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熊本家庭裁判所玉名支部 平成元年(家)45号 審判 1991年5月31日

81号事件申立人 中山よし子 外4名

81号事件相手方 中山真子 外2名

44号事件申立人 中山よし子

44号事件相手方 中山洋介 外6名

45号事件申立人 中山真子 外2名

45号事件相手方 中山よし子 外4名

被相続人 中山良一

主文

1  申立人中山よし子の寄与分を3,543,000円と、亡中山政治の寄与分を1,771,000円と定める。

2  被相続人中山良一の遺産を次のとおり分割する。

(1)  別紙物件目録(編略)(1)の10、23、26、31、32、33、34、35、36、37記載の各不動産は申立人中山よし子の単独取得とする。

(2)  別紙物件目録(1)の1、2、3、4、5、6、7、11、12、13、14、16、19、20、21、27、28、29、30記載の各不動産は、申立人中山洋介、同長島美知子、同山田佳子の共有取得とし、その持分は各3分の1とする。

(3)  別紙物件目録(1)の22、24、25の各不動産は、申立人中山一成の単独取得とする。

(4)  別紙物件目録(1)の8、9、15、17、18記載の各不動産は相手方中山真子、同中山雄一、同中山浩久の共有取得とし、その持分は各3分の1とする。

3  相手方中山真子、同中山雄一、同中山浩久は申立人中山よし子に対し、本審判確定の日から1年6ヶ月以内に別紙物件目録(1)の35、36、37記載の建物から退去して、これを明渡せ。

4  本件手続費用中、鑑定人○○○○に支払った鑑定費用700,000円は申立人中山よし子、同中山洋介、同中山一成、同長島美知子、同山田佳子の負担とし、その余の手続費用は各自の負担とする。

理由

第1本件申立の要旨

1  遺産分割

被相続人中山良一(以下〔被相続人〕という。)は、昭和60年2月8日死亡し、同人の遺産つき相続が開始し、その相続人(含代襲相続人)は申立人ら及び相手方らであるが、遺産分割の協議が整わないので、分割の審判を求める。

2  寄与分

(1)  申立人よし子

申立人よし子は被相続人の妻であるが、昭和12年5月12日結婚の挙式以来子供の養育は勿論、被相続人と共に農業に従事し、昭和25年には別紙物件目録(1)の35、36、37記載の建物を新築し、同39年頃にはこれを一部増築し、昭和15年から同36年までの間には別紙物件目録(1)の11、19、31、32、33、34の土地を購入するなどして不動産の取得につき特別の寄与をし、また、被相続人の2回に及ぶ入院や自宅療養の際にはその療養看護に当った。

従って、申立人よし子については相当の寄与分が認められるべきである。

よって、相当の寄与分を定める旨の審判を求める。

(2)  申立人真子、同雄一、同浩久

相手方真子、同雄一、同浩久は被相続人の長男亡政治(昭和56年8月2日死亡)の子であるが、亡政治は、昭和32年高等学校卒業後、被相続人の農業を手伝うかたわら、出稼ぎに行くなどして、昭和39年頃の自宅の改築資金の一部を出捐し、昭和42年奈々子との結婚以後は特に農業の後継者としてこれに従事してきたが、その間殆ど無報酬であった。そのため被相続人の財産の維持、増加について特別の寄与があったので、相当の寄与分が認められるべきである。

よって、相当額の寄与分を定める旨の審判を求める。

第2当裁判所の判断

1  相続の開始、相続人及びその法定相続分

本件記録によれば、被相続人は昭和60年2月8日死亡し、その相続人は配偶者である申立人よし子、及びその子洋介、同一成、同長島美知子、同山田佳子、長男亡政治の子である相手方真子、同雄一、同浩久で、その法定相続分は申立人よし子は2分の1であり、同洋介、同一成、同美知子、同佳子は各10分の1、相手方真子、同雄一、同浩久は各30分の1であることが認められる。

2  遺産の範囲及びその評価額

本件記録によれば、被相続人の遺産は別紙物件目録(1)記載の各不動産であることが認められ、また、鑑定人○○○○の鑑定の結果によれば、上記不動産の相続開始時における評価額は同目録記載のとおりで、その総計は38,622,000円であることが認められる。

