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浦和地方裁判所 平成4年(ワ)189号 判決 1993年3月02日

原告(反訴被告)

株式会社高見沢分析化学研究所

ほか一名

被告(反訴原告)

小島諭

主文

一  本訴原告らの各請求を棄却する。

二  反訴被告らは、反訴原告に対し、各自金六九万六六八五円及びこれに対する平成三年九月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  反訴原告のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は、本訴反訴を通じてこれを二分し、その一を本訴原告(反訴被告)らの、その一を本訴被告(反訴原告)の各負担とする。

五  この判決は、第二項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

(本訴)

一  請求の趣旨

1 原告(反訴被告。以下、本訴反訴を通じて「原告」という。)らの被告(反訴原告。以下、前同「被告」という。)に対する別紙記載の交通事故(以下「本件事故」といい、同三加害車欄記載の車両を「加害車」、同四被害車欄記載の車両を「被害車」という。)に基づく損害賠償債務が存在しないことを確認する。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1 原告らの請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

(反訴)

一  請求の趣旨

1 原告らは、被告に対し、各自金一四一万〇四二一円及びこれに対する平成三年九月一二日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

3 仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1 被告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

第二当事者の主張

(本訴請求原因)

一  被告は、原告らに対し、本件事故に基づく反訴請求の趣旨1記載の損害賠償債権を有すると主張している。

二  よつて、原告らは、被告に対し本件事故に基づく損害賠償債務が存在しないことの確認を求める。

(本訴請求原因に対する認否)

本訴請求原因一を認める。

(反訴請求原因、本訴抗弁)

一  原告株式会社高見沢分析化学研究所(以下、「原告会社」という。)は、加害車を所有し、本件事故当時、加害車を自己の運行の用に供していた。

二  本件事故が発生した。

三  原告高橋紀子(以下、「原告紀子」という。)は、車両を運転する者として後退する場合には前進にもまして後方の安全を確認しつつ進行すべき注意義務があるのに、これを怠り、後方の安全を確認しないまま漫然と加害車を後退させた過失により、本件事故を発生させた。

四  本件事故による損害は次のとおりである。

1 治療費 金七万四七〇〇円

被告は、本件事故により頚椎捻挫の傷害を負い、三〇日間通院加療した。

2 休業損害 金八五万五〇〇〇円

<1> 被告は、当時、昭和リホーム株式会社において建設現場で労務に従事しており、一日当たりの日当は金三万円であつた。

<2> 被告は、通院のため、一七日間全日休業し、二三日間半日休業した。

<3> よつて、被告の休業損害は、

3万円×17日=51万円

1万5000円×23日=34万5000円

51万円+34万5000円=85万5000円

で八五万五〇〇〇円となる。

3 物損 金五万六八二五円

本件事故により、被害車には次の部位に損傷を生じたので、被告は修理費を支出した。

<1> フロントグリル

<2> 右ヘツドランプ

<3> フロントバンパー(フロントバンパーステー右、フロントバンパーサイドリテーナー)

<4> ラジエーターシユラウドパネル

4 代車料 金二万三八九六円

5 慰謝料 金三〇万円

被告は、本件事故による受傷により三〇日間通院加療したので、その慰謝料は三〇万円が相当である。

6 弁護士費用 金一〇万円

被告は、本件訴訟遂行に関し、被告訴訟代理人と金一〇万円で委任契約を締結した。

7 以上、被告の損害合計額は、金一四一万〇四二一円である。

五  よつて、原告会社は、自賠法三条により、原告紀子は、民法七〇九条により、各自被告が本件事故により被つた損害を賠償する義務がある。

(反訴請求原因<本訴抗弁>に対する認否)

