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浦和地方裁判所 昭和48年(行ウ)1号 判決 1980年12月24日

埼玉県川口市栄町一丁目二番二五号

原告

株式会社栄興社

右代表者代表取締役

納口利男

右訴訟代理人弁護士

宇佐美隆杉

高木国雄

埼玉県川口市青木町一丁目二一〇番地

被告

川口税務署長

手塚温義

右指定代理人

東松文雄

神林輝夫

柴一成

中島重幸

佐藤恭一

岩田栄一

塩井幸雄

阿島丈夫

右当事者間の昭和四八年(行ウ)第一号法人税等重加算税賦課決定処分取消請求事件について、当裁判所次のとおり、判決する。

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一当事者双方の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告が、原告に対し昭和四六年七月九日付をもつてした原告の昭和四三年一一月一日から同四四年一〇月三一日までの事業年度の法人税等に関する重加算税の賦課決定処分を取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨。

第二当事者双方の主張

一  請求原因

1  被告は、昭和四六年七月九日、原告に対し原告の昭和四三年一一月一日から同四四年一〇月三一日までの事業年度(以下、「本件事業年度」という。)の法人税に付帯して重加算税金二四一万六、五〇〇円を賦課する旨の処分(以下、「本件課税処分」という。)を行い、原告にその旨通知した。

2  原告は、昭和四六年九月九日本件課税処分について被告に対し異議申立てをしたが、関東信越国税局(以下、国税局と略称する。)長は、同年一二月四日これを棄却した。

3  原告は、昭和四六年一二月二七日関東信越国税不服審判所長に対し審査請求をしたところ、同国税不服審判所長は同四七年一〇月五日本件課税処分にかかる重加算税のうち金一三二万〇、九〇〇円を越える部分を取消す旨の裁決をし、右裁決書は、同年一一月一日原告に送達された。

4  しかしながら、本件課税処分は違法であるから、原告は、被告に対しその取消しを求めるため、本訴請求に及んだ。

二  請求原因に対する認否並びに主張

(一)  請求原因事実全部を認める。

(二)  主張

1 原告は、ダイガストマシン及びダイガスト用各種機器の製造販売を目的とする会社であるが、昭和四四年一二月二三日被告に対し本件事業年度における原告の法人税について、所得金額を金四、五三一万八、〇五一円とする期限内確定申告をした。

2 ところが、原告は、右申告所得金額について国税局の係員による調査後の昭和四六年六月三〇日被告に対し、本件事業年度における原告の法人税について、所得金額を金九、〇六一万九、〇九三円とする修正申告をした。

3 右修正申告書が提出されるに至つた経緯は、次のとおりである。すなわち、国税局は昭和四五年九月一六日原告の本件事業年度の税務について調査を行つたが、その際右国税局の係員は、調査の途中売却されたという部品の一部が翌期に製造の用に供されたり、在庫していた事実を確認して、更に調査を遂げた結果、少くとも別表一の(三)欄に記載する一〇九品目、九五二点、金一、七一七万九、二七八円に相当する部品(以下、「本件部品」という。)が不良品又は不用品でなく、製造の用に供することができるものであるのに、原告は、同四四年一〇月三一日これを、訴外エイコーダイキヤスチングエツキスポート工業株式会社(以下、エツキスポート社と略称する。)へ屑として売却したことにして仮装し、たな卸資産から除外していたことを発見した。

そこで、右国税局は、担当係員をして原告に対し、右調査結果の説明をするとともに、これらの事実に基づく脱漏所得及び税額について更正をし重加算税を課することになる旨の見解を明らかにしたうえ、更正をまたずに修正申告書の提出を勧めた結果、原告において任意に、本件部品をたな卸資産に計上するなどして右の修正申告書を提出するに至つたのである。

4 右のとおり、本件部品の売却は仮装のものであり、真実は、原告が本件事業年度末に右各部品を保有しており、これが裁決後の本件課税処分の基礎とされたのである。

5 本件事業年度において、原告が、所得からした配当金額は金一、〇〇〇万円、受取配当の益金不算入額は金四八万四、二〇〇円、課税される留保金額は金一、四七六万九、〇〇〇円、控除されるべき所得税額は金二二四万一、〇〇三円である。

