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浦和地方裁判所 平成9年(ワ)1314号 判決 1999年7月27日

原告 オークラサービス株式会社

右代表者代表取締役 A

右訴訟代理人弁護士 大宮竹彦

同 中山慎太郎

右訴訟復代理人弁護士 大林憲司

被告 有限会社飯田工業機械

右代表者代表取締役 B

右訴訟代理人弁護士 大塚嘉一

被告 椿山工業株式会社

右代表者代表取締役 C

右訴訟代理人弁護士 森勇

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の申立て

一  原告

(主位的請求・予備的請求とも同旨)

1 被告らは、原告に対し、連帯して四六〇〇万円及びこれに対する平成七年一二月三日から完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は被告らの負担とする。

3 仮執行の宣言

二  被告ら

主文同旨

第二事案の概要

一  本件は、株式会社ウッドウィル(以下「ウッドウィル」という。)から注文を受けた有限会社ゲノムコーポレーション(以下「ゲノム」という。)がウッドウィルに販売して納入する「ゲノムプレカットライン」と称する材木加工システムのチェーンコンベア部分(以下「本件コンベア」という。)の制作、組立てについて、その下請業者である被告らを共同の注文者として被告らから更にその下請けをしたという原告が、本件コンベアで搬送される加工用の材木を固定する装置であるバイス(以下「本件バイス」という。)を取り付けて本件コンベアを完成したことを原因として、主位的には、本件バイスを含む本件コンベアの請負代金請求として、予備的には、商法五一二条に基づく報酬請求として、被告らに対し、原告が本件バイスを含む本件コンベアの完成に要した費用であるという七〇二四万四〇〇〇円を減額した七〇〇〇万円から既払いの二四〇〇万円を控除した四六〇〇万円及びこれに対する支払催告の日の後の日であるという平成七年一二月三日から完済に至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の連帯支払を求めている事案である。

二  前提となる事実関係

本訴請求に対する判断の前提となる事実関係は、概略、次のとおりであって、当事者間に争いがないか、あるいは、括弧内に挙示した証拠ないし弁論の全趣旨によってこれを認定することができ、この認定を妨げる証拠はない。

1  当事者

(一) 原告は、荷役運搬機械及び産業用ロボットに関する機械器具設置工事の設計、施工、監督、請負などを業とする株式会社である。

(二) 被告有限会社飯田工業機械(以下「被告飯田」という。)は、輸送機の制作などを業とする有限会社である。

(三) 被告椿山工業株式会社(以下「被告椿山」という。)は、陸上輸送機械、器具、装置の製造、販売、設計、施工などを業とする株式会社である。

2  本件コンベアの発注の経過(甲三〇、乙九、丙五、弁論の全趣旨)

(一) ウッドウィルは、株式会社丸政を介して、ゲノムに本件コンベアを含む材木加工システムを発注し、ゲノムは、これをマルカキカイ株式会社(以下「マルカ」という。)に、マルカは、これを被告椿山に発注した。

(二) 被告椿山は、本件コンベアの制作、組立てを被告飯田に発注したところ、同被告は、同被告の工場が狭いため、被告椿山も被告飯田と共同して注文者の立場になったか否かはともかくとして、原告に本件コンベアの制作、組立てを発注することになった。

(三) 被告飯田は、その際、被告椿山から請負代金が二〇〇〇万円であると言われていたため、原告に対しては、予算として一六〇〇万円を予定していると伝えた。

3  本件コンベアの製作の過程(甲二、五、三〇、弁論の全趣旨)

(一) 原告は、当初、被告飯田から本件コンベアの手書きの全体図(甲二。以下「第一次図面」という。)を示され、その後、被告椿山から本件コンベアの設計図(甲五。以下「第二次図面」という。)を示された。

(二) そして、原告は、以後、もっぱら被告椿山と工程会議を重ねて、本件コンベアの制作、組立てを行ったが、その制作、組立てには、更に数社の下請業者を利用した。

(三) 原告は、その後、本件バイスを含む本件コンベアを完成し、これをウッドウィルに納入して、平成七年一〇月一五日、その検収を終えた。

4  本件コンベアの代金の支払状況(甲二三、乙二四)

