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水戸地方裁判所 昭和34年(行)4号 判決 1962年8月30日

原告 今野貞夫 外四名

被告 水戸税務署長

補助参加人 金田満男

主文

原告らの訴をいずれも却下する。

訴訟費用中原告らと被告との間に生じた分及び補助参加により生じた分はいずれも原告らの負担とする。

事実

第一、当事者の申立

原告ら訴訟代理人は、被告が水戸市南三の丸七三番地の四五宅地六十一坪三勺に対し昭和三十三年四月十七日になした公売処分を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。との判決を求め、被告指定代理人は、主文第一項同旨並びに訴訟費用は原告らの負担とする。との判決を求めた。

第二、当事者の主張

一、原告らの請求原因

(一)、原告大富合資会社(以下原告会社という)は訴外富田きくから水戸市南三の丸七三番の四五宅地六十一坪三勺(以下「甲地」という)の出資を受け(移転登記は未了)その所有権を主張しているものであり、その他の原告四名は同会社よりその所有の水戸市南三の丸七三番の五畑(現況宅地)二畝二十七歩、同番の八宅地百三坪(以下「乙地」という)の各一部を各賃借し、右各借地上にいずれもそれぞれ建物を所有し(但し原告今野貞夫の建物は妻都恵名義)これを店舗として営業中の者であるが、昭和二十八年十二月二十五日水戸復興土地区劃整理の換地計画に基き甲地の換地予定地は乙地に指定せられ、その後原告会社を除く他の原告ら四名は、原告会社との間に甲地の換地予定地たる乙地について賃貸借契約を締結した。

(二)、ところが、被告は甲地をその公簿上の名義人たる訴外富田きくに対する国税の滞納処分として公売に付することとし、公売期日昭和三十三年四月十七日午前十時乃至十一時公売場所水戸税務署、最低公売価額百六十六万六千四百円契約保証金は競落価額の百分の十以上、代金納付期限昭和三十三年四月二十一日午後三時として競売の方法により右公売を執行した。

(三)、原告らは前記のような理由で甲地の所有権の帰趨如何は原告ら四名の所有建物の存否ひいては各自の営業の死命を制すべき重大な意義があるので右公売に参加したところ、右期日に行われた公売手続は次の方法により執行された。即ち当日立会した関東信越国税局職員某が競売開始に先立ちその方法を説明したが、その要旨は最高価額の競買申出人が契約保証金を即時納入しないときは次点者に競落せしめるというのである。右説明後競売が開始されたところ、競買申込価額が次第にせり上つて、競買参加人たる補助参加人金田満男より二百二十万円の買受申出があり、次いで訴外菅谷スエが二百九十万円の申出をした。その直後、訴外梅沢清が右申出を二百二十九万円と聞き違え「千円買増しする」と申出たところ「二百九十万円に千円買増しするのか」といわれ「二百二十九万円でなかつたのか、二百二十九万一千円ならば買うが二百九十万一千円ならば撤回する。」と言つて撤回した。そこで右菅谷スエが最高価申出人となつたところ同人は即時保証金の納入をしなかつたので前記説明に従い次点者たる補助参加人金田満男が契約保証金を納入して二百二十万円で競落するに至つたものである。

(四)、しかしながら、右公売処分は以下に述べるような理由で違法である。

(1)、右のような手続のもとに行われた本件公売処分は、公正なる競争により公売財産の最高価買受人を定めこれに対し競落を決定するという競売の目的に違反する重大なる瑕疵を有するものである。

およそ競売即ちせり売りの方法は、目的物件に対する真の最高買受価額を求め、その上でその最高価額申出人に競落を決定することを本質とするものであつて、ただその場合最高価額申出人が契約保証金を納入しないときはその申出は失効し、競落人たるの資格を失うものである。一般に競買申出は更に高額の申出があれば当然効力を失うものである。故に本件の場合二百二十万円の競買申出は続いでなされた二百九十万円の申出によつて当然効力を失つたものである。しからば、後者の価額の申出人が契約保証金を納入しなかつたことにより最高価競買人の地位を喪失したとしても、一旦失効した右二百二十万円の申出がそのまま最高価額として復活するということは承認さるべきではない。即ち改めて二百二十万円の申出を出発点として新たにせり上げを試みより高価額の申出があるか否かを自由な競争によつて決し遂に二百二十万円を超える申出がなかつたときにのみ右価額を最高価額として競落せしめることが許されるのである。

