大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

浦和地方裁判所 平成3年(ワ)1329号 判決 1997年7月02日

原告兼原告王逸馳法定代理人

張正芸

原告

王逸馳

右原告ら訴訟代理人弁護士

鈴木孝雄

被告

湯沢保紀

外一名

右被告ら訴訟代理人弁護士

江口保夫

江口美保子

主文

一  被告らは、連帯して、原告張正芸、原告王逸馳及び原告に対し、各金五九三万五九五七円及びこれに対する平成三年二月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを五分し、その一を被告らの負担とし、その余は原告らの負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

(主位的請求)

1 被告らは、連帯して、原告張正芸に対し金五三二一万五一〇一円、原告王逸馳に対し金五三二一万五一〇一円、原告に対し金五〇〇万円及び右各金員に対する平成三年二月四日から支払済みまでの年五分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は被告らの負担とする。

3 仮執行宣言

(予備的請求その一)

被告らは、連帯して、原告張正芸に対し金三五四七万六七三三円、原告王逸馳に対し金三五四七万六七三三円、原告に対し一七七三万八三六六円及び右各金員に対する平成三年二月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(予備的請求その二)

被告らは、連帯して、原告張正芸に対し金二六六〇万七五五〇円、原告王逸馳に対し金二六六〇円七五五〇円、原告に対し二六六〇万七五五〇円及び右各金員に対する平成三年二月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  交通事故の発生

被告湯沢伸は、平成二年六月二〇日午後一一時四〇分ころ、埼玉県蕨市中央三丁目七番五号先路上において、普通乗用自動車(大宮せ一〇九〇、以下「加害車両」という。)を運転して進行中、同所において自転車に乗って進行してきた王矛の自転車前輪部左側に加害車両右側前部を衝突させて、同人に脳挫傷、外傷性くも膜下出血等の傷害を負わせた。王矛は、右傷害により同月二九日死亡した(以下「本件事故」という。)。

2  責任原因

被告湯沢伸は、前方注視義務を怠り、進行方向を注視せず漫然進行したため、本件事故を発生せしめた。

被告湯沢保紀は、加害車両の保有者であり、加害車両を被告湯沢伸の運行の用に供したものである。

したがって、被告湯沢伸は、民法七〇九条に基づき、被告湯沢保紀は、自賠法三条に基づき、連帯して原告らの損害を賠償すべき責任がある。

3  損害

(1) 外国人の逸失利益の算定にあたっては、日本人と平等に取り扱うべきであり、日本人に対する基準によって算定すべきである。

王矛は、昭和二六年八月二七日、中華人民共和国(以下「中国」という。)において生まれ、昭和六一年四月、中国では大学卒業以上の学歴とされ国家の幹部認定機関である北京市高等教育自学考試党政治幹部基礎科の学業課程を卒業し、死亡時には中国最初の通信教育大学である北京人文函授大学副校長と国営雑誌「中国青年報」の国内部主任の職にあった。王矛は、平成元年一月以来人文活動を目的として日本に滞在して、国内外の取材執筆活動に従事しており、日本における著書(翻訳を含む。)にも「中国文化故事物語」「謎の西南シルクロード」「三国志絵巻」等がある。王矛は、日本では株式会社原書房と顧問契約を締結し、一か月当たり一五万円の顧問料を受け取っていたほか、香港の新聞社にも寄稿し、原稿料を受け取っていた。

右のとおり、王矛は、日本における大学卒業以上に相当する学歴を有し、かつ日本等中国国外においても大学卒業以上の高度かつ専門知識者として稼働できる学識経験を有していた者であるが、日本における滞在期間が短く著作等による収入が固定していなかったので、その逸失利益については、次のとおり、日本における大学卒男子労働者の賃金センサスによる基準によって算定するのが相当である。

死亡時年齢 三八年

平均余命 39.46年

平均年収 六一〇万五四〇〇円

平均就労可能年数 二九年

生存した場合の自己消費率 三分の一

新ホフマン係数 17.629

以上を前提として計算すると、七一七五万四七三一円となる。

(610万5400円÷3×2×17.629=7175万4731円)

