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浦和地方裁判所 平成4年(行ウ)15号 判決 1994年12月26日

原告

田口正雄

右訴訟代理人弁護士

木村孝

被告

越谷土木事務所長

長谷川昌夫

右訴訟代理人弁護士

関口幸男

右指定代理人

吉田雄一

外六名

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求の趣旨

被告が平成三年九月一一日付けで原告に対してした指令第「〇二―〇〇八一〇号」及び第「〇二―〇〇八二〇」号の各開発行為不許可処分をいずれも取り消す。

第二  事案の概要

本件は、原告が被告に対し、市街化調整区域内の土地につき畳製造工場及び藁貯蔵倉庫等の建築の用に供する目的で行う開発行為についての許可を申請したところ、不許可処分を受けたので、その取消しを求めた事案である。

一  争いのない事実

1  原告は、平成二年九月一一日、埼玉県北葛飾郡松伏町都市計画課を経由して、被告に対し、別紙物件目録記載一1及び2の各土地(以下、「本件一の土地」という。)及び同目録記載二1ないし3の各土地(以下、「本件二の土地」といい、本件一の土地と本件二の土地を合わせて「本件各土地」という。)の開発行為につき、都市計画法(以下、「法」という。)二九条の許可を申請した(以下、「本件各申請」といい、本件各申請にかかる開発行為を「本件開発行為」という。)。

本件各申請の理由は、本件一の土地については、鉄骨造亜鉛メッキ鋼板葺平家建、床面積860.00平方メートルの畳製造工場・倉庫(以下、「本件工場等」という。)及びその付属建物である、軽量鉄骨造亜鉛メッキ鋼板葺平家建、床面積49.68平方メートルの事務所の建築の用に供する目的であり、本件二の土地については、鉄骨造亜鉛メッキ鋼板葺平家建、床面積990.00平方メートルの藁貯蔵倉庫(以下、「本件倉庫」といい、本件工場等と本件倉庫を合わせて「本件各建物」という。)の建築の用に供する目的であるから、その開発行為はいずれも法三四条四号に該当するというものである。

2  本件各土地は市街化調整区域(以下、「本件調整区域」という。)内にある。

3  被告は、平成三年九月一一日付けで「都市計画法三四条四号に該当すると認められない」として、本件各許可申請に対し、それぞれ不許可(以下、「本件各不許可処分」という。)とした。

4  そこで、原告は、平成三年一〇月七日、埼玉県開発審査会に対し、審査請求をしたが、右埼玉県開発審査会は、平成四年五月二九日付けで右審査請求を棄却する旨の裁決をした。

二  争点

本件各申請に係る各開発行為が法三四条四号の「市街化調整区域内において生産される農産物の処理、貯蔵若しくは加工に必要な建築物の建築の用に供する目的で行う開発行為」の要件に該当するかどうかである。

1  原告の主張

(一) 本件工場等は藁を主原料とする畳床(藁床)の製造を目的とする建築物であり、本件倉庫はその原料である藁の貯蔵を目的とする建築物であって、いずれも本件調整区域において生産される農産物である藁の加工又は貯蔵に必要な建築物に該当する。そして本件開発行為は、右各建物の建築の用に供する目的で行うものであるから、法三四条四号の開発行為に該当する。

(二) 藁床の製造が採算に合うか否かは、本件各申請の許否を決定する要件ではない。そもそも採算の有無は、行政が許可権限を駆使して統制・判断すべきものではなく、自由経済市場における結果に委ねるべきである。

畳床として化学床が主流を占めているといっても藁床に優れた点があり、化学床と藁床のいずれを選択するかは趣味・嗜好の領域に属する。藁床の畳が現に製造されて需要がある以上、畳業者が製造するのは当然である。そして、床厚一寸八分から二寸二分までの各種の厚さの畳床を製造しなければ需要に応じきれないから、原告には藁の畳床からの一貫生産の必要がある。

(三) 被告は明確な根拠もなく、開発許可を受けた後に他の用途へ転用する危険性があると主張するが、転用の問題は、それが仮に現実のものとなったときに、法八一条、八二条、九一条及び九三条によって対応すれば足りるのであって安易に転用の危険があるとの恣意的な基準で許否を決定すべきではない。