然るに、被告が本件においてなした競売方法は二百二十万円を超えて競買をなさんとする者に対し競争の機会を奪い、その競買申出を封ずるものであつて違法というべきである。また、たとえかかる違法な競売方法が事前に告知されたとしても原告らを含む利害関係人全部がこれに同意したものでなく、たとえ同意したと看做され得るにしてもかかる競売の本質に反するような事項が関係人の黙示の同意によつてその瑕疵が治癒せられるべきものではない。公売は法律的には競売の一種である。競売は口頭でする競争締結の方法による売買で競争者は互に他人の申出価格を知りうる点に特色がある、民訴法第五百七十七条第六百六十五条第六百六十八条は夫々最高価競買人に競落を許すべきことを定めているがこの最高価とは右のように「競争」(せり合い)の結果形成された最高額を指すもので、右のような最高価が申出の効力を失つた結果第二の価額が偶々最高価になつたという場合を含むものでないことは当然である、蓋しこのようにして偶然最高価になつた競買申出については、取消された最高価競買申出がなくて、更にせりが続行された場合には前記第二の価額より高額の競買申出の可能性のあり得ること理論的に当然であるからこれをもつて法の要求する競争の結果形成された最高価競買申出となし得ないのである。なお最高価競買人が保証金を納付しないことによつて次順位者を競落人たらしめ得ると定めれば一種の競買申出の任意の撤回及び一旦効力を失つた申出の復活を認める結果になる訳であるが、かかる撤回、復活の許されないことは民訴第六百七十七条第六百七十八条からも明らかである公売の法律上の性質が強制競売と同一である以上右のことは公売についても全く同様に解すべきである。

(2)、かりに最高価額競買申出人が契約保証金を即時納入しないときは次点者を競落人と定めることが適法であるとしても、本件公売処分は次の理由により違法である。

前記の如く訴外梅沢清が補助参加人金田満男の申込価額より高額な二百二十九万一千円の申出をしたのであるから、訴外菅谷スエの申出が効力を失うならば、次点者は右梅沢清であるから同人をして競落せしめるべきであるのに補助参加人をして競落せしめたのは違法である。

(3)、国税徴収法第百八条第一項には、公売に際して不当に価額を引下げる目的をもつて連合した者を退場させることができ、また同条第二項には右に該当する者の競落決定を取消すことができると規定している。これを本件公売についてみれば、補助参加人金田満男及び訴外菅谷スエ等が連合して補助参加人を競落人たらしめるべく不正な手段をとつたものであるから、右法条の趣旨からみて同人を競落人たらしめた本件公売処分は違法である。

(五)、そこで原告らは昭和三十三年五月十七日関東信越国税局長に対して本件公売の違法を理由としてその取消しを求めるため再調査の請求をしたところ、税務当局は本件公売の執行者は被告であるとし、右再調査の請求を再調査の請求を経ずして直ちに審査の請求をなす場合であると看做し再調査の決定を経ることなく審査決定を受けることにつき原告らの同意を求めたので原告らはこれに同意する旨を上申した。ところが同年十二月十九日関東信越国税局長は審査請求を棄却する決定をし、右決定通知書は同月二十一日原告らに送達された。

(六)、しかしながら、本件公売処分は前記のとおり瑕疵があり違法であるからこれが取消しを求める。

二、被告の答弁及び主張

(一)、請求原因一の(一)の事実中原告会社が甲地の所有権を主張している事実、原告梅沢スイ子、同古矢福松、同小野瀬ユキエが乙地の一部を賃借し、その借地上にそれぞれ建物を所有している事実(原告今野貞夫は賃借人ではなくその妻都恵が賃借して建物を所有しているものである)、原告ら主張の日にその主張のような復興計画に基き甲地の換地予定地として乙地(但しその一部)が指定され、甲地の使用収益権が換地予定地たる乙地上に行使されることとなつた事実は認めるがその余の事実は不知。

(二)、同上(二)の事実は認める。

(三)、同上(三)の事実中原告らが本件公売に参加した事実は否認する。もつとも、原告今野貞夫、同古矢福松、同小野瀬ユキエが本件公売の場所に出席していたことは認めるがいずれも競買の申出はしなかつた。また訴外大貫記一は原告会社を代表して参加したものではなく個人の資格で参加したものである。また訴外梅沢清が二百九十万円の申出を二百二十九万円と聞違え「千円買増しする」と申出てからこれを撤回するまでの経過事実は否認するがその余の事実は認める。

