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水戸地方裁判所 平成元年(行ウ)10号 判決 1993年3月23日

茨城県鹿島郡波崎町矢田部一二〇〇六番地の八

原告

柴田和男

右訴訟代理人弁護士

後藤裕造

小林幸也

茨城県行方郡潮来町延方甲一三五八番地

被告

潮来税務署長 荒木慶幸

右訴訟代理人弁護士

二井矢敏朗

右指定代理人

加藤美枝子

寺島進一

小林清久

荒木憲一

浅川寿行

岡部伸二

奥原康之

大島富司

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告が、原告に対し、いずれも昭和六三年二月一日付でした、昭和五九年分所得税の更正のうち、総所得金額で二二二万一五〇九円、納付すべき税額で一万九九〇〇円を超える部分、同年分所得税の無申告加算税賦課決定、昭和六〇年分所得税の更正のうち、総所得金額で二九六万六〇六四円、納付すべき税額で九万一八〇〇円を超える部分、同年分所得税の過少申告加算税賦課決定のうち、納付すべき税額で四五〇〇円を超える部分、昭和六一年分所得税の更正のうち、総所得金額で三二四万七一四六円、納付すべき金額で一三万五〇〇〇円を超える部分及び同年分所得税の過少申告加算税賦課決定のうち、納付すべき税額で六七〇〇円を超える部分をいずれも取り消す。

第二事案の概要

本件は、被告が、原告に対して行った所得税更正処分、無申告加算税賦課決定処分及び過少申告加算税賦課決定処分につき、処分の前提となる調査手続が違法であり、推計課税の必要性、合理性を欠き、所得金額が実際と異なるとして、右各処分の取消を求めた事案である。

一  争いのない事実

1  原告は、電気工事業を営むものである。

2  原告が、被告に対し、昭和五九年分ないし同六一年分(以下「本件各係争年分」という。)の各総所得金額を別表一ないし三「本件各係争年分課税処分等の経緯」の確定申告欄記載のとおり確定申告したところ、被告は、昭和六三年二月一日、原告に対し、別表一ないし三「本件各係争年分課税処分等の経緯」の更正・賦課決定欄記載のとおりの各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)、無申告加算税及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)をした。

3  原告が、昭和六三年三月一一日、被告に対し、異議申立てをしたところ、被告は、同年六月一〇日、本件各係争年分のいずれについても棄却する旨の決定をした。そこで、原告が、同年七月一一日、国税不服審判所長に対し、審査請求をしたところ、同所長は、平成元年二月一六日、本件各係争年分のいずれについても棄却する裁決をした。

二  争点

1  本件調査手続が適法かどうか。

(被告の主張)

申告納税制度のもとでは、納税者は、税法の定めるところに従った正しい申告をする義務を負うと共に、その申告を確認するための税務調査に対しては、その所得金額を算定するに足りる資料を提示し、所得金額の計算の基礎となる経済取引の実態を税務職員に説明する義務を負う。

(一) 調査の必要性

所得税法(以下「法」という。)二三四条一項に規定する「調査について必要があるとき」とは、右調査が国家財政の基本となる徴税権の適正な運用を確保し、所得税の公平確実な賦課徴収を図るという公益上の目的を実現するためのものであることから、課税権者は、過少申告の疑いが存在する場合だけでなく、そのような疑いが明らかでない場合でも、申告の真実性及び正確性を確かめるために、調査を行い得るものである。本件では、原告が提出した確定申告書の所得金額の計算欄には、営業所得金額が記載されているだけで、収入金額及び必要経費の各欄には何ら記載がなく、収支内訳書の添付もないので、所得金額の算出過程及び収支状況を検討することができず、また、申告所得金額が低水準であったことから、調査の必要性が認められた。

(二) 調査手続の適法性

(1) 第三者の立会の可否について

税務職員が質問検査権を行使する場合、無資格の第三者の立会を認めるかは税務職員の合理的な裁量に委ねられており、調査の内容が被調査者のみならず、その取引の相手方である第三者の営業上の秘密に及ぶことが少なくないことから、守秘義務を負わない第三者の立会を拒否することは合理的な処置である。したがって、本件において、斉藤恒雄国税調査官(旧姓滑川。以下「斉藤係官」という。)が、関口正司らの立会を拒絶したことは正当である。

