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熊本地方裁判所玉名支部 昭和49年(ワ)55号 判決 1979年6月15日

原告

兼光千恵子

被告

宮田博昭

ほか一名

主文

一  被告らは各自原告に対し、金八八二万七、八二〇円及びこれに対する昭和四九年二月一五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを一〇分し、その四を原告の、その余を被告らの各負担とする。

四  この判決は原告勝訴の部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告の請求の趣旨

(一)  被告らは各自原告に対し、金一、五〇〇万円及びこれに対する昭和四九年二月一五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  訴訟費用は被告らの負担とする。

(三)  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する被告らの答弁

(一)  原告の請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  原告の請求原因

(一)  事故の発生

被告宮田は、飲酒のうえ、昭和四九年二月一四日午前一時頃、助手席に被告釘崎、後部座席に原告が同乗する被告釘崎所有の普通乗用自動車(熊五五―八六九三号)を運転し、荒尾市緑ケ丘桧町三六棟宮本方先路上を時速約七〇ないし八〇キロメートルで進行中、運転を誤り、右自動車を進行方向に向つて右側の歩道を乗り越えて土手に衝突させ、自動車の前部を下、後部を上にした状態で屋根部分を土手脇の桜の大木に衝突させた。

そのため、原告は、脊髄損傷、右第一二胸椎脱臼骨折、右第五、六、七、八肋骨骨折、右気胸、右第一、二腰椎横突起骨折、肝損傷、顔面挫創の傷害を負い、下半身不髄(自賠法施行令別表の一級五号相当)の後遺症が残つた。

(二)  被告らの責任

1 被告宮田は、飲酒していたので運転をしてはいけない注意義務もしくは仮に運転するとしても自己の能力に応じた速度で安全に進行すべき注意義務があるのにこれを怠り、時速約七〇ないし八〇キロメートルで運転を継続した過失により本件事故を発生させたものであるから、民法七〇九条により損害賠償義務がある。

2 被告釘崎は、本件事故車両を所有し、自己のために運行の用に供していたものであるから、自賠法三条により損害賠償義務がある。

(三)  損害額

1 治療費 六〇万円

原告は、夫の加入する船員保険より治療費の給付を受けたが、三万円を限度として治療費の三割を負担しなければならなかつたところ、昭和四九年二月一四日から昭和五〇年九月末日までの入院期間中(二〇カ月)の自己負担額は毎月三万円であつた。

2 入院中の諸雑費 二九万六、五〇〇円

前記1記載の入院期間五九三日の諸雑費は一日五〇〇円を下らない。

3 入院中の付添看護費 八八万九、五〇〇円

右入院期間五九三日の全期間に付添看護が必要であり、付添看護費は一日一、五〇〇円が相当である。

4 逸失利益 四、一〇一万一、〇九一円

原告は、事故当事年齢一九歳の主婦であり、家事労働にたずさわるかたわら、他で働いていたもので、今後も働く意思及び能力を有していたが、本件事故により労働能力を一〇〇パーセント喪失した。

原告の逸失利益は左記(イ)ないし(ヘ)の計四、一〇一万一、〇九一円となる。

(イ) 昭和四九年二月一五日から昭和五〇年二月一四日までの分八七万六、七〇〇円(昭和四九年度賃金センサス産業計・企業規模計女子労働者一八―一九歳の年間給与額)

(ロ) 昭和五〇年二月一五日から昭和五一年二月一四日までの分一二七万九、七〇〇円(右同昭和五〇年度の二〇―二四歳のもの)

(ハ) 昭和五一年二月一五日から昭和五二年二月一四日までの分一三九万〇、八〇〇円(右同昭和五一年度のもの)

(ニ) 昭和五二年二月一五日から昭和五三年二月一四日までの分一五一万四、八〇〇円(右同昭和五二年度のもの)

(ホ) 昭和五三年二月一五日から昭和五四年二月一四日までの分一五一万四、八〇〇円(右同昭和五二年度のもの)

