大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

津地方裁判所松阪支部 平成元年(ワ)34号 判決 1991年10月04日

主文

一  被告は原告に対し、金一六五六万三二三二円及びこれに対する昭和六三年四月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、その三を被告の、その余を原告の負担とする。

四  この判決の一項は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  原告の請求

被告は原告に対し、五八四四万〇三五九円及びこれに対する昭和六三年四月一七日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、別紙交通事故目録記載の交通事故(以下「本件事故」という。)により受傷した原告が、自賠法三条に基づき損害賠償を求める事案である(後記原告主張の損害額の内金請求)。

一  争いのない事実

別紙交通事故目録記載のとおり本件事故が発生し、原告が顔面裂傷、頭部打撲、右眼破裂(失明)の傷害を負った。

被告は、本件事故当時加害車を自己のため運行の用に供していた。

二  争点

被告は、原告主張の損害額を争うほか、原告は好意同乗者であり、シートベルトも着用していなかったから、公平の理念により、その損害額を減額すべきである旨主張する。

第三  争点に対する判断

一  原告の入通院状況

<書証番号略>、原告本人によれば、原告が本件事故による傷害治療のため入通院を要した状況は、次のとおりである。なお、このうち、松阪市民病院及び三重大学医学部付属病院での全通院期間中通院実日数が少ないのは、左眼について交感性眼炎発症の疑いがあったことから、その経過観察が行われていたためであり(結果的にその発症がみられず、視力も事故前同様1.5に維持されている。)、中部労災病院での入通院は、顔面瘢痕の醜状修正術施行のためであって、期間をおいて回数を重ねて行われているため、治療期間が長期化している(なおその最終治療日程は明らかでない。)。また、高柳義眼院への通院は、右眼の義眼採型調整のためである。

1  松阪市民病院

入院 昭和六三年四月一七日〜昭和六三年四月二六日(一〇日間)

通院 昭和六三年五月一一日〜平成元年三月九日(内実日数一五日)

2  三重大学医学部付属病院

入院 昭和六三年四月二六日〜昭和六三年五月六日(一一日間)

通院 昭和六三年五月一三日〜昭和六三年一二月二六日(内実日数四日)

3  中部労災病院

入通院 昭和六三年六月一八日〜平成二年八月二九日(内入院―四回―三二日間・通院実日数二七日)

4  保険衛生大学病院

通院 昭和六三年五月一〇日(一日)

5  高柳義眼院

通院 昭和六三年七月二八日〜昭和六三年八月一日(内実日数二日)

6  奥山外科医院

通院 平成元年一月一〇日〜平成元年五月二〇日(内実日数一〇日)

以上入院日数 合計五三日

通院実日数 合計五九日

二  損害額(各費目名下の括弧内金額は原告の主張額である。)

1  治療費(診断書料等を含む)(一七万一六四六円) 一七万〇八四六円

<書証番号略>によれば、右金額を認めることができる。

2  付添看護費(五万五〇〇〇円) 五万五〇〇〇円

<書証番号略>、証人北岡健太郎によれば、原告は、松阪市民病院に入院中の一〇日間は付添看護を要する状態であり、その間原告の父母らが付き添っていたことを認めることができ、近親者の入院付添費は一日当たり五五〇〇円と認めるのが相当であるから、一〇日間で右金額となる。

3  入院雑費(四万八一〇〇円) 六万八九〇〇円

入院雑費は、一日当たり平均一三〇〇円と認めるのが相当であるから、前記全入院日数五三日間につきこれを認定し、右金額とする。

4  通院交通費(三〇万六〇六〇円) 二七万一四〇〇円

前記認定の通院状況及び<書証番号略>、証人北岡健太郎及び弁論の全趣旨によれば、次の各金額を下らないものと認めることができ、右はその合計金額である。

① 松阪市民病院分(後遺障害診断書受領のための通院分を含む。)

