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浦和地方裁判所 昭和40年(わ)128号 判決 1968年8月30日

主文

被告人大郷甕を懲役参年に

被告人須藤祐八郎を懲役壱年六月に

被告人鈴木三夫を懲役拾月に

被告人島田熊蔵を懲役壱年に

被告人福島徹を懲役壱年に

被告人桶谷豊を懲役壱年四月に

被告人尾山明を懲役壱年に

被告人有住義一を懲役壱年弐月に

被告人秋葉寿雄を懲役弐年に

各処する。

未決勾留日数中、被告人大郷甕に対し五百日を同須藤祐八郎に対し、四百日を同秋葉寿雄に対し二百日をそれぞれ右各本刑に算入する。

この裁判確定の日から被告人鈴木三夫、同島田熊蔵、同福島徹、同桶谷豊、同尾山明、同有住義一に対し各参年間それぞれ右各刑の執行を猶予する。

被告人秋葉から押収してある印鑑一個(昭和四二年押第三七号の一)はこれを没収する。

訴訟費用中証人秋山吉久(一、二回)、同社藤沢治、同谷宮雄吉、同貝応憲二、同森田光一、同三橋群蔵(昭和四一年一一月四日出頭分)、同野崎武志、同藤江俊太郎、同鈴木三夫、同井村章、同五十嵐邦夫、同金子和に支給した分を四分し、その各一を被告人島田及び同桶谷同福島の負担とし、証人伊形三男に支給した分はこれを三分しその各一を被告人島田、同桶谷の負担とし、証人金丸照史、同三橋群蔵(昭和四二年一〇月三日出頭分)に支給した分および国選弁護人木戸光男に支給した分は被告人島田の負担とし、証人清野栄作に支給した分はこれを二分しその一及び証人石川清作に支給した分は被告人福島徹の負担とし、証人大道弘則に支給した分はこれを二分しその一及び証人秋山つぎ子、同栗原功一、同菅原愛造に支給した分は被告人桶谷の負担とし、証人新藤繁喜に支給した分はこれを二分しその各一を被告人有住、同秋葉の負担とし、証人碓氷司、同矢放三男生、同福岡良吉、同種岡巌、同高松栄次郎(昭和四二年三月二日出頭分)に支給した分は被告人秋葉の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人大郷甕は、同鈴木三夫と共にセメントの混和剤であるポゾランの製造販売を計画し、昭和三六年秋頃、実体のないいわゆる休眠会社である資本金一、二五〇万円の株式会社山手天然温泉の登記名義を買取りこれを日本ポゾラン砿業株式会社と商号変更し同時に被告人大郷はその代表取締役となり、同社の業務全般を統轄していたもの、被告人鈴木は、同社の取締役、かつ、工場長として、ポゾランの生産に従事していたもの、被告人須藤祐八郎は、同社のいわゆる相談役として同社株券の売込みによる資金集めを担当していたもの、被告人島田熊蔵、同桶谷豊、同尾山明はいずれも同社取締役として同福島徹は同社のいわゆる相談役的な立場で、それぞれ同社の運営に関与していたもの、同有住義一は計理士として同社の経理関係の指導及び会社登記事務の代行等を行なつていたもの、同秋葉寿雄はいわゆる休眠会社の売買を始めとして、会社登記事務の代行を行ういわゆる「会社屋」を業としていたものであるが

第一  右日本ポゾラン砿業株式会社は、もともと資産皆無のいわゆる休眠会社を商号、目的変更したのみで発足し、虚偽記入株券を作成、売却して資金操作を続けていたものであるところ、同社の額面株式の金額は一株五百円で一般人への売込みに支障があつたところから、被告人大郷は、須藤祐八郎及び被告人有住と協議の上、額面五〇円の株式を発行できる資本金五〇万円の資産皆無のいわゆる休眠会社である陽泉産業株式会社の登記名義を入手し、これを商号、目的変更し、前記日本ポゾラン砿業株式会社とは別個の、しかも社名を同じくする日本ポゾラン砿業株式会社として、かつ、資本金五〇万円から五、〇〇〇万円に払込みを仮装して増資手続をしようと企て、昭和三六年五月一五日陽泉産業株式会社を日本ポゾラン砿業株式会社と商号変更等したが、

