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水戸家庭裁判所 昭和45年(家)718号 審判 1971年5月07日

申立人 浜野利助(仮名)

被相続人亡 久保田光男(仮名)

主文

被相続人亡久保田光男の相続財産である茨城県西茨城郡○○町○○字○○△△番○○畑一反六畝三歩を申立人に与える。

理由

一  申立人は被相続人の相続財産の分与を求め、その理由は、申立人は被相続人亡久保田光男の叔父であるところ、同人は昭和四四年一〇月一三日死亡したが、その相続人がないため、申立人は同年一一月二五日被相続人の相続財産管理人に選任された(水戸家庭裁判所昭和四四年(家)第七一三号)。被相続人は主文掲記の不動産を所有していたが、申立人は被相続人の葬式の一切はもちろん、その不動産について事実上管理し、公租公課を代納して今日に及んでいる。

よつて、申立人は被相続人の特別縁故者にあたるから相続財産の分与を求めるというにある。

二  当裁判所の審問および調査の結果によればつぎの事実が認められる。

申立人は被相続人亡久保田光男の母よしの弟であるところ、若くして北海道に渡り、小学校教員として生活していたが、昭和二一年頃帰郷し、当時母よしおよび姉きみと暮していた被相続人方に同居するようになつた。被相続人は姉きみと同様先天性の聾唖者で母よし、姉きみとともに農業に従事する傍ら、日稼ぎをして生活していたが、その親族の多くは被相続人および姉きみが不具者であることから被相続人の一家と交際することを恥じ、ほとんど寄りつく者はなかつた。申立人は被相続人方に同居以来、被相続人およびきみが不具者であることは隠すことができないし、また恥ずべきことでもないと考えて、被相続人らの生活に協力して来たが、自ら雑貨の小売りや○○の行商等による収入があり、申立人の妻も○○などの小売りによる収入があり、また被相続人にも前記の如き収入があつたので、経済的には一応それぞれ独立した世帯を営んで来た。

申立人は昭和二七、八年頃かねて買い求めてあつた現在地に妻子とともに転居したが、転居後も時々被相続人方を訪れ、昭和二八年二月九日、被相続人の母よし死亡後は一ヶ月に二、三回の割合で被相続人方を見回つていたが、却つて被相続人は申立人に財産を乗取られるのではないかと邪推し、申立人を警戒していたので、両者の間は必ずしもしつくりせず、被相続人はむしろその隣家に居住する須賀屋敏雄に何かと生活上の相談をもちかけていた。そのような関係から、被相続人の晩年には申立人と被相続人との交際はとだえ勝ちとなつたが、それでも申立人は放浪癖のある被相続人が警察に保護される都度、身柄を引取りに行き、また、昭和四一年頃被相続人が軽い中風に罹患した際にも、その医療費の捻出や看護につき何かと面倒を見て来た。被相続人は昭和四四年一〇月一三日脳溢血のため死亡したが、葬儀は申立人が喪主となつて執行し、葬儀費用も一部負担したが、被相続人の供養は今後も続ける意向である。被相続人は相続人が存在しないまま死亡したので、申立人が被相続人の不動産を事実上管理して来たが、その相続財産の処理につき相続財産管理人を置く必要を認め、申立人は水戸家庭裁判所に同管理人の選任を求め、(昭和四四年(家)第七一三号)昭和四四年一一月二五日同裁判所によつて申立人がその管理人に選任された。爾来申立人は管理事務を遂行し、昭和四五年二月二〇日相続債権申出の公告をなし、さらに同年五月一日相続権主張の催告をなし(昭和四五年(家)第二七二号)、同年一一月三〇日同催告期間は満了したが、相続人の申出はなかつた。

なお、被相続人は上記不動産のほか、茨城県西茨城郡○○町○○字○○△△番○宅地一畝および同所同番地所在家屋番号一二三番木造亜鉛メツキ鋼板葺平家建居宅一棟床面積二〇・〇五平方米、物置一二平方米、炊事場一・六六平方米(母よし所有名義)をも所有している。

三  以上の認定事実によつて考えれば、申立人は被相続人の特別縁故者というを妨げないものと解されるが、ただ被相続人の晩年に至つては申立人との縁故関係はかなり稀薄であつたと認められ(当裁判所の調査官の調査結果によれば、被相続人の姉きみが昭和四〇年三月一八日に死亡した後の被相続人の生活は惨めなものであり、かつ、被相続人の死はその約一週間後にしてようやく近隣の者によつて発見された)、生前被相続人が○○町や近隣者の世話になつたことその他諸般の事情を考慮すれば、申立人には相続財産の一部である主文掲記の不動産のみを分与し、その余の財産はこれを申立人に分与せず、国庫に帰属せしめ、公共の財産として地域社会のために活用するのが至当である。

なお、当裁判所調査官の調査結果によれば、被相続人は別に相続財産に準ずるものとして、現金、預貯金を有していることが認められるが、これについては管理費用および相続財産管理人の報酬金に充てるのが相当であるので、別途処理することとし、本件では特に相続財産としてこれを計上しない。

よつて、主文のとおり審判する。

(家事審判官 太田昭雄)

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