大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

浦和地方裁判所 昭和58年(行ウ)5号 判決 1987年7月20日

埼玉県川越市大字今泉二二一番地

原告

新井茂司

同所

原告

新井ちよ

右原告両名訴訟代理人弁護士

山本正士

埼玉県川越市三光町三六番地の一

被告

川越税務署長

五島幸夫

右指定代理人

大沼洋一

荻原嬢

萩原武

川副康孝

代島友一郎

清水利雄

矢亀勲

主文

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告新井茂司

「1 被告が原告新井茂司(以下「原告茂司」という。)に対し、昭和五六年二月六日付けでした昭和五二年分所得税更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分をいずれも取り消す。

2 訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

二  原告新井ちよ

「1 被告が原告新井ちよ(以下「原告ちよ」という。)に対し、昭和五六年二月六日付でした昭和五二年分所得税更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分をいずれも取り消す。

2 被告が原告ちよに対し、同日付でした昭和五三年分所得税更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分をいずれも取り消す。

3 訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

三  被告

主文同旨の判決

第二当事者の主張

一  原告ら・請求原因

1  原告らは、被告に対し、それぞれ別紙一ないし三の各「確定申告」欄記載のとおりか確定申告をした。

2  被告は、原告らに対し、別紙一ないし三の「更正及び加算税の賦課決定」欄記載のとおり各更正処分及び各過少申告加算税賦課決定処分(以下併せて「本件各課税処分」という。)をした。

よって、原告らは、本件課税処分に不服であるから、被告に対し、その取消を求める。

二  被告・認否

請求原因事実は認める。

三  被告・抗弁

1  本件各課税処分の対象年における原告らの所得金額等の内訳は別紙四ないし六のとおりである。

2  原告茂司の昭和五二年分所得税について

(一) 総所得金額=五二一万六六〇〇円(申告額)

(二) 分離課税長期譲渡所得金額=四三二五万〇〇五〇円

(1) 総収入金額=四六五七万九〇〇〇円(申告額)

右は、原告茂司及び原告ちよが、三澤建設株式会社に対し、昭和四四年一月一日前に取得した原告ら共有の別紙物件目録(一)(二)の土地(以下「本件土地(一)(二)」という。)を売渡した代金額のうち、原告茂司の持分三分の一に相当する金額である。

(2) 取得費及び譲渡費用=二三二万八九五〇円(申告額)

(3) 譲渡益((1)-(2))=四四二五万〇〇五〇円

(4) 長期譲渡所得金額=四四二五万〇〇五〇円

租税特別措置法(以下「措置法」という。)三一条一項による。

(5) 長期譲渡所得の特別控除額=一〇〇万円

措置法三一条二項による。

3  原告ちよの昭和五二年分所得税について

(一) 純損失金額((1)-(2))=三六万八二八八円

(1) 事業所得の損失金額=九四万三五八八円(申告額)

(2) 給与所得金額(ア+イ-エ)=五七万五三〇〇円

ア 給料=九〇万八〇〇〇円(申告額)

イ 公的年金=一六万七三〇〇円(申告額)

ウ 老年者年金特別控除額=〇円(別紙五の(注)のとおり。)

エ 給与所得控除額=五〇万円

所得税法二八条三項一号による。

(二) 繰越純損失金額=一一七万三〇一五円(申告額)

(三) 分離課税長期譲渡所得金額=九六八三万九一四七円

(1) 総収入金額=一億〇四六一万一〇〇〇円(申告額)

右は、前記2(二)(1)の本件土地(一)(二)の売渡代金額のうち原告ちよの特別三分の二に相当する金額は、同人が昭和四四年一月一日前に取得した川越市大字今泉字屋敷廻二二一番二の宅地(以下「本件土地(三)」という。)を三澤建設株式会社に売渡した代金額との合計額である。

(2) 取得費及び譲渡費用=五二三万〇五五〇円(申告額)

