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浦和地方裁判所熊谷支部 昭和51年(ワ)16号 判決 1977年2月25日

原告

木村紀代子

被告

川田彰

ほか三名

主文

一  被告川田彰及び同川田日出男は、各自原告に対し、金六〇〇万円とこれに対する昭和五〇年一月三〇日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告川田伊佐男は、同川田彰と連帯して、原告に対し、一三〇万一九七〇円とこれに対する昭和五〇年一月三〇日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告の被告川田伊佐男に対するその余の請求及び同坂本昌文に対する請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用中、原告と被告川田彰及び同川田日出男との間に生じたものは、被告らの負担とし、原告と被告川田伊佐男との間に生じたものは、これを三分し、その一を原告の、その二を被告の各負担とし、原告と被告坂本昌文との間に生じたものは、原告の負担とする。

五  この判決は第一、二項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の主張

一  原告

1  被告川田彰、同川田日出男及び同坂本昌文は、各自原告に対し、金六〇〇万円とこれに対する昭和五〇年一月三〇日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告川田伊佐男は、同川田彰と連帯して、原告に対し、金二〇五万四〇〇〇円とこれに対する昭和五〇年一月三〇日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

4  仮執行宣言

二  被告ら

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

被告川田彰は、昭和五〇年一月三〇日午前二時二〇分頃、普通乗用自動車(埼五六ふ三八六四号、以下、本件自動車という。)に原告を同乗させたうえこれを運転して埼玉県児玉郡美里村大字猪保二二八三番先路上を寄居方面より本庄方面に向かつて進行中、運転を誤まつて右路上付近の電柱に衝突し、原告に対し頭部打撲傷、頭蓋内出血、顔面挫創、両大腿火傷、左半身麻痺、顔面切創の各傷害を与えた。尚、被告川田彰は右運転当時飲酒していた。

2  責任原因

(1) 被告川田彰は、右1で述べたように本件事故につき過失があるから、民法七〇九条により、本件事故によつて生じた損害を賠償する責任がある。

(2) 被告川田伊佐男は、昭和五〇年九月、原告及びその親権者らに対し、少くとも治療費関係については被告川田彰と連帯して支払う旨約したので、右約定に従い後記治療費関係につき被告川田彰と連帯して支払う責任がある。

(3) 被告川田日出男は、本件自動車を、自己のための運行の用に供していたのだから、自賠法三条により、本件事故によつて生じた損害を賠償する責任がある。

(4) 被告坂本昌文は、本件自動車の所有者であり、本件事故の直前頃、被告川田日出男に右自動車を預けていたにすぎず、自己のために右自動車を運行の用に供していたから、自賠法三条により、本件事故によつて生じた損害について賠償する責任がある。

3  損害

原告は、前記受傷により、昭和五〇年一月三〇日から同年五月五日までの九六日間入院し、その後同年八月二二日まで通院治療を受けたほか、後遺障害として単性視神経萎縮(両眼)複視、視力左〇・三、右〇・四で矯正不能(萎縮があるため機能回復の見込なし)、左眼瞼の上方と外側の瘢痕等があり、後遺障害八級の認定を受けた。この結果次の損害を受けた。

(1) 慰藉料

イ 入・通院慰藉料 九六万円

ロ 後遺症慰藉料 三三六万円

(2) 逸失利益

原告は、本件事故当時満一六歳で、昭和五〇年一〇月二六日に満一七歳になり、職を転々としてはいたものの、労働意欲と能力はあり、現に働いていたから、満一七歳から五〇年間の就労は可能であつたところ、前記後遺障害によりその労働能力の四五パーセントを喪失した。昭和四九年度賃金センサスによると、女子労働者の小学、中学卒の平均給与は、月額六万四〇〇〇円、年間の賞与その他の給与一七万二〇〇〇円で合計年額九四万円であるから、右五〇年間の逸失利益は一〇四四万八九四六円となる。

94万円×ホフマン式係数24.702×0.45=1044万8946円(1170万円は誤記と認める。)

(3) 治療費関係 二〇五万四〇〇〇円

イ 国民健康保険の自己負担金 三〇万円

ロ 顔部の瘢痕を取り除くために予定されている形成外科手術の所要費用見積り 八〇万円

ハ 付添看護料 六五万四〇〇〇円

(ⅰ) 入院中の付添看護料 一三万六〇〇〇円

九六日×二〇〇〇円 一九万二〇〇〇円

右から保険による支払分五万六〇〇〇円を控除すると、一三万六〇〇〇円となる。

(ⅱ) 退院後の付添看護料 五一万八〇〇〇円

昭和五〇年五月六日から昭和五一年一月一八日までの二五九日間のもの

ニ 入・退院諸雑費 三〇万円

(4) 休業補償費 五四万円

本件事故当日から満一七歳に達する迄(昭和五〇年一〇月二六日迄―二七日とあるのは誤記と認める。)の二七〇日間(二七一日間とあるのは誤記と認める。)、原告は完全に労働に従事できなかつたので、右期間の休業による損害を一日二〇〇〇円とみると、五四万円(五四万二〇〇〇円は誤記と認める。)となる。

