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水戸地方裁判所 昭和55年(行ウ)2号 判決 1983年5月31日

茨城県筑波郡豊里町大字酒丸七〇八番地の一

原告

久松茂夫

同県土浦市城北町四-一五

被告

土浦税務署長

佐々木豊成

右指定代理人

桜井登美雄

右同

村上憲雄

右同

橋本忠雄

右同

大山元一

右同

高林進

右同

戸川忠志

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告

1  被告が原告に対し、昭和五三年九月二六日付でなした、昭和四八年分ないし昭和五一年分の各所得税更正処分(ただし、国税不服審判所長の昭和五五年二月二八日付裁決後のものであって所得金額がそれぞれ一一九三万九六〇〇円、七四四万八一一三円、一四一〇万四五〇八円、一一〇万二九八三円を超える部分に対する課税処分)及び各重加算税賦課決定処分(ただし、前記裁決後のもの。)を取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文同旨。

第二原告の請求原因

一  (本件課税処分)

原告は養豚(肥育)業を営む者であるが、昭和四八年から同五一年までの各年(以下「本件各係争年」という。)分の所得税について、青色申告以外の確定申告(いわゆる白色申告)により法定申告期限までに、左記1ないし4表の「確定申告」欄記載のとおり確定申告をしたところ、被告は「更正」欄記載のとおり更正処分及び重加算税の賦課決定処分を行なった。

原告は右各処分をいずれも不服として被告及び国税不服審判所長に対しそれぞれ異議申立及び審査請求を行なったが、その経過は左記1ないし4表の「異議申立」「右決定」「審査請求」「右裁決」欄各記載のとおりである(以下、裁決後のものを「本件更正処分」、「本件賦課決定」といい、この両処分を一括して「本件課税処分」ともいう。)。

1  昭和四八年分

<省略>

2  昭和四九年分

<省略>

<省略>

3  昭和五〇年分

<省略>

4  昭和五一年分

<省略>

二  (取消事由)

しかしながら本件課税処分は、原告が何ら市場外から子豚を仕入れていないにもかかわらず、たまたま昭和五二年に市場外から子豚を仕入れたことを根拠に、本件各係争年についても市場外からの子豚の仕入れがあったとして営業所得金額を過大に算出しているものであって違法である。

すなわち、原告が昭和五二年に、市場外から子豚を仕入れたことは事実であるが、これは、たまたま、その年に限り群馬県高崎市営家畜市場(以下「高崎市場」という。)において赤痢が発生し、原告が同市場から仕入れた子豚にも赤痢様の症状を呈したものが多数見受けられ、五〇ないし六〇頭位が死亡したため、同年九月三〇日にて、同市場からの仕入れを中止し、福島県白河市近辺から、市場以外の子豚を八四〇頭仕入れたものである。しかし、同所での取引は初めてであったことなどの理由により、売れ残りの劣悪な子豚を仕入れる結果となり、同年一二月二五日限りで、同所からの市場外仕入れを中止した。結局、昭和五二年の総仕入頭数二三三六頭の内訳は、市場内分が一四九六頭、市場外分が八四〇頭であって、計数上、その構成比率は六四対三六になるけれども、それは昭和五二年に限定された事柄にすぎず、右構成比率を本件各係争年に適用して原告の営業(養豚業部門)所得金額を推計するのは、机上の空想的誤算あるいは作文的推認であって、違法である。

なお原告は、請求の趣旨において、本件各係争年における子豚の市場内仕入頭数と市場外仕入頭数との比率を八五対一五であるとして、他は国税不服審判所長の裁決書の数値を用いて、原告の各年分の所得金額を算出したが、これは原告が帳簿等の証拠を備えていなかったことなどの責任を自覚して、やむを得ず譲歩したものであって、現実には、本件各係争年に、子豚を市場外から仕入れたことはあくまでもなかったのである。

更に、被告は、豚の仕入価格につき、市場外仕入価格を市場内仕入価格に比して着しく低く算定しているが、以下の理由により不当である。すなわち、被告が主張する原告の本件各係争年分の飼料の仕入金額(被告の主張<Ⅰ>の第一ないし第四項の各2の(二))をもとに算定した一頭当り平均使用飼料金額(昭和四八年分七〇八七円、同四九年分九三五八円、同五〇年分九一一六円、同五一年分一〇九九六円)を、農林省統計事務局の発表の各年分別の養豚配合飼料標準平均価格に基づき算定した豚体重一キログラム増体に要する飼料の標準価格(昭和四八年分一六一・一二円、同四九年分二三〇・八九円、同五〇年分二七五・八八円、同五一年分二六七・八二円)で除して生豚一頭当りの増体重量(昭和四八年分四一・九七四キログラム、同四九年分四〇・五二一キログラム、同五〇年分三三・〇四三キログラム、同五一年分四一・〇五七キログラム)を算定し、しかるのち原告の肉豚販売重量一一〇キログラムから右増体重量を控除して本件各係争年分の仕入豚重量を算出すると、それぞれ六八、六九、七七、六九キログラムとなるのであって、このような重量の子豚の価格としては、被告算定による子豚の価格は著しく低廉価であって不当である。

三  (結論)

よって、請求の趣旨記載の額を超える所得金額に対する本件更正処分及び賦課決定の取消を求める。

第三請求原因に対する被告の否認

一  請求原因第一項は認める。

二  同第二項中、原告が昭和五二年に、その主張のとおりの豚を仕入れたものとして、その市場内分と市場外分との構成比率(六四対三六)を本件各係争年にも適用し、原告が子豚を市場外からも仕入れていたものとして営業所得金額を算出し、本件課税処分を行なっていることは認めるが、その余は争う。

三  同第三項は争う。

第四被告の主張

<Ⅰ> (事業所得金額算出根拠)

被告が本訴において主張する本件各係争年の原告の事業所得金額及びその算出根拠は以下のとおりである。

一  昭和四八年分の事業所得金額 一七三二万三五九六円

被告は、所得税法一五六条に基づく推計により次表のとおり算定した。

<省略>

右について以下項目ごとに詳述する。

1  収入金額 七五〇八万七三七三円

次の(一)の売上金額七五〇八万五三七三円と(二)の雑収入金額二〇〇〇円との合計額である。

(一) 売上金額 七五〇八万五三七三円

被告が調査により把握した原告の売上金額は七五〇八万五三七三円であり、その内訳は次のとおりである。

<省略>

なお、右表順号3の昭和ハム食品株式会社(以下「昭和ハム食品」という。)に対する豚の販売頭数は不明であったため、右表順号2の株式会社ゼンチク(以下「ゼンチク」という。)に対する売上金額二二八〇万三九〇八円をゼンチクに対する豚の販売頭数七〇六頭で除して一頭当りの平均販売価格三万二三〇〇円を求め、次に、昭和ハム食品に対する売上金額五二二八万一四六五円を右豚一頭当りの平均販売価格三万二三〇〇円で除して昭和ハム食品に対する豚の販売頭数一六一九頭を算定したものである。

(二) 雑収入金額 二〇〇〇円

常陽銀行石下支店に設定されている原告名義の普通預金口座(口座番号一〇九一〇三)に、昭和四八年四月二六日付けで関東農政局から二〇〇〇円が振込入金されていたため、被告は右金額を雑収入と認めて、原告の収入金額に加算した。

2  売上原価額 五四四〇万八四六五円

原告及び原告の豚の仕入先から帳簿書類の提示等の協力が得られず、期首・期末の商品棚卸高及び豚の仕入高を把握することができなかったため、被告は、次の方法によって、算定した豚の仕入金額三七六七万四一六一円と被告が調査により把握した原告の飼料の仕入金額一六七三万四三〇四円との合計額五四四〇万八四六五円を売上原価と推定した。

(一) 豚の仕入金額 三七六七万四一六一円

(1) 豚の総仕入頭数 二三九七頭

原告は、被告の調査の際に「仕入頭数の三%程度が病死等により販売できなくなる。」と申し立てたが、被告は、豚の仕入頭数を把握することができなかったため、原告の昭和四八年中の豚の販売頭数二三二五頭(1・(一)の表の順号4)を原告の申し立てた右三%の率の補数である〇・九七(以下「事故豚補数」という。)で除して求めた二三九七頭を本年中の豚の総仕入頭数と推定した。

(算式)

(昭和四八年中の豚の販売頭数) (事故豚補数) (総仕入頭数)