(3) 譲渡益((1)-(2))=九九三八万〇四五〇円

(4) 長期譲渡所得金額=九七八三万九一四七円

措置法三一条一項、所得税法六九条(前記(一)の純損失金額の控除)及び同法七〇条(前記(二)の繰越純損失金額の控除)による。

(5) 長期譲渡所得の特別控除額=一〇〇万円

措置法三一条二項による。

4  原告ちよの昭和五三年分所得税について

(一) 総所得金額((1)+(2)+(3))=一八〇万二一〇八円

(1) 事業所得金額(農業)=二三万八七二七円(申告額)

(2) 不動産所得金額=一一五万一三八一円(申告額)

(3) 給与所得金額=四一万二〇〇〇円(申告額)

(4) 繰越純損失金額=〇円(別紙六の(注)のとおり。)

(二) 分離課税短期譲渡所得金額=一六〇万円(申告額)

5  過少申告加算税賦課決定の証拠について

国税通則法六五条一項の規定に基づいて原告らの過少申告加算税額(国税通則法一一九条四項の規定により百円未満の端数金額を切捨てる。)を計算すると、別紙四ないし六の「過少申告加算税額」欄記載のとおりとなる。

四  原告ら・認否

抗弁事実は認めるが、本件には所得税法六四条二項が適用されるべきであるから、この点にかかわる課税所得金額の計算は争う。

五  原告ら・再抗弁

1  原告らがその共有の本件土地(一)(二)及び原告ちよ所有の本件土地(三)を三澤建設株式会社に対し、合計一億五一一九万円で売り渡した(以下「本件譲渡」という。)のは、別紙(一)記載の保証債務を履行するためであるところ、その主たる債務の債務者ら(別紙(二)ないし(五)記載)はいずれも資力を有しないから、原告らは右保証債務の履行による求債権を行使することができない。

2  したがつて、所得税法六四条二項の適用により、本件譲渡による所得はなかつたものとみなされるべきである。

六  被告・認否

1  再抗弁1のうち原告ら主張の保証契約の目的たる主債務発生の事実は別紙(六)(1)(2)記載の限度で認めるが、その余の債務の発生については不知、その余の事実は否認する。 原告茂司が本件譲渡をしたのは、原告茂司が農協組合長として行なつた別紙(六)(1)及び(2)の片岡哲哉外八名に対する貸付等に関し、その任務を怠つたことにより農協に与えた損害を賠償する責を負い、その債務もしくはこれを目的として、成立した準消費貸借債務を履行するためであり、原告ちよが本件譲渡をしたのは、原告茂司の右債務についての連帯保証債務を履行するためであつて、いずれも原告らが主張する保証債務を履行するためではない。そして、原告ちよは、その主たる債務者である原告茂司に対して「その履行に伴う求償権の全部又は一分を行使することができない」とはいえない。したがつて、いずれも所得税法六四条二項が適用されるべき場合には該当しない。

2  同2の主張は争う。

第三証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおり。

理由

一  請求原因及び抗弁の各事実は当事者官に争いがない。

そして、再抗弁1の事実中主たる債務発生の事実については別紙(六)(1)(2)の限度で争いがない。

二  原告らは再抗弁において、原告らが本件譲渡をしたのは、右主たる債務についての保証債務を履行するためであつたと主張するので、以下この点について検討する。

1  別紙(二)記載の保証契約について

原告らは、農協との間で、昭和五〇年一一月一七日、別紙(二)(2)記載の各債務を主たる債務として保証契約を締結した旨主張するところ、この主張に副う証拠として甲第一二号証並びに証人奥住宣男の証言及び原告茂司本人尋問の結果がある。

甲第一二号証は、当時農協の代表監事であつた栗原亀蔵(以下「栗原」という。)が農協の代表者として、原告らとの間で、原告主張の右保証契約を締結した旨が記載さている書面であり、証人奥住宣男の証言及び原告茂司本人尋問の結果は、右甲第一二号証債権者欄の「栗原亀蔵」の記載は栗原が契約締結の際自ら署名したとして、原告らが右保証契約を締結した旨を供述するものである。

