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津地方裁判所 平成7年(行ウ)5号 判決 1996年10月17日

三重県鳥羽市浦村町字大吉一七三一番地六八

原告

財団法人東海水産科学協会

右代表者理事

水谷皓一

右訴訟代理人弁護士

樋上陽

西村秀樹

三重県伊勢市岩渕一丁目二番二四号

被告

伊勢税務署長 海野晴方

右指定代理人

西森政一

外八名

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一申立

一  原告

1  被告が平成五年五月二八日付けでした、原告の平成元年分の消費税の更正(但し、異議決定により一部取り消された後のもの)のうち課税標準額を一一一九万一〇〇〇円として計算した額を超える部分を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文と同旨

第二事案の概要

本件は、不動産譲渡に係る消費税の更正処分を受けた原告が、右不動産の譲渡時期は消費税法適用開始日(平成元年四月一日)より前になされた売買契約締結の日(平成元年三月二九日)であり、その譲渡対価額を消費税の課税標準額に含めた被告の右更正処分は違法であると主張して、被告に対しその取消しを求めた事案である。

一  争いのない事実

1  (原告の目的等)

原告は「水産教育及び水産研究に関する事業・水産海洋博物館、水産海洋図書館、海洋生物研究所等の設置及び運営・上記の目的を達成するために必要な研修宿泊施設の設置及び運営・その他本会の目的を達成するために必要な事業」を目的とする財団法人であり、別紙物件目録(土地)及び(建物)記載の各土地及び建物を所有し、同目録(建物)記載一の建物(以下「本件建物」という。)において収益事業として「国民宿舎あらみ荘」を経営し、同目録記載二及び三の建物において漁具等を展示する「海の博物館」を経営していた〔以下、別紙物件目録(土地)記載の土地及び同目録(建物)記載一の建物を「本件土地建物」という〕。

2  (本件土地建物の売買契約)

原告は、右博物館の移転に伴い本件土地建物を岡三証券株式会社(以下「岡三証券」という。)に売り渡し、平成元年三月二九日左記の約定の売買契約を締結した(以下、本件土地建物の売買契約を「本件売買契約」という)。

(一) 売買代金 八億円

(土地 六億五二九七万九〇〇〇円)

(建物 一億四七〇二万一〇〇〇円)

(二) 代金支払方法

手付金  本契約締結と同時 一億六〇〇〇万円

残代金 平成元年六月三〇日まで 六億四〇〇〇万円

(三) 所有権移転時期

買主が売買代金の全額を売主に支払ったとき。

(四) 所有権移転登記

所有権移転と同時に登記申請手続を行う。

(五) 引渡し

所有権移転と同時に引き渡す。

(六) 租税公課及び処分費用の負担

昭和六四年一月一日から引渡しの日の前日までの分は売主、その後は買主がそれぞれ負担する。

(七) 特約条項

(1) 契約成立時に所有権移転仮登記手続を行う。

(2) 売主は、本件土地上の本件建物以外の建物について、売主の費用負担において取り壊すものとし、引渡しの時までに取壊しが完了しない場合、買主は完了時まで代金のうち三〇〇〇万円を支払留保することができる。

3  (本件売買契約の履行)

原告は、平成元年三月二九日、買主である岡三証券から手付金一億六〇〇〇万円を受領し、同年四月四日付で売買予約を原因とする仮登記を経由し、同年五月二八日付で「あらみ荘」の収益事業廃業届を提出した。さらに原告は、同年七月一七日、残代金のうち六億一〇〇〇万円を受領し、そのころ本件建物を岡三証券に引き渡し、同月二〇日、本件土地建物につき所有権移転登記を経由し、同年八月一一日、支払留保分三〇〇〇万円を受領した。

4  (課税処分の経緯)

(一) 原告は、法定期限までに平成元年四月一日から平成二年三月三一日までの期間の「あらみ荘」営業の収益につき別表一のとおり確定申告をしたが、右申告には本件建物の譲渡対価額を消費税の課税標準額に含んでいない。

(二) 平成五年五月二八日、被告は原告に対し、本件建物の譲渡が消費税の課税対象になるものとして、別表一のとおり更正処分をした(以下「本件更正処分」という)。

(三) 原告は本件更正処分を不服として、平成五年六月二四日被告に対し異議申立てをした。

被告は同年九月二二日原告に対し、課税仕入金額を修正して、別表一のとおり本件更正処分を一部取り消す異議決定をした。

(四) 平成五年一〇月一八日、原告は国税不服審判所長に対し審査請求をしたが、平成七年一月二七日、右審査請求を棄却する裁決がなされ、同年二月九日原告に通知された。

二  争点

消費税の納税義務の成立時期は、国税通則法一五条二項七号(平成三年五月法律第六九号による改正前の六号)により「課税資産の譲渡等をした時」とされているところ、本件土地建物の譲渡時期が消費税法適用開始日である平成元年四月一日より前か、あるいは右同日以後かが本件の争点である。

