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浦和地方裁判所川越支部 昭和47年(ワ)215号 判決 1976年1月26日

原告

土田登枝子

ほか三名

被告

水村喜和

ほか二名

主文

1  被告水村喜和および同水村喜七は、各自、原告土田登枝子に対し金一〇六万七三二二円、その余の原告らに対しそれぞれ金五六万六七二五円およびこれらに対する昭和四六年七月一七日(被告水村喜七につき)ないし昭和四七年一二月二〇日(被告水村喜和につき)から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  原告らの右両被告に対するその余の請求および被告水村文子に対する請求を棄却する。

3  訴訟費用はこれを三分しその一を被告らの負担とし、その余を原告らの負担とする。

4  この判決の第1項は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告ら

1  被告ら三名は連帯して、原告土田登枝子に対し金三〇〇万円、同法子、同伸一、同幸枝に対し各金一五〇万円およびこれらに対し、被告水村喜和は昭和四七年一二月二〇日から、被告喜七および同文子は昭和四六年七月一七日から各完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  被告ら

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  原告らの請求原因

(一)  事故の発生

1 日時 昭和四六年七月一六日午前七時四〇分ころ

2 場所 川越市新富町一―二〇県道路上

3 加害車 普通乗用自動車(埼玉五五な四八―七七)

右運転者 被告水村喜和

4 被害者 訴外亡土田藤一郎

5 態様 被告水村喜和運転の自動車が、横断中の亡土田藤一郎をはね、一九時間後に脳挫傷、多発性頭蓋骨骨折等の負傷により死亡させたものである。

(二)  責任原因

被告水村喜七は加害車の所有者であり、被告水村喜和および同文子は同車を自己のために運行の用に供しかつ運行利益を得ていたものである。

(三)  権利の承継

1 原告登枝子は被害者亡土田藤一郎の妻であり、原告法子、同伸一、同幸枝は夫々亡藤一郎と原告登枝子の間に生まれた実子で、いずれも成人に達している。

2 亡土田藤一郎の損害賠償請求金につき、原告等は法定相続分に従い、原告登枝子が三分の一、同法子、同伸一、同幸枝が各自九分の二の割合にて相続した。

(四)  亡土田藤一郎の損害

1 逸失利益 金二七九九万九一五円

亡藤一郎は当時、明治製菓株式会社に勤務し、昭和四五年七月より昭和四六年六月の一年間に金二九〇万九〇七八円の給与所得を得ていた。年令は四八才であつたので就労可能年数としては、六三才までの一五年間と解され、生活費は年間所得のうち月三万円の合計三六万円を上廻ることはなかつた。

従つて現価に試算する係数はホフマン方式により一〇・九八〇八を採用する。

(2,909,078-360,000)×10.9808=27,990,915

2 右を原告登枝子は金九三三万三〇五円、同法子、同伸一、同幸枝は各自六二二万二〇二円宛相続した。

(五)  原告登枝子の損害

同原告は、亡藤一郎の葬儀費として金二五万円の出費を余儀なくされ、同額の損害を受けた。

(六)  慰藉料 金五〇〇万円

1 本件事故により原告登枝子は夫を失いその精神的打撃は筆絶しがたいが、これを金銭に代値するならば金二〇〇万円をもつて相当とする。

2 原告法子、同伸一、同幸枝は父藤一郎を失い、人生の最大の教師を奪われたことによる精神的シヨツクは甚大なものがあり、これを金銭に代値するならば各自一〇〇万円をもつて相当とする。

(七)  従つて、原告登枝子は金一一五八万三〇五円、同法子、同伸一、同幸枝は各自金七二二万二〇二円宛、被告らに対し損害賠償請求権を有するところ、被告らは支払いに応じないため、原告等は弁護士麻生利勝に訴訟委任せざるを得ず弁護料として、原告登枝子が金五〇万円、同法子、同伸一、同幸枝の各自が金三〇万円を支払う旨契約し、その支払義務を負担し、同額の損害を蒙つた。

(八)  よつて、原告登枝子は金一二〇八万三〇五円、同法子、同伸一、同幸枝は各自金七五二万二〇二円の各損害賠償請求権を被告らに対して有するところ自賠責保険金五〇〇万円の支払いを受け原告らの相続分に応じてこれを受領したので、残金のうち原告登枝子は三〇〇万円、同法子、同伸一、同幸枝は各自金一五〇万円及び右各金員に対し、請求の趣旨記載のとおり年五分の割合による民法所定の遅延損害金の支払いを被告らに求める。

二  請求原因に対する被告らの答弁

(一)の1ないし4は認めるが、5は争う。但し土田藤一郎が死亡した事実は認める。

(二)のうち、水村喜和が加害車を自己のために運行の用に供していたことは認め、その余の事実を否認する。

(三)ないし(六)は不知

(七)は争う。

(八)のうち原告らが自賠責保険金より金五〇〇万円の支払を受けた事実を認め、その余は争う。

三  被告らの主張(免責)