しかし、成立に争いのない甲第四号証及び乙第三七号証の一、原告の存在及び成立に争いのない乙第八号証、第三〇号証、第五〇号証、第六九号証、第七一号証及び第八四号証、署名部分が栗原の自署であることを除き原本の存在及び成立に争いがなく、右署名部分はその方式及び趣旨により同人の自署と推定される乙第一二二、第一二三号証、証人澤田三之助の証言により成立の認められる甲第二号証及び第五号証、弁論の全趣旨により成立の認める乙第一二四、第一二五号証、証人澤田三之助の証言、並びに弁論の全趣旨を総合すると、栗原は、農協において作成する書面にはおおむね自ら署名しており(後掲乙第三一号証の一は除く)、その署名の運筆には恒常性が存することが認めるられるところ、このことと証人金澤良光の証言により成立の認められる乙第一二一号証及び同証言に微すると、右甲第一二号証の債権者欄の「栗原亀蔵」の記載は、栗原の自署ではないことが窺われ、これらの事情に照らすと、証人奥住宣男及び原告茂司本人の前記各供述部分は措信し難く、右各供述及び甲第一二号証によつては同号証の成立の真正及び原告らが主張する右保証契約の締結を認めることはできない。

2  別紙(三)記載の保証契約について

原告らは、農協との間で、昭和五〇年一〇月二日、別紙(三)記載の各債務を主たる債務として保証契約を締結した旨主張するところ、この主張に副う趣旨の記載がある証書として乙第二三号証がある。

原本の存在及び成立に争いのない乙第二三号証は原告茂司が農協代表監事から片岡哲哉の保証債務及び立替金債務に対して個人として保証する事を申し込まれ、これを承諾した旨の記載がある昭和五〇年一〇月二日付けの書面である。

しかし、原告茂司は後記3(二)記載のとおり昭和五〇年当時農協の組合長として片岡哲哉らに対し多額の不良貸付を行つていたことが認められるところ、原本の存在及び成立に争いのない乙第二四号証、証人小山茂治の証言によれば、昭和五〇年九月から、埼玉県農林部による認定査察(農業共同組合法九四条三項)が行なわれ、同部の指導をうけて乙第二三号証の作成日付の二日後である同年一〇月四日付で、原告らから農協代表監事宛に、原告茂司が片岡哲哉に対する貸付は、組合長理事として自分の判断により貸付たものであることを確認し、昭和五一年三月三一日までに回収することと、同日までに回収できない貸付金については、同日における未回収貸付残元金および貸付元金完済に至るまでの約定貸付利息につき、原告茂司がその債務を引き受けて弁済することを確約し、原告ちよが原告茂司の右引受債務につき連帯して保証するという趣旨の約定書(乙第二四号証)を差し入れるとともに、原告茂司が原告ちよと共有している不動産に担保物権を設定することになつたことが認められるが、乙第二三号証は、右担保物件の設定に先立ち原告茂司と原告ちよの間でなされた、原告ら共有の不動産に農協の担保物件を設定することに関する協定を書面にしたものであつて、原告らと農協との間の契約証ではないことが明らかである。したがつて、同号証によつては原告らが主張する右保証契約締結の事実を認めることはできない。また、この点に関する原告茂司本人尋問の結果も、右の事情に照らして採用することができない。

3  別紙(四)記載の保証契約について

原告らは、農協との間で、昭和五〇年一一月一五日、別紙(四)(2)記載の各債務を目的として保証契約を締結した旨主張するところ、原告茂司はその本人尋問において、前掲乙第三〇号証はその趣旨のものである旨供述している。

(一)  前掲乙第三〇号証によれば、同号証は、損害補てん並びに譲渡担保権設定契約書と題して、別紙七の記載及び原告ちよが原告茂司の債務を連帯保証する旨が記載さている文書であることが明らかである。