一  反訴請求原因(本訴抗弁)一は認める。

二  同二及び三は否認する。

本件事故は、次の事実からすれば発生していない。

1 加害車及び被害車は、オートマチツク車である。

2 別紙記載の日時・場所において、加害車は原告紀子が運転し、原告紀子の父で、原告会社代表者である高橋信雄(以下、「訴外信雄」という。)が同乗していた。

3 本件事故に至るまでの経緯は順に次のとおりである。

<1> 加害車は、本件事故直前、別紙交通事故二場所欄記載の道路(通称新大宮バイパス、片側三車線)の歩道寄り車線を、前車に追随して直進していた。

<2> 加害車の前車が停止したため、加害車も停止した。

<3> 加害車は前車を回避して中央車線へ車線変更しようとし、右前方に低速度で進行しかけた。

<4> しかし、中央車線を他の自動車が間断なく通過していたため、加害車は車線を変更することができなかつた。

<5> 加害車は再度停止した。

<6> 加害車は、元に位置を戻すため、被害車に接近しながら後退し停止した。

4 右3<6>の具体的状況は次のとおりである。

<1> 原告紀子は、バツクミラーで後方の被害車の存在及びこれとの距離を確認していた。

<2> 原告紀子は、ギアをバツクに入れ、ブレーキを離し、アクセルを踏まなかつた。

<3> 後退する速度は、時速一~二キロメートルであつた。

<4> 後退した距離は、極めて短距離であつた。

<5> 被告は、ギアを前進の状態にしておき、ブレーキを踏んでいた。

<6> 被告は、加害車が後退して被害車に接近して来ることを現認していた。

<7> 本件事故当時の天候は曇りで、路面は乾いていたのに、路面に被害車のスリツプ痕がない。

5 原告紀子及び訴外信雄は衝突による衝撃を全く感じておらず、また、衝突の音も聞いていない。

6 加害車停止直後、加害車と被害車との間には数一〇センチメートルの間隔が空いていた。

7 加害車及び被害車には本件事故による損傷がない。

三  同四は否認する。

仮に加害車と被害車とが衝突したとしても、次のとおり、被告に損害は発生していない。

1 受傷について

<1> 加害車と被告車の衝突による衝撃は極めて微弱で、加害車にも被害車にも損傷は生じない程度のものであつた。仮にあつても、高々被害車の前部バンパーがわずかに凹損した程度の極めて軽微なものであつた。

<2> 被告は、本件事故当時、加害車が後退して被害車に接近してくることを現認しており、不意を襲われたということもない。

<3> よつて、被告が本件事故により受傷することはありえない。

2 休業損害について

被告は、平成三年九月一二日及び同年一〇月一日は休業していない。

3 被害車について

<1> 所有者は、訴外小松達雄である。

<2> 被害車には本件事故による損傷はなく、右ヘツドランプの左端部分だけが凹んでいるのは、本件事故によるものではない。

<3> よつて、被害車に本件事故による損害はない。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

第一本訴請求原因について

本訴請求原因一の事実は、当事者間に争いがない。

第二反訴請求原因(本訴抗弁)について

一  反訴請求原因(本訴抗弁)一の事実は、当事者間に争いがない。

二  本件事故に至るまでの経緯は、原告紀子、原告会社代表者及び被告各本人尋問の結果によれば、反訴請求原因(本訴抗弁)に対する認否二の2及び3のとおり認められる。

三  本件事故における加害車と被害車の衝突の有無について

原告らは、反訴請求原因(本訴抗弁)二の4ないし7の各事実を根拠として、本件事故の発生すなわち加害車と被害車の衝突を否定しているので、この点について判断する。

1  前掲各本人尋問の結果及び前掲認定事実によれば、加害車が、本人事故直前、片側三車線の道路(通称新大宮バイパス)の歩道寄り車線を、前車に追随して直進していたところ、加害車の前車が停止し運転者が降車してしまつたため、加害車も停止し、加害車が前車を回避して第二車線へ車線変更しようとし、右前方に低速度で進行しかけたこと、しかるに、第二車線を他の車両が間断なく通過していたため、なかなか車線変更することができず、更に、同車線を後方からダンプカーがクラクシヨンを鳴らしながら通過して行つたことから、危険を感じた原告紀子は、車線変更を断念したが、加害車が第二車線にはみ出していたので、これを後退させたこと及びその際、原告紀子はバツクミラーで後方を見てから同車を後退させたことが認められる。

