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浦和地方裁判所越谷支部 平成元年(ワ)203号 判決 1990年10月31日

原告

有限会社第一包装機製作所

代表者取締役

嶋﨑浩

訴訟代理人弁護士

山口不二夫

被告

株式会社第一包装

代表者代表取締役

田中成美

訴訟代理人弁護士

金和夫

中村明夫

主文

一  被告は「株式会社第一包装」の商号を使用してはならない。

二  被告は浦和地方法務局春日部出張所昭和五七年六月一四日登記に係る商号変更登記「株式会社第一包装」のうち「第一包装」の部分の抹消登記手続をせよ。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

一  原告は、主文と同旨の判決を求め、被告は、「原告の請求をいずれも棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。

二  原告の請求原因

1  原告は、昭和五三年一〇月二日、「商号有限会社第一包装機製作所、本店埼玉県春日部市大字南中曽根五五六番地、目的食品包装機械の製造販売等」として設立された。

原告は、昭和五五年一一月二八日本店を同県岩槻市大字浮谷二六八九番地三に移転し、同年一二月二日移転登記を経由した。

2  後に被告の代表取締役となった田中成美は、昭和五五年原告の代表者嶋﨑浩に対し、「原告の製造する食品包装機械(以下「包装機」という。)を販売させてもらいたい。」と申し入れ、嶋﨑は、この申入れを承諾した。

3  田中は、2の申入れに際し、販売成績を上げるため、「第一包装」の名称を使用することについて許諾を求めた。嶋﨑は、昭和五五年一二月ころ田中に対し、「田中が原告製造の包装機械を販売しなくなること」を解除条件として、「第一包装」の名称の使用を許諾した。

4  田中は、昭和五七年五月二八日当時「商号株式会社ナガト(以下「ナガト」という。)、本店東京都新宿区中落合二丁目二六番七号、目的カメラ及び付属品の販売等」の代表取締役であった。

ナガトは、同年六月一日本店を春日部市大沼六丁目九三番地に移転し、同月八日移転登記を経由した。

ナガトは、同月一一日商号を「株式会社第一包装」(被告)と変更し、同月一四日変更登記を経由した。

被告は、同年八月二日目的を「食品包装機械の販売及び設計製作、食品包装資材の販売、食品加工機械の販売」等に変更し、同月四日変更登記を経由した。

5  田中は、原告が「有限会社第一包装機製作所」として業界において著名であり、信用名声等を博していたこと、及び原告が「第一包装」の略称で広く認識されていたことを熟知し、この信用名声等を利用するためにナガトの商号を「株式会社第一包装」に変更したのであるから、被告には不正競争の目的があった。

6  原告と被告の商号は、会社の種類が異なり、原告の商号に「機製作所」が加わっているが、共通の「第一包装」が両商号の特徴であり、それが商号の主要部分をなしているから、双方の商号は類似している。

7  また、被告は、田中の権利義務を承継して、原告製造の包装機を販売していたが、被告は、昭和六三年一〇月ころから自社で包装機を製造し販売して、原告製造の包装機を販売しなくなった。

これによって、3の解除条件が成就した。

8  原告は、昭和六三年一二月から平成元年一月三一日までの間に二回にわたり、被告の代表者田中に対し、口頭で「第一包装」の名称を使用しないように申し入れた。また、原告は、被告に対し、平成元年五月一七日到達の内容証明郵便で「株式会社第一包装」の商号の使用禁止を請求した。

9  被告は、平成元年六月以降、原告の使用禁止の申入れを無視して、その商号を使用し、原告の商号の知名度、信用度を不当に利用しているから、不正の目的をもって商号を使用している。

10  そこで、原告は、被告に対し、商法二〇条一項及び二一条一項の規定に基づいて、「株式会社第一包装」の商号の使用禁止とその一部「第一包装」の抹消登記手続を求める。