二三二五頭÷〇・九七=二三九七頭

(2) 豚の市場内仕入分と市場外仕入分との区分

原告は、豚を子豚市場(以下「市場」という。)内と市場外とから仕入れており、しかも、市場内と市場外とでは豚の仕入価格が異なることから、右(1)の総仕入頭数二三九七頭を次のように市場内仕入分一五三四頭・市場外仕入分八六三頭に区分した。

すなわち、原告の昭和五二年中の豚の仕入れを記帳した帳簿(乙第一六号証の一ないし四)によれば、次表のとおり同年中に仕入れた豚の頭数は二三三六頭で、その内訳は市場内分が一四九六頭、市場外分が八四〇頭であった。その構成割合は、市場内分が六五%、市場外分が三六%となる。このことから、被告は、前記(1)の総仕入頭数二三九七頭に右割合を乗じて市場内仕入分を一五三四頭、市場外仕入分を八六三頭に区分した。

<省略>

(3) 豚一頭当りの仕入価格

次のとおり、豚一頭当りの仕入価格を市場内分一万八五九一円、市場外分一万〇六〇九円と算定した。

ア 市場内仕入価格 一万八五九一円

原告は豚を主に群馬県の高崎市場から購入しているので、被告は、関東農政局群馬統計情報事務所の作成した群馬農林水産統計年報中の「(3)子豚市場取引頭数と価格」表の昭和四八年分の高崎市場における価格一万八一九一円に右市場から豚一頭の仕入について徴収される手数料四〇〇円を加算した額一万八五九一円を一頭当りの市場内仕入価格と算定した。

イ 市場外仕入価格 一万〇六〇九円

前記(2)の表の<3>のとおり、原告が昭和五二年中に仕入れた豚一頭当り平均仕入価格は、市場内が三万七〇二五円、市場外が二万一五九三円であり、右市場外仕入価格二万一五九三円の市場内仕入価格に対する比率(市場外仕入価格÷市場内仕入価格)五八・三二%を前記アで述べた高崎市場の価格一万八一九一円に乗じて求めた金額一万〇六〇九円を市場外仕入価格と算定した。

(4) 右により算出した仕入頭数及び一頭当りの仕入価格から、

市場からの仕入金額 二八五一万八五九四円

市場外からの仕入金額 九一五万五五六七円

を算出、その合計額三七六七万四一六一円が原告の昭和四八年中の豚の仕入金額である。

(二) 飼料の仕入金額 一六七三万四三〇四円

原告の飼料の仕入金額は一六七三万四三〇四円であり、その内訳は別紙1の「昭和四八年分」欄記載のとおりである。

3  必要経費額 三四六万一三四二円

次の(一)ないし(一〇)の合計額である。

(一) 租税公課 七万〇五八〇円

次のアとイとの合計額である。

ア 自動車税額 二万五〇〇〇円

原告の事業の用に供されている自動車に課税された自動車税額は二万五〇〇〇円であり、その内訳は次のとおりである(以下四九、五〇年分も同じ)。

<省略>

イ 固定資産税額 四万五五八〇円

原告の事業の用に供されている別紙2記載の固定資産の固定資産税課税標準額の合計額三二五万六〇〇〇円に固定資産税率一・四%を乗じて固定資産税額四万五五八〇円を算定した(以下各年分とも算定方法同じ)。

(二) 光熱費 四万六三六五円

次のアとイとの電気代の合計額である。

ア 豚舎の電気代 四万二〇八六円

原告は、電気代を昭和四八年三月から銀行振込の方法により支払っていたため、被告は、銀行調査を行い、昭和四八年三月から同年一二月までの間に支払われた豚舎に係る電気代三万五〇七二円を把握し、右金額を一〇ケ月分(昭和四八年三月から同年一二月までの一〇ケ月分)で除して一ケ月当りの平均電気代三五〇七円を求め、この一ケ月当りの平均電気代三五〇七円に二ケ月分(昭和四八年一月及び二月の二ケ月分)を乗じて一月・二月分の電気代七〇一四円を算定し、右一月・二月分の電気代七〇一四円に銀行調査によって把握した電気代三万五〇七二円を加算し、豚舎の電気代四万二〇八六円を算定した。

イ 居宅の電気代 四二七九円

居宅の電気代は、豚舎の電気代の算定方法と同様に、銀行調査により把握した電気代一万七八二八円(昭和四八年三月から同年一二月までの一〇ケ月分である。)を一〇ケ月で除して一ケ月分の平均電気代一七八三円を求め、この一ケ月当りの平均電気代一七八三円に二ケ月分(昭和四八年一月及び二月の二ケ月分)を乗じて一月・二月分の電気代三五六六円を算定し、一月・二月分の電気代三五六六円と銀行調査によって把握した電気代一万七八二八円を加算した額二万一三九四円に、原告の申し立てた事業使用割合二〇%を乗じて居宅の電気代四二七九円を算定した。

(三) 通信費 五万四〇〇〇円

電話代を原告の申し立て額により算定した(以下各年分とも同じ)。

(四) 修繕費 五五万一四五〇円

原告が豚舎修理のため、青木商店に支払ったカラートタン代二八万四五〇〇円と次の事業用自動車の修理代二六万六九五〇円との合計額である。

被告は、原告から自動車の修理に関する帳簿書類の提示がなかったため、原告の自動車修理先である皆様自動車店を調査したところ、同店には昭和四八年分以前の帳簿等の保存がなく、昭和四八年分の修理代金を実額により把握することができなかった。そのため、昭和四八年分の事業用自動車の修理代は、同自動車店から把握できた原告の昭和四九年分ないし同五一年分の事業用自動車修理代金の合計額八〇万〇八五〇円(内訳は、昭和四九年分二七万二七〇〇円、昭和五〇年分一九万五三〇〇円、昭和五一年分三三万二八五〇円である。)を年数三で除して求めた額二六万六九五〇円を昭和四八年分の事業用自動車の修理代と推定した。

(五) 消耗品費 二三万七八四〇円

原告の申し立てにより算定したガソリン代七万四六四〇円と灯油代一六万三二〇〇円の合計額である。

(六) 医薬品代 七〇万五六五〇円

原告が、柴昭市に対して支払った豚の医薬品購入代である(以下各年分とも同じ)。

(七) 減価償却費 五七万〇四五七円

被告は、原告の養豚業の用に供されている減価償却資産の取得年月及び取得価額を原告の申し立てにより把握し、右減価償却資産の取得年月及び取得価額を基礎に、所得税法四九条、同法施行令一二〇条一項一号、一二五条一号及び減価償却資産の耐用年数等に関する省令(昭和四〇・三・三一大蔵省令第一五号)を適用して別紙3の「昭和四八年分」欄記載のとおり減価償却費額五七万〇四五七円を算定した(以下各年分とも同じ)。

(八) 雇人費 五四万円

原告の申し立て額により算定した(以下各年分とも同じ)。

(九) 雑費 三〇万円

(八)と同様の方法により算定した。

(一〇) 事業専従者控除額 三八万五〇〇〇円

原告の事業に従事している親族二名(長男・長男の妻)分の事業専従者控除額である(五〇、五一年分も同じ)。

4  営業所得金額 一七二一万七五六六円

前記1の収入金額七五〇八万七三七三円から2の売上原価額五四四〇万八四六五円及び3の必要経費額三四六万一三四二円を控除した金額である。

5  農業所得金額 一〇万六〇三〇円

原告の所有する豊里町坂田一一二一番地の一の農地(地目は田)二七九七平方メートルに一般に公開されている農業所得標準(昭和四八年分)を適用して求めた特別経費控除前の農業所得金額一六万一一〇七円から特別経費額五万五〇七七円を控除して農業所得金額一〇万六〇三〇円を算定した(以下各年分とも同じ)。

6  事業所得金額 一七三二万三五九六円

右の4の営業所得金額と5の農業所得金額との合計額である。

二  昭和四九年分の事業所得金額 一六一八万八五五六円

昭和四八年分と同様に推計によって次表のとおり算定した。

<省略>

右について以下項目ごとに詳述する。

1  収入金額 一億一七〇九万三九八五円

次の(一)の売上金額一億一七〇九万一七三五円と(二)の雑収入金額二二五〇円との合計額である。

(一) 売上金額 一億一七〇九万一七三五円

被告が調査により把握した原告の売上金額は、一億一七〇九万一七三五円であり、その内訳は次のとおりである。

<省略>

<省略>

(二) 雑収入金額 二二五〇円

常陽銀行石下支店に設定されている原告名義の普通預金口座(口座番号一〇九一〇三)に、昭和四九年四月二四日付けで関東農政局から二二五〇円が振込入金されていたため、被告は右金額を雑収入と認めて、原告の収入金額に加算した。