(四)、同上(四)の(1)の見解を争う。即ち

(イ)、公売財産を再公売に付するのは公売財産を公売に付しても買受希望者がないか又はその申出価額が見積価額に達しないとき(国税徴収法施行規則第二十六条)若くは公売財産の買受人が所定の代金納付期限までに代金を完納しないときに競落決定により成立した売買契約を解除した場合(同規則第二十七条)に限られるのであつて、それ以外の場合は再公売に付すべき行政上又は法律上の義務はないのである。

(ロ)、原告らの右主張は何ら法的根拠に基くものではなく、また右主張のようにしなければ公正な競争が確保できないものではない。被告のなした競売方法によつても十分公正な競争の機会が与えられるのである。蓋し、この方法によれば参加者は競買の申出をすることにより常に最高価申出人となるか、又は次点者になる地位を平等に与えられるのである。従つて、次点者であつても最高価申出人が契約保証金を納入しないため失格すれば自己がこれを納付して最高価競買人となる機会を平等に与えられることになるのである。しかも競売はせり上げの方法によるのであるから最高価額申出人が失格すれば次点者の申出価額をもつて競落価額とすることは公売財産についてもつとも有利でかつ簡便に買受人を定める方法であるといわなければならない。

(ハ)、一般に競売は競買申出人が自己の申入価額が最高価額となつて競落できるとの期待をもつて競買の申込をするのである。即ち参加者は互に他より高価な申出をすることにより順次最高額へと近接し、遂にある最高額の申出があつて三回以上呼び上げても他からより以上の高額の申込がなければ右価額をもつて競落は確定するのである。されば、競売は一種の不安と期待の下に行われ、他の申出に誘発されながら自己の買受希望価額を申出るものであるからかくて形成された競買申出価額は多数参加者の意思が関与し、相互の思惑と期待が折り重なつてでき上つたものである。故に、たまたま最高価申出人が契約保証金を納入しない場合には次位の申出人をもつて競落人と定めることは参加人の意思に合致するばかりではなく競売の本旨に副うものというべきである。しかるにもしこの場合次点者の申出価額を基準として更にせり上げをすることは、結局従前の競売の結果を一応白紙にして別個の競売を実施することに外ならないから折角買受人が参集し真摯に形成してきた既存の期待利益を覆えし、法的安定を害するばかりではなく当初の競売を無意味ならしめ参加者を再び不安と期待の状態にさらすものといわねばならない。のみならず、本件においては最高価申出人が契約保証金を納入しないときは次点者を競落人とする旨を参加人全員が了解の上競売が開始されたものであるから、原告ら主張の方法により新たな競争に入いることは総員の同意がない限りなすべきではない。蓋し、次点者以外の買受希望者に対しあるいは再び買受けの機会を与えることとなるであろうが、一旦すべての者が同意して形成した法的状態を当事者の利益に反して一部の者のために変更することは、甚だ適正を欠き不合理を免かれないからである。

(ニ)、国税の滞納処分としての公売は、租税の強制実現手続として滞納者に帰属する差押財産を当該行政機関が自力執行によつて換価する手続であつて行政処分である。これに対して民事訴訟法上の強制執行は一般債権の強制実現手続としてその債権関係当事者以外の裁判所又は執行吏による執行であつて、いずれも滞納者(債務者)の個々の財産に対して個別的に行われる個別執行の形態に属するとはいえ、その手続は同一ではない。金銭債権についての強制執行については民事訴訟法殊に動産、不動産、船舶に区分してそれぞれの強制執行手続を規定しているが、これに対し滞納処分については、国税徴収法(昭和三四年法律第一四七号改正前)第二十四条第一項及び第三項に公売の対象となる財産を掲げたうえ、その公売の方法、手続等については同法施行規則第十八条ないし第三十一条及び細則に規律しており、またこれに民事訴訟法の規定を適用若しくは準用する規定は何ら存しない。従つて公売(入札または競売)に関して所定の法令の明文のない限り公売方法についてその条件をいかに定めるかということは税務署長等執行機関の裁量行為とされているのである。

