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浦和地方裁判所 平成4年(行ウ)17号 判決 2000年4月24日

原告

菊池榮子

右訴訟代理人弁護士

難波幸一

被告

大宮税務署長事務承継者 行田税務署長 宮澤文雄

右指定代理人

森悦子

須藤哲右

佐藤陽比古

中村孝

吉村正志

渡邊雅行

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告に対して平成二年二月一五日付けでした次の処分を取り消す。

(一) 原告の昭和六一年分以降の所得税の青色申告の承認の取消処分

(二) 原告の昭和六一年分の所得税についての更正処分のうち、総所得金額一七九万六二三三円及び納付すべき税額一一万一〇〇〇円を超える部分並びに過少申告加算税賦課決定処分

(三) 原告の昭和六二年分の所得税についての更正処分のうち、総所得金額二三一万九三五四円及び納付すべき金額一五万七五〇〇円を超える部分並びに過少申告加算税賦課決定処分

(四) 原告の昭和六三年分の所得税についての更正処分(ただし、裁決により一部取り消された後のもの)のうち、総所得金額二〇八万八五九六円及び納付すべき税額一二万六六〇〇円を超える部分並びに過少申告加算税賦課決定処分(ただし、裁決により一部取り消された後のもの)

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、埼玉県上尾市西宮下四丁目三三九番地の九に住所を有し、同所で美容業を営み、大宮税務署長により昭和五七年分から所得税について青色申告承認を受けていた者である。原告は、平成二年一月一〇日、肩書地に転居したが、右事業所は、従来のままである。

2  大宮税務署長は、平成二年二月一五日付けで、原告の昭和六一年分以降の所得税について、所得税法(以下「法」という。)一五〇条一項一号の規定に該当する事由があるとして、原告の青色申告の承認を取り消す処分(以下「本件取消処分」という。)をした。

原告は、本件取消処分を不服として、同年三月一六日、被告に対し、異議申立てをしたが、被告は同年一〇月九日付けで、右申立てを棄却する旨の決定をし、原告は、同年一一月七日、国税不服審判所長に対し、審査請求したが、国税不服審判所長は、平成四年五月二八日、これを棄却する裁決をした。

3  原告が昭和六一年分から昭和六三年分まで(以下「本件係争年分」という。)の所得税について行った確定申告、これに対する大宮税務署長の各更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び各過少申告加算税賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」といい、本件更正処分と合わせて「本件更正処分等」という。)、異議申立てとこれに対する被告の決定、審査請求とこれに対する国税不服審判所長の裁決の経緯は、別表一1ないし3のとおりである。

4  しかしながら、本件取消処分及び本件更正処分等(ただし、昭和六三年分については、裁決により一部取り消された部分を除く。以下同じ。)は、いずれも違法である。

5  よって、原告は、被告に対し、大宮税務署長がした本件取消処分及び本件更正処分等の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1ないし3は、認める。

2  請求原因4は、争う。

三  被告の主張

1  本件取消処分の適法性

青色申告の承認を受けた納税者は、所得税法施行令規則(以下「規則」という。)五六条ないし六四条に定める帳簿書類を備付け、記録、保存すべき義務を負い(法一四八条一項)、右義務を履行しない場合は、右承認は、取り消されるものとされている(法一五〇条一項一号)ところ、青色申告の制度は、納税者が自ら所得金額及び税額を計算し自主的に申告して納税する申告納税制度のもとにおいて、適正課税を実現するために不可欠な帳簿の正確な記帳を推進する目的で設けられたものであるから、法一四八条一項所定の保存の義務とは、青色申告の基礎としての適格性を有する帳簿書類の保存をすべきことをいうものであって、税務職員が法二三四条に基づいて質問検査権を行使した場合、帳簿書類が青色申告の基礎として適格性を有するものか否かを判断することができるように、いつでも提示できる状態で保存し、税務職員が帳簿書類の提示を求めた場合には、これに応じる義務をも当然に包含する。よって、納税者が、税務職員による帳簿書類の具体的な提示要求に対して、正当な理由なくこれを拒否することは、法一五〇条一項一号に定める青色申告の承認の取消事由に該当する。

大宮税務署係官倉部信(以下「倉部係官」という。)は、原告から調査に関する対応をまかされていた原告の夫である菊池勝久(以下「勝久」という。)に対し、帳簿書類の提示を求めたが、勝久は、大宮税務署係官齋藤明人(以下「齋藤係官」という。)が、原告の事業所内に掲示してある美容料金の価格表(以下「本件価格表」という。)の一部を書き写したことについて謝罪すること及び調査に第三者の立会いを認めることを要求し、右謝罪及び第三者の立会いが認められなければ、調査を拒否する態度を示したため、倉部係官は、本件価格表を一部書き写すことは調査の範囲内であり謝罪すべきものではないこと及び守秘義務との関係より帳簿書類の作成に関係のない第三者を調査に立会わせることは認められないことをそれぞれ説明し、帳簿書類を提示するよう重ねて説得したにもかかわらず、勝久は、謝罪及び第三者の立会いがなければ帳簿書類を提示しないとして、調査を拒否し、さらに、倉部係官及び大宮税務署統括国税調査官亀井栄(以下「亀井統括官」という。)が、帳簿書類を確認できず、調査に協力できないのであれば、青色申告の承認の取消し等を行うことを告げた上で、再度調査に協力するよう説得したが、勝久は、第三者の立会いを認めなければ調査に協力することはできないとして、帳簿書類の提示を拒否し続けた。

よって、本件においては、倉部係官及び亀井統括官が、本件係争年分の帳簿書類を調査すべく、社会通念上相当な程度の努力を払ったにもかかわらず、勝久は、正当な理由なく右調査に協力せず、帳簿書類の提示を拒否し続けたのであり、右行為は法一五〇条一項一号に規定する青色申告の承認の取消事由に該当するから、本件取消処分は、適法である。

2  本件更正処分の適法性

(一) 被告は、原告の事業所所在地を所轄する上尾税務署管内に住所及び事業所を有する個人の青色申告者で、かつ、原告と同様美容業を営む事業者(以下「比準同業者」という。)の収入金額に対する売上原価の額の割合(以下「売上原価率」という。)の平均値及び収入金額に対する所得金額の割合(以下「所得率」という。)の平均値を用いて、原告の事業所得金額を推計により算定しているが、本件においては、次のとおり、推計による算定方法を採用する必要性及び合理性が存した。

(1) 推計の必要性

申告納税制度の下における納税者は、税法の定めるところに従って正しい申告を行う義務を負うとともに、その申告内容を確認するための税務調査(質問検査権の行使)に対しては、所得金額の計算の基となる経済取引の実態をもっともよく知っている者として、その所得金額を算定するに足りる直接資料を提示し、その申告が正しいことを税務職員に説明する義務を負っているにもかかわらず、納税者が帳簿書類の備付けをしない場合や税務調査に際し、帳簿書類の提出を拒む場合、国が課税を放棄することは、正しい申告をしている誠実な納税者に比較して、租税負担の衡平を欠き、到底許されないため、法一五六条は、このような場合等に各種の間接資料に基づく推計の方法により、課税額を更正、決定し得ることを定めている。本件では、前記のとおり、倉部係官が本件係争年分の帳簿書類を調査すべく、社会通念上相当な努力を払って、勝久に対し、帳簿書類を提示するよう説得したにもかかわらず、勝久は、第三者の立会いが認められないこと等を理由に、倉部係官に帳簿書類を提示せず、右調査に協力しなかったのであり、このような状況において、大宮税務署長が、原告の収入、仕入、経費の具体的な数字を把握し、収支計算に基づく実額により原告の所得金額を算出する事は不可能であったから、本件更正処分をするに当たって推計の必要性が存在した。

(2) 推計の合理性

推計課税は、帳簿書類が不備であったり、納税者が税務調査に非協力的で帳簿書類の提示が拒否されるなどの理由から、実額課税が困難な場合、税負担公平の観点から、実額課税の代替的手段として、合理的な推計方法で課税標準を算定することを許容した実体法上の制度であり、課税庁の採用した推計方法に実額課税の代替手段にふさわしい一応の合理性が認められれば、推計課税は適法要件を満たす。本件では、次のとおり、美容業の所得(顔用化粧品の販売以外のもの)及び顔用化粧品の販売の所得のいずれについても、その所得金額を算出した方法に合理性がある。

ア 美容業の所得(顔用化粧品の販売以外のもの)について

被告は、原告の本件係争年分の美容業に係る所得金額の算定に当たり、原告の売上原価の額を推計の基礎として、これを比準同業者の売上原価率の平均値で除して収入金額を算出した上、右収入金額に右比準同業者の所得率の平均値を乗じて算出する方法を採用した。

被告は、右比準同業者については、原告の事業所所在地を管轄する上尾税務署管内(鴻巣市、上尾市、桶川市、北本市及び北足立郡)に住所地を有し、かつ、同署管内において、原告と同様美容業を営む個人事業者のうち、本件係争年分ごとにつき、次の<1>ないし<6>のいずれにも該当する者を機械的に抽出した(以下、これらの抽出基準を「本件抽出基準」という。)。

<1> 一年を通じて美容業を継続して営んでいた者

<2> 青色申告の承認を受け、青色申告決算書を提出していた者

<3> 右決算書上の売上原価の額が、次のとおり、原告の売上原価の額の二分の一以上、かつ、二倍以下の範囲内であった者

昭和六一年分 九六万二九〇九円以上三八五万一六三四円以下

昭和六二年分 一三八万五六六一円以上五五四万二六四二円以下

昭和六三年分 一五六万七二七八円以上六二六万九一一〇円以下

<4> 給料賃金の支払があり、かつ、専従者給与の支払があった者

<5> 災害等により、経営状態が異常であると認められた者以外の者

<6> 税務署長から更正又は決定処分を受け、これに対して不服申立て等係争中でない者

以上の基準に従って抽出された比準同業者(以下「本件比準同業者」という。)の収入金額、売上原価、いわゆる青色申告の特典控除前の所得金額、売上原価率及び所得率は別表二1ないし3のとおりである。

