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浦和地方裁判所熊谷支部 平成8年(わ)207号 判決 1997年3月17日

主文

被告人佐藤勝浩を懲役一年一〇月に、被告人小林修を懲役一年四月にそれぞれ処する。

被告人両名に対し、未決勾留日数中各三五日をそれぞれその刑に算入する。

訴訟費用は全部被告人らの負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人佐藤勝浩は、建設解体業佐藤興業を営むもの、同小林修は、元右佐藤興業の従業員であったものであるが、被告人両名は、平成八年三月五日ころ、埼玉県東松山市大字石橋字城山二〇六四番地五所在の宅地一四九六平方メートル上にある作業所兼倉庫一棟(所有者株式会社ヤマツウ小島工務店代表取締役小島厚)の賃借権とともに右宅地(所有者右株式会社)の敷地利用権を右作業所兼倉庫一棟の賃借権者である長野物産株式会社(代表取締役長野正男)から譲り受けたものであるが、共謀の上、同宅地を廃棄物の集積場にしようと企て、同年三月四日ころ、右譲り受けを見込んで同宅地に廃棄物を搬入し始め、同月三〇日ころまでの間に、同宅地上に廃棄物約八六〇六・六七七立方メートルを高さ約一三・一二メートルに堆積させ、同宅地を資材置場として容易に原状回復できないようにして利用価値を喪失させ、もって、前記ヤマツウ小島工務店所有の不動産(前記宅地、課税評価額七一三五万九二〇〇円相当)を侵奪したものである。

(証拠の標目)省略

(弁護人らの主張に対する判断)

弁護人らの主張の要旨は、要するに、本件土地(埼玉県東松山市大字石橋字城山二〇六四番地五所在の宅地一四九六平方メートル(以下、本件土地という))全部の占有者は長野物産株式会社(以下、長野物産と略称する、代表取締役長野正男)であったものであり、被告人両名は山田公男の仲介で、右長野物産の本件土地に対する占有を代金二五〇万円で平穏に譲り受けたものであるから、右所為は「侵奪」には該当せず、又、被告人両名は右土地に廃棄物を集積しようと考えていたが、長野物産は被告人らの右意図を右山田を通じて知っていたのであり、現に、被告人らが廃棄物を集積し始めたのを知っても、その中止や撤去をさせようとはしなかったのであるから、長野物産は本件土地全体の占有を廃棄物の集積場とすることを前提としてこれを譲渡したものであるというべきであるのみならず、本件土地の所有者である株式会社ヤマツウ小島工務店(以下、ヤマツウと略称する、代表取締役小島厚)も、当時、多額の債務を抱えており、債権者の追求を免れるため身を隠していて本件土地に対する占有を完全に失っており、被告人らの本件土地上の廃棄物搬入と集積も「占有」の「侵奪」に該当しない。

したがって、被告人らは無罪である、というのである。

1  そこで検討すると、関係証拠によれば、次の事実が認められる。

(一)  本件土地はヤマツウの所有であり(登記済)、三四メートル×四四メートルの矩形の土地で、周囲の北側、西側及び南側の三方がブロック塀、東側がトタン塀で囲まれており北西側境界に間口約八メートルの鉄製門扉の出入口がある。本件土地上には、平成八年二月二八日現在において、北側に木造スレート葺平屋建の作業所倉庫一棟(床面積二三三・一〇平方メートル、ヤマツウの所有権保存登記済、平成八年度の固定資産税評価額一〇三万六八六五円、以下、本件建物という)が存在し、中には木工加工機七台(時価約五〇〇万円相当)のほか、建築用の製材木材約五〇〇本(時価約三〇〇〇万円相当)が保管されていた。なお、本件土地には金融機関を債権者とする四個の根抵当権設定登記があり、本件建物は右各根抵当権の共同担保となっていた。

