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浦和地方裁判所 平成元年(わ)504号 判決 1989年11月17日

本店所在地

埼玉県越谷市南越谷一丁目二一番地八

有限会社泉不動産

(右代表者代表取締役 原田繁雄)

本籍

埼玉県越谷市蒲生四丁目一七七八番地

住居

同県南埼玉郡宮代町字宮東九四五番地四

会社経営

原田富二男

昭和一七年一月二〇日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官葛西和民出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告会社有限会社泉不動産を罰金二五〇〇万円に、被告人原田富二男を懲役一年にそれぞれ処する。

被告人原田富二男に対し、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告会社有限会社泉不動産は、埼玉県越谷市南越谷一丁目二一番地八に本店を置き、宅地建物取引業等を目的とする資本金五〇〇万円の有限会社であり、被告人原田富二男は、被告会社設立時から平成元年六月一日までの間、同会社の代表取締役として同会社の業務全般を統轄していたものであるが、被告人原田は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、土地売上金額並びに手数料収入の一部を除外し、あるいは架空経費を計上するなどの不正な方法により所得を秘匿したうえ、昭和六一年七月一日から同六二年六月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が二億六六五一万七二一円で、課税土地譲渡利益金額が二億六八四万円であったのにかかわらず、同年八月三一日、同市赤山町五丁目七番四七号所在の所轄越谷税務署において、同署長に対し、その所得金額が五八一一万一七三三円で、課税土地譲渡利益金額が五四九一万一〇〇〇円であり、これに対する法人税額が三四四二万八八〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、被告会社の同事業年度における正規の法人税額一億五二三四万二二〇〇円との差額一億一七九一万三四〇〇円を免れたものである。

(証拠の標目)

一  被告人原田富二男の当公判廷における供述

一  被告人原田富二男の検察官に対する供述調書及び大蔵事務官に対する質問てん末書(各三通)

一  関根正博、滝澤敏明、森田一利、相島博及び田村東光の検察官に対する各供述調書

一  被告会社有限会社泉不動産の登記簿謄本

一  越谷税務署長作成の回答書

一  大蔵事務官作成の売上高調査書、手数料調査書、受取利息調査書、繰越欠損金調査書、修正損益計算書及び脱税額計算書

(法令の適用)

被告人原田の判示所為は法人税法一五九条一項に、被告会社については同法一六四条一項、一五九条一項に各該当するところ、被告会社については情状により同法一五九条二項を適用しその所定金額の範囲内で罰金二五〇〇万円に、被告人原田については所定刑中懲役刑を選択しその所定刑期の範囲内で懲役一年にそれぞれ処し、被告人原田に対し情状により刑法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予することとする。

(量刑の理由)

本件は、設立以来赤字続きの被告会社の借金返済を目的として被告会社の代表者であった被告人原田が倒産会社をダミーとするなどして土地売上金額及び手数料収入の一部を除外し、あるいは架空経費を計上するなどの不正な方法により所得を秘匿して虚偽の法人税確定申告書を提出することによって法人税を免れたという事案であるところ、本件におけるほ脱額は二億八三九万八九八八円にのぼり、そのほ脱率は七八・二パーセントという高率であるとともに、ほ脱税額は一億一七九一万三四〇〇円という巨額であるから、脱税事犯として大規模であるばかりでなく、ほ脱方法も倒産会社をダミーとし、虚偽の契約書を作成するなどして土地売上金額を除外し、さらに計算処理業者に依頼して手数料収入の一部を除外し、あるいは取引先に予め承諾させて架空支払手数料を計上させるなど計画的かつ巧妙であるから被告人らの刑事責任は重いといわなければならない。しかしながら、他方、被告人らは本件事実を認めて反省の情を示していること、被告会社は修正申告をなし本税については既に納付済みであり、重加算税及び延滞税についても納付のため努力中であることが窺えること、倒産会社をダミーとして利用した点については暴力団員滝澤敏明のかなりの程度の関与が認められ、必ずしも被告人原田が主導的、積極的に行為したとは認められないこと、被告人原田には交通違反による罰金前科の外には前科はないこと、被告人らは本件によりその信用を損うなどの社会的制裁を既に受けていることが窺えること、被告人原田は健康がすぐれず通院中であること等被告人らに有利ないし斟酌すべき事情も認められるので、以上を総合考慮のうえ、被告人らに対し主文掲記の刑を科することとし、なお、被告人原田については今回に限りその刑の執行を猶予して社会内における更生の機会を与えるを相当と判断した次第である。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 小池洋吉)

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