被告は、本件抽出基準を満たす者を機械的に抽出して本件比準同業者を選出しているので、そこに恣意が介在する余地はなく、また、本件比準同業者は、いずれも原告と業種及び事業規模が類似している者であるから、本件比準同業者の売上原価率及び所得率の平均値を適用して原告の美容業の所得金額を算出した方法には合理性がある。

イ 顔用化粧品の所得について

顔用化粧品「セブン・ツー・セブン」(以下「本件化粧品」という。)の売上原価率については、本件化粧品の各特約店である美容院等においては、小売価格を値引きすることはほとんどなく、売上原価率を七〇パーセントとして同商標の各商品が販売されていることから、原告も右同様に右各商品を販売しているとして、売上原価率を七〇パーセントと定めて本件化粧品の販売にかかる所得金額を算定したものであり、右算定方法には、合理性がある。なお、本件化粧品の販売は、原告の事業所において行われていることが認められたことから、右販売に係る諸経費は、試供品を除き、美容業に伴う経費の中に既に含まれているものとして算定した。

(二) 本件更正処分

原告の本件係争年分の所得は、事業所得だけである。なお、原告は、昭和六二年以降、「いしい」から本件化粧品を仕入れ、美容業とともに、右顔用化粧品の店頭販売を始めたものであることより、昭和六二年分及び昭和六三年分については、美容業に係る所得と本件化粧品の販売に係る所得を区分して所得金額を算定した。

(1) 昭和六一年分

ア 総収入金額 一六一一万五六二三円

右金額は、次のイの売上原価の額を、本件比準同業者の売上原価率の平均値である一一・九五パーセント(別表二1参照)で除して算出した金額である。

イ 売上原価の額 一九二万五八一七円

右金額は、次の<1>の額に<2>の額を加算し、<3>の額を減算した金額であり、原告の確定申告に係る額と同額である。

<1> 仕入金額 一八七万三九六〇円

右金額は、原告の仕入金額の合計額である。

<2> 期首棚卸額 三一万五七二八円

右金額は、昭和六〇年一二月三一日現在における棚卸額である。

<3> 期末棚卸額 二六万三八七一円

右金額は、昭和六一年一二月三一日現在における棚卸額である。

ウ 事業専従者控除額控除前の事業所得の金額 五八五万八〇二八円

右金額は、アの額に、本件比準同業者の所得率の平均値である三六・三五パーセント(別表二1参照)を乗じて算出したものである。

エ 事業専従者控除額 四五万円

右金額は、勝久に係る法五七条三項(昭和六二年法律第九六号による改正前のもの)に規定する事業専従者控除額である。

オ 事業所得の金額 五四〇万八〇二八円

右金額は、ウの額からエの額を差し引いた金額である。

(2) 昭和六二年分

ア 総収入金額 二五一九万九八三〇円

右金額は、次の<1>の額と<2>の額の合計額である。

<1> 美容業に係る収入金額 二三〇一万七六一六円

右金額は、次のイ<1>の売上原価の額を、本件比準同業者の売上原価率の平均値である一二・〇四パーセント(別表二2参照)で除して算出した金額である。

<2> 本件化粧品の販売に係る収入金額 二一八万二二一四円

右金額は、次のイ<2>の売上原価の額を本件化粧品を販売する事業者の売上原価率七〇パーセントで除して算出したものである。

イ 売上原価の額 四二九万八八七一円

右金額は、次の<1>の額と<2>の額の合計額である。

<1> 美容業に係る売上原価の額 二七七万一三二一円

右金額は、次の(ア)の額に(イ)の額を加算し、(ウ)の額を減算した金額であり、原告の確定申告に係る額と同額である。

(ア) 仕入金額 二八五万四九九〇円

右金額は、原告の仕入金額の合計であり、原告の確定申告に係る仕入金額から、次の<2>(ア)の本件化粧品の仕入れ金額を差し引いた金額である。

(イ) 期首棚卸額 二六万三八七一円

右金額は、昭和六一年一二月三一日現在における棚卸額である。

(ウ) 期末棚卸額 三四万七五四〇円

右金額は、昭和六二年一二月三一日現在における棚卸額であり、原告の確定申告に係る期末棚卸額から、次の<2>(ウ)の本件化粧品の期末棚卸額を差し引いた金額である。

<2> 顔用化粧品の販売に係る売上原価の額 一五二万七五五〇円

右金額は、原告が、「いしい」から仕入れた本件化粧品の売上原価の額であり、次の(ア)の額に(イ)の額を加算し、(ウ)の額を減算した金額である。

(ア) 仕入金額 一九四万三一四〇円

右金額は、本件化粧品の仕入金額二三二万八二一〇円のうち、試供品に係る購入額三八万五〇七〇円を差し引いた金額である。

(イ) 期首棚卸額 〇円

原告が、本件化粧品の店頭販売を始めたのは、昭和六二年四月からであるから、期首棚卸額はない。

(ウ) 期末棚卸額 四一万五五九〇円

右金額は、昭和六二年一二月三一日現在における棚卸額である。

ウ 事業専従者控除額控除前の事業所得の金額 八〇〇万三五一二円

右金額は、次の<1>の額と<2>の額の合計額である。

<1> 美容業に係る所得金額 七七三万三九一八円

右金額は、ア<1>の額に、本件比準同業者の所得率の平均値である三三・六パーセント(別表二2参照)を乗じて算出したものである。

<2> 本件化粧品の販売に係る所得金額 二六万九五九四円

右金額は、ア<2>の額から、イ<2>の金額及び本件化粧品の販売に係る経費の金額三八万五〇七〇円を差し引いた金額である。なお、本件化粧品の販売に係る経費の金額は、原告が試供品として購入した本件化粧品の額であり、販売に係る一般経費と認められるものである。

エ 事業専従者控除額 六〇万円

右金額は、勝久に係る法五七条三項(昭和六三年法律第一〇九号による改正前のもの)に規定する事業専従者控除額である。

オ 事業所得の金額 七四〇万三五一二円

右金額は、ウの額からエの額を控除した金額である。

(3) 昭和六三年分

ア 総収入金額 三一〇四万五六八〇円

右金額は、次の<1>の額と<2>の額の合計額である。

<1> 美容業に係る収入金額 二四一三万〇五二三円

右金額は、次のイ<1>の売上原価の額を、本件比準同業者の売上原価率の平均値である一二・九九パーセント(別表二3参照)で除して算出した金額である。

<2> 本件化粧品の販売に係る収入金額 六九一万五一五七円

右金額は、次のイ<2>の売上原価の額を本件化粧品を販売する事業者の売上原価率七〇パーセントで除して算出したものである。

イ 売上原価の額 七九七万五一六五円

右金額は、次の<1>の額と<2>の額の合計額である。

<1> 美容業に係る売上原価の額 三一三万四五五五円

右金額は、次の(ア)の額に(イ)の額を加算し、(ウ)の額を減算した金額であり、原告の確定申告に係る額と同額である。

(ア) 仕入金額 三一一万三四七〇円

右金額は、原告の仕入金額の合計であり、原告の確定申告に係る仕入金額から、次の<2>(ア)の顔用化粧品の仕入れ金額を差し引いた金額である。

(イ) 期首棚卸額 三四万七五四〇円

右金額は、昭和六二年一二月三一日現在における棚卸額である。

(ウ) 期末棚卸額 三二万六四五五円

右金額は、昭和六三年一二月三一日現在における棚卸額であり、原告の確定申告に係る期末棚卸額から、次の<2>(ウ)の本件化粧品の期末棚卸額を差し引いた金額である。

<2> 顔用化粧品の販売に係る売上原価の額 四八四万〇六一〇円

右金額は、原告が、「いしい」から仕入れた本件化粧品の売上原価の額であり、次の(ア)の額に(イ)の額を加算し、(ウ)の額を減算した金額である。

(ア) 仕入金額 四九六万五四五〇円

右金額は、本件化粧品の仕入金額五五一万〇四八〇円のうち、試供品に係る購入額五四万五〇三〇円を差し引いた金額である。

(イ) 期首棚卸額 四一万五五九〇円

右金額は、昭和六二年一二月三一日現在における棚卸額である。

(ウ) 期末棚卸額 五四万〇四三〇円

右金額は、昭和六三年一二月三一日現在における棚卸額である。

ウ 事業専従者控除額控除前の事業所得の金額 八三四万一五六三円

右金額は、次の<1>の額と<2>の額の合計額である。

<1> 美容業に係る所得金額 六八一万二〇四六円

右金額は、ア<1>の額に、本件比準同業者の所得率の平均値である二八・二三パーセント(別表二3参照)を乗じて算出したものである。

<2> 本件化粧品の販売に係る所得金額 一五二万九五一七円

右金額は、ア<2>の額から、イ<2>の金額及び本件化粧品の販売に係る経費の金額五四万五〇三〇円を差し引いた金額である。なお、本件化粧品の販売に係る経費の金額は、原告が試供品として購入した本件化粧品の額であり、販売に係る一般経費と認められるものである。

エ 事業専従者控除額 六〇万円

右金額は、勝久に係る法五七条三項(昭和六三年法律第一〇九号による改正前のもの)に規定する事業専従者控除額である。

オ 事業所得の金額 七七四万一五六三円

右金額は、ウの額からエの額を控除した金額である。

(4) 本件更正処分に係る原告の事業所得の金額は、昭和六一年分は、三一二万六二三三円、昭和六二年分は、五三三万六一八六円、昭和六三年分は、六九七万四八一六円であるところ、右金額は、いずれも前記右(1)オ、(2)オ、(3)オの金額の範囲内であるから、本件更正処分は、適法である。