ところで、本件遺産の一部である別紙物件目録(1)の31~37記載の土地、建物(以下〔本件土地、建物〕という。)は、被相続人とその妻よし子及び長男亡政治とその妻子らが永年居住していたこと、政治や被相続人の死亡後も相手方らやその母奈々子は現在まで本件建物に居住していること、しかし、後記のとおり遺産分割の結果相手方らは本件建物の居住を奪われることなどの事情を考慮すると、相手方らの居住利益を評価し、上記総遺産の評価額から居住利益分を控除したものをもって分割の対象となる遺産の価格とするのが相当である。

そして、本件の場合の居住利益は本件土地、建物の価額の20%に当たる3,195,000円(1000円以下四捨五入、不動産の価額については以下同じ。)と認める。従って、相続開始時の遺産の価額は

38,622,000円-3,195,000円 = 35,427,000円となる。

なお本件記録によれば、本件相続開始当時被相続人は○○○農業協同組合に714,844円の普通預金を有していたことが認められるが、申立人よし子の審問の結果によれば、上記預金は被相続人の葬儀や法事等に費消されて現存していないことが認められ、かつ、当時者間にこれを遺産とする旨の合意もないので、これを遺産から除外した。

また、○○町○○○字○○○××××番×の畑36m2は、現況墓地で祭祀財産であるのでこれを相続財産から除外した。一方、別紙物件目録(1)の30記載の山林は現在では交換して他人の所有となっているが、現在なお登記名義人が被相続人となっているので、これを遺産に計上した(ただし、評価額は零)。

3  寄与分

(1)  申立人よし子の申立について

本件記録によれば、上記第1、2、(1)記載の事実及び被相続人は昭和15年から同43年までの間に別紙物件目録(1)の14、15、24、27記載の不動産を購入している事実が認められる(ただし、一部は分家費用として本家筋より出捐)。

上記認定の事実によれば、被相続人の財産の維持、増加についての申立人よし子の寄与は、被相続人の妻としての当然なすべき通常の協力義務の範囲を遥かに超えた特別の寄与というべきであり、その寄与の額は上記不動産の価額(ただし、居住利益を差引いた35,427,000円)の10%相当の3,543,000円と認めるのが相当である。

(2)  相手方真子、同雄一、同浩久の申立について

本件記録によれば、上記第1、2、(2)記載の事実及び亡政治の妻である奈々子は、昭和42年以来被相続人の農業後継者としての亡政治の補助者として貢献してきたことが認められる。

上記認定の事実によれば、亡政治やその妻奈々子の寄与は特別の寄与というべきである。そして被代襲者である亡政治の死亡によって、代襲者であるその相続人真子らは被代襲者である亡政治の寄与分を主張できるものと解される。

そこで、亡政治の寄与の額について検討するに、本件記録によれば、被相続人は昭和37年から同48年にかけて農業後継者としての亡政治に対して、別紙物件目録(2)記載の不動産を購入してこれを亡政治名義に登記して、実質上これを贈与している事実が認められる。

そして、上記贈与は今回の寄与分を定めるについて考慮すべき一切の事情に含まれるものと解されるので、これらの事情も含めて亡政治の寄与の態様、期間等を考慮すれば、その寄与は上記贈与を上廻るものと認められ、その上廻る額は上記不動産の価額の5%相当の1,771,000円と認めるのが相当である。

よって、双方の寄与分の合計額は5,314,000円となる。

4  特別受益

本件記録によれば、相続人のうち申立人一成は、地元の高等学校卒業後上京して2年間予備校に通い、その後○○大学に進学して卒業したが、うち4年間は被相続人から月額約15,000円総額約720,000円の送金を受けたこと、また、昭和55年同人の自宅の建築に際し、その代金として被相続人から1,000,000円の贈与を受けたこと、その他の相続人洋介、美知子、佳子や亡政治らは地元の高等学校や専修学校を卒業後就職したが、特に生計の資本としての贈与を受けたようなことはなかったことなどの事実が認められる。