(2) 仮に、日本における賃金センサスを基準とした算定がなされないとしても、王矛は、一九八七年から一九八八年にかけて中国では以下のとおりの収入があったのであるから、その収入額を基準として逸失利益を算定すべきである。

王矛は、中国青年報の国内部主任の地位にあり、二年間に三万六〇〇〇元を得ていた。また、王矛は、北京人文函授大学の副校長の地位にあり、年間四八〇〇元の収入を得ていたほか、教材作成の報酬として二年間に一万五〇〇〇元の支払いを受けており、さらに、雑誌「少男少女」誌の企画、編集、監修等に関与して、その報酬として毎月三五〇元のほか二年間で二万五四二〇元の報酬を、北京青少年報刊社の顧問として企画編集に携わり、二年間に三万五六四五元の報酬を、中国企業文化研究院において教材制作及び企画に携わり、二年間に三万二五〇〇元の報酬を、恵城発電処北京事務所で北京駐在事務所担当者として勤務し、二年間に三万六〇〇〇元の報酬を得ていた。そのほか、王矛は、香港の出版社に対する寄稿の原稿料として、七か月で四八三四元の収入を得ていた。

そして、中国では、近年の経済成長により所得水準も急激に上昇しており、逸失利益算定にあたってはこの点を考慮すべきである。

(二) 慰謝料

王矛は、いわゆる一家の主柱であるとともに、中国においても知名度が高く、中国最初にして最大規模の通信制大学を創設するなど、高度の学識見識と活動力を発揮してきた前途有為のかけがえのない人材であり、慰謝料は日本における基準の最高額が支払われてしかるべきであり、その金額は二五〇〇万円が相当である。

右(一)(二)の合計は九六七五万四七三一円になる。

4  相続

(一) 原告張正芸は王矛の妻、原告王逸馳は王矛の子、原告は王矛の母、訴外王恵平は王矛の父である。

(二) 主位的請求について

法例によると、相続については被相続人の本国法によることになっているところ、中国民法通則一四九条によると動産の相続については被相続人の死亡時の住居地法によるとされており、債権については動産に準じて準拠法を決定すべきである。

王矛は、日本に住所を有していたのであるから、本件損害賠償請求権の相続については、日本法に従い、配偶者である原告張正芸が二分の一、子である原告王逸馳が二分の一となり、したがって、同原告らの損害は各金四八三七万七三六五円となる。

また原告は、王矛の母親であり、王矛の死亡によって多大の精神的苦痛を受けた。原告の固有の慰謝料の金額は五〇〇万円が相当である。

(三) 予備的請求その一について

仮に、中国法によるとすると、中国相続法では相続人を親、子、配偶者と規定している。その割合は、親、子、配偶者それぞれが三分の一の相続割合を有すると解すべきである。

したがって、その相続割合は、原告張正芸、原告王逸馳各三分の一、原告が六分の一となり、原告張正芸、原告王逸馳は各金三二二五万一五七七円、原告は一六一二万五七八八円となる。

(四) 予備的請求その二について

仮に、中国法の相続割合が、相続人の続柄に関係なく同一であるとすると、原告張正芸、原告王逸馳、原告は各四分の一ということになり、各金二四一八万八六八二円になる。

5  弁護士費用

原告らは、本件事故に基づく被告らに対する損害賠償請求の訴を提起することを原告訴訟代理人に委任した。被告らは、原告らが原告訴訟代理人に支払うべき報酬のうち請求認容額の一割を負担すべきである(ただし、主位的請求につき原告は弁護士費用を請求しない。)。

また、認容額の合計が原告らの請求金額の合計に満たないときは、被告らは、請求金額を上限として、弁護士費用として認容額をもって計算された東京弁護士会規定の着手金及び報酬金を支払うべきである。