3  本件賦課決定処分の適法性

原告は、本件係争年分に係る総所得金額をいずれも過少に申告していたものであり、過少に申告したことについて、国税通則法(以下「通則法」という。)六五条四項に定める正当な理由も存しないから、被告は、本件更正処分により原告が納付することになる本件係争年分の所得税(通則法一一八条三項の規定により一万円未満の端数を切捨てた後の金額)を基礎として、通則法六五条一項(ただし、昭和六一年分については昭和六二年法律第九六号による改正前のもの)及び二項の規定に基づき、過少申告加算税として、昭和六一年分を九五〇〇円、昭和六二年分を五万三〇〇〇円、昭和六三年分を九万六五〇〇円とそれぞれ賦課決定したもの(昭和六三年分については、裁決により一部取り消された後の金額)であり、本件賦課決定処分は、いずれも適法である。

四  被告の主張に対する認否

1  被告の主張1のうち、倉部係官が、勝久に対し、本件調査の際、帳簿書類の提示を求めたこと、調査の際、齋藤係官が本件価格表の一部を書き写したこと、勝久が、倉部係官に対し、調査に第三者の立会いを認めるよう求めたこと、倉部係官が、勝久に対し、本件価格表の一部を書き写したことは謝罪の対象にはならないこと及び調査に第三者の立会いは認められないことを告げたこと、帳簿書類の調査が実施されなかったことは、認め、その余は、否認ないし争う。

2  被告の主張2(一)は、争い、(二)のうち、(1)イ、(2)イ、(3)イは、認め、その余は、否認ないし争う。

3  被告の主張3は、争う。

五  被告の主張に対する原告の反論

1  本件取消処分について

(一) 帳簿書類の備付け、記録、保存がないことと、これらが存在しているのにその提出がないことは、概念的に全く異なるから、法一五〇条一項一号の取消事由に、帳簿書類の提示を拒否した場合も含むと解釈することは、不当であり、右解釈を前提とする被告の主張は失当である。

(二) 仮に、法一五〇条一項一号の取消事由に、帳簿書類の提示を拒否した場合が含まれるとしても、原告は、本件係争年分の帳簿書類の備付け、記録、保存を行い、調査の際も、いつでも帳簿書類を閲覧することができるように準備していたから、倉部係官が、原告が帳簿書類を備付け、記録、保存を正しく行っているかどうかを確認することは十分可能な状態であったし、勝久は、調査の際、倉部係官に対し、帳簿書類を準備し、調査に協力することを明らかにした上で、齋藤係官が原告に無断で本件価格表を書き写したという違法な調査に対する謝罪を求め、また、税法や簿記等について知識が乏しく、税務調査への対応の知識や経験がないことから、勝久が所属している上尾民主商工会の森幸一事務局長(以下「森事務局長」という。)及び後藤武会員(以下「後藤会員」という。)両名の立会いを認めるよう求めたにもかかわらず、倉部係官は、右違法な調査に対する謝罪をせず、第三者の立会いがあることを理由に帳簿書類の検査をしなかったのであるから、原告が、倉部係官に帳簿書類等を提示しなかったことには、正当な理由がある。

よって、原告には、一五〇条一項一号の事由が存しないから、本件取消処分は、処分理由を欠き違法である。

2  本件更正処分について

(一) 手続上の違法

被告の税務職員は、本件更正処分に先立つ税務調査において、具体的な調査理由を開示せず、無断で原告事業所内に掲示してある本件価格表を書き写したのであり、本件更正処分に至る手続には違法がある。

(二) 推計の必要性の不存在

前記のとおり、原告は、帳簿書類を準備し、いつでも閲覧調査することができる状態に置いていたのであるから、被告が本件係争年分の所得税の算出を推計によって行う必要性はない。

(三) 推計の合理性の不存在

(1) 被告は、原告の本件係争年分の美容業に係る所得金額の算定において、原告の売上原価の額を推計の基礎として、これを本件比準同業者の売上原価率の平均値で除して収入金額を算定した上、右収入金額に本件比準同業者の所得率の平均値を乗じて所得金額を算出しているが、右算出方法は、収入金額及び所得金額の各段階で二重に推計が行われており違法である。

(2) 被告は、原告の事業所得を算出するために別表二1ないし3のとおり本件比準同業者を算出したが、本件比準同業者は、氏名の記載がなく、その実在性や収入金額等の正確性について確認することができず、推計の合理性の有無を判断できないから、このようにして算出された事業所得金額に基づく本件更正処分は、違法である。

(3) いわゆる倍半基準は、収入金額が原告の収入金額の二分の一以上、かつ、二倍以下の範囲内であった者を比準同業者としなければならないところ、被告は、本件抽出基準の一つに「売上原価の額が原告の売上原価の二分の一以上、かつ、二倍以下の範囲内であった者」という条件を設けたため、本件比準同業者の中に、収入金額が原告の収入金額の二分の一以上、かつ、二倍以下の範囲内ではない者が含まれており、推計の合理性を欠くので、これを前提とする本件更正処分は、違法である。

(四) 実額反証

原告の本件係争年分の収入金額、必要経費及び所得金額は、別表三のとおりであり、原告の実際の事業所得金額は、昭和六一年分が一九二万二四七六円、昭和六二年分が三一九万〇〇六四円、昭和六三年分が二一五万四九二一円であるところ、本件更正処分に係る事業所得金額は、これらをいずれも上回っているので、推計に基づく本件更正処分のうち、右各金額を上回る部分は、違法である。

六  原告の反論に対する再反論

1  本件取消処分について

税務職員が法二三四条一項各号規定の者に対し、質問し、帳簿書類の検査を実施する場合の範囲、程度、時期、場所等実定法上、特段の定めのない実施の細目については、質問検査の必要があり、かつ、これと相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な程度にとどまるかぎり、権限ある税務職員の合理的な選択に委ねられているものと解すべきであるところ、本件の場合、倉部係官は、質問検査を行う際は、原告の取引先の営業上の秘密に関する事項にも調査が及ぶことがあり、帳簿書類の作成に直接関与していない第三者の立会人を認めた場合には、税務職員に課せられた守秘義務に違反するおそれがあることから、第三者の立会いを認めなかったものであり、右判断は合理的な選択の範囲を逸脱したものではない。また、法二三四条一項は、国税庁、国税局または税務署の調査権限を有する職員において、当該調査の目的、調査すべき事項、申告の体裁内容、帳簿等の記載保存状況、相手方の事業の形態等諸般の事情にかんがみ、客観的な必要性があると判断される場合には、職権調査の一方法として、同条一項各号所定の者に対し、質問し、またはその事業に関する帳簿、書類その他当該調査事項に関する物件の検査を行う権限を認めた趣旨であって、この場合の質問検査の範囲、程度、時期、場所等実定法上特段の定めのない実施の細目については、質問検査の必要があり、これと相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な程度にとどまる限り、権限ある税務職員の選択に委ねられている。齋藤係官が一部書き写した本件価格表は、原告の事業所である店舗内の壁に、不特定多数の者に見えるよう掲示してあったものであるから、齋藤係官が本件価格表を書き写したことは、原告の権利侵害には当たらないし、勝久の求めに応じて直ちにこれを中止しているから、齋藤係官の行為は、社会通念上相当な程度にとどまるものであり、違法ではない。

よって、第三者の立会いが認められなかったこと及び本件価格表を書き写したことについて謝罪がなかったことは、帳簿書類の提示を拒否した正当な理由に当たるとする原告の主張は、失当である。

2  推計の合理性について

本件比準同業者は、関東信越国税局長が上尾税務署長に対し、一定の抽出要件を示して、その要件のすべてに該当する者の報告を求め、右抽出要件に該当する者として、その事業所得の金額等の報告を受けたものであるが、比準同業者の氏名等を明らかにしていないのは、第三者たる比準同業者の収入金額、所得金額等の申告内容を明らかにすることが法二四三条及び国家公務員法一〇〇条に規定する守秘義務に抵触し、また、当該同業者に不測の迷惑をかけ、その後の資料提出等の協力が得られなくなる等円滑な税務行政が阻害されるおそれがあるためである。

また、被告は、原告の本件係争年分の美容業に係る所得金額の算定にあたり、比準同業者と原告との事業規模の類似性を、売上原価に倍半基準を適用することによって追求したものであり、原告の売上原価から推計した収入金額により事業規模の類似性を追求したものではない。倍半基準とは、推計課税の基礎となる収入金額や仕入金額の多寡が当該納税者の事業規模を推測する蓋然性の高い価値尺度たり得るという経験則を前提とするものであるから、これにより提出された比準同業者数の合理性及びこれにより得られた売上原価率や所得率の内容の合理性が認められるならば、同業者の類似性を十分担保することができ、また倍半の基準自体絶対的でなく、おおむねその範囲内にあるものを選定すれば、納税者と選定した同業者との規模の類似性が確保され、推計の合理性も十分に維持されるものである。

3  実額反証について

(一) 総収入金額について

(1) 現金出納帳の信ぴょう性について

本来会計帳簿は、事業所得等の金額が正確に計算することができるように、整然かつ明瞭に記録・保存すべきものであり、現金出納帳については、現金取引の年月日、事由、出納先、金額及び日々の残高を記載しなければならないにもかかわらず、原告は、本件係争年分の現金出納帳において、現金残高を日々記載しておらず、記載の正確性に欠ける。本来、現金出納帳の現金の残高が赤字になることはあり得ないにもかかわらず、昭和六三年三月一八日末現在の現金残高は、赤字になっており、このことは、現金出納帳がすべての収入及び支出が日々継続して記載しているものとはいえないことを示している。また、後記のとおり、勝久は、昭和六二年分の現金出納帳を改ざんしている。

よって、現金出納帳は、現金出納帳としての正確性を有しないので、右現金出納帳の記載は、被告が行った推計課税を排斥するものとして完全なものとはいえない。

(2) レジペーパーについて

通常、レジスターには、顧客ごとの収入金額の明細を打ち込み、それをレジペーパーに打ち出し、その日の支出及びレジスター内の現金残高と照合して、レジの打ち忘れ及び打ち間違えがなかったかどうかを確認し、帳簿に記載するものであるが、原告のように、現金売上が大部分を占める事業者においては、一日の収入金額の合計額を後日レジスターに打ち直すことによって過少に計上する例が少なくないことが経験則上明らかであり、収入金額の正確性の確認には、顧客ごとの収入明細が記録されたレジペーパーとの照合が必要である。しかし、原告は、顧客ごとの収入明細を打ち出したレジペーパーを提出せずに、一日の合計額だけが記載されたレジペーパーのみを提出しているので、原告の収入金額に係る記載の数値が、実額と合致するか否か、その正確性を確認できず、かかるレジペーパーは、収入金額の正確性担保の証左足り得ない。

