浦和地方裁判所 昭和48年(行ウ)8号 判決 1985年5月15日
埼玉県川口市上青木二丁目四番一一号
原告
大桑朝男
右訴訟代理人弁護士
山本政道
同
桜井和人
右訴訟復代理人弁護士
神山祐輔
東京都千代田区大手町一丁目三番二号
被告
国税不服審判所長
林信一
埼玉県川口市青木二丁目二番一七号
同
川口税務署長
金井優
右両名指定代理人
窪田守雄
同
江口育夫
同
南昇
被告
国税不服審判所長指定代理人
山田和男
同
八木庸一
被告
川口税務署長指定代理人
新井英世
同
山崎勝義
主文
一、被告川口税務署長が原告に対し昭和四五年三月一三日付でした昭和四一年分の所得税の更正処分のうち所得金額一七四万五三七二円を超える部分及び同年分の過少申告加算税賦課決定処分のうち右に対応する部分を取り消す。
二、原告の被告川口税務署長に対するその余の請求及び被告国税不服審判所長に対する請求をいずれも棄却する。
三、訴訟費用は、原告と被告川口税務署長との間においては同被告に生じた費用を一〇分し、その一を同被告の負担とし、その余は全部原告の負担とし、原告と被告国税不服審判所長との間においては全部原告の負担とする。
事実
第一当事者の求める裁判
一、原告
「1. 被告川口税務署(以下「署」ということがある。)長が、原告に対し昭和四五年三月一三日付でした昭和四一年分の、昭和四六年三月一三日付でした昭和四二年分及び昭和四三年分の各所得税更正処分(以下「本件更正処分」という。)並びに過少申告加算税賦課決定処分(以下「本件加算処分」といい、本件更正処分と併せて「本件課税処分」という。但し、いずれも後記裁決により取消された部分を除く。)をいずれも取消す。
2. 被告国税不服審判所長が昭和四八年八月三日付でした本件課税処分に対する審査請求についての裁決(以下「本件裁決」という。)を取消す。
3. 訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決
二、被告川口税務署長
「1. 原告の同被告に対する請求(一の1)を棄却する。
2. 訴訟費用は原告の負担とする。」との判決
三、被告国税不服審判所長
「1. 原告の同被告に対する請求(一の2)を棄却する。
2. 訴訟費用は原告の負担とする。」との判決
第二当事者の主張
一、原告の請求原因
1. 原告は被告署長に対し、昭和四一年分ないし四三年分の所得税につき、別表(一)ないし(三)の各「確定申告」欄記載のとおり確定申告をした。
2. これに対し、被告署長は、昭和四五年三月一三日付及び昭和四六年三月一三日付で、別表(一)ないし(三)の各「更正」欄記載のとおり本件更正処分及び本件加算処分をした。
3. そこで、原告がこれに対し異議申立をしたところ、被告署長は、昭和四五年七月一〇日付で昭和四一年分につき、いずれも棄却の決定をした。
4. さらに、原告は昭和四五年八月八日及び昭和四六年八月六日被告国税不服審判所長に対し審査請求をしたところ、被告同所長は昭和四八年八月三日付で昭和四一年分ないし昭和四三年分につき、別表(一)ないし(三)の各「裁決」欄記載のとおりの本件裁決をした。
5. 本件課税処分の違法性
(一) 手続上の違法性
更正処分は、国税通則法二四条が規定するように、納税申告書に記載された課税標準または税額等が税務署長の調査したところと異なる場合に、その調査したところに基づいてなされるものであるが、右の調査は納税者の権利ないし利益を保護する手続としての意味を有するから更正処分の前提条件をなしている。したがって、その調査が違法であれば、それに基づく更正処分もまた違法になるものと解すべきである。このように解してはじめて、納税者に対し憲法三一条の適正手続保障の趣旨にそった実質的な救済が与えられることになる。
そして、申告納税制度のもとにおいては、納付すべき税額は納税者の申告によって確定するのが原則であり、しかも、調査をすることが納税者に事実上重大な不利益を与えることは明らかであるから、調査権の行使が許されるのは、当該申告書の記載の適正でないことにつき、合理的疑いの存するときに限られるべきである。また、税務調査が国税犯則取締法にもとづく強制捜査と本質的に異なる任意調査である以上、調査対象者において適切に応答できるよう調査理由を具体的に明示してなすべきである。さらに、調査深度の問題についても、任意提出にかかる帳簿書類等を検査することができるのみで、納税者の営業活動を停滞させたり、得意先や取引銀行等に対する信用を失墜せしめるような方法においてなすことは許されない。特に、いわゆる反面調査は、納税者の信用を毀損するのみならず、調査の対象とされた第三者の営業活動にも重大な支障をきたすから、納税者に対する直接調査のみではその目的を達することのできない事項に限ってすることができるものと解すべきである。
本件において、被告署長は、原告提出にかかる各係争年分の所得税確定申告が適正であることにつき何ら合理的な疑いが存しないのに、調査の理由を具体的に明示することなく、また、原告の都合を無視して調査をし、しかも、原告が被告署長の直接調査に応ずる意思を明らかにしているにもかかわらず、一方的に反面調査を実施し、もって、原告の信用を毀損し、営業上の損失を与えたものである。したがって、本件調査手続には瑕疵があり、本件課税処分は違法である。
(二) 内容上の違法性
本件課税処分は、理由のない推計課税によってしたものであるから違法である。
6. 本件裁決の違法性
被告国税不服審判所長は、原告が国税通則法九六条二項に基づき、原処分庁提出にかかる書類その他の物件の閲覧請求をしたにもかかわらず、原処分庁作成にかかる所得調査書の閲覧を拒否した。
国税不服審判所は、職権をもって、原処分庁から所得調査書類等の関係書類一切を提出させることができるにもかかわらず、実務上右権限を行使せず、審査請求人からの閲覧の請求に対して、「所得調査書類等要約書」を作成し、これを閲覧に供しているが、右書類は同条同項に定める原処分庁から提出された書類ではなく、また、閲覧請求の対象として、本来予定されている物件でもない。担当審判官は、審査請求人が十分攻撃防禦を尽くせるように最善の便宜をはかる義務があり、右攻撃防禦の参考になる資料はすべて審査請求人に閲覧させる必要があるのであって、それが権利救済制度としての不服審査制度の趣旨に合致する。なお、同条同項後段において、「第三者の利益を害するおそれがあるときは、閲覧を拒否できる。」旨を定めているが、右「第三者の利益」とは純粋に個人的なプライバシーに限定されるべきであり、また、所得調査書類の閲覧請求をもって脱税の目的ないしは右目的のための資料を得るための手段になりうると推断することは、国税不服審査制度の趣旨に反するものである。
右のとおり、被告国税不服審判所長による本件裁決手続は、審査請求人たる原告の原処分庁提出にかかる一切の関係書類の閲覧を拒否し、原告の十分な攻撃防禦の手段を奪ったままなされたものであるから、固有の瑕疵がある。
よって、原告は、被告署長に対し、本件課税処分(但し、いずれも本件裁決により取消された部分を除く。)の、被告国税不服審判所長に対し、本件裁決の各取消を求める。
二、被告署長
認否
1. 請求原因1ないし4の事実は認める。
2. 同5の事実及び主張は争う。
主張
1. 原告は、埼玉県川口市上青木町一丁目三六〇六番地所在の天神橋センター内において食料品、食肉及び鮮魚等の小売業を営んでいた。
2. 本件各年分の所得金額について
(主位的主張)
所得金額の算定について、被告署長は原告の取引銀行、仕入取引先を調査して仕入高を把握し、売上原価を推計し、これと同業者差益率及び同業所得率を基礎として、別表(四)(主位的主張金額欄)記載のとおり、本件係争各年分の売上金額等を算定することによって認定したが、その明細は次のとおりである。
(一) 売上金額
(1) 昭和四一年分 三四〇二万七四四四円
後記(四)(1)の売上原価に原告と事業規模及び事業内容が類似する署管内の同業者の平均的と認められる後記(五)の昭和四一年分の差益率を適用して右金額を推計した。
(算式 二七、二一八、五五三円÷(一-〇・二〇〇一)=三四、〇二七、四四四円)
(2) 昭和四二年分 三九七五万八二八九円
後記(四)(2)の売上原価に右(1)と同趣旨の後記(五)の昭和四二年分の差益率を適用して右金額を推計した。
(算式 三一、三七七、二四二円÷(一-〇・二一〇八)=三九、七五八、二八九円)
