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浦和地方裁判所 昭和58年(ワ)227号 判決 1984年10月30日

原告

中村洋子

右訴訟代理人

松田敏明

被告

高鹿一江

被告

高鹿一英

被告ら訴訟代理人

小宮清

佐藤裕人

小宮圭香

主文

一  被告らは原告に対し、各自金三二一万一九一九円及びこれに対する昭和五八年一月二二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを一〇分し、その一を原告の負担とし、その余を被告らの連帯負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  主文第一項中に「金三二一万一九一九円」とあるのを「金三五五万円」と改めるほかは同項と同旨

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

(被告ら)

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、被告高鹿一江(以下「被告一江」という。)に対し、次のとおり金員を貸し付けた。

(1) 昭和五七年八月二四日金一五万円

(2) 同年同月二七日 金三〇万円

(3) 同年同月三一日 金四〇万円

(4) 同年九月三日 金五〇万円

(5) 同年同月六日 金二五万円

(6) 同年同月九日 金三〇万円

(7) 同年同月一三日 金七〇万円

(8) 同年同月二一日 金一五万円

(9) 同年同月二七日 金五〇万円

(10) 同年一〇月一三日 金一五万円

(11) 同年一一月一〇日 金一五万円

以上合計金三五五万円

(二) 仮に、被告高鹿一英(以下「被告一英」という。)に対する関係において右(一)の主張が認められないとしても、被告一江は昭和五七年一二月一五日の時点において、原告に対し金三五五万円の金銭債務を負つていたところ、同日原告と同被告は右債務を消費貸借の目的とすることを合意した。

2  被告一英は原告に対し、昭和五七年一二月一五日被告一江の原告に対する請求原因1(一)の消費貸借上の債務(仮に右債務の成立が認められないとすれば、同(二)の準消費貸借上の債務)を保証した。

3  原告は被告一江に対し、昭和五八年一月一四日到達の書面をもつて、同書面到達の日の翌日から七日以内に前記貸付金三五五万円を支払うよう催告したが、同被告は右催告期間を徒過した。

よつて、原告は、被告一江に対しては消費貸借上の権利に基づき、被告一英に対しては保証債務の履行として、各自金三五五万円及びこれに対する右催告期間経過後の日である昭和五八年一月二二日から支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

(被告一江)

請求原因1(一)及び同3の事実は認める。

(被告一英)

1(一) 請求原因1(一)の事実は知らない。

(二) 同1(二)の事実は否認する。

2 同2の事実は否認する。

昭和五七年一二月一五日、原告、被告一江及び訴外神山晴昭(以下「神山」という。)の間に、同被告が原告から借り受け、さらに神山に貸し付けた金三五五万円をどのような方法で原告に返済するかが話し合われ、被告一英も右話合いに立ち会つた。その結果、原告、被告一江及び神山間に、一 神山が被告一江から借り受けた金五四八万円(右のとおり、同被告が原告から借り受け、さらに神山に貸し付けた金三五五万円と同被告が自己の手持資金から貸し付けた金一九三万円の合計額)を適宜被告に支払い、同被告は、右弁済を受けた金員を直ちに原告に対し、自己の債務の弁済として交付する、二 右合意の内容を書面にすることとし、同被告は債務者本人として、神山は保証人として同書面に署名する、三 原告は、右書面を裁判所等公の場所には提出しないこととするなどを内容とする合意が成立し、右約定に従つて書面(甲第一号証)が作成され、被告一英もこれに署名押印したが、右署名押印は前記のとおり立会人としてなしたものであつて、保証人としてなしたものではない。

3 同3の事実は知らない。

三  抗弁

(被告一江)

(一) 原告は、株式会社フラン(以下「フラン」という。)、株式会社ワールドファイナンス(以下「ワールド」という。)、株式会社武富士(以下「武富士」という。)、プロミス株式会社(以下「プロミス」という。)などのいわゆるサラ金業者から金員を借り受けていたが、被告一江は、原告に代つて、原告の右サラ金業者らに対する債務の一部を次のとおり弁済した。