(四) 本件調整区域には水田があって畳床用の藁が存在しており、現在その藁を利用して畳床を製造している業者がおり、原告も本件調整区域内の農家から合計三七〇トンの藁の供給を受けられるとの取引証明書を取得し、これを本件各申請の申請書に添付した。

なお、コンバインは、その操作によって藁のままの状態であることと藁を裁断することのいずれも可能であるからコンバインの普及と畳床用の藁の存否とは関係はない。

(五) 本件各土地が原告の所有であるか、それとも原告が他人からこれを賃借するものであるかは、開発行為の許可の要件とは関係がない。そして、本件各土地につき所有権の移転があっても、現在の所有者は原告に対し本件各土地を賃貸することを承諾しているから、原告の本件各土地に対する利用権限は確固たるものである。

また、本件各申請の申請書に経費として挙げた五〇〇〇万円は基本的な数額に過ぎないのであって、土地の賃料、本件各建物の建築費、機械の設備費、原料の仕入れ代等諸費用を合計すると、三億円以上の経費が必要である。原告の三億円を超える預金はその資金である。このように資金の裏付けがあることは原告の計画が確実であることを示すものである。

なお、畳床の出荷先は明らかではないが、現実に畳床を製造し畳の出荷が可能になって始めてその販売につき具体的な取引交渉に入れるものである。したがって、畳製造が可能かどうかが不明な現段階においては、まだ出荷先を特定できないのは当然である。

2  被告の主張

(一) 法三四条四号は、開発行為が原則として禁止される市街化調整区域は農業などの第一次産業が継続的に営まれる地域であることに鑑み、当該地域の農業との健全な調和を図る上で必要と判断される農産物の処理、貯蔵若しくは加工の用に供する建築物の立地を例外的に許可するものである。

同号の右のような趣旨からすれば、開発行為が許されるためには、単に農業関係施設であるというだけでは足りず、周辺の農業の実情を考慮し、実質的にも周辺の農業との健全な調和を図る上で必要なものであって、スプロール化の危険を冒してもやむを得ないだけの特別の必要性、合理性の認められるものでなければならない。そしてこのような必要性、合理性があるといいうるためには、開発行為に係る事業が当該地域の農業の実態に適合し、実現性、すなわち事業計画が安定して継続的に営める見込みがあることが必要である。仮に実現性のない杜撰な事業計画について開発許可がなされ、そのため転用などの違反が行われた場合、これを是正するために本人にとっても社会にとっても大きな損失を生じ、或いは法の目的とする無秩序な市街化の防止に支障をもたらし、後追い的に環境の整備のために多額の公共投資が余儀なくされてしまう等の弊害が生じる。

(二) したがって、市街化調整区域において、化学床を製造する工場等を建築する場合及び当該市街化調整区域以外で産する藁を使用して畳床を製造する工場等を建築することは、周辺の農業とは全く無関係な開発であるから、周辺の農業との健全な調和という必要性が満たされず、法三四条四号の例外的な許可対象とはならない。

(三) 本件調整区域においても、本件各建物を建築する特別の合理性、必要性はない。

藁を主原料とする畳床製造業は、畳床の単価が安いこと、藁の確保が困難になりつつあること、化学床の需要が増大する反面、藁を主原料とする畳床の需要が減少することなどから一般に厳しい経営環境にあり、外国からの藁の輸入、化学床生産や畳加工への転換あるいは転廃業などの対応を余儀なくされている状況である。

松伏町においても、水田は存在しても都市化が進展し、農業をめぐる社会経済上の変化から農業の兼業化、機械化、高齢化が進み、極力手間をかけないよう効率的な形態で農業が行われており、藁はほとんどコンバインにより刈り取りと同時に細かく切断されて「すき込み」がされ、地力の維持増進を図るのに使われている。このため、当該地域において藁の生産はほとんど行われておらず、畳床用の藁の供給もされていない。このような地域に大量の藁を必要とする大規模な畳床製造工場を立地することは合理性に乏しい。