6 従って、原告の本件事業年度における法人税に付帯する重加算税額は、別表二の(一)ないし(三)において計算するとおり、金一九五万一、五六〇円であるが、裁決によって変更された後の重加算税金一三二万〇、九〇〇円は、これを上廻るものではないから、裁決後の本件課税処分は適法であって、原告の主張するような違法はない。

三  被告の主張に対する原告の認否並びに主張

(一)  被告の主張する(二)の1、2の事実、同3の事実のうち原告が確定申告をするに際し本件部品を除外して申告したが、本件修正申告においてはこれをたな卸資産として計上したこと及び同4の事実のうち確定申告においてたな卸資産から除外した本件部品が裁決後の本件課税処分の基礎とされた事実を認めるが、その余の事実を否認する。

(二)  原告は、本件部品の売買を仮装した事実もなければ、右部品のたな卸資産としての計上を隠ぺいした事実もなく、況んや本件確定申告書の提出が被告の更正を予知してなしたものでもない。その経緯を詳述すると、次のとおりである。

1 原告の製造するダイガストと呼ばれる鋳型は、一機種一、〇〇〇点以上もの部品から組立てられるものであるが、昭和三〇年代の終りころからの技術革新の結果、原告の取扱う機種も多様となり、厖大な部品の保管、管理は、原告の重大な問題となった。このようなことから、国税局は同四三年七月より原告に対し不要となった部品を整理売却するように指導してきたが、同四四年七月末から同年八月末にかけての国税局神田法人税課長の指示指導のもとに同月から本件部品など不良品、不用品はもち論、六か月分の生産に必要なもの以外の部品をエツキスポート社に売却して大量に整理したのである。しかし、右エツキスポート社の新倉庫が完成後間もなかったため、売却品全部の搬出、入庫ができなかったところから、同四五年九月における被告の税務調査当時、売却した本件部品を翌期末に保有していたり、使用したり、更には特別発注の未着の部品を売却するといった手違いも生じたが、山積みにされた大量の部品を処理する上において、また、原告の右整理計画が発注点検、適正制禦まで徹底できなかった点において、止むを得なかったのである。

2 そして、本件修正申告書の提出は 被告及び国税局長等の厳しい指示と勧めによるものであった。すなわち、右国税局は、原告に対し昭和四六年以降、執拗に本件修正申告書の提出を勧奨し、「修正申告すれば全べて円満に終る。一切の問題を残さない。」と伝えてきたが、同年六月二七日には、北査察部長が電話で原告の代表者に修正申告書の提出を勧めた後、これに逡巡していた右代表者に対し「勝手にせよ。わかった。とんでもないことになる。」と威圧的な態度を示し、遂いに原告をして本件修正申告書の提出を余儀なくさせたものであるが、その内容は前記経緯からも明らかなように、真実に反するものであった。

3 以上のとおり、原告は、国税局の担当者の指導のもとに、本件部品を含む大量の部品をエツキスポート社に売却してその整理をしたが、本件事業年度における税務調査においては、同じ国税局の係員から、本件部品の売却がなかったこととする修正申告書の提出を執拗に勧められ、威圧的態度を示されるに至ったため、止むなくその意向に添い、事実に反する本件修正申告書を提出したのであるから、本件事業年度における本件部品のたな卸資産の計上につき仮装いんぺいの意思は毫末も存しなかったことが明らかである。

第三証拠

一  原告

1  甲第一ないし第三号証、第四号証の一、二、第五号証、第六号証の一、二、第七号証の一ないし一三、第八号証の一、二、第九ないし第一二号証を提出。

2  証人嶋崎智光、同大金修、同増田進、同小田啓三、同坂井宏、同永瀬晃、同植原章雄の各証言並びに原告会社代表者尋問の結果を援用。

3  乙第一、第二号証、第六号証、第一〇号証、第一三、第一四号証、第一七号証、第一九号証の成立は認める。第三号証の欄外書き込み部分及び第一二号証の書き込み部分を除くその余の部分の成立はいずれも認める。その余の乙号各証の成立は不知。