2  売上原価額 九二〇七万六三四三円

昭和四八年分と同様(一・2)に、後記(一)の豚の仕入金額六一六四万〇九四五円と(二)の飼料の仕入金額三〇四三万五三九八円の合計額九二〇七万六三四三円を売上原価と推定した。

(一) 豚の仕入金額 六一六四万〇九四五円

(1) 豚の総仕入頭数 三三〇二頭

昭和四八年分と同様(一・2・(一)・(1))に、原告が昭和四九年中に販売した豚の頭数(二・1・(一)・表の順号5)三二〇三頭を事故豚補数〇・九七で除して求めた頭数三三〇二頭を本年中の豚の仕入頭数と推定した。

(2) 豚の市場内仕入分と市場外仕入分との区分

昭和四八年分と同様の方法(一・2・(一)・(2))に、右(1)の仕入頭数三三〇二頭に市場内仕入割合六四%と市場外仕入割合三六%とを各乗じて、市場仕入分を二一一三頭、市場外仕入分を一一八九頭に区分した。

(3) 豚一頭当りの仕入価格

ア 市場内仕入価格 二万二〇六三円

昭和四八年分と同様(一・2・(一)・(3)・ア)に農林水産統計年報中の高崎市場における昭和四九年分の価格二万一六六三円に手数料四〇〇円を加算した額二万二〇六三円を一頭当りの市場内仕入価格と算定した。

イ 市場外仕入価格 一万二六三四円

右高崎市場の価格二万一六六三円に前記二・2・(一)・(3)・イで述べた比率五八・三二%を乗じて求めた金額一万二六三四円を市場外仕入価格と算定した。

(4) 右により算出した仕入頭数及び一頭当りの仕入価格から、

市場内からの仕入金額 四六六一万九一一九円

市場外からの仕入金額 一五〇二万一八二六円

を算出、その合計額六一六四万〇九四五円が原告の昭和四九年中の豚の仕入金額である。

(二) 飼料の仕入金額 三〇四三万五三九八円

原告の飼料の仕入金額は三〇四三万五三九八円であり、その内訳は別紙1の「昭和四九年分」欄記載のとおりである。

3  必要経費額 八九七万二一四〇円

その内訳は右二の冒頭の一覧表のとおりであるが、次の項目について補足説明する。

(一) 租税公課 七万〇五八〇円

次のアとイとの合計額である。

ア 自動車税額 二万五〇〇〇円

イ 固定資産税額 四万五五八〇円

(二) 光熱費 四万二〇六一円

次のアとイとの電気代の合計額である。

ア 豚舎の電気代 三万六八〇九円

昭和四八年分と同様の調査方法により豚舎の電気代三万六八〇九円を把握した。

イ 居宅の電気代 五二五二円

昭和四八年分と同様の調査方法により居宅の電気代二万〇〇六二円を把握し、その金額に原告の申し立てた事業使用割合二〇%を乗じて居宅の電気代五二五二円を算定した

(三) 修繕費 二七万二七〇〇円

皆様自動車店に支払った事業用自動車の修理代である。

(四) 消耗品費 三〇万七二八七円

原告の申し立てにより算定したガソリン代一三万九二八七円と灯油代一六万八〇〇〇円との合計額である。

(五) 出荷等手数料 五九四万一三五三円

原告の豚の販売先に対して支払った出荷手数料と解体手数料であり、その内訳は次のとおりである。

<省略>

4  営業所得金額 一六〇四万五五〇二円

前記1の収入金額一億一七〇九万三九八五円から2の売上原価額九二〇七万六三四三円及び3の必要経費額八九七万二一四〇円を控除した金額である。

5  農業所得金額 一四万三〇五四円

6  事業所得金額 一六一八万八五五六円

右4の営業所得金額と5の農業所得金額との合計額である。

三  昭和五〇年分の事業所得金額 三六三〇万八一五九円

昭和四八年分と同様に推計によって次表のとおり算定した。

<省略>

右について以下項目ごとに詳述する。

1  収入金額 一億八五三二万四〇七六円

被告が調査により把握した原告の収入金額(売上金額)は一億八五三二万四〇七六円であり、その内訳は次のとおりである。

<省略>

2  売上原価額 一億三五四七万八一七五円

昭和四八年分と同様(一・2)に、後記(一)の豚の仕入金額一億〇四二七万三三八二円と(二)の飼料の仕入金額三一二〇万四七九三円との合計額一億三五四七万八一七五円を売上原価と推定した。

(一) 豚の仕入金額 一億〇四二七万三三八二円

(1) 豚の総仕入頭数 三四八一頭

昭和四八年分と同様(一・2・(一)・(1))に、原告が昭和五〇年中に販売した豚の頭数(三・1の表の順号3)三三七七頭を事故豚補数〇・九七で除して求めた頭数三四八一頭を本年中の仕入頭数と推定した。

(2) 豚の市場内仕入分と市場外仕入分との区分

昭和四八年分と同様の方法(一・2・(一)・(2))により、右(1)の仕入頭数三四八一頭に市場内仕入割合六四%と市場外仕入割合三六%とを乗じて市場内仕入分を二二二八頭、市場外仕入分を一二五三頭に区分した。

(3) 豚一頭当りの仕入価格

ア 市場内価格 三万五三四一円

昭和四八年分と同様の方法(一・2・(一)・(3)・ア)により、農林水産統計年報中の高崎市場における昭和五〇年分の価格三万四九四一円に手数料四〇〇円を加算した額三万五三四一円を一頭当りの市場内仕入価格と算定した。

イ 市場外価格 二万〇三七八円

昭和四八年分と同様の方法(一・2・(一)・(3)・イ)により、前記アで述べた高崎市場の価格三万四九四一円に前記一・2・(一)・(3)・イで述べた比率五八・三二%を乗じて求めた金額二万〇三七八円を市場外仕入価格と算定した。

(4) 右により算出した仕入頭数及び一頭当りの仕入価格から、

市場内からの仕入金額 七八七三万九七四八円

市場外からの仕入金額 二五五三万三六三四円

を算出、その合計額一億〇四二七万三三八二円が原告の昭和五〇年中の豚の仕入金額である。

(二) 飼料の仕入金額 三一二〇万四七九三円

原告の飼料の仕入金額は、三一二〇万四七九三円であり、その内訳は、別紙1の「昭和五〇年分」欄記載のとおりである。

3  必要経費額 一三七〇万一八九三円

その内訳は右三の冒頭の一覧表のとおりであるが、次の項目について補足説明する。

(一) 租税公課 七万〇五八〇円

次のアとイとの合計額である。

ア 自動車税額 二万五〇〇〇円

イ 固定資産税額 四万五五八〇円

(二) 光熱費 四万八〇七四円

次のアとイとの合計額である。

ア 豚舎の電気代 四万三〇一一円

昭和四八年分と同様の調査方法により豚舎の電気代四万三〇一一円を把握した。

イ 居宅の電気代 五〇六三円

昭和四八年分と同様の調査方法により居宅の電気代二万五三一四円を把握し、この金額に原告の申し立てた事業使用割合二〇%を乗じて居宅の電気代五〇六三円を算定した。

(三) 修繕費 八四万五三〇〇円

原告の事業用自動車の修理代であり、その内訳は、原告が、昭和五〇年七月に起した交通事故に起因して埼玉トヨタ自動車株式会社に支払った額六五万円と皆葉自動車店に支払った額一九万五三〇〇円との合計額である。

(四)消耗品費 五三万四八四〇円

原告の申し立てにより算定したガソリン代三六万二〇四〇円と灯油代一七万二八〇〇円との合計額である。

(五) 出荷等手数料 九〇八万〇九二〇円

原告が豚の販売先である大宮食肉荷受株式会社に対して支払った出荷手数料と解体手数料である(昭和五一年分も同じ)。

4  営業所得金額 三六一四万四〇〇八円

前記1の収入金額一億八五三二万四〇七六円から2の売上原価額一億三五四七万八一七五円及び3の必要経費額一三七〇万一八九三円を控除した金額である。

5  農業所得金額 一六万四一五一円

6  事業所得金額 三六三〇万八一五九円

右4の営業所得金額と5の農業所得金額との合計額である。

四  昭和五一年分の事業所得金額 九八二万五五二二円

昭和四八年分と同様に推計によって次表のとおり算定した。

<省略>

<省略>

右について以下必要に応じ項目ごとに詳述する。

1  収入金額 八五六五万〇一六一円

被告が調査により把握した原告の売上(収入)金額は次のとおり八五六五万〇一六一円である。

<省略>

2  売上原価額 六七一八万二一四〇円

昭和四八年分と同様(一・2)に、後記(一)の豚の仕入金額四九七二万一二〇〇円と(二)の飼料の仕入金額一七四六万〇九四〇円との合計額六七一八万二一四〇円を売上原価と推定した。