(900円+120円)×2×16.5(日)=33,660円

② 三重大学医学部付属病院分

(900円+300円)×2×5(日)=12,000円

③ 中部労災病院分

(900円+1,900円+220円)×2×31(日)=187,240円

④ 保険衛生大学病院分

(900円+1,900円+270円)×2×1(日)=6,140円

⑤ 高柳義眼院分

(900円+1,900円+190円)×2×2(日)=11,960円

⑥ 奥山外科医院分

(900円+120円)×2×10(日)=20,400円

5  義眼取替費用(九九万八七六〇円) 四八万円

原告は、前記のとおり失明した右眼に義眼を装填することとなったが、<書証番号略>、証人北岡健太郎によれば、右義眼は昭和六三年七月に調整されたが、以後四年に一回を下らない割合でこれを取り替える必要があり、そのための費用は、通院交通費を含めて一回につき七万一〇〇〇円を下らないことが認められる。そうすると、原告は終生四年毎に七万一〇〇〇円ずつ(一年当たりに換算して一万七七五〇円相当)の費用負担を余儀なくされることとなり、右の費用は本件事故と相当因果関係ある損害と認めることができる。そして、昭和六三年度簡易生命表によれば、原告の本件事故当時における余命年数は約五八年と推測されるから、ホフマン式計算法により中間利息を控除して五八年間の右損害総額の本件事故時における現価(一万円未満四捨五入)を求めると、次式のとおり四八万円となる。

17,750円×26.8516≒480,000円

6  休業損害(一四九万八五二八円) 一五〇万円

前記認定の事実に、<書証番号略>、証人北岡健太郎、原告本人をあわせると、原告は、本件事故当時一八歳の健康な男子で、有限会社出口自動車修理所に自動車整備工として勤務し、事故前三か月間において一日当たり平均約五〇〇〇円の給与を得ていたところ、本件事故のため平成元年四月八日までの間に延べ三〇〇日間欠勤を余儀なくされ、その間右給与を得られなかったことが認められる。よって、その休業損害合計額は一五〇万円となる。

7  後遺障害による逸失利益(四六〇七万〇三一九円) 二〇八〇万円

1  前記認定の事実に、<書証番号略>、原告本人をあわせると、次の事実が認められる。

原告の前記傷害は、平成元年四月ころほぼその症状が固定した。もっとも、前記のとおり、中部労災病院における顔面瘢痕の修正治療はその後も断続的に施行されているが、右瘢痕による醜状は、右の治療と経年的効果によってかなり修正回復されてきており、平成二年一〇月当時においてはなお、面前二メートル位の距離に近づいて注視した場合、額、眉宇、左右まなじり付近、右眼下部等に顕著な瘢痕醜状が認識される状態にあるが、原告の年令等をも考慮すると、将来まだ相当程度回復し希薄化されていくものと推測される。

原告の右眼は前記のとおり失明し、義眼を装填している。

2  以上の事実によれば、原告は、右眼失明の後遺障害により、前記症状固定の時期(一九歳)から六七歳に達するまでの四八年間を通じて、その労働能力の四五パーセントを喪失し、これに伴う逸失利益を生じるものと認めるのが相当である(なお、前記顔面の瘢痕醜状については、原告が男子であること及びその職種等に照らして直ちに労働能力の喪失を生じるものとは認められないので、これによる逸失利益を加算して認定することはできないが、その将来にわたって受けるべき精神的苦痛は後記後遺障害慰謝料額において考慮することとする。)

そこで、右逸失利益算定のための原告の基礎収入額を、昭和六三年度賃金センサスによる産業計・企業規模計・学歴計・一八歳(原告の本件事故時の年令)男子労働者の平均年収額相当額に相当する一九七万円(前記本件事故前の原告の現実給与額から推算される年収額を上回る金額となる。)として、ホフマン式計算法により中間利息を控除して右四八年間の逸失利益総額の本件事故時における現価(一万円未満四捨五入)を求めると、次式のとおり二〇八〇万円となる(なお、この場合適用されるホフマン係数は、本件事故時から原告が六七歳に達するまでの四九年間の係数である24.4162から本件事故時から症状固定時までの一年間の係数である0.9523を差し引いた23.4639となる。)。

1,970,000円×0.45×23.4639≒20,800,000円

8 入通院慰謝料(一七二万円) 二二〇万円

前記認定の原告の傷害の部位・程度、入通院期間等(右眼破裂を含む顔面各部の裂傷を負い、左眼交感性眼炎の疑いによる長期の経過観察治療及び右顔面各部の瘢痕醜状修正のための再々にわたる形成手術の施行等による原告の精神的苦痛は甚大であったと認められる。)を考慮すると、右金額が相当である。

