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浦和地方裁判所 平成4年(ワ)1705号 判決 1993年12月27日

原告

森林英雄(原告英雄と略称)

森林園子(原告園子と略称)

森林知江(原告知江と略称)

森林順子(原告順子と略称)

日本火災海上保険株式会社

(原告会社と略称)

右代表者代表取締役

佐野喜秋

右五名訴訟代理人弁護士

神田洋司

棚谷康之

外一名

被告

近内石油株式会社

右代表者代表取締役

近内いと

右訴訟代理人弁護士

須田清

間中彦次

外二名

主文

一  被告は原告園子に対し、金四二万三六六六円及びこれに対する平成四年七月一日から完済まで年五分の割合による金銭を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、原告園子に生じた費用の一〇分の一を被告の、その余の費用は全て原告らの、各負担とする。

四  右一につき仮に執行することができる。

事実及び理由

第一原告の主たる申立

被告は各原告に対し、次の金銭及びこれに対する平成三年一二月一九日から完済まで年五分の割合による金銭を支払え。

原告英雄 金九四五万円

原告園子 金五七五万五〇〇〇円

原告知江 金二四〇万円

原告順子 金二四〇万円

原告会社 金三一四八万一五一〇円

第二事案の概要

一原告らの請求

本件請求は、被告の販売したガソリンを石油ストーブに給油して点火したことによるとする火災に関する不法行為(使用者責任)もしくは売買契約の債務不履行を理由とする損害金と遅延損害金の請求である。

二争いない事実と証拠上容易に認められる事実

(以下、事実認定に使用した証拠等は[ ]内に掲げる。)

1  当事者

原告英雄と同園子は夫婦であり、原告知江及び同順子はその子供で、原告園子を除く者はいずれも原告英雄所有の別紙物件目録記載の建物部分(本件建物と略称)に居住し、原告園子はときどき本件建物に来ていた[<書証番号略>、原告園子]。

原告会社と原告英雄は、昭和六二年九月二九日、本件建物について生じた損害を填補する目的で、保険期間を同日から平成五年九月二九日までとする、火災普通保険契約を締結した(本件保険契約と略称)[<書証番号略>、弁論の全趣旨]。

被告は、本件建物から一〇〇メートル以内にある、川口市芝中田二丁目三一番九号でガソリンスタンド(本件給油所と略称)を営み、ガソリン及び灯油等を販売しており、被告の従業員で同給油所における乙類四種の危険物取扱者である染谷孝弘(染谷と略称)、保安監督者の河井隆行、学生アルバイトの従業員である佐藤英昭(佐藤と略称)等を使用していた[証人佐藤、弁論の全趣旨]。

2  ガソリンの販売

原告園子は、平成三年一二月一八日午後一〇時一五分ころ、本件給油所において、容量二〇リットルのポリタンクを持参して、佐藤を介して被告から結果的にガソリン一八リットルを買い求め(本件売買と略称)、佐藤に本件建物が含まれる四階建マンションのエレベーターまで、右ガソリンを入れたポリタンクを運搬させた。

3  火災

原告園子は、右マンションの四階の本件建物まで右ガソリン入りのポリタンクを運び、居間の石油ストーブに給油して点火し、しばらく同所にいた後別室に行って就寝した。

その後翌一九日午前〇時ころ、原告順子がストーブの下の受け皿が燃えているのを発見し、原告園子とともに消化しようとしたが絨毯等に燃え移り、一一九番通報をしたものの、程なく本件建物の内約四〇平方メートルが焼損した(本件火災と略称)。

右火災の原因は、ストーブに給油されたガソリンがタンクの内圧の上昇によりオーバーフローし、これに引火したことにある。

[以上につき、<書証番号略>、原告園子]

4  保険金の支払い

原告会社は原告英雄に対し、本件保険契約に基づき、平成四年二月九日、保険金二八九八万一五一〇円を支払った[<書証番号略>、弁論の全趣旨]。

5  催告

原告らは被告に対し、平成四年六月二九日発送の内容証明郵便をもって本件火災による損害金の請求をし[<書証番号略>]、同内容証明郵便は翌三〇日被告に到達したものと考えられる。