(2) 反面調査及び調査理由の告知について

反面調査をいかなる段階でどのように実施するかは、税務職員の合理的判断に委ねられており、本件において斎藤係官が反面調査を行ったことに何らの違法はない。

また、質問検査の実施日時、場所の事前告知、調査の理由及び必要性の個別、具体的な告知は質問検査を行う上の要件とされていないのであるから、本件においても、斎藤係官が、原告に対し、昭和五九年分から同六一年分の申告内容の確認のために来た旨告げただけで十分である。

(原告の主張)

本件調査手続は、次のとおり、違憲・違法である。

(一) 調査の違憲性

税務署は、調査対象を公平、平等に選定すべきであり、納税者の思想信条、所属団体の特殊性に注目して差別的取扱をすべきでないことはいうまでもない。

ところで、民主商工会(以下「民商」という。)は、中小商工業者の営業その他の諸権利を守るため、会員の税務相談、帳簿作成、整理の援助等を主要な活動とする民主的組織であるが、税務署は、民商を特殊団体として把握し、従来から弾圧の対象としてきた。原告の加入している鹿行民商は、昭和五九年に独立してから活発に活動を展開していたところ、鹿行民商の会員は、毎年三、四名臨店調査を受け、原告が調査を受けた昭和六二年八月に立て続けに四名の会員が調査を受けた。このように、被告は鹿行民商の伸張に歯止めをかけるため、民商に打撃を与える目的で本件調査を行ったものであり、法の下の平等に違反する。

(二) 調査の不必要性

税務署員が質問検査権を行使しうるのは、過少申告の疑い等客観的合理的必要性がある場合に限られるところ、被告が主張する過少申告の疑い、事業所得の収支計算の不明等については、何ら客観性がなく、調査必要性に欠けるものである。

特に、昭和五九年分については、被告の武士克也係官が、原告の持参した書類をもとに算出した総収入金額、経費額等に基づき、原告が申告し、納税したのであるから、過少申告の疑いの余地がなく、調査の必要がまったくなかったものである。

(三) 調査手続の違法性

(1) 調査理由の告知及び第三者の立会

質問検査権の適正な行使を確保するため、臨店調査を行う際には、具体的な調査理由の告知が必要であり、また、第三者の立会が許されるべきである。ところが、斎藤係官は、昭和六二年八月三一日原告方で臨店調査を行う際、所得の確認をしに来た旨告げただけで、具体的な調査理由を告知しなかった。また、その際、原告が、加入している鹿行民商の役員らに立会を求め、領收書等の関係書類を右係官に提示しようとしたところ、右係官は、第三者の同席を拒否して調査を行わなかったものであり、斎藤係官の右調査は違法である。

(2) 反面調査

法二三四条一項三号に規定する反面調査は、同条項一号に規定する調査だけでは課税標準及び税額等の内容が把握できないことが明らかになった場合に限り、行うことが可能である。ところが、被告は、原告の所得について実質的調査を行うことなく反面調査を行ったものであり、手続的に違法である。そして、本件推計課税も、右違法手続を経たうえで、一方的に差益率を適用したものであり、無効である。

2  推計課税が必要かどうか。

(被告の主張)

斎藤係官は、昭和六二年八月七日、原告方へ赴き、調査を行おうとしたが、原告が不在であったので、家人に次回調査予定日を告げておいたところ、原告からその日も都合が悪い旨連絡を受けたため、いずれも調査を行うことができなかった。その後、斎藤係官が連絡をとった結果、同年八月三一日に調査を行う旨の了解を得たため、斎藤係官は、同日原告方へ赴いて調査を行おうとした。ところが、原告は、鹿行民商の人見会長ほかの会員らを同席させ、テープレコーダーを作動させ、右会員らの立会及び調査理由の開示を求めるだけであって、斎藤係官の調査協力要請に応じなかった。

ごのように、被告は、調査に対する原告の協力をまったくえられず、申告の基礎となった資料を入手できなかったのであるから、原告の所得を実額で把握することができず、所得金額を推計により算出する必要性があった。

(原告の主張)