(3) 昭和六二年分の収入金額

勝久は、車を購入するにあたり、弟から借り入れた借金六五万円及び利息五万円を捻出するため、昭和六二年分の売上の中から前年に比べて売上が増加している月から、日々適当な金額を差し引いて、同年で合計七〇万円を売上から差し引くこととし、帳簿上の金額を合わせるために同年分の現金出納帳及び売上品目集計表を改ざんした。

(4) 以上より、原告が主張する収入金額の証拠として提出されている現金出納帳、売上品目集計表及びレジペーパーは、収入金額の正確性の担保が全くなく、原告の主張する収入金額以外にも収入がある疑いを払拭することができず、被告の行った推計課税を排斥するものとしては、完全ではなく、原告の実額反証は失当である。

(二) 必要経費

(1) 公租公課

原告は、租税公課の額について、別表三の<7>の欄の各金額であると主張し、領収証等を提出するが、右領収証等の金額を合計しても、原告が主張する金額と一致しない。

(2) 交際費及び福利厚生費

原告が提出した領収証等の中には飲食代金に係るものが多く含まれているが、これらと事業との関連性を認めることができず、人数等から見て、家事費及び家事関連費が混入している疑いがある。

(3) 減価償却費

ア 原告は、木造モルタル建物店舗に係る減価償却費の取得価額に関する証拠として、土地付き建物売買契約書を提出しているところ、右契約書によると店舗併用の土地付き建物を総額一六三七万円で取得しており、原告は、そのうち購入額の二分の一である八一八万五〇〇〇円を店舗の取得価額として減価償却費の計算をしているが、右契約は土地付き建物売買契約であるから、当然、土地相当分は減価償却の対象とならないものであり、全体を建物店舗の取得価格として計算している原告の主張は失当である。

イ 原告は、セットイスの取得価額を三三万六〇〇〇円、シャンプーイスの取得価額を二一万四〇〇〇円として減価償却の計算をしているが、セットイス及びシャンプーイス購入の際の値引額合計五万七六〇〇円を取得価額から控除すべきであるにもかかわらず、これがされておらず、原告の主張は失当である。

ウ 原告は、エアコンの取得価額を六五万円、太陽熱温水器の取得価額を六三万一六〇〇円として減価償却費の計算をしているが、本来取得価額に算入されないはずの分割手数料がエアコンの取得価額に一二万円、太陽熱温水器の取得価額に二三万一六七二円算入されており、算定が誤っている。

(4) 原告が提出した領収証等には、勝久のメモ書きが多く含まれているが、通常、現金で支払をすれば、相手方が記載した領収証等を受け取り保存すべきであるが、右メモ書きは勝久が自筆で記載したものであり、原告の現金出納帳に信ぴょう性がないことからも、これらのメモ書きの支払の事実についても信ぴょう性があるとは到底認められない。

(5) 以上より、原告が提出する資料から、本件係争年分の所得金額を実額で把握することは不可能であり、その実額反証の立証の程度としても、合理的な疑いを容れない程度とはほど遠いものであるから、原告がした実額反証の主張は失当である。

第三証拠

本件訴訟記録中における書証記録及び証人等記録に記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

一  請求原因1ないし3は、当事者間に争いがない。

二  右当事者間に争いのない事実、証拠(認定事実に記載のとおり。)及び弁論の全趣旨によると次の事実が認められる。

1  原告は、昭和五六年五月二三日から、当時の住所地である埼玉県上尾市西宮下四丁目三三九番地の九において美容業を開業し、昭和五七年三月一三日、大宮税務署長に対し、同年分以降の所得税の申告書を青色申告により行う旨の所得税の青色申告の承認申請書を提出し、同年一二月三一日、右申請は、承認された。原告は、平成二年一月一〇日、住所地を埼玉県行田市持田二五二四番地九へ移動したが、事業所はそのままであった。

原告及びその夫である勝久は、いずれも美容師の資格があり、業務に携わっていたが、原告の事業に関する経理は、勝久がすべて行っていた(証人勝久の供述)。

2  原告は、本件係争年分の所得税について、青色申告による計算に基づき、別表一1ないし3の確定申告欄記載のとおり各確定申告をしたが、右確定申告書を審理した大宮税務署長は、原告の申告所得金額が、他の同業者と比較して過少と認められたこと、原告の本件係争年分の売上原価が前年に比して急激に増加しているにもかかわらず、差益金額は三年間分でほぼ同額で不自然であったこと及び原告の所得税の調査が長期間行われていなかったこと等から、本件係争年分の所得税について調査の必要があると認め、亀井統括官は、倉部係官に対し、原告の所得税の調査を命じた(乙第一一号証)。

3  倉部係官は、平成元年九月一三日午前一〇時ころ、所得税調査のため、齋藤係官とともに原告の事業所に臨んだ。

倉部係官及び齋藤係官は、原告に対し、身分証明書を提示して、それぞれ氏名を名乗ったところ、原告は、すぐに勝久を呼び、同人らに倉部係官らとの対応を委ねた。

倉部係官は、勝久に対し、身分証明書を提示するとともに、小声で本件係争年分の所得金額の確認のために臨場したことを告げ、帳簿書類の提示を求め、事業の概況について質問した。これに対し、勝久は、帳簿書類は美容院開業以来保存していること、レジペーパーについても保存していること、コールド液等の美容材料の仕入先は一社であること、販売用の化粧品の仕入先も一社であること等を答え、原告の事業所が営業中で客の出入りがあるので日を改めて臨場するよう申し入れたので、倉部係官は、これ以上の調査を行うのは困難であると判断し、美容業者の休日が毎週火曜日であることより、次回調査日としては、いつの火曜日が都合が良いのか尋ねたところ、勝久は、すぐには決められない様子であったため、倉部係官は、税務署に帰署した後、改めて電話で次回調査日を決める旨勝久に告げて、原告事業所を辞去した。

なお、齋藤係官は、倉部係官と勝久との間における右やりとりの間、原告の事業所である店舗内の壁に掲示されていた本件価格表の一部を書き写したが、勝久から中止するよう申入れがあったので、齋藤係官は、直ちにこれを中止した。

倉部係官は、大宮税務署に戻り、同日午前一一時ころ、原告の事業所に電話し、勝久と次回調査日について打合せの上、原告の都合により、次回調査日を一か月以上先である同年一〇月二四日火曜日午前一〇時と決定した(乙第一一号証、証人倉部信の供述)。

4  倉部係官が、平成元年一〇月二四日午前一〇時、大宮税務署係員小島吉博(以下「小島係官」という。)とともに原告の事業所に臨場した際、勝久は、事業所内のテーブルが置かれている場所に倉部係官及び小島係官を案内したが、そこには、森事務局長と後藤会員が待機しており、倉部係官及び小島係官が、勝久に身分証明書を提示すると、勝久は、小島係官の身分証明書の内容を書き写し、倉部係官が、原告の所在を尋ねたところ、勝久は、原告はこれから外出予定であり、経理は自分がすべて行っており、原告は経理のことについて把握していないので、原告に代わって応対すると申し出、倉部係官に対し、原告の事業所に臨場した目的を質した。倉部係官は、前回の臨場の際と同様、本件係争年分の所得金額の計算が正しく行われているかどうかを確認するために臨場したことを再度説明し、帳簿書類の提示を求めたが、勝久は、右調査に納得できない旨返答した。

また、倉部係官が、森事務局長らに対し、氏名及び原告との関係等を確認したところ、森事務局長は、「森」と名乗り、もう一人は、「友達」と答えるのみで名乗ることはなかったため、倉部係官が、勝久に対し、所得税調査を進めていく上で、原告やその取引先の秘密に関する話しに触れざるを得ないので、守秘義務が課せられている公務員として、調査に関係のない第三者が立ち会っている場では、調査を進めることはできないことを説明し、調査に関係のない第三者に退席してもらうことを求めたが、勝久は、これを拒否し、倉部係官が、勝久に帳簿書類を第三者のいないところで提示するよう求めたが、勝久は、前回、倉部係官及び齋藤係官が、原告の事業所に臨場した際、齋藤係官が原告の事業所に掲示されていた本件価格表を書き写したことについて抗議し、その謝罪と書き写したメモの返還を要求してこれに応じず、倉部係官が、齋藤係官の右行為は、調査の範囲内であることを繰り返し説明したが、勝久は、齋藤係官の右行為について抗議し、これに対する謝罪及びメモの返還を繰り返して要求した。

なお、この日、テーブルの隅の方には、帳簿書類のような書類が置かれていたが、勝久は、倉部係官に、右書類が何であるかということについて具体的な説明をしなかったため、倉部係官は、右書類の内容を把握することはできなかった。倉部係官が、勝久に対して、帳簿書類を提示する意思があるかどうか確認したところ、勝久は、帳簿書類を提示する用意はある等と言いながら、テーブルの隅にあった書類を手にとって、めくる等していたが、これを倉部係官に提示しようとはしなかった。

森事務局長が、調査理由を説明するよう求めたため、倉部係官は、調査理由は、所得金額の確認であり、売上の増加分と材料費の増加分が同じであることに疑問があること、昭和六一年までの仕入と売上の比率が、昭和六二年及び昭和六三年のそれと極端に違うことを説明し、再度、帳簿書類の提示を求めたところ、勝久は、材料を高いものに変えた、化粧品分野での売上が上がった等説明し、帳簿類を見せてもよいという趣旨の話をしたが、森事務局長から、もし調査をするなら、今日一日かかるという話を聞くと、今から用事があるから、調査は、次回にしてほしいと返答し、倉部係官の要請には応じなかった。

このように、倉部係官は、勝久には、実際に帳簿書類を提示する様子がうかがえなかったことから、勝久には調査に応じる意思がなく、これ以上調査の進展を図ることは困難であると判断し、次回の調査期日は、後で電話で打ち合わせることとして、同日午前一一時四〇分ころ原告の事業所を立ち去った。