三主たる争点

1  佐藤による不法行為もしくは売買契約の債務不履行の成否

(一) 原告らの主張

(1) 本件火災による損害賠償については失火責任法の適用はない。

(2) 原告園子が「石油を下さい」と言ったのに、佐藤はガソリンを売り渡した。

(3) 原告園子が「ガソリンを下さい」と言ったとしても、同人はポリタンクを持参し、マンションのエレベーター内まで運ばせたのであるから、佐藤は灯油を購入するところを誤ってガソリンと言ったのではないかと確かめるべき注意義務があるのにこれを怠った。

(4) ガソリンを販売するには、危険物取扱者の立ち会いが要求されており、また二〇リットル入りのポリタンクに給油してガソリンを販売してはいけないのに、本件売買当時本件給油所に危険物取扱者が不在で、佐藤は二〇リットル入りのポリタンクに給油してガソリンを販売した。

(5) 以上(2)〜(4)の佐藤の行為については

ア 過失及び重過失のある行為であり、

イ 売り主の履行補助者として、信義に従い債務を誠実に履行すべき付随義務を怠ったものとして、原告園子に対する債務不履行を構成し、

ウ 更に、原告園子及び原告会社以外の原告ら(単に「原告園子の家族」とも略称)と原告園子との身分関係を考えると、本件売買契約は原告園子の家族の授権に基づくものであり、あるいは原告園子の家族の追認したことにより、更には第三者保護効により、原告園子の家族も本件売買契約の債務不履行責任を追及しうる地位にあると言うべきである。

(二) 被告の主張

(1) 本件火災による損害賠償については失火責任法の適用がある。

(2) 原告園子は「ガソリンを下さい」と言った。

(3) 原告園子は、佐藤がガソリンをポリタンクに給油するところを見て、灯油の倍位の価格でかつガソリンと明示した領収書を受領しているし、ガソリンをポリタンクで購入する人はままあることであるから、佐藤がガソリンを下さいと言われて、これをそのまま信じたことはやむを得ないことであり、同人には原告ら主張の注意義務はない。

(4) 行政上の規制に違反するとしても不法行為の過失とはならないし、右行政上の規制が守られたとしても、原告園子が誤ってガソリンを購入したものと考えられるから、原告らの損害発生との因果関係がない。更に右規制違反につき被告の責めに帰すべき事由もない。

(5) 以上のとおりであるから、佐藤には過失も重過失もなく、被告の債務不履行もない。原告らの主張する授権、追認及び第三者保護効の考えは失当である。

(三) 以上の双方の主張から不法行為及び債務不履行の成否については次の五点が争点となる。

(1) 失火責任法の適用の有無

(2) 原告園子の注文の言葉の内容

(3) 佐藤の誤注文と気付くべき注意義務

(4) 消防法等の法令違反と過失及び因果関係の存否

(5) 被告の原告園子の家族に対する債務不履行責任

2  原告らの別紙損害目録記載の損害発生の有無

第三主たる争点に対する判断

一まず、不法行為の主張から検討する。

1  失火責任法の適用の有無

本件は、第二の事案の概要に記載の点から明らかなように、売り主である被告の従業員の過失による火災から生じたとする損害賠償請求の事案であり、失火責任法の適用があるものと考えられる結果、被告の損害賠償責任の発生を認めるためには失火者たる右従業員に故意又は重過失が必要となると考えられる。

原告は、木造家屋の減少した現代において失火責任法の妥当性は後退しており、部分焼に留まった本件火災については失火責任法を適用すべきでないと主張するが、失火による予期せぬ損害の賠償を制限しようとした失火責任法は今日でもその趣旨は妥当するし、部分焼にこれを適用すべきでないと言うこともできないので、その主張は採用の限りでない。