(二)  そして、前掲乙第一二二、第一二三号証、成立に争いのない甲第二一号証、乙第一三号証、第三三号証の一、第四六号証の一、第九七号証ないし第一一六号証及び第一二〇号証、原本の存在及び成立に争いのない乙第一四、第一五号証、第一六甲証の一、第一七号証の一、二、第二〇号証の一、第二一号証の一、二、第二二号証の一、第三五、第三六号証、第八九号証ないし第九六号証、弁論の全趣旨により成立の認められる甲第二五号証並びに証人澤田三之助、同小山茂治の証言及び原告茂司本人尋問の結果によれば、次の事実を認めることができる。

(1) 原告茂司は、昭和五〇年当時農協の組合長で、農協の理事会及び監事会において事業執行を一任されており、他の理事には経済的に迷惑をかけないと宣言して独断でその事務を遂行していたところ、埼玉県農業協同組合中央会から昭和五〇年三月三一日の定期監査において、農協の自己資本を充実されたい旨の改善要望を受けたが、組合員との間で増資はしない旨約束していたため、内部保留を増加させて自己資本を充実させようと考え、農協の金融業務に力を入れることにして、独断で別紙(八)記載の貸付及び立替金の支払いを行った(但し、(三)欄の貸付は、右定期監査において員外貸付の範囲外であるため早期回収整理を要望された貸付金)。

(2) しかし、右貸付などは、金額及び借受人の資格の点で農協の定款に定められた員外貸付の範囲外の貸付であるうえ十分な担保の設定も受けず、農協の目的とは無関係である弁当工場、映画製作などの事業資金として貸し出されたものであり、前記認定査察においてこの点が指摘され、また、埼玉県農林部の検査官らから、右貸付のうち片岡に対する立替金(二億〇三七七万二七一六円)はほぼ回収不能と判断された。

(三)  右(一)(二)の事実によれば、昭和五〇年一一月一五日当時、別紙(八)記載の貸付が回収不能により農協が損害を被つた場合には、原告茂司は右貸付けを行なった組合長としての責任上その損害填補の責めに任ずることを認めたうえ、その債務の履行を担保するため同原告所有の不動産に譲渡担保権を設定したものであり、これを証するものとして乙第三〇号証が作成されたものじあることが窺われ、これら事情に照らすと、乙第三〇号証をもつて原告らが主張するような原告らが他人の債務を保証する契約を締結したものと認めることはできず、この点に関する原告らの主張に副う原告茂司本人尋問の結果も採用し難い。

(四)  ところで、右乙第三〇号証につては、これと同じ日付で、原告茂司及び農協代表監事栗原とが、「乙第三〇号証の第1条は、法的責任を意味するものではなく、反省の意味で道議的責任を認めたものである。」旨記載した同意書と題する原本の存在及び成立に争いのない乙第三一号証の一があるが、前記(三)のとおり右乙第三〇号証はその記載自体から原告茂司が農協に対し法的責任を認めたものであることが窺われるうえ、前掲の乙第三七号証の一、第一二二、第一二三号証、原本の存在及び成立に争いのない第三一号証の二、第三七号証の二、証人澤田三之助の証言及び原告茂司本人尋問の結果によれば、原告茂司及び栗原は、当時原告茂司の組合長としての責任が未だ現実的に発生していないと理解していたことから、右のような道義的責任云云の記載がなされたにすぎず、別紙(八)記載の貸付等により将来農協の損害が現実化した場合にもなお、原告茂司にその損害補てんの履行責任があることを否定する趣旨のものではないことが窺われるので、乙第三一号証の一は右判断の妨げとなるものではない。

4  別紙(五)記載の保証契約について

原告らは、農協との間で、昭和五一年一一月二一日、別紙(五)(2)記載の各債務を主たる債務として保証契約あ締結したものである旨主張し、原告茂司はその本人尋問において前掲乙第八号証はこの趣旨で作成されたものである旨供述してきる。

