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熊本地方裁判所 昭和37年(ヨ)106号 決定 1962年8月30日

申請人 新日本窒素肥料株式会社

被申請人 合成化学産業労働組合連合新日本窒素水俣工場労働組合

主文

申請人が被申請人に対し、金一〇〇万円の保証を立てることを条件として

一、被申請人組合は別紙(一)目録記載の申請人会社水俣工場正門(以下別紙図面参照)前の天幕、及び同工場東門、裏門前のバリケード並びに右東門、裏門前の橋梁上の天幕、ピケ小屋等の各障碍物を大型トラツクが右各門を通行できる範囲において撤去し、引込線出入口の有刺鉄線等、梅戸港側隧道入口前の土嚢、バリケード等の各障碍物をそれぞれ撤去しなければならない。

二、申請人会社の委任する執行吏は被申請人組合において、任意に前項記載の物件を撤去しないときは右物件を撤去することができる。

三、申請人会社の委任する執行吏は、被申請人組合所属の従業員以外の申請人会社従業員並びに別紙(二)目録記載の第三者及びその従業員(但し申請人の交付する「チツソ」と表示した腕章を着けた者に限る。)が第一項の各門、引込線及び隧道を通行して同工場内に出入し、又は被申請人組合所属の従業員以外の申請人会社従業員並びに別紙(二)目録記載の第三者及びその従業員(但し前記腕章を着けた者に限る)が前記水俣工場内に原料、資材等を搬入し、製品その他の物を搬出することを被申請人組合及びその支援団体員が言論による平和的説得以外の方法によつて妨害したときは、右妨害行為を排除するため適当な措置をとることができる。

四、申請費用は被申請人の負担とする。

理由

一、申請人は、

(一)  被申請人は別紙(一)目録記載の申請人会社水俣工場正門前の天幕・ピケ小屋・移動バリケード等を大型トラツクが通行できる範囲に、東門及び裏門前のバリケード等の障碍物及び右各門前の橋梁上のピケ小屋・引込線路上の木材等及び梅戸港構内隧道前の土嚢バリケード等の障碍物をそれぞれ撤去しなければならない。

(二)  被申請人において任意に前項の物件を撤去しないときは申請人会社の委任した執行吏は前項の物件を撤去することができる。

(三)  申請人会社の委任する執行吏は被申請人組合所属の従業員以外の申請人会社従業員並びに別紙(二)目録記載の第三者及びその従業員(申請人会社の交付する「チツソ」と表示した腕章を着けた者に限る)が第一項の各門及び引込線及び隧道を通行して申請人会社水俣工場に出入すること、並びに前記会社従業員及び第三者とその従業員(前記腕章を着けた者に限る)が同工場内に原料、資材等を搬入し、製品その他の物を搬出することを妨害する被申請人組合所属組合員及びその支援団体員の抵抗を排除するために適当な措置方法を講じなければならない。

(四)  申請費用は被申請人の負担とする。

との裁判を求めた。

二、本件疏明によれ

(一)  別紙(一)目録記載の新日本窒素株式会社水俣工場、同梅戸蒸気工場、及び梅戸港が申請人会社の所有であること。

(二)1  被申請人組合は右水俣工場の正門前に天幕を設置して同門への通行を困難ならしめていること。

2  同工場東門及び裏門前にバリケード等の障碍物を設置して同門への通行を困難ならしめていること。

3  同工場東門、裏門前の橋梁上に天幕、ピケ小屋等の各障碍物を構築して右各門を閉塞していること。

4  同工場貨車専用引込線出入口に有刺鉄線をはりめぐらしその通行を困難ならしめていること。

5  梅戸港より右工場に通ずる二条の隧道の梅戸港側入口に高さ約二米位に土嚢を積み上げその上に有刺鉄線でバリケードを構築し右各入口を閉塞していること。

(三)1  昭和三七年八月二八日午前九時五分頃、申請人会社より製品の出荷業務の委託を受けた扇興運輸株式会社の従業員約一〇〇名が右業務を行うため申請人会社水俣工場東門より入場しようとしたところ、同門前は約六〇糎の幅を残して有刺鉄線と丸太を組んだ移動バリケードで閉塞され、その内側には三、四〇名の鉄兜に身を固めた被申請人組合及びその支援団体員によるピケ隊員が立ち並び「バカ、帰れ、絶対にこゝをのかないから入ろうと思うならぶつかつてこい。入れるなら入つてみろ」と罵倒怒号する等威嚇的態度を示してその入場を阻止した。