(1) フランに対して

昭和五七年一二月六日 金二万円

同年同月二一日 金二万円

昭和五八年一月一二日 金三万円

(2) ワールドに対して

昭和五七年一〇月八日 金二万九二〇〇円

同年一二月六日 金二万円

同年同月一七日 金六〇〇〇円

同年同月二一日 金二万五〇〇〇円

昭和五八年一月一二日 金三万円

(3) 武富士に対して

昭和五七年一〇月一八日 金二万五〇〇〇円

同年一一月一八日 金三万五〇〇〇円

同年一二月六日 金二万円

同年同月二一日 金二万円

昭和五八年一月一二日 金三万円

(4) プロミスに対して

昭和五七年一二月六日 金二万円

同年同月二一日 金二万円

昭和五八年一月一九日 金一万七八八一円

(二) 被告一江は、昭和五九年七月四日の本件口頭弁論期日において、右(一)の立替払により原告に対して取得した各求償債権をもつて、原告の本訴請求債権のうち請求原因1(一)(1)及び(2)の貸金債権と対当額につき相殺する旨の意思表示をした。

(被告一英)

1 (条件付保証)

仮に、原告主張の保証契約の成立が認められるとしても、被告一江が原告から借り受けた金員は、すべて同被告から神山に貸し渡されたため、右保証契約は、神山が被告一江に右貸金の全部又は一部を返還したときは、被告一英において、被告一江が原告に対し、右受領額に相当する金員の返還をなすことを保証するという趣旨、すなわち、神山から被告一江に対する金員の返還のあることを停止条件とするものであつた。

2(錯誤による無効)

仮に、右1の主張が認められないとしても、被告一英は、神山が被告一江に貸金を返還したときは、同被告の原告に対する弁済を保証する意思で原告との間に保証契約を締結したものであるから、その内心の意思と表示行為との間には錯誤があり、しかも右錯誤は要素に関するものであるから、右保証契約における被告一英の意思表示は無効である。

3(相殺)

仮に、右2の主張が認められないとしても、被告一江はその抗弁(一)記載のとおり原告に代つて原告の貸金債務を支払つたから、被告一英は、昭和五九年七月四日の本件口頭弁論期日において被告一江の右各求償債権をもつて、請求原因1(一)(1)及び(2)の貸金債権と対当額につき相殺する旨の意思表示をした。

四  抗弁に対する認否

(被告一江の抗弁に対し)

事実のうち同被告の弁済の事実は知らない。

(被告一英の抗弁に対し)

1 抗弁1の事実は否認する。

2 抗弁2の事実は否認する。

3 抗弁3の事実のうち被告一江の弁済の事実は知らない。

第三  証拠<省略>

理由

一請求原因について

1  被告一江に対する請求原因

請求原因1(一)及び同3の事実は原告と同被告との間において争いがない。

2  被告一英に対する請求原因

(一)  原告は被告一江に対し、請求原因1(一)の各金員全部を貸し付けた旨主張するけれども、これに符合する同被告本人の供述は原告本人の供述と対比して信用することができず、他に右主張を認めうる証拠はない。