(一)  本件事故現場附近には、西武線本川越駅前県道上を東西に横断する歩行者のために設けた横断歩道が二本ある(南側、北側に各一本宛)。然るに亡土田藤一郎は本件事故当日右横断歩道の何れをも通らないで、右本川越駅前の車道に近い人ごみの中から突然車道に飛び出して、被告の運転する乗用自動車に突き当つたのである。

(二)  被告は右自動車の運転につき、制限速度以内の速度(毎時四〇キロメートル)で、前方左右を注視して正常な運転を行いつつ右車道上を南から北に向かつて進行していたところ、亡土田藤一郎が前記のように突然被告運転の自動車の直前車道上に飛び出したので、被告はその衝突を避けるため直ちにブレーキを踏んで停止の措置を取つたが、亡土田の飛び出した位置が車道に近くかつ被告運転の自動車に近かつたので、被告が停止できないうちに亡土田が被告の自動車に突き当つたのである。すなわち、制限速度以内である時速四〇キロメートルで自動車を運行したばあい亡土田藤一郎を発見してから右自動車を停止するまで一八メートルを要するところ、右距離に至る以内の一二メートルの地点で右土田と衝突したものであるから、右衝突は避けられないものであり、本件事故に対し被告には責任はない。

第三証拠〔略〕

理由

第一事故の発生

請求原因(一)の1ないし4の事実は、当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第一、二号証によれば同5の事実が認められる。同5の事故の態様については、後記第五で認定するとおりである。

第二責任原因

一  被告水村喜和については、同被告が加害車を自己のために運行の用に供していたことは当事者間に争いがなく、同被告は自賠法三条により、後記免責の抗弁が認められない限り、本件事故による原告らの損害を賠償する責任がある。

二  被告水村喜七の責任原因について

成立に争いのない甲第五号証、被告水村喜七、同水村喜和各本人尋問の結果によれば、加害車は被告喜七が名義人となつて金五一万五〇〇〇円で購入し、月賦の支払名義人も被告喜七であること(同人振出名義の約束手形によつて支払われていた)、右金員を現実に支払つていたのは被告喜和であるが、被告喜和は被告喜七と同居していて、被告喜和の月収は当時約三万円で、食費として五〇〇〇円程度を家計に入れていただけなので、父親である被告喜七の援助なしには右金員の支払ないし車の管理費用の支出はできなかつたこと、加害車の購入者が喜七名義になつた理由は、購入当初、被告喜和が、自己の印鑑証明をとる手間を省いて、被告喜七に無断で同人の印を使用したためであるが、その直後被告喜七はこれを承認していること等の事実を認めることができこれに反する証拠はない。右事実からすれば、たとえ加害車をもつぱら使用していたのが被告喜和だとしても、被告喜七は、同車に対する最終的支配権を有する者として、保有者としての責任を負うのが相当であると認められる。

三  被告水村文子が本件加害車の運行供用者であることを認めるに足りる証拠はない。

第三権利の承継

原告土田登枝子本人尋問の結果によれば、請求原因(三)の1の事実を認めることができ、弁論の全趣旨によれば、他に亡土田藤一郎の相続人は存在しないものと認められるから、亡土田藤一郎の損害賠償請求金につき、原告らは法定相続分に従い、原告登枝子が三分の一、同法子、同伸一、同幸枝が各自九分の二の割合にて相続した。

第四損害

一  亡土田藤一郎の逸失利益

原告土田登枝子本人尋問の結果およびこれにより真正に成立したものと認められる甲第三号証ならびに成立に争いのない甲第二号証によれば、亡土田藤一郎は、事故当時四八才で明治製菓株式会社に勤務し、昭和四五年七月から同四六年六月までの一年間の収入は二九〇万九〇七八円で、今後の就労可能期間中右金額を下らない収入があるものと認められるところ、同人の就労可能年数は死亡時から一九年、生活費は収入の三五パーセントと考えられるから、同人の死亡による逸失利益をホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると、金二四八〇万一〇五三円となる。

二  葬儀費用

原告土田登枝子本人尋問の結果およびこれにより真正に成立したものと認められる甲第四号証によれば、原告土田登枝子は亡土田藤一郎の葬儀費用として金二六万八九四〇円を支出し、同額の損害を蒙つた事実を認めることができる。

三  慰藉料

本件事故の態様、原告らの年令、親族関係その他諸般の事情を考えあわせると、原告土田登枝子の慰藉料額は金二〇〇万円、他の原告らの各慰藉料額は各金一〇〇万円とするのが相当である。