しかし、前掲乙第八号証は、損害補てん並びに代物弁済予約等契約書と題する書面であるところ、その契約書中の文書自体、原告らが主張する右保証契約を意味するものではなく、原本の存在及び成立に争いのない乙第一一号証、第四九号証、弁論の全趣旨により成立の認められる甲第二六号証によれば、右乙第八号証は、前記3で述べた昭和五〇年一一月一五日の損害補てん並びに譲渡担保権設定契約により原告らが設定を約した担保権と実際に設定された担保権とに不一致があるなどの点で不都合を生じたため、弁護士の指導で新たに契約しなおしたものであつて、基本的には前記乙第三〇号証と同趣旨の損害担保契約であることが窺われる。

したがつて、前掲乙第八号証及び原告茂司本人尋問の結果によつて原告ら主張の右保証契約締結の事実を認めることはできない。

5  なお、前記一の当事者間に争いのない事実と成立に争いのない乙第五号証並びに弁論の全趣旨によれば、原告らが昭和五二年四月九日本件土地(一)ないし(三)三澤建設株式会社に代金一億五一一九万円で譲渡し、その代金のうちから一億五〇〇〇万円を農協に支払つたことが明らかであるところ、原本の存在及び成立に争いのない乙第八七号証(農協の昭和五六年七月一三日付証明書)には、原告らが農協に対する右支払について片岡からの債務の弁済に充当する旨の指定があった旨の記載があり、また、弁論の全趣旨によつて成立の真正を認め得る甲第六号証(農協の昭和五九年二月三日の理事会議事録)には、昭和五二年四月九日付けの原告らからの弁済は原告らの保証責任としての弁済であつたことを確認する旨の、成立に争いのない甲第一〇号証(昭和五九年三月八日付けの農協と原告らとの間の別件浦和地方裁判所川越支部昭和五四年ワ第九九号事件における訴訟上の和解調書)には、昭和五二年四月九日の一億五〇〇〇万円の支払いは塩三らの債務につき原告らがした保証契約の保証責任に基づく支払いであつたことを確認する旨のそれぞれ記載がある。

しかし、前記のとおり、原告らは片岡らに対する貸付につて原告茂司の農協に対する損害賠償責任を認め、その履行を約束していたことが窺われるのであり、これらの事情に照らすと、右の支払はむしろ原告茂司の農協に対する右損害賠償債務の履行としてなされたものと解するのが相当であつて、右の各証拠をもつて原告らが片岡らの債務を保証した旨の原告ら主張の裏付けとするには足りないといわなければならない。

そして、右乙第八七号証は本件各課税処分に対する異議の申立があつたことについて当事者間に争いのない昭和五六年四月六日より後に作成さたものであることが明らかであり、右甲第六号証及び第一〇号証は、いずれもさらに後で本件訴訟提起後の農協と原告らとの間の右別件訴訟が和解によつて終了した頃に作成されたものであることが右各書証自体によつて明らかであるが、成立に争いのない乙第一号証によれば、農協が右別件訴訟において主張していた原告らの債務は、原告茂司は農協に対し損害を弁償する旨約定し、原告ちよは右損害賠償債務を連帯して保証する旨約定したことによる債務だつたのであつて、原告らが本訴において主張する保証債務ではなかつたことが明らかであり、これに照らせば、右甲第六、一〇号証は和解成立に伴い税務対策上作成されたものと推認されるのであつて、とうてい原告ら主張の保証契約締結の事実を証するに足りるものではない。

6  以上のとおりであるほか、原告らが主張する各保証契約締結の事実を認めるに足りる証拠はなく、したがって、本件譲渡は別紙(一)記載の保証債務を履行するためになされたものであるとして、本件譲渡所得について所得税法六四条二項を適用すべきであるとする原告らの主張を採用することはできない。

三  原告ちよについても前記二でのべたとおり、その主張する各保証契約締結の事実を認めることはできないところ、原告ちよは、原告茂司の農協に対する損害賠償債務を保証し、この保証債務を履行するこめに本件譲渡をしたものであることが認められるが、原告茂司が資力を有しないため原告ちよが同茂司に対する求債権の全部または一部を行使することができないことについては何ら主張立証がない。したがつて、本件譲渡所得のうち原告ちよの分についても、所得税法六四条二項を適用すべきであるとすることはできない。