6  よって、原告らは、被告らに対し連帯して、不法行為も基づく損害賠償請求として、主位的に原告張正芸及び原告王逸馳は各五三二一万五一〇一円、原告は五〇〇万円、予備的に原告張正芸及び原告王逸馳は各三五四七万六七三三円、原告に対し一七七三万八三六六円、さらに予備的に原告張正芸、原告王逸馳及び原告は各二六六〇円七五五〇円並びに本件事故後である平成三年二月四日から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1及び2の各事実は認める。

2  同3の事実は否認する。

逸失利益の算定については、王矛は日本における滞在期間も短く、就労許可も得ていないことから、日本国民の平均賃金及び平均余命によるべきではなく、中国における当該統計によるべきである。

また、中国における王矛の収入を基礎として逸失利益を算出するとしても、原告主張の収入額は過大である。

さらに、慰謝料は、被害者の死亡によって被害者または遺族らが被った精神的苦痛を和らげるために支払われる金銭であるところ、原告らは、中国で居住しており、今後も中国で生活していくことが予定されており、慰謝料を中国で費消することが予想される。したがって、本件の慰謝料算定においては、中国の所得水準、物価水準等を考慮して決すべきである。また、原告張正芸と王矛との婚姻関係は破綻しており、右事情も慰謝料算定に当たり考慮すべきである。

3  同4(一)記載の事実は認める。

三  抗弁

中国においては、重婚的内縁関係にある者も配偶者として相続権を有する。そして、王敏と王矛とは内縁関係にあった。したがって、王敏も王矛の相続人であり、王敏の相続分は控除すべきである。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実は否認する。

第三  証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録のとおりであるから、これらの各記載を引用する。

理由

一  請求原因1、2及び4(一)の各事実は、当事者間に争いがない。

二  同3(一)の事実について

1 財産上の損害としての逸失利益は、事故がなかったら存したであろう利益の喪失分として評価算定されるものであり、その性質上、種々の証拠資料に基づき相当程度の蓋然性をもって推定される当該被害者の将来の収入等の状況を基礎として算定せざるを得ない。損害の填補、すなわち、あるべき状態への回復という損害賠償の目的からして、右算定は、被害者個々人の具体的事情を考慮して行うのが相当である。こうした逸失利益算定の方法については、被害者が日本人であるか否かによって異なるべき理由はない。したがって、一時的に我が国に滞在し将来出国が予定される外国人の逸失利益を算定するにあたっては、当該外国人がいつまで我が国に居住して就労するか、その後はどこの国に出国してどこに生活の本拠を置いて就労することになるか、などの点を証拠資料に基づき相当程度の蓋然性が認められる程度に予測し、将来のあり得べき収入状況を推定すべきことになる。そうすると、予測される我が国での就労可能期間ないし滞在可能期間内は我が国での収入等を基礎とし、その後は想定される出国先(多くは母国)での収入等を基礎として逸失利益を算定するのが合理的ということができる。そして、我が国における就労可能期間は、来日目的、事故の時点における本人の意思、在留資格の有無、在留資格の内容、在留期間、在留期間更新の実績及び蓋然性、就労資格の有無、就労の態様等の事実的及び規範的な諸要素を考慮して、これを認定するのが相当である(最三小判平成九年一月二八日裁判所時報一一八八号)。

これを本件についてみるに、証拠(甲一ないし四、六ないし九、一二、一六ないし一八、二〇、二一、二四、三八の1ないし4、乙九、一一、一五の1、一六、一七、一八の1ないし4、一九及び二一の各1、三七、四〇、証人王敏)によれば、次の事実が認められる。

(一)  王矛は、昭和二六年に中国沈陽市に生まれ、北京市高等教育自学考試党政治幹部基礎科の学業課程を卒業し(大学卒業相当)、「中国青年報」の記者を経て同新聞社の国内部主任を務める傍ら、昭和六一年末ころから通信制の北京人文函授大学の副学長に就任した。