三  請求原因に対する被告の答弁

1  1の事実を認める。

2  2の事実を認める。

3  3の事実を否認する。

4  4の事実を認める。

5  5のうち、ナガトが商号を「株式会社第一包装」に変更した事実を認めるが、その余の事実を否認する。田中は、当初から「第一包装機器」の名称で原告から包装機を仕入れ、販売していたのであり、この事業を拡大するのに、対外的な信用を考慮し、「株式会社第一包装」の商号をもって会社組織にした。被告は、この商号で原告から包装機を仕入れ、販売するとともに、独自に食品包装資材(以下「包装資材」という。)の販売にも力を注いできた。

6  6の事実を否認する。原告は「有限会社」で、被告は「株式会社」であるほか、原告には「機製作所」がある。その商号に取引上誤認混同されるおそれはない。

7  7のうち、被告が田中の権利義務を承継し、原告主張の解除条件が成就した事実を否認し、その余の事実を認める。被告は、原告との取引ができなくなったため、自社で包装機を開発し、販売を始めた。

8  8の事実を認める。

9  9の事実を否認する。被告は、原告との取引を止めた後、本店を移転し、主として包装資材の販売に力を入れるなどして、原告の営業に影響を及ぼすような行為をしていない。また、「第一包装」の商号は特異なものでなく、包装関係の業者であれば、一般に考え付くものであって、他にも同じ商号の会社がある。

四  証拠関係<省略>

理由

一請求原因1と2の各事実は、争いがない。

<証拠>によれば、次の事実を認めることができる。

1  嶋﨑浩は、有限会社協栄包装機製作所に勤務していたころ、取引先のヤマツジ産業株式会社で営業を担当していた田中成美と知り合った。嶋﨑は、会社を辞めて独立し、原告を設立した。

2  田中は、兄とともに、昭和五一年三月四日ナガトを設立し、兄がカメラの販売業を、田中が浄化槽装置の販売業を担当していたが、経営に失敗し、ナガトを休眠会社としたまま、ヤマツジ産業に就職していた。

3  田中は、昭和五五年一〇月ヤマツジ産業を辞め、そのころ原告の嶋﨑に、「営業の仕事をしたいので、雇って欲しい。」と申し入れた。嶋﨑は、田中に独立して仕事をすることを勧め、そのころ田中との間に代理店契約を結んで、「田中は、原告の代理店として、原告の製造する包装機を販売する。その方式は、田中が客から注文を取り、原告が田中から受注して、製作した製品を田中に販売し、田中がこれを納品して、客から代金を受領し、原告に製品の代金を支払うものとする。」と合意した。

4  田中は、その後間もなく、原告から包装機本体とこれに付随する装置を仕入れて、これを販売した。田中は、営業を始めるに際し、原告から自動車購入代金等として三〇万円くらいを立て替えてもらい。納品するのに原告のトラックを借りたりして、援助を受けた。

二田中が「第一包装」の名称を使用したことについて、嶋﨑供述と田中供述の間には食い違いがある。

1  嶋﨑供述では、「三箇月くらい経った昭和五六年に、田中から『第一包装』の名称で包装機を販売したいとの申入れを受けた。原告製造の包装機を販売するのだから当然のことだと考えて、その名称を使用することを承諾した。」という。

2  田中供述では、「原告の商号と東京の包装資材専門業者の第一包装株式会社の商号を合わせて、『第一包装機器』の名称を考え出し、当初からこの名称を使用した。そのことを後に原告に知らせた。」という。

原告は、「田中が原告製造の包装機を販売しなくなることを解除条件として『第一包装』の名称の使用を許諾した。」と主張したが、このような明示の合意があったとの事実を認めるに足りる証拠はない。

三請求原因4の事実は、争いがない。

田中供述によれば、田中は、「包装機の販売主体を会社組織にすれば、取引先の信頼が得られる。」と考え、休眠会社になっていたナガトを流用して、その商号と目的を変更し、事実上被告を設立した事実を認めることができる。また、嶋﨑と田中の各供述によれば、田中は、被告を組織したことを嶋﨑に知らせず、「株式会社第一包装」の商号で、従前どおり原告との取引を継続していたところ、嶋﨑は、田中がその商号で取引していたことを知っていたものの、これに異議を述べなかった事実を認めることができる。