一、被告人大郷、同有住は共謀の上

(一) 昭和三六年五月八日東京都世田谷区若林町二八二番地東京法務局世田谷出張所において、同出張所登記官吏に対し、同年四月一五日陽泉産業株式会社取締役会を開催した事実がなく、また、増資は、金融業者から調達したいわゆる見せ金を用いて払込済の形式を仮装したに過ぎないものであつて、被告人大郷、小林総一郎において、同社増資新株式の引受けをした事実がないのに、同年四月一五日同社において同社取締役会を開催した結果、一株の発行価格五〇円の新株式三万株を発行して資本金二〇〇万円に増加することを決議した旨虚偽の事実を記載した取締役会議事録及び被告人大郷において二万株、小林総一郎において一万株の同社増資新株式をそれぞれ引き受ける旨虚偽の事実を記載した各株式申込書並びに同社増資新株式に対する払込金を株式会社平和相互銀行本店において三万株分一五〇万円を保管中なる旨の保管証明書を添付した株式会社変更登記申請書を情を知らざる司法書士大内三武郎を介して提出し、陽泉産業株式会社の発行済株式の総数を四万株、額面株式の総数を四万株、資本の額を二〇〇万円と変更する旨の内容虚偽の登記申請をし、因て即日同出張所において情を知らない前記登記官吏をして同出張所備付の商業登記簿原本にその旨不実の記載をさせ即日右登記簿を同出張所に備え付けさせて行使し

(二) 同三六年一一月一一日前記東京法務局世田谷出張所において同出張所登記官吏に対し、同年八月三〇日、日本ポゾラン砿業株式会社(前記陽泉産業株式会社を商号変更したもの)取締役会を開催した事実がなく、また、増資は、金融業者から調達したいわゆる見せ金を用いて払込済の形式を仮装したに過ぎないものであつて、被告人大郷、小林総一郎、鈴木三夫、長井群蔵らにおいて同社増資新株式の引受けをした事実がないのに、同年八月三〇日同社において同社取締役会を開催した結果、一株の発行価格五〇円の新株式六万株を発行して、資本金を五〇〇万円に増加することを決議した旨虚偽の事実を記載した取締役会議事録及び被告人大郷において三万株、小林総一郎、長井群蔵、鈴木三夫において各一万株の同社増資株式をそれぞれ引き受ける旨虚偽の事実を記載した各株式申込書並びに同社増資新株式に対する払込金を株式会社平和相互銀行本店において六万株分三〇〇万円を保管中なる旨の保管証明書を添付した株式会社発行による変更登記申請書を提出し、日本ポゾラン砿業株式会社の発行済株式の総数を一〇万株、額面株式の総数を一〇万株、資本の額を五〇〇万円と変更する旨の内容虚偽の登記申請をし、即日同出張所において、情を知らない前記登記官吏をして、同出張所備付の商業登記簿原本にその旨不実の記載をさせ即日右登記簿を出張所に備え付けさせて行使し

二、被告人大郷、同有住及び同秋葉は順次共謀の上

(一) 同三七年一月二六日前記東京法務局世田谷出張所において、同出張所登記官吏に対し、同三六年一二月二八日右日本ポゾラン砿業株式会社において、同社臨時株主総会を、さらに同三七年一月一五日同社において同社取締役会を各開催した事実がなく、また、増資は同社に対する架空債権者を仕立て、これら架空債権者の同社に対する架空債権と同社増資新株式の引受けに基づく払込金とを相殺した如くして払込みを仮装したにすぎないのに、右臨時株主総会において同社に対する債権者上田雅義、渡辺孝一郎、沢本健一、加藤清二郎、飯田三郎に増資新株式の引受権を与えこれと右債権者らの債権とを相殺することを承認した旨の虚偽の事実を記載した臨時株主総会議事録及び前記取締役会において一株の発行価格五〇円の新株式三〇万株を発行して資本金を二、〇〇〇万円に増加し、右三〇万株を前記債権者五名に引受権を与える旨の虚偽の事実を記載した取締役会議事録並びに上田雅義ほか四名作成名義の新株式申込書その他債務金承認書、相殺契約書等いずれも虚偽の事実を記載した書類を添付した株式会社変更登記申請書を被告人秋葉の使用人を介して提出し、日本ポゾラン砿業株式会社の発行済株式の総数を四〇万株、額面株式の総数を四〇万株、資本の額を二、〇〇〇万円と変更する旨の内容虚偽の登記申請をし、即日同出張所において、情を知らない前記登記官吏をして、同出張所備付の商業登記簿原本にその旨不実の記載をさせ即日右登記簿を右出張所に備え付けさせて行使し