2  原告園子の注文の言葉の内容

原告園子が本件売買に際し、「石油を下さい」と言ったか。

(一) 原告園子は、その本人尋問や川口消防署の事情聴取に際して、本件売買に際して「石油を下さい」と言った旨供述し、同人が購入したガソリンを石油ストーブに給油していることからすれば、同原告が灯油を購入するつもりであったことは明らかであり、同人の供述するように、「石油を下さい」と言ったことも考えられる。

(二) しかし、佐藤は、その本人尋問や川口消防署の事情聴取に際して、原告園子が「ガソリンを下さい。」と言った旨供述し、更に、本件給油所の従業員の大脇弘行は、原告園子が「ガソリンを下さい」と言ったのを聞いた旨、陳述書に記載している[<書証番号略>]。

(三) 佐藤の供述は、消防署の事情聴取から一部ささいな点で食い違いはあるものの、ガソリンの販売の前後の原告園子と佐藤の行動等については一貫して、詳細な供述をしており、法廷での供述態度も質問に丁寧にかつ直截に対応しているのに対し、原告園子の法廷での供述態度は、質問に対しじっくり考えながら答えているもので、見方によっては、自己の答えの本件への影響を考えながら回答していると見られないこともなく、その記憶も必ずしも明瞭でない部分も見られる。

また、原告園子は「石油を下さい」と言うつもりで「ガソリンを下さいと言ったのに、「石油を下さい」と言ったものと思い込んでしまい、そのように記憶しているおそれも考えられるが、佐藤は、「灯油かな?」と考えて、「ガソリン」と言われたからガソリンであろうと思って、給油している[証人佐藤]もので、同人の聞き間違いの可能性は少ないと考えられる。

これらの点に、前記大脇の陳述書の記載を併せて考慮すると、全体として佐藤の供述の方が採用できるものと考えられる。

(四) 以上のとおりであるから、原告園子が「石油を下さい」と言った事実を認めることは出来ず、逆に、原告園子が灯油を購入するつもりで、「ガソリンを下さい」と言い間違えたものと認めることができよう。

3  佐藤の誤注文と気付くべき注意義務

原告園子が容量二〇リットルのポリタンクを持参して購入を求めたこと、マンションのエレベーター内まで運んだこと等から、原告園子が「ガソリンを下さい」と言ったとしても、佐藤には灯油を購入しようとしていることに気付き、「灯油を購入するのではないですか」等と確認する注意義務があったか。

(一) 前記判示の

(1) 原告園子は、一般には灯油を入れることの多い二〇リットル入りのポリタンクを持参して給油を求め、佐藤も灯油を購入するのかなと考えたこと、

(2) 原告園子は、給油したポリタンクをマンションのエレベーター内まで運ばせたこと

に加えて、

(3) 佐藤はポリタンクを持参してガソリンの給油を求める人に販売の経験があるが、いずれも三〜一〇リットル程度であったこと[証人佐藤]

(4) 本件給油所で販売しているガソリン等は危険物として消防法等関係法令により詳細な規制がなされ、特に一〇リットルを越えるポリ容器にガソリンを収納することは、危険物の規制に関する政令二七条三項一号、危険物の規制に関する規則三九条の三等により禁止されていること

(5) 本件売買におけるガソリンの引き渡しの方法が、通常の給油所におけるガソリンの販売形態である自動車に給油するのと著しく異なること

等の各諸点に鑑みれば、佐藤は、原告園子が灯油を購入するところを誤って「ガソリンを下さい」と言ったのではないかと確かめるべき注意義務があったと考えられる。

(二) しかし、右注意義務を検討するうえで証拠等(<書証番号略>、原告園子本人、証人佐藤、弁論の全趣旨)により認められる次の事実(争いない事実を含む。)を考慮する必要がある。

(1) 原告園子は車を運転し、被告の給油所でガソリンを給油したこともあり、本件給油所でも、ガソリンの給油場所と灯油の給油場所は異なったところにあること、

(2) 原告園子は、佐藤がガソリンを給油するところを見ており(この点を否定する原告園子の供述部分は採用しない。)、給油後、ポリタンクのキャップに穴が開いていることを指摘された際に、揮発性が高い旨説明されていること、