もっとも、本件各申請には農家との藁の取引証明書が添付されているが、右取引証明書を取得するために原告自身が直接交渉した農家はわずかに三、四軒に過ぎず、最も重要な原料である藁の確保に関する取引の交渉を他人に任せてほとんど関与しておらず、しかもその際、取引価格はほとんど話題になっていない。加えるに、原告は、藁の乾燥も農家にさせ、刈り取りに必要な結束機も農家に用意させるというのであり、藁の集荷方法については何の取決めもなされていない。

そこで、このような事情を考慮すると、前記取引証明書は、各農家との間で具体的な取引条件につき合意が成立しそのような合意に基づいて、継続的、安定的に藁を供給することを約するものではない。よって、本件計画においては、継続的かつ安定的に畳床用の藁の確保が可能であるとは到底認められず、本件開発行為は本件調整区域の農業との調和とは無関係である。

(四) 本件各申請に係る事業計画は、実現性に乏しく、原告の真意に出たものであるのかどうかも疑問である。

(1) 本件各申請のなされた当時、原告の行っていた事業は原告一人が従事する個人経営の畳加工業であり、その規模は月産五〇ないし六〇枚で、畳床の製造は行っていなかったのに対し、本件各申請の添付書類によれば、原告の事業計画は、新規に月産約一〇〇〇枚以上の畳床を製造しそのために原告の他に四、五名のパート従業員が従事するという内容であり、しかも、藁倉庫と工場とが直線距離で二、三キロメートルも離れている極めて非効率的なものである。

このような事業規模の大幅な拡大計画であるにもかかわらず、原告の動機は、畳床を自分で製造することによって安く入手し、畳床の仕様についての細かな注文に対応できるようにし、職人として畳を畳床から一貫生産したいためという漠然としたものである。

(2) 原告の事業計画では、販売先の確保が明確ではなく、畳床の需要動向にも合致しない。本件各申請の申請書の記載によれば、共同住宅等の大手業者の注文を受けるためとされているが、共同住宅では需要の中心は高価な藁床ではなく、安価は化学床であり、また、申請時には大手業者との取引計画はなく、地元の工務店などを対象として取引するというものであった。このように確固たる販売先確保の見通しがないにもかかわらず、新規に大規模な畳床製造を計画することは経済常識では考えられない。

(3) 原告は明確な資金計画を持たず、実際には収支計算も行っていない。右事実は、本件各申請に係る事業計画の実現性が極めて乏しいことを如実に表すものである。

(4) 本件各申請の申請書には原告名義の預金残高証明書が添付され、その残額は通知預金三億九〇〇〇万円と記載されているが、原告は、通知預金がどのようなものかを知らず、右金額については、「申請時に金がなかった場合の資本として作った」という趣旨の意味不明の説明をした。また、右のような高額は、当時の原告の自己資金一〇〇〇万円や年間利益約五〇〇万円に比較して不自然である。

(5) 原告は、本件各土地を賃借する予定であるというけれども、本件各土地の所有者を知らず、その後の所有権の移転も知らない。しかし、このようなことは、真面目に本件各土地において大規模な事業を行おうとしているならば、ありえないことである。

(五) 以上のとおり、本件各申請は、藁がほとんど生産されておらず、畳床用の藁が供給されていない地域において、大規模な畳床製造工場を建築しようとするものであり、当該地域の農業の実態や畳床製造業の実情に合致するものではなく、また、その事業計画も極めて曖昧であり、事業実現の確実性に乏しい。したがって、本件各申請に係る開発行為には、スプロールの危険を冒してまで開発行為を許可すべき特別の必要性や合理性はない。