(ヘ) 昭和五四年二月一五日以降の分三、四四三万四、二九一円(昭和五二年度賃金センサス全産業女子労働者の企業規模計の年間給与所得額一五二万二、九〇〇円、昭和五四年二月一五日の年齢二四歳、就労可能年数四三年、ホフマン係数二二・六一一として計算)

5 慰藉料 一、〇三〇万円

(イ) 傷害に対する慰藉料 二三〇万円

(ロ) 後遺症に対する慰藉料 八〇〇万円

(原告が本件事故により受傷した苦痛ははかり知れないものがあり、また、今後一生下半身不髄の身で生きていかなければならない苦痛ははかり知れないものがある。)

6 弁護士費用 八〇万円

(四)  損害の填補

原告は、自賠責保険から傷害分として八〇万円(但し、原告負担部分に充当された額は九万円)、後遺症分として一、〇〇〇万円の支払を受けた。

(五)  よつて、原告は被告ら各自に対し、右(三)の1ないし6の合計額から(四)の一、〇〇九万円を控除した四、三八〇万七、〇九一円の損害賠償請求権があるが、右の内金一、五〇〇万円及びこれに対する本件事故の翌日である昭和四九年二月一五日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する被告宮田の答弁

(一)  請求原因(一)のうち、事故車両の速度、原告の受傷の部位、程度、後遺症については否認、その余は認める。

(二)  請求原因(二)1のうち、被告宮田が飲酒していたことは認めるが、その余は否認。

(三)  請求原因(三)は全部否認。

家事労働の主婦の収入についての評価額は、一般女子労働者の平均賃金の半額以下に評価されるべきであり、また、原告は相当程度健康状態を回復し、昭和五三年五月二二日長女を出産したことが認められるので、労働能力の喪失率は七〇パーセント以下とすべきであつて、原告主張の逸失利益、慰藉料の額は相当に減額されるべきである。

(四)  請求原因(四)は認める。

自賠責保険給付は全額損害金に充当されるべきである。

(五)  請求原因(五)は争う。

三  請求原因に対する被告釘崎の答弁

(一)  請求原因(一)のうち、事故車両の速度、原告の受傷の部位、程度、後遺症については不知、その余は認める。

(二)  請求原因(二)2は認める。

(三)  請求原因(三)は全部不知。

原告は軽易な家事労働に従事する能力は失つていないので、労働能力喪失率は一〇〇パーセントではない。

(四)  請求原因(四)は認める。

(五)  請求原因(五)は争う。

四  被告宮田の抗弁

原告は、本件事故当日被告らが立寄つたスナツクバーに勤務していたものであり、自動車できていたためコーヒーを注文した被告らに対してビールを勧め、しかも被告宮田が飲酒酩酊していることを知りながら敢えて同被告運転の自動車に同乗して家まで送つてくれるよう依頼した過失があり、損害額の算定にあたつては、少くとも五割ないし七割を過失相殺すべきである。

五  被告釘崎の抗弁

原告は、被告らが自動車できていることを知りながら、自ら酒類を提供し、しかも被告宮田が酔つていることを知りながら同乗したものであつて、損害額の算定にあたつては、過失相殺もしくは好意同乗による減額がなされるべきである。

六  被告らの抗弁に対する原告の答弁

被告らの抗弁はいずれも争う。

第三証拠〔略〕

理由

第一事故の発生及び責任原因

一  被告宮田が、飲酒のうえ、請求原因(一)記載の日時、場所において、同記載のように被告釘崎、原告らを同乗させて運転中、同記載の交通事故を発生させたことは当事者間に争いがない。

二  成立に争いがない甲第五、第七ないし第一五、第一七ないし第二〇、第二五ないし第二九号証、原告、被告両名各本人尋問の結果によると、本件事故車両の事故時における速度は時速約六〇キロメートルであつたこと、被告宮田は飲酒していたため正常な運転ができないおそれがあつたので運転を避止すべき注意義務があつたのにそれを怠り、運転を継続した過失により本件事故を発生させたものであること、原告は本件事故により請求原因(一)記載の傷害を負い、同記載の後遺症が残存したことが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