2  原本の存在及び成立に争いのない甲第三ないし七号証、乙第一号証、成立に争いのない甲第一二号証の一ないし四、第一四号証、原告紀子及び被告の各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すれば、加害車が後退し、加害車の後部バンパーと被害車の進行方向右前部バンパーとが接触したこと、右接触の衝撃は軽微であつたこと及び右接触の衝撃により被告が頚椎捻挫の傷害を負つたことが認められる。

原告紀子及び原告会社代表者の各本人尋問の結果中の右認定に反する部分は、以下の理由及び前掲各証拠に照らして採用することができず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

<1> 加害車及び被害車がオートマチツク車であることについては当事者に争いがなく、甲第一四号証、原告紀子及び被告各本人尋問の結果によれば、加害車が後退した距離は一メートル前後の極めて短い距離であつたことが認められる。

ところで、加害車が後退する速度については、原告紀子はアクセルを踏まずに後退したと供述する一方、被告は加害車は急発進で後退したと供述していて、互いに対立しているが、前記のように加害車が間断なく車両の通過する第二車線へ車線変更しようとしたところ、同車線を後方からダンプカーがクラクシヨンを鳴らしながら通過したため同車線へのはみ出しを解消すべく加害車が後退したことからすると、原告紀子は、急いで後退する必要があつたものと認められ、原告紀子本人尋問の結果により認められる原告紀子の運転歴が二年程度と比較的浅いという事実を併せ考えると、原告紀子がアクセルを踏まなかつたと断定することはできない。

<2> 甲第一二号証の一及び甲第一四号証によれば、被害車の右ライトの左端部分が凹んでいる事実を認めることができるところ、原告らは、本件事故の衝突により被害車の右ライトの左端部分だけが凹んだとするのは不自然であるから、この損傷は本件事故により生じたものではないと主張する。

しかし、右各証拠及び被告本人尋問の結果によれば、被害車のバンパーは、金属の上にゴム様の覆いがなされた構造であることが認められ、そうだとすると、バンパーの衝突によりバンパーが圧迫されるのに伴いライト部分も圧迫され、弾力性のあるバンパーだけが復元し、弾力性の少ないライト部分だけが復元しなかつたものと推認することができる。

したがつて、原告らの右主張は採用できない。

<3> 甲第一二号証の一及び原本の存在及び成立について争いのない甲第九号証によれば、被害車は、軽微ではあるが、そのフロントグリル、右ヘツドランプ、フロントバンパー、ラジエターシユラウドパネルに損傷を受けた事実が認められる。

右各事実及び前記<1><2>の事実から、加害車と被害車とが衝突し、かつ、その衝突の程度は軽微であつたと認めることができる。

<4> 前掲各本人尋問の結果によれば、加害車が後退・停止した後、同車に同乗していた訴外信雄が降車して、前方に停止している前車の運転者のところに行つて車を移動させるように言つた後、被害車のところへ戻つて被告と会話を交わしたが、その際、加害車後部と被害車前部との間には、数一〇センチの間隔があつて接触し合つた状態ではなかつたことを確認した事実が認められる。

原告らは、加害車と被害車とは衝突していなかつたので、このような間隔があつたのであり、また、仮に加害車と被害車が衝突したとしても、加害車は極めて低速度で後退していたのであるから加害車と被害車との間の数一〇センチメートルの間隔は不自然であると主張する。

しかし、加害車が後退・停止した時点と訴外信雄及び被告が確認した時点とでは時間的間隔があり、加害車と被害車との間に数一〇センチメートルの間隔があつたということだけで直ちに衝突がなかつたという事実を認めることはできない。

<5> 被害車がオートマチツク車であることは当事者間に争いがないが、原告らは、加害車と被害車が衝突した際、被告はブレーキを踏んでいたのであるから、本件事故当時乾いていた路面にはスリツプ痕がつくはずであるのに、証拠上これを認めることができないと主張する。