第三  争点に対する判断

一 法三四条は、都市計画区域を市街化区域と市街化調整区域とに区分して無秩序な市街化の拡散を防止し、計画的な市街化を図るという都市開発制度の趣旨を確保するために、都道府県知事に対し、市街化調整区域においては、開発行為に係る申請は、同条各号に該当しない限り、たとえ法三三条に該当するものであっても許可をしてはならない旨を定めたものであり、そして、法三四条四号が市街化調整区域内で生産される農産物、林産物若しくは水産物の処理、貯蔵若しくは加工に必要な建築物の建築の用に供する目的で行う開発行為については、これは許可しなければならないと定めた趣旨は、市街化調整区域においては、農業などの一次産業が継続して営まれるところ、そのための開発行為であれば、これを市街化に当たると目する必要はなく、またスプロール対策上著しい支障を及ぼす虞れもないので、都市計画と農業などの一次産業との適正な調整を図るためにも、法二九条二号の対象とならない一定の建築物のための開発行為についても、これを許可し得るとしたものと解される。

そこで、右のような趣旨からすると、法三四条四号の市街化調整区域内において生産される農産物の処理、貯蔵若しくは加工に必要な建築物に該当するといい得るためには、右必要性は抽象的な可能性では足りず、現実的なものであることを要すると解すべきである。そうして、現実的な必要性があるかどうかは、当該建築物を使用する事業計画と当該市街化調整区域における当該農産物の生産、処理、加工等の状況を勘案して決定するのが相当である。

二  そこで、本件について検討すると、前記のとおり、本件工場等及び本件倉庫の床面積はそれぞれ860.00平方メートル、990.00平方メートルであることは当事者間に争いがなく、証拠(甲七三、一〇五、乙三ないし六、一四ないし二〇、証人川上、同福島の各証言、原告本人尋問の結果)によれば、次の事実が認められる。

1  藁を原料とした畳床一畳を製造するためには、藁は約三〇キログラム必要であり、田一反からとれる藁の量は約三〇〇キログラムから約一トンである。

2  埼玉県内の畳製造業者を殆ど網羅する関東床連埼玉支部に加盟する二二の畳床製造業者(以下、「加盟業者」という。)は、藁を東北地方などから調達しており、本件調整区域のある松伏町からは藁の供給を受けていない。そして、化学床は藁床よりも安く、軽量で防虫性も高いことから藁床の需要は全国的に減少傾向にあり、そのため右畳床製造業者らも藁床の製造だけでは経営が困難であって、化学床を製造したり、畳加工を手掛けるようになってきている。

3  松伏町においては、昭和六〇年における農家数は八三六戸で、その内第一種兼業農家(自家農家を主とする兼業農家)は六七戸、第二種兼業農家(自家農業を従とする兼業農家)は七三八戸(全農家に占める割合は、前者が8.0パーセント、後者が88.3パーセント)、稲作耕地面積は四九六ヘクタール、その内二毛作は一〇ヘクタール、農業従事者は九六二名、その内六〇歳以上の者は四二二名(43.9パーセント)であり、バインダーは個人所有のものが一〇五台、数戸共有のものが二台(農家一〇〇戸当り約一三台)、コンバインは個人所有のものが三二一台、数戸共有のものが一六台(農家一〇〇戸当り約四〇台)であり、平成二年には、農家数は七三一戸、その内第一種兼業農家は五二戸、第二種兼業農家は六五二戸(全農家に占める割合は、前者が7.1パーセント、後者が89.2パーセント)、稲作耕地面積は四二一ヘクタール、その内二毛作は0.7ヘクタール、農業従事者は八八一名、その内六〇歳以上の者は五〇一名(56.9パーセント)、バインダーは個人所有のものが六七台、数戸共有のものが一台(農家一〇〇戸当り約九台)、コンバインは個人所有のものが三二三台、数戸共有のものが一二台(農家一〇〇戸当り約四六台)であり、本件各申請当時、松伏町においては、農業の高齢化、兼業化が進み、農業従事者が減少傾向にある。

