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熊本家庭裁判所 昭和42年(少)976号 決定 1967年10月03日

少年 D・N(昭二四・一・二三生)

主文

<1>  少年を中等少年院に送致する。

<2>  当裁判所が昭和四一年二月一一日なした「少年を熊本保護観察所の保護観察に付する。」旨の決定はこれを取消す。

理由

(非行事実)

少年は、

一、昭和四二年三月○日午後九時頃、熊本市○○町○○○番地パチンコ店○尻会館店内において、パチンコ遊戯中パチンコ台取付の椅子をガチャガチャ音をさせていたことを同店の手伝いをしていた○瀬○大から「他の客に迷惑になるからやめてくれ云々」と注意されたことに立腹し、「表さん出ろ」と言いながらいきなり左手拳で同人の顔面を二回殴打し、よつて同人に対し治療一週間を要する顔面打撲傷を与えた。

二、Aと共謀の上、同年三月○○日午後二時すぎ頃、同市△△町○番○号△△町有料駐車場前に駐車中の自動車(熊四に三九三)運転席より同市△△町○番○○号有限会社○晃社所有、同社代表取締役塩○皎(四二歳)管理に係る給油券一冊を窃取した

三、B外二名と共謀の上、右窃取した給油券を使用してガソリンを騙取せんことを企て、右同日午後四時頃、同市××町○町○○番地○辺石油スタンド○辺○喜方に至り同店員○辺○紀(二三歳)に対し、Bが事実有限会社○晃社の者でないのに同社員の如く装つて前記給油券を交付して、同人を誤信せしめ、即時同所において同人より○辺○喜所有に係るガソリン三八・四リットル時価(一、七六六円相当)の交付を受けてこれを騙取した

四、同年四月○日午前一時三〇分頃、熊本県飽託郡○○村大字○○字○○×××番地日用品店○坂○世(三九歳)方の軒先において、同人所有に係るナイロンテグス二五個(時価七五〇円相当)を窃取した

五、成人A、Cと共に、同年四月○○日午後一〇時四〇分頃、熊本市△△町○○○×××番地○島○喜方前道路を観光タクシーに乗用して進行中、前方で電工見習○島○博(一六歳)が父○島○喜とリヤカーから屋台道具をおろしているため、通れないので成人Aが因縁をつけ、○島○喜に対し暴行を加える際、仲裁せんとした○島○博の胸部を屋台用の木棒で一回突き、右頬を左拳で一回殴打する等の暴行を加え、よつて同人に対し全治一週間を要する胸部打撲傷を負わせた

六、成人Aと共に、前記日時場所において、○島○喜等家族に対し「警察を呼ぶなら呼べ」とすごみながら、タコ焼材料入りの瓶三本をたたき割つた上、屋台用の木の棒、瓶の破片等を用いて、○島○喜方の玄関横表側窓ガラス六枚をたたき割り、もつて共同して器物を損壊した

七、友人Dとともに、同人方アパートから逃げ出した同人の愛人○下○子を無理にでも連れ戻そうとして、同年七月○日午後六時五分頃、同市○○○町○○×番地飲食店「○ず○ん」こと○村△子方に押しかけ、同女の夫○村○(三三歳)に対し「ちよつと話があるから○子をかしてくれ」といつたが、同人が「話はないから」と断わり一一〇番に電話をしたことに憤慨し、Dと共謀の上、同店前路上において、○村○の腹部、顔面等を数回殴る蹴るの暴行を加え、よつて同人に対し腹部打撲および鼻部打撲傷、左前腕部擦過傷により加療約一週間を要する傷害を負わせた

八、酒気を帯び、かつ公安委員会の運転免許を受けないで、前同日午後六時一五分頃、同市○○○町○○×番地飲食店「○ず○ん」附近道路において、普通乗用自動車(熊○○第○○-○○号)を運転した

ものである。

(罰条)

一、五、七は刑法第二〇四条

二、四は同法第二三五条

三、は同法二四六条一項

六、は暴力行為等処罰に関する法律第一条

八、は道路交通法第六四条、第一一八条一項一号、第一二二条

(以上の外二、三、五、七については刑法第六〇条)

(処遇)

調査、鑑別並びに審判の結果によれば、

(一)  少年は、道路交通法違反の非行四回(内一件は検送)、窃盗の非行一回の前歴があり、右窃盗の非行により昭和四一年二月一一日当裁判所において保護観察の処分を受け現に継続中であること

(二)  少年は、熊本市の暴力団「○月○日」グループの輩下で、本件非行事実中二、三、五、六、七は同グルーブの者と共謀の非行であること

(三)  少年は、昭和四二年六月一四日試験観察により熊本県飽託郡河内芳野村の荒木誠孝宅に補導委託となつたが、同月二三日実家に帰つたまま委託先に戻らず、間もなく実家から行方を晦まして「○月○日」の許に戻つて同人方に寝泊りしているうち同グループの友人Dと共謀して七の非行を敢行していること

(四)  昭和四二年七月一二日六、七の非行により再び観護措置決定の処分を受けた後同年八月八日審判の結果六月一四日なした試験観察決定を取消した上即時改めて試験観察に付し、即日八代市東片町の北岡清雄方に委託されたものであるが、同月一九日無断家出して実家に帰つたまま再び北岡氏宅に帰らず、他方父と相談して当裁判所宛の嘆願書と診断書を提出して、委託先における受託者の少年に対する処遇を針小棒大に非難攻撃して、少年が委託先より逃げ帰つたことを正当化しようとしている(担当調査官をして直ちに嘆願書に記載された事実の有無について調査せしめたところ、そのような非難すべき事実がないことが判明した。また診断書を作成した医師牧野豊についても調査したところ、少年の病気は農薬による中毒症状ではなく、ちよつとした風邪による扁桃腺炎であること、少年は八月二一日一回来診したのみでその後は治療を受けていないことも判明した)

(五)  少年は、委託先北岡清雄方に復帰する意思がないのみならず、電気の配線工事の手伝にゆくと称して実家を出ては外泊していたこと(調査官は少年の言をもとにその稼働先を調査したがそのような職場はなかつた)

(六)  昭和四二年九月五日先になした八月八日付試験観察決定を取消した上即時改めて試験観察に付し荒尾市の前村忠男方に補導委託されることとなつたが、少年および保護者は少年が前村方に委託されることを拒否し、同人等の希望により一日の猶予期間をおいて前村氏宅に行くように命じたが、その後も当裁判所の命を無視して前村氏宅に出頭しなかつたこと

(七)  少年の保護者等は少年を庇うことのみに終始して補導委託による試験観察に協力せず、少年を自宅で監督指導する能力に欠けているに拘らず、在宅による試験観察を強く要望してゆずらず、遂には贈賄によつて担当調査官に善処方を依頼しようとしたが担当調査官がこれを拒否したので未遂に終つたこと

が各認められる。

以上認定事実に本件非行の態様、回数および少年の性格(弱性格で不良親和性がかなりみられる)並びに保護者の過保護等を綜合すれば、再犯の惧れがあるのでこれを防止しその保護育成を期するためには少年を長期間施設に収容して一貫した矯正教育をほどこす必要が認められる。

よつて、少年法第二四条一項三号、少年審判規則第三七条一項、少年法第二七条二項を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 大迫藤造)

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