については争いがない。)、前記(一)に説示したような商品先物取引の特質からしても、このような行為は違法性を帯びるものと言うべきところ、前記2認定のとおり、Bは、コーンが値上がりする、今は値段が安く買いのチャンスである、絶対もうかる、銀行の利子以上の利益がある等と説明し、また、Cも、原告の自宅を訪れた際、「私に安心してまかせて下さい。絶対にもうけさせますから。」等と述べており、これらは、その利益を強調し、これが確実であるかの如く述べることにより、前記(一)に説示したとおり、先物取引の危険性についての認識が不十分な原告に対し、さらにその認識を誤らせたものと言わざるを得ず、これは取引の勧誘として許容される限度を超えた違法なものと言わなければならない。

(三)  新規委託者の保護規定違反について

被告の受託業務管理規則六条は、商品先物取引の経験のない委託者又は商品先物取引の経験の浅い委託者並びにこれらと同等と判断される委託者について、三ヶ月間の習熟期間を設けるものとし、同条(3)に基づく「商品先物取引の経験のない委託者からの受託にかかる取扱要領」には、商品先物取引又は証券取引所における信用取引・先物取引、金融先物取引の経験のない委託者の建玉枚数に係る外務員の判断枠を二〇枚と定めており(乙一二)、その趣旨は、取引経験のない委託者に取引直後から多額の損失を被らせることを防止する趣旨に出たものと解される。

ところで、本件取引においては、別紙売買一覧表のとおり、取引開始後わずか二日で三〇枚、二ヶ月経たないうちに一時は五〇〇枚もの建玉をし、原告の計算で二〇枚をはるかに越える一〇〇枚単位の取引が行われる等、商品先物取引を開始して間もない原告に対し、右取扱要領の判断枠を大幅に上廻る多数の建玉をさせていることが明らかであるところ、被告は、右新規委託者についての二〇枚の規制には合理性がない旨主張するが、このような取引は、前記説示のような原告の先物取引に対する理解度や経験等に照らせばいかにも不相当であって、許容される限度を超える違法なものと言わなければならない。

(四)  無敷及び薄敷、利乗せ満玉について

法九七条一項、受託契約準則八条、九条一項及び二項は、委託者が取引の委託をするときに委託証拠金を徴収しなければならないことを定めており(右規制の存在については争いがない。)、委託証拠金の主たる目的は、商品取引員の委託者に対する債権の担保にあると解されるものの、他方において、これを取引の委託をするときに徴収することが、委託者の過当投機を防止する機能を有していることも無視することはできず、委託者の知識、経験、当該取引における勧誘態様の違法性等と相まって、必要な委託証拠金を徴収しないことが取引における勧誘行為の違法性の一端となり得ることもあると解すべきであり、また、同様に、利乗せ満玉も、委託者は取引による利益の返還を全く受けないでこれを全て委託証拠金に振り替え、可能な限度一杯に建玉をするもので、このような手法が、先物取引の危険性、委託証拠金の意義等について十分な理解を有している委託者については問題とならない場合があるとしても、委託者の知識、経験等に照らしていかにも不相当と評価される場合には、他の勧誘態様の違法要因と相まって、勧誘行為の違法性の一端となり得ることもあると解すべきである。

本件取引においては、前記2認定のとおり、六月一四日に、Bが、未だ証拠金が入金されていない状態で、とうもろこし一〇枚を買建玉し、また、七月一七日、Cが、やはり未だ証拠金が入金されていないにもかかわらず米国産大豆一五〇枚を売建玉していること、本件取引による利益金は、原告に全く返還されることなく、七月一五日及び同月二三日に証拠金として振り替えられ、翌日ないし翌々日には新たな建玉がされていること、しかも乙第八号証の五及び七によれば、新たな建玉をした際、委託証拠金にはほとんど余裕のなかったことが認められるのであり、このような無敷ないし薄敷の状態での建玉、あるいは利乗せ満玉の勧誘は、前記説示にかかる原告の先物取引に対する理解度や経験等に照らせばいかにも不相当であると言わざるを得ず、前記説明義務違反や断定的判断の提供等において説示した違法な点とともに相まって、本件行為を通じての勧誘行為全体の違法性を基礎付けるものと解するのが相当である。