二  被告

1  乙第一ないし第六号証、第七、第八号証の各一、二、第九ないし第一七号証、第一八号証の一ないし二二、第一九ないし第二一号証を提出。

2  証人伏木昭吉、同高波富治、同平澤光郎、同神林輝夫の各証言を援用。

3  甲第一ないし第三号証、第一一、第一二号証の成立は認める。第一〇号証の書き込み部分の成立は不知、その余の部分の成立は認める。その余の甲号各証の成立はいずれも不知。

理由

一  被告が昭和四六年七月九日原告に対し原告の本件事業年度における法人税に付帯して重加算税金二四一万六、五〇〇円を賦課する旨の本件課税処分をしたこと、原告がこれに対し異議申立てをしたが、国税局長は同年一二月四日右申立てを棄却したこと、原告が同月二七日関東信越国税不服審判所長に対し本件課税処分についての審査請求をしたところ、右不服審判所長は同四七年一〇月五日本件課税処分にかかる重加算税のうち金一三二万〇、九〇〇円を越える部分を取消す旨の裁決をし、右裁決書が同年一一月一日原告に送達されたこと、以上の事実は、当事者間に争いがない。

二  そこで、本件課税処分の適否について判断する。

(一)  原告が、ダイガストマシン及びダイガスト用各種機器の製造販売等を目的とする会社であって、昭和四四年一二月二三日被告に対し本件事業年度における原告の法人税につき、所得金額を金四、五三一万八、〇五一円とする期限内確定申告をしたこと、原告は、右申告所得金額について国税局の係員による税務調査後の同四六年六月三〇日被告に対し、本件事業年度における原告の法人税について、所得金額を金九、〇六一万九、〇九三円とする修正申告書を提出したこと、原告は右確定申告に際し本件部品を、同四四年一〇月三一日にエツキスポート社に屑として売却したとしてたな卸資産から除外したが、修正申告書においてはこれをたな卸資産として計上したこと及び本件部品が裁決後の本件課税処分の基礎とされたこと、以上の事実は、当事者間に争いがない。

(二)  そこで、原告が右確定申告に際してした本件部品の除外が、仮装のものであるか、否について判断する。

成立に争いのない乙第一、第二号証、第六号証、第一〇号証、第一三、第一四号証、第一七号証、書込部分を除いて成立に争いがなく右書込部分は証人伏木昭吉の証言によって成立を認める乙第一二号証、証人伏木昭吉の証言によって成立を認める乙第五号証、第七号証の一、二、証人高波富治の証言によって成立を認める乙第四号証、第一一号証、第一六号証、証人平澤光郎の証言によって成立を認める乙第八号証の一、二、第九号証、第一八号証の一ないし一九、証人嶋崎智光の証言によって成立を認める甲第七号証の一ないし五、証人神林輝夫の証言によって成立を認める乙第二〇号証に、証人伏木昭吉、高波富治、平澤光郎、神林輝夫、嶋崎智光、永瀬晃、小田啓三の各証言並びに原告代表者尋問の結果を総合すると、次の事実を認めることができる。

1  国税局の国税調査官は昭和四五年九月一六日ころから原告の本件事業年度における法人税についての税務調査を行ったが、その際右調査官は本件確定申告時の原告の経理部長で当時川口ダイカスト技研工場(以下技研工場という。)の次長であった訴外嶋崎智光に対し、本件事業年度末における原告の在庫品のたな卸に関する原始記録の提示を求めたところ、右嶋崎は原告の有する四か所の工場のうち技研工場の分についてのみ原始記録がない旨申立ててこれに応じなかった。しかし、技研工場の資材課長であった訴外永瀬晃が右工場における部品の受入れ、払出し及び在庫残高を記載した受払帳を作成し、これによって部品を管理していることが判明したので、同調査官は、右調査の時点において受払帳に記載されていた数百点の部品のうちから取り敢えず数点を無作為に抽出し、これについて、受払帳の在庫高と実際に在庫している数量及び受払帳の記載と原告の仕入帳とを照合したところ、いずれも一致していたが、右受払帳には、本件事業年度末である同四四年一〇月三一日現在において、原告が確定申告の際たな卸高として申告した在庫部品のリストである公表たな卸表に記載された部品のほかに、本件部品を含む三九二品目、三、〇〇四点の部品(金三、七九四万〇、八八七円相当)が原告の工場倉庫に在庫する旨記載されていた。そこで、同調査官が右部品数の喰い違いについて質したところ、右嶋崎は、右の部品はすべて不用品、不良品であったので同四四年一〇月三一日屑としてエツキスポート社に売却した(以下、右売却した部品を売却部品という。)が、その重量は五九、〇九〇キログラム、代金は一トン当たり金一万三、〇〇〇円の割合による合計金七六万八、一七〇円であって未収金として経理上の処理をしている旨供述し、その内訳明細書(甲七号証の一ないし六、乙第一号証)を提出したが、その部品は、新品のもの一一九品目、一、六四一点(金二、八六七万二、七五七円)、中古品二五七品目(金四五八万八、四三四円)、下取り品一六品目、二六点(金四六七万九、六九六円)であって、本件部品も含まれていたこと。