(二) 同三七年三月一九日東京法務局世田谷出張所において同出張所登記官吏に対し、同年一月二七日右日本ポゾラン砿業株式会社において、同社臨時株主総会及び同社取締役会を各開催した事実がなく、また、増資は、同社に対する架空債権者と同社増資新株式の引受けに基づく払込金とを相殺した如くにして払込みを仮装したにすぎないのに、右臨時株主総会において同社に対する債権者野村由蔵、竹本日出男、山本富士夫、木村義雄、前田太郎、吉田実、五十嵐達男、矢放昇三に増資新株式の引受権を与えこれと右債権者らの債権を相殺することを承認した旨の虚偽の事実を記載した臨時株主総会議事録及び前記取締役会において一株の発行価格五〇円の新株式六〇万株を発行して資本金を五、〇〇〇万円に増加し、右六〇万株を前記債権者八名に引受権を与える旨の虚偽の事実を記載した取締役会議事録並びに野村由蔵ほか七名作成名義の新株式申込書その他債務金承認書、相殺契約書等いずれも虚偽の事実を記載した書類を添付した株式会社変更登記申請書を提出し、日本ポゾラン砿業株式会社の発行済株式の総数を一〇〇万株、額面株式の総数を一〇〇万株、資本金の額を五、〇〇〇万円と変更する旨の内容虚偽の登記申請をし、即日同出張所において、情を知らない前記登記官吏をして、同出張所備付の商業登記簿原本にその旨不実の記載をさせ即日右登記簿を右出張所に備え付けさせて行使し

三、被告人大郷は、昭和三七年七月右会社の資本金五、〇〇〇万円を七、五〇〇万円に増資するにつき増資分の株券については、株主名を虚偽記入してこれを一般人に売却し資金集めをする意図のもとに、正規の引受手続を行なわず、右増資分二、五〇〇万円に対する払込みを仮装して増資手続をしようと企て、被告人大郷甕から同有住義一に右仮装払込みによる増資手続を依頼し、同被告人からこれをさらに被告人秋葉寿雄に依頼し、ここに被告人大郷、同有住、同秋葉は順次共謀の上、被告人有住において昭和三七年八月二三日東京都中央区小田原町三丁目一番地東京法務局日本橋出張所において、同出張所登記官吏に対し同年八月一日ポゾランセメント株式会社において同社臨時株主総会を同年八月五日取締役会を開催した事実がなく増資は架空の増資新株式引受人名義を利用し、同引受人らが引受株数に応じた株金全額の払込みを完了したようにして、払込を仮装したのに過ぎないのに、右臨時株主総会において同社に対する債権者石田尾栄一、南幸治、河原栄作、中村三郎、木村義雄に新株式の引受権を与えこれと右債権者等の債権とを相殺することを承認した旨の虚偽の事実を記載した臨時株主総会議事録及び前記取締役会において一株の発行価格五〇円の新株式五〇万株の引受権を前記債権者五名に与える旨の虚偽の事実を記載した取締役会議事録、債務金承認書、前記五名作成の新株式申込書、相殺契約書等いずれも虚偽の事実を記載した書類を添付した株式会社変更登記申請書を提出し、ポゾランセメント株式会社の発行済株式の総数を一五〇万株、発行済額面株式の総数一五〇万株、資本の額を七、五〇〇万円と変更する旨の内容虚偽の登記申請をし、即日同出張所において情を知らない登記官吏をして同出張所備付けの商業登記簿原本にその旨不実の記載をさせ、即日右登記簿を同出張所に備付けさせ行使し

第二より第一一まで省略

第一二 被告人有住は、同社代表取締役大郷らが、同社の増資又は商号変更に藉口して、何ら正当な事由がなく、払込みもないのに、虚偽記入して発行した株券であることの情を知り乍ら、右虚偽記入株券を所持していたのを奇貨として

一、昭和三七年一一月二〇日ころ、埼玉県大宮市浅間町一丁目五二番地の当時の同被告人自宅において、宮下善夫に対し、前記虚偽記入株券である同社取締役社長大郷和弘作成名義の表示株主島田熊蔵名義の五〇〇株券一〇枚、五〇〇〇株(記番号自D第五七七号至D第五八六号)を、正当な手続により発行された株券であるかのように装つて自己の二五万円の手形債務の返済として右宮下に提出し

二、同三七年一二月一〇日ころ、東京都〓飾区本田中原町六二番地の一、喫茶店兼食堂京成パーラー責任者菊地実方店舗において、北島毅に対し、前記虚偽記入株券である同社取締役社長大郷和弘作成名義の別表一四「虚偽記入株券一覧表」記載の株券一万三、〇〇〇株を、正当な手続により発行された株券であるかのように装つて、自己の右北島に対する六五万円の債務の返済として同人に提出し

三、同三八年一月下旬ころ、前記京成パーラー店舗において、前記北島毅に対し、前記虚偽記入株券である同社取締役社長大郷和弘作成名義の別表一五「虚偽記入株券一覧表」記載の株券一万株を、正当な手続により発行された株券であるかのように装つて、二〇万円の借入金の担保として右北島に提出した。

もつて、それぞれ、虚偽記入有価証券を行使した。

(証拠の標目)(省略)