(一) 豚の仕入金額 四九七二万一二〇〇円

(1) 豚の仕入頭数 一六一二頭

昭和四八年分と同様(一・2・(一)・(1))に原告が昭和五一年中に販売した豚の頭数一五六四頭(四・1の表)を事故豚補数〇・九七で除して求めた頭数一六一二頭を本年中の仕入頭数と推定した。

(2) 豚の市場内入分と市場外仕入分との区分

昭和四八年分と同様の方法(一・2・(一)・(2))により、右豚の仕入頭数一六一二頭に市場内仕入割合六四%と市場外仕入割合三六%とを乗じて市場内仕入分を一〇三二頭、市場外仕入分を五八〇頭に区分した。

(3) 豚一頭当りの仕入価格

ア 一頭当りの市場内価格 三万六三八五円

昭和四八年分と同様の方法(一・2・(一)・(3)・ア)により農林水産統計年報中の高崎市場における昭和五一年分の価格三万五九八五円に手数料四〇〇円を加算した額三万六三八五円を一頭当りの市場内仕入価格と算定した。

イ 一頭当りの市場外価格 二万〇九八六円

昭和四八年分と同様の方法(一・2・(一)・(3)・イ)により、右アで述べた高崎市場の価格三万五九八五円に前記二・(一)・(3)・イで述べた比率五八・三二%を乗じて求めた額二万〇九八六円を市場外仕入価格と算定した。

(4) 右により算出した仕入頭数及び一頭当りの仕入価格から、

市場内からの仕入金額 三七五四万九三二〇円

市場外からの仕入金額 一二一七万一八八〇円

を算出、その合計額四九七二万一二〇〇円が原告の昭和五一年中の豚の仕入金額である。

(二) 飼料の仕入金額 一七四六万〇九四〇円

原告の飼料の仕入金額は一七四六万〇九四〇円であり、その内訳は別紙1の「昭和五一年分」欄記載のとおりである。

3  必要経費額 八八二万四二二八円

その内訳は右四の冒頭の一覧表のとおりであるが、次の項目について補足説明する。

(一) 租税公課 七万四五八〇円

次のアとイとの合計額である。

ア 自動車税額 二万九〇〇〇円

原告の事業用自動車に課税された自動車税額は二万九〇〇〇円であり、その内訳は次のとおりである。

<省略>

イ 固定資産税額 四万五五八〇円

(二) 光熱費 九万九四六三円

次のアとイとの合計額である。

ア 豚舎の電気代 九万五二五二円

昭和四八年分と同様の調査方法により、居宅の電気代二万一〇五五円を把握し、この金額に原告の申し立てた事業使用割合二〇%を乗じて居宅の電気代四二一一円を算定した。

(三) 修繕費 四七万九三九六円

原告の事業用自動車及び豚舎の修理代であり、その内訳は次のとおりである。

<省略>

(四) 消耗品費 四七万五六五〇円

原告の申し立てにより算定したガソリン代二九万三二五〇円と灯油代一八万二四〇〇円との合計額である。

4  営業所得金額 九六四万三七九三円

前記1の収入金額八五六五万〇一六一円から2の売上原価額六七一八万二一四〇円及び3の必要経費額八八二万四二二八円を控除した金額である。

5  農業所得金額 一八万一七二九円

6  事業所得金額 九八二万五五二二円

右4の営業所得金額と5の農業所得金額との合計額である。

五  本件賦課決定の根拠

前記一の1の(一)、二の1の(一)、三の1、四の1において述べたように、原告は架空名義を用いて豚の販売を行っていたほか、架空名義の預金口座を設定するなどして、課税標準(事業所得金額)等又は税額等の基礎となるべき事実を仮装又は隠ぺいし、所得金額を過少に申告していたものである。

したがって、国税通則法六八条一項の規定により各年分の増加所得税額(本件更正処分による所得税額((裁決後のもの))から申告所得税額を控除した金額である。)に一〇〇分の三〇の割合を乗じて重加算税額を賦課決定したものである。

六  本件課税処分の適法性

被告が本訴で主張する本件更正処分の根拠である原告の事業所得金額は、前記第一ないし第四項で述べたとおり、昭和四八年分は一七三二万三五九六円、昭和四九年分は一六一八万八五五六円、昭和五〇年分は三六三〇万八一五九円、昭和五一年分は九八二万五五二二円となり、いずれも本件更正処分(ただし裁決後のもの)の所得金額(請求原因第一項中、1ないし4表の裁決後の所得金額欄のとおり)を上回るものであり、また、各年分の重加算税たる本件賦課決定も右第五項で述べたとおり法律の規定に従って適法になされたものであるから、本件課税処分(ただし裁決後のもの)にはなんらの違法もない。

<Ⅱ> (推計の必要性及び合理性)

右に述べた如く、被告は、原告の、本件各係争年における営業所得金額を算出するに当たり、売上原価額のうちの、豚の市場外仕入頭数及びその価格について、推計の方法を用いたのであるが、推計を必要とした理由及び推計の合理性について、なお次のとおり詳論する。

一  被告が、本件更正処分において推計課税の方法を必要とした理由は、以下のとおりである。

1  被告は、原告が提出した本件各係争年の確定申告書につき審査したところ、原告申告の所得金額はその事業規模からみて過少であり、かつ右申告書の営業(養豚業)所得に関する収入金額及び必要経費額の各欄が空白となっていて法令で記載要件とされている所得金額の計算の基礎等の記載がないため所得金額の計算内容が不明であったことなどの理由により、原告に対する税務調査の必要性を認め、これを所部係官に命じた。

2  そこで被告所部係官は、昭和五二年七月二二日原告の自宅に赴き、営業に関する帳簿の提示を求めたところ、原告は「帳簿は作成していない。」旨答え、これを提示しなかった。そこで同係官は、原告に対し、豚の仕入先及び販売先、飼料の仕入先等について尋ねるとともに、本件各係争年における売上、仕入、経費の明細を調査のうえ、その結果を被告に提出するように依頼した。

更に、被告所部係官は昭和五二年一〇月三日から同五三年九月一三日までの間に、再三にかたり原告に対し右売上高等の明細を明らかにするよう依頼したが、この間原告は、取引銀行及び子豚の仕入先の一部等を断片的に明らかにしたにとどまり、「自分のところには書類が何もないので売上等の明細はわからない。」などと述べるのみで、結局本件各係争年分にかかる売上等の明細及びこれに関する帳票等を明らかにしなかった。

なお、原告は、本件課税処分に係る異議申立ての調査の段階に至っても、なお収支計算の資料及び帳簿書類を提出していなかった。

3  被告としては、右のような状況からみて帳簿等に基づいた実額による所得金額の把握は到底不可能であったため、係官の調査により判明した売上金額等を基礎として所得税法一五六条の推計課税の方法によったものであり、その必要性は十分にあったというべきである。

二  被告が、本訴において主張しているところの、豚の市場外仕入頭数及びその価格の推計方法は要するに、<1>まず被告の調査により実額の把握された売上頭数(右は被告所部の係官により原告の実名または仮名預金の存する金融機関を調査し、更にそこから入金先である原告の売上先を明らかにし、明らかとなった売上先を調査して、売上頭数と売上金額を把握したものである。ただし昭和四八年分の一部は推計。)を事故豚補数〇・九七(仕入後販売するまでの間における豚の死亡割合)で除して仕入頭数を推計する。<2>次に昭和五二年における原告の市場外と市場内との各仕入頭数の割合が市場内分六四%、市場外分三六%(計数上、昭和五二年分については右仕入の構成比率になることを原告も認めている。)を推計により得られた各期の総仕入頭数に乗じて、市場内仕入頭数と市場外仕入頭数を割合的に推計する。<3>そして市場内仕入価格は、統計である乙第一四号証の群馬県の高崎市場(原告が主として市場内仕入れを行っていたと主張する市場。)における当該各年の市場取引価格をもって推計する。<4>一方、市場外仕入価格は、前記の次第で被告所部係官の指導により市場の内外別に記帳されていた原告のノート記載の昭和五二年分の仕入頭数及び仕入金額(これを書き写したのが乙第一六号証の一ないし四である。)に基づき一頭当りの市場内仕入金額に対する市場外仕入金額の比率五八・三二%を求め、前記統計による市場内仕入価格に右比率を乗じてそれぞれの仕入価格を推計したものである。