(五)  無断売買及び一任売買について

前記2認定のとおり、本件取引においては、その都度、BないしCから原告に一応連絡がなされた上で建玉が行われており、また、右各売買については、右各取引の都度、原告に対し、成立した取引の内容を記載した「委託売付・買付報告書及び計算書」が送付されており、同書面には、「万一、本報告書及び計算書が未着の場合や内容に不審な点、相違点等がございましたら、直ちに本社管理部へご連絡下さい。」との記載があり、原告は、右書面の内容を確認していたのに、本件取引の終了に至るまで、BないしCもしくは被告本社管理部に対し、無断で売買された旨の申出をすることはなかったのであるから、本件取引の中に無断売買があり、あるいは同取引が一任売買であったと認めることはできないと言うべきである。

原告は、六月一三日の二〇枚買建玉が原告の意思と異なる買い方であり、同月一四日の取引並びに七月一一日及び同月一二日の各取引がいずれも原告の了承なく行われた旨主張し、原告の本人尋問における供述及びその陳述書(甲一四)の中にはこれに沿う部分もあるが、他方、原告は、その本人尋問において、六月、七月中の取引については、その都度、事前にCやBから連絡があった旨述べる等、供述が一貫しておらず、また、右のとおり、原告は、被告から送付された「委託売付・買付報告書及び計算書」を確認しつつその内容に異議を述べることもなかった点に照らしても、これらを無断売買ないし一任売買と認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

(六)  仕切拒否、利益保証、詐欺行為及び不実の告知について

前記2認定のとおり、原告は、幾度かCに対して、取引をやめたい旨の意向を述べたことがあったものの、最終的にはCの説得に応じて取引を継続してきたものであり、これを仕切拒否と解することはできない。

また、原告は、Cが利益保証をした旨主張するが、Cが明確に具体的な利益を保証する旨の発言をしたと認めるに足りる証拠はない。

さらに、原告は、詐欺ないし不実の告知として、まず、Bが、とうもろこしを、中国ではもう栽培しない、アメリカでは干ばつで不作だ等と述べた点を挙げるが、Bは相場についての見通しの根拠として自己の見解を述べたに過ぎず、次に、Cが、指値をしなければ手仕舞いができないと述べ、あるいは、とうもろこしの買建と米国産大豆の売建をすることを両建と呼ぶかのように述べたとするが、これらのようにCが指値や手仕舞いの方法、あるいは両建について、積極的に原告に誤った知識を植え付けることを意図した発言をしたと認めるに足りる証拠はなく、いずれも詐欺ないし不実の告知と解するのは相当でなく、これらの各点については、原告が正確な知識を持つように説明しなかったことについて、前記説明義務違反としての違法性を評価し得るに過ぎないものと言うべきである。

(七)  委託証拠金の負担、チェックシステムについて

前記2認定のとおり、六月一二日、同月一三日及び同月一四日にそれぞれ原告が委託証拠金各九九万九二七九円を送金した際、被告が各七二一円を負担しているが、これらは被告が送金手数料として負担したに過ぎないものであり、これを取引所指示事項3(3)が禁じているような商品取引員が委託者に委託証拠金等の融資又は融資の斡旋をすることに当たるとまで解するのは相当でなく、また、その金額からしても、これら送金手数料の負担が原告に対する不法行為に当たるとまで言うことはできない。

なお、チェックシステムについては、その根拠と合理性が未だ普遍性を持つものとまで評価することができず、本件取引における勧誘行為の違法性を論じるには、前記のような各違法要因を検討することで足りると言うべきである。

4  被告の責任及び過失相殺について

(一)  本件取引による損害

以上の検討を総合すれば、本件取引におけるBないしCの勧誘行為には、説明義務違反及び書面の不交付、断定的判断の提供、新規委託者の保護規定違反、無敷及び薄敷、利乗せ満玉等の違法性があって不法行為を構成するものというべきであるから、被告は、右B及びCの使用者として、民法七一五条に基づく損害賠償責任を負うと言うべきである。