5  倉部係官は、平成元年一〇月二四日午後三時三〇分ころ、原告宅に電話をし、勝久に対し、改めて第三者のいないところで調査に協力するように要請したが、勝久は、齋藤係官が本件価格表の一部を書き写したこと及び倉部係官らが同年九月一三日、事前に連絡をすることもなく、原告の事業所に臨場したことに対して抗議を繰り返したため、倉部係官は、再度、勝久に対し、本件価格表を書き写すことは、調査の範囲内であることを説明し、次回の調査期日について相談を申し出たが、勝久は、これに取り合わず、上司に相談した上で、説明するよう求めるのみであったので、倉部係官は、上司と相談した上で、改めて電話をすると伝え、いったん電話を切った。

倉部係官は、上司である亀井統括官に勝久との会話の内容を報告し、指示を仰いだところ、亀井統括官は、倉部係官に対し、齋藤係官が本件価格表を書き写したことは、調査の範囲内の行為であるし、事前に通知をしないで臨場することがあることを説明し、このまま調査を拒否すれば、青色申告の承認の取消しや独自の調査に基づく推計課税を行うことがあることを勝久に説明するよう指示した。

倉部係官は、原告宅に再度電話し、対応に出た勝久に対し、亀井統括官から指示されたとおり、齋藤係官が本件価格表を書き写したことは、調査の範囲内の行為であり、事前に通知をしないで調査のために臨場することがあることを説明し、このまま調査を拒否すれば、青色申告の承認の取消しや独自の調査に基づく推計課税を行うことがあることを説明したが、勝久は、倉部係官の説明に納得せず、さらに齋藤係官の謝罪を要求し、上司に電話を替わるよう求めたため、倉部係官は、亀井統括官に電話を替わり、亀井統括官は、勝久に対し、倉部係官が先に勝久に説明したことを繰り返して説明したが、勝久は、これに納得しないで、齋藤係官の謝罪を求めた。

6  亀井統括官は、平成元年一〇月二七日午前九時四五分ころ、原告宅に電話をし、対応した勝久に対し、齋藤係官が本件価格表の一部を書き写した行為は、調査の範囲内の行為であり、謝罪するようなことではないこと及び調査に関係のない第三者の立会いは認められないことを説明し、立会人がいない状態で調査に協力するよう重ねて説明し、原告と相談した上で調査に協力する意思があるならば、その旨を同年一〇月三一日午後五時までに連絡するよう求めた。これに対し、勝久は、亀井統括官に対し、立会いについては、納得できないので上尾民主商工会と相談した上で返事をすると返答し、立会人の同席を求めた場合の税務署の対応を質問し、亀井統括官は、立会人の同席を要求して調査に応じなければ、税務署で独自に調査を進め、青色申告の承認を取り消した上で、更正処分をすることもあり得ることを説明した。

7  勝久は、平成元年一〇月三一日午前一〇時ころ、出張で不在の倉部係官に対し、立会人を一人認めてほしいという電話があり、同日午後五時ころ、帰署した倉部係官が、原告宅に電話をして、勝久に対し、調査に関係のない第三者の立会いは認められないことを再度説明し、立会人を認めなければ調査に協力できないのかどうか意思を確認したところ、勝久は、立会人を認めなければ調査には協力しない意思を明確に示したため、倉部係官は、それならば所得税について帳簿に基づく調査ができないので、青色申告を取り消して推計課税をすることになることを説明した。これに対し、勝久は、帳簿はきちんと記帳していると返答するのみで、調査に協力するという返事はなかった。

8  そこで、被告は平成二年二月一五日、本件取消処分をするとともに、推計によって本件係争年分の所得金額を算出して、別表一1ないし3のとおりの本件更正処分等を行った。

三  以上の事実により、まず、本件取消処分の適法性について判断する。

1  原告は、帳簿書類の備付け・記録・保存がないことと、これらが存在しているのにその提出がないこととは、概念的に全く異なるから、法一五〇条一項一号の取消事由に、帳簿書類の提示を拒否する場合も含むと解釈することは不当であると主張する。

青色申告の承認を受けている者が、税務署の当該職員から、備付等を義務付けられている帳簿書類の提示を求められたのに対し、正当の理由がなくこれを拒絶し提示をしなかった場合には、青色申告承認の取消事由法一五〇条一項一号が定める、帳簿書類の備付け、記録、保管が大蔵省令の定めるところに従って行われていない場合に該当するというべきである。けだし、青色申告者に対する更正処分は原則としてその者の所定の帳簿書類の調査を通じてのみ行うことができるとされているという法の趣旨にかんがみると、青色申告の制度は、所定の帳簿の備付け等が、青色申告者の側においてのみ行われているというだけでなく、そのような帳簿書類の状況が当該職員の質問検査権に基づく調査により確認できることが必要、不可欠の前提としていることが明らかであるといわざるを得ない。したがって、青色申告者が、税務署の当該職員からの法二三四条の質問検査権に基づく右帳簿書類等の提示閲覧を求められた場合は、これに応じ、当該職員において、右帳簿書類を確認し得るような状態に置くことも当然であり、帳簿書類に対する当該職員の調査を拒否することにより、その備付け等が正しく行われているか否かを当該職員において確認することができない場合にも、青色申告承認による特典を享受させることは、その制度の本旨に反し、不合理である。法一五〇条一項一号の取消事由が存在することが認められるものと解すべきである。当該職員に対する帳簿書類の提示閲覧に対する拒否も、法一五〇条一項一号に該当する。

右のとおり、所定の帳簿書類の備付け等は、当該職員からの提示閲覧の求めに応じ得るものでなければならないと解すべきであるから、原告の右主張は、採用しない。

2  前記認定した事実によると、倉部係官及び齋藤係官は、原告の事業所に臨場し、原告及び勝久に対して所得金額の調査に来たこと及び帳簿書類を提示してほしい旨告げたが、勝久は、齋藤係官が、本件価格表の一部を書き写したことに抗議して、これを中止させるとともに、営業中であるから、調査には応じられないとして調査の日を改めてほしいと申し入れたため、倉部係官及び齋藤係官は、原告の帳簿書類について調査することなく原告の事業所を退出したこと、その後、倉部係官が、勝久と打ち合せた調査日に臨場したが、原告は外出の予定であり、原告の事業の経理を担当しているとして勝久が倉部係官及び小島係官を迎え入れたが、事業所内には、勝久のほかに上尾民主商工会の森事務局長及び後藤会員が待機しており、倉部係官及び小島係官が身分証明書を提示し、原告の事業所に臨場した理由を説明し、帳簿書類の提示を求めたが、勝久は、第三者の立会いなしでは帳簿書類は提出できないと返答し、倉部係官は、調査に関係のない第三者が立ち会っている場では、調査をすることができないので、調査に関係のない第三者に退席してもらうよう勝久に要請したが、勝久は、右要請を拒絶し、前回の臨場の際、齋藤係官が本件価格表を書き写したことについて抗議し、謝罪を求め、倉部係官が、齋藤係官の右行為は、調査の範囲内の行為であると説明したが、勝久はこれに納得せず、倉部係官が第三者のいないところで帳簿書類を提示するよう繰り返し要請するも、勝久は、右申出を明示的に拒否するとともに、これから用事があるから、今回は調査に応じられない旨述べたため、倉部係官及び小島係官は、これ以上調査の進展を図ることは困難であると判断し、原告の事業所を辞去したこと、倉部係官は、大宮税務署に戻ってから、原告宅に架電をして、勝久に対し、改めて第三者のいないところで調査に協力するように要請したが、勝久は、齋藤係官が本件価格表の一部を書き写したことや倉部係官らが第一回目の臨場の際、事前に連絡をしなかったことについて抗議を繰り返し、上司に相談した上で、説明するよう求めることに終始し、倉部係官が、亀井統括官の指示を仰いだ上で改めて、原告宅に電話し、勝久に対し、齋藤係官が本件価格表を書き写したことは、調査の範囲内の行為であるし、事前に通知をしないで臨場することもあることを説明し、このまま調査を拒否すれば、青色申告の承認の取消しや独自の調査に基づく推計課税を行うこともあることを説明するよう指示したが、勝久は、倉部係官の説明に納得しないで、齋藤係官の謝罪を要求したこと、亀井統括官が、原告宅に電話し、対応した勝久に対し、齋藤係官が本件価格表の一部を書き写した行為は、調査の範囲内の行為であり、謝罪するようなことではないこと及び調査に関係のない第三者の立会いは認められないことを説明し、立会人がいない状態で調査に協力するよう重ねて説得し、原告と相談した上で調査に協力する意思があるならば、その旨を同年一〇月三一日午後五時までに連絡するよう求めたところ、勝久は、亀井統括官に対し、立会いについては、納得できないので上尾民主商工会と相談した上で返事をすると答え、立会人の同席を求めた場合の税務署の対応を質問したため、亀井統括官は、立会人の同席を要求して調査に応じなければ、税務署で独自に調査を進め、青色申告の承認を取消した上で、更正処分をすることもあり得ることを説明したこと、勝久が、平成元年一〇月三一日、電話で立会人を一人認めてほしいと申し出たため、倉部係官が、調査に関係のない第三者の立会いは認められないことを再度説明し、立会人を認めなければ調査に協力できないのかどうか意思を確認したところ、勝久は、立会人を認めなければ調査には協力しない意思を明確に示したため、倉部係官は、所得税につき帳簿に基づく調査ができないので、青色申告を取り消して推計課税をする旨説明したが、勝久は、自分は、帳簿書類をきちんと付けていると返答するのみで、調査に協力するという返事はしなかったことがそれぞれ認められる。