(3) 昭和四三年分 三九四五万七五三九円
後記(四)(3)の売上原価に右(1)と同趣旨の後記(五)の昭和四三年分の差益率を適用して右金額を推計した。
(二) 仕入金額
(1) 昭和四一年分 二七五一万八五五三円
右金額は次の<1>ないし<3>の合計金額である。
<1> 昭和四一年一月一日から同年四月三〇日までの現金以外による仕入金額は、後記<2>の同年五月一日から同年一二月三一日までの現金以外による仕入金額を基礎として月割計算により八〇七万八九六〇円と推計した。
(算式 )
<2> 昭和四一年五月一日から同年一二月三一日までの現金以外による仕入金額は、別表(五)、(六)記載の各金額の合計一六一五万七九二〇円である。
<3> 現金仕入金額(仕入代金についての小切手等での支払金額以外の現金支払額及び常態となっている巡回販売の現金卸問屋、背負い商い業者である現金卸問屋から随時の現金仕入額の合計額)については、現金支払額及び現金仕入額の双方とも把握できないので、右<1>、<2>の合計金額二四二三万六八八〇円に後記(三)の現金仕入割合一三・五四パーセントを乗じて三二八万一六七三円と推計した。
(2) 昭和四二年分 三一三七万七二四二円
右金額は次の<1>及び<2>の合計金額である。
<1> 昭和四二年一月一日から同年一二月三一日までの現金以外による仕入金額は別表(七)、(八)記載の各金額の合計二七六三万五四〇八円である。
<2> 現金仕入金額(右(1)<3>と同趣旨)は、昭和四一年分と同様に、右<1>の金額二七六三万五四〇八円に現金仕入割合一三・五四パーセントを乗じて三七四万一八三四円と推計した。
(3) 昭和四三年分 三一三二万五三四一円
右金額は次の<1>及び<2>の合計金額である。
<1> 昭和四三年一月一日から同年一二月三一日までの現金以外による仕入金額は別表(九)、(十)記載の各金額の合計二七五八万九六九七円である。
<2> 現金仕入金額(右(1)<3>と同趣旨)は昭和四一年分と同様に右<1>の金額二七五八万九六九七円に現金仕入割合一三・五四パーセントを乗じて三七三万五六四四円と推計した。
(三) 現金仕入割合
原告の現金仕入割合を把握できないので、同業者の中で業種、業態が最も原告に類似する別表(二)の1の同業者Cの昭和四三年八月一日から昭和四四年七月三一日事業年度分の現金卸問屋以外からの仕入金額二四七九万四九九三円に対する現金卸問屋からの仕入金額三三五万八八〇〇円の現金仕入割合一三・五四パーセントを採用した。
(四) 売上原価
(1) 昭和四一年分 二七二一万八五五三円
売上原価は、一般には期首棚卸高に仕入高を加算し、期末棚卸高を控除する方法により算定するのであるが、本件においては、右各棚卸高を把握できなかったため、原告の経営する事業は一般に棚卸高の変動が極めて少いのが通常と認められるところから、期首及び期末の棚卸高を同額と推定し、仕入高をもって売上原価と認定した。しかし、昭和四一年分は棚卸資産に災害損失があり、これが三〇万円であったと認められたので、仕入高から右三〇万円を控除した金額を売上原価とした。
(2) 昭和四二年分 三一三七万七二四二円
右(1)のとおり、仕入金額を売上原価とした。
(3) 昭和四三年分 三一三二万五三四一円
右(1)のとおり、仕入金額を売上原価とした。
(五) 同業者差益率
昭和四一年分 二〇・〇一パーセント
昭和四二年分 二一・〇八パーセント
昭和四三年分 二〇・六一パーセント
川口税務署管内において、原告と同一業種目を総合的に営み、かつ、原告の仕入金額のほぼ二分の一から二倍の仕入金額を有する業者について、取扱い品目の割合、店舗の位置、面積、設備の状況、従業員数等の類似性を個別に検討し、昭和四一年分ないし四三年分につき各四名を同業者として、抽出、選定した。そして、その基礎係数及び算術平均値さらに標準偏差、限界値及び平均値を計算したところ、別表(二)ないし(一三)(同業者差益率計算表)の各1.2.の記載のとおりとなったので、この各「平均値」欄の数値をもって各年分の同業者差益率とみなした(但し、小数点三位以下切捨)。
(六) 同業者所得率
昭和四一年分 一二・〇九パーセント
昭和四二年分 一二・〇三パーセント
昭和四三年分 一三・〇五パーセント
前記(五)で抽出した同業者の各所得率を基礎係数として算術平均値、標準偏差、限界値及び平均値を計算したところ、別表(一四)ないし(一六)(同業者所得率計算表)の各1.2.の記載のとおりで、この各「平均値」欄をもって各年分の同業者所得率とみなした(但し、小数点三位以下切捨)。
(七) 一般経費控除後の所得金額
昭和四一年分 四一一万三九一七円
昭和四二年分 四七八万二九二二円
昭和四三年分 五一四万九二〇八円
前記(一)の各売上金額に右(六)の各同業者所得率を乗じて得た金額である。
(八) 雑収入
昭和四三年分 四九万七三三三円
原告が昭和四四年中に埼玉県起業芝川改良工事に伴う休業補償として受領した金額である。
(九) 特別経費
(1) 昭和四一年分 一七〇万九〇四五円
<1> 雇人費 八二万二二〇〇円
明細は別表(一七)1.2.のとおりである。
<2> 借入金利子 四万〇四四五円
<省略>
<3> 支払家賃 四六万六四〇〇円
原告が借用している店舗(川口市上青木町一丁目三六〇六番地所在)について所有者である平井乙松に対し支払った賃料である。
(算式)
三七、〇〇〇円(家賃月額)×五月(昭和四一年一月から同年五月までの月数)=一八五、〇〇〇円
四〇、二〇〇円(家賃月額)×七月(昭和四一年六月から同年一二月までの月数)=二八一、四〇〇円
計=四六六、四〇〇円
<4> 災害損失 三〇万円
台風第四号による商品損害額である。
<5> 店舗賃借権償却費 八万円
原告は、右<3>の店舗借用に際し、右平井に対し、昭和三八年六月及び同年一二月に各二〇万円ずつ計四〇万円の店舗賃借権利金を支払っていたので、右権利金の償却期間を五年とし、次のとおり償却費を認定した。
(算式)
四〇〇、〇〇〇円(権利金)×〇・二(償却率)=八〇、〇〇〇円(償却費)
(2) 昭和四二年分 二二二万〇一四二円
<1> 雇人費 一四六万七〇〇〇円
明細は別表(一八)1記載のとおりである。
<2> 借入金利子 一九万〇七四二円
埼玉銀行川口支店からの借入金に対する支払利子は、次のとおりである。
<省略>
<3> 支払家賃 四八万二四〇〇円
(1)<3>と同趣旨の賃料である。
(算式)
四〇、二〇〇円(家賃月額)×一二月(支払月数)=四八二、四〇〇円
<4> 店舗賃借権償却費 八万円
(1)<5>と同趣旨である。
(3) 昭和四三年分 二一五万九六六一円
<1> 雇人費 一三一万六〇〇〇円
明細は別表(一九)1.記載のとおりである。
<2> 借入金利子 三六万三六一二円
埼玉銀行川口支店からの借入金に対する支払利子は次のとおりである。
<省略>
<3> 支払家賃 四〇万二〇〇〇円
(1)<3>と同趣旨の賃料である。但し、前記店舗は昭和四三年一一月四日に明渡したので、賃料は同年一〇月までの一〇か月分である。
(算式)
四〇、二〇〇円(家賃月額)×一〇月(支払月数)=四〇二、〇〇〇円
<4> 店舗賃借権償却費 五万三三三四円
(1)<5>と同趣旨の店舗賃借権利金は、昭和四三年が償却期間の最終年であるので、取得価額四〇万円から別表(二〇)のとおりの前年までの償却済額三四万六六六六円を差引いた五万三三三四円を償却費と認定した。
<5> 建物減価償却費 二万四七一五円
原告は昭和四三年一一月頃店舗を新築したが、その取得価額を三三〇万円と認定し、別表(二一)記載のとおり、減価償却費二万四七一五円を認定した。
(一〇) 専従者控除額
原告の妻大桑清子にかかるものである。
昭和四一年分 一四万二五〇〇円
昭和四二年分 一五万円
昭和四三年分 一五万円
(一一) 所得金額
前記(八)の各一般経費控除後の所得金額に同(九)の雑収入金額(昭和四三年分のみ)を加算し、同(一〇)の各特別経費及び同(一一)の各専従者控除額を減算した前記の各金額である。
(予備的主張)
原告の業種、業態、規模等と別表(一一)、(一四)記載の同業者C(別表(一二)、(一三)、(一五)及び(一六)記載の各1の同業者Aと同一である。)の業種、業態、規模等は別表(二二)記載のとおりであり、極めて類似しているというべきであるから、右同業者Cは原告の「類似同業者」と認められる。そこで、右「類似同業者」の別表(二三)記載のとおりの差益率及び所得率を適用し、別表(四)(予備的主張金額欄)記載のとおり、本件係争各年分の売上金額等を算定したが、その明細は次のとおりである。