(3) 原告園子は、ガソリンと明示した領収書を受領していること

(4) 灯油はガソリンに比べて値段が半分ほどであり、原告園子も本件売買代金を支払うとき高いことに気付いていること、

(5) ガソリンをポリタンクで購入する人はままあること

(三) 右(二)の事実に鑑みれば、佐藤がガソリンを下さいと言われて、これをそのまま信じたことにはやむを得ない面もあり、たとえ佐藤に原告主張の注意義務を認めることができるとしても、右注意義務違反をもって佐藤に著しい過失即ち重過失ありということはできない。

4  消防法等の法令違反と過失及び因果関係の存否

容量二〇リットルのポリタンクに一八リットルのガソリンを入れて販売したこと、危険物取扱主任者の不在の時にガソリンを販売したことが、不法行為の要件たる過失となるか。

(一) 一〇リットルを越えるポリ容器にガソリンを収納することは、危険物の規制に関する政令二七条三項一号、危険物の規制に関する規則三九条の三等により禁止されており、また、消防法一三条三項等によれば、本件給油所のような危険物取扱所においては、危険物取扱者の立会なしにガソリンのような危険物を取り扱ってはならないこととされているのに、佐藤は前記のとおり二〇リットル入りのポリタンクにガソリンを給油して販売した。

(二) 佐藤がアルバイトの従業員であり、危険物取扱者の資格を有していなかったし、同資格を有していた染谷らは本件売買当時、本件給油所にいなかった。また、佐藤は前記消防法等の規制を理解していなかった[<書証番号略>、証人佐藤]。

(三) 右(一)、(二)の点では佐藤は消防法等に違反していたことが明らかである。

しかし、前記消防法等の規制は、引火性を有する危険な物の保存、運搬等の取り扱いに関し、危険な物をその危険度に応じて分類し、危険度に応じた慎重な取り扱いを義務付け、もって右危険物の取り扱い過程に随伴する通常の事故(例えば自然発火等)を防止しようというものである。従って、本件火災がガソリンの保存、運搬中の自然発火等によって生じ、消防法等の規制を順守していれば、右結果発生を回避できたような場合であれば、右消防法等の規制違反は、右結果を予見し、回避する義務(注意義務)に違反したものとして不法行為の要件たる過失を構成するものと言える。

しかし、本件火災は、原告園子が灯油と間違ってガソリンを注文して購入し、右ガソリンを石油ストーブに給油して点火したことによるものであり、右のような事故は前記消防法等の規制手段で防止することが予定されている事故とは著しく異なるものと言え、佐藤が消防法等の規制を順守していれば右結果を回避できたと言うものでもない。

従って、佐藤の消防法等の規制違反をもって、同人が本件火災を予見し、回避する義務に違反したものとすることはできず、同人の消防法等の規制違反は不法行為の要件たる過失を構成するものと言うことはできない。

仮に右過失を肯定したとしても、右に判示の事実によれば、本件火災による損害と右注意義務違反が相当因果関係があると言うことはできない。

5  よって、原告らの、不法行為の主張は理由がない。

二債務不履行について

1  灯油売買契約の債務不履行

原告園子が「石油を下さい」と言ったことを認めることのできないことは前記のとおりであり、従って灯油の売買契約を前提とする債務不履行の主張は理由がない。

2  ガソリン売買契約の付随義務の債務不履行

(一)  次に、原告主張の、ガソリンの売買契約が成立したとしても、佐藤が原告園子の誤注文に気付きこれを確かめるべき義務を怠ったこと及び消防法等の法令に違反したことを売買契約の当事者に信義則上生ずる付随義務違反であるとする点につき以下検討をする。

(二)  まず、消防法等の法令違反の点についてであるが、危険物の売り主は信義則上消防法等の法令を順守して売買する義務があるか否かはさておき、これがあると解することができるとしても、前記不法行為の主張に対する判断において検討したとおり、本件火災の発生は右消防法等の規定を順守していれば防止できたものと言うことはできないから、右義務違反と本件火災による損害の発生とは相当因果関係があるものということはできない。