(昭和四二年一〇月四日被告人有住義一の弁護人からなされた弁論再開の申立は、その必要なきものと認めてこれを棄却する。)

因に被告人有住、桶谷等の弁護人は、いわゆる「見せ金」による増資手続は適法であり、同被告人らは違法の認識を欠くものであるという趣旨の主張をするので、右にいわゆる「見せ金」による増資手続の違法性につき附言する。

いわゆる「見せ金」とは、取締役が株式払込取扱銀行以外の第三者から借入をなし、これを以て株式の払込に充て、新株効力発生后直ちに引き出してこれを借入先に返済するという形の払込仮装行為をいうのであるが、このように、登記完了后は直ちに引き出されることが予定され(又現実に本件では引き出されている)会社資本として使用する可能性のない株金の払込は、有効な株金の払い込みとは到底認められず資本充実、資本維持の原則に違反するものといわねばならず、これが違法であることはもとより論を俟たない。(昭和四一年一〇月一九日最高裁第三小法廷決定判例集二〇巻八号八六四頁参照)これと所見を異にする弁護人等の主張は畢竟独自の見解に出るものであり、これを前提とする主張についてはその余の判断を須いるまでもなく採用に価しない。

(前科)(省略)

(本件の情状)

本件は、次の如き経過を辿つた、被告人等の所為の一環として評価さるべきものである。

商業登記簿上の名義のみの株式会社を入手して、これに基き、株券を印刷しこれを売却して換金し、いわゆる蛸配当をなし更にいわゆる「みせ金」の方法で増資し、株券を印刷してこれを売却しており、その株券を徹頭徹尾何ら払込の裏付のない存在であつた。かくして印刷された株券は一九六万余株に上り、売り捌かれた金額は総計一、八〇二万円余に達しているものである、これによつて大衆投資家が蒙つた損害は誠に測り知れないものがある、又、本件は株式市場が空前の活況を呈した昭和三六年中に行われたものであることも事件の背景として見逃すことのできない事実である。

本件に対し、被告人ら各自の関与の態容、程度、その他諸般の事情を考慮して、後記法令の適用欄掲記の通りの刑を量定することとする。

(法令の適用)

被告人有住義一の判示第一の一の(一)、(二)、第一の二の(一)、(二)、第一の三の各所為中各公正証書原本不実記載の点は刑法六〇条、一五七条一項、罰金等臨時措置法三条一項一号に、同各不実記載公正証書原本行使の点は刑法六〇条、一五八条一項、一五七条一項、罰金等臨時措置法三条一項一号に、判示第一二の一ないし三の各虚偽記入有価証券行使の所為はいずれも刑法一六三条一項にそれぞれ該当するところ、右の各公正証書原本不実記載と同各行使との間にはそれぞれ手段、結果の関係があるので、同法五四条一項後段、一〇条によりそれぞれ重い不実記載公正証書原本の行使罪の刑で、又右虚偽記入有価証券の各一括行使は一個の行為で数個の罪名に触れる場合であるから同法五四条一項前段、一〇条により一罪として判示第一二の一については五〇〇株券一枚(D第五七七号)の、同二については五〇〇株券一枚(D第一号)の、同三については五〇〇株券一枚(D第二三三号)の各行使罪の刑でそれぞれ処断することとし、右各不実記載公正証書原本行使罪についてはそれぞれ所定刑中懲役刑を選択し、以上は同法四五条前段の併合罪であるから同法四七条本文、一〇条により最も重い判示第一二の二の五〇〇株券一枚(D第一号)の行使罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で同被告人を懲役一年二月に処する。なお同法二一条を適用して未決勾留日数中被告人大郷に対し五〇〇日を、同須藤に対し四〇〇日を、同秋葉に対し二〇〇日をそれぞれ右各本刑に算入することとし、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から、被告人鈴木、同島田、同福島、同桶谷、同尾山、同有住に対し各三年間、右各刑の執行を猶予する。

押収してある印鑑一個(昭和四二年押第三七号の一)は判示第一五の三の私文書偽造の用に供した物で被告人秋葉以外の者に属しないから同法一九条一項二号、二項を適用してこれを没収し、訴訟費用中被告人島田、同福島、同桶谷、同有住、同秋葉の負担すべき分については刑事訴訟法一八一条一項本文により主文末項記載のとおり各被告人に負担させることとし、被告人大郷、同鈴木、同須藤については同法一八一条一項但書によりこれを右被告人等に負担させないこととする。

(その他の法令の適用は省略する。)

よつて、主文の通り判決する。

別表 一四

虚偽記入株券一覧表

<省略>

別表 一五

虚偽記入株券一覧表

<省略>

(その他の別表は省略)

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