2  エツキスポート社は、金属屑の売買などを目的とする資本金五〇〇万円の株式会社であって、その発行済株式一万株のうち、原告が二、五〇〇株、その代表者訴外納口利男ら同人の親族六名で合計三、七〇〇株を保有し、原告会社の経理部長であった前示嶋崎がその経理事務を担当するなど原告と特殊な関係にあったのであるが、右同社は技研工場に近い埼玉県川口市上青木に倉庫及び資材集積所を所有しながらも、本件部品のうち別表一の(一)欄記載の八一品目、六六三点、金一、三二八万五、一八〇円相当の部品については、その後も技研工場の倉庫に保管し、自らの倉庫に搬入しなかったばかりでなく、原告は本件事業年度に引続く同年一一月一日から同四五年一〇月三一日までの事業年度(以下、翌期という。)において、前示別表一の(一)欄記載の部品をダイカストマシン等の製造に使用したほか、その期末においても別表一の(二)欄記載の部品を保有していた。そこで前記調査官が右部品使用の事実を指摘して矛盾を質したところ、原告は、同四五年九月一九日右使用済の部品等別表一の(一)(二)欄記載の部品を買戻すこととし、右部品の総重量三三、〇一一・八キログラムを一トン金一万五、〇〇〇円の割合による合計金四九万五、一七七円でエキスポート社から買戻したとしてその旨の処理をし、右買戻し部品の品名、数量、仕入れ価格等を記載した明細書(乙第二号証)を作成してこれを右調査官に提出したこと。

3  原告がエツキスポート社に売却したという本件部品のうち、別表一記載順号34のモーター一〇個同39のバルブ二個、同42のパイロットチエック弁二六個のうち一〇個、同47のボンプ二個のうちの一個、同48のバルブ一六個等の部品は、本件事業年度内に発注されたものであるが、右事業年度末である同四四年一〇月三一日現在においても、仕入先である訴外株式会社電巧社、訴外東京工機株式会社、訴外大興産業株式会社、訴外旭東通商株式会社からいずれも原告に納入されていなかったこと。

4  本件部品のうち別表一記載順号2、3、4、11、13、17、の各部分を除いた八七品目、八七三点金一、七一六万一、八七八円相当の部品は新品であり、また、原告の保有していた部品は本件部品も含めてその大部分が、原告が製造するダイガストマシン等に使用するため特別に注文して製造させたものであって、別表一記載順号20の部品(ノーズル)の仕入先である訴外川口金属工業株式会社に対しては、原告において設計、製図して木型を貸与し、原告の製品製造計画に合せ、品質形状数量、納期を指定し納入させたもの、同順号35の部品(モーター)と同種のものは、本件事業年度内の昭和四四年六月三日から翌期の同年一一月一八日までの間四回にわたり合計二〇台、同順号36のモーターと同種のものは同年五月一〇日から同年一二月五日までの間に六回にわたり合計一二台、いずれも株式会社電巧社から原告に納品されており、更に同順号49、50の部品(バルブ)はいずれも、同四四年一〇月三一日に訴外旭東通商株式会社から納入されたものであること。