(一) 原告は、平成七年一〇月一二日、被告飯田に対し、本件コンベアの請負代金を七〇二三万四〇〇〇円とする見積書を提出した。

(二) これに対し、被告飯田は、平成七年一一月二〇日、原告に対し、二四〇〇万円を支払った。

三  本件訴訟における争点

1  主位的請求に係る争点は、本件バイスを含む本件コンベアの製作、組立てを目的する請負契約が被告らを共同の注文者、原告を請負人として成立しているか否か、そして、その報酬について具体的な約定があったか否かであるが、この点に関する原・被告らの主張は、要旨、次のとおりである。

(原告)

(一) 契約当事者

原告が本件コンベアの制作、組立てを請け負ったのは、被告椿山が被告飯田に本件コンベアの制作、組立てを発注したのを契機とするが、原告に対する注文者は、被告飯田のみではなく、被告椿山を加えた被告らであって、被告らは、共同の注文者として、原告に本件コンベアの制作、組立てを発注したものである。

(二) 請負目的物

原告は、当初は、第一次図面による本件バイスを取り付けない本件コンベアの制作、組立てを請け負ったが、その後、第二次図面による本件バイスを取り付けた本件コンベアの制作、組立てを請け負った。

(三) 請負代金額

原告と被告らとの間では、被告飯田から予算額として一六〇〇万円が示されていたが、同被告の提案にとどまり、これを請負代金として本件バイスを含む本件コンベアの請負契約が成立したわけではなく、請負代金額は、原告の利益分を含め、実費相当額とすることが合意されていた。

(被告飯田)

(一) 契約当事者

被告飯田は、被告椿山から本件コンベアの制作、組立てを受注し、これを原告に下請けさせたが、同被告の原告との間の請負契約は、これにとどまり、その後、被告椿山が本件コンベアに本件バイスを取り付けるなどの指図をし、原告が同被告の指図に従って本件バイスを取り付けて本件コンベアを完成したとしても、その取付けは、被告飯田との間の請負契約の内容ではないから、同被告がその代金を原告に支払うべき理由はない。

(二) 請負目的物

被告飯田は、被告椿山から本件バイスを取り付けない状態の本件コンベアの制作、組立てを請け負い、これを原告に下請けさせたにとどまるのであって、本件コンベアに本件バイスを取り付けることを被告椿山から受注したことも、原告に発注したこともない。

(三) 請負代金額

被告飯田は、被告椿山から代金二〇〇〇万円で本件コンベアの制作、組立てを請け負ったため、これを原告に代金一六〇〇万円で下請けさせたものである。なお、被告飯田は、前記のとおり、原告に対し、実際には二四〇〇万円を支払っているが、原告から、二四〇〇万円でもって本件コンベアの制作、組立てをめぐる争いを一切解決することができる、と言われたため、契約金額を超える支払をしたにすぎない。

(被告椿山)

(一) 契約当事者

被告椿山は、被告飯田に本件コンベアの制作、組立てを発注したにすぎず、原告にこれを発注したことはなく、被告椿山が原告に対して本件コンベアの制作、組立てについて指図をしたとしても、それは、同被告の請負人である被告飯田が原告に本件コンベアの制作、組立てに係る作業を「丸投げ」したため、その注文者として、当該作業を直接に担当している下請人の原告に指図をするしかなかったからであって、被告椿山が原告に対する注文者の立場にあったからではない。

(二) 請負目的物

本件コンベアの制作、組立てには、当初から本件バイスを取り付けることが予定されていたのであって、第一次図面にいう「位置決め装置」が本件バイスにほかならない。固定装置のバイスを取り付けないコンベアでは、そもそも材木の加工ができず、本件コンベアの制作、組立てには、当然に本件バイスを取り付けることが予定されていたものである。