原告は、斎藤係官の調査のため、三年分の領收書、作業日報及び計算ノートを応接間の机の上に準備して提示し、積極的に調査に応じようとしていた。ところが、斎藤係官は、調査理由を具体的に明らかにせず、民商役員が同席していたことだけを理由として調査を打ち切り、その後、再度調査を行うこともしなかった。このような調査方法では、質問検査権を行使したことにはならず、推計の必要性がないというべきである。

3  本件各係争年分の事業所得金額

(被告の主張)

(一) 原告の事業所得金額

(1) 昭和五九年分の事業所得金額

<1> 総収入金額 一四〇九万九四六六円

被告が、原告の取引先に対して調査を行い、把握した金額は、次のとおりである。

(有)石原電工社 五五九万八二〇〇円

(有)房総工業 六二〇万七三四一円

豊栄電機(株) 一八九万二五五〇円

輝光電気工事(有) 二七万三三七五円

(有)多辺田電設 一二万八〇〇〇円

<2> 事業所得金額 四一二万一二七三円

右事業所得金額は、<1>の総収入金額に比準同業者の昭和五九年分の平均所得率二九・二三パーセントを乗じて算定したものである。

(2) 昭和六〇年分の事業所得金額

<1> 総収入金額 二二五八万八二五八円

被告が、原告の取引先に対して調査を行い、把握した金額は、次のとおりである。

(有)石原電工社 八八〇万〇二〇〇円

(有)房総工業 五六五万四八八四円

豊栄電機(株) 八一三万三一七四円

<2> 事業所得金額 六六九万〇六四二円

右事業所得金額は、<1>の総収入金額に比準同業者の昭和六〇年分の平均所得率二九・六二パーセントを乗じて算定したものである。

(3) 昭和六一年分の事業所得金額

<1> 総収入金額 二一〇八万〇二五五円

被告が、原告の取引先に対して調査を行い、把握した金額は、次のとおりである。

(有)石原電工社 一一〇〇万七三二五円

(有)房総工業 四八六万九二五〇円

豊栄電機(株) 七四万五三〇〇円

(株)取手電設 三二六万一三八〇円

(有)小林電設 一〇〇万八〇〇〇円

金子電気工業 一六万五〇〇〇円

石原博義 二万四〇〇〇円

<2> 事業所得金額 五六三万四七五二円

右事業所得金額は、<1>の総収入金額に比準同業者の昭和六一年分の平均所得率二六・七三パーセントを乗じて算定したものである。

(二) 推計の合理性

被告が、本件各係争年分の原告の事業所得を算定するために採用した推計方法は、原告の事業所得に係る総収入金額に比準同業者の平均所得率を乗じて計算したものである。被告は、比準同業者として、<1>原告の納税地を管轄する潮来税務署並びに近隣の水戸、竜ケ崎及び土浦の各税務署管内に納税地を有し、<2>原告と同種の電気配線工事業を営む個人事業者について、次の(1)ないし(6)の基準に基づいて抽出した。

(1) 本件各係争分につき、歴年を通じて事業を継続して営んでいること

(2) 本件各係争年分につき、青色申告の承認を受け、青色申告決算書を提出している者であること

(3) 災害等により経営状態が異常であると認められる以外の者であること

(4) 税務署長から更正処分を受け、これに対して不服申立てを行って係争している者でないこと

(5) 本件各係争年分につき、総収入金額が、原告の総収入金額の約二分の一から約二倍の範囲内であること

(6) 青色申告決算書上、売上原価が皆無の者であること

右の各条件をすべて満たすものとして抽出された各比準同業者の所得率等は別紙「電気配線工事業の同業者調査表」のとおりであり、抽出過程に被告の恣意が介在する余地はないから、被告の推計の方法に合理性があることは明白である。

(三) 本件更正処分における原告の本件各係争年分の総所得金額(事業所得金額)は、別表一ないし三「本件各係争年分課税処分等の経緯」の更正・賦課決定欄記載のとおりであり、いずれも右推計による金額の範囲内であるから、本件各更正処分は適法である。