三  従つて、被告宮田は民法七〇九条により原告の損害を賠償すべき義務があり、また、被告釘崎が本件事故車を所有し、自己のために運行の用に供していたことは原告と被告釘崎との間に争いがないので、被告釘崎は自賠法三条により原告の損害を賠償する責任がある。

第二損害

一  治療経過及び後遺症の残存

成立に争いがない甲第二五ないし第二九号証、第三〇号証の一ないし一〇、証人兼光孝行の証言、原告本人尋問の結果を総合すると、原告は昭和四九年二月一四日入院し、昭和五一年四月一〇日退院したこと、原告には請求原因(一)記載の後遺症が残存し、右症状は昭和五〇年四月一七日頃固定したこと、右後遺症は当時の自賠法施行令別表の第一級五号に該当すること、退院後車椅子で食事の用意等ができるようになつたものの、排尿はベツドの上で行ない尿器の尿を捨てたり、入浴したりするには他人の手を借りなければならないことが認められ、右認定に反する証拠はない。なお、原告が昭和五三年五月二二日に長女を出産したことは当事者間に争いがない。

二  治療関係費 一七八万六、〇〇〇円

1  治療費 六〇万円

前記甲第三〇号証の一ないし一〇、証人兼光孝行の証言、原告本人尋問の結果を総合すると、原告は昭和四九年二月から昭和五〇年九月までの二〇カ月間、治療費の自己負担分として毎月少くとも三万円の支払を余儀なくされたことが認められる。

2  入院雑費 二九万六、五〇〇円

前記認定の原告の入院期間が原告主張の五九三日を超えることは明らかであり、右の期間中一日五〇〇円の割合による合計二九万六、五〇〇円の入院雑費を要したことは、経験則上認められる。

3  入院付添費 八八万九、五〇〇円

原告本人尋問の結果によると、入院後半年位は原告の実家の者が付添い、その後は原告の夫が付添つたことが認められ、前記認定の傷害の部位、程度、後遺症の症状等に照すと、原告主張の五九三日間は付添看護が必要であつたことが明らかであり、右付添による損害は一日一、五〇〇円を下らないものと認めるのが相当であるから、原告主張の付添費八八万九、五〇〇円は本件事故と相当因果関係ある損害と認められる。

三  逸失利益 二、〇〇九万三、七〇〇円

成立に争いがない甲第一〇、第一一号証、乙第二号証、証人兼光孝行の証言、原告本人尋問の結果によると、原告は昭和二九年三月二〇日生れの女性であり、昭和四九年一月一四日訴外兼光孝行と事実上の夫婦生活を始め(婚姻届出は同年三月一一日)、本件事故当時家庭の主婦として日常家事労働に従事するかたわら定時制高校に通い(同年三月卒業)、実兄の妻訴外松永滝子の経営するスナツク「ブービー」の手伝をしていたことが認められ、これに反する証拠はなく、右事実に照すし、原告の家庭の主婦としての就労可能年数は昭和四九年二月一五日から四八年間と考えられ、その間原告は少くとも毎年八七万六、七〇〇円(昭和四九年賃金センサス産業計、企業規模計、女子労働者学歴計一八~一九歳の平均年収額)を下らない財産的利益得ることができたものというべきところ、前記認定の後遺障害の部位、程度、退院後の生活状況、労働の内容が家事労働であること等の諸事情に照せば、労働能力喪失率は右の期間を通じて九五パーセントと認めるのが相当であり、年別ホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると、二、〇〇九万三、七〇〇円となる。(計算式八七万六、七〇〇×〇・九五×二四・一二六=二、〇〇九万三、七〇〇)

四  慰藉料 九五〇万円

本件事故の態様、傷害の部位、程度、後遺障害の内容、程度等諸般の事情を総合すると、原告の慰藉料額は九五〇万円が相当であると認められる。

第三過失相殺の準用による減額

一  成立に争いがない甲第五、第八ないし第一五、第一七ないし二〇号証、証人宮田敏治、同松永平八郎、同松永滝子の各証言、原告、被告宮田、同釘崎の各本人尋問の結果を総合すると次の事実が認められ、右各証拠のうち左記認定に反する部分は措信できず、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