右のように被告の推計は、<1>実額である原告の売上頭数を基礎としたもので(これは原告の売上金額の最少限度を示すものとして確実な金額である。)、推計の基礎に確実性があり、また<2>その方法は原告の同人率ないし統計等によったもので推計の方法に最適性が認められ、しかも<3>これにより得られた所得金額は、原告の真実の所得金額に近似した数額が把握できるものとして推計方法に客観性が存するものである。したがって本件推計方法は合理的なものというべきである。

なお、乙第二八号証(訴外郷文隆の聴取書)によれば、訴外郷は原告と子豚の取引きを行ったことがあり、その時期は昭和四八年秋ころであったこと、及び取引頭数は五、六〇頭で一頭当りの販売価格は一万二〇〇〇円か一万三〇〇〇円である旨を述べている。そうすると、昭和四八年中に原告が訴外郷から仕入れた子豚の仕入金額(市場外仕入金額)は、前述した同年分の推計による仕入金額一万〇六〇九円と、いささか齟齬する結果となる。しかしながら、訴外郷が乙第二八号証で原告への販売価格として述べる金額は、本件各係争年分の推計課税の基礎として用いる金額としては被告主張の金額に比し確実性に欠けるものである。

すなわち被告の仕入価格の推計方法の基礎となった金額は被告による調査着手後に原告自身が、しかも爾後の適正な申告を意識した上で記帳したノート記載の金額であって、これは右記帳状況に鑑み十分措信するに足りる金額であるのに反し、訴外郷の取引頭数及び取引金額についての陳述は、いささか記憶が曖昧で直ちには正確とは認められないのみならず、特別な事情のない限り、市場外仕入価格と市場内仕入価格との価格比率は各期において同程度と考えるべきであり、したがって右各仕入金額の値上り率も同様と考えて然るべきところ、前記被告主張の市場内仕入金額は、昭和五二年に比し昭和四八年は五〇・二一%、同市場外仕入金額は、昭和五二年に比し昭和四八年は四九・一三%とほぼ同様の値上り率を示しているのに反し、訴外郷の陳述する市場外仕入価格のうち仮に一万三〇〇〇円をとれば、これは昭和五二年に比し昭和四八年は六〇・二〇%となり、市場内仕入価格の値上り率と相当程度乖離する結果となるのである。

また、頭数について、前記乙第一六号証の一ないし四の原告記帳数合計二三三六頭(市場内仕入分一四九六頭、市場外仕入分が八四〇頭)は、前記同様十分措信するに足りるものと認められるのみならず、右頭数自体本件各係争年分の総仕入頭数(実額かつ当事者間に争いのない各売上頭数を事故豚補数で除した昭和四八年分二三九七頭、昭和四九年分三三〇二頭、昭和五〇年分三四八一頭、昭和五一年分一六一二頭)との比較からみて、右各年分の仕入頭数の内訳(市場内外の各頭数如何ないしそれらの仕入金額)を論ずるに足る十分な頭数と認められてしかるべきものである。これに反し、訴外郷の陳述する販売頭数したがって原告の市場外仕入頭数は僅かに五、六〇頭であって、そもそもこのように僅かな頭数における仕入金額をもって昭和四八年の市場外仕入金額の推計の基礎金額とすることも、まして右以外の本件各係争年分の市場外仕入金額の推計の基礎金額とすることも合理性を欠くものというほかない。

結局訴外郷の陳述する市場外仕入金額は、金額自体必ずしも正確でなく、また頭数も僅かなものであって、それはせいぜい訴外郷との個別取引における原告の市場外仕入金額と認められるものの域を出ず、本件における推計の基礎とするには合理性がない。これに反し、被告主張の本件推計の基礎金額は、前記の次第で、極めて合理性のあるものである。

<Ⅲ> (原告の主張に対する反論)

原告は、「本件各係争年中に市場外から豚を仕入れたことはない。」旨主張しているが、右主張は以下に述べるとおり明らかに失当である。

一  被告は、原告及び原告の豚の仕入先から帳簿書類の提示等の協力が得られなかったことから仕入頭数及び仕入金額を把握することができなかった。そのため、被告は、原告に対して、仕入先別に、昭和四八年分から同五一年分の仕入頭数及び仕入金額を調査してその結果を被告に回答するように求めたが、原告は、これに対して、次表の<2>欄記載のとおり昭和五〇年及び昭和五一年分の市場からの仕入頭数のみを回答したにとどまり、昭和四八、四九年中の仕入頭数については市場に帳簿が保存されていなかったため調査することができないとして回答しなかった。

<省略>

<省略>

右表からも明らかのように、昭和五〇年及び昭和五一年分について、被告が調査により把握した販売頭数(右<1>)は、いずれも原告が被告に回答してきた市場からの仕入頭数(右<2>)をはるかに上回っていること、また昭和五二年中には市場外から豚を仕入れていること、(被告の主張一・2・(一)・(2)参照)などの事実からすれば、原告が本件各係争年においても豚を市場外から仕入れているものと容易に推等することができる。

なお被告は、原告の先に回答してきた右表の<2>の仕入頭数について、仕入先を調査したが、いずれも調査を拒否されたため、右頭数の真偽を把握することはできないが、仮に原告の回答した右頭数が正しいと考えた場合の市場内仕入頭数の割合は、同表<3>のとおりであり、昭和五〇年及び昭和五一年分の販売頭数のうちに占める市場内からの平均仕入頭数割合は、順号3の<3>のとおり六四%となり、原告の昭和五二年分の市場内仕入頭数の割合に奇しくも一致している。

二  原告は、「原告が昭和五二年中に市場外から子豚を仕入れたのは、同年中の市場内仕入豚から豚赤痢が発生したためである。」旨主張するが、以下のとおり、右事実は不存在であったというべきである。

原告の主張によれば、「豚赤痢が発生したのは群馬県の高崎市場から仕入れたもののうち五〇ないし六〇頭である。」という。しかし同市場所在地を管轄する群馬県西部家畜保健衛生所長の回答によれば、同年中のみならず昭和五一年中及び同五三年中にも同所管内での豚赤痢の発生は認められないものである(乙第二六号証)。原告が昭和五二年中に高崎市場から仕入れた子豚は、乙第二四号証の一によれば、同年九月二日から同月三〇日までの計四三二頭である。この頭数は、被告所部係官の原告に対する税務調査着手後、同係官の指導によって記帳したものであるから(原告本人調書速記録二四丁)、正当なものと認められ、そうすると原告の同年中における同市場からの仕入豚は、その一割以上が豚赤痢に罹患していたことになり、このことはひいて同年中同時期に同市場で取引された豚にもこれと同程度の豚赤痢の発生があったものと認めるのが自然である。

そもそも豚赤痢は、家畜伝染病予防法四条一項及び同規則二条に規定する伝染性疾病であって、同法四条一項の規定により豚赤痢に罹患し又はその疑いがあることを発見したときは、当該豚を診断し、又はその死体を検案した獣医師は、当該豚又はその死体の所在地を管轄する市町村長にその旨を届け出なければならず、また家畜取引法一三条によれば、家畜市場開設者は、家畜市場の開場日には、当該家畜市場に獣医師を配置し、家畜取引の当事者の要求があるときは、いつでもその獣医師に家畜が疾病にかかっているかどうかの検査を行わせなければならない旨規定するほか、右各法令は豚をはじめ家畜伝染病(家畜伝染病予防法二条)又は伝染性疾患に罹患しまたはその疑いのある家畜の防疫ないしその取引について厳しく法規制を設けているのであって、家畜市場で取引される一割にも余る豚に豚赤痢が発生するという異常な状態(家畜伝染病予防法六二条)では法律上も事実上も取引などできる道理はなく、またかかる事態はたちまち家畜保健衛生所(これは家畜保健衛生所法一条により都道府県が設置する。)の知るところとなる筋合いであるから(地方自治法別表四の二の((三十四))の規定により、市町村長は、家畜伝染予防法等で定められた届出等を受けてこれを都道府県知事等に報告することになる。)、前記回答に表れないはずはないのである。