(四) 被告は、昭和五九年分所得税の無申告加算税につき、国税通則法六六条一項(昭和六二年法律第九六号による改正前のもの)の規定に基づき、昭和五九年分の本件更正処分により新たに納付すべき税額一一万(同法一一八条三項により一万円未満の端数切り捨て後の額。以下同じ。)を基礎とし、右金額に一〇〇分の一〇の割合を乗じた金額一万一〇〇〇円に相当する税額を賦課決定したものであり、右処分は適法である。

被告は、昭和六〇年分所得税の過少申告加算税につき、国税通則法六五条一項(昭和六二年法律第九六号による改正前のもの。以下同じ。)の規定に基づき、昭和六〇年分の本件更正処分により新たに納付すべき税額六九万円を基礎とし、右金額に一〇〇分の五の割合を乗じた金額三万四五〇〇円と、同条二項の規定に基づき、右六九万円のうち五〇万円を超える部分である一九万円に一〇〇分の五の割合を乗じた金額九五〇〇円との合計額四万四〇〇〇円に相当する税額を賦課決定したものであり、右処分は適法である。

また、被告は、昭和六一年分所得税の過少申告加算税につき、国税通則法六五条一項の規定に基づき、昭和六一年分の本件更正処分により新たに納付すべき税額二九万円を基礎とし、右金額に一〇〇分の五の割合を乗じた金額一万四五〇〇円に相当する税額を賦課決定したものであり、右処分は適法である。

(原告の主張)

(一) 推計の不合理性

(1) 比準同業者の抽出基準が不明確である。すなわち、比準同業者の抽出範囲が広大で地域的特性を失っている。都会地とそれ以外とでは同業者であっても経費率が異なり、合理性を期するためにはできるだけ原告所在地を管轄する税務署管内の同業者を抽出すべきである。ところが、被告が抽出した潮来税務署管内の比準同業者は、たった二件にすぎない。このような地域的特性を無視した抽出方法は不当である。

(2) 比準同業者を原告と同種の電気配線工事業者とするだけで、その同業者の業態、規模等が不明確である。すなわち、電気配線工事業者は、主として宅内配線工事を扱っている業者と高層ビルやコンビナートの配線工事を扱っている業者とに大別でき、それぞれ業態、規模等が異なり、同じ収入でも経費には大きな差異がある。ところが、被告の抽出した同業者については、業態等が明らかではなく、推計の基礎とする合理性がない。

(3) 被告の抽出した比準同業者の事業開始時期が不明である。すなわち、原告のように、開業して間もない業者と既に軌道に乗り効率よく営業している業者を同等に扱うのは不合理であるが、被告の抽出に際しては、その点が考慮されていない。

(4) 被告が比準同業者を青色申告業者に限定したのは、白色申告業者が過少申告をしているという前提に立ったものであり、不当である。潮来税務署管内でも、白色申告をしている同業者が多数おり、これらの白色申告業者も比準同業者に加えるべきである。

(5) 被告は、災害等により経営状態が異常と認められる業者を除外しているが、「災害等」の内容が不明確である。また、比準同業者は、みな黒字の業者であるが、業者の中には優良業者、赤字業者、倒産状態にある業者等様々であるはずであり、そのうち黒字業者だけの申告額を基準として平均利益率を算出するのは不当である。

(6) 被告は、比準同業者に修正申告を行った業者を含めているが、修正申告は税務署の指示により応じざるをえない場合があり、そうすると所得金額が押上げられる結果となる。このような業者を含めることは不当である。

(7) 推計所得額の差異

被告が推計した原告の所得金額は、本件各更正処分、異議棄却決定及び本件訴訟のいずれの時点においても異なっており、被告の推計方法に合理性がないのは明らかである。

(二) 実額による事業所得金額

(1) 原告の昭和五九年分の収入、経費は、別紙「昭和59年収入経費一覧」の修正欄記載のとおりであり、同年分の事業所得金額は、二二二万一五〇九円である。

(2) 原告の昭和六〇年分の収入、経費は、別紙「昭和60年収入経費一覧」の修正欄記載のとおりであり、同年分の事業所得金額は、二九六万六〇六四円である。

(3) 原告の昭和六一年分の収入、経費は、別紙「昭和61年収入経費一覧」の修正欄記載のとおりであり、同年分の事業所得金額は、三二四万七一四六円である。

(4) 以上のとおり、本件各更正処分に係る本件各係争年分の総所得(事業所得)の金額(別表一ないし三「本件各係争年分課税処分等の経緯」の更正・賦課決定欄記載の総所得金額)は、原告の右各所得金額を上回っているので、原告は、請求記載の金額の限度で本件各更正処分の取消を求めるとともに、右各更正処分を前提としてなされた本件各賦課決定処分についても、請求の趣旨記載の限度で取消を求める。

