大判例

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浦和地方裁判所 平成6年(わ)14号 判決 1994年6月28日

本店の所在地

埼玉県秩父郡東秩父村大字坂本三一七番地

法人の名称

小川石産株式会社

代表者の住居

埼玉県熊谷市箱田五丁目一四番七号

代表者の氏名

佐藤秋男

本店の所在地

東京都中央区八丁堀四丁目八番六号

法人の名称

株式会社佐藤産業

代表者の住居

埼玉県熊谷市箱田五丁目一四番七号

代表者の氏名

佐藤秋男

本籍

埼玉県熊谷市箱田五丁目二六二番地二

住居

埼玉県熊谷市箱田五丁目一四番七号

会社役員

佐藤秋男

昭和九年九月二七日生

(検察官)

佐藤美由紀

(弁護人)

中島泰准

主文

一  被告人小川石産株式会社を罰金三三〇〇万円に処する。

二  被告人株式会社佐藤産業を罰金五〇〇万円に処する。

三  被告人佐藤秋男を懲役一年二月に処し、この裁判の確定した日から三年間、右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人小川石産株式会社(以下「被告小川石産」という。)は、埼玉県秩父郡東秩父村大字坂本三一七番地に本店を置き、砕石生産販売を営む資本金六〇〇万円の株式会社、被告人株式会社佐藤産業(以下「被告佐藤産業」といい、右両被告人を総称して「被告両社」という。)は、東京都中央区八丁堀四丁目八番六号に本店を置き、砕石販売を営む資本金一〇〇〇万円の株式会社、被告人佐藤秋男(以下「被告人佐藤」という。)は、被告両社の代表取締役として被告両社の業務全般を統括していた者であるが、被告人佐藤は

第一  被告小川石産の業務に関し、法人税を免れようと企て、同被告人の売上の一部を除外するなどの方法により所得を秘匿したうえ

一  平成元年五月一日以降平成二年四月三〇日までの事業年度における被告小川石産の実際所得金額が二億一三二六万二六九五円であったにも拘らず、同年六月二八日、埼玉県秩父郡日野田町一丁目二番四一号所在の所轄秩父税務署において、同税務署長に対し、所得金額が一億八五一万四五四三円でこれに対する法人税額が四二四五万円である旨の偽りの法人税確定申告書を提出し、もって、不正の方法により同被告人の右事業年度における正規の法人税額八四三四万九二〇〇円と右申告税額との差額四一八九万九二〇〇円を免れた

二  平成二年五月一日以降平成三年四月三〇日までの事業年度における被告小川石産の実際所得金額が二億一二二五万一四〇四円であったにも拘らず、同年六月二五日、右秩父税務署において、同税務署長に対し、所得金額が九四三一万三〇九七円でこれに対する法人税額が三四三五万四〇〇〇円である旨の偽りの法人税確定申告書を提出し、もって、不正の方法により同被告人の右事業年度における正規の法人税額七八五八万七〇〇円と右申告税額との差額四四二二万六七〇〇円を免れた

三  平成三年五月一日以降平成四年四月三〇日までの事業年度における被告小川石産の実際所得金額が二億五五一万五九七〇円であったにも拘らず、同年六月二九日、前記秩父税務署において、同税務署長に対し、所得金額が八二七六万一〇九八円でこれに対する法人税額が二九九七万七〇〇〇円である旨の偽りの法人税確定申告書を提出し、もって、不正の方法により同被告人の右事業年度における正規の法人税額七六〇〇万九七〇〇円と右申告税額との差額四六〇三万二七〇〇円を免れた

第二  被告佐藤産業の業務に関し、法人税を免れようと企て、同被告人の売上の一部を除外するなどの方法により所得を秘匿したうえ

一  平成元年一一月一日以降平成二年一〇月三一日までの事業年度における被告佐藤産業の実際所得金額が五九六七万四七八七円であったにも拘らず、同年一二月二六日、東京都中央区新富二丁目六番一号所在の所轄京橋税務署において、同税務署長に対し、所得金額が四三二九万九五八一円でこれに対する法人税額が一五七一万二九〇〇円である旨の偽りの法人税確定申告書を提出し、もって、不正の方法により同被告人の右事業年度における正規の法人税額二二二六万二九〇〇円と右申告税額との差額六五五万円を免れた

二  平成二年一一月一日以降平成三年一〇月三一日までの事業年度における被告佐藤産業の実際所得金額が六〇五五万六二一円であったにも拘らず、同年一二月二四日、右京橋税務署において、同税務署長に対し、所得金額が四三五八万九六五八円でこれに対する法人税額が一五一三万七〇〇〇円である旨の偽りの法人税確定申告書を提出し、もって、不正の方法により同被告人の右事業年度における正規の法人税額二一四九万七四〇〇円と右申告税額との差額六三六万四〇〇円を免れた