その他に、本件土地上には、未登記ながら次の四棟のヤマツウ所有の建物が存在していた。

その一は、本件土地出入口南側の木造亞鋼一階建休憩所(一六・五二平方メートル、同一一万九八〇円)であり、事務所として使用していたもの、その二は、本件土地の南側にある軽量鉄骨造亞鋼一階建物置(三三・〇五平方メートル、同一四万八九六五円)であり、建物建築作業用の足場ビディが保管されていたもの、その三は、本件土地の南東角にある軽量鉄骨造亞鋼一階建倉庫(一〇五・七八平方メートル、同四八万四五九円)で前記ビディの他、建材、木材の置場として使用していたもの、その四は、本件土地出入口の北側端にある軽量鉄骨造亞鋼一階建物置(一九・八三平方メートル、同九万五五〇七円)であり、浴槽や流し台等の家屋建築備品を保管するための物置として使用していたものの四棟である。これら四棟には抵当権等は設定されていない。

なお、本件土地中央部の空き地には、木材を焼却したと思われる廃棄物が相当量放置されていた。

(二)  ところで、ヤマツウは平成八年二月二六日、小切手の不渡り事故を起こし、同月二八日、これを知った株式会社東京経営サポート(以下、東京経営と略称する、貸金業を営む)の代表取締役永井一行ら債権者の他、右永井から「良い物件があるからどうだろう」という取引の話の連絡を受けて駆けつけた長野物産(競売物件の売買仲介業を営む会社で俗に整理屋といわれる)の長野正男もヤマツウの事務所(埼玉県東松山市松葉町三丁目一二番三四号所在)に押しかけ、債権者らにおいて小島に対して返済を迫ったが、結局、同社には返済能力がなかったことから、右永井は「金を返してもらえないのなら不動産を管理させてもらう」旨、小島に要求し、結局小島はこれに屈して、東京経営のために本件土地に根抵当権及び本件建物に賃借権をそれぞれ設定することを余儀なくされ、右各登記に必要な印鑑証明書、白紙委任状等を右永井に交付したが、その場では、本件土地に対する賃借権の話は出なかった。

一方、前記長野は、同日、その場で右永井より、右根抵当権及び賃借権を代金一五〇万円で買い取って即時代金を支払った。しかしながら、右当事者間においても、右当日、本件土地に対する明確な利用方法もしくは賃借権の話は出ていなかった。

そして、同月二九日、東京経営は本件土地に同社従業員斉藤克己を権利者とする根抵当権設定仮登記及び本件建物に同じくその従業員である西村靖征を権利者とする賃借権設定仮登記(期間三年、特約として譲渡、転貸できる)をした。そして、翌三月一日、長野物産の従業員の森戸英男は本件土地の出入口の鍵を取り替え、門扉に「警告書 当物件は長野物産が占有管理しております」旨記載した書面を貼りつけた。

(三)  ところで、被告人らは、埼玉県坂戸市内に廃棄物を集積していたが、同県西入間警察署から注意を受けたため、早急に右廃棄物を搬出集積する場所を確保する必要があって、山田公男(解体業、不動産業者)にその紹介方を依頼していた。そして、同人は前記長野物産浦和営業所長の川島晴衛と長年の交際があったところ、同日ころ、同人から、「つぶれた工務店の資材置場の賃貸借の物件が出た」という案内を受けて本件土地を見分し、翌二日、被告人佐藤らを本件土地に案内し、被告人佐藤は長野物産が絡んでいることは知らなかったが、二五〇万円で本件建物の賃借権を買うこととし、未だ長野物産との間に契約が成立していないのに同月四日、早速、廃棄物を本件土地に搬入し始めた。

同月五日、被告人両名は、ヤマツウの事務所において、山田、初対面の長野及び川島と同席し、その場で上記根抵当権及び賃借権を二五〇万円で買い受ける契約をし、その場で被告人佐藤は山田を介して一〇〇万円を川島に支払った。その際同人は自己の名刺の裏面に