(三) 請負代金額

被告椿山は、被告飯田に代金二〇〇〇万円で本件バイスを含む本件コンベアの制作、組立てを請け負わせているのであるから、原告に対してであっても、これを超える請負代金を支払うべき理由はない。

2  予備的請求に係る争点は、要するに、主位的請求が認められない場合、原告が被告らに対して商法五一二条に基づく報酬の支払を求めることができるか否かである。

第三当裁判所の判断

一  主位的請求の当否

1  契約当事者

(一) 前記前提となる事実関係に、<証拠省略>及び弁論の全趣旨によれば、本件コンベアは、その納入先であるウッドウィルから、株式会社丸政を介して、ゲノムが受注し、ゲノムからマルカが、マルカから被告椿山が、同被告から被告飯田が受注し、同被告から原告が受注したものであることが明らかであって、原告に対する注文者は被告飯田であって、被告椿山は、被告飯田に対する注文者の立場にすぎず、原告に対する注文者の立場にはないものといわなければならない。

(二) 原告は、被告らが共同の注文者として原告に本件コンベアの制作、組立てを請け負わせたと主張するが、前認定の被告椿山から被告飯田、同被告から原告に至る発注・受注の過程で、被告飯田が被告椿山から受注した作業を原告に基本的には「丸投げ」をして発注したため、原告との打合せに際して、被告椿山が指図をするなどしていたとしても、これをもって、同被告を原告に対する注文者の立場にあったと認め得るものではなく、原告が被告らを共同の注文者として請け負ったようにいう証人Dの供述は採用し得ず、他に右認定を覆し、原告主張のとおり被告椿山も原告に対する注文者の立場にあったと認めるに足りる証拠はない。

(三) したがって、原告の主位的請求中、被告椿山に対する請求は、原告と同被告との間に主位的請求の原因である請負契約の成立が認められない以上、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。

2  請負目的物

(一) <証拠省略>によれば、本件コンベアをその一部とする材木加工システムは、建築用資材等の材木に予め切込みを入れる装置で、これを流れ作業で行うため、本件コンベアが必要となること、本件コンベアで搬送される材木に切込みを入れるためには、材木を固定しておく必要があること、被告飯田が原告に交付した第一次図面では、その固定装置としてバイスが明記されていないが、位置決め装置が記載されていること、第一次図面に示されている位置決め装置は、要するに、流れ作業で予め切込みを入れる材木が固定していないと正確に切込みを入れることができないため、その位置を固定する装置であること、第二次図面には、本件バイスが明記されているが、その明記された本件バイスは、第一次図面に示された位置決め装置と同旨であること、以上の事実が認められ、この認定を覆すに足りる確たる証拠はない。

(二) この点について、被告飯田は、同被告が被告椿山から受注し、原告に発注した本件コンベアには、本件バイスが含まれないものであったと主張するが、その主張に沿う証人Eの供述は採用し得ず、同被告は、要するに、被告椿山から受注した本件コンベアの内容を十分に検討することもないまま、原告に丸投げをして発注してしまったところ、原告に示した予算を遙かに超える請負代金を原告から請求されたため、かつ、その原因が本件コンベアに本件バイスを取り付けたことにあるため、いわば責任逃れの口実として、右の主張をしているとしか解されず、同被告の主張は採用の限りでない。

(三) したがって、被告椿山が被告飯田に発注し、同被告が原告に発注した本件コンベアには、その構造ないし性質上、当然に本件バイスを取り付けることが予定されていたのであって、そのことは、とりもなおさず、本件バイスの取付けが当初から被告椿山と被告飯田との間の請負契約、被告飯田と原告との間の請負契約の内容になっていたものであるといわせるものである。

3  請負代金額

(一) 前記前提となる事実関係に<証拠省略>及び弁論の全趣旨を総合すれば、被告椿山は、マルカから代金三〇〇〇万円で材木加工システムの制作、組立てを受注したため、本件コンベア(本件バイスを含むことは前認定のとおりである。以下同じ。)の制作、組立てについて、被告飯田に代金二〇〇〇万円で発注し、次いで、同被告が代金一六〇〇万円でこれを原告に発注したことが認められる。