(二)  王矛は、昭和五三年に原告張正芸と婚姻し、昭和五五年一月原告王逸馳を儲けたが、昭和六二年ころから王敏と親しくなり、同年末ころからは原告張正芸と離婚し、王敏と婚姻することを考えるようになったが、原告張正芸と条件面で折り合わず、離婚話に進展がみられなかった。そのため、王敏と話し合い、しばらく冷却期間を置くことにして、平成元年一月、王敏とともに来日した。その際、中国青年報社からは、私用による取材名目での休暇許可(一か月)をとった。来日時の王矛の在留資格は、人文活動を目的とする三〇日の短期滞在であったが(四―一―四)、その後九〇日の期間更新を二回経て、平成元年一一月からは期間六か月の「法務大臣が特に在留を許可した者」に資格変更され(四―一―一六―三)、本件事故当時は、その二回目の期間更新中であった。なお、王矛が日本における就労資格を有していたか否かは明らかではない。また、前記中国青年報社と北京人文函授大学においては、王矛の離中後六か月以内に退職措置がとられた。

(三)  来日後、王矛は、既に日本で活発な著作活動をしていた王敏の協力を得て、日本国内の講演会に招かれて講演したり、また、平成元年一二月一五日には、株式会社原書房(出版社)と、書籍の企画編集、制作進行等に協力し、顧問料を毎月一五万円とする、期間一年間の顧問契約を締結し、さらに、王敏と共著で「中国文化故事物語」を、また、王敏と編訳「謎の西南シルクロード」を、いずれも右原書房から出版した。なお、本件事故後の平成二年九月には、王敏その他と共著で「三国志絵巻4」が岩崎書房から出版された。また、王矛は、平成二年二月には、東京放送からシルクロードについての番組の取材制作に関し協力を求められたこともあり、さらに、王矛は、香港の新聞社に寄稿し、寄稿料として七か月の間に四八三四香港ドル(日本円に換算すると、約九万一〇〇〇円ないし九万七〇〇〇円)を得ていた。しかし、王矛は、日本語が不自由であったために、日本においては単独での執筆活動は困難であり、本の内容についてアイデアを出したり、意見を述べることできても、実際に日本語で執筆をするのは王敏であり、執筆活動の面でも、具体的な収入の面でも、その当時から多数の書籍を執筆していた王敏に頼ってその生計を立てていたのが実情であり、前記原書房との顧問契約も完全には履行されずに終わった。

右認定の事実によれば、王矛は、日本において多額の収入を得る蓋然性があったものと認めることはできないが、王敏と共に執筆活動、講演活動を営むことは可能であったのであり、王矛が日本において全く収入がなかったあるいは収入を得る蓋然性はなかったものと認定することは相当ではなく、右に認定した王矛の日本での就労状況、中国での地位とその学識等からすれば、王矛は、日本においては、平均して少なくとも月一五万円の収入を得る蓋然性があったと認めるのが相当であり、右認定に反する原、被告らの主張はいずれも採用しない。

次に、王矛の日本での就労期間(滞在期間)について検討するに、王矛は、原告張正芸と離婚すべく、しばらく冷却期間を置き、その上で王敏と結婚することを目的として来日したものであり、日本語も十分にできず、日本においては定職もなかったことから、できるだけ早い時期に中国へ帰国することを望んでいたものである(前記認定のほか、乙一五、一九、二一の各1、証人王敏)。したがって、本件事故当時未だ離婚問題解決の目途がたっておらず、そのため、日本での滞在期間が延びる可能性があったことを考慮しても、今後長期間日本に滞在するという蓋然性は少なかったものと認められる。