したがって原告の主張の高崎市場における昭和五二年中における豚赤痢の発生はなく、原告が同市場から仕入れた豚が豚赤痢に罹患した事実など何ら存しないものといわなければならない。

三  次に原告には本件各係争年中(ないしそれ以前)に子豚の市場外仕入れをした事実が明らかに存する。原告は本件各係争年中である昭和四八年秋ころ、福島県白河市の畜産業者郷文隆から五五、六頭を(乙第二八号証)、また頭数は判然としないが本件各係争年中ないしその一年位以前に茨城県常陸太田市のワラ工業品業者の横山満男から(乙第三二号証)、それぞれ子豚を仕入れているのである。右各取引の時期について、横山との取引は、右のように必ずしもその時期が本件各係争年中とはいえないが、郷との取引は、郷が昭和四八年九月、いすゞの二トン車「ショートボデー」を購入した直後、同車で原告宅に子豚を搬送したもので、郷はその後昭和五〇年八月、いすゞの二トン車「ロングボデー」に買い替えていることからみても、郷と原告との取引の時期が昭和五八年秋ころであるとする乙第二八号証の記載は極めて信用できるものといいうるのである。

四  ところで被告が把握している本件各係争年中(ないしそれと思料される年)における具体的な豚の市場外仕入れは前項記載の各取引にとどまる。しかしながら原告が豚の市場外仕入れを右各取引にとどめているものとは到底考えられないところである。

すなわち係争外の昭和五二年における原告の子豚一頭当りの市場外仕入価格は、前記のとおり市場内仕入価格の約半値の五八・三二%であって、市場内仕入価格に比し著しく安価であり、このような市場外仕入価格と市場内仕入価格との開差は、昭和五二年と本件各係争年とで異るものと認めるべき特段の事情がないから(市場内外の各価格に開差が存すること自体は経験上明らかである。)、本件各係争年中においても同程度に存したものと認めるのが相当である。

また関東地方なかんずく原告の居住する茨城県は全国一の豚の生産高を誇っており、かつ福島県も全国平均を上回る生産高を示しているのであるから、原告としては市場内豚はいうに及ばず市場外豚を極めて容易に仕入れうる位置にあるのである。そうすると昭和四〇年以来養豚業を営み、したがって近県近在の家畜市場の状況や豚の生産者(原告への卸業者)の所在ないしその取引に関する動向等を了知しているものと認められるべき原告が、本件各係争年以前はむろん、本件各係争年中の昭和四八年中にも、市場外仕入れをしたことがある以上、市場内価格に比し著しく安価で、しかも容易に可能と認められる市場外仕入れを、家畜取引法による法規制を受け手続的に煩 な(同法一五条、一六条)、しかも取引日が一定で(原告本人調書速記録三〇丁表ないし三一丁表)いつでも仕入可能とはいえないというように肥育業者にとって不自由を強いられる市場内仕入れとは別途に、行っていたものと認めるのが極めて自然かつ合理的であるといいうるのである。

ちなみに被告が主張する本件各係争年中における原告の市場外仕入豚の頭数は、前記のとおり、昭和四八年八六三頭、同四九年一一八九頭、同五〇年一二五三頭、同五一年五八〇頭であるところ、原告が昭和五二年に子豚を市場外から仕入れる際には、荷台を二段構造として子豚一五〇頭を積載できる四トントラックを使用していたのである(高林証人調書五項)。そこで今、右の四トントラックを使用して市場外仕入れをするとすれば昭和四八年は二ケ月に一回(なお月に約七二頭の仕入れをすることになる。以下カッコ内の数字は同じ。)、同四九年は一ケ月半に一回(約九九頭)、同五〇年は一ケ月半弱に一回(約一〇四頭)、同五一年は三ケ月に一回(約四八頭)の割合で各地域を巡って仕入れをすれば事足りるということになり、原告にとって容易に仕入可能な頭数と認められるのである。したがってこのことからしても被告が前記のように明らかにした郷他一名との取引の他にも原告には本件各係争年中に市場外仕入れが存することを容易に推認しうるのである。

五  なお原告は、「本件各係争年における一頭当りの平均使用飼料金額等から算出される仕入れた子豚一頭当りの平均体重に比して、被告算出の市場外から仕入れた子豚一頭当りの価格が著しく低廉である。」旨主張するが、該主張は次に述べるとおり失当である。

すなわち昭和五五年三月発刊の関東農政局統計情報部が発行した「関東の農業経済累年統計」によれば、茨城県の肥育豚生産費(一頭当り)のうち飼料費の金額は、次のとおりであることが認められる。

昭和四八年分 一〇、九九九円(うち流通飼料費一〇、九九五円)

同 四九年分 一七、五五九円( 〃 一七、五五五円)

同 五〇年分 一九、六二二円( 〃 一九、六二二円)

同 五一年分 一八、九二〇円( 〃 一八、九二〇円)

そこで、右金額を原告主張の生豚重量一キログラム増体に要する飼料費が仮に正しいとしてこれで除して一頭当りの見込みの増体重量を求め、原告主張の肉豚販売重量一一〇キログラムが正しいとしてこれから右増体重量を控除すると、一頭当りの子豚の仕入重量は、昭和四八年分四一・七三キログラム、同四九年分三三・九五キログラム、同五〇年分三八・八七キログラム及び同五一年分三九・三六キログラムとなるから、原告の子豚仕入の主張は明らかに失当と言うべきである。

なお、被告の右計算式を示せば次表のとおりである。

<省略>

<省略>

なおかつ原告は、別紙1「昭和四八年分ないし同五一年分に原告の仕入れた飼料購入金額」に示した飼料の仕入先名のとおり、配合飼料を販売していない酒造業者及び米穀店等から米ぬか等の飼料を購入していること並びに同業者が通常飼料として給与しない飼料(例えば残飯など)を集荷し、それに熱を加える等の加工を施して給与する施設を有しており、代金を支払わない飼料を給与しているものと認められるから、同業者に比較して飼料費は安いものと認められる。したがって、被告主張の飼料の仕入金額に基づいて算出した原告の子豚仕入金額の主張は、この点からも明らかに失当である。

第五右「被告の主張」に対する原告の答弁

一  <Ⅰ>(事業所得金額算出根拠)の項について。

1  <Ⅰ>の第一ないし第四項中、本訴における本件更正処分の計算根拠のうち、収入金額(売上先に対する各売上金額及び販売頭数を含む)、必要経費額、農業所得金額については、各係争年ともこれを争わない。また、本件各係争年の売上原価額の算出根拠のうち、豚の総仕入頭数(事故豚補数が〇・九七であることを含む。)及び市場内仕入価格並びに飼料の仕入金額はこれを争わない。しかし、原告が、本件各係争年において、市場外から子豚を仕入れていたとの事実は、これを強く否認する。

2  同第五項のうち、原告が架空名義を用いて豚の販売を行なっていたこと、及び架空名義の預金口座を設定していたことは認めるが、その余は争う。

3  同第六項は争う。

二  <Ⅱ>(推計の必要性及び合理性)の項について。

1  <Ⅱ>第一項のうち、原告が本件各係争年分の確定申告書提出の際、所得金額を記載したのみで、営業(養豚業)所得に関する収入金額及び必要経費額の記載をしなかったこと、被告所部係官が昭和五二年七月二二日原告方を来訪し、原告に対し営業に関する帳簿等の提示を求めた際、原告がこれを提示しなかったこと、被告所部係官が昭和五二年一〇月三日から翌五三年九月一三日までの間再三にわたり原告に対し本件各係争年の売上高の明細を明らかにするように依頼したこと、以上の事実はこれを認める。

2  同第二項の、被告の推計方法が合理的であるとの主張は争う。

三  <Ⅲ>(原告の主張に対する反論)

1  <Ⅲ>第一項のうち、昭和五〇年及び同五一年における販売頭数が表<1>欄記載のとおりであること、原告が、被告からの問い合わせに対し、昭和五〇年及び同五一年分の市場からの仕入頭数として、同表<2>欄記載のとおり回答したこと並びに昭和五二年に市場外から子豚を仕入れたこと認めるが、その余は争う。