(二) この点について、原告は、被告飯田から示された一六〇〇万円は、予算であって、これを請負代金として原告と同被告との間に請負契約が締結されたわけではないように主張するが、注文者から示された予算額を明示ないし黙示に承諾して請負契約を締結している請負人は、その後、予算額が注文者との合意によって変更されない限り、当該予算額を請負代金として注文に係る作業を請け負ったものといわざるを得ないところ、同被告が予算として示した一六〇〇万円について、原告が当該予算では本件コンベアの制作、組立てをすることができないなどとして、予算の増額を同被告に申し入れ、その承諾を得たとの事実を認めるに足りる証拠はなく、弁論の全趣旨によれば、原告は、本件コンベアの制作、組立てに被告飯田から示された予算額を遙かに超える七〇〇〇万円余を出捐しているように窺われるが、予算額を示されて被告飯田から本件コンベアの制作、組立てを請け負った請負人としての原告の対応が不適切であったというにとどまり、これをもって、前認定が覆されるものではない。

(三) しかるところ、被告飯田は、前記前提となる事実関係のとおり、原告に既に請負代金一六〇〇万円を超える二四〇〇万円を支払っているのであるから(なお、弁論の全趣旨によれば、同被告が原告に予算額を超える支払をした趣旨は、同被告主張のとおりであったと認められる。)、原告の主位的請求中、被告飯田に対する請求も理由がないというほかはない。

二  予備的請求の当否

1  原告は、主位的請求が認められない場合、予備的請求として、商法五一二条に基づき、被告らに対し、本件バイスを含む本件コンベアの完成に要した報酬の支払を求めると主張する。

2  しかしながら、前認定の事実関係の下においては、原告の予備的請求は理由がないものといわなければならない。すなわち、第一に、商法五一二条は、商人がその営業の範囲内の行為をすることを委託されて、その行為をした場合において、その委託契約に報酬についての定めがないときであっても、委託者に報酬を請求できるという趣旨に解されるところ(最高裁昭和四三年四月二日第三小法廷判決・民集二二巻四号八〇三頁)、本件においては、前認定のとおり、原告は、被告飯田から同被告の示した予算額一六〇〇万円の範囲で本件コンベアの制作、組立てを請け負っているのであるから、その約定された請負代金以外に、本件コンベアの完成に要した費用を右趣旨の商法五一二条に基づく報酬として請求し得る余地はない。

また、第二に、商法五一二条は、商人がその営業の範囲内の行為を第三者の委託を受けないが、客観的にみて、第三者のためにする意思でした場合においても、第三者に対してその報酬を請求できるという趣旨にも解されるところ(最高裁昭和四四年六月二六日第一小法廷判決・民集二三巻七号一二六四頁、最高裁昭和五〇年一二月二六日第二小法廷判決・民集二九巻一一号一八九〇頁参照)、本件においては、本件コンベアの制作、組立ては、被告椿山にとっては、これを被告飯田に請け負わせているものであり、被告飯田にとっては、これを原告に請け負わせているものであるから、原告が被告らの委託を受けないで被告らのために本件コンベアの制作、組立てを行ったと認める余地がないから、右趣旨で商法五一二条の適用を認める前提がない。

なお、被告飯田は、原告の主位的請求について、同被告は、本件バイスを除いた本件コンベアの制作、組立てを原告に注文したにとどまり、本件バイスの取付けは発注していなかったように主張するが、その主張の趣旨は前説示のとおりであって、原告の本件バイスの制作、組立てが同被告のために行われたことを認める趣旨ではないから、予備的請求について、原告が本件バイスの取付けを被告飯田の委託を受けないが、同被告のために行ったという趣旨の原告の主張事実について、同被告による自白が成立すると解すべきものでもない。

3  したがって、原告の予備的請求も、その余の点について進んで判断するまでもなく、理由がない。

三  よって、原告の請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 滝澤孝臣)

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