(三)  次に、誤注文に気付きこれを確かめるべきことが、信義則上本件売買契約の売り主に要請されているかの点につき、以下検討する。

前記一3(一)(1)ないし(5)の各諸点すなわち、灯油を入れることの多い二〇リットル入りのポリタンクで注文を受け、佐藤も灯油かなと考えたこと、マンションのエレベーターまで運んだこと、かつてのポリタンクでのガソリンの販売は少量であったこと、法令の規制に反していること、売買の目的物がガソリンという危険物であること、販売方法が通常の場合と著しく異なっていること等を考慮すれば、売買契約の締結という原告園子と極めて緊密な契約関係に入った被告の履行補助者である佐藤には、遅くともポリタンクをマンションのエレベーター内に運び込んだ時点までに、原告園子が灯油を注文するところを誤ってガソリンの購入を申し込んだのではないかと疑問を持つことは十分可能であり(現に佐藤は当初からその疑問を持った。)、佐藤において原告園子が注文の間違いをしていることに気付き、注文を確認すべき信義則上の付随義務があったと考えられる。

(四)  佐藤は、右義務を尽くすことなく、原告園子にガソリンを給付し、その結果本件火災が発生した[証人佐藤、原告園子本人、弁論の全趣旨]。

従って、佐藤を履行補助者として使用していた被告は、原告園子に対する、売買契約の債務不履行責任を負うこととなる。

3  被告の、原告園子の家族の原告らに対する債務不履行責任

(一) 原告らは、次の理由から、原告園子の家族の原告らも本件売買の債務不履行責任を追及できる旨主張する。

(1) 本件売買に先立って、原告園子及び原告会社以外の原告ら(原告園子の家族)から原告園子に対し、同人の名において売買契約をし、その法律効果を他の原告らに及ばせる内容の授権があった。

(2) 原告園子の家族は原告園子に対し、本件売買の後、その効果を他の原告らに及ばせる旨の追認をした。

(3) 原告園子と同人の家族との身分関係を考えると、本件売買の目的物を原告園子の家族が使用・消費することが合理的に予想されるから、原告園子の家族は本件売買契約の第三者保護効の保護範囲にある。

(二) そこで検討する。

まず、原告ら主張の授権や追認の事実を認めることのできる証拠はないばかりか、仮にこれが認められたとしても、本件売買において、原告園子がその家族のためにする意思を有し、その旨の意思表示をした訳でもなく、佐藤において原告園子がそのような意思を有していることを知り得べきもないから、授権や追認によってその契約の効果が原告園子の家族らに帰属するとは言えず、右主張は採用の限りでない。

また、原告ら主張の第三者保護効の保護範囲にあるとの点も、独自の見解であって採用できない。

4  原告園子の別紙損害目録記載の損害発生の有無と因果関係

(一) 焼失家財等 一四一万八三三三円

原告園子は、離婚したわけではないが、本件火災の約五年前から原告英雄と別居して実家に帰り、本件建物に居住しておらず、二、三か月に一度位本件建物を訪ねていた[原告園子本人]。右状況からすれば、原告園子の家財の主要な部分が本件建物にあったとは考えにくく、通常の夫婦の三分の一程度しかなかったものと推定できる。

原告英雄は本件火災の当時五〇歳であり[<書証番号略>]、その標準家庭の家財が一一五〇万円であると見られ、その三七パーセントが世帯主でない配偶者である原告園子の所有であると考えられる[<書証番号略>、弁論の全趣旨]。従って、その三分の一の一四一万八三三三円が原告園子の焼失家財の損害と見ることができる。

(二) 慰謝料 五〇万円

原告園子は、本件火災に際して、消火活動をしたが火勢が衰えず、ベランダに逃げて救助され、右上下肢と顔面に熱傷を受け、一日入院するなどした[<書証番号略>、原告園子本人]。これらにより原告園子の受けた精神的苦痛を慰謝するには五〇万円を相当とする。

