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熊本家庭裁判所 昭和61年(少ハ)1352号 決定 1986年12月08日

少年 M・S(昭46.10.13生)

主文

少年を初等少年院に送致する。

本件強制措置許可申請を却下する。

理由

(非行事実)

少年は、

1  Aと共謀のうえ、昭和61年9月11日から同月12日までの間、前後6回にわたり、別紙犯罪事実一覧表(1)記載のとおり、熊本市○○町××番地×○○ハイツ自転車置場ほか5か所において、Dほか5名所有の自転車2台、エロ本類10冊、ハンドバツグほか7点(時価合計6万3270円相当)及び現金1万8000円位を窃取し、

2  B、Cと共謀のうえ、昭和61年9月19日から同月23日までの間、前後8回にわたり、別紙犯罪事実一覧表(2)記載のとおり、同市○○×丁目×番×号○○ほか6か所において、Jほか7名所有にかかる現金2万1300円位及び原動機付自転車など8点(時価合計19万2000円相当)を窃取したものである。

(法令の適用)

各事実について刑法235条、60条

(処遇の理由)

1  本件受理までの経緯

(1)  少年は、小学校低学年のころからいじめなどの問題行動を示し、高学年になると実母の財布から金銭を盗みだしたことがあり、6年生の時には侵入盗5件を引き起こし、その件で昭和58年9月27日児童相談所に通告された。

(2)  中学に入学すると、1年生のころはサッカー部に入部し熱中していたが、2年生になると同部を辞め、進級の前後にかけて10回位万引等の行為に及んだ。昭和60年10月と11月には原動機付自転車等の窃盗を働き、この件で昭和61年7月15日当庁において審判を受けている。

(3)  児童相談所はこうした事情にかんがみ、実母や中学校側と話し合いのうえ、昭和61年1月28日、少年を教護院である清水が丘学園に入園させ、非行性の除去を図ることとした。

(4)  少年は、入園に当たり母とも話し合い納得していたが、入園の2日後の同月30日には早くも無断で外出し、本件受理時まで合計8回にわたり無断外出を繰り返していた。殊に、同年夏を過ぎると、無断外出が頻繁かつ広域化し、その度に窃盗事件を犯すようになつた(上記認定事実はその一部である)ため、同年10月28日、児童福祉法27条の2に基づき当庁に送致され、同年11月4日当庁において熊本少年鑑別所に送致された。

(5)  児童相談所の意見の要旨は、少年は入園中規則違反を繰り返し、他の児童との関係も悪く、無断外出が常習化しているので、数護の限界を超えており、少年が復園するとなると他の児童への悪影響も危ぐされるので、閉鎖施設での保護が適当である、というものである。

2  少年の性格・環境等

(1)  少年の亡父はクラブ勤めをしていた母と知り合い、昭和43年ころ婚姻したが、亡父は身持ちが悪く、転職を繰り返すなどし、昭和51年11月病死した。母はその前から再び水商売に従事するようになり、少年の面倒は母方祖母に見てもらつていた。そして、昭和58年ころ内夫と知り合い、翌年から内夫は少年宅に同居している。

(2)  母自身依存的な性格であり、また長年水商売に従事してきたため、少年が幼いころから欲しがる物を買い与えるだけで充分愛情を注ぐことなく今日に至り、少年は母の愛情に飢えているだけでなく、基本的な生活習慣等も全く身に付いていない。欲しい物や金銭を手に入れることが少年の愛情欲求の不充足感に対する唯一の慰めであつたとも推測され、度重なる窃盗行為はその意味で一種の代償行動であつたとも考えられる。

(3)  同居している母の内夫は、少年に対し父代わりとして振舞つてきた様子ではあるが、当然のことながら少年は心の内で内夫を嫌つており、母は少年の内面に充分目を向けることができず、将来は内夫と婚姻するつもりである。

(4)  少年は、知能的にも恵まれず、基礎学力も欠いており、我がままで即行的な性格傾向を持つにいたつており、鑑別所内でも、出所できるかどうかが専らの関心事であり、非行についての反省は乏しく、施設に入所させられると却つて悪くなる旨日記に書くなど、他罰的な構えが指摘されている。

3  まとめ

以上の事情によると、少年の生育歴は不遇であつて性格・環境上の問題点にも根深いものがあり、このまま教護院において適切な教護を施すことは困難と言わざるを得ない。とは言え、少年の母に対する思慕の情は強く、母との関係を断ち切ることにつながり兼ねないような、遠隔地や長期の施設処遇も適当とは思われない。差し当たり、母との接触の機会の確保と中学校の課程を終了させるのを処遇の重点に置き、社会内処遇への移行に当たつては、就職指導、家庭環境の調整を強力に行うことが相当と思われる。

よつて、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項を適用して、少年を初等少年院に送致し(一般短期処遇)、強制措置許可申請については、その必要がないのでこれを却下することとして、主文のとおり決定する。

(裁判官 平井治彦)

犯罪事実一覧表(1)

番号

日時

犯罪場所

被害者

被害金品

数量

価格

(約円相当)

昭和61年9月11日

熊本市○○町××番地×○○ハイツ自転車置場

自転車

1台

3,000

同日

熊本市○○町××番地○○団地×-×棟自転車置場

自転車

1台

2万

同日

熊本市○○町××番地○○書店内

エロ本

雑誌

2冊

3冊

2,290

同日

熊本市○○町××番地○○店内

現金

ハンドバック他

合計

8点

1万8,000

3万5,000

同月12日

熊本市○○町××番地○○書店店内

エロ本

2冊

1,480

同日

熊本市○○町××番地○○書店店内

エロ本

ビニ本

2冊

1冊

1,500

犯罪事実一覧表(2)

番号

日時

犯罪場所

被害者

被害金品

数量

価格

(約円相当)

昭和61年9月19日

熊本市○○×丁目×番×号○○店

現金

2万1,300

同月20日

山鹿市○○××番地×○○コーポ横

原動機付自転車

1台

1万

同月21日

山鹿市○○××番地の×L方車庫

同上

2台

10万2,000

同日

山鹿市○○××番地M方納屋

同上

1台

2万

同日

鹿本郡○○町○○××番地○○団地公民館広場

自転車

1台

2万

同日

同所

同上

1台

2万

同月22日

山鹿市○○××番地○○モータース東側路上

自転車

1台

1万

同月23日

熊本市○○町○○××番地(株)○○建設玄関前

原動機付自転車

1台

1万

〔参考〕 送致書

中児相第649号

昭和61年10月28日

熊本家庭裁判所長殿

熊本県中央児童相談所

児童送致書(送付)

下記児童を児童福祉法27条の2により送致します。

児童

氏名、生年月日

本籍

現住所

M・S、昭和46年10月13日生(満15歳)

熊本市○○町×番地の×

本籍に同じ

保護者

氏名・生年月日

本籍

現住所

職業

M・R子、昭和11年8月28日生(満50歳)

少年に同じ

本籍に同じ

焼鳥屋店員

1 審判に付すべき事由

児童は児童福祉法第27条第1項第3号により、昭和61年1月28日付けで教護院措置となったが、入園後も無断外出を繰り返し、最近にいたっては無断外出を重ねるたびに行動範囲も熊本市だけでは納まらず、山鹿市、八代市と広域化し併せて空巣、万引き等の手口も大胆となってきており、このためこのまま普通教護を続けることは、他児童に対する悪影響はもちろんのこと、児童自身の福祉を害するおそれが非常に強いため強制的措置の必要があると思われる。

2 参考資料

(1) 清水が丘学園行動記録(与)

(2) 児童記録票(与)

(3) 戸籍謄本(与)

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