(一) 売上金額
(1) 昭和四一年分 三五八五万六三四六円
売上金額は後記(二)の昭和四一年分の売上原価に別表(二三)記載の類似同業者の昭和四一年分の差益率を適用して算定した。
(2) 昭和四二年分 四一三〇万二一四八円
右(1)と同様に昭和四二年分の売上原価に同年分の差益率を適用して算定した。
(3) 昭和四三年分 四一一二万五五六二円
右(1)と同様に昭和四三年分の売上原価に同年分の差益率を適用した。
(二) 売上原価
売上原価は各年分とも前記主位的主張における(四)(売上原価)と同様である。
(三) 一般経費控除後の所得金額
(1) 昭和四一年分 五二二万〇六八二円
一般経費控除後の所得金額は右(一)(1)の売上金額に別表(二三)記載の類似同業者の昭和四一年分の所得率を適用して算定した。
(2) 昭和四二年分 六〇四万六六三四円
右(1)と同様に右(一)(2)の売上金額に昭和四二年分の所得率を適用して算定した。
(3) 昭和四三年分 五九〇万一五一八円
右(1)と同様に右(一)(3)の売上金額に昭和四三年分の所得率を適用して算定した。
(四) 所得金額
(1) 昭和四一年分 三三六万九一三八円
所得金額は右(三)(1)の一般経費控除後の所得金額から前記2の主位的主張における(九)(1)及び(一〇)(昭和四一年分の特別経費及び専従者控除額)を減じた額である。
(2) 昭和四二年分 三六七万六四九二円
所得金額は、右(三)(2)の一般経費控除後の所得金額から前記2の主位的主張における(九)(2)及び(一〇)(昭和四二年分の特別経費及び専従者控除額)を減じた額である。
(3) 昭和四三年分 四〇八万九一九〇円
所得金額は右(三)(3)の一般経費控除後の所得金額に前記2の主位的主張における(八)の雑収入金額を加算し、同(九)(3)及び(一〇)(昭和四三年分の特別経費及び専従者控除額)を減じた額である。
3. 右課税の適法性
(一) 調査手続の適法性について
所得税法は、いわゆる申告納税方式を採用し、納税義務者が納付すべき税額はその者の申告により確定するのを原則とするが、最終的な税額の確定は税務署長に留保され、その更正のないことを条件として当該申告が承認されるに過ぎないものである。そして、税務署長は納税義務者がその義務を正しく履行したか否かを常に調査する職責を有し、申告税額が自己の調査したところと異なる場合には、申告納税額に拘束されることなく、国税通則二四条に基づき、これを是正しうるのである。
ところで、右法条に定める調査は、各税法に定める課税要件事実の充足を認識し、租税債務額を確認するためのあらゆる行為を総称し、かつ、更正処分に先行するが、そうだからといって、法律上当然に更正処分の手続的な適法要件とされるものではなく、法がその履践を更正処分の要件として要求する場合に限って手続的な適法要件となる。しかるに、国税通則法二四条に基づく調査は更正処分の手続的な適法要件ではないというべきである。
また、いかなる場合にいかなる調査をするかについては、右法条その他の法律によるも何らその手続が定められていないから、すべて税務署長等の権限ある税務職員の合理的裁量に委ねられていると解すべきである。したがって、税務署長において、過少申告であると疑うに足りる事情の有無を問わず、調査することも何ら妨げられるものでなく、調査の際、調査理由を明示すべき義務もなく、また、いわゆる反面調査の方法を採ることも妨げられるものではない。右のとおりであるから、本件課税処分は適法というべきである。
(二) 本件推計課税の許容性について
被告署長は、原告から提出された確定申告書を調査したところ、申告書の所得金額が、<1>昭和四三年において埼玉県が施行する芝川改良工事に伴う原告に対する補償金の算定資料とされた原告作成の昭和四二年分の収支計算書に所得金額四五七万二三〇五円(売上金額五〇七二万六五〇〇円)と記載されていたこと、<2>原告が昭和四三年一二月に店舗併用住宅(建築費推定約九〇〇万円)を築造し、また、昭和四一年七月に土地(三五三平方メートル、推定約四五〇万円)を取得していること、<3>原告は、昭和四三年中に埼玉県から一九九万八八九二円の補償金を取得していることからみて過少であると推認されたので、原告について実地調査を行うこととし、昭和四四年六月一七日、同月一八日、昭和四五年二月二三日、同年九月二一日、同月二二日、同月二四日、同月二五日及び同月二八日に係官をして原告店舗に赴かせ、再三にわたり口頭で帳簿書類の提示を求め、かつ営業概況及び所得金額の計算根拠について説明を求めた。
しかし、原告が第三者を同席させ、テープレコーダを装置し、「帳簿書類はない。」、「自主申告したのだから調査をする理由を明らかにしなければ調査に応じられない。」などと述べて、調査非協力の態度に終始したので、係官は、断片的な営業概況を聴取しえたにとどまった。このため、被告署長は原告の所得金額を実額で把握することができなかった。
そこで、被告署長はやむを得ず原告の所得等について反面調査を行ったうえ、これに基づく推計により原告の係争各年分の所得金額を算定し、本件課税処分をしたものである。
(三) 本件推計課税の合理性について
(主位的主張における同業者率について)
(1) 被告署長による同業者の抽出は、川口税務署管内において、食料品、食肉、鮮魚等の多品目の小売販売を総合的に営む特殊営業者である原告と同一業種目を総合的に営む者を抽出し、次いで、その中から原告の仕入金額のほぼ二分の一から二倍までの間の仕入金額を有する事業規模の類似業者四件を抽出し、さらに、それらの者について被告署長所部の係官が当該同業者の店舗に赴き、原告との類似性すなわち取扱品目の割合、店舗の位置、面積、設備の状況、従業員数等を個別に検討した後、右四件の係争各年分等の差益率及び所得率を基礎係数として、統計学上一般に認められている方式を用いて、別表(一一)ないし(一六)各記載の平均値を算定し、これを本件各年分の同業者差益率及び同業者所得率としたものである。
(2) ところで、納税者と対比すべき同業者の事業規模は、当該納税者の事業規模と細部の点まで完全に一致する必要はなく、その主要な点において類似していれば足りるのである。
また、同一地区で他に正確な資料を有する同業者のない場合には、青色申告者のような資料の正確性の認められる同業の一業者だけと対比することも許されるのであるから、どの程度の件数の同業者を選定すべきかは、その業種、営業規模、立地条件等における類似性により個別的に判断すべきものである。
更に、被告署長が本件推計課税をするにつき、前記のように抽出した同業者の住所、氏名等を明らかにしなかったのは、そうすることによって、当該同業者の総収入金額、算出所得金額等経営上の基本的数額が明らかとなってしまうため、これにより同業者の受ける不利益を避ける必要があったことによる。そして、右各事項は、被告署長が職務上知り得た秘密に該当するから、同被告は所得税法二四三条、国家公務員法一〇〇条一項により法律上の守秘義務を負うものである。
(予備的主張における類似同業者率について)
同業者率は、同業者が原告に近似すればするほど実額近似値が得られるとするものであるから、同業者の中で原告との類似性が極めて高い同業者がある場合には、たとえそれが一件であっても推計の合理性が認められるところ、前述の同業者Cと原告との取扱商品構成割合、店舗面積、従業員数及び立地条件を比較すると、別表(二二)のとおりであって、相互に極めて近似しているといえるのである。また、同業者との類似性の程度を判断する要素としての店舗の売場面積は、本件のような小売共同店舗の場合、市場内の個別店舗の売場面積によるのでなく、当該市場内の全店舗の売場総面積によることが、その市場創造力、顧客吸引力及び収益力からいって合理的であるから、原告の売場面積を七〇平方メートルとして、類似性の程度を判断したものである。さらに、立地条件の要素である原告及び同業者Cの川口市の中心街からの距離は、原告については約二・五キロメートル、同業者Cについては約三キロメートルであり、また、本件係争年分当時において原告及び同業者Cの近傍には、いずれも同業者は存在していなかったものであるから、顧客吸引力上影響の大きい立地条件については全く近似しているものである。
