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浦和地方裁判所熊谷支部 昭和42年(わ)181号 判決 1968年9月11日

主文

被告人倉〓享を禁錮一年六月に処する。

被告人井上広明を禁錮一年に処する。

ただし、被告人井上広明に対し、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

訴訟費用(証人武井信雄に支給した旅費、日当)は、被告人両名の連帯負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人倉〓享は、赤城南面運輸有限会社に勤務し、自動車運転の業務に従事する者、被告人井上広明は、同会社の車両運行管理者並びに配車係として、同会社の車両運行及びこれに関連する保安等の管理、配車の業務に従事する者であるが、

第一、被告人倉〓は、

(一)  法令に定められた牽引免許を持たないで、昭和四二年九月七日午後零時三〇分頃、大型貨物自動車(群一い四一四〇号)をもつて、重被牽引車であるスクレーパー一台(車両重六・五トン)を牽引し、所沢市大字下新井地内住宅団地工事現場より熊谷市大字新堀一〇〇三番地先一七号国道までの道路を運転進行して、無免許運転をなし

(二)  重被牽引車を牽引する場合、自動車運転者としては安全に牽引するために、重被牽引車が離脱しないように該車両に適応した加工と注意をなしたうえ運行し、事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるのに拘らず、右注意を怠り、前記(一)記載の日時場所において、前記大型貨物自動車の荷台後部に取付けてあるフツクに、シャツクルと称する金具を用いて前記スクレーパーを連結したのみで牽引運転した過失により、同日午後二時四五分頃、熊谷大字新堀一〇〇三番地先一七号国道を、東京方面より高崎方面に向け時速三五粁位で進行中、その振動により前記シヤツクルのピンがゆるんで抜け、そのためスクレーパーが牽引していた大型貨物自動車から離脱して、惰力により進路左斜め前方に暴走し、道路左側の人の群れに突入するに至らしめ、よつて南昇(四四年)外六名に対し別紙記載の如く傷害並びに死亡するに至らしめ

第二  被告人井上は、

(一)  昭和四二年九月七日午前七時過ぎ頃、前橋市片貝町八五六番地所在赤城南面運輸有限会社前橋営業所において、当該業務に関し右運転者倉〓享に対し、同人が牽引免許を有しないことを知りながら、前記大型貨物自動車に重被牽引車であるスクレーパーを牽引し、所沢市大字下新井地内住宅地工事現場から、前橋市天川大島町丸徳商事株式会社まで運転することを命じ、

(二)  車両の運行を直接管理し、かつ配車の業務に従事する者としては、運転者に重被牽引車を牽引する自動車の運転を命ずる場合は、牽引免許を有する運転者に命ずるは勿論、安全に牽引するために、重被牽引車が離脱しないように該車両に適応した加工等、牽引の方法等について注意指導し、事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるのに拘らず、右注意を怠り、前記第二(一)記載のとおり、牽引免許を有しない倉〓享に対し、前記大型貨物自動車にシヤツクルと称する金具を用いて、重被牽引車スクレーパーの牽引を命じた過失により、前記倉〓の過失と相俟つて前記第一(二)記載のとおり、右スクレーパーを大型貨物自動車から離脱暴走させて、人の群に突入するに至らしめ、よつて別紙記載の如く南昇外六名に対し、傷害並びに死亡するに至らしめ

たものである。

(証拠の標目)(省略)

(法律の適用)

