浦和地方裁判所熊谷支部 平成6年(ヌ)23号 決定 1994年11月10日
主文
別紙物件目録記載の不動産に対する強制競売の申立てを却下する。
理由
民事執行法三一条一項によれば、債務者の給付が反対給付と引換えにすべきものである場合においては、債権者が反対給付又はその提供のあったことを証明したことが執行開始の要件となり、必ずしも反対給付の履行まで要するものではなく、その履行の提供で足りるとされている。
しかし、履行の提供とは、債権者の協力がなければ履行を完了することができない債務について、債務者が給付の実現に必要な準備をして債権者の協力を求めることをいうのであるから、債務者単独の給付行為によって履行を完了しうる債務については、履行の提供は問題とならず、履行をしたことが必要となるというべきである。
本件債務者の債務は、本件債権者が不動産仮差押申立てを取り下げるという反対給付と引換えにすべきものであり、かつ、この反対給付は、債務者である本件債権者が単独でなしうるものであるから、執行開始の要件として、その履行を要するものというべきところ、その証明はなされていない。
したがって、本件強制競売の申立ては、執行開始の要件を具備しておらず、不適法というべきであるから、これを却下することとし、主文のとおり決定する。
(裁判官 浦野真美子)