4  損害の填補 三三六万円

5  結論

被告川田伊佐男を除くその余の被告らに対しては、右3で述べた損害の合計一七三六万二九四六円から右4の填補額を控除した一四〇〇万二九四六円のうち、とりあえず六〇〇万円、又被告川田伊佐男に対しては被告川田彰と連帯して、治療費関係合計二〇五万四〇〇〇円並びに右各被告らに対し、本件事故の日である昭和五〇年一月三〇日から各支払いずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを夫々求める。

二  請求の原因に対する被告らの答弁

1  請求原因1項のうち、被告川田彰が本件事故当時飲酒していたことは否認し、その余は認める(被告ら全員)。

2  同2項につき、

(1) 第(1)項につき、被告川田彰は認める。

(2) 第(2)項につき、被告川田伊佐男は否認する。

(3) 第(3)項につき、被告川田日出男は認める。

(4) 第(4)項につき、被告坂本昌文は否認する。

被告坂本昌文は、昭和五〇年一月八日頃、本件自動車を被告川田日出男に三〇万円で売り渡すと同時に引渡しずみであるから、本件自動車の所有者は被告川田日出男であつて、被告坂本昌文は本件自動車の運行供用者ではない。

3  同3項は不知(被告ら全員)。

4  同4項は認める(同右)。

三  被告らの抗弁

原告は、本件事故当時被告川田彰と婚約関係にあり、同被告が飲酒していたことを知りながら好意同乗させてもらつたのだから、損害額の算定上相当額が減額されるべきである。

四  抗弁に対する原告の答弁

争う。

第三証拠〔略〕

理由

第一本件事故の発生

請求原因1項のうち、被告川田彰が本件事故当時飲酒していたことを除くその余の事実(被告川田彰が運転を誤つて本件事故を起こし、原告に傷害を与えたこと)は、当事者間に争いがない。

第二責任原因

一  請求原因2(1)項は原告と被告川田彰との間で争いがないから、同被告は民法七〇九条により、原告の受けた後記損害を賠償する責任がある。

二  証人木村きま子の証言及び被告川田伊佐男本人尋問の結果によれば、同被告は、昭和五〇年五月頃、原告及び原告の両親らに対し、治療費については被告川田彰と連帯して支払う旨約したことが認められるから(右認定に反する証拠はない。)被告川田伊佐男は被告川田彰と連帯して原告に生じた後記治療費につき支払う責任がある。

三  請求原因2(3)項は原告と被告川田日出男との間で争いがないから、同被告は自賠法三条により、原告の受けた後記損害を賠償する責任がある。

四  被告坂本昌文の責任

成立に争いのない乙四号証及び被告川田日出男本人尋問の結果並びに右尋問の結果により真正に成立したと認める甲三号証によれば、被告川田日出男は、昭和五〇年一月八日頃、被告坂本昌文から本件自動車を代金三万円で買い受ける旨の契約を同被告との間で締結し、同月一〇日頃右代金を支払うと同時に右自動車の引渡しを受け、その後は右自動車を通勤用として使用していたこと、その後間もなく本件事故が発生し、自賠責保険金の請求手続きが必要になつたが、被告坂本昌文は右自動車の売渡し直後頃から行方をくらましていて右自動車の登録名義を被告川田日出男に変更する手続きができないでいたため、被告川田日出男は、右自動車の名義人である被告坂本昌文を所有者とし、同被告から被告川田日出男が右自動車を借り受けていた旨の書類を作成するなどして自賠責保険金の請求手続きを進めたこと、が認められ、右認定に反する証拠はない。

右の事実によれば、本件事故当時、本件自動車は、その所有権が被告坂本昌文から同川田日出男に移転されていたうえ、同被告においてこれを使用していたのであり、登録名義が被告坂本昌文となつていたのは同被告が行方不明のため被告川田日出男名義に変更する手続きがとられないでいたからにすぎず、もはや被告坂本昌文には本件自動車に対する何らの運行支配や運行利益はなかつたのであるから、同被告には自賠法三条の運行供用者としての責任のないことは明らかである。

第三損害 一二二二万四二一五円

一  逸失利益 七七二万二二四五円

原告は本件事故により前記認定の傷害を受けたものであるところ、いずれも成立に争いのない甲四号証、甲五号証の一、二、甲六号証、甲九号証の一、二、原告主張どおりの写真であることに争いのない甲一〇号証の一、二、証人木村きま子の証言によれば、原告は、本件事故当時満一六歳であるが(昭和五〇年一〇月二六日で満一七歳)、原告主張どおりの後遺障害を受け(昭和五〇年八月二二日症状固定)、自賠責保険後遺補償給付に際しては自賠保障法別表八級該当として取り扱われたことが認められ、これに反する証拠はない。