2  同年八月二九日午前九時五〇分頃被申請人組合所属の従業員以外の申請人会社の従業員(以下新組合員と略称する)約一五〇名が就労すべく前記水俣工場正門より入場しようとしたところ、同門前に立ち並んでいた厚さ約二〇列、幅約二〇名よりなる被申請人組合のピケ隊は新組合員をスクラムで押し返し、或は激しくもみ合わしめる等してその進行を妨げ同日一〇時一〇分頃に至る間三度に及び突入を試みた新組合員の入場を阻止した。

3  同日午前九時頃申請人会社より前同の業務の委託を受けた扇興運輸株式会社の従業員約七〇名が右業務を行うため前記水俣工場東門より入場しようとしたところ同門前は前記同様の移動バリケードで閉塞され、その前面には数十名の被申請組合のピケ隊員がスクラムを組み立ち並んでいたが、扇興運輸側の責任者が入門を求めてもピケ隊員は「入門は絶対に阻止する」と答えてこれに応ぜず、扇興運輸の従業員が入場しようと試みたところピケ隊員はスクラムを組んでこれを阻止し、激しくもみ合わしめる等してその進行を妨害した。

旨の各事実が一応認められる。

しかして熊本地方裁判所が申請人会社と被申請人組合間の同庁昭和三七年(ヨ)第一〇〇号業務妨害排除等仮処分申請事件につき、昭和三七年八月二七日、別紙(三)目録記載の仮処分決定をなし、右決定正本が同日相手方に送達されたことは当裁判所に職務上顕著な事実であるところ、右仮処分決定の送達を受けた被申請人組合としては新組合員及び別紙(二)目録記載の第三者及びその従業員の就労のための工場への出入や原料資材の搬入、製品の搬出をなすにあたり言論による平和的説得の範囲を超えた方法によりこれを阻止してはならないのに以上一応認定した事実によれば被申請人組合は右決定に違反して前示(三)のとおりの妨害行為をなしており、被申請人組合のかゝる態度に徴すると将来も同様に就労のための出入や原料、資材の搬入、製品の搬出をなすにあたり妨害をなす虞れが多分に存することが推認せられ、又右仮処分決定前より前示(二)のとおりの各障碍物を構築、設置して被申請人組合所属の従業員以外の申請人会社従業員並びに別紙(二)目録記載の第三者及びその従業員が右工場内に出入し、原料、資材を搬入し、製品その他の物の搬出することを妨害し、もつて申請人会社の所有権の行使を妨げていることが明らかであるところ、前記被申請人組合所属の従業員以外の従業員その他の第三者の出入及びこれらの者によつてなされる原料、資材等の搬入、製品の搬出等に対する妨害行為については緊急に申請人の委任する執行吏をして右妨害の排除のため適当の措置をとらせる必要性が認められ、且右出入等を確保するため緊急に主文掲記の各障碍物を撤去する必要性が認められる。さすれば申請人の本件仮処分申請については被保全権利並びに保全の必要性について疏明があつたものであるから申請人に金一〇〇万円の保証を立てることを条件として主文の限度で許容し、申請費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 西辻孝吉 土井俊文 松島茂敏)

別紙(一) 目録

一、新日本窒素肥料株式会社水俣工場

(一) 所在地  水俣市大字浜字馬刀潟九一七番地但し近隣地番に跨る

(二) 敷地面  一二六、二二七坪六勺(但し公有道路を除く引込線敷地を含む)

(三) 地上建物 四三四棟 合計四二、六五〇坪八合二勺

(四) 地上構築物

(イ) 給水用貯水池

(ロ) 軌道設備

(ハ) 道路設備

(正門、東門、裏門に通ずる橋梁を含む)