三  争点に対する当事者の主張

1  原告

消費税法取扱通達九-一-一三ただし書きは、土地建物の譲渡の時期について、「事業者が当該固定資産の譲渡に関する契約の効力発生の日を資産の譲渡の時期としているときはこれを認める。」としている。

原告と岡三証券は、消費税の課税を回避するため平成元年三月二九日に本件売買契約を締結し、これを譲渡の時期と定める合意をしたものであり、原告が本件売買契約の効力発生の日である右同日を資産の譲渡の時期としていることは明らかである。

したがって、本件土地建物の譲渡時期は消費税法適用開始日より前であるから、右譲渡を消費税の課税対象とした被告の本件更正処分は違法であり、取り消されるべきである。

2  被告

原告は、本件売買契約締結後も本件土地建物を自らの収益事業の用に供し、本件土地建物の売却収入も平成元年度決算報告書に計上しており、前記争いのない事実のとおりの本件売買契約の内容、実際の履行状況からしても、引渡しがあったとき(消費税法取扱通達九-一-一三本文)である平成元年七月一日以降に本件土地建物の譲渡があったと解することが契約当事者の意思及び経済的取引実体に合致し、合理的である。

したがって、被告が、本件土地建物の引渡しのときがその譲渡時期であるとしてなした本件更正処分は正当である。

第3争点に対する判断

一  前記争いのない事実及び証拠(乙第八ないし一三、第一七ないし一九号証)によれば、以下の事実が認められる。

1  本件売買契約の内容及びその履行状況は、前記争いのない事実(第二、一、2及び3)記載のとおりである。

2  本件売買契約締結後、原告は本件建物での「あらみ荘」の営業を平成元年五月二八日ころまで継続した。

3  原告の事業報告書、決算報告書等によれば、本件土地建物は平成元年三月三一日現在で原告の基本財産及び固定資産として計上されており、その売却収入は平成元年度(平成元年四月一日から同二年三月三一日まで)に計上されている。

4  また、買主である岡三証券は本件売買が消費税の対象となるものとして会計処理を行っている。

二  以上の事実を総合すると、本件土地建物の所有権は、当事者の合意に基づき、平成元年七月一七日ころ原告から岡三証券に移転したものであり、消費税法の適用に関しても、右の時期をもって原告は本件土地建物の譲渡をしたものと認めるのが相当である。

証拠(証人松山常泰、同石田好美、同石原義剛)によれば、原告及び岡三証券が平成元年三月中に契約締結をすれば消費税を課税されないものと考えて、同月二九日に本件売買契約を締結したことが認められるけれども、前記争いのない事実及び前項に認定したような本件売買契約の合意内容及び契約締結後の処理状況等によれば、本件売買において契約日をもって本件土地建物の譲渡の時とする合意があったと認めることはできないし、また、右契約の合意内容及び処理状況等にかかわらず原告が消費税法の適用に関してのみ契約日を譲渡の時としたものと認めることも相当でない。

したがって、本件建物は、消費税法適用開始日である平成元年四月一日より後に譲渡されたものと認められ、右譲渡が原告の平成元年分の消費税の課税対象となるとした被告の本件更正処分に原告主張の違法はない。

三  よって、原告の請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 窪田季夫 裁判官 新堀亮一 裁判官 池町知佐子)

物件目録 (土地)

一、所在   鳥羽市鳥羽一丁目

地番   弐七六番壱〇

地目   宅地

地積   九〇〇・六九平方メートル

二、所在   鳥羽市鳥羽一丁目

地番   弐七七番壱

地目   宅地

地積   参七四弐・参四平方メートル

三、所在   鳥羽市鳥羽一丁目

地番   弐七七番弐

地目   宅地

地積   九九〇・〇弐平方メートル

物件目録 (建物)

一、所在   鳥羽市鳥羽一丁目弐七七番地弐・弐七七番地壱

家屋番号 弐七七番弐

種類   旅館

構造   鉄筋コンクリート・鉄骨造陸屋根瓦葺参階建

床面積  壱階 五七八・四七平方メートル

弐階 四〇八・壱参平方メートル

参階 参壱六・九五平方メートル

二、所在   鳥羽市鳥羽壱丁目弐七七番地壱

家屋番号 弐七七番壱

種類   博物館

構造   鉄筋コンクリート造陸屋根五階建

床面積  壱階 弐八八・八八平方メートル

弐階 参七・四参平方メートル

参階 壱〇八・八六平方メートル

四階 壱〇八・八六平方メートル

五階 壱壱壱・弐弐平方メートル

三、所在   鳥羽市鳥羽一丁目弐七七番地壱

家屋番号 鳥羽町第壱区四七弐番四

種類   事務所

構造   木造スレート葺平家建

床面積  六六・壱壱平方メートル

別表一 本件課税処分の経緯

<省略>

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