右の事実によれば、原告は遅くとも右後遺障害の症状固定後である原告主張の満一七歳時(昭和五〇年一〇月二六日)以降稼働期間と考えられる満六七歳までの五〇年間、その労働能力の四五パーセントを喪失したというべきである。

そして、成立に争いのない甲七号証の一、二によれば、女子労働者のうち、小学、新制中学卒業者の平均給与は月額六万四〇〇〇円、年間賞与その他の給与一七万二〇〇〇円で合計年額九四万円であることが認められるから、原告の右五〇年間の逸失利益の現価は、次の計算により七七二万二二四五円となる。

94万円×ライプニツツ式係数18.2559×0.45=772万2245円(円未満切捨て)

二  治療費関係 一三〇万一九七〇円

前掲甲四号証、甲五号証の一、成立に争いのない甲八号証の一ないし一〇、証人木村きま子の証言によれば、原告は前記受傷により昭和五〇年一月三〇日から同年五月一八日まで合計一〇九日間入院し、同月一九日から同年八月二二日までの九六日の間実日数一六日間の通院治療を受け、この結果次の損害を受けたことが認められ、同認定を左右するに足る証拠はない。

1  国民健康保険の自己負担金 二六万九四七〇円

2  顔部の瘢痕を取り除くために予定されている形成外科手術の所要費用 八〇万円

3  付添看護料 一七万八〇〇〇円

(1) 入院中のもの 一六万二〇〇〇円

右入院期間一〇九日中原告の母木村きま子が付き添つたのに対し、一日二〇〇〇円、計二一万八〇〇〇円の付添費を相当とし、そこから保険による支払分の五万六〇〇〇円を控除した一六万二〇〇〇円。

(2) 通院中のもの 一万六〇〇〇円

通院中も、後遺傷害のため付添いが必要であつたので、実通院日数一六日間、一日一〇〇〇円、計一万六〇〇〇円を相当とした額。

4  入院雑費 五万四五〇〇円

入院一〇九日につき一日五〇〇円として算出した額。

三  休業補償費

成立に争いのない乙五号証、証人木村きま子の証言によれば、原告は中学校を卒業後パーマ屋へ美容師見習いとして勤めたが、約五ケ月で同所をやめ、昭和四九年九月末頃から勤め始めた高木縫製へも昭和五〇年一月一五日からは全く出勤せず、本件事故当日の同月三〇日迄殆んど毎日のように遊びまわつていたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

原告は、本件事故当日から満一七歳に達するまで(昭和五〇年一〇月二六日まで)の二七〇日間の休業補償を求めているが、右認定の事実をもとにして考えると、本件事故当時原告が就業していたうえ現実に収入を得ていたというには疑問が残り、結局、右原告の主張を認めることはできないといわなければならない。

四  慰藉料 三二〇万円

成立に争いのない乙三号証、前掲乙四、五号証、証人木村きま子の証言、被告川田彰本人尋問の結果によれば、原告は昭和四九年秋頃から被告川田彰と知り合い、間もなく肉体関係を持ち、右被告方にしばしば両親に無断で泊るようになり、将来は結婚することまでも互いに約束し合う仲になつていたこと、本件事故発生の数日前から原告は無断で両親の許を飛び出して右被告方に身を寄せていたが、昭和五〇年一月二九日夜一一時四〇分頃、当時勤めていたバーから帰宅した右被告の運転する本件自動車に同乗して深夜のドライブに出かけ、間もなく本件事故に逢遇したことが認められ、右認定を左右する証拠はない。

右の事実によれば、被告らが主張するように、本件事故当時被告川田彰が飲酒していたことを原告が知つていたかどうかはともかくとして、本件事故当時原告は被告と互いに結婚を約束し合つていたうえ、数日前から同被告の許に身を寄せ、同被告と共に深夜のドライブに出かけているのであるから、原告の本件自動車への同乗はいわゆる好意同乗と目されるものであつて、右の事情は本件事故による慰藉料を算定するに当り斟酌すべきものと考える。

以上の事実に、既に認定した事実(入、通院、後遺傷害など)等諸般の事情を考慮すると、慰藉料の額としては、三二〇万円が相当である。

第四損害の填補

三三六万円を原告が損害の填補として受領していることは当事者間に争いがない。

第五結論

従つて、原告は被告川田彰及び同川田日出男に対しては、第三の損害額合計一二二二万四二一五円から右第四の填補額三三六万円を控除した八八六万四二一五円を損害金として請求しうるところ、原告は右被告ら両名に対しては一部請求として六〇〇万円とこれに対する損害発生の日である昭和五〇年一月三〇日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求めているので、右被告ら両名に対する原告の請求は全て理由がある。又、被告川田伊佐男に対する請求は一三〇万一九七〇円とこれに対する前記同様の遅延損害金を被告川田彰と連帯して支払うよう求める限度で理由があり、被告川田伊佐男に対するその余の請求及び被告坂本昌文に対する請求は理由がない。

そこで、右理由のある部分の請求を認容し、その余を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を夫々適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 鈴木敏之)

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