被告人倉〓享の判示所為中、第一、(一)の事実は道路交通法八五条三項、一一八条一項一号、罰金等臨時措置法二条一項に、第一、(二)の事実は各昭和四三年法律第六一号による改正前の刑法二一一条前段、罰金等臨時措置法二条一項、三条一項に該当するところ、右第一、(一)の事実につき所定刑中懲役刑を選択し、右第一、(二)の事実は一個の行為にして数個の罪名に触れる場合であるから、刑法五四条一項前段、一〇条を適用して、犯情の重いと認める南昇に対する業務上過失致死罪の刑に従つて処断することとし、その所定刑中禁錮刑を選択し、以上は刑法第四五条前段の併合罪であるから、同法四七条、一〇条により、重い前記南昇に対する罪の刑に法定の加重をした刑期範囲内において、被告人倉〓享を禁錮一年六月に処することとする。被告人井上広明の判示所為中、第二、(一)の事実は道路交通法七五条一項、一一九条一項一二号、罰金等臨時措置法二条一項に、第二、(二)の事実は各昭和四三年法律第六一号による改正前の刑法二一一条前段、罰金等臨時措置法二条一項、三条一項に該当するところ、右第二、(一)の事実につき所定刑中懲役刑を選択し、右第二、(二)の事実は一個の行為にして数個の罪名に触れる場合であるから、刑法五四条一項前段一〇条を適用して、犯情の重いと認める南昇に対する業務上過失致死罪の刑に従つて処断することとし、その所定刑中禁錮刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条、一〇条により重い前記南昇に対する罪の刑に法定の加重をした刑期範囲内において、被告人井上広明を禁錮一年に処し、情状刑の執行を猶予するを相当と認め、同法二五条一項を適用して、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予することとする。

訴訟費用については、被告人両名につき刑事訴訟法一八二条を適用して、右両名に連帯して負担させることとする。

(弁護人の主張に対する判断)

被告人倉〓享の運転した車両は大型貨物自動車で、道路交通法八五条三項の牽引するための構造及び装置を有する大型自動車に該当する。また判示スクレーパーは道路交通法二条一二号の軽車両にあたり、同法八五条三項の牽引されるための構造及び装置を有する車両(重被牽引車)である。従つて判示第一、(一)並びに第二、(一)の各道路交通法違反罪が成立する。

右大型貨物自動車が同法八五条三項の牽引自動車にあたることは明らかであり、右牽引自動車は大型特殊自動車であることを必要としない。

軽車両は人もしくは動物の力により、または他の車両に牽引されて運転する車であるが、自転車、人力車、牛車等のほかに、トレーラーバスの被牽引車、故障車等で他の車両によつて牽引される車、並びに本件原動機のないスクレーパー等も包含される。

前記道路交通法八五条三項の、牽引するためのまたは牽引されるための構造及び装置については、本件のように大型貨物自動車の荷台後部に取付けてあるフツクに、シヤツクルと称する金具を用いて右スクレーパーを連結した場合の構造、装置を包含するものと解する。道路運送車両の保安基準によれば、牽引方法、牽引装置、安定性、制動装置等の詳細が規定されて居り、前記証人平本弘の証言によれば、スクレーパーを牽引するためには、牽引車並びに被牽引車共に右保安基準に合致した安全性と、構造、装置を有しなければならない。牽引の装置、構造については、結合部分が堅牢であり、一つの部分が離れても次の安全装置が働く等の考慮がなされていること、被牽引車の制動措置については、主制動装置及びトレーラーのような場合には、それがはずれたときに非常制動がかかる装置が必要であり、そのほかに駐車の場合のハンドブレーキ等二系統の制動装置が必要であるとされているが、本件においては右保安基準に適合した連結装置、制動装置等を具備していなかつたことは明白である。

よつて主文のように判決する。

(別紙)

番号 氏名 年令 死傷の別 傷害の部位等

1 南昇 四四 死亡 熊谷市大字新堀一〇〇三番地先十七号国道上において頭蓋骨粉砕骨折等により即死

2 内田よし子 四八 死亡 右同所において前頸部圧挫等の窒息により即死

3 内田利一 五八 死亡 胸部挫傷等により熊谷市大字熊谷一二八六番地埼玉慈恵病院にて同日午後二時五〇分死亡

4 葉謄整 四二 傷害 全治約六ヶ月を要する右下腿骨複雑骨折等

5 飯島重雄 四五 傷害 全治約六ヶ月を要する左下腿骨々折等

6 須長芳雄 五六 傷害 全治約一ヶ月を要する腰部左大腿挫創等

7 荒木唯雄 四八 傷害 全治約一ヶ月を要する顔面打撲裂創等

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