仮領収書

一、金壱百萬円也

右金員は東松山市大字石橋字城山二〇六四―五

所在の作業所兼宅地の資材置場としての

手附金として

と記載して領収書の代わりとした。

そして、長野及び川島は、「本件土地には抵当権が設定されており、いずれ競売になる、大切に使うこと、資材置場として使用すること、建物は壊してはいけない」、「資材置場としてなら宅地も使える」旨を被告人らに説明していた。又、山田も、「ゴミの置場として使っても、建物まで壊しは困る」等と言っていた。そして、被告人佐藤は、同月二一日、残額の一五〇万円を支払った。なお、山田は、長野物産から仲介の謝礼として二〇万円を、被告人佐藤から仲介料として一六万円を受け取った。

(四)  ところが、被告人らは、同月五日から本格的に本件土地上に廃棄物の搬入集積を開始し、同日には早くも付近住民から東松山市の環境経済部環境保全課に苦情の申し立てがあり、同月六日、同市係員が搬入現場で早急に廃棄物を撤去するよう指導したが、被告人らは七日位で搬出すると答えたものの、その後も廃棄物搬入を続行し、同月一二日には、県、警察、市、消防署が現場に赴き、警察が指導を行ったが、被告人らは、行為は一時保管のためで、違法性はないと主張し、又、競売防止のためで、一時保管はその手段であって廃棄物の処理を目的とはしていない等と言って指導には応じなかった。

しかして、実際に搬入された廃棄物を重機を用いて堆積していた被告人小林は、かねて、被告人佐藤から、「自由に使えるから入れるだけ入れろ、どんどん入れろ」と指示されていたのを受け、同月八日ころには、本件土地南側の資材置場等を、同月一二日ころには、本件土地東側の資材置場を、同月一九日ころまでには、本件土地北側にある本件建物をそれぞれ、その中に大量の足場パイプ、木材、木材加工機や多数の製材等価値のあるものが収納されているのを承知しながらいずれも破壊し、その上に廃棄物を集積し、このため、本件土地上に存在した価値のある建物全部とその内部の収納物は全部破壊されるか、廃棄物の下に埋もれて使用できなくなった。そして、同月三〇日ころまでの間に、前判示のような巨大な、雑多なものを含む廃棄物の山を築いたのである。

なお、本件土地を原状に回復するためには、集積された廃棄物の内容、性質及び量によるが、金額にして一億二一三五万円ないし二億五〇〇〇万円、期間にして約一か月から約三か月が必要であると見積もられている。

(五)  被告人らが、このような行動に及んだもう一つの動機は営利目的にあった。すなわち、被告人らは代金を受領して廃棄物を本件土地に運搬集積することによって利益を得るとともに、本件土地上に廃棄物を集積させることによって本件土地の価格を下落させ、競売に際しては廉価で競落できると考えていたことである。

2  以上の経過をもとに検討する。

まず、東京経営がヤマツウの小島社長に対し、「金を返してもらえないなら不動産を管理させてもらう」として、同人から登記に必要な書類を受領したが、登記したのは本件土地に対する根抵当権設定仮登記と本件建物に対する賃借権設定仮登記のみであって、本件土地に対する賃借権については、東京経営と小島との間に話も出ておらず、その管理形態は曖昧にされていた。しかしながら、本件建物について賃借権を設定した以上、これを利用するためには本件土地の一部を使用せざるをえないことは明らかであり、前記のように、本件土地上には本件建物のほか、ヤマツウ所有の四棟の建物が存在したものの、ヤマツウは前記のように倒産状態となり、企業活動の再開・継続は事実上、望めない状況にあったので、小島としては債務者としての弱みから東京経営の社長の永井が「土地を管理する」と言ったことから、同社ないし同人が本件土地を使用してもやむをえないか、それを黙認せざるをえないと考えたとしても不自然ではないと推認される。

