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浦和地方裁判所 平成10年(レ)26号 判決 1999年9月24日

控訴人

村石俊子

被控訴人

栗原きみ

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

二  控訴人は、被控訴人に対し、金一三万〇一八〇円及び内金一一万八一八〇円に対する平成九年三月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被控訴人のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを一〇分し、その三を被控訴人の負担とし、その七を控訴人の負担とする。

五  この判決は、第二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一控訴の趣旨

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人の請求を棄却する。

第二事案の概要

本件は、控訴人が運転する自動車(以下「控訴人車両」という。)が、被控訴人の運転する自動車(以下「被控訴人車両」という。)を無理に追い越そうとした際に、接触・衝突して同車を破損したとして、被控訴人が民法七〇九条による損害賠償請求を行ったのに対し、控訴人が、被控訴人車両の所有関係、事故態様等を争って請求を拒んだ事案である。

一  争いのない事実等

1  交通事故の発生

控訴人車両と被控訴人車両は、平成九年三月二二日午後〇時四〇分ころ、埼玉県鳩ケ谷市桜町二丁目五番一号先交差点(以下「本件交差点」という。)近辺で、接触・衝突した(以下「本件事故」という。)。

本件交差点は、県道越谷・鳩ケ谷線、県道大宮・鳩ケ谷線、諏訪山通り等の道路が交わる変形五叉路の交差点で、信号機が設置されておらず、交通整理は行われていない。

本件事故発生直前の各車両の進行方向は、控訴人車両は県道大宮・鳩ケ谷線から本件交差点を経て県道越谷・鳩ケ谷線に入るというもので、被控訴人車両は諏訪山通りから本件交差点を経て県道越谷・鳩ケ谷線に入るというものであった。

2  被控訴人車両の修理代金額等

本件事故による被控訴人車両の破損の修理代金額は一六万一二一六円(消費税を含む。)であった(甲一)。

また、被控訴人が、右修理期間(五日間)中、代車を使用した費用は、日額四〇〇〇円、総額二万〇六〇〇円(消費税を含む。)であった(甲二及び弁論の全趣旨)。

3  被控訴人車両の名義人

被控訴人車両の登録上の名義人は被控訴人の子である栗原浩である。

二  争点

本件の主たる争点は、<1>被控訴人車両の所有者、<2>本件事故の態様(控訴人、被控訴人の過失)、<3>被控訴人の損害額等である。

1  控訴人の主張

(一) 被控訴人車両の所有者

被控訴人車両の車検証に所有者として栗原浩と記載されていること、被控訴人の夫が被控訴人車両の税金を支払い、保険契約を締結していることからすれば、被控訴人車両の所有者は、被控訴人ではない。

(二) 本件事故の態様

本件事故は、本件交差点内での出会い頭衝突形態での事故である。

なお、被控訴人車両の進行してきた道路には一時停止の交通規制がある。

2  被控訴人の主張

(一) 被控訴人車両の所有者

被控訴人車両の所有者は、被控訴人である。被控訴人は、平成七年七月、当時の所有者である栗原浩から被控訴人車両を譲り受けたものである。

(二) 本件事故の態様(控訴人の過失)

車両の運転者には、前方を走行中の車両を追い越す際には、指定された交通標識表示を守り、前方の車両の動静に注意して、その進路を妨げないように走行する注意義務があるにもかかわらず、控訴人は、本件交差点を経て県道越谷・鳩ケ谷線を越谷方面に進行していた被控訴人車両を、追い越すに当たり、センターラインを越えて右側から追い越した上、被控訴人車両の直前に割り込んで、同車両の進路を妨げ、本件事故を発生させた過失があるから、民法七〇九条により被控訴人が本件事故によって被った損害を賠償する責任がある。