(ニ) 排水設備

(ホ) 送、配、受電設備

(ヘ) 隧道 二本

各一式

二、同梅戸蒸汽工場及び梅戸港

(一) 所在地  水俣市大字浜字後梅一、三二六番地の一 但し近隣地番に跨る

(二) 敷地面積 一〇、五一四坪五合五勺

(三) 地上建物 二六棟 合計一、八八六坪九合四勺

(四) 地上構築物

(イ) クレーン 五台

(ロ) ホツパー 四台

(ハ) 岸壁   四〇四米三五

(ニ) 防波堤  一〇五米

別紙(二) 目録

一、西松建設株式会社

二、坂田建設株式会社

三、坂口組

四、沢井組株式会社

五、鬼塚組

六、浜田建設株式会社

七、朝日塗装工業株式会社

八、渋谷ガラス店

九、釣舟鉄工有限会社

十、大日金属工業株式会社

十一、摂津工業株式会社

十二、株式会社谷口鉄工所

十三、清水工業株式会社

十四、日成工業株式会社

十五、窪川組

十六、肥後化成工業株式会社

十七、合資会社水俣化学工業所

十八、太陽電気株式会社

十九、九州電気工事株式会社

二十、扇興運輸株式会社

二十一、日本通運株式会社

二十二、同和鉱業株式会社

二十三、日窒鉱業株式会社

二十四、光亜精鉱株式会社

二十五、三井金属鉱業株式会社

二十六、日本石油株式会社

二十七、出光興産株式会社

二十八、東海電極株式会社

二十九、三菱化成工業株式会社

三十、株式会社執行商店

三十一、大銑産業株式会社

三十二、三井鉱山株式会社

三十三、吉村石炭株式会社

三十四、飯野炭礦株式会社

三十五、住友石炭株式会社

三十六、田尻商店

三十七、合名会社三和鉱業所

三十八、九州石灰工業株式会社

三十九、大島石灰協同組合

四十、紀伊産業株式会社

四十一、扇林業株式会社

四十二、日本耐酸瓶株式会社

四十三、中村製籠所

四十四、三角石油株式会社

四十五、鹿児島石油株式会社

四十六、合資会社水俣機工商会

四十七、千代田紙業株式会社

四十八、有恒製袋株式会社

四十九、昭和製袋株式会社

五十、林商会

五十一、有限会社旭印刷所

五十二、明和印刷株式会社

五十三、合資会社渋谷金物分店

五十四、生活協同組合水光社

五十五、水俣市農業協同組合

五十六、水俣東部農業協同組合

五十七、津奈木農業協同組合

五十八、田浦農業協同組合

五十九、湯浦農業協同組合

六十、佐敷農業協同組合

六十一、米之津農業協同組合

六十二、出水農業協同組合

六十三、阿久根農業協同組合

六十四、三笠農業協同組合

六十五、久木野農業協同組合

六十六、淵上作太商店

六十七、株式会社日ノ丸商会

六十八、新和産業株式会社

六十九、有限会社塩田商店

七十、合資会社金橋石灰工業所

七十一、日窒吉野石膏株式会社

七十二、山口鉱業所

七十三、溝口組

七十四、右の外申請人会社が緊急に必要とし、予め理由を付して組合に通知したもの

以上

別紙(三) 目録

決定

大阪市北区宗是町一番地

申請人        新日本窒素肥料株式会社

右代表者代表取締役  吉岡喜一

右申請代理人弁護士  孫田秀春

同          高梨好雄

同          塚本安平

同          滝川誠男

熊本県水俣市大字浜小島六六七番地

被申請人       合成化学産業労働組合連合新日本窒素水俣工場労働組合

右代表者執行委員長  江口政春

右被申請代理人弁護士 野尻昌次

同          岸星一

同          衛藤善人

同          萩沢清彦

同          加藤康夫

同          内藤義憲

同          杉本昌純

右当事者間の昭和三七年(ヨ)第一〇〇号業務妨害排除等仮処分申請事件につき当裁判所は次のとおり決定する。

主文

申請人が被申請人に対し金五百万円の保証を立てることを条件として

一、被申請人組合は被申請人組合所属の従業員以外の申請人会社従業員並びに別紙(二)目録記載の第三者及びその従業員(右被申請人組合所属の従業員以外の申請人会社従業員並びに右第三者及びその従業員については、申請人の交付する「チツソ」と表示した腕章を着けた者に限る。)が別紙(一)目録記載の申請人会社水俣工場(梅戸蒸気工場、梅戸港、小崎揚水場を含む。)に出入することを言論による平和的説得以外の方法によつてこれを阻止し、又は第三者をして阻止させてはならない。

二、被申請人組合は被申請人組合所属の従業員以外の申請人会社従業員又は前項記載の第三者及びその従業員(前項の腕章を着けた者に限る。)が前項記載の申請人会社水俣工場内に原料、資材等を搬入し、製品その他の物を搬出することを言論による平和的説得以外の方法によつてこれを阻止し、又は第三者をして阻止させてはならない。

三、申請費用は被申請人の負担とする。

理由

省略

(別紙図面)<省略>

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