右事実によると、倉部係官及び亀井統括官は、第一回目の臨場時以降、面前や電話で、原告に対し、または、原告が帳簿書類等の備付け等の一切をまかせているという勝久に対して、原告に対する税務調査を行うために帳簿書類を提示するよう再三にわたって申入れ、齋藤係官の行為は調査の範囲内の行為であるし、帳簿書類を確認できず、税務調査に協力しないのであれば、青色申告承認の取消し等を行うことになる旨繰り返して説明し、右調査に協力するように説得したのに対し、原告及び勝久は、齋藤係官に対する謝罪を要求し、第三者の立会いがなければ帳簿書類等の提示閲覧の調査には応じないという態度を固持したのであるから、当該職員である倉部係官及び亀井統括官の原告に対する税務調査を正当な理由なく拒否し続け、税務調査を妨げたといわざるを得ない。

3  この点、原告は、本件税務調査の際、いつでも帳簿書類を閲覧することができるように準備し、調査に協力することを明らかにしていたが、税務調査や帳簿等に関する知識、経験が乏しいことから、第三者の立会いを求めたが、倉部係官は、違法な税務調査に対する謝罪や第三者の立会いに応じなかったのであるから、原告が、税務職員に帳簿書類等を提示しなかったことには、正当な理由があると主張する。

しかしながら、前記認定した事実によると、倉部係官及び小島係官が二度目に原告の事業所に臨場した際、事業所内のテーブルの上には、帳簿書類のような書類が置かれ、勝久が右書類を手にとって、そのページをめくったりしていたことが認められるが、原告及び勝久は、前記のとおり、齋藤係官が本件価格表を書き写したことについての謝罪を求め、第三者の立会いが認められなければ、帳簿書類の提示はできないとして、帳簿書類の提示閲覧を終始拒み続けていたのであるから、本件において、原告が、倉部係官らの税務調査を遂行するために帳簿書類を提示したと認めることはできない。

また、原告は、齋藤係官が、本件価格表を書き写したことについて謝罪せず、第三者の立会いが認められなかったことから、帳簿書類を提示しなかったのであり、右提示しなかったことには、正当な理由があると主張するが、税務職員が法二三四条に基づいて帳簿書類の検査を行う場合、その範囲、程度、時期、場所等の実定法上特段の定めのない実施の細目については、質問検査の必要と相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な程度にとどまる限り、権限ある税務職員の合理的な裁量に委ねられているところ、齋藤係官が書き写した本件価格表は、原告の事業所である美容院の店舗内の壁に掲示してあり、原告事業の顧客等不特定多数の者が自由に見ることができるもので、原告の事業収益の基礎となるものであるから、これを齋藤係官が書き写したからといって、原告の権利が侵害されたとはいえないし、合理的な調査の範囲を逸脱したとは認められない。また、原告の事業所の経理は、勝久がすべて自分で行っていたというのであるから、第三者が立ち会わなければ、帳簿書類の説明が不可能あるいは困難であると認めることはできないし、第三者の立会いを認めなければならないとする特段の事情が存すると認めることもできない。むしろ、調査においては原告の取引先の営業上の秘密に関する事項にも調査が及ぶことがあり、帳簿書類の作成に関与していない第三者の立会人を認めた場合には、税務職員に課せられた守秘義務に違反するおそれがあることから、第三者の立会いを認めなかったものであり、右判断が、合理的な裁量の範囲を逸脱したものであると認めることはできない。

したがって、倉部係官及び亀井統括官が、原告あるいは勝久に対し帳簿書類の提示閲覧を求めた回数、期間、説得の内容及び態様、一連の経緯等の前記認定の事実関係に照らすと、原告の営業規模、税務調査に対する知識及び経験の程度等の事情を考慮に入れても、倉部係官及び亀井統括官の原告に対する税務調査は社会的相当性を欠いていたと認めることはできないので、原告の右主張も、理由がない。

4  以上のとおり、倉部係官及び亀井統括官が、本件係争年分の帳簿書類等を調査するために、社会通念上相当な程度の努力を払ったにもかかわらず、原告及び勝久は、正当な理由なく、右帳簿書類の提示を拒否し続け、調査に協力しなかったものであり、右行為は、法一五〇条一項一号に定める青色申告の承認の取消事由に該当することが認められるので、本件取消処分は、適法である。

四  次に本件更正処分の適法性について判断する。

1  前記認定した事実、右当事者間に争いのない事実及び証拠(認定事実に記載のとおり。)ないし弁論の全趣旨によると、次の事実が認められる。

(一)  被告は、前記のとおり、平成二年二月一五日、本件取消処分をするとともに、推計によって本件係争年分の所得金額を算出して、別表一1ないし3のとおりの本件更正処分等を行った。

(二)  平成五年四月二日当時、上尾税務署個人課税部門の総括上席国税調査官であった石塚文彦(以下「石塚調査官」という。)は、個人課税第一部門の鎌倉久雄統括国税調査官(以下「鎌倉調査官」という。)の指示により、同年三月二六日付け関局一訟一―三八七「訴訟事件に関する資料の報告について(一般通達)」(乙第八号証)に基づいて、「美容業の同業者調査表」(乙第九号証、以下「本件調査表」という。)を作成した。右通達は、原告の所得金額を推計により算定するために、同業者の売上原価率(売上原価を売上(収入)金額で除し、百分比の少数第三位以下を切り上げた値)の平均値及び所得率(所得金額を売上(収入)金額で除し、百分比の少数第三位以下を切り捨てた値)の平均値を算出するものであり、同業者選定の基準(本件抽出基準)として、上尾税務署管内に住所(納税地)及び事業所を有する個人事業者で、本件係争年分について、<1>それぞれの年分の暦年を通じて美容業を継続して営んでいた者であること、<2>所得税青色申告決算書(現金主義用を除く。以下「決算書」という。)を提出していた者であること、<3>年間の売上原価の金額が、昭和六一年分は、九六万二九〇九円以上三八五万一六三四円以下、昭和六二年分は、一三八万五六六一円以上五五四万二六四二円以下、昭和六三年分は、一五六万七二七八円以上六二六万九一一〇円以下の者、<4>給料賃金の支払があり、かつ、専従者給与の支払がある者であること、<5>災害等により経営状態が異常であると認められる者以外の者であること、<6>税務署長から更正又は決定処分を受け、これに対して不服申立を行って係争している者でないことの要件をすべて満たす者であることとされていた。

石塚調査官は、大宮税務署に赴いて、同税務署に確定申告している個人の事業者ごとに、業種名、住所、氏名、青色・白色区分、収入金額、所得金額等が記載されたコンピューターからの出力名簿(以下「業種別名簿」という。)中、「美容業」の項目に分類されている者の中から、所得税青色申告決算書の記載に基づき、美容業を営み、青色申告の承認を受けている者で、上尾税務署管内(鴻巣市、上尾市、桶川市、北本市及び北足立郡)に住所及び事業所を有している者を抽出した上で、右決算書の決算期間欄に決算期間が一月一日から一二月三一日までと記載されている者、右決算書の差引原価欄の金額が、右<3>の範囲内にある者、右決算書の給料賃金及び専従者給与欄に支給金額の記載がある者、右決算書の「年中における特殊事情」欄、確定申告書の「雑損控除」欄及び不服申立に関する整理簿等により、右<4>ないし<6>の基準を満たす者を抽出した。これらの抽出作業は、前記基準に該当する者をすべて機械的に抽出するものであり、石塚調査官は、これらの作業により抽出した者について、本件同業者調査表を作成し、右決算書の写しを添えて鎌倉統括に提出し、鎌倉統括は、これに誤りがないか検算をした上で決裁し、国税局に送付した(乙第一二号証、証人石塚文彦の証言)。

(三)  本件化粧品の売上原価率については、本件化粧品の各特約店である美容院等において、小売価格を値引きすることはほとんどなく、売上原価率を七〇パーセントとして本件化粧品が販売されている(弁論の全趣旨)。

(四)  原告の事業所の経理は、勝久がすべて行っていたが、勝久は、現金出納帳に、日々の残高を記載しなくてもよいと自己判断して、日々の残高を継続して記載しておらず、記載されている部分についても、後日まとめて記載した部分があり(甲第一、第八八三、第一八七一、第二八一二、第二八一三号証、証人勝久の証言)、また、支出の日を誤って記載した部分もあることから、原告の事業所は、現金払いがほとんどであり、赤字になることは本来あり得ないにもかかわらず、残高が赤字になっている部分(昭和六三年三月一八日末)が存する(甲第一八七一号証一三丁)。

勝久は、昭和六二年一一月下旬、弟から中古車を購入する際の資金として六五万円を借り、完済時に利息として五万円を支払うこととしたが、同年一二月に突然返済を求められたため、資金の調達ができず、原告の事業所の売上から捻出することとし、毎月の売上が偏って不自然となることを避けるため、売上の大きかった同年一月、四月、五月、八月及び一二月の売上を差し引くこととし、同年分の現金出納帳(甲第八八三号証)及び売上品目集計表(甲第八八四号証)の双方について改ざんを行った。ただし、レジペーパーも、右改ざんに合わせて、作り直す必要があったが、勝久は、本件の調査が行われるまで、そのことを忘れていた(甲第八八三ないし第八八五、第二八一三号証、証人勝久の証言)ため、昭和六二年分のレジペーパーと現金出納帳の売上との間には、別表四のとおりの差額が生じた。

勝久は、レジペーパーについて、一日の合計額の部分のみ保管し、それ以外の個別の売上が印字された部分は、捨ててしまったため、レジペーパーのうち個々の売上がすべて印字された部分は、存在しない(甲第三号証の一ないし二九六、第八八五号証の一ないし三〇八、第一八七三号証の一ないし二九五)。また、保存されている部分のレジペーパーの印字の状況も、昭和六二年分については、そのようなインクの濃さに著しい変化はない(甲第八八五号証の一ないし三〇八)が、昭和六一年分については、ナンバー二一から二三まで、四三から四五まで、七〇から七三まで、九四から九六まで、一二〇から一二二まで、一四五から一四七まで、一六三から一七一まで、一七六から一八四まで及び一九二から二九六までは、インクが濃いが、それ以外のインクは薄くなっており(甲第三号証の一ないし二九六)、また、昭和六三年分については、ナンバー一九八から二〇三まで、二一四及び二一五、二一七から二一九まで、二二一及び二二二のインクは薄いが、それ以外は、濃くなっている(甲第一八七三号証の一ないし二九五)。