以上の事実を認めることができる。右に認定した事実によれば、本件部品は、原告が本件事業年度内に注文して納入を得た部品であって、そのいずれもが原告の倉庫に格納され、しかもその一部は現に原告の製造したダイガストマシン等の部品として使用されたほか、未着の部品も含まれていたというのであるから、本計部品が不良品、不要品など原告の主張する、いわゆる屑に該当しないことは明らかである。この点に関し、証人嶋崎智光は、原告は生産計画に基づいてダイガストマシン等製作のかなり以前にその部品の発注をするが、右マシン等の注文取消しなどによって既に発注した部品でも不要品になることがある旨供述し、証人永瀬晃も、生産計画に乗らないで六か月間使用見込みのない部品は新品であっても不要品とした旨供述するが、本件部品がこれを取付ける機器の注文取消し、または生産計画に乗らずに六か月間使用見込みのないものであったとの事実を認めるに足りる証拠も存しないばかりでなく、右各供述は、前示認定事実に照らして措信できない。なお、甲第一、第二号証に証人大金修の証言を総合すると、原告は、本件修正申告書の提出により前示売却部品のうち一一九品目、一、六四一点の部品(価格金二、八六七万二、七五七円)が翌期首のたな卸資産とされたため、昭和四六年七月二三日被告に対し、右部品は翌期の確定申告書において売上に計上済であるとして、翌期における法人税につき更正の請求をしたところ、被告は同年一一月一日本件修正申告においてたな卸資産として計上した部品の価格合計金四、三〇五万〇、一五六円のうち翌期確定申告において既に製造原価に算入した金一、一六五万三、四九九円を除く金三、一三九万六、六五七円につき損金算入を認めて更正をした事実を認めることができ、右の事実によると、前示買戻部品の大半につきたな卸資産から除外すべきであるとの原告主張の正当性を認め得るかの如くであるが、証人大金修の証言によると、右更正の衝に当った国税局国税調査官は現品につき格別の調査をすることなく、原告の言い分をそのまま認めて右の更正をした事実を認めることができるから、右の事実によって前叙認定を動かすことはできない。

そして、既に説示したとおり、原告は、本件事業年度の末日に本件部品を他の鋼屑とともにエツキスポート社に売却したとして、本件確定申告に際し、これをたな卸資産から除外したものであるが、税務調査に当った国税調査官から右の点との矛盾を指摘されるや、直ちにこれが買戻しの処理をしたとの前示認定事実を併わせ考えると、原告とエツキスポート社との本件部品の売買は、他の鋼屑との売買に藉口した仮装のものというべきである。もっとも、乙第一五号証、証人高波富治の証言によると、原告は、本件部品を含む売却部品をエツキスポート社に売却するに際しては、これを検貫(昭和四四年四月三〇日から同年一一月一一日まで合計二三回にわたって)し、その数量は合計五九、〇九〇キログラムであったとして、訴外川口金属商業協同組合青木町検貫所及び訴外川口鋳物工業協同組合検貫所発行の重量証明書(検貫票)を前示調査官に呈示した事実を認めることができるけれども、前叙認定事実によれば、本件部品は右検貫の対照とされなかったものというべきであるから、右の各証拠によっては前叙認定を左右することはできない。右認定に反する乙第一九号証、証人嶋崎智光、永瀬晃、小田啓三、増田進、原告代表者の各供述部分は、前顕各証拠に照らして措信できず、他に右認定を左右するに足りる証拠は存しない。