しかしながら、他方、前記2認定のとおり、原告は、本件取引において、Bの勧誘に対し、その説明の合理性も検討せず安易にこれを信用し、本件取引の危険性について十分な検討もしないまま最初の送金を行い、その直後に、委託証拠金の仕組み等を細かく説明した委託のガイドや「ご確認書」の郵送を受け、不十分ながらも本件取引によって損をすることがあることを認識するとともに、外務員によって不正が行われることを警戒するまでに至っていた形跡があるにもかかわらず、その後においても委託証拠金を被告に送金して取引を継続する等、本件取引の中止に向けた行動が取られていないこと、原告は、被告に対し、被告から送付された「残高照合回答書」の「記載内容の相違の有無について」の欄の「相違ない」に丸印を付け、また、二回にわたるアンケートに対し、「価額の変動により損することも益がでることも理解している。」、「商品の値動きをみて損益計算ができる。」、「取引中の商品について損益計算ができる。」、「売買報告書及び計算書で確認している。」、「委託証拠金の種類とその預託方法については理解している。」等と回答し、また、「ご確認書」の「商品先物取引には元金の保証、利益の確約、安全確実等、いわゆる保証的要素となるものは全くなく、儲かることもあれば損することもあることをご理解していただけましたか。」、「取引により生じる損益は、お客様自身に帰属するものですから、取引はご自身の責任と判断によって行うことが重要であり、担当社員に任せたりしてはならないことを、ご理解していただけましたか。」、「初回取引の開始(買付、売付)は約諾書を作成後、委託証拠金を預託していただいてからであることをご理解していただけましたか。」、「相場が思惑とは逆の値動きをして委託追証拠金が必要になった場合、建玉を維持しようとする時には追証を預託する、また預託されない時にはその時点の相場で建玉を決済されることになりますが、ご理解いただけましたか。」等の間にいずれも全て「理解できた」に丸印を付け、署名捺印して交付する等、自己の先物取引に対する理解力を偽り、被告からこれらの知識を得る機会を自ら放棄していた面があること、原告の経歴及び社会的地位に照らせば、Cあるいは被告本社管理部に対し、断固たる態度で手仕舞いを要求し取引の継続を拒絶することが決して困難ではないと考えられるにもかかわらず、原告は、結局Cの説得に応じて取引を継続したものであること等、本件取引による損失の発生については、原告にもかなりの落ち度があると言わざるを得ず、右諸事情を総合考慮すれば、本件取引における原告の全出捐額一三四九万七八三七円(原告の委託証拠金とされた合計一三五〇万円から被告の負担した送金手数料合計二一六三円を控除したもの)の五割に相当する部分六七四万八九一八円(ただし、円未満は切捨て)につき、被告が支払義務を負うとするのが相当である。

(二)  弁護士費用

本件訴訟追行の難易及び認容額等諸般の事情を考慮すれば、本件不法行為と相当因果関係にある弁護士費用は、七〇万円をもって相当と認める。

(三)  まとめ

したがって、被告が原告に対し、民法七一五条に基づき支払義務を負う金額は、(一)及び(二)の合計七四四万八九一八円となる。

二  反訴

反訴請求原因(一)ないし(四)はいずれも当事者間に争いがない。

そこで、抗弁について検討するに、前記一に説示したとおり、本件取引におけるBないしCの勧誘行為が違法と評価されるものであるとしても、右取引が無効であるとまで解することはできないから、原告が右取引を行った結果発生した差損金について、被告からの請求も認められるべきであるが、前記一に説示した過失割合の点をも考慮すれば、その五割を越える部分の請求は信義則に違反し許されないものと解すべきであり、原告は、被告に対し、本件取引による原告の差損金二六七万六六二七円の五割に相当する一三三万八三一三円(ただし、円未満は切捨て)の支払義務を負うものとするのが相当である。

三  結論

以上によれば、本訴請求は、七四四万八九一八円及びこれに対する不法行為の終了の日である平成八年八月七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、反訴請求は、一三三万八三一三円及びこれに対する反訴状送達の日の翌日である平成一一年四月二二日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法六一条、六四条本文(なお、本訴及び反訴の各仮執行の宣言は、いずれも相当でないからこれを付さないこととする。)をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 栗栖勲 裁判官 大竹優子 裁判官 大澤知子)

<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例