三  平成三年一一月一日以降平成四年一〇月三一日までの事業年度における被告佐藤産業の実際所得金額が四九三八万五一九八円であったにも拘らず、同年一二月二五日、前記京橋税務署において、同税務署長に対し、所得金額が三六二二万四一七七円でこれに対する法人税額が一二六六万六九〇〇円である旨の偽りの法人税確定申告書を提出し、もって、不正の方法により同被告人の右事業年度における正規の法人税額一七六〇万二二〇〇円と右申告税額との差額四九三万五三〇〇円を免れた

ものである。

(証拠の標目)

判示全事実について

一  当公判廷における被告人佐藤の供述

一  被告人佐藤の検察官に対する供述調書

一  被告人佐藤の大蔵事務官に対する質問てん末書一六通(検察官請求証拠等関係カード乙番号3ないし16・18・19)

一  佐藤竹子、細田芳美(三通)、白根春子、吉川清子、吉野久雄、持田勝利、小鷹正及び野中秀泰(二通)の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  検察官作成の報告書

判示第一の各事実について

一  秩父税務署長作成の回答書

一  検察事務官作成の電話聴取書(検察官請求証拠等関係カード甲番号2)

一  大蔵事務官作成の売上高調査書、減価償却費調査書、受取利息調査書、雑収入調査書、災害防止準備預金繰入額調査書、割引債券償還益調査書、事業税認定損調査書、その他所得調査書(二通)、増差所得金額調査書(二通)、現金調査書、普通預金調査書、定期預金調査書、災害防止準備金引当金調査書、未払金調査書、割引債券調査書、前渡金調査書、代表者貸付調査書、地方税利子割額調査書、減価償却超過額調査書、株式会社佐藤産業勘定調査書、未納事業税調査書及びP/L不突合金額調査書(同3ないし26)

判示第一の一の事実について

一  大蔵事務官作成の修正損益計算書(記録二一五号)

判示第一の二の事実について

一  大蔵事務官作成の修正損益計算書(記録二一六号)

判示第一の三の事実について

一  大蔵事務官作成の修正損益計算書(記録二一七号)

判示第二の各事実について

一  被告人佐藤の大蔵事務官に対する質問てん末書(検察官請求証拠等関係カード乙番号17)

一  京橋税務署長作成の回答書

一  検察事務官作成の電話聴取書(検察官請求証拠等関係カード甲番号31)

一  大蔵事務官作成の売上高調査書、売上値引戻り高調査書、原石仕入高調査書、旅費交通費調査書、支払手数料調査書、受取利息調査書、事業税認定損調査書、その他所得調査書(二通)、増差所得金額調査書(二通)、普通預金調査書、受取手形調査書、売掛金調査書、未払金調査書、地方税利子割額調査書、小川石産株式会社勘定調査書、未納事業税調査書及び増差所得金額(損益)調査書(同32ないし50)

判示第二の一の事実について

一  大蔵事務官作成の修正損益計算書(記録五一号)

判示第二の二の事実について

一  大蔵事務官作成の修正損益計算書(記録五二号)

判示第二の三の事実について

一  大蔵事務官作成の修正損益計算書(記録五三号)

(法令の適用)

該当罰条及び選択刑

一  被告両社について 法人税法一六四条一項・一五九条

二  被告人佐藤について 法人税法一五九条(懲役刑選択)

併合罪加重

一  被告両社について 刑法四五条前段・四八条二項

二  被告人佐藤について 同法四五条前段・四七条本文・一〇条

犯情の最も重い判示第一の三の罪の刑に法定加重

執行猶予

被告人佐藤について、同法二五条一項

(量刑事情)

1  脱税は、租税の公平な負担を損う犯罪であり、国民及び法人の納税により民主主義国家の経済的基盤が確固となるものであるから、民主主義社会を崩壊させるという面に注目すれば、結果的には暴力により国家の転覆を図る犯罪と同一視できる面もあり、これを禁圧しなければ健全な民主主義国家の存立が根底から覆るとさえ言えるものであり、したがって、逋脱犯罪は、民主主義への重大な挑戦であり、極めて悪質な犯罪であると言わざるを得ない。