4. 本件加算処分の根拠
被告は、国税通則法六五条に基づき、本件更正処分により増加した各年分の所得税額(裁決で一部取消後の分)の一〇〇分の五の金額に相当する本件過少申告加算税を賦課決定したものである。
5. 以上によれば、原告の本件係争各年における所得金額は別表(四)の「主位的主張」もしくは「予備的主張」の各金額欄記載のとおりであるから、同金額の範囲内でなされた本件課税処分は適法である。
三、被告国税不服審判所長
認否
1. 請求原因1ないし4の事実は認める。
2. 同5及び6の事実を否認し、その主張は争う。
主張
1. 本件裁決手続の適法性
国税通則法九六条一項、二項によれば、審査請求人が閲覧を求めうるものは、原処分庁が任意に提出した書類のみに限られると解すべきことは明らかであり、同法九七条により提出された書類は閲覧の対象とはならないのであるから、閲覧請求に対し担当審判官がこれを許可するか否かを判断する時点までに原処分庁から任意に提出されていない書類は、閲覧の対象とはならない。
また、所得調査書に記載する調査事績は調査担当者の上司に対する報告書として作成されるものであり、本件のように、推計課税を行った場合、右書類には第三者である同業者の売上金額、差益率、一般経費控除後の所得金額、所得率等が記載されており、これらは相互に他の部分とあいまって法律上保護すべき個人的秘密に当たるものであって、同法六条二項後段の閲覧拒否の正当な理由に該当するものである。すなわち、所得調査書の閲覧が許可された場合には、第三者の右個人的秘密を保持することができなくなり、その結果、適正公平な課税の実現を図るうえで多大の障害が生ずることになるのであって、この趣旨は所得税法二四三条、国家公務員法一〇〇条一項によっても明らかである。さらに、本件所得調査書には、調査担当者が上司から受けた指示、調査技術方法などに開する記載があり、これは国家公務員法一〇〇条にいう公務員が職務上知り得た秘密のうち、行政上の秘密に属する事項の記載であり、公益に関することであるから、これを他に漏らすことは厳に禁止されているといわなければならず、このことは本件所得調査書が、国税通則法九六条二項後段に規定する閲覧拒否の正当事由がある場合に該当することを示すものである。のみならず、本件所得調査書の右記載は本件裁決の理由となった事実を証するものではないから、閲覧に供する必要のないものなのである。
2. 原告は国税不服審判所の担当審判官に対し、昭和四五年一二月一八日に原告の昭和四一年分所得税について、昭和四七年九月二二日には昭和四二年及び昭和四三年分所得税について、各更正処分の理由となった事実を証する書類その他の物件の閲覧請求をし、これに対し、右担当審判官は次の書類の閲覧をさせた。
<1> 昭和四一年ないし昭和四三年分の所得税の確定申告書
<2> 同更正、加算税の賦課決定決議書
<3> 同異議申立書
<4> 同異議決定決議書
<5> 同所得調査書等要約書
3. 右のように、本件において担当審判官は、審査請求人たる原告の正当な権利利益の救済を図るために、閲覧に供する目的をもって、原処分庁の書類である所得調査書のうちから第三者の利益を害するおそれがあると認められる事項及び行政上の秘密にわたる事項を除いて原処分の理由となった事実の部分をとりまとめた公文書すなわち所得調査書等要約書(以下、要約書という。)を作成し、これを前記のとおり原告に開示したものである。そして、要約書は右の経過で作成されたものであるから、実質的にはいわば原処分庁から提出された所得調査書類と同視しうる性質をもつものであり、したがって、右の閲覧請求制度の趣旨に鑑みれば、要約書を開示することにより、原告の攻撃防禦上、所得調査書類を閲覧させたのと同様の効果を生じさせるものといえるから、原告の前記閲覧請求に実質的に応じたものとみなしうるものである。
四、原告
認否
1. 被告署長の主張1の事実は認める。
2. 同2主位的主張(一)は争う。
同(二)(1)のうち、<1>及び<2>の事実は認め、<3>は争う。
同(二)(2)、(3)のうち、各<1>の事実は認め、各<2>は争う。
同(三)ないし(七)は争う。
同(八)の事実は認める。
同(九)(1)のうち、<2>、<3>の事実は認め、<5>のうち、店舗賃借権利金(計四〇万円)の支払の事実は認め、その余の点<1>、<4>を争う。なお、雇人費については別表(一七)3記載のとおりである。
同(九)(2)のうち、<2>、<3>の事実は認め、<1>、<4>は争う。なお、雇人費については(一八)2記載のとおりである。
同(九)(3)のうち、<2>、<3>の事実は認め、<1>、<4>、<5>は争う。なお、雇人費については別表(一九)2記載のとおりである。
同(一〇)の事実は認める。同2(一一)は争う。
同2予備的主張はすべて争う。
3. 同3(一)の主張は争う。
同3(二)の事実のうち、署係員が原告宅に来訪したことは認め、その余の事実及び主張は争う。
同3(三)は争う。
4. 同4、5は争う。
5. 被告国税不服審判所長の主張2の事実は認め、同1、3の主張は争う。
反論
本件推計課税の不合理性
1. 被告署長が主位的に主張する同業者率(所得率及び差益率)の根拠は、「原告と事業規模が類似する者」として原告の仕入金額のほぼ二分の一から二倍までの間の仕入金額を有する者を掲げるのみで、その余の類似性の重要な要素である立地条件、店舗面積、雇人の数等を捨象している。すなわち、原告が営業を営んでいた前記天神橋センターの一〇〇メートル以内に丸徳ストアー、二〇〇メートルの地点に市民生協マーケットがそれぞれあり、原告はこれら同業者との競合関係の中にあって廉価販売を余儀なくされた。さらに、同業者抽出の標本件数にしても、わずかに四件である。また、被告署長は自ら主張立証すべき推計方法の合理性について、所得税法二四三条、国家公務員法一〇〇条一項の守秘義務を理由としてその基礎資料を開示することを拒んでいる。
したがって、被告署長主張の右同業者率は統計的合理性の前提条件を欠いている。
2. 被告署長が予備的に主張する類似同業者率(差益率及び所得率)は、その判断資料及び基準が明らかでなく、統計的合理性の前提条件を欠いている。
第三証拠
本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおり。
理由
一、請求原因1ないし4の事実は当事者間に争いがない。
二、被告署長に対する請求について
1. 原告は、本件課税処分が違法な調査に基づくものであることを理由に本件課税処分の取消を求めるので、右調査の適否につき検討する。
本件において原告が違法な調査であると指摘する点は、被告署長が原告提出にかかる本件各係争年分の所得税確定申告書が適正であることにつき合理的疑いが存しないのに、調査理由を具体的に明示することなく、原告の都合を無視して調査し、また、原告が被告署長の直接調査に応ずる意思を明らかにしているにもかかわらず、一方的に反面調査を実施して原告の信用を毀損し、営業上の損失を与えたということである。
ところで、国税通則法二四条、所得税法二三四条一項は、税務職員が更正等の処分を行うに際し、税務調査としての質問検査をなしうる旨規定しているところ、右質問検査の範囲、程度、時期、場所、方法等の実施の細目については実体法上特段の定めがないから、質問検査の必要性と相手方の私的利益との比較衡量において社会通念上相当と認められる範囲内である限り、税務職員の合理的な選択に委ねられていると解すべきである。従って、調査の個別具体的な理由を被調査者に開示しなかったり、あるいは、その同意なしにその取引先、銀行等に対していわゆる反面調査を実施したとしても、それらが社会通念上相当な理由に基づいて実施された場合には、適法な調査であるといわなければならない。
これを本件についてみると、証人朝日良知、同三浦秀雄の各証言、原告本人尋問の結果を総合すれば、以下の事実が認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