そして、<証拠>によれば、被告は、昭和五八年一月ころから「株式会社第一包装・機械事業部」の名称を使用し、現在でもこの名称を使用している事実を認めることができる。

四嶋﨑と田中の各供述によれば、次の事実を認めることができる。

1  被告は、昭和六一年ころから包装機の付随装置を製作し、これを販売した。原告は、これを知ったが、被告がこれをもって収益を得るのもやむを得ないと考え、口出しをしなかった。

2  包装機の心臓部は、熱着する部分にあったが、被告は、昭和六三年に至って、原告から仕入れた包装機の熱着部にみずから手を加え、加工した包装機の販売価格を値上げして、収益の増加を図った。

3  原告は、昭和六三年九月ころ、被告が熱着部の加工をしていたことを知り、同年一〇月ころ被告に、「包装機の販売価格を三割上げる。代金の支払方法を、翌月の現金払いに変更する。」と申し入れた。

被告は、価格が値上げされ、決済条件が厳しくなるのでは、これに応じられないと判断し、同月から原告への包装機の注文を取り止め、その販売も止めて、原告との取引を絶った。請求原因8の事実は、争いがない。

五類似の商号かどうかを考える。

1  原告の商号は「有限会社」であり、被告の商号は「株式会社」であるから、会社の種類が異なっている。しかし、原告と被告は、その実態において、いずれも個人企業と異ならないような会社である。すなわち、<証拠>によれば、原告は、嶋﨑一人が取締役で、妻武子が監査役であり、本店を両名の住所に置いて、資本の総額が五〇〇万円である事実を認めることができる。また、被告は、休眠会社ナガトの商号を変更したに過ぎないものであって、改めて「株式会社」の設立手段を経たものでなく、<証拠>によれば、被告は、本店を田中の住所に置いて、しばしばこれを移転し、資本の額をナガトの設立時のものと同じく一五〇万円としている事実を認めることができる。したがって、会社の種類の違いは、実態上原告と被告を識別させる作用を働かせていないものと推認することができる。

2  原告の商号は「第一包装機製作所」と表示され、被告の商号は「第一包装」と表示されているが、被告は、当初から「第一包装・機械事業部」の名称を使用してきた(<証拠>)。

3  <証拠>によれば、原告は、包装機関係の業界で著名な会社となり、業界では正式の「第一包装機製作所」と呼ばれることがほとんどなくて、「第一」とか「第一包装」と呼ばれて通っている事実を認めることができる。

4  <証拠>によれば、「株式会社第一包装」あての被告に送付されるべき注文書、請求書などが、しばしば間違って原告に送付された事実を認めることができる。

5  以上の事実から見て、原告の商号と被告の商号は、一般取引上混同誤認されるおそれがあると認めるのが相当であるから、それは類似の商号に当たると認めることができる。

六不正競争の目的について考える。

1  被告は、昭和五七年六月から「株式会社第一包装」の商号を使用し、この商号で原告と取引をしていた。原告は、これを知っていたが、これに異議を述べなかった。

嶋﨑供述によれば、原告は、被告が原告の代理店として原告製造の包装機を販売していたので、被告の商号の使用につき何も言い出さなかった事実を認めることができる。

2四に認定したとおり、原告と被告は、昭和六三年一〇月ころ取引を止め、原告は、平成元年五月被告に商号の使用禁止を請求したのであるから、原告と田中ひいては被告との間に結ばれていた代理店契約は、これによって解消されたと認めるのが相当である。

3  <証拠>によれば、被告は、原告との取引を止めた後、自社で包装機を製作し、これを販売している事実を認めることができる。

4  被告は、原告との代理店契約の存続を前提として「株式会社第一包装」の商号を使用していたのであり、嶋﨑と田中の各供述によれば、被告は、右の商号を使用することによって、被告の事業を有利に発展させようと考えていた事実を認めることができる。

5  したがって、被告は、代理店契約解消後に自社で包装機の製作と販売を始め、従前どおり原告と類似の商号を使用しているのであるから、被告は、一般人をして原告と被告とを誤認させ、もって自社の営業を有利にさせようと意図していると認めるのが相当である。

七そうすると、被告に対し商法二〇条一項の規定に基づいて商号の使用禁止を求め、登記商号の一部の抹消登記手続を求める原告の請求は正当である。

そこで、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官加藤一隆)

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