(三) 被控訴人の損害額 総額一九万九九九七円

但し、一、2記載の被控訴人車両修理代金及び代車代一八万一八一六円並びに弁護士費用一万八一八一円の総額。

第三争点に対する判断

一  争点1(被控訴人車両の所有者)について

1  被控訴人車両の所有者が従前栗原浩であったことには争いがないところ、甲三によれば、栗原浩が、平成七年七月、被控訴人に被控訴人車両を譲渡したことが認められる。

よって、被控訴人が被控訴人車両の所有者であると認められる。

2  なお、甲七によれば、被控訴人車両の登録上の所有名義人が栗原浩であり、被控訴人車両に係る任意保険の保険契約者、自動車税負担者、車検費用負担者がいずれも被控訴人の夫であることが認められるが、甲三が内容虚偽のものであると認めるに足りる証拠はなく、被控訴人の夫が、被控訴人に代わって、被控訴人車両の保険・車検費用等を負担することも、同人と被控訴人との人的関係からすれば、特段不合理なこととはいえないから、右認定の各事実は、被控訴人が被控訴人車両の所有者であるとの認定を覆し得るものではない。

二  争点2(本件事故の態様)について

1  本件事故の発生地点

甲七によれば、本件事故直後、被控訴人が、控訴人に対して、どこから来たの、どっち方面から来たのと述べていたこと、一方、控訴人は、被控訴人から、何でそういう風に追越しをするのかと言われたのに対して、何で信号がないのと述べていたことがいずれも認められる。

控訴人の右発言によれば、控訴人は、本件交差点に信号機がなく、交通整理が行われていなかったことに本件事故の原因があると考えていたと認められるところ、右のような考えは、本件事故が、本件交差点付近で発生したと控訴人が考えていた場合にのみ生じるものといえ、仮に控訴人が、被控訴人の主張するように被控訴人車両を意識的に追い越そうとして本件事故を発生させたのであれば、生じ得ないものと考えられる。

また、被控訴人の前記発言も、被控訴人車両が本件交差点を通過して未だ距離的・時間的にそれ程進行しておらず、不特定の方向・方面から車両が進行してくる交差点の近辺で事故が発生した場合にのみ合理性を有する発言といえる。

とすれば、証拠上、本件事故は、控訴人が被控訴人車両を追い越そうとした際に発生したと認めることはできず、本件交差点の近辺で発生したものというべきである。

2  本件事故の具体的態様

(一) 甲七、乙三、四及び弁論の全趣旨によれば、本件事故の具体的態様はおおよそ次のようなものであったと認めるのが相当である。

(1) 控訴人は、本件交差点内で停止し、安全確認を行ったが、前方、左方への確認を一応行った後、専ら県道越谷・鳩ケ谷線から本件交差点に進入しようとしている車両が、控訴人車両の右折を先行させてくれるか否か等右方の安全確認に注意を奪われていた。

(2) 控訴人は、当初の前方・左方安全確認の際、被控訴人車両を徐行して動き出し、本件交差点に進入しようとするところであると考えたが、実際のところは、同車両は、控訴人の認識よりも、若干進行していた上、控訴人が右方に注意を払っている間に、本件交差点を通過する付近まで進行してきていた。

(3) 控訴人は、右方の車両が、自車を先行させてくれる様子だったことから、左方への安全確認を再度十分に行うことなく、右折を開始した。

その結果、既に控訴人車両の左方を進行していた被控訴人車両と、控訴人車両とが急接近して衝突しかねない状態となっていったところ、控訴人は、その様子をミラーで確認して、右折進行の速度を少し上げたが、控訴人車両の左後部と被控訴人車両の右前部が接触・衝突し、本件事故が発生するに至った。

(二)(1) 右認定に反し、控訴人は、原審本人尋問において、控訴人車両が被控訴人車両に先行して右折しきったところで、被控訴人車両に追突された旨の供述を行っている(乙四)。

(2) しかし、甲七、乙四及び弁論の全趣旨によれば、被控訴人は、本件事故直後から、本件事故は、控訴人車両が被控訴人車両を追い越そうとした際に発生した旨述べていることが認められ、右は、本件事故の直前まで被控訴人が控訴人車両の存在を認識していなかったことを示していると考えられる。