署の所得税第二課長は、原告が昭和四一年に土地を購入し、昭和四三年に店舗兼居宅を新築していること、原告が芝川の工事に伴い埼玉県中川水系工事事務所から多額の売上のあったことを前提とする補償金を受領していること、原告の事業規模からみて本件各係争年分の原告の申告額が過少と思われたことから、署の調査官朝日に対し原告の本件各係争年分の所得額についての調査を指示した。同調査官は、昭和四四年六月一七日右調査のため原告の店舗に臨んだが、原告が不在であったため原告の妻とその父古谷に面接したところ、古谷から翌日は店の定休日で原告も在店している旨告げられたので、翌日再度臨店する旨約した。調査官朝日は、翌六月一八日原告の店舗に臨み、原告と面接したうえ、原告の本件各係争年分の申告所得額の算定の資料となる帳簿書類及び原始記録の提示を求めたところ、原告は、「申告して義務は果している。どうして調査するんだ。調査理由を教えろ。理由を明らかにしなければ調査には応じられない。」、「申告は、記憶と勘によってした。」、「帳簿書類はつけていない。契約書や領収書等は保存していない。」などと申し向けて前記書類(その存否を明らかにする証拠もない。)の提示を拒絶した。また、原告は、署の調査官朝日及び同住吉の両名が昭和四五年二月二三日原告店舗に臨店した際にも、前記書類の提示をしなかった。更に、原告は、署の調査官三浦及び同小太刀が、原告の昭和四二年分ないし同四四年分の所得額の調査のため、昭和四五年九月二二日原告店舗に臨んだ際、右両名と面接したのを皮切りに、その後予め面接の日時を通告したうえで同月二四日、二五日、二八日にも原告店舗に臨んだ右両名と面接し、その都度帳簿書類及び原始記録の提示を求められたが、結局右書類を提示せず、右各年度分の原告の確定申告書における所得の計算方法についても何ら具体的な説明をしようとしなかった。一方、署の調査官らは、右のような原告店舗への臨店と並行して、中川水系工事事務所、原告の取引銀行である埼玉銀行川口支店等において原告の取引額等について調査をした。
右認定事実によれば、本件調査は、原告の本件各係争年分の申告所得額が過少であることを疑うに足る相当な理由があったため開始されたものであること、署の数回にわたる、事前に予告したうえでの臨場調査にも拘わらず、原告は帳簿書類及び原始記録を提示しなかったり、申告所得額の算定根拠について具体的説明をしないなど、署の調査に全く協力しない態度を示したため、取引先等の反面調査の必要性があったことが明らかであって、仮に調査官らが原告に対し調査の個別具体的な理由を開示せず、反面調査の実施につき原告及びその取引先等に対する本件調査を実施したことは、社会通念上相当というべきであって、この点に関する原告の主張は理由がない。
2. 推計課税の必要性
前記認定の事実からすると、原告の本件各係争年分の所得金額の算定については、収支実額の計算に必要な帳簿書類及び原始記録が見当らないうえ、署の調査官の行う調査についても原告の応答協力が得られないため、その所得金額を実額で把握することが不可能な状況にあったことは明らかである。
従って、被告署長が、原告の本件各係争年分の所得金額を推計により認定したことに何らの違法性もないものというべきである。
3. 推計の合理性の存否
(一) 昭和四一年分の所得金額について
(1) 仕入金額
ア、昭和四一年五月一日から同年一二月三一日までの現金以外による仕入金額が、別表(五)及び(六)記載の各金額の合計一六一五万七九二〇円であることは当事者間に争いがない。
イ、被告署長は、昭和四一年一月一日から同年四月三〇日までの現金以外による仕入金額は、アの金額を基礎として月割計算により八〇七万八九六〇円と推計しているところ、昭和四一年中において原告の仕入に変動があったことが認められない本件においては同年の一月から四月までの仕入高も同年の五月から一二月までのそれと同程度とみるのが相当であって、被告署長の右推計は合理的ということができる。
ウ、現金仕入金額
証人赤尾嘉照の証言により真正に作成されたものと認められる乙第三六号証、証人丸山豊一の証言及び弁論の全趣旨を総合すると、原告の明らかとなった仕入金額に基く取扱商品構成の概ねの割合は、昭和四一年、四二年において食料品四〇パーセント、食肉・鮮魚各三〇パーセント、昭和四三年において食料品五〇パーセント、食肉三〇パーセント、鮮魚二〇パーセントであること、原告の店舗は、川口の中心部から若干離れた市街地に位置すること、別表(二)の1の同業者Cの取扱商品構成割合は、食料品四〇パーセント、食肉・鮮魚各三〇パーセントであること、その店舗は川口駅から約三キロメートル離れた市街地に位置すること、Cの昭和四三年八月一日から同四四年七月三一日までの事業年度分の現金卸問屋以外からの仕入金額は二四七九万四九九三円、現金卸問屋からの仕入金額は三三五万八八〇〇円であること(その現金仕入割合は一三・五四パーセントとなる。)が認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。そうすると、Cは店舗の立地条件及び営業の態様において原告に類似しているものとみて妨げなく、かかる同業者の現金仕入割合から原告のそれを推計することは一応合理的といえる。
そこで、前記ア、イの合計金額二四二三万六八八〇円に右現金仕入割合一三・五四パーセントを乗じて原告の現金仕入金額を求めると三二八万一六七三円(円未満切捨、以下同じ。)となる。
エ、以上により、原告の昭和四一年分の仕入金額は、アないしウの合計二七五一万八五五三円と推算される。
(2) 売上原価
被告署長は、原告の年初棚卸高と年末棚卸高を同額と推定し、仕入金額をもって売上原価と認定しているが、原告の事業(食品類小売業)においては一般に棚卸高の変動が通常極めて少ないことは公知の事実であるから、右推計は合理性を欠くものということはできない。
もっとも、前掲乙第三六号証(裁決書の部分)、証人朝日良知、同金田茂の各証言によれば、昭和四一年においては、台風第四号のため原告の棚卸資産に損害が生じ、その額は三〇万円であったことを認めることができるので、仕入金額から右三〇万円を控除した金額二七二一万八五五三円が売上原価となる。
(3) 売上金額
ア、前掲乙第三六号証、証人赤尾嘉照、同丸山豊一の各証言及び弁論の全趣旨を総合すると、被告署長は、原告に対する昭和四一年分の課税のために、川口税務署管内における青色申告納税者から原告と同一業種目を総合的に営み、原告の昭和四一年分の仕入金額のほぼ二分の一から二倍の仕入金額を有する業者を対象として、取扱商品構成割合、店舗の立地条件、売場面積、従業員数等の諸要素につき原告と類似性を個別に検討し、四名(以下「本件同業者」という)を抽出したこと(うち三名は法人事業者であり、一名は、個人事業者であるが、法人事業者については、法人特有の役員報酬等について調整を施した。また、右四名については、昭和四一年分の事業所得に対する課税実績があり、かつ、多年事業を継続している者であって、年の中途において転業した者及び課税に関し不服申立又は提訴をして現在審理中の者などの特殊事情を有する者は含まれていない。)本件同業者四名全員の平均所得率は、別表(一四)の計算により一二・〇九パーセント、平均差益率は、別表(二)の計算により二〇・〇一パーセントとしたことが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。
イ、右認定事実によれば、被告署長が抽出した本件同業者は、原告と同一地域内において同種の食料品の販売業を営む者の中から、営業上の重要な要素を比較検討のうえ選択された者であり、かつ、いずれも青色納税申告者であって、その申告の基礎となった資料の正確性については、一般にこれを肯認して妨げないから、本件同業者の平均差益率及び平均所得率を用いて原告の売上金額及び所得額を推計することは、一応合理的な方法といいうる。
ウ、もっとも、本件全証拠によっても、被告署長がその所轄管内の原告の同業者の中から四名の本件同業者を抽出した方法、理由を詳らかにすることはできず、その抽出判断過程の合理性は不明といわざるを得ないけれども、さりとて右抽出方法が恣意的であるなど、推計の合理性を否定せしめるていのものであることについてはこれを認めるに足りる証拠はない。
(なお、原告の店舗の面積については、本件全証拠によってもこれを確定することができず、したがって、被告署長が本件同業者を抽出する際に判断の基礎とされた原告の売場面積の正確性については疑問がないではないけれども、原告と本件同業者との間に仕入金額等の近似性が認められる本件においては、仮に同業者と原告との間に店舗面積の相異があるとしても、この点が推計を不合理ならしめる程度のものと認めることはできない。)