(二)  <証拠>によれば、被告一江は、昭和五七年八月二四日から同年一一月一〇日までの間原告に対し、当初は同被告の子息の学級担任教諭である安部某が土地を購入する資金に困つているので貸して欲しい旨、後には右安部某が購入した土地の一部を原告において転買しその上に建物を建築するための費用として必要である旨いずれも虚偽の事実を告げて、その旨原告を誤信させ、原告から右期間内に一一回にわたり、貸金又は売買代金名下に合計金三五五万円を交付させたこと(各交付の年月日及びその額は請求原因1(一)記載のとおり)、原告が被告一江に交付した右金員の一部(金一九五万円)は、いわゆるサラ金業者からの借入れにより調達されたものであること、原告は、昭和五七年一一月二九日ころに至つて、被告一江から欺罔されていた事実に気づき、原告の夫である中村照雄(以下「照雄」という。)共々、同被告に対し、原告が交付した金額の返還、借用書の差し入れなどを求め、同被告の夫である被告一英に対しては、被告一江の右金員返還債務を保証するよう求めたこと、これに対して、被告一英は、原告がサラ金業者から借り受けた金員については、同被告らにおいて返還済する旨約し、更に昭和五七年一二月一五日ころ原告を名宛人とする一通の文書(甲第一号証、以下「本件借用証」という。)を作成して、そのころ原告の元に持参したこと、本件借用証本文は、「一 金参百五拾五万円也 一前記の金額確かに借入れしました。ローンについては元本、利息その他支払については貴殿に一切迷惑をおかけいたしません。」との記載が(なお、本件借用証には、「内訳」と題する別紙が添付されており、これには請求原因1(一)(1)ないし(11)表示の各日時に、これに対応する各表示の金額の金員が授受された旨が記載されている。)、次いで作成日付として「昭和五十七年十二月十五日」の記載がそれぞれなされ、その末尾に、まず被告一江の住所氏名が、その左隣に神山の住所氏名が、更にその左隣に被告一英の氏名がそれぞれ記載されており(なお、右各名下に捺印がある。)、かつ、被告一江の氏名の上に「借主」の、神山の氏名の上に「保証人」の記載があること、被告一英は、本件借用証交付後、原告から同書面記載にかかる債務の履行を訴求する意向が示されたため、昭和五七年一二月三〇日ころ原告宅を訪れ、原告に対し同書面を返還して欲しい旨の申し入れをしたことが認められ、原告、被告一英各本人の供述中右認定に反する部分は借信し難く、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

そこで、右認定事実に基づいて、請求原因1(二)及び2の主張について判断する。

(1) まず、右認定事実(被告一英が本件借用証の返還を申し入れた事実を除く。)によれば、昭和五七年一二月一五マこマろ原告と被告一江との間に、同被告が原告に対し金三五五万円の金銭返還債務を負うことを認めたうえで、これを消費貸借の目的とする旨の合意が成立したものと推認すべきである。

(2) 更に被告一江と被告一英は夫婦であること、原告及び照雄は、本件借用証が作成される以前から被告一英に対し、被告一江の原告に対する金銭返還債務を保証すべき旨を要求していたこと、本件借用証は、被告一英が自ら全文記載して原告の元に持参したものであること、本件借用証末尾における被告一江、神山、被告一英三名の氏名の記載順序・位置・態様並びに「借主」及び「保証人」の記載の位置に照らすと、外形的には、被告一英が神山と並んで保証人の地位に在るとの表示がなされているものと解しうること、被告一英が一旦は原告に交付した本件借用証の返還を求めたことを推すと、同被告も同書面の記載が、原告において同被告の法律上の責任を追求する根拠となりうることを認識していたものと考えられることなどに鑑みれば、同被告は、昭和五七年一二月一五日ころ原告に対し、被告一江の原告に対する金三五五万円の金銭返還債務を保証したものと推認すべきである。

この点に関し、被告一英本人の供述中には、同被告は保証人になる意思はなく、原告と被告一江及び神山の間に入つて金銭返還の交渉の仲介をしたにすぎず、本件借用証に署名したのも、立会人又は仲介人としてである旨の供述部分が存するけれども、仮にそうであるとすれば、右書面上その旨が明示されて然るべきである。けだし、およそある種の契約において特定の者が、その契約関係から生ずる債務の保証人であるのか、それとも契約成立に立ち合つた又は成約の仲介をなした者にすぎないかは、通常その者の重大な利害に係る事柄だからである。被告一英本人は、本件借用証上に自己が立会人又は仲介人であることを表示しようと考えたが、何と書いてよいか分らなかつたので、その氏名の上に何も記載しなかつた旨供述するが、仮に同被告が立会人又は仲介人にすぎないならば、本件借用証のようないわゆる差入証型の文書に署名する必要が奈辺にあつたか了解し難いし、また、右のような弁解は到底合理的とはいえない。以上の次第で、被告一英の前記供述部分はその信ぴよう性に疑念をさしはさまざるを得ず、他に前記保証債務成立の認定を覆すに足りる証拠はない(被告一江本人の供述中には、被告一英は保証人となる意思で本件借用証に署名したものではないと思う旨の供述部分があるけれども、右は被告一江の推測を述べるにすぎない。)。