4  右のようにバインダーよりもコンバインが普及している理由は、コンバインが農家の高齢化や兼業農家の増大に伴う省力化の要請に応じ得るためであり、コンバインは、通常稲茎の処分を容易にするためこれを細かく裁断するので、藁を生産できない(この場合、細断した稲茎は田にすき込むことが多い。)。尤も稲茎を細かく裁断せず藁を生産できる種類のコンバインもあるが、藁を生産するためには、刈り取りの際に結束機が必要である上、コンバインで産出される藁は、長さが不揃いであるため畳床の原料としてはバインダーで刈り取ったものより品質が劣る。また結束機は、その性能が良くなく、価格も三〇万円位であって安価ではなく、結束機を付けると作業効率が悪くなるため普及していない。そして稲茎は藁床の原料とするためには乾燥させなければならず、右のような乾燥及び取り集め作業には手間がかかるが、高齢化と兼業が進んだ農家には、作業の増大は負担となる。そこで、前記加盟業者の内には、コンバインの普及によって藁が採れなくなったため埼玉県内の農家から藁を購入しなくなった者もおり、右業者ら及び専門家の見解では、埼玉県下において新たに藁床を主とした畳床製造業を始めても採算に合わない。

5  原告は、個人で経営する畳加工業に一人で従事し、一か月五〇ないし六〇枚の畳を加工しており、畳床の製造は行っていないが、原告が本件工場等を使用する畳床製造の事業計画においては、四、五名の従業員を雇傭し、一か月一〇〇〇枚以上の畳床を製造するものとされ、そのために一か年三六〇トン位の藁が必要である。

三 右認定の事実に基づけば、藁床の需要は一般に減少傾向にあり、また松伏町において、農家の高齢化や兼業化の傾向は顕著であり、そこで省力化のためにコンバインが普及しており、稲茎も処理を容易にするため収穫時にコンバインで細断されるので藁床の原料とすることができず、なお結束機自体が普及していない上、稲茎を細断しなくとも藁床の原料とするには乾燥等の作業が必要であり、このような作業の増加は省力化を求める右のような農家の実情に反し、実際にも加盟業者は松伏町からは藁の供給を受けておらず、このような状況から新たに藁床を主とした畳床製造業を始めても採算に合わないのであるから、このような事実に照らすと、原告の事業計画は本件調整区域の実情に適合せず、本件調整区域において、畳床の製造のために藁を加工及び貯蔵する必要はないものと認められる。したがって、本件各申請に係る各開発行為は、法三四条四号に該当しないものである。

四  ところで、証拠(甲一五ないし六三の各一、二、同八三ないし九九の各一、二、原告本人尋問の結果)によれば、原告は、本件調整区域内の六五軒の農家から原告の計画する畳床製造工場のため今後藁の取引を行うことにつき了承を得て取引証明書の交付を受け、右農家の耕作する田の面積は合計約四七〇反であり、藁の予想取引量は約三七〇トンであるというのである。

しかしながら、右各証拠及び証人川上の証言によれば、右各農家との間における藁の売買金額は未定であり、また右取引を了承した農家は高齢者が多数であり、専業農家は二軒に過ぎず、右農家の九割位がコンバインを所有しており、しかし、原告は結束機を準備せず、藁の具体的集荷方法も定まっていないことが認められる。そうすると、原告が右のような取引証明書の交付を受けたというだけでは、前記のような本件調整区域においては高齢化と兼業化が顕著であり、そのため省力化が進んでいるので藁の入手が困難であるとの状況に関し、右のような問題を何ら解決していないといわざるをえないから、これによって、原告が本件調整区域から藁を確保することが可能になったと認めることはできない。

また、証拠(甲一一五、原告本人尋問の結果)によれば、松伏町に居住する岩井一三は年間九トンの藁を使用して畳床三〇〇〇枚を製造しており、右藁のうち六トンを松伏町の農家から仕入れているというのであるが、そうだとすると、前記のように通常は畳床一畳を製造するためには約三〇キログラムの藁が必要であるのに、右岩井においては、畳床一畳当たりに使用する藁の量は三キログラムに過ぎないから、右使用量は到底合理的なものということはできず、また、松伏町から仕入れる量も六トンに過ぎず、原告が本件調整区域から仕入を予定している藁の量約三七〇トンと比較すると、その量は僅少である。したがって、右各証拠によっては、未だ原告が本件調整区域から藁を確保することが可能であると認めることはできない。

五  よって、本件各不許可処分に違法はなく、原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官大喜多啓光 裁判官髙橋祥子 裁判官中川正充)

別紙物件目録<省略>

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