原告が被告の問い合わせに対し、右のような回答をしたのは、原告が当時正確に記憶していた限りについて回答したものであって、その余についても高崎市場から仕入れたことの記憶はあったのであるが、同市場に問い合わせても回答を得ることができなかったので、やむを得ず右の限度で回答したものである。したがって、昭和五二年の市場内仕入頭数と市場外仕入頭数との構成比率をもって、本件各係争年のそれの比率とすることは、この点でも不当である。

2  同第二項は争う。原告は、原告自身の飼育する豚に赤痢が発生したと主張しているものではない。

3  同第三項は否認する。原告が、本件各係争年中に市場外で子豚を仕入れた事実はない。

被告は、乙第二八号証(郷文隆の供述書)及び第三二号証(横山満男との電話記録)を根拠に、原告が本件各係争年中に市場外から子豚を仕入れた事実がある旨主張するのであるが郷文隆の右供述内容は、同人のその後の供述書(甲第五号証)によって明らかなとおり、同人の記憶違いによるものであることが判明しており、また、横山満男の応接内容は、やはり同人のその後の供述書(甲第六号証)により、全く虚偽であることが判明したのであるから、いずれも被告主張の根拠とはなりえないものである。

4  同第四項は争う。被告は、原告が市場外から小さい子豚を仕入れて経営していることを前提としているが、右がそもそも誤りである。すなわち、原告は、群馬県の市場から大きい豚を仕入れている(同市場の子豚は全国一を誇る大きい子豚であり、今日仕入れて明日肉豚として販売できる豚も多数ある。)のであって、市場外の小さい子豚を仕入れているのではない。

5  同第五項は争う。

第六証拠

証拠関係については、本件記録に編綴されている書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるので、ここにこれを引用する。

理由

一  (本件課税処分)

請求原因第一項の事実は当事者間に争いがない。

二  (営業所得金額の推計の必要性)

そこで、本件更正処分(ただし、その内容の数額の点は裁決後のもの。)が正当か否かについて検討するに、被告が本件訴訟において主張しているところの本件更正処分の算定根拠のうち、収入金額(各売上先に対する売上金額及び販売頭数を含む。)、必要経費額、農業所得金額並びに、売上原価額算定根拠のうちの豚の総仕入頭数、その市場内仕入頭数、その市場内仕入価格及び飼料の仕入金額については、本件各係争年分とも、いずれも「第四被告の主張」のとおりであることは当事者間に争いがない。ししたがって、右事実によれば、本件更正処分の当否は、結局のところ、売上原価額算定根拠のうちの本件各係争年における豚の仕入れにつき、市場内仕入分と市場外仕入分との各頭数(ないしは、その前提としての両者の割合)及び市場外仕入子豚一頭の価格如何にかかってくることとなるところ、被告は、右の点については所得税法一五六条の推計の方法によった旨主張するので、以下まず推計の必要性について判断する。

原告が本件各係争年分の確定申告書提出に際し営業所得金額欄の収入金額及び必要経費額の記載をしなかったこと、被告所部係官が昭和五二年七月二二日税務調査のため原告方に赴き、営業に関する帳簿等の提示を求めた際、原告がこれを提示しなかったこと、及び被告所部係官が同年一〇月三日から翌五三年九月一三日までの間再三にわたり、原告に対し豚の売上高の明細を明らかにするように依頼したこと、以上の事実は当事者間に争いがない。これらの事実と成立に争いのない乙第一六号証の一ないし四、第一八ないし第二三号証、第二四号証の一、二、証人高林進の証言及び同証言により真正に成立したものと認められる乙第二八号証、第三二号証、証人成田博の証言、原告本人尋問の結果(第一回)の一部並びに弁論の全趣旨を総合すると、被告が推計課税を行なうに至った経緯について、以下の事実を認めめることができる。

1  被告は、原告が本件各係争年の確定申告書に収入金額及び必要経費額等を記載しなかったことや、原告の事業規模からみて申告所得金額が過少と認められたことなどの理由から、原告に対する本年各係争年の所得額調査の必要性を認め、所部係官にこれを命じた。被告所部係官は昭和五二年七月二二日、原告宅を訪れ、原告に対し、営業に関する帳簿の提出を求めたところ、原告は「帳簿は作成していない。」旨答えるのみで、これを提示しなかった。そこで、被告所部係官は、所得金額の計算を把握するため、原告に対し、子豚及び飼料の仕入先、豚の販売先などについて尋ねるとともに、本件各係争年における売上、仕入、経費の明細を調査して提示するよう依頼したが、これに対し、原告は、取引銀行、飼料の購入先、豚の販売先の各一部並びに昭和五二年に仕入れた子豚の頭数及びその価格(第四被告の主張<Ⅰ>第一項2(一)(2)の表のとおり)を明らかにしたのみで、結局、被告は本件各係争年における原告の営業所得金額を把握するに足りる十分な明細を得ることができなかった。

なお原告は、本件更正処分の直前の昭和五三年八月二六日ころになって、昭和五〇年から昭和五二年までの子豚及び飼料の仕入先の明細を記載した書面を被告宛に郵送したが、これにも昭和四八年及び昭和四九年分については何らの記載がない。

2  原告が被告所部係官に対し、右調査の時点で明らかにした、昭和五二年に仕入れた豚の内訳は、総仕入頭数二三三六頭であり、そのうち、市場内仕入分が一四九六頭(仕入金額は五五三八万八九四〇円)、市場外仕入分が八四〇頭(仕入金額は一八一三万八一六〇円)であって、前者と後者との頭数の割合は六四対三六であり、同年中における豚一頭当りの市場内仕入価格の平均は三万七〇二五円、同じく市場外仕入価格の平均は二万一五九三円で、市場内平均仕入価格に対する市場外平均仕入価格に対する市場外平均仕入価格の比率は五八・三二%であった。

また、原告が被告に対して昭和五三年八月二六日ころに郵送した前記書面には、昭和五二年分について右同様の記載があるほか、昭和五〇年及び昭和五一年に市場内仕入子豚の頭数は、それぞれ二三八〇頭、八九九頭である旨の記載があり、これによると、両年の販売頭数(昭和五〇年分が三三七七頭。昭和五一年分が一五六四頭。この事実は争いがない。)に対し、市場内仕入分の占める割合はそれぞれ七〇%、五七%となる。

3  被告は、右1のような状況からして原告の協力により、その帳簿等に基づいて実額を把握することは不可能と判断し、更に独自に、飼料の購入先、取引銀行、豚の販売先等を調査し、豚の販売頭数及びその価格、飼料代等についてほぼその実額を把握することができたが、子豚の仕入頭数及びその価格については、原告が、昭和五二年に仕入れた旨述べた高崎市場等を調査するも回答を得ることができず、したがって本件各係争年における仕入頭数及び価格が判明しなかったのはもちろんのこと、昭和五二年における仕入頭数及び価格についても原告の主張を裏付けることができなかった。また、原告が昭和五二年に市場外から仕入れたとする仕入先については、原告の主張が断片的であったため、調査することができなかった。

4  被告は、右のような状況からすると、結局のところ、原告の営業所得金額の実額を把握することは不可能であって、推計によるほかないものと判断するに至ったのであるが、推計の方法については、同業者率や同一利益率による方法は、原告と同規模同程度の同業者がみつからなかったことや食肉相場の変動が激しかったことなどの理由により、採用せず、後述の方法によることとなった。

以上の事実によれば、被告が、原告の本件各係争年における営業所得金額を算出するにあたり、特に、豚の仕入頭数につき、市場内分と市場外分との割合及び各頭数並びに市場外仕入による豚の価格について推計の方法によらざるを得なかったことは明らかであり、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

三  (推計の合理性)

すすんで、被告のとった推計方法の合理性の有無について検討するに、被告が、右豚の市場内仕入頭数と市場外仕入頭数との算出及び豚の市場外仕入価格の算出にあたって採用したところの推計方法は、要するに、次の1、2によるものであった。

1  本件係争年における市場内仕入頭数と市場外仕入頭数とは、被告が把握したところの総売上頭数(ただし昭和四八年分の一部は推計)を事故豚補数〇・九七で除して得たところの総仕入頭数(この頭数については当事者間に争いがない。)に、前記昭和五二年における原告の市場内仕入頭数と市場外仕入頭数との割合(六四対三六)を乗ずることによって、それぞれの仕入頭数を推計する。