9 後遺障害慰謝料(一五〇〇万円) 一〇〇〇万円

前記認定の原告の後遺障害の内容(顔面瘢痕醜状を含む。)・程度等を考慮し、右金額をもって相当と認める。

三  損害額の減額

前記争いのない事実に、<書証番号略>、原・被告各本人をあわせると、次の事実が認められる。

1  原告と被告とは幼なじみで、幼稚園から中学までの同窓生でもあって、本件事故までは親友の間柄で、本件事故当時いずれも一八歳の未成年者であった。

本件事故は、当日原・被告と他に同年令の友人二名を加えた四名が、誘い合わせてドライブを楽しむため、大宮町の住居地から被告運転の普通乗用自動車に同乗し、国道四二号線を走行して紀伊長島町地内のレジャー施設に遊びに赴いた帰路に発生したものであるが、原・被告らは当時ともに自動車運転免許をとってから間がなく、殊に被告は本件事故の一八日前である昭和六三年三月三〇日にこれを取得した者であるところ、原告は本件事故当時、被告がその誕生日である同年三月一九日以後に免許を取得した者で、運転経歴が極めて浅く運転技術も未熟であることを知っていた。

本件事故は、最高速度が毎時五〇キロメートルに制限され、黄色のセンターラインが引かれて追越禁止規制が行われている車道総幅員約七メートルの前記国道上で、被告が、先行する二台の普通自動車を追い越すため加害車の速度を時速約一四〇キロメートルに上げ、これを追し越した後ほぼ右の速度で自車線に戻った直後、前方約九〇メートルの付近に、道路右側の路外施設(食堂)から出てきて加害車と同方向に進行している軽四輪貨物自動車を認め、これに追突の危険を感じて急制動をかけたため、加害車が安定を失って対向車線に向かって滑走し、折から対向進行して来た他の普通乗用自動車と対向車線上で正面衝突するに至ったものである。そして、当時原告は加害車の助手席に乗車していたが、シートベルトを着用していなかったため、頭部及び顔面をフロントガラスに打ちつけて前記傷害を負うに至った。

なお、当日原・被告らが走行した国道四二号線は、交通量が多く、かつカーブが多い上中央分離帯もないことから、平素から事故多発路線として知られている道路であることは公知の事実である。

2  以上の事実によれば、本件事故時における加害車の運行は、被告のみならず原告ら同乗者自身のための運行に供していたともいうことができ、また、原告は、被告が運転免許取得後日の浅い運転技術の未熟な者であることを知りながら、あえて事故の多い国道四二号線のドライブに同行したことは、自ら被告と共同の危険に関与したものであることのほか、原告が本件事故によって負った傷害は前記のとおり顔面と頭部の外傷であって、もし原告が事故当時シートベルトを着用しておれば、フロントガラスに頭部や顔面を打ちつけることはなく、右眼の破裂はもとより前記顔面各部の裂傷を負うこともなかったと推測されるところ、自動車の助手席に同乗する者は、事故に際しての自らの負傷予防のためシートベルトを着用することは現在の常識とされていることに照らしても、原告が本件事故に際してシートベルトを着用していなかったことは、本件事故による原告の損害の発生ないし拡大の防止に対する重大な過失とみなければならない。

よって、以上の諸点を考慮すると、原告の本訴請求については、信義則及び過失相殺の法理を準用して、前記認定の損害額から三割を減額するのが相当である(なお、原告は、道路交通法上助手席同乗者のシートベルトの不着用は同乗者自身の義務違反行為とされていないことから、原告がシートベルトを着用していなかったことをもって過失相殺の対象とすることはできない旨主張するが、損害賠償における過失相殺は、賠償額の分担についての損害賠償法上の公平の理念に基づいて適用されるものであるから、その対象となる行為は、行政・刑罰法上被害者自身の違反行為とされているものに限られるものではない。)

したがって、被告が原告に対して賠償すべき損害額は、前記二の1ないし9の損害合計額三五五四万六一四六円の七割相当額である二四八八万二三〇二円(円未満切捨)となる。

四  損害の填補 九八一万九〇七〇円

原告が損害の填補として既に右金員を受領したことは争いがない。

よって、これを控除すると、被告が原告に対して賠償すべき損害残額は一五〇六万三二三二円となる。

五  弁護士費用(五六〇万円) 一五〇万円

原告が被告に対し本件事故と相当因果関係のある損害として賠償を求め得る弁護士費用は、本件事故時の現価に引き直して一五〇万円と認めるのが相当である。

六  結論

以上によれば、原告の請求は、一六五六万三二三二円及びこれに対する本件事故発生の日である昭和六三年四月一七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由がある。

(裁判官 大西秀雄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例