この使用の権限は、特別な契約もない以上、民法上の賃借権としての保護は受けない事実上の土地利用権と解される。そして、前記の東京経営と長野物産との間の前記根抵当権及び賃借権の譲渡契約においても、長野物産は右土地利用権を取得し、したがって、本件土地のうち、前記ヤマツウ所有の未登記の建物四棟の敷地を除くその余の部分の占有を長野物産は取得したものと認められる。そのことは、前記のように同社の従業員の森戸が本件土地の出入口を封鎖し、前記のような張り紙を貼りつけたことからも窺い知ることができる。

次に、長野物産と被告人らとの間の、本件建物の賃借権の譲渡であるが、右のように長野物産は自己が取得したより以上の権利を本件土地に対して有するいわれはないのであるから、被告人らは、本件建物の賃借権の譲り受けとともに、本件土地の前記ヤマツウ所有の建物四棟の敷地部分を除いた部分の事実上の利用権を得たものと認めることができる。そのことは、同年三月五日、長野物産の川島が売買代金の一部として受領した一〇〇万円の仮領収書のただし書きの文言からも窺い知ることができる。

しかしながら、長野物産は、被告人らが本件土地を資材置場として使用すると思って、その趣旨で前記契約をしたのであって、被告人らが本件土地上に存在した建物全部を破壊してまで廃棄物を集積するとは、夢にも思っていなかったことは明らかである。長野物産は、被告人らに対し、本件建物を含む五棟の建物を破壊するまでの権限を譲渡したのではないことは明白である(長野物産ですら、建物破壊権を有しない)。無論、被告人らが右建物を破壊する権利を有しないことはいうまでもない。

そして、被告人らが、長野物産との契約に反して、前判示のように本件土地上に廃棄物を集積させてゴミの山を築いたことは

(1)  明白に、資材置場という土地利用目的について長野物産との契約に違反し、廃棄物の集積場としたのであるから、本件土地の占有形態に質的な変化が生じた(そのことは、長野物産が被告人らの廃棄物集積行為に抗議したと否とを問わない)。

(2)  同月一九日ころ、最終的に本件土地上の本件建物を損壊するという不法行為に及んでその上に廃棄物を集積させたのであるから、少なくとも、この時点において、賃借権の目的物は消滅し、同時に、被告人らは事実上の本件土地利用権を喪失し、そのころ、直ちに、本件土地上の廃棄物を除去して本件土地の所有者であるヤマツウに本件土地を返還すべき義務が発生したのであるが、被告人らは右の日以降も廃棄物の集積を継続してヤマツウに返還せず、不法に占有していたのであるから、その行為は、本件土地の所有者であるヤマツウの占有を侵奪したと認めるに十分である。

なお、前記山田は、被告人佐藤から廃棄物の集積場の斡旋を頼まれて本件土地を紹介した関係上、被告人らが本件土地に廃棄物を集積することを察知していたと認められるが、しかしながら、被告人らが本件土地上の既存の建物まで損壊してその上に廃棄物を集積させるとまでは思ってもみなかったことが明らかである。被告人らは、山田が、本件土地上に廃棄物を集積させてもよい旨言っていたと供述するが、山田は本件契約を口ぎきした単なるブローカーにすぎず、被告人ら及び長野物産のいずれの代理人でもなく、まして、双方の代理人でもないから(同人が本件契約に関して双方から謝礼をもらっていることは前認定のとおりであるが、これは、同人が単なるブローカーであることを示す。民法一〇八条は双方代理を禁じている)、長野物産と被告人らとの間の前記契約の内容を変更するような権限はなく、同人がそう述べたからといっても被告人らの行為が合法化されるいわれはない。

終わりに、被告人らに不法領得の意思があったことは、前記のとおり、本件行為によって利得しようとしていたことから明白である。

弁護人らの主張は理由がない。

(法令の適用)

被告人両名の各所為につき 刑法二三五条の二、六〇条

未決勾留日数の算入 同法二一条

控訴費用の負担につき 刑事訴訟法一八一条一項本文(証人に支給した分)

(検察官 中村勉出席)

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