四  そうすると、その余の点について判断するまでもなく、本件各課税処分はいずれも正当であつて、これを違法としてその取消を求める原告らの本訴請求はいずれも理由がないといわなければならない。

よって、原告らの本訴請求はいずれもこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条及び九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小川英明 裁判官 松井賢徳 裁判官原道子は転補のため署名捺印することができない。裁判長裁判官 小川英明)

物件目録

(一) 川越市大字今泉字後谷八六番二

畑 三五三九・一五平方メートル

(二) 同所八九番二

田 一五平方メートル

(三) 同市大字今泉字屋敷廻二二一番二

宅地 二九〇・四六平方メートル

別紙一

新井茂司の昭和五二年分

<省略>

別紙二

新井ちよの昭和五二年分

<省略>

別紙三

新井ちよの昭和五三年分

<省略>

別紙四

新井茂司の昭和五二年分

<省略>

別紙五

新井ちよの昭和五二年分

<省略>

<省略>

(注)順号1の(老齢者年金特別控除額)の更正等の金額が〇円となるのは、新井ちよの同年分合計所得金額(順号3の分離課税長期譲渡所得金額九六、八三九、一四七円)が一千万円を超えることになることから、同人が所得税法二条三〇号に規定する老年者に該当しないことになるため、確定申告書で申告した公的年金に係る老年者年金特別控除(租税特別措置法二九条の四)一六七、三〇〇円が認められないことによるものである。

別紙六

新井ちよの昭和五三年分

<省略>

<省略>

(注)順号2の繰越純損失金額の更正金額が〇円とるのは新井ちよに対する昭和五二年分の更正処分の結果、確定申告書で申告した前年からの繰越純損失金額五三五、五八八円が存在しなくなつたことによるものである。

別紙七

損害補てん並びに譲渡担保権設定契約書

第1条 別紙一覧表の貸付金(注。別紙(四)(2)及び(3))については、甲(注。原告茂司)が善良な管理者としてなすべき注意義務を懈怠したことによりもたらされたものであることを認める。

第2条 前条の貸付金等が、将来その貸付(立替金を含む。)元利金及び遅延損害金の償還が得られない等により乙が豪る損害を補てんにすることとする。

第3条 前条に基づいて、甲が負担する損害補てん債務を担当するため、甲はその所有にかかる不動産を、本日、乙に対し、譲渡担保の趣旨で譲渡し、甲は速やかにこれにつき所有権移転登記手続をなすものとする。

別紙(一)

原告らは、原告らが履行した保証債務の発生根拠として、別紙(二)ないし(五)記載の保証契約を選択的に主張する。

別紙(二)(1)

原告らは、昭和五〇年一一月一七日、南古谷農業協同組合(以下「農協」という。)との間で、同組合に対する別紙(二)(2)記載の政務について保証契約を締結した。

別紙(二)(2)

<省略>

別紙(三)

原告らは、昭和五〇年一〇月二日ころ、農協との間で、片岡哲哉が農業に対して負担する保証債務及び立替名義の債務について、保証契約を締結した。

別紙(四)(1)

原告らは、昭和五〇年一一月一五日、農協との間で、農協に対する別紙(四)(2)記載の債務について保証契約を締結した。

別紙(四)(2)

貸付一覧表 昭和50年11月15日現在

<省略>

別紙(五)(1)

原告らは、昭和五一年一一月二一日、農協との間で、農協に対する別紙(五)(2)記載の債務について保証契約を締結した。

別紙(五)(2)

貸付一覧表 昭和51年11月1日現在

<省略>

別紙(六)(1)

(貸付金)

<省略>

別紙(六)(2)

(立替金)

<省略>

別紙(七)

貸付一覧表

<省略>

別紙(八)

貸金目録

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例