ところでせり売の方法により換価する場合民事訴訟法においては競買参加者中最高価の競買の申出人にあくまでも競買の責任をもたせる建前をとり、競買人はあらかじめ保証として一律に競買価額の十分の一に相当する金額を現金又は有価証券をもつて直ちに執行吏に預けなければ、その競買の申出をすることができず(民訴六百六十四条)、一旦その競買を許されれば、より高価の競買の許しあるまでは法定の特別の事情(民訴六百七十八条)の無い限りその申出を撤回できないものとされる(民訴六百六十五条一項、六百七十八条)とともにその反面、ある言値より更に高い申出があれば最高価でなくなつた既往の売買の申出は当然効力を失い(民訴六百六十六条二項)以後もつぱらその最高価の競買人の責務が追及されるものであつて、その趣旨から右最高価競買人と決つた者がその競買の責を果たさないときは同人に対して保証金の没収をするほか、再競売による競落代価が当初のものより低いときは、その不足額及び手続費用を負担させることになつている(民訴六百八十八条)。

しかし、国税徴収法においては、かような建前はとられておらず公売の参加者、最高価競買人に対して当然に右のような負担はかけられていず、最高競落人となつた者がその競買の責務を果さず、規則第二十七条による再公売をするに至つた場合でも、右競落人に対して再公売の不足額、手続費用について当然その負担を強いられていないし、また従つて公売の場合の競買申出の効力も民訴法の競売の場合のそれとその効力において同一でない。すなわち公売の場合税務署長等の執行機関は(すべての換価すべき財産について)必要と認めるときは保証金を徴することができる(規則第二十条)が必要と認めなければこれを徴しなくてもよく、またこれを徴するとしてもその保証金をいわゆる加入保証金とするか契約保証金とするかはもつぱらその裁量権にまかされている。

しかして本件公売の如く執行機関がその裁量にもとずき加入保証金(公売に参加する者から競落申出をなすに先立ち、将来買受人として売買契約を締結することの保証として提出させるもの)を徴せず、契約保証金(落札により売買契約を締結しようとする者をして買受代金の納付の保証として提出させるもの)のみを徴することとした場合には、公売参加者はあらかじめ保証金(落札により売買契約を締結しようとする者をして買受代金の納付の保証として提出させるもの)のみを徴することとした場合には、公売参加者はあらかじめ保証金を積まなくとも、競買申込をなすことができるものであつて、その結果公売参加者は自己の言値を申し出るのにあらかじめ執行機関の許しを必要とするものではなく、したがつて公売にあたつて何人も言値を申し出ることができ、また自己の言値より高値が出なくともその言値を撤回できるとともに、一旦申し出た言値はこれを撤回しない以上値上にあたる最高の言値が撤回その他の理由で無かりしこと(無効)となつた場合、当然最高値の競買の申出として生きてくる(効力をもつ)わけであつて、民訴法の場合の如く、更に高価な申出があつたことにより、その時にその次位となる申出が当然効力を失わなければならない筋合のものではない。

かようなわけであるから、最高価の競買の申込人が契約保証金を提出しなかつた場合、その者の競買申出の効力を失わしめて次位者の競買申出を有効とすることも、国税徴収法の下では勿論可能であつて執行機関はかかる方法が適当と認めたならば、これを売買条件として定めて売買参加人にあらかじめ示し、これに則つてせり売をなすことができるものであつて、この場合競落決定があるまでは、すべての競買申出が相対的になお効力(潜在的な意味において)をもち、より高価な申出が失効すれば、次位の申出が順次競買の効力をあらわしてくる関係にたつているのである。「一旦失効した競買申出がそのまま最高価額として復活することは許されるべきでない」との原告の主張は民訴法上の立論をそのまま国税徴収の場合におしひろめんとするものであつて、その誤りであることは明らかである。

(五)、同上(四)の(2)及び(3)の事実は否認する。

(六)、同上(五)の事実は認める。

三、補助参加人は、本件公売処分によつて甲地の所有権を取得したものであるから、本訴の結果につき利害関係を有し被告を補助するため参加すると述べた。

第三、証拠関係<省略>

理由

一、訴外富田きく所有名義の水戸市三の丸七三番の四五宅地六十一坪三勺(以下甲地という)は、昭和二十八年十二月二十五日水戸復興土地区画整理の換地計画に基き、原告会社所有の水戸市南三の丸七三番の五畑(現況宅地)二畝二十七歩及び同番の八宅地百三坪(以下乙地という)の一部に換地予定地として指定されたこと、原告梅沢、同古矢、同小野瀬が右仮換地の指定のあつた以前から右乙地上の一部を原告会社から賃借してその地上にそれぞれ建物を所有していることは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第二号証によると原告今野も原告会社から右土地の一部を賃借し、その地上に建物(妻都恵名義)を所有していることが認められ右認定に反する証拠はない。