エ、以上の点に関し、原告は、基礎資料を開示しない推計は合理性がない旨主張する。
前掲乙第三六号証、原告がその成立を認め、被告署長もその成立を争わないものとみられる丙第一、第二号証及び弁論の全趣旨によれば、本件推計の基礎となった同業者の売上金額、差益金額、算出所得金額、差益率、算出所得率は原告に開示されているが、右同業者の住所、氏名の開示はなされていないことを認めることができる。しかし、確定申告により被告署長が知りえた本件同業者の売上金額、差益金額等、その者の経営の実態に関する計数その他の諸事情は、被告署長が職務上知りえた当該同業者の営業上の秘密に属する事項であり、被告署長がこれをその者の住所、氏名とともに開示することは所得税法二四三条によって禁止されているといわなければならない。そして、被告署長において、他にかかる秘密を保護しつつ同業者率等を立証すべき適切な資料もないのであるから、このような資料に依拠することもやむをえないところであり、他方、本件同業者の住所、氏名等の開示をなさなくても、前記のとおり同業者の資料の正確性を明らかにすることによりかかる資料による推計の合理性を担保することも不可能ではないから、一概に住所、氏名等が開示されないからといって推計を不合理なものと断ずることは相当ではない。
また、原告は、原告の店舗の一〇〇メートル以内に丸徳ストア、二〇〇メートル以内に市民生協マーケットが存するという立地条件の特殊性を斟酌しない同業者の抽出を前提とする本件推計には合理性がない旨主張するところ、弁論の全趣旨により真正に作成されたものと認められる乙第三九号証の一ないし三によれば、本件各係争年を通じ、原告の店舗から約一〇〇メートルの距離にマルトクストアという集合店舗が存したことが認められる(原告主張の市民生協マーケットは、弁論の全趣旨から真正に作成されたものと認められる乙第四〇号証の一、二によれば、昭和四九年四月ころ開店したものであって、本件各係争年当時、存在していなかったことが認められる。)けれども原告主張の距離の範囲内に同種業者の集合店舗が存在するという状況は、原告に特有の条件ではなく、市街地に存する食品販売店一般にみられる状況であることは明らかであって、かかる点が、推計を不合理ならしめる程顕著なものであることについては、これを認めるに足りる証拠はないから、原告の主張は失当である。
オ、そこで前記(2)の原告の昭和四一年分の売上原価に同業者の平均差益率二〇・〇一パーセントを適用して原告の昭和四一年分の売上金額を求めると、被告署長の主張する算式のとおり、三四〇二万七四四四円となる。
(4) 一般経費控除後の所得金額
前記(3)オの売上金額に同アの同業者平均所得率一二・〇九パーセントを乗じて原告の昭和四一年分の一般経費控除後の所得金額を求めると四一一万三九一七円となる。
(5) 特別経費
ア、雇人費
前掲乙第三六号証、成立に争いのない甲第五号証の一、二、乙第四五号証、弁論の全趣旨から真正に作成されたものと認められる乙第四一号証の一、第四三号証、官署作成部分については成立に争いがなく、その余の部分については、原告本人尋問の結果により真正に作成されたものと認められる甲第四号証の一、原告本人尋問の結果により真正に作成されたものと認められる甲第四号証の二ないし四、証人本宮朝光の証言(一部)、原告本人尋問の結果(一部)、及び弁論の全趣旨を総合すると次の事実が認められ(当事者間に争いのない事実を含む。)、この認定に反する証人本宮朝光、原告本人の各供述部分、甲第八号証、第九号証の一ないし四の各記載は措信しえず、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。
原告が、昭和四一年分の雇人費として支出した額は次のとおりである。
パートタイム従業員 九万七二〇〇円
算式 日給三〇〇円×月稼働日数二七日×一二か月
本宮朝光 四五万六〇〇〇円
算式 月額三万八〇〇〇円×一二か月
井上保夫 二六万円
算式 月額二万円×一二か月+賞与二万円
川田和子 一九万五〇〇〇円
算式 月額一万五〇〇〇円×一二か月+賞与一万五〇〇〇円
斉藤京子 二四万円
算式 月額二万円×一二か月
伊藤操 九万一〇〇〇円
算式 月額一万三〇〇〇円×七か月(四月から一〇月まで)
合計 一三三万九二〇〇円
イ、借入金利子 四万〇四四五円
原告の昭和四一年分の借入金利子額が四万〇四五五円であることは当事者間に争いがない。
ウ、支払家賃 四六万六四〇〇円
原告の昭和四一年分の支払家賃額が四六万六四〇〇円であることは当事者間に争いがない。
エ、店舗賃借権償却費 八万円
原告が、店舗賃借権利金として平井乙松に対し昭和三八年六月、同年一二月各二〇万円ずつ計四〇万円支払ったことは当事者間に争いがないところ、右権利金の償却期間を五年として昭和四一年分の償却費を算出すると八万円となる。
オ、災害損失 三〇万円
前記(2)認定のとおり台風第四号による原告の商品損害額は三〇万円である。
(6) 専従者控除額 一四万五〇〇〇円
原告の昭和四一年分の専従者控除額が一四万五〇〇〇円であることは当事者間に争いがない。
(7) 所得金額 一七四万五三七二円
前記(4)の一般経費控除後の所得金額から同(5)の各特別経費及び同(6)の専従者控除額を減ずると右金額となる。
(二) 昭和四二年分の所得金額について
(1) 仕入金額 三一三七万七二四二円
ア、昭和四二年一月一日から同年一二月三一日までの現金以外による仕入金額が別表(七)及び(八)記載の各金額の合計二七六三万五四〇八円であることは当事者間に争いがない。
イ、現金仕入額
アの金額に(一)(1)ウにおいて認定した現金仕入割合一三・五四パーセントを乗じて原告の現金仕入額を求めると三七四万一八三四円となる。
ウ、原告の昭和四二年分の仕入金額は、ア、イの合計三一三七万七二四二円である。
(2) 売上原価 三一三七万七二四二円
前記(一)(2)同様、仕入金額をもって売上原価とする(かかる推計が合理性を欠くということはできないことは、前記(一)(2)のとおりである。)。
(3) 売上金額 三九七五万八二八九円
ア、証人赤尾嘉照、同丸山豊一の各証言及び弁論の全趣旨を総合すると、被告署長は、前記(一)(3)アの条件(但し、昭和四一年分とあるのを昭和四二年分と読み替える。)に適合する四名の同業者を抽出し、右同業者全員の平均所得率は別表(一五)の計算により一二・〇三パーセント、平均差益率は別表(三)の計算により二一・〇八パーセントとしたことが認められるところ、右推計方法は前記(一)(3)アに述べたと同様合理的なものというべきである。
イ、そこで、前記(二)(2)の原告の昭和四二年分の売上原価に右の同業者平均差益率二一・〇八パーセントを適用して原告の昭和四二年分の売上金額を求めると三九七五万八二八九円となる。
(4) 一般経費控除後の所得金額 四七八万二九二二円
前記(二)(3)イの原告の昭和四二年分の売上金額に前記(二)(3)アの同業者平均所得率一二・〇三パーセントを乗じて原告の昭和四二年分の一般経費控除後の所得金額を求めると四七八万二九二二円となる。
(5) 雇人費
前掲甲第五号証の一、二、乙第四一号証の一、証人三浦秀雄の証言により真正に作成されたものと認められる乙第三七号証、弁論の全趣旨により真正に作成されたものと認められる乙第四二号証の一、証人本宮朝光の証言(一部)及び弁論の全趣旨を総合すると次の事実が認められ(当事者間に争いのない事実を含む。)、この認定に反する証人本宮朝光及び原告本人の各供述部分、甲第八号証、第九号証の一ないし八は措信しえず、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。
原告が、昭和四二年分の雇人費として支出した額は次のとおりである。
本宮朝光 五〇万四〇〇〇円
算式 月額四万二〇〇〇円×一二か月
井上保夫 三六万円
算式 月額三万円×一二か月
川田和子 二四万円
算式 月額二万円×一二か月
斉藤京子 六万円
算式 月額二万円×三か月(一月から三月まで)
羽鳥繁 三七万五〇〇〇円
算式 月額三万円×一二か月+賞与一万五〇〇〇円
茂木けさよ 六万円
算式 月額五〇〇〇円×一二か月
猪俣憲子 七万二〇〇〇円
算式 月額六〇〇〇円×一二か月