なお、<証拠>によれば、原告は、昭和五八年一月一三日付書面をもつて、被告一江に対し、原告が同被告に昭和五七年八月二四日から同年一一月一〇日までの間に一一回にわたり貸し付けた三五五万円を、同書面到達後七日以内に支払うべき旨を催告したことが、弁論の全趣旨によれば、同書面は同五八年一月一四日同被告に到達したことがそれぞれ認められるところ、同書面に表示された債権が前記準消費貸借上の債権と実質的に同一のものであることは、前叙の認定事実に照らして明らかであるから、同書面による催告は、保証人たる被告一英に対する関係では、右準消費貸借上の債務につき付遅滞の効果を生ずるものと解して妨げない。

よつて、被告一英に対する請求原因は理由がある。

二被告一江の抗弁

<証拠>によれば、原告は、被告一江に合計金三五五万円を貸与した(この点は、原告、同被告間では争いのない事実である。)が、これらの金員のうち金一九五万円は他からの借入れにより調達したものであつて、その借入先別内訳は、フランから金三〇万円(昭和五七年八月二七日借入)、ワールドから金四五万円(同年九月九日金三〇万円、同年一一月一〇日金一五万円を各借入)、武富士から金七〇万円(同年九月一三日借入)、プロミスから五〇万円(同年同月二七日)であつたことが認められる。

他方、<証拠>によれば、同被告は右認定にかかる原告の借受金債務の一部弁済として、フランに対し昭和五七年一二月六日、同年同月二一日各金二万円、同五八年一月一二日金三万円を、ワールドに対し同五七年一〇月八日少なくとも金二万九二〇〇円、同年一二月六日金二万円、同年同月一七日金六〇〇〇円、同年同月二一日金二万五〇〇〇円、同五八年一月一二日金三万円を、武富士に対し同五七年一〇月一七日金二万五〇〇〇円、同年一一月一八日金三万五〇〇〇円、同年一二月六日、同年同月二一日各金二万円を、プロミスに対し、同年一二月六日、同年同月二一日各金二万円、同五八年一月一九日金一万七八八一円をそれぞれ支払つた(合計金三三万八〇八一円)ことが認められる(原告は、右のほか昭和五八年一月一二日武富士に対して金三万円を支払つた旨主張するが、その事実を認めうる証拠はない。)。なお、原告本人尋問の結果によれば、被告一江の右各払のうち昭和五七年一一月二九日以降になされたものについては原告の依頼に基づくものであるが、それ以前になされたものについては具体的な支払委託はなかつたことが認められる。

そうとすると、被告一江は、右各支払時に、原告に対し、事務管理費用又は委任事務処理費用の償還請求権を取得したものというべきである。そして被告一江が昭和五九年七月四日の本件口頭弁論期日において、右各償還債権をもつて、請求原因(一)(1)、(2)の各貸金債権と順次対当額につき相殺する(右各償還債権については、その成立の早いものから順次相殺に供する趣旨であると解される。)旨の意思表示をしたことは訴訟上明らかである。

2 被告一英の抗弁について

(一)  被告一英は、同被告につき保証契約の成立が認められるとしても、同契約は、神山において被告一江から借り受けた金員の全部又は一部を支払つたときは、同被告の原告に対する弁済を保証するという趣旨であつた旨主張し、被告一英本人の供述中には、原告の夫でその代理人である照雄、被告一江の代理人である被告一英及び神山の三名が、原告から被告一江、同被告から神山へ順次貸し渡された金員を原告に返済する件について話し合つた際、神山が実家や兄弟から借財をして原告に返済する方法をとるという形で話を進めた旨、その具体的実行方法として、神山が直接原告に返済するのか、一旦被告一江に返済し、更に同被告が原告に支払うことになるのかはつきりしなかつたが、神山が被告一江に対して返済をすれば、その金員を被告一江又は被告一英において原告の下に持参することになると思う旨、神山とは別に被告一江も原告に対して返済するという話はしなかつた旨の供述部分が存する。