(三)  しかして、原告が本件事業年度の法人税に関して被告に対し、期限内に確定申告をしたがその後修正申告書を提出したこと、右修正申告書には本件部品をたな卸資産として計上したが、確定申告においてはこれを除外したこと及び右除外が売買を仮装したものであることは、上叙認定のとおりであって、右たな卸資産の除外が原告の右事業年度における利益を過少に計上する結果となり、惹いては法人税額に影響を及ぼすことは見易い道理であるから、原告は、本件事業年度における法人税の税額の計算の基礎となるべき事実の一部を仮装したことは明らかである。もっとも、この点に関して原告は、従来から厖大な部品の管理について国税局係員の指示指導を受け、これに基づいて部品等を処分したものであるが、本件部品のうち翌期に使用したもの、本件事業年度末に未着のもの及び在庫品につき売却の手続をとったのは、手違い、整理計画の不徹底によるものであり、しかも本件修正申告書の提出は被告及び国税局の厳しい指示によるものであったから、本件事業年度における確定申告に際し、本件部品を除外したな卸資産として計上しなかったことにつき仮装の意思はなかった旨主張するほか、乙第一九号証の記載及び証人増田進の証言によると、前示部品買戻しの処理は国税局国税調査官の指導によるものであるというのである。なるほど、前示乙第一〇号証甲第四号証の一、二、第五ないし第七号証、第九、第一〇号証、証人嶋崎智光、小田啓三、永瀬晃並びに原告代表者の各供述によると、原告の製造するダイガストマシンの部品は一機種一、〇〇〇点以上に及ぶが、その製作する機種が増加するに従って部品も大量に増加し、殊に右ダイガストマシンが水圧式から油圧式に変更された後も、顧客の需要を考慮して水圧式の部品を整備しておく必要があったため、部品の量は厖大なものとなり、その管理、把握に困難を来し、部品の二重仕入れ等の誤りを生じたばかりでなく、生産態勢にも影響を与え、さらにはたな卸資産の過大評価により正確な所得を算定することもできなかったこと、そのため、原告は、昭和三二年ころから国税局の税務調査において、係員から屡々その改善を指摘された結果、エツキスポート社と同社が買受けた物品については原告が必要とする場合に備えて買受後三年間は処分しないことなどを内容とする覚書を取り交したうえ、右係員らの指導のもとに同四三年ころから同社に不要品、余剰品を売却し、鋭意資材管理体制の確立に努めてきたこと及び原告が本件修正申告書を提出するにつき国税局係員から、税務調査の結果の説明を受け、その結果明らかとなった脱漏所得及び税額について更正をし重加算税を賦課することになる旨の見解を聴き、更正を待たずに修正申告書を提出するようにとの度重なる勧告の存したこと並びに右修正申告の金額もすべて国税局の前示調査結果によるものであある事実を認めることができる。しかしながら、国税局係員の右指導は、原告代表者の供述によると、抽象的に不用品、余剰品の処分に止り、これを越えて本件部品の如き原告が現に必要とするダイガストマシン等の部品の処分までも、具体的に指示、指導したものではないと認められるし、また、本件部品の売却が、原告の手違い、整理計画の不徹底によること及び本件部品の買戻しが国税調査官の指示によるものであるとの事実を認めるに足りる証拠は存しない。更に、原告の本件修正申告書の提出が国税局の度重なる勧告、指示に従ったものであることは、右にみたとおりであるが、原告が本件確定申告をするに際し本件部品の売買を仮装しこれをたな卸資産から除外したとの前叙認定事実に徴すると、右修正申告書を提出する際国税局係員から威圧的な言動がなされたこと、原告の主張するとおりであったとしても、それがために右仮装の意思がなかったものということはできないし、況んや、原告が右確定申告の際修正申告書の提出又は更正を予知しなかったものということもできない。従って、原告が本件確定申告に際し仮装の意思がなかったとの前記主張を採用することはできない。

三  以上の事実によれば、被告は、原告に対し本件事業年度における確定申告に際したな卸し資産から除外した本件部品につき法人税に付帯する重加算税を賦課すべきところ、右事業年度において、原告がその所得からした配当金額は金一、〇〇〇万円、受取配当の益金不算入額が金四八万四、二〇〇円であり、課税される留保所得金額が金一、四七六万九、〇〇〇円、控除されるべき所得税額が金二二四万一、〇〇三円であること、以上の事実については、原告が明らかに争わないのでこれを自白したものとみなされるから、原告の本件事業年度における法人税に付帯する重加算税額は、別表二(一)ないし(三)及び同表の説明書に記載するとおり、金一九五万一、五六〇円となる。してみると、裁決後の本件課税処分による重加算税金一三二万〇、九〇〇円はこれを上廻るものではないから、結局右課税処分は適法であって、原告の主張するような違法は在しないものといわざるを得ない。

四  よって、原告の本訴請求は、理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 長久保武 裁判官 大喜多啓光 裁判官 山田知司)

別表一

<省略>

別表二(一)

<省略>

別表二(二)

重加算税計算表

<省略>

別表二(三)

法人税額の計算

<省略>

別表二の説明書

<省略>

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