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津地方裁判所 昭和32年(ワ)103号 判決 1959年4月09日

主文

原告の請求を棄却する

訴訟費用は原告の負担とする

事実

原告訴訟代理人は、被告は原告に対し、金八十万円及びこれに対する昭和三十二年一月一日以降右支払ずみに至るまで年六分の割合による金員を支払え、訴訟費用は被告の負担とするとの判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として

一、訴外宮部幹雄は昭和三十年十月三日、原告に対する買掛金債務に対する代物弁済として、左記約束手形一通を原告に裏書譲渡した。

金額八十万円、支払期日昭和三十年十一月三十日、支払地及び振出地共津市、支払場所株式会社百五銀行大門支店、振出人被告、振出日昭和三十年十月三日、受取人宮部幹雄(以下この約束手形を第一の約束手形と略称する)

右約束手形は、支払期日、原告、被告及び右訴外人の三者が合意の上、左記約束手形に書替え、右第一の約束手形は原告より被告にこれを返還した。

金額八十万円、支払期日昭和三十年十二月三十一日、振出日昭和三十年十二月一日、その他の記載事項並びに裏書人は右第一の約束手形に同じ。(以下この約束手形を第二の約束手形と略称する)

然るところ、昭和三十年十二月十一日に至り、被告及び右訴外人より再び手形書替の申出があつたので、原告はこれに同意し、原告方事務員浦川静夫は昭和三十年十二月十二日右第二の約束手形を持参して被告方へ赴き、被告より右第二の約束手形書替のために、左記約束手形一通を受取つた。

金額八十万円、支払期日昭和三十一年二月八日、振出日昭和三十年十二月十二日その他の記載事項(但し裏書を除く)は第二の約束手形に同じ。(以下この約束手形を第三の約束手形と略称する)

よつて浦川静夫は、訴外宮部幹雄より右第三の約束手形に裏書を得たときは、右第二の約束手形を被告に返還し、若し右訴外人より第三の約束手形につき裏書を受けることができなかつたときは、第三の約束手形を被告に返還して第二の約束手形を原告が所持するという条件の下に、宮部幹雄より右第三の約束手形につき裏書を受けるまでの間、一時的に右第二の約束手形を被告に預けておいた。

二、浦川静夫は、右第三の約束手形に、宮部幹雄の裏書を受けるため、該手形を同人方へ持参したところ、同人が未だ裏書をなさないうちに、同人の妻宮部たね子が、右第三の約束手形を破棄してしまつた。

よつて右第二の約束手形については結局書替ができなかつたので、原告は被告に対し、曩に一時預けておいた第二の約束手形の返還を求めたが、被告は右第二の約束手形は既に破棄したと称し、これを原告に返還しない。

三、原告は右第三の約束手形につき、宮部幹雄の裏書を得ることができなかつたから、本来これを被告に返還すべきであるが、前記の如く右手形は宮部たね子によつて破棄せられたのであるから、原告としてはこれを被告に返還することができず、又被告としても、右手形については振出人としての責任を免れたのであるから、事実上これが返還を受けたのも同然である。従つて被告は右第二の約束手形を原告に返還すべき義務があり、原告は第二の約束手形の返還を受ければ、これによつて被告に対し金八十万円の支払を請求することができたのであるが、前記の如く被告が右第二の約束手形を破棄してしまつたため、原告はその返還を受けることができず、従つて被告に対し右約束手形金八十万円の請求をなすことができなくなつた。よつて被告は法律上の原因なくして原告の損失において金八十万円の債務を免れ、同額の不当利得をしたわけであるから、原告は被告に対し不当利得の返還請求として、金八十万円及びこれに対する昭和三十二年一月一日以降右支払ずみに至るまで年六分の割合による遅延損害金の支払を求む。

四、仮に右不当利得返還の請求が認められないとしても、被告は原告が前記の如く一時預けておいた第二の約束手形を過失によつて破棄し、原告の権利を侵害し、原告に金八十万円の損害を蒙らしめたものであるから、原告は被告に対し不法行為に基く損害賠償として、前記と同額の金員の支払を請求する。

と述べた。

被告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、答弁として、原告主張事実中、被告が原告主張の第一の約束手形を振出し、訴外宮部幹雄が、これを原告に対する買掛金債務の支払方法として(原告主張の如き代物弁済ではない)原告に裏書譲渡したこと、被告が原告主張の第二の約束手形(但し振出日は昭和三十年十二月五日である)を振出したこと、右第二の約束手形の書替手形として被告が原告主張の第三の約束手形を振出し、右第二の約束手形を原告より返還受けたこと、訴外宮部幹雄の妻たね子が右第三の約束手形を破棄したことはいずれも認めるが、その余の事実は否認する。原告主張の第一の約束手形は一旦決済し、その後訴外宮部幹雄が、昭和三十年十二月五日以後において、原告より買受ける油代金債務を担保するために、原告主張の第二の約束手形を振出したものである。しかして被告は、右第二の約束手形を融通手形として振出したものであるが、右訴外人は昭和三十年十二月五日以後、原告から何等油を買受けていない。

被告は第二の約束手形を第三の約束手形に書替え、原告より第二の約束手形の返還を受けたとき、同手形については、一切の手形上の責任を免れたものである。従つて被告がその後右約束手形を破棄しても、何等原告の損失において不当利得したことにならないし、又原告の権利を侵害したことにもならない。と述べた。

当事者双方の立証並びに認否

原告訴訟代理人は、甲第一ないし第三号証を提出し、証人浦川静夫、同中田良一の各尋問を申出でた。

被告訴訟代理人は証人宮部幹雄、被告本人(第一、二回)の各尋問を申出で、甲第一号証は成立を認める、同第二、三号証の成立は不知、と述べた。

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