しかしながら、右供述部分の内容自体、被告一英の右主張のような特約(条件付保証の特約)の成立を肯認する根拠とするには不十分といわざるを得ない。のみならず、仮に、右供述部分をもつて右被告一英の主張に符合する特約が黙示的に成立したとの趣旨を有するものと解しうるとしても、原告、被告一英(一部)各本人尋問の結果によれば、被告一英が、原告から被告一江に渡された金員を消費した者であるとして神山を同道して原告宅を最初に訪れた際、照雄が神山に対し、「関係がないから帰れ。」と申し向けたことが、原告本人尋問の結果によれば、原告は、被告一江又は被告一英から、原告が被告一江に交付した金員は更に神山の手に渡つた旨聞かされたが、被告らがその理由につき、当初は被告一江が神山に脅迫されたためであると述べながら、後には神山が土地を売却してくれるので渡したなどと言を翻したことから、神山に金員が渡つたとの被告らの説明を信じていなかつたし、また、被告一江が神山を保証人に立ててくるものとは予期しておらず、本件借用証に神山が保証人と表示されているのを見て、むしろ奇異の感を抱いたことがそれぞれ認められ、これらの事実を推すと、原告又は照雄は、神山の存在に重きを置いていなかつたものであり、したがつて、被告一江の責任を事実上解除して専ら神山にのみ弁済責任を負わせる結果となる被告一英主張の如き特約に応ずるものとは到底信じ難く、被告一英の右供述部分の信ぴよう性には疑念をさしはさまざるを得ない。他に、被告一英の右主張を認めうる証拠はない。よって、被告一英の抗弁1は理由がない。

(二) 被告一英は、仮に同被告の抗弁1の主張が認められないとしても、同被告は、神山において被告一江に金員を返済したときは、同被告の原告に対する弁済を保証するとの限度において保証する意思であつたから、その内心の意思と表示行為との間には錯誤がある旨主張するけれども、被告一英において、前記一2(二)(2)で認定した保証の意思表示をなすに際し、右のような条件を留保したうえで保証をなす意思であつたこと及び右認定にかかる保証の意思表示の内容と右自己の内心の意思とが一致しないことを知らなかつたことを認めうる証拠はないから、同被告の抗弁2も理由がない。

(三)  被告一英は、その抗弁3のとおり、被告一江が原告に対して有する償還債権をもつて、請求原因1(一)の(1)及び(2)の貸金債権と対当額につき相殺する旨の意思表示をしたと主張するが、右主張の趣旨はこれを善解すれば、仮に請求原因1(一)の貸金債権の成立が認められないときは、同1(二)の準消費貸借上の債権と相殺する、換言すれば、原告の本訴請求債権としていかなるものが認定されるにせよ、その債権の一部と相殺するとの趣旨を有するものと解せられる。そして、被告一江が原告に対し、昭和五八年一月一九日までに一一口に及ぶ事務管理費用又は委任事務処理費用の償還債権を取得したことは前記認定のとおりであり、被告一英が昭和五九年七月四日の本件口頭弁論期日において右相殺の意思表示をしたことは訴訟上明らかであるから、原告の被告一英に対する請求原因1(二)の準消費貸借上の債権は、右一一口の償還債権の総債権額(金三三万八〇八一円)の限度で消滅したものというべきである。

三結論

以上の次第であるから、原告の被告らに対する本訴訟請求は、被告一江に対しては消費貸借上の権利に基づき、被告一英に対しては準消費貸借上の権利に基づき、それぞれ金三二一万一九一九円及びこれに対する弁済期後の日である昭和五八年一月二二日から支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれらを認容し、その余はいずれも失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(小池信行)

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