また、必要経費の算定に当たって、原告が別表三で主張する公租公課の額は、原告が証拠として提出する領収証等(甲第一〇二ないし第一〇五号証、第一〇〇七及び第一〇〇八号証、第一九九一ないし第一九九七号証)により計算される合計額を上回っているし、領収証として、勝久作成に係るメモ書きが多数存在するが、いずれもメモ書きの形状は同一であり(甲一〇三、第一〇四、第一七二、第一七七、第一七八、第一八三、第一八六、第四七三、第四七四号証等参照)、支払の都度作成されたものであるかは疑わしく、交際費及び福利厚生費には、飲食費が多数含まれているが(甲第二四六ないし第三六一号証、第四七二ないし第六七四、第一一五四から第一三〇六号証、第一四二五ないし第一六六一号証、第二一三三ないし第二三一二号証、第二四三九ないし第二五九四号証)、事業と関連を有する支出かどうか必ずしも明らかとなっていない。

さらに、勝久は、減価償却費の算定において、木造モルタル建物店舗に係る減価償却費の取得価額に関する証拠として、土地付き建物売買契約書(二七六三号証)を提出し、購入額の二分の一である八一八万五〇〇〇円を店舗の取得価額として減価償却費を計算している(乙第五号証の三、乙第六号証の三、甲第二八一三号証)が、右契約は土地付き建物売買契約であるから、土地相当分は減価償却の対象とならないし、購入したセットイス及びシャンプーイスの減価償却費について、値引額合計五万七六〇〇円(甲第二七六七号証の一及び乙第五号証の三)を購入価格から減算して算定しなければならないにもかかわらず、購入価格(セットイス三三万六〇〇〇円、シャンプーイス二一万四〇〇〇円)を基準に計算しており、さらに、勝久は、エアコン及び太陽熱温水器の減価償却費の計算において、本来取得価格に算入されない分割手数料(エアコンに一二万円(甲第二七七二号証)、太陽熱温水器に二三万一六七二円(甲第二七七五号証)を含めて、エアコンの取得価額を六五万円、太陽熱温水器の取得価額を六三万一六〇〇円として減価償却費の計算をしている。

2  原告は、被告が本件更正処分に先立つ本件調査において、具体的な調査理由を開示せず、倉部係官が無断で原告の事業所に提示してある本件価格表を書き写したことは、違法であり、本件更正処分には、手続上の違法があると主張するが、税務署の当該職員が質問検査権を行使するに当たり、調査の理由ないし必要性を個別的、具体的に告知しなければならないとする法律上の義務は存しないし、原告の帳簿書類の提示拒否が正当の理由がなく行われたことは前叙のとおりであり、本件においては、前記認定のとおり、倉部係官は、勝久に対して、所得金額の調査であること及び売上の増加分と材料費の増加分が同じであることに疑問がある等説明していることが認められるから、税務職員が具体的な調査理由を開示しなかったとする原告の主張には、理由がない。また、本件調査が、違法であるとする事由を認めることができないことは前示のとおりであるから、原告の右主張は、採用しない。

3  前記説示のとおり、倉部係官及び亀井統括官は、原告に対する税務調査を遂行するために本件係争年分の帳簿書類の提示を求めたが、原告は、倉部係官の謝罪や第三者の立会いを求めて、正当な理由がなく帳簿書類の提示を拒み続け、倉部係官及び亀井統括官の税務調査を妨げたので、事務承継前の大宮税務署長は、原告の収入や必要経費の額を実額で把握することができなかったため、被告は、本件更正処分をするに当たって、推計により本件係争年分の原告の所得金額を算定したのであるから、推計課税の必要性が存するというべきであり、右方法によったことは相当である。

4  被告は、本件係争年分の原告の美容業(顔用化粧品の販売以外のもの)の所得金額を算定するために、原告の売上原価の額を基礎として、これを本件比準同業者の売上原価率の平均値で除して収入金額を算出した上、右収入金額に右比準同業者の所得率の平均値を乗じて算出する方法を採用しているので、右推計の方法に合理性が認められるかどうか判断する。

(一)  前記三1で認定した事実によると、関東信越国税局長は、原告の事業所所在地を管轄する上尾税務署管内に住所地を有し、かつ、同所管内において原告と同様美容業を営む個人事業者のうち、<1>一年を通じて美容業を継続して営んでいた者、<2>青色申告の承認を受け、青色申告決算書を提出していた者、<3>右決算書上の売上原価が、原告の売上原価の額の二分の一以上かつ二倍以下の範囲内であった者、<4>給料賃金の支払があり、かつ、専従者給与の支払があった者、<5>災害等により、経営状態が異常であると認められた者以外の者、<6>税務署長から更正又は決定処分を受け、これに対して不服申立て等係争中でない者の各基準(本件抽出基準)をすべて満たした者を抽出するよう指示したこと、これを受けた石塚調査官は、大宮税務署に赴いて、同税務署に確定申告している全個人事業者が登録されているコンピューターから出力された業種別名簿、所得税青色申告決算書、確定申告書、不服申立てに関する整理簿等から、本件基準を満たすすべての者を機械的に抽出し、これらの者の収入金額、売上原価、青色申告の得点控除前の所得金額を調査し、売上原価率及び所得率をそれそれ算出し、売上原価率及び所得率の平均値を本件係争年分についてそれぞれ求め、別表二1ないし3の比準同業者の一覧表(本件調査表)を作成し、鎌倉調査官の検算を経て、関東信越国税局長に提出したことが認められる。

右事実によると、本件抽出基準のうち、業種を美容業、業務形態を個人事業とし、給料賃金及び専従者給与の支払が行われた者(<4>)としている部分からは、原告と比準同業者の事業の業種、事業形態の同一性が担保されていることが認められるし、住所及び事業場所を上尾税務署管内として部分からは、原告と比準同業者が同一の経済圏にあるものであることが確保されていることが認められ、売上原価を原告の売上原価の二分の一以上かつ二倍以下と定める(<3>)部分からは、原告と比準同業者との事業規模の近似性が担保されていることが認められるので、比準同業者の抽出基準自体の合理性を認めることができる。また、帳簿書類が完備されている青色申告承認者であること(<2>)や年間を通じて継続して事業を営む者(<1>)を抽出基準として設ける一方で、経営状態が異常である者(<5>)や不服申立手続を行っている者(<6>)を除いており、資料の正確性が確保されていることが認められる。さらに、比準同業者として抽出された者は、昭和六一年分は、一三名、昭和六二年分及び昭和六三年分は、各八名であるから、その平均値を求める上での不合理性は認められない。そして、石塚調査官は、コンピューターから出力された業種別名簿、所得税青色申告決算書、確定申告書に基づいて、右基準を満たす者を機械的に抽出したことが認められ、その抽出過程において恣意的な操作が行われたことは認められないし、算出された売上原価率及び所得率の平均値の計算にも誤りは認められない。

(二)(1)  これに対し、原告は、原告の所得金額を算定するに当たり、被告は、収入金額の算出の段階で売上原価率の平均値を、所得金額の算出の段階で所得率の平均値を用いており、二重に推計を行っているので違法であると主張するが、当該納税者と同一業種で、業態、規模、立地条件とにおいて類似性の認められる同業者間では、収入金額、経費額等について、同様の比率で所得を得ると解されるので、本件比準同業者から算出された売上原価率及び所得率にそれぞれ合理性があるのであれば、原告の所得金額を算出する際に、収入金額の算出及び所得金額の算出の各過程で推計が行われたとしても、これ自体によって、直ちに推計の合理性が否定され、本件更正処分が違法となるわけではないから、二段階で推計を行うこと自体を本件更正処分の違法の根拠とする原告の右主張は、採用しない。

(2)  原告は、別表二1ないし3の本件比準同業者は、氏名の記載がなく、その実在性や収入金額等の正確性について確認できず、推計の合理性の有無を判断できないから、このようにして算出された本件更正処分は、違法であると主張する。しかし、税務職員は、自己が職務上知ることができた秘密を漏らしてはならないことが法律上義務付けられているから、同業者の氏名、住所を明らかにできないのは、やむを得ないし、他方、本件比準同業者を抽出し、本件調査表を作成した石塚調査官に対する証人尋問により、その作成の経緯、同業者の実在、資料の正確性及び抽出作業が公正かつ正確に行われたことが認められるから、本件調査表において、氏名や住所等が公開されないという一事をもって、売上原価率及び所得率の各平均値が不当、不合理なものとはいえない。よって、原告の右主張は採用しない。

(3)  原告は、倍半基準は、収入金額が原告の収入金額の二分の一以上かつ二倍以下の範囲内であった者を比準同業者としなければならないところ、被告が抽出した本件比準同業者の中には、収入金額が原告の収入金額の二分の一以上、かつ、二倍以下の範囲内ではない者が含まれており、推計の合理性を欠くので、これを前提とする本件更正処分は、違法であると主張する。

前記二1で認定した事実によると、被告は、原告の本件係争年分の美容業に係る所得金額の算定に当たって、売上原価に倍半基準を適用することによって、原告と事業規模が類似する者を抽出したものであることが認められるが、倍半基準とは、そもそも推計課税の基礎となる収入金額や仕入金額の多寡が当該納税者の事業規模を推測する基準となるという経験則を前提とするものであるところ、本件においては、原告の収入金額を把握することができなかったから、収入金額を基準に倍半基準を適用することは不可能であるし、倍半基準が用いられる右経験則に照らすと、売上原価に倍半基準を適用したことから直ちに、原告と比準同業者との事業規模の類似性が否定されるとはいえない。また、倍半基準自体絶対的ではないから、おおむねその範囲内にあるものを選定すれば、納税者と選定した同業者との規模の類似性は確保されると解するのが相当であるところ、本件比準同業者中、収入金額が、原告のそれの二倍以下かつ二分の一以上となる者は、昭和六一年分では、一三人中一名、昭和六二年分及び昭和六三年分では、いずれも八名中各一名であり、しかも、これらの者の収入金額が、倍半基準を適用した金額の範囲から大幅に増減しているという事実も認められないから、このような事実に照らすと、原告と本件比準同業者との事業規模の類似性は保たれ、推計の合理性が認められる。