そして、甲七、乙三により、被控訴人の進行してきた道路は、少なくとも右方向への見通しが非常に悪いこと、被控訴人が本件交差点の危険性を意識していたことが認められるから、被控訴人としては本件交差点に進入する際には徐行しながら、目視で右方向への安全確認を行うのが通常と考えられる上、被控訴人の進行方向が屈曲していることから、本件交差点の通過の際には、一旦右折をした後に、左折することを要し、仮に控訴人車両が被控訴人車両に先行して右折進行したのであれば、被控訴人は、控訴人車両をほぼ真っ正面に臨む位置にいたことになる。

とすれば、控訴人車両が被控訴人車両に先行していれば、被控訴人において当然控訴人車両の存在に気づくと考えられるにもかかわらず、被控訴人が本件事故の直前まで控訴人車両の存在を認識していなかったことは前示のとおりであるから、控訴人車両が被控訴人車両に先行していたとは考え難い。

(3) また、被控訴人車両の進行方向が屈曲しており、道路横断に際して徐行・目視が必要であることなどに鑑みると、本件交差点を通過する際に、右のような事情のない控訴人車両に追突するほどの速度で被控訴人車両が走行していたとも考え難い。

(4) 以上からすれば、控訴人車両が、被控訴人車両に先行していたとの控訴人の供述を直ちに採用することは出来ない。

(三) 以上認定した本件事故の具体的態様は、発生場所は被控訴人の主張とは必ずしも一致しないものの、被控訴人から見た場合には、突如右方からやって来た控訴人車両に、自車の直前に割り込まれて、進路を妨害され、接触・衝突するに至ったものであり、主要な点において被控訴人の主張と一致するといえ、右によれば、控訴人には、前方の車両の動静に注意して、前方の車両の進路を妨害しないように走行する注意義務があるにもかかわらず、これを怠って被控訴人車両の進路を妨害し、以て本件事故を発生させた過失があるといえる。

したがって、控訴人には、民法七〇九条により被控訴人が本件事故によって被った損害を賠償する責任がある。

三  争点3(被控訴人の損害額)等について

本件事故により、被控訴人に一八万一八一六円の損害が生じたことは、第二の一、2記載のとおりである。

ただ、被控訴人が本件事故の直前まで控訴人車両を認識していなかったのは前に認定したとおりであるが、前記認定の本件事故の態様においても、被控訴人において、本件交差点進入後、右方に対して十分な注意を払っていれば、控訴人車両の存在にもっと早く気づくことができたと考えられ、その場合には、本件事故を相当程度防ぐことが出来たといえるところ、本件交差点が変形五叉路であることからすれば、被控訴人において、右のような注意を払うべき義務が存在していたといえるから、被控訴人にも、本件事故の発生について過失があったというべきであり、以上認定してきた各事実から判断すれば、本件事故発生についての過失割合は少なくとも三五パーセントを下らないと認められる。

したがって、控訴人は、右損害額中、その六五パーセント相当額の一一万八一八〇円を負担するべきである。

そして、控訴人の負担すべき右金額、本訴訟の難易等、種々の要素を勘案すれば、本訴訟における被控訴人弁護士費用は一万二〇〇〇円が相当であるから、本訴訟において控訴人が負担すべき被控訴人の総損害額は一三万〇一八〇円である。

四  結論

以上によれば、被控訴人の請求は、控訴人に対し、金一三万〇一八〇円及び内金一一万八一八〇円に対する平成九年三月二二日(本件事故の発生日)から支払済みまで年五分の割合による金員(被控訴人の請求範囲内)の支払を求める限度において理由があるから認容するべきであり、その余は棄却されるべきであったから、被控訴人の請求を全部認容した原判決は一部不当であるので、主文のとおり判決する。

(裁判官 草野芳郎 木本洋子 齋藤大)

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