合計 一六七万一〇〇〇円
なお、原告主張のパート(川口女子高校生)については、昭和四二年中に原告方において稼働したことを認めるに足りる証拠はない。
イ、借入金利子 一九万〇七四二円
原告の昭和四二年分の借入金利子額が一九万〇七四二円であることについては当事者間に争いがない。
ウ、支払家賃 四八万二四〇〇円
原告の昭和四二年分の支払家賃額が四八万二四〇〇円であることは当事者間に争いがない。
エ、店舗賃借権償却費
前記(一)(5)エと同様八万円である。
(6) 専従者控除額 一五万円
原告の昭和四二年分の専従者控除額が一五万円であることは当事者間に争いがない。
(7) 所得金額 二二〇万八七八〇円
前記(二)(4)の一般経費控除後の所得金額から同(5)の各特別経費及び同(6)の専従者控除額を減じた金額である。
(三) 昭和四三年分の所得金額
(1) 仕入金額
ア、昭和四三年一月一日から同年一二月三一日までの現金以外による仕入金額が別表(九)及び(一〇)記載の各金額の合計二七五八万九六九七円であることは当事者間に争いがない。
イ、現金仕入金額
アの金額に(一)(1)ウにおいて認定した現金仕入割合一三・五四パーセントを乗じて原告の昭和四三年分の現金仕入金額を求めると三七三万五六四四円となる。
ウ、原告の昭和四三年分の仕入金額は、ア、イの合計三一三二万五三四一円である。
(2) 売上原価 三一三二万五三四一円
前記(一)(2)同様、仕入金額をもって売上原価とする(かかる推計が合理性を欠くということはできないことは、前記(一)(2)のとおりである。)。
(3) 売上金額
ア、証人赤尾嘉照、同丸山豊一の各証言及び弁論の全趣旨を総合すると、被告署長は、前記(一)(3)アの条件(但し、昭和四一年分とあるのを昭和四三年分と読み替える。)に適合する四名の同業者を抽出し、右同業者全員の平均所得率は別表(一六)の計算により一三・〇五パーセント、平均差益率は別表(一三)の計算により二〇・六一パーセントとしたことが認められるところ、右推計方法は前記(一)(3)アに述べたと同様合理的なものというべきである。
イ、そこで、前記(三)(2)の原告の昭和四三年分の売上原価に右の同業者平均差益率二〇・六一パーセントを適用して原告の昭和四三年分の売上金額を求めると三九四五万七五三九円となる。
(4) 一般経費控除後の所得金額
前記(三)(3)イの売上金額に同(三)(3)アの平均所得率一三・〇五パーセントを乗じて原告の昭和四三年分の一般経費控除後の所得金額を求めると五一四万九二〇八円となる。
(5) 雑収入 四九万七三三三円
原告が、埼玉県起業芝川改良工事に伴う休業補償として四九万七三三三円を受領したことは当事者間に争いがない。
(6) 特別経費
ア、雇人費
前掲乙第三七号証、第四二号証の一、原告本人尋問の結果により真正に作成されたものと認められる甲第七号証の五、証人本宮朝光の証言(一部)、原告本人尋問の結果(一部)及び弁論の全趣旨を総合すると次の事実が認められ(当事者間に争いのない事実を含む。)、この認定に反する証人本宮朝光及び原告本人の各供述部分、甲第八号証、第九号証の一ないし三、五ないし一〇は措信しえず、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。
原告が、昭和四三年分の雇人費として支出した額は次のとおりである。
本宮朝夫 四八万四〇〇〇円
算式 月額四万四〇〇〇円×一一か月(一月から一一月まで)
井上保夫 一二万円
算式 月額三万円×四か月(一月から四月まで)
川田和子 一六万円
算式 月額二万円×八か月(一月から八月まで)
羽鳥繁 三〇万七五〇〇円
算式 月額三万円×一〇か月(一月から一〇月まで)+賞与七五〇〇円
羽鳥順子 二〇万一五〇〇円
算式 月額二万五〇〇〇円×八か月(五月から一二月まで)+賞与一五〇〇円
茂木けさよ 二万五〇〇〇円
算式 月額五〇〇〇円×五か月(一月から五月まで)
猪俣憲子 七万二〇〇〇円
算式 月額六〇〇〇円×一二か月
村上陸雄 九万円
算式 月額三万円×三か月(二月から四月まで)
川田明 三万六〇〇〇円
小宮文子 一万円
算式 日給一〇〇〇円×一〇日(九月中)
合計 一五〇万六〇〇〇円
なお、原告主張の米元あけみについては、同女が昭和四三年四月に原告に雇傭された旨の証人本宮朝光の供述部分は、成立に争いのない乙第四四号証の三により、同女が昭和四三年五月末日まで株式会社博生電機製作所に勤務していたことが認められることと対比して、にわかに措信し難く、他に同女が昭和四三年中に原告方において稼働したことを認めるに足りる証拠はない。
イ、借入金利子 三六万三六一二円
原告の昭和四三年分の借入金利子額が三六万三六一二円であることは当事者間に争いがない。
ウ、支払家賃 四〇万二〇〇〇円
原告の昭和四三年分の支払家賃額が四〇万二〇〇〇円であることは当事者間に争いがない。
エ、店舗賃借権償却費 五万三三三四円
前記(一)(5)エと同趣旨の店舗賃借権利金は、昭和四三年が償却期間の最終年であるため、取得価額三四万六六六六円を減じて求めると、五万三三三四円となる。
オ、建物減価償却費 二万四七一五円
原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告が昭和四三年一一月ころ店舗を新築したこと、その取得価額が三三〇万円を下らないことを認めることができ、右事実に基づいて別表(二一)記載のとおり昭和四三年分の減価償却費を求めると二万四七一五円となる。
(7) 専従者控除額 一五万円
原告の昭和四三年分の専従者控除額が一五万円であることは当事者間に争いがない。
(8) 所得金額 三一四万六八八〇円
前記(三)(4)の一般経費控除後の所得金額に同(三)(5)の雑収入金額を加え、同(三)(6)の各特別経費及び同(三)(7)の専従者控除額を減ずると三一四万六八八〇円となる。
4. 以上のとおりであるから、本件更正処分は、昭和四二年分については、同年分の所得金額二二〇万八七八〇円の、昭和四三年分については、同年分の所得金額三一四万六八八〇円の、それぞれ範囲内でなされたものであって、適法である。
昭和四一年分については、同年分の所得金額一七四万五三七二円の範囲内においては適法であるが、これを超える部分は違法であり取消を免れない。
5. 本件加算処分の適否
本件更正処分のうち、昭和四一年分の所得金額一七四万五三七四円を超える部分が取消しを免れないものであることは前記のとおりであるからこれに付随してなされた本件加算処分も右に対応する分分につき取消を免れないが、その余の部分については、原告に対し当裁判所が認定した過少申告にかかる所得金額に対応する税額全部につきその一〇〇分の五に相当する金額の過少申告加算税が課せられるべきである。
三、被告審判所長に対する請求について
原告が国税不服審判所の担当審判官に対し、署作成にかかる所得調査書類の閲覧を請求したこと、担当審判官が、原告に昭和四一年分ないし同四三年分の所得税の確定申告書、同更正、加算税の賦課決定決議書、同異議申立書、同所得調査書等要約書の閲覧をさせたが、所得調査書類の閲覧を拒否したことは当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によれば、原告からの閲覧請求時、被告署長から送付のあった本件所得調査書類が被告審判所長の手元にあったこと、及び、所得調査書等要約書は、担当審判官が右所得調査書類から第三者の利益を害するおそれがあると判断した第三者の個人的秘密にかかる事項及び調査担当者が上司から受けた指示、調査技術方法等に関する事項を除いたもののうち、本件更正処分の理由となった事実をとりまとめて作成したものであることが認められる。
ところで、国税通則法九六条が審判請求人に書類閲覧請求権を認める趣旨は、被告審判所長の手持資料の閲覧により審査請求人に、原処分庁の処分理由の正当性を検討し、攻撃防禦方法を講じる機会を与えるものであるから、右閲覧請求権は、原処分庁が任意に提出した書類のみならず、担当審判官が、原処分庁に対し提出を命じた書類についても及ぶと解する余地があるけれども、他方、担当審判官は、第三者の利益を害するおそれ、その他正当な理由があるときは閲覧を拒否することができるのであって、右正当な理由の有無についての判断は担当審判官の裁量に委ねられていると解すべきである。