2  しかるに、被告小川石産は、平成元年以降平成三年の事業年度にかけて合計六億三一〇〇万円以上の所得があったにも拘らず、合計二億八五〇〇万円余りしか申告せず、その逋脱額総額は一億三二〇〇万円余りに及んでおり、また、被告佐藤産業も平成元年以降平成三年の事業年度にかけて合計一億六九〇〇万円以上の所得がありながら、合計一億二三〇〇万円余りしか申告せず、逋脱額総額は一七〇〇万円余りに及んでおり、被告両社の逋脱額はいずれも多額であって悪質であり、また、被告両社の逋脱額の合計は実に一億五〇〇〇万円に達しており、被告人佐藤は被告両社の代表取締役としてその業務全般を統括していた者であるから、その刑責は重く、一般予防的見地からすれば、健全な民主主義国家を存続させるため、厳罰をもって対処することも考えられる。

3  ところで、被告小川石産は、埼玉県の岩石採取認可を受けて事業を行っているところ、埼玉県から「ふるさと埼玉の緑を守る条例」の規定に基づく緑の保全及び緑化に関する所謂「緑の協定」を同県と締結すべきよう行政指導を受けてこの協定を締結しているが、これによれば、採石事業完了後の跡地埋戻・整地・植林事業に関し、事前に県の担当部局の助言と指導により、緑地計画書を定めたうえ、県に提出すべきことを義務付けられ、また、森林法・採石法に基づき事前に提出した岩石採取後の環境復元緑化整地事業計画の実施を法令上義務付けられ、罰則により履行を強制されていることから、被告小川石産の提出した各計画書を履行するために岩石採取事業完了後には当該掘削跡地の整地化・植林化事業を遂行し、長期間に亘り岩石跡地埋戻・整地・植林等のための費用として多額の事業資金を必要不可欠としているところ、被告人佐藤は、漠然とではあるがその額としては一〇億円程必要であると思い、これを捻出するため被告両社の所得を一部留保して逋脱した旨主張しているが、他方で被告人佐藤は、体力に自信が持てなくなり、体力の限界を感じて、将来に備えるためにも逋脱したとして、埋戻費用捻出の目的のためだけに逋脱した訳ではない旨検察官に供述しており、果たして、被告小川石産及び被告人佐藤が当初から埋戻費用を積立する目的で逋脱したかは判然としない(なお、被告佐藤産業が埋戻費用を負担すべき謂われはないのであるから、同被告の所得隠蔽を正当化すべき事情はない。)。

仮に、当初から、被告小川石産及び被告人佐藤が埋戻費用捻出目的で所得隠しを行ったとすれば、岩石跡地埋戻・整地・植林等のための資金を費用として適正に内部留保し得る方法である砂利採取地に係る埋戻費用に関する法人税法基本通達二-二-四の通達について、税務当局が「通達の規定中の部分的字句について形式的解釈に固執し、全体の趣旨から逸脱した運用を行ったり、通達中に例示がないとか通達に規定されていないとかの理由だけで法令の規定の趣旨や社会通念等に即しない解釈に陥ったりすることのないよう留意されたい」旨の国税庁長官の昭和四四年五月一日付国税局長宛ての直審(法)二五(例規)の指示に従って、法人税法基本通達の解釈・運用を行い、被告小川石産に対して適切な助言・指導を行っておれば、右基本通達二-二-四記載の算式により算出される跡地埋戻費用相当額分については、被告小川石産においてこれを控除して殊更に所得隠しという方法で所得の過少申告をなす必要性はなくなり(平成六年三月四日付弁護士照会に対する秩父税務署長の回答書【弁一号証】及び被告人佐藤の供述によれば、秩父税務署法人税課は今後岩石採取後の跡地整地植林費用について、岩石の取得原価として費用計上と未払金計上を認める取扱となったことが認められる。なお、この点についての反証はない。)、この部分に対応する法人税逋脱の事実が否定される余地も十分あったと思料される。その意味で、被告小川石産及び被告人佐藤の情状に影響するものと言える。

また、被告両社は、本件により青色申告の取消処分を受けていること、修正申告をなしたうえ、本税並びに地方税及び延滞税を納付していること、本件で強制調査・摘発・起訴され、これらが報道されたりしたことから、被告人佐藤及び被告両社が築いて来た取引関係者間及び近隣社会での信用は失われ、それなりに社会的制裁を受けていること、被告人佐藤には前科が一〇犯あるが、昭和六〇年以降刑事裁判を受けたことはないことなど被告人佐藤にとり斟酌すべき事情もあり、これらを最大限考慮して、主文とおり、量刑した次第である。

(求刑) 被告人佐藤・懲役一年六月 被告小川石産・罰金四〇〇〇万円

被告佐藤産業・罰金五〇〇万円

(裁判官 加登屋健治)

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