そして成立に争いのない甲第一、二号証、原告本人古矢福松の尋問の結果及び本件弁論の全趣旨を綜合すると、原告ら借地人は右仮換地の指定により乙地上にある建物を他に移転せねばならぬことになつたので、原告会社の社員一同と原告ら借地人が協議した結果、昭和二十九年二月十六日原告会社の社員である富田きくは、本件土地に対する仮換地予定地たる乙地の一部を原告会社に出資し(移転登記手続は未了)、さらに原告会社と他の原告四名との間において右仮換地予定地につき賃貸借契約が締結された事実が認められ、右認定を覆えすべき証拠はない。

二、ところで被告は甲地を公簿上の所有名義人訴外富田きくの所有地として同人に対する国税滞納処分として公売に付することとし、公売期日昭和三十三年四月十七日、公売の場所水戸税務署、最低公売価格百六十六万六百四十円契約保証金競落価格の十分の一以上代金納付期限同年四月二十一日と定めて競売の方法により公売が執行されたこと、被告は競売の当日参加者に対し最高価競買申出人が保証金を即時納入しないときは次位の者を競落人とするという方法で行うことを告知した上、競売を開始したところ競買申込価格は順次せりあげられ、補助参加人金田満男が二百二十万円の買受申込をした直後、訴外菅谷スヱが二百九十万円の買受申込をなし、その後それ以上の買受価格の申込人がなかつたので、菅谷が最高価申込人となつたが、同人が即時保証金の納入をしなかつたため、右取り決めにより次位者金田が競落人と決定されたこと及び原告らが本件公売処分の取消を求めるため、昭和三十三年五月十七日関東信越国税局長に対し再調査の請求をしたところ、その主張の経過の下に同年十二月十九日審査請求を棄却する旨の決定がなされたことはいずれも当事者間に争いがない。

三、原告らは右のような方法でなされた本件公売処分は違法であると主張するので判断する。

国税徴収法(改正前)第二十四条は差押えた不動産等についての公売、政府買上、随意契約について規定し、同法施行規則第十八条は公売の方法として入札又は競売の方法によるべきことを定めている。公売(競売の方法を採用した場合)は一般の買受希望者に自由に参加させ、互に言値をせり合わせて最高価申込人を競落人とする方法であつて、公正な競争方法で目的物件をもつとも高額で売却するところに公売の本質があるといわねばならない。ところで、本件におけるように、最高価申込人が即時保証金を納入しないときは直ちに次位者を競落人とする方法は、次位者と最高価申込人との間の価格で競買の申込をしようとする者の申出の機会を奪う結果になり、前示公売の本質に反することになるので、このような方法でなされた公売処分は違法であるといわねばならない。もつとも、右のような方法を定めてなされた公売であつても、最高価申込人が契約保証金を納付した場合には、その者が競落人となるわけで公売の本質が害されたことにはならないので右瑕疵は取り消しに値するものとはいえない。

本件につきこれを見るに、右当事者間に争いのない事実と成立に争いのない乙第三号証、証人野本昭の証言により真正に成立したと認める乙第二号証、証人吉沢博己、同野本昭、同石川次夫、同梅沢清、同弓削徳介(一、二回)、同金田満男の各証言を綜合すると、本件公売の参加者は十二名で最初の言値は最低公売価格百六十六万六百四十円から初められ、次第に競買価格がせり上り二百万円に達する頃までは一度に相当値上りした価格の言値をつけてせり合つたが、二百万円に達した以後は一度に約千円位のせり合いで進んだところ、補助参加人金田満男が前記のように二百二十万円の申込をした直後菅谷スエが一挙に七十万円せりあげた二百九十万円の価格の申込をしたこと、その直後訴外梅沢清が菅谷スエの申込を二百二十九万円と聞き違えたためか、「千円増し」との発言をして直ちにその申込を撤回したこと、その後は菅谷スエの申込価格以上の申込をしたものがなかつたので、同人が最高価格申込人となつたが前記認定の経過で結局補助参加人金田が競落人と決定したことが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