確かに、甲第一四号証によれば、実況見分の結果、スリツプ痕は「無」とされていることが認められ、他にスリツプ痕があつたことを認めるに足りる証拠はない。

しかし、前掲各本人尋問の結果によれば、事故直後、スリツプ痕の有無を確認した事実はない。また、甲第一四号証によれば、当該実況見分がなされたのは、本件事故後約六時間半後の午後八時ころであつた事実が認められ、前記のとおり本件事故現場の交通量が激しいことに照らすと、スリツプ痕が消失してしまつたこともありうる。更に、本件事故の衝突の程度は比較的軽微なものであつたのであるから、そもそもスリツプ痕が生じないこともありうるというべきである。

したがつて、スリツプ痕を認めることができる証拠がないことをもつて前記事実を覆すには足りない。

<6> 原告紀子及び訴外信雄は、本件事故の衝突による衝撃を全く感じておらず、また、衝突の音も聞いていないのであるから、原告らは加害車と被害車の衝突はありえないと主張する。

しかし、本件事故直後、訴外信雄は加害車から降りて、前記のような行動を取つているのであるから、原告紀子または訴外信雄は、加害車が後退・停止した際に、何らかの衝撃を感じたものと推認することができる。

<7> 甲第三号証及び被告本人尋問の結果によれば、被告は本件事故の約一時間半後の午後三時前ころ、被告が勤務する昭和リホーム株式会社(川口市芝新町七―九)の近くにある被告の姉の家に立ち寄り休んでいたところ、気分が悪くなり、吐き気を覚えたので、新井整形外科(川口市芝樋ノ爪一―六―二七)で診療を受け、頚椎捻挫の傷害を負つているという診断がなされた事実が認められる。

また、被告本人尋問の結果によれば、被告は、二〇年以前に一度交通事故を起こしたがその際にはけがを負つた事実は窺えず、更に、被告は大工を職業とする者であるが、仕事上けがを負つた事実も窺えない。

<8> 以上の事実からすれば、被告は頚椎捻挫の傷害を負い、かつ、これは本件事故によるものであると認めることができる。

四  反訴請求原因(本訴抗弁)三について

前記のように、原告紀子は、加害車を後退させる際、バツクミラーで後方を見ているが、前掲甲第一四号証、原告紀子及び被告の各本人尋問の結果並びに以上の各認定事実によれば、加害車は、第二車線にはみ出していたため直進状態で停止していた被害車に対しやや斜めの状態にいたものと推定され、原告紀子は、加害車の後退を急いだこともあつて、被害車の存在及び被害車との距離を充分確認することなく後退したもので、安全確認不十分の過失があつたものと認めることができる。

五  損害について判断する。

1  治療費 金七万四七〇〇円

成立に争いのない乙第三号証によれば、被告は、新井整形外科に九月一一日から三〇日まで通院加療し、治療費として七万四七〇〇円を支払つた事実が認められる。

2  休業損害 二六万五一六〇円

<1> 被告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる乙第七号証及び被告本人尋問の結果によれば、被告は次の日時に被告が勤務する昭和リホーム株式会社を休業した事実が認められる。

イ 一日休業した日

(平成三年九月)

一二、一三、一五、一六、一七、一九、二一、二二、二三、二六、二八、二九日の一二日間

(同年一〇月)

二、五、六、一二、一三の五日間

計一七日間

ロ 半日休業した日

(平成三年九月)

一四、一八、二〇、二四、二五、二七、三〇日の七日間

(平成三年一〇月)

一、三、四、七、八、九、一〇、一一、一四、一五、一六、一七、一八、一九、二〇、二一日の一六日間

計二三日間

<2> 原本の存在及び成立に争いのない甲第四ないし七号証によれば、被告が本件事故により受傷した頚椎捻挫を治療するために新井整形外科に通院した日及び治療内容は次のとおりである。

イ  平成三年九月

(日時)

一一、一二、一三、一四、一七、一八、一九、二〇、二一、二四、二五、二六、二七、二八、三〇日の一五日間

(治療内容)

頚椎固定、頚椎固定の巻き直し、理学療法(消炎鎮痛)、ハリ治療

ロ  平成三年一〇月

(日時)