上記認定の事実によれば、申立人一成に対する学資や建築資金は生計の資本としての贈与であって、特別受益に該当するものというべきである。

そこで、貨幣価値の変動を考慮して総理府統計局の物価指数によって上記金額の相続開始時の金額を算出すると、次のとおりとなる。

720,000円×100(昭和60年度物価指数)/36.9(昭和45年度物価指数) ≒ 1,951,000円

(学資の送金は昭和44年から同48年までであるので一応45年の物価指数を採用)

1,000,000円×100(昭和60年度物価指数)/87.3(昭和55年度物価指数) ≒ 1,145,000円

よって、申立人一成の特別受益額は3,096,000円となる。

5 相続分の算定

(1)  みなし相続財産

上記認定の各事実によれば、みなし相続財産は、次のとおりとなる。

35,427,000円+3,096,000円-5,314,000円 = 33,209,000円

(2)  各相続人の具体的相続分

申立人よし子

33,209,000円×1/2+3,543,000円 ≒ 20,147,000円

申立人洋介、同美知子、同佳子

33,209,000円×1/10 ≒ 3,321,000円

申立人一成

33,209,000円×1/10-3,096,000円 ≒ 225,000円

相手方らの合計

33,209,000円×1/10+1,771,000円(寄与分)+3,195,000円(居住利益) ≒ 8,287,000円

(3)  各相続人の現実の取得額

上記認定のとおり本件遺産の現在価額は32,068,000円であるので上記具体的相続分の比率を乗じて算定すると、次のとおりとなる。

申立人よし子

32,068,000円×20,147,000/38,622,000 ≒ 16,729,000円

申立人洋介、同美知子、同佳子ら

32,068,000円×3,321,000/38,622,000 ≒ 2,757,000円

申立人一成

32,068,000円×225,000/38,622,000 ≒ 187,000円

相手方ら

32,068,000円×8,287,000/38,622,000 ≒ 6,881,000円

6 各相続人の生活状況、遺産分割に関する意見書等

(1)  申立人よし子(大正4年3月30日生)は、昭和24年頃の本件建物の建築以来これに居住して現在に至っている。そして、高齢で無職ではあるが、本件遺産中の田、畑を貸付けてその小作料や年金等で生活している。

しかし、相手方らとは不仲のため、現在では本件建物を区分けして別居生活を送っているが、将来とも元気な間は本件建物に居住していたい旨の意向を有し、そのため本件建物の取得を強く望んでいる。

(2)  申立人洋介は、現在○○○××支社に勤務しているが、○△市に自宅を所有している。しかし、将来とも郷里の○○町に帰り、本件建物に居住して農業を継ぐなどの予定はない。そして、将来は母よし子を○△市の自宅に引取り扶養したい希望を有しているが、現在では母が本件建物を相続してこれに単独で居住していてもらいたい旨希望している。

なお、同人はその取得する農地、山林等については、差し当たり申立人ら兄弟の共有名義のままとし、将来必要の際分割したい旨希望している。

(3)  申立人一成は、大学卒業後○○○○○○○に就職し、各地の勤務を経て、現在は△○市で勤務中である。そして、△△市に自宅を有しているが現在では他に賃貸中である。従って、現在のところ郷里に帰って落着く予定はない。

なお、遺産分割に対する意見は申立人洋介と同様である。

(4)  申立人美知子は、昭和32年○○郡○○町の農家に嫁し、現在も農業に従事している。そして、遺産分割に対する意見は申立人洋介と同様である。

(5)  申立人佳子は、昭和42年○○郡○○○町に嫁し、現在会社員として稼働しているが、遺産分割についての意見は申立人洋介と同様である。

(6)  相手方らは、父政治死亡後も母奈々子と共に現在まで本件建物に居住しているが、母奈々子が申立人よし子との折り合いが悪いため、本件建物を事実上区分けして別居生活を送っている。

そして、奈々子は現在日雇として稼働しているが、亡夫の年金等も加えて生活している。

また、相手方真子は平成3年3月看護学校を卒業して○○○○○病院に勤務することとなっており、相手方雄一は地元高校の3年生で、来春は県内の大学への進学を希望しており、相手方浩久は中学3年生である。