原告は菅谷は補助参加人金田と連合して、金田をして不当に安く競落させたのであると主張する。前記乙第二、三号証と証人金田満男、同弓削徳介(二回)の証言を綜合すると、本件土地の所有権をめぐつて訴外富田きくと原告会社との間に紛争があり、そのため競売参加人も二つのグループに分れて利害が対立していたこと、及び菅谷スエと補助参加人金田とは親戚関係にあつたことは認められるけれども、本件全証拠によるも菅谷と金田とが原告主張のように不当の目的で連合した事実は認められない。しかしながら、本件競売の経過を見るとき、菅谷が一挙に七十万円もせりあげた価格の申込をしたことは奇異の感を与えないでもなく、そのことは本件のような条件でなされる公売の方法がいかに幣害の多いものであることを如実に示したものであるといつても過言ではないであろう。そして前記証人弓削徳介(二回)の証言によれば、本件競売に参加した弓削徳介は本件土地を二百万円から二百五十万円位なら競落してもよいとの考で本件競売に参加したことが認められることと、本件競売における申込価格のせりあがりの経過などを併せ考えると若し右のような方法をとらなければ、次位者金田の申込価格二百二十万円を超える競買価格の申出のあつたろうことは優に認められるところであるから、本件公売処分は、競売参加者が執行機関が告知した右の方法を承諾したと否とにかかわりなく、取消し得べき瑕疵があるものといわねばならない。

被告は国税徴収法による滞納処分においては、その公売の方法、手続等については同法施行規則及び細則に規律しており、これに民事訴訟法の規定を適用若しくは準用する規定は存しないので競売の方法について本件の如き条件を定めることは執行機関の自由裁量の範囲に属し、実際上からも便宜簡便であつて何ら違法ではないと縷々陳述する。なるほど国税徴収法においては、国税滞納処分について一般の強制執行に関する民訴法の規定と異る規定がなされていることは所論のとおりであるけれども、いやしくも執行機関において公売の方法として施行規則に定める競売の方法によつた以上は、競売の本質を阻害するような条件を自由に定めることは許さるべきではないので被告の主張は採用できない。

四、しかしながら、違法な行政処分の取消を求め得る者は、その処分により自己の権利ないしは法律上の利益を侵害された者に限られると解するを相当とする。

原告会社は甲地の所有名義人たる富田きくからその換地予定地の出資を受けたが登記手続未了のためその所有権取得を第三者たる被告に対抗できないわけであり、本件においても被告は甲地を富田の所有地として同人に対する滞納処分として公売処分に付したのであるから、原告会社としては甲地が本件公売処分の瑕疵の結果低額に売却され、或は本来競落すべき者以外の者が競落することによつては適法な公売処分が行われていた場合と比較してなんら不利益を蒙つたとは考えられないので、原告会社は本件公売処分の取消を訴求する利益はない。

原告会社を除く他の原告らは甲地の仮換地の予定地たる乙地の一部を原告会社から賃借しそれぞれその地上に建物を所有していることは前認定のとおりであるけれども、賃貸借の登記を経由しておらず、また被告は甲地を富田きくの所有地として公売処分に付したのであるから右原告らは右賃貸借を被告に対抗できない筋合であるから、右原告らは右説示と同一の理由により被告に対し本件公売処分の取消を訴求する利益はない。

もつとも、原告らが本件公売に参加した場合には、違法な本件公売処分により競売参加者としての権利を侵害されたことになるので、本件公売処分の取消を訴求する利益があると解すべきところ、原告梅沢が本件公売に参加した事実はこれを認むべき証拠はなく、前記乙第二、三号証と証人古沢博己、同野本昭の各証言を綜合すると、訴外大貫記一は原告会社の代表者としてではなく、個人の資格で参加したものであり、原告今野、同古矢、同小野瀬は本件公売の場所に出席したが、現実には一度も競買価格の申出をしなかつた事実が認められるので、原告らが競売参加者としての権利を侵害されたものといえないことは明らかである。

五、叙上の次第で本件公売処分には取消し得べき瑕疵はあるけれども、原告らにはその取消を訴求する利益はないので、原告らの本訴をいずれも却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条第九十三条第九十四条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 和田邦康 諸富吉嗣 浅田潤一)

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