一、二、三、四、五、七、八、九、一一、一二、一四、一五、一六、一七、一八、二一日の一六日間

(治療内容)

理学療法、ハリ治療、運動療法

<3> 右<2>の事実によれば、頚椎固定の治療を除けば比較的時間を要しないものと認められる。

また、右<1>の事実によれば、被告は、平成三年九月一四日には通院し、かつ、半日休業したのみで就業している。

したがつて、被告は、同日以降は就業は可能であつたが、現に通院した日のみ治療のために半日は休業せざるをえなかつたものと認めるのが相当である。

そうだとすると、休業損害の基礎とすべき日数及び休業の程度は次のとおりであつて、被告が主張する他の部分は、本件事故と相当因果関係がないというべきである。

イ 一日休業した日

平成三年九月一二日、一三日の二日間

ロ 半日休業した日

(平成三年九月)

一四、一七、一八、一九、二〇、二一、二四、二五、二六、二七、二八、三〇日の一二日間

(平成三年一〇月)

一、二、三、四、五、七、八、九、一一、一二、一四、一五、一六、一七、一八、二一日の一六日間

計三三日間

<4> 原本の成立及び存在に争いのない甲第八号証によれば、被告の平成三年八月分の給料は金四三万円である。休業損害算定の基準としては、事故前の収入を基礎とすべきであるから、被告の平成三年九、一〇月の一日当たりの収入は、

43万円÷30日=1万4333円

で一万四三三三円となる(小数点以下切り捨て。以下同じ。)。

右額は、被告の訴訟前の主張にも合致する(甲第一一号証)。

なお、乙第一三、第一五号証によれば、被告は、前記休業をしながらも、平成三年九月分、一〇月分の給与として五一万円、四二万八〇〇〇円の各支払いを受けていることになるが、これらは、その計算根拠が不明であるから休業損害算定について的確な資料とはなしがたい。

<5> よつて、被告の休業損害は、

1万4333円×2日=2万8666円

1万4333円÷2×33日=23万6494円

2万8666円+23万6494円=26万5160円

で二六万五一六〇円となる。

3 物損 金五万六八二五円

原本の成立及び存在に争いのない甲第九号証及び被告本人尋問の結果により真正に成立したと認められる乙第六号証並びに同尋問の結果によれば、被告は、本件事故当時、被害車の所有者(成立に争いのない甲第二号証によると、登録名義は訴外小松達男である。)で、平成三年一一月二〇日、被害車の修理費として福島自動車に対し五万六八二五円を支払つている事実が認められる。

したがつて、被害車に生じた損害は金五万六八二五円である。

4 代車料 認めない。

被告は代車料として金二万三八九六円の損害を主張するが、見積書(乙第五号証)のみが提出され、現実の代車利用の日時が不明で、かつ、その領収書の提出もないから、この損害については未だ立証が尽くされていないというべきである。

5 慰謝料 金二〇万円

被告の傷害の程度及び加療経過等の事情を考慮すれば、本件事故により被告が受けた精神的苦痛を慰謝する額は金二〇万円を相当と認める。

6 弁護士費用 金一〇万円

本件訴訟の経緯及び弁論の全趣旨によれば、弁護士費用は、被告請求の金一〇万円が相当である。

7 以上の合計は六九万六六八五円となる。

六 結論

よつて、原告らは、被告に対し、各自金六九万六六八五円及びこれに対する本件事故の日である平成三年九月一一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があり、被告の反訴請求は右の限度で正当であるからこれを認容し、その余の請求は理由がないから棄却し、原告らの本訴請求は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 山崎健二)

交通事故

一 日時 平成三年九月一一日午後一時三〇分ころ

二 場所 浦和市田島五丁目九番二八号先道路上

三 加害車 原告高橋紀子運転の普通乗用自動車(大宮五三ひ一五九〇)

四 被害車 被告運転の普通乗用自動車(練馬五二む四六六〇)

五 態様 加害車の右後部が被害車の右前部に衝突した。

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