第五免責の抗弁および過失相殺について

一  成立に争いのない乙第一号証の一ないし四、証人石川修一同島田奉昭、同池田臣雄の各証言および被告水村喜和本人尋問の結果によれば、本件事故の態様は次のとおりであると認められ、これに反する証拠はない。即ち、被告水村喜和は、昭和四六年七月一六日午前七時四〇分ころ、加害車を運転して、別紙図面の所沢方面から本件現場にさしかかり、現場手前の横断歩道の信号が被告に対して青だつたためそのまま進行し(その際加害車の前方に他の車はなかつた。)、時速約四〇キロメートルで別紙図面<1>まで来たとき、折柄本川越駅で下車して改札口を出た乗客の集団(朝の通勤客等)の中から、亡土田藤一郎ひとりが<イ>から×にむけて飛び出してきたのを発見し、危険を感じて急ブレーキをかけることともに右にハンドルを切つたが間にあわず、×点で右藤一郎と衝突し、同人は<ロ>に転倒し、加害車は<2>で停止したものである。

二(一)  被告らは、本件事故現場の制限速度が時速四〇キロメートルで、被告水村喜和は、その制限内である時速約四〇キロメートルで進行していたのであり、右速度での制動距離は一八メートル以上であるから、衝突地点の一二メートル手前に被害者が急に飛び出してきた本件においては、衝突を回避することはできなかつたとして免責を主張している。

(二)  成立に争いのない乙第一号証の一ないし四、証人石川修一、同島田奉昭および同池田臣雄の各証言によれば、本件現場附近の車道は、西武線本川越駅前の広場に広く接し、同駅の改札口のほゞ正面に、右車道を隔ててバスの停留所があるため、特に朝の通勤時には、先を急ぐ通勤客らが付近の横断歩道を迂回せず、まつすぐに車道を横断することが多い危険な場所であると認められ、被告水村喜和本人尋問の結果はこれをくつがえすに足りず、他に右認定に反する証拠はない。

そして、被告水村喜和も、当時、毎朝通勤のため加害車に乗つて同所を通つていたのであるから、右の危険性は十分予見しえたはずである。にもかかわらず、同被告は、この危険性についての認識が十分でなかつたと認められる(被告本人尋問の結果)。もし、同被告が右の危険性を予見し、仮に時速三〇キロメートルにまで減速して進行しておれば、その制動距離は一〇メートルを若干上回る程度となり、少なくとも死の結果は回避することができたはずである。したがつて、同被告には、通勤客らが横断歩道を通らずに、まつすぐ車道を横断することがありうることへの危険性を予見していなかつた過失があり、これがひいて本件結果の回避する義務(減速)の懈怠を生ぜしめたものである。

(三)  自動車運転者たるものは、当該道路の具体的状況に応じて危険を回避しうる運転をなすべき義務があり、単に制限速度内で走行していたからといつて、その際に発生した事故に対する責任が全く否定されるものでないことは論をまつまでもないことであり、また、本件事故の態様からみて信頼の原則を適用する余地も存在しない。

したがつて、被告らの免責の主張は採用できない。

三  しかし他方、亡土田藤一郎にも、近くに信号機のある横断歩道があるのにこれを利用せず、しかもその信号機が歩行者に対して赤であるのに、左右の安全を確認することなく車道を横断しようとした不注意がある。

四  以上の双方の過失の態様を考慮すると、過失相殺として原告らの損害の七割五分を減ずるのが相当と認められる。

第六損害の填補

原告らが自賠責保険金より金五〇〇万円の支払をうけ各相続分に応じて前記損害額に填補されたことは、当事者間に争いがない。

よつて原告らの前記損害額から右填補分を差引くと残損害額は、原告土田登枝子が金九六万七三二二円、その余の各原告が各自金五一万六七二五円となる。(計算表は別紙のとおり)

第七弁護士費用

本件事案の内容、審理経過、認容額等に照すと、原告らが被告らに対して本件事故による損害として賠償を求めうる弁護士費用の額は、原告土田登枝子が金一〇万円、その余の各原告が各自金五万円とするのが相当である。

第八結論

よつて被告水村喜七および同水村喜和は各自、原告土田登枝子に対し金一〇六万七三二二円、およびこれに対する本件不法行為の日の後である昭和四六年七月一七日(被告水村喜七につき)ないし同四七年一二月二〇日(被告水村喜和につき)から支払済まで年五分の割合による遅延損害金を、その余の原告らに対しそれぞれ各自金五六万六七二五円およびこれに対する本件不法行為の日の後である昭和四六年七月一七日(被告水村喜七につき)ないし昭和四七年一二月二〇日(被告水村喜和につき)から支払済まで年五分の割合による各金員を支払う旨求める限度で本訴は理由があるのでこれを認容し、その余の請求は理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条本文、第九三条第一項、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 石塚章夫)

計算表

1 土田登枝子分

{2,909,078(年収)×(1-35/100)(生活費控除)×13.1160(ホフマン係数)×1/3(相続分)+268,940(葬儀費用)+2,000,000(慰藉料)}×(1-0.75)(過失相殺)-(5,000,000(填補分)×1/3)=967,322

2 土田法子、同伸一、同幸枝分

{2,909,078×(1-35/100)×13.1160×2/9+1,000,000}×(1-0.75)-(5,000,000×2/9)=516,725

別紙図面

<省略>

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