(三)  以上より、本件比準同業者の抽出基準、資料の正確性及び抽出過程に合理性が認められるので、本件係争年分の原告の美容業(顔用化粧品の販売以外のもの)の所得金額の算出においては、推計の合理性が認められる。

4  次に、本件係争年分における原告の本件化粧品の販売による所得の推計の合理性について判断するに、前記認定した事実によると、本件化粧品の売上原価率については、本件化粧品の各特約店である美容院等において、小売価格を値引きすることはほとんどなく、売上原価率を七〇パーセントとして本件化粧品が販売されていることが認められ、原告も同様に本件化粧品を販売していることが推認されるので、本件化粧品に係る所得金額の算定においては、売上原価率を七〇パーセントとして算出したものであり、推計の合理性が認められる。

5  本件係争年分の原告の事業所得の金額を推計によって算出した金額は、次のとおりである。

(一)  昭和六一年分の事業所得の金額は、当事者間に争いのない原告の売上原価一九二万五八一七円を比準同業者の売上原価率の平均値である一一・九五パーセントで除した総収入金額(一六一一万五六二三円)に、比準同業者の所得率の平均値である三六・三五パーセントを乗じて事業専従者控除前の事業所得の金額(五八五万八〇二八円)を算出し、これから事業専従者控除額(四五万円)を差し引いた五四〇万八〇二八円である。

(二)  昭和六二年分の事業所得の金額は、美容業については、当事者間に争いのない原告の売上原価二七七万一三二一円を比準同業者の売上原価率の平均値である一二・〇四パーセントで除した総収入金額(二三〇一万七六一六円)に、比準同業者の所得率の平均値である三三・六パーセントを乗じて事業専従者控除前の事業所得の金額(七七三万三九一八円)を算出し、他方、本件化粧品については、当事者間に争いのない原告の売上原価一五二万七五五〇円を本件化粧品の売上原価率七〇パーセントで除した総収入金額(二一八万二二一四円)から、売上原価及び販売に係る経費三八万五〇七〇円を控除して事業専従者控除前の事業所得の金額(二六万九五九四円)を算出し、各事業専従者控除前の事業所得の金額の合計(八〇〇万三五一二円)から事業専従者控除額(六〇万円)を差し引いた七四〇万三五一二円である。

(三)  昭和六三年分の事業所得の金額は、美容業については、当事者間に争いのない原告の売上原価三一三万四五五五円を比準同業者の売上原価率の平均値である一二・九九パーセントで除した総収入金額(二四一三万〇五二三円)に、比準同業者の所得率の平均値である二八・二三パーセントを乗じて事業専従者控除前の事業所得の金額(六八一万二〇四六円)を算出し、他方、本件化粧品については、当事者間に争いのない原告の売上原価四八四万〇六一〇円を本件化粧品の売上原価率七〇パーセントで除した総収入金額(六九一万五一五七円)から、売上原価及び販売に係る経費五四万五〇三〇円を控除して事業専従者控除前の事業所得の金額(一五二万九五一七円)を算出し、各事業専従者控除前の事業所得の金額の合計(八三四万一五六三円)から事業専従者控除額(六〇万円)を差し引いた七七四万一五六三円である。

6  これに対し、原告は、本件係争年分の原告の総収入金額及び必要経費の実額は、別表三のとおりであるから、本件更正処分のうち、別表三に記載された原告の所得金額を上回る部分は、違法であると主張する。

(一)  そこで検討するに、税務調査において所得金額を実額により把握するに足りる資料を提出しなかったために推計による更正処分を受けた納税者が、訴訟の段階において、実額を主張し、推計課税の違法性を主張、立証するためには、当該納税者は、課税庁に比して、経済取引の当事者であり、課税要件に関する証拠を収集、提出が容易であることから、主張する実額が真実の所得額に合致することを合理的な疑いを容れない程度に立証する必要があると解すべきである。そして、事業所得とは、その年の事業所得に係る総収入金額から必要経費を控除した金額であり(法二七条二項)、控除される必要経費とは、総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るために直接要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用の額であるから(法七三条一項)、納税者は、実額反証として、事業所得に係る総収入金額に係るすべての収入の事実及び必要経費に係る支出の事実を主張、立証した上、さらに所得税法上の分類に従い、直接費用については、両者の個別対応の事実を、間接費用については、必要経費の期間対応の事実を主張、立証する必要があるというべきである。

(二)  原告は、別表三に記載する収入金額が、原告の総収入であると主張し、現金出納帳(甲第一、第八八三及び第一八七一号証)、売上品目集計表(甲第二、第八八四及び第一八七二号証)、レジペーパー(甲第三号証の一ないし二九六、第八八五号証の一ないし三〇八及び第一八七三号証の一ないし二九五)を提出する。

しかし、前記認定のとおり、右現金出納帳には、残高記載が毎日継続して行われておらず、後日まとめて記載することも日常的に行われていたこと、その結果、原告の事業においては、現金払いがほとんどであるにもかかわらず赤字になっている日が存在すること、勝久は、昭和六二年一二月、自己の借金の返済資金として原告の事業による売上金を流用することとし、同月分の売上金が他の月に比して偏って少なくなるのは不自然であることから、同月を基準にして比較的売上が多かった月の売上金を少しずつ減らして調整して、右借入金及び利息相当額を捻出することとし、それに伴って同年分の現金出納帳(甲第八八三号証)及び売上品目集計表(甲第八八四号証)を改ざんしたことが認められ、これらの事実に照らすと、原告の売上及び現金の管理は不十分なものであったといわざるを得ず、右現金出納帳及び売上品目集計表は、日々の取引を正確に記載したものということはできず、現金出納帳及び売上品目集計表を原告の総収入につき合理的な疑いを容れない程度に立証するに足りる資料ということはできない。

また、右レジペーパーについても、個々の売上が印字された部分は、すべて切り取られて廃棄されており、一日の合計売上を印字した部分しか残っていないため、個々の売上がすべてレジスターに入力されていたかどうか検証することが不可能である上、昭和六二年分のレジペーパーの印字は、その濃淡に極端な変化がないにもかかわらず、昭和六一年分及び昭和六三年分のレジペーパーの印字のインクが、数日ごとに濃くなったり薄くなったりしていることが認められ、この点につき、証人勝久は、レジスターのインクの調子が悪かった旨供述しているが、昭和六二年には、レジスターのインクの調子が良かったのに、昭和六一年分及び昭和六三年分に、突然レジスターのインクの調子が悪くなるというのは、不自然であり、レジスターの調子が悪かったという証人勝久の証言は、にわかに措信し難く、むしろ、後日まとめて改ざんされた疑いが払拭できない。また、前記説示したとおり、勝久は、現金出納帳に日々の現金の残高を記載しておらず、後日まとめて記載した部分も存し、赤字になっている日もあるというのであるから、原告は、日々レジスター内の現金とレジペーパーに記載された金額との照合を行っていなかったこと及びレジペーパーへの入力誤りや入力漏れがあるかどうかについての検証を経ていなかったことが推認されるので、右レジペーパーは、その正確性には疑問があるといわざるを得ない。

右のとおりであるから、原告が書証として提出した現金出納帳、売上品目別集計表及びレジペーパーは、原告主張の収入金が原告の総収入の実額であると認めるべき証拠として、たやすく採用することはできないというべきであるし、原告提出に係る昭和六一年分ないし昭和六三年分の簡易帳簿(甲第四、第八八三及び第一八七四号証)も、原告の個々の売上を記載したと認めることはできない。また、原告の個々の売上を記載した書面は、他に存しないというのであるから、結局、原告は、事業所得に係る総収入金額に係るすべての収入の事実を主張し、合理的な疑いを容れない程度までそれを立証したということはできない。加えて、前記認定のとおり、原告が主張する公租公課の額と領収書によって算定される額との整合性は認められないし、勝久の記載したメモ書きによるも事業との関連性は認め難く、減価償却費に関する算定もたやすく採用することはできない。したがって、原告の実額反証は、その余の点について判断するまでもなく、失当であり、原告の実額反証に関する前記主張は、理由がない。

7  以上のとおり、本件更正処分に係る原告の事業所得の金額は、昭和六一年分は、三一二万六二三三円、昭和六二年分は、五三三万六一八六円、昭和六三年分は、六九七万四八一六円であることが認められるが、右金額は、いずれも右(一)ないし(三)で認められる事業所得の金額を下回っているので、本件更正処分は、いずれも適法である。

五  本件賦課決定処分の適法性について

原告は、本件係争年分に係る総所得金額をいずれも過少に申告していたことが認められ、過少に申告したことについて、通則法六五条四項に定める正当な理由も認められないから、本件更正処分により原告が納付することになる本件係争年分の所得税額を基礎として、通則法六五条一項(ただし、昭和六一年分については昭和六二年法律第九六号による改正前のもの)及び二項の規定に基づき、過少申告加算税を昭和六一年分を九五〇〇円、昭和六二年分を五万三〇〇〇円、昭和六三年分を九万六五〇〇円とする本件賦課決定処分は、いずれも適法である。

六  結論

右のとおりであるから、原告の本訴請求は、いずれも理由がないので、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政訴訟事件法七条、民事訴訟法六一条を適用して主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結の日 平成一一年一〇月二五日)

(裁判長裁判官 星野雅紀 裁判官白井幸夫、裁判官檜山麻子は、転補につき署名押印することができない。裁判長裁判官 星野雅紀)

別表一

1 昭和六一年分

<省略>

別表一

2 昭和六二年分

<省略>

別表一

3 昭和六三年分

<省略>

別表二 1

昭和61年分の同業者率

<省略>

別表二 2

昭和62年分の同業者率

<省略>

別表二 3

昭和63年分の同業者率

<省略>

別表三

<省略>

別表四

売上除外の内訳

<省略>

売上除外の内訳

<省略>

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