なお、奈々子は遺産分割後も本件建物に継続して居住したい旨希望している。

(7)  調停の経過

本件の調停においては、先ず本件土地建物を相手方らが取得するが、申立人よし子はその存命中上記建物に居住できるものとし、その間両者は家の区分けをして別居生活を行う旨の案が検討されたが、相手方らにおいて区分け方法についての不満が強く、上記案による解決はできなかった。

そこで、相手方らにおいて他に住宅を建築して本件建物から退去する案が検討された。そして、宅地用の土地のほか建築資金を申立人らにおいて負担する旨の案が検討されたが、申立人らは相手方らの400万ないし900万円の建築資金の要求に応じられないと主張したため、結局調停は不成立となった。

7 当事者各自の具体的取得分

以上認定の本件遺産に属する各不動産の種類、状況、各相続人の職業、生活状況、住居状況、遺産分割に対する意見並びに調停の経過等一切の事情を考慮すると、次のように分割するのが相当と思料される。

(1)  申立人よし子は、結婚後被相続人と共に本件建物を建築し、爾来40年以上もこれに居住していること、現在高齢ではあるが、存命中右建物に居住していたい旨強く希望していること、子供であるその余の申立人らもその意見に同調していることを考慮すると、申立人よし子の希望も無理からぬものと認められるので、別紙物件目録(1)の31、32、33、34、記載の各土地及び35、36、37記載の建物、10記載の畑、23、26記載の各山林(合計16,727,000円相当)を取得させるのが相当である。

(2)  申立人洋介、同美知子、同佳子らは、既に実家を出て、居住用の住宅も所有しており、かつ、郷里に帰って本件遺産を使用して農業を営むような状況ではない。

そして、同人らは相続すべき不動産については暫くは共有名義のままとしておき、時期をみて換価処分などして分割したい希望を有しているが、遺産の状態よりすれば、上記方法が最も適切なものと考えられる。

そこで、上記のとおり申立人洋介、同美知子、同佳子の具体的相続分は同一であるので、別紙物件目録(1)の1ないし7、11、12、13、14、16、19、20、21、27、28、29、30記載の各物件(合計8,260,000円)を取得させることとし、その持分は各3分の1とするのが相当である。(ただ上記30記載の物件は事実上他人に売却して登記名義のみが被相続人名義になっているものであるが、その所有権移転登記義務の承継者として、上記3名の取得とした。)

また、申立人一成の取得額は187,000円であるので、別紙物件目録(1)の22、24、25記載の山林(合計185,000円)を取得させることとする。

(3)  相手方らは、後記のとおり本件建物から退去して、他に居住用建物を求める必要があるので、その宅地あるいは建築資金調達等の諸点も考慮して別紙物件目録(1)の8、9、15、17、18記載の不動産(合計6,896,000円)を取得させることとし、その持分は各3分の1(相手方らはまだ年少であるので、後刻協議して再分割するのが相当と認められる。)とするのが相当である。(上記のとおりであるから、相手方らの取得分は申立人洋介らの約2.5倍であり、亡政治が生前贈与を受けた別紙物件目録(2)記載の不動産分も含めると、申立人洋介らの約5倍以上となるので、法定相続分としては申立人洋介らと同じ10分の1にしか過ぎない相手方らの上記取得分は、決して小額に過ぎるということはできない。)

(4)  上記のように遺産を分割する場合、各相続人の取得する不動産の価額と具体的な相続分の比率は完全には一致せず1万円前後の過不足が生ずることとなるが、その遺産の多くが農地や山林であってその評価の正確性の保持が困難であること等を考慮すると、上記小額の過不足をもって相続人相互間に代償としての調整金を支払わせるまでの必要はないものと認める。

(5)  上記のとおり、申立人よし子は本件土地、建物を単独取得し、これに居住することとなるので、相手方らは本件建物から退去してこれを申立人よし子に明渡すべき義務があるところ、相手方らが住宅を確保するためにはその新築等を含めて相当の日時を要するものと認められるので、相手方らの本件建物の明渡しは本審判確定後1年6ヶ月の余裕を置くのが相当と思料される。

8 なお、鑑定人○○○○に支払った鑑定料700,000円は申立人らの負担とし、その余の手続費用は各自の負担とする。

よって、主文のとおり審判する。

(家事審判官 藤高正昭)

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