2  本件係争年における市場外仕入価格は、農林水産統計年報中の高崎市場における各年の価格(手数料を含む。この価格が、各年における原告の市場内仕入価格であることは前記のとおり、当事者間に争いがない。)に、前記認定の昭和五二年における一頭当りの市場内仕入価格に対する市場外仕入価格の比率(五八・三二%)を乗ずることによって推計する。

右はいずれも当事者間に争いのない、本件各係争年の総仕入頭数あるいは、市場内仕入価格を基礎としており、原告自身の申告に基づく昭和五二年中の市場内仕入頭数と市場外仕入頭数との割合(六四対三六)、あるいは、市場内仕入価格に対する市場外仕入価格の比率(五八・三二%)を用いたものであるから、その基礎に確実性があり、かつ、被告の恣意によって左右されることのない客観性を有しているものと認められる。

ところで、これに対し、原告は、「昭和五二年は高崎市場から仕入れた子豚に赤痢病が発生し、同市場から仕入れることができなくなったため、昭和五二年に限り、たまたま市場外から子豚を仕入れたものであって、本件各係争年においては市場外から子豚を仕入れた事実は皆無であった。」旨主張し、原告本人尋問の結果(第一回)の中にも、右主張に沿う供述部分が存する。しかし、成立に争いのない乙第二六及び第二七号証によれば、昭和五二年に、高崎市場及びその周辺地区並びに原告居住地区及びその周辺地区(茨城県土浦市、大穂町、谷田部町)において豚赤痢が発生した事実は、少くとも各保健衛生所において把握されていなかったものと認められる。

したがって、右の事実に徴すると、原告の右供述部分は措信しがたいばかりでなく、原告本人尋問の結果(第二回)によれば、原告は本件各係争年前の昭和四五年ないし昭和四七年にも、また本件各係争年後においても、昭和五二年のみならず、それ以後現在に至るまでも市場外から豚を仕入れている事実が認められるのであって、これによれば、むしろ特段の事情が認められない原告については、その中間である本件各係争年においても、市場外から豚を仕入れていたものと推認するのが自然かつ合理的であるといいうるのである。

あるいはまた、原告の不服とするところは、「本件各係争年において市場外仕入の子豚があることは認めるとしても、その比率が三六%とするのは高すぎる。」という趣旨にあるとも解される。

しかしながら、前記認定のとおり、市場外仕入分の比率を三六%としたのは、原告の昭和五二年における総仕入頭数の比率に基づいたものであるところ、昭和五二年に限って、市場外から仕入れた子豚の比率を格別高くせざるをえなかったような特別の事情の存在は認めがたい。のみならず、原告は、昭和五三年八月下旬に被告所部係官宛に提出した書面にて、原告が昭和五〇年及び同五一年に市場内で仕入れた豚の数は、それぞれ二三八〇頭、八九九頭であった旨回答していることは当事者間に争いがない。そして成立に争いのない乙第二四号証の一、二及び原告本人尋問の結果(第一回)によれば、右は市場の帳簿に基づいたものであるから(「昭和四八年、昭和四九年分については、市場に帳簿がないため子豚買入調査出来ません。」との記載がある。)、右両年に市場内から仕入れた豚の数を網羅したものと推認される(これに対し、原告は、「右の数字は単に記憶にある限りのものを記載したにすぎない。」旨供述するが、措信できない。)。右によれば、原告が昭和五〇年、同五一年に仕入れた豚の総頭数(それぞれ三四八一頭、一六一二頭であって、当事者間に争いのない数字である。)から、右記載の頭数を差引いた残りの頭数(それぞれ、一一〇一頭、七一三頭となる。)はすべて市場外仕入分と推認されるところ、その割合はそれぞれ三一・六%、四四・二%となり、また右二年間を通算すると、三五・六%が市場外仕入分と認められるのであって、被告の用いたところの三六%の数字とほとんど一致する。

したがって、被告が、原告の本件各係争年に市場外から仕入れた豚の割合を三六%と推計したことをもって合理的でないとすることはできず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

(なお、念のため、昭和五〇年に、市場外仕入の豚の頭数を一一〇一頭として、原告の同年の営業所得金額を推計すると((豚の価格などその他はすべて同一とする。))、別紙計算表のとおり、三四〇三万三七八三円となり、同年分の本件更正処分における原告の所得金額二〇〇二万四八三六円を上回ることが明らかである。)

さらにまた原告は、「被告が推計したところの市場外仕入分の価格は、原告独自の計算によって算出されるところの子豚一頭当りの平均体重(六八ないし七七キログラム)に比して、著しく安いから不当である。」旨主張するのであるが、原告が右計算の算出根拠としている肉豚販売重量、各年別養豚配合飼料平均価格などを認めるに足りる適確な証拠はなく(もっとも、甲第一号証には、一〇〇〇キログラム当りの配合飼料価格、飼料要求率などの記載があるが、その作成の経緯は不明であり、かつまたその内容自体も、どのような根拠に基づいたものか明らかでないので、措信しない。)、したがって原告の右主張は採用することができない。

なお、証人高林進の証言により真正に成立したものと認められる乙第二八号証中には、郷文隆の供述として、「昭和四八年秋ころ、原告に対し、子豚一頭当り一万二〇〇〇円か一万三〇〇〇円で五五・六頭売った」旨の記載があるのであるが、しかし、右は、供述自体が確実な根拠に基づいているわけでなく、単に記憶によったものにすぎないことが認められるので、にわかに措信しがたいといわなければならない。

以上によれば、被告のとった推計方法は合理的であるといいうる。

四  (本件更正処分の適正)

右の如き合理的推計により算出されていると認められる本格各係争年の各営業所得金額(第四被告の主張<Ⅰ>第一ないし第四項の各4の金額)は適法なものとして是認するのを相当とすべく、これに各農業所得金額(第四被告の主張<Ⅰ> 第一ないし第四項の各5の金額で、いずれも争いがない。)を加算した各事業所得金額(右主張<Ⅰ>第一ないし第四項の各6の金額)は、次表のとおり、いずれも本件更正処分(ただし裁決後のもの)の所得金額を上回っていることは計算上明らかである。したがって、右各事業所得金額の範囲内を各所得金額としている本件更正処分は適法であるというべく、他に、この判断を左右するに足りる証拠はない。

<省略>

五  (本件賦課決定の適正)

最後に、本件賦課決定の適否について判断するに、右一ないし三において認定したところから、原告が本件係争年の所得金額を過少申告していたことが明らかなところ、原告が架空名義を用いて豚の販売を行なっていたこと、及び架空名義の預金口座を設定していたことは当事者間に争いがなく、右事実によれば、原告は国税通則法六八条一項における、課税標準等又は税額等の基礎となる事実を仮装又は隠ぺいし、所得金額を過少に申告したものと認めるのが相当である。そして本件更正処分(裁決後のもの)上の各事業所得金額(各課税標準)が請求原因第一項1ないし4表の各「所得金額」欄(裁決後のもの)のとおりであることは前説示のとおりであり、これに所定の税率をもって算出すると「所得税額」欄(裁決後のもの)のとおりの数額になるところ、「右所得税額」から「確定申告の所得税額」(右各表の「確定申告」欄)を控除した増差税額(なお千円未満切捨)に三〇%の重加算税を賦課することは右法条から適法というべく、その範囲内での本件各係争年分の重加算税たる本件賦課決定に違法の廉は見い出しがたい。

六  (結論)

よって、被告のなした本件更正処分及び賦課決定には取消されるべき事由がないことに帰するので、右各処分の取消を求める原告の本訴請求は理由がないので、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 龍前三郎 裁判官 大澤廣 裁判官新崎長政は転補のため署名捺印することができない。裁判長裁判官 龍前三郎)

別紙1

昭和48年分ないし同51年分に原告の仕入れた飼料購入金額

<省略>

別紙2 原告の事業の用に供されている固定資産の固定資産税課税標準額及び固定資産税額の計算

(昭和48年分ないし同51年分)

<省略>

別紙3 減価償却費の計算

<省略>

別紙4

昭和50年の市場外仕入子豚の頭数を1101頭としたときの、原告の営業所得金額計算表

(1) 豚の仕入金額

市場内仕入分 35341×2380=84111580

市場外仕入分 20378×1101=22436178

合計 84111580+22436178=106547758

(2) 市場外仕入分を36%と推計した場合に対し、仕入金額の増加した分

106547758-104273382=2274376

(3) 原告の所得金額

36308159-2274376=34033783

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