1  原告は、本件事故当時実兄松永征之介の妻滝子の経営するスナツクバー「ブービー」の手伝をしており、被告釘崎とは定時制高校の同級生であつたところから、学校から右「ブービー」まで同被告の運転する自動車に乗せてもらつたことが数回あつたが、「ブービー」から帰宅する際は、たいてい、「ブービー」の隣で大人の玩具店を経営していた実兄松永平八郎に送つてもらつていた。

2  本件事故の前日である昭和四九年二月一三日の午後九時三〇分頃、被告釘崎はたまたま同被告方へ遊びに来ていた友人の被告宮田を被告釘崎の運転する本件自動車に同乗させて「ブービー」に赴いた。被告釘崎としては、コーヒーでも飲んで原告から古典のノートを借りるつもりであつたが、原告が以前に被告釘崎に学校から店まで送つてもらつたことに対する謝礼の意味から、「今日はおごるから。」と言つてビールを出した。そこで、被告釘崎、同宮田はビールを飲み始めたが、被告釘崎は飲酒しても自動車に乗つて帰るつもりだつたので控え目に飲んでいたのに対し、被告宮田はビールのほか、日本酒、ウイスキーを飲みかなり酩酊していた。同日午後一一時頃、前記松永平八郎が「ブービー」に来て、飲酒していた被告釘崎に対し、用事ができて送つていけなくなつたので松永滝子と原告を家まで送つてくれるように頼み、被告釘崎はこれを承諾した。翌二月一四日午前零時頃、店を閉めることとなり松永滝子と原告は店のあとかたづけを始め、被告釘崎がそれを手伝つたが、被告宮田は、被告釘崎と飲酒中、被告釘崎が「飲酒運転をして捕まれば免許証の点数が足りなくなる。」などと話していたので、被告釘崎が被告宮田に対し、暗に運転をしてくれるように頼んだものと思い、カウンターの上に置いてあつた自動車の鍵を持つて一足先に店外へ出た。

3  被告宮田が本件自動車の運転席に乗り、原告と前記松永滝子が後部座席に、被告釘崎が助手席に同乗したのであるが、その際、被告釘崎が同宮田に対し、「大丈夫か。」と尋ねたところ、同人が「大丈夫だ。」と答え、同人が運転して原告及び松永滝子を送つていくことになり、被告釘崎並びに原告、松永滝子らが道順を教えながら進行し、本件事故現場にさしかかつた際、前記認定の本件事故が発生した。(なお、原告及び松永滝子が、被告宮田運転の自動車に乗車する際においても、乗車後においても、タクシーを呼ぼうとした事実及び被告宮田に対し、「タクシーで帰る。」とか、「タクシーで帰るから降して下さい。」などと言つた事実は認められない。)

4  また、本件事故直後に測定されたアルコール保有量は呼気一リツトル中、被告釘崎は〇・二五ミリグラム未満、同宮田は一・五ミリグラム以上であつた。

二  右認定の事実によれば、被告宮田がかなり酩酊していることを知りながら、同人の運転する自動車に同乗した原告にも相当程度の落度があり、同乗の態様、目的等諸般の事情を合わせ考えると、損害額の公平な分担という観点から、過失相殺の法理の準用により、原告の損害の四割を減ずるのが相当と認められる。

第四損害の填補

原告が自賠責保険から一、〇八〇万円を受領したことは当事者間に争いがない。

第五弁護士費用

本件事案の内容、審理経過、請求額及び認容額等の諸事情に照すと、原告が被告らに対して請求しうる弁護士費用額は八〇万円と認めるのが相当である。

第六結論

よつて、被告らは各自、原告に対し、八八二万七、八二〇円及びこれに対する本件不法行為の日の後である昭和四九年二月一五日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があり、原告の本訴請求は右の限度で理由があるのでこれを認容し、その余の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 赤木明夫)

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