以上の事実を総合すれば、本件においては、王矛の日本での就労年数は本件事故後二年とし、その後は中国における収入を基礎として逸失利益を算定するのが相当である。

2  次に、王矛が中国においてどの程度の収入を得ていたのかについて検討するに、王矛は、平成元年一月に来日するまで、中国青年報から月八〇〇元(但し住宅、医療及び老齢年金は含まれない。)(甲二〇、乙三七。なお、甲一二の金額は採用できない。)、北京人文函授大学から二年間で合計一万五〇〇〇元の収入があったこと(甲九、乙三七)が認められる。原告は、右以外に、王矛が少男少女雑誌社、中国企業文化研究院、北京青少年報刊社及び恵城発電処北京事務所から昭和六二年と昭和六三年の二年間に合計一三万七九六七元の顧問料を得ていたと主張し、右主張に沿う証拠もあるが(甲五、一〇、一二、一三、二二)、乙三七、証人王敏の証言に照らすと、顧問契約の存在自体を否定することはできないものの、その金額についてはこれらをそのまま採用することはできない。しかし、他方において、中国では、正規の収入以外に多額の副収入を得ている者が少なくないという実態があり(甲四六ないし五〇、五三、五四)、前示したように王矛についても顧問契約を締結し収入を得ていたこと自体も否定できないのであり、以上の事実を総合すると、王矛は、中国においては少なくとも年間三万元程度の収入を得ていたものと認めることが相当である。

なお、原告は、近年における中国の所得水準の上昇を考慮すべきであると主張するが、右所得水準の向上が永続的で確実なものと認めるに足りる証拠はなく、右主張は採用できない。

3  以上を前提として、王矛の逸失利益を算定すると、日本での二年間は、生活費控除を四割として、二一六万円(15万円×24月×0.6=216万円)となる。また、中国においては、六七歳まで就労可能とみて、生活費控除を三割(右割合は日本においてより一割程度低くなるものと認める。)、二九年のライプニッツ係数15.141から二年のライプニッツ係数1.859を控除した係数13.282を基礎として計算すると、二七万八九二二元(3万元×13.282×0.7=27万8922元、本件口頭弁論終結時においては一元は約一五円であるので、四一八万三八三〇円)となる。したがって、王矛の逸失利益は六三四万三八三〇円となる。

三  同3(二)の事実について

本件事故の態様、結果その他本件記録に現れた一切の事情を考慮すると、王矛の精神的苦痛を慰謝するための慰謝料は、一五〇〇万円が相当である。

以上によれば、本件事故により王矛が被った損害額の合計額は、二一三四万三八三〇円となる。

四  同4について

相続の準拠法については、被相続人の本国法によるものとされている(法例二六条)。原告は、中国法は動産の相続については被相続人の死亡時の住居地法を適用すると規定しているところ(中国民法通則一四九条)、債権(本件損害賠償請求権)の相続については動産に準ずるものであるから、被相続人の死亡時の住居地法すなわち日本法が適用される主張するが、中国民法には債権は動産に準ずるという規定はなく、実質的に考察しても債権の相続の問題について、債権発生の地の法を準拠法とする理由はないので、原告の右主張は採用できない。

そうすると、本件損害賠償請求権の相続の準拠法は、中国法ということになるが、中国相続法は、第一順位の法定相続人を配偶者、子及び父母とし(中国相続法一〇条)、同一順位の相続人の遺産相続分は一般に均等でなければならないと規定している(中国相続法一三条)。したがって、王矛の相続人は、配偶者である原告張正芸、子である原告王逸馳、父である訴外王恵平、母である原告が四分の一の割合で相続することになる。

五  抗弁について

被告らは、中国においては重婚的内縁関係にある者も配偶者として相続人となると主張するが、王矛と王敏の関係が重婚的内縁関係にあったといえるのかが問題であるのみならず、被告らが根拠とする乙五四によると、一九五〇年婚姻法により重婚が禁止された後は、重婚的内縁関係にある者が法定相続することはなくなったというのであるから、これを根拠として被告主張を認めることはできず、他に右被告主張を裏付ける資料は存在しない。

六  請求原因5について

弁論の全趣旨によると、原告らは本件訴訟追行を原告代理人に依頼し、報酬の支払いを約したことが認められる。

本件訴訟の経緯等本件記録に現れた一切の事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係がある弁護士費用は、各原告につきそれぞれ六〇万円(合計一八〇万円)と認めるのが相当である。

七  結語

以上によれば、原告らの本訴請求は、被告らに対し、連帯して、各五九三万五九五七円及び右金員に対する平成三年二月四日から各支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条を、仮執行の宣言について同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官前島勝三 裁判官設楽隆一 裁判官鈴嶋晋一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例