(三) 弁護士費用 二〇万円

右損害額、後記過失相殺を除くその他本件事案の諸般の事情を総合すれば、前記不法行為と相当因果関係ある弁護士費用は二〇万円とするのを相当とする。

(四) 合計 二一一万八三三三円

(五) 相当因果関係

ガソリンと灯油の間違いにより火災の発生することはままあることであり、原告園子の本件火災による前記損害はいずれも火災により通常生じうるものであるから、佐藤の前記付随義務違反と相当因果関係があるものと考えられる。

5  過失相殺

(一) 既に判断したように、本件火災の発生に関しては、佐藤が灯油の間違いではないかと確かめるべき信義則上売買契約に伴う付随義務を怠って、ガソリンを販売した結果によるものである。

(二) しかし、既に判示の事実関係から明らかのように、本件火災の主要な原因は、灯油を購入するつもりで「ガソリンを下さい」と言ってしまい、ガソリンを給油されているところを目撃しながら過ちに気付かず、購入したガソリンを石油ストーブに給油して点火した原告園子の著しい不注意にあると言わざるを得ない。

原告園子は、給油を目撃した際、給油したポリタンクを受領した際(灯油とガソリンの匂いの相違に気付く可能性)、揮発性が高い旨佐藤より言われた際、ガソリンと書かれた領収書を受領し、高いと思った際等に自己の言い間違いに気付くチャンスが何度もありながらこれに気付かなかった点にも落ち度を考えざるを得ない。

(三) これらの点を比較すれば、原告園子の佐藤の過失に優る過失を認めざるを得ず、結局本件損害につき原告園子の過失を八割斟酌するのを相当としよう。

6  賠償を求められる金額

(一) 右過失相殺の結果、原告園子の被告に賠償をもとめることのできる損害は四二万三六六六円となる。

(二) なお、債務不履行に基づく損害金は期限の定めのない債務であるので、これが遅滞となるためには催告を要し、催告の到達した翌日である平成四年七月一日から遅延損害金が発生するものと考えられる。

第四結論

よって、原告園子の請求は、右の損害額と遅延損害金を求める限度で理由があり、原告らのその余の請求は、その他の点につき判断するまでもなくいずれも理由がない。

(裁判官 田村洋三)

別紙一 物件目録

川口市芝中田二丁目三一番地六、三一番地五所在

鉄筋コンクリート造陸屋根四階建共同住宅、店舗

一階 256.72平方メートル

二階 256.00平方メートル

三階 256.00平方メートル

四階 264.04平方メートル

右建物の内、四階四〇六号室六三平方メートル

別紙二 損害目録

一 原告英雄 三八四三万一五一〇円

1 本件建物の焼損 二八九八万一五一〇円

原告英雄所有の本件建物の焼損により要した修理費、残存物取片付費用、その他臨時費用

2 逸失賃料 四七万五〇〇〇円

原告英雄が賃貸している本件建物の隣室三〇六号、三〇七号の二室が消火活動により使用不能となったため、免除した賃料相当分

3 賃借人の代室料 一三万円

右三〇七号室が使用不能なため、代室として手配したホテル代

4 焼失家財等 七二四万五〇〇〇円

原告英雄は五〇歳であり、その標推家庭の家財が一一五〇万円でありその六三パーセントが世帯主の所有と見るべきである。

5 慰謝料 七〇万円

6 弁護士費用 九〇万円

二 原告園子 五七五万五〇〇〇円

1 焼失家財等 四二五万五〇〇〇円

原告英雄は五〇歳であり、その標進家庭の家財が一一五〇万円でありその三七パーセントが世帯主でない原告園子の所有と見るべきである。

2 慰謝料 一〇〇万円

3 弁護士費用 五〇万円

三 原告知江 二四〇万円

1 焼失家財等 一二〇万円

世帯主以外の家族は少なくとも右の家財を所有する。

2 慰謝料 一〇〇万円

3 弁護士費用 二〇万円

四 原告順子 二四〇万円

1 焼失家財等 一二〇万円

世帯主以外の家族は少なくとも右の家財を所有する。

2 慰謝料 一〇〇万円

3 弁護士費用 二〇万円

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