これを本件について検討すると、前記認定事実によれば、担当審判官は、第三者の個人的秘密にかかる事項の閲覧は、当該第三者の利益を害するおそれがあるものと判断し、右事項が他の部分と混然一体となって記載されている所得調査書類自体の閲覧を拒否し、所得調査書等要約書の閲覧をさせることにより原告の閲覧請求権の保護をはかろうとしたものと解されるのであって、右判断は、担当審判官の裁量の範囲内というべきである(なお、上司からの指示事項、調査技術方法等は、原処分の理由となった事実を証するものではないから、閲覧請求権の対象とならないことは明らかである。)。
そして、成立に争いのない丙第一、第二号証によれば、担当審判官が原告に閲覧させた本件所得調査書等要約書は、原告に対し、本件課税処分における推計の過程を示し、争点を把握させる内容を有していることが認められ、原告に本件課税処分の理由を検討し、攻撃防禦方法を講じる機会を与えるという国税通則法九六条の趣旨を充足するものであって、これにより、本件裁決手続につき審査請求人たる原告の利益が害されたと認めるに足りる証拠もない。
以上によれば、担当審判官が、被告署長から提出された所得調査書類を原告に閲覧させなかったからといって違法とはいえず、従って、原告のこの点についての請求は理由がない。
四、結論
以上のとおりであるから、原告の被告署長に対する請求につき本件更正処分及び本件加算処分のうち、原告の昭和四一年分の所得金額一七四万五三七二円を超える部分及びこれに対応する部分をいずれも取り消し、同被告に対するその余の請求及びその余の被告に対する請求はいずれも理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担については、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九二条本文を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 高山晨 裁判官小池信行、裁判官深見玲子は、いずれも転補のため署名捺印することができない。裁判長裁判官 高山晨)
別表(一)
昭和四一年分
<省略>
別表(二)
昭和四二年分
<省略>
別表(三)
昭和四三年分
<省略>
別表(四)
<省略>
別表(五)
<省略>
別表(六)
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
別表(七)
<省略>
別表(八)
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
別表(九)
<省略>
別表(一〇)
<省略>
<省略>
<省略>
別表(一一)
昭和41年分同業者差益率計算表
1 標準偏差の計算
<省略>
2 限界値及び平均値の計算
(1) 限界値の計算
<省略>
(2) 平均値の計算
<省略>
別表(一二)
昭和42年分同業者差益率計算表
1 標準偏差の計算
<省略>
2 限界値及び平均値の計算
(1) 限界値の計算
<省略>
(2) 平均値の計算
<省略>
別表(一三)
昭和43年分同業者差益率計算表
1 標準偏差の計算
<省略>
2 限界値及び平均値の計算
(1) 限界値の計算
<省略>
(2) 平均値の計算
<省略>
別表(一四)
昭和41年分同業者所得率計算表
1 標準偏差の計算
<省略>
2 限界値及び平均値の計算
(1) 限界値の計算
<省略>
(2) 平均値の計算
<省略>
別表(一五)
昭和42年分同業者所得率計算表
1 標準偏差の計算
<省略>
2 限界値及び平均値の計算
(1) 限界値の計算
<省略>
(2) 平均値の計算
<省略>
別表(一六)
昭和43年分同業者所得率計算表
1 標準偏差の計算
<省略>
2 限界値及び平均値の計算
(1) 限界値の計算
<省略>
(2) 平均値の計算
<省略>
別表(一七)1 2
1. 従業員井上某外一名に支給した給与及びパートタイム従業員に支給した給与は次のとおり五五万二二〇〇円である。
<省略>
2. 従業員本宮朝光に支給した給与は、同人の昭和四四年分給与支給額三六万円を基準とし、昭和四二年から昭和四四年までの間における各年分の賃金上昇率を一〇パーセントとして、次の計算により本年分の給与支給額を二七万円と認定した。
なお、昭和四二年から昭和四四年までの間の埼玉県の対前年名目賃金上昇率を、労働省雇用政策課調の主要経済指標についてみれば、昭和四二年一四・一パーセント、昭和四三年一五・九パーセント、昭和四四年一六・五パーセントとなっているが、原告が有利になるように年率一〇パーセントとしたものである。
算式 (給与支給額) (複利原価率)
360,000円×0.751≒270,000円
複利原価率=(1+0.1)-3≒0.751
別表(一七)3
一 昭和四一年分 二〇二万九、二〇〇円
(一) 井上保夫 (鮮魚部門) 五六万円
但し月額 四万円×一二か月
賞与 四万円×二か月
(二) 川田和子 (乾物部門) 三五万円
但し月額 二万五、〇〇〇円×一二か月
賞与 二万五、〇〇〇円×二か月
(三) 本宮朝光 (精肉部門) 五三万二、〇〇〇円
但し月額 三万八、〇〇〇円×一二か月
賞与 三万八、〇〇〇円×二か月
(四) 斎藤京子 (乾物部門) 二八万円
但し月額 二万円×一二か月
賞与 二万円×二か月
(五) 伊藤操 (精肉部門) 二一万円
但し月額 二万円×九か月(四月から一二月まで)
賞与 二万円×一・五か月
(六) パート (川口女子高生) 但し日給三〇〇円×二七日×一二か月分
別表(一八)1
<省略>
別表(一八)2
一 昭和四二年分
(一) 羽鳥繁 (精肉部門) 三一三万九、二〇〇円
但し月額 三万五、〇〇〇円×一二か月
賞与 三万五、〇〇〇円×二か月
(二) 井上保夫 (鮮魚部門) 六一万六、〇〇〇円
但し月額 四万四、〇〇〇円×一二か月
賞与 四万四、〇〇〇円×二か月
(三) 川田和子 (乾物部門) 三九万二、〇〇〇円
但し月額 二万八、〇〇〇円×一二か月
賞与 二万八、〇〇〇円×二か月
(四) 猪俣憲子 (パート、乾物部門) 三二万四、〇〇〇円
但し日給一、〇〇〇円×二七日×一二か月分
(五) 茂木けさよ (パート、乾物部門) 三二万四、〇〇〇円
但し日給一、〇〇〇円×二七日×一二か月
(六) 本宮朝光 (精肉部門) 五八万八、〇〇〇円
但し月額 四万二、〇〇〇円×一二か月
賞与 四万二、〇〇〇円×二か月
(七) 斎藤京子 (乾物部門) 三〇万八、〇〇〇円
但し月額 二万二〇〇円×一二か月
賞与 二万二〇〇円×二か月
(八) パート (川口女子高生) 九万七、〇〇〇円
但し日給三〇〇円×二七日×一二か月分
別表(一九)1
<省略>
別表(一九)2
一 昭和四三年分 二五一万二、〇〇〇円
(一) 井上保夫 (鮮魚部門) 一八万四、〇〇〇円
但し月額四万六、〇〇〇円×四か月(一月から四月まで)
(二) 川田和子 (乾物部門) 二七万円
但し月額三万円×八か月(一月から八月まで)
賞与 三万円×一か月
(三) 羽鳥繁 (精肉部門) 四〇万七、〇〇〇円
但し月額三万七、〇〇〇円×一〇か月(一月から一〇月まで)
賞与 三万七、〇〇〇円×一か月
(四) 猪俣憲子 (パート、乾物部門) 三二万四、〇〇〇円
但し日給一、〇〇〇円×二七日×一二か月分
(五) 茂木けさよ (パート、乾物部門) 一三万五、〇〇〇円
但し日給一、〇〇〇円×二七日×一二か月分
(六) 村上陸雄 (鮮魚部門) 一〇万五、〇〇〇円
但し月額三万五、〇〇〇円×三か月(二月から四月まで)
(七) 羽鳥順子 (乾物部門) 二一万六、〇〇〇円
但し月額二万七、〇〇〇円×八か月(五月から一二月まで)
(八) 本宮朝光 (精肉部門) 五二万八、〇〇〇円
但し月額四万四、〇〇〇円×一一か月(一月から一一月まで)
賞与 四万四、〇〇〇円×一か月
(九) 小宮文子 (パート、精肉部門)
但し月額三万六、〇〇〇円として一〇日分
(一〇) 川田明 (精肉部門) 三万六、〇〇〇円
但し月額三万六、〇〇〇円×一か月
(一一) 米元あけみ (乾物部門) 二九万七、〇〇〇円
但し月額二万七、〇〇〇円×九か月(四月から一二月まで)
賞与 二万七、〇〇〇円×二か月
別表(二〇)
<省略>
別表(二一)
<省略>
別表(二二)
<省略>
<省略>
原告の各年分別取扱商品割合(判明した分)
<省略>
別表(二三)
<省略>