(原告の主張に対する被告の反論)

(一) 法一五六条に規定する推計課税制度は、納税者の申告納税義務に違反する行為によって実額課税が困難な場合に、その違反者である納税者が申告納税義務を遵守する誠実な納税者よりも利益を得るような事態の発生を防止し、もって申告納税制度が適正に機能するのを担保する趣旨で設けられたものである。

このような適正公平な課税の実現を図るという趣旨からすると、申告納税義務に違反する納税者に無制限に実額の主張を認めることは、推計課税を認めた趣旨を著しく損うことになり妥当でない。

(二) 原告が、被告の推計による所得金額を争い、真実の所得額が推計額と異なることを主張する場合には、実額に関する証拠との関係では原告がはるかに近い立場にいるのであり、証拠の収集提出が容易であると考えられることから、原告が実額につき、積極的に主張、立証する責任を負うというべきである。

そして、原告が訴訟において所得の実額を主張し、推計課税の方法により認定された所得金額が原告の主張する実額と異なるとして推計課税の違法性を主張するためには、単に収入金額及び必要経費の一部を立証すれば足りるものではなく、その収入金額がすべての取引先からの総収入であることまで立証しなければならないというべきである。なぜなら、推計により限定的に把握されたにすぎない売上金額から、必要経費についてのみ、限定されない実額を差し引くことによって算出された金額が所得の実額に近似しない数値となることは明らかであり、総収入が立証されない限り、所得を実額で算定できない結果となるからである。この場合、原告が推計課税の基礎とされた収入金額を認めたからといって、それが直ちに実額課税の場合における総収入金額として当事者間に争いのない事実となるわけでないことは当然である。なぜなら、課税庁は、調査により把握できた限りの収入金額を推計課税の基礎として所得金額を算定しているにすぎないのであって、それが原告の収入のすべてであると主張しているものではないからである。

また、総収入金額を立証した後に、経費につき実額反証をする場合、原告は、その主張する実額が真実の所得金額に合致することを合理的な疑いを容れない程度に証明することを要すると解するべきである。

(三) 原告は、被告主張の各取引先からの収入金額を認めたが、次のとおり、現段階で明らかになっている収入金額は、原告のすべての取引先からの収入の全額であるとはいえないので、実額計算の基礎とすることはできない。

(1) 被告主張の収入金額は、たまたま残されていたメモ及び関東銀行土合ケ原支店の原告名義の預金口座への振込に基づき反面調査をした結果把握されたものであり、メモにも記載されず右口座へ振込もしていない取引先が存在する疑いがある。

(2) 原告の手元に存在するはずの領收書が証拠として提出されていない。

(3) 原告は、昭和六一年一二月一〇日、有限会社石原電工社に対し、工事応援代一五万円を支払ったが、作業日報及び請求書にも、それに対応する工事現場及び工事代金の請求等に関する記載がない。

(4) 作業日報は、原告の収入及び経費の中で主たる部分を占める給料の基礎となる書類であるところ、作業日報記載の各従業員の従事日数と給与支払明細書及び注文主に対する請求書控記載の従事日数とが不一致であるものが多数見受けられ、作業日報記載以外の工事による収入が発生した疑いがあるだけでなく、作業日報の信憑性そのものに疑念がある。

(5) 原告の主張においても、当初収入の計上もれがあっただけでなく、原告が作業員から徴収した弁当代及び作業服代についても、原告計上額と給料支払明細書記載の弁当代等の控除額の合計との間には誤差があり、原告主張の収入金額には正確性がない。

(6) 原告の注文主に対する請求書は、市販の五〇枚又は一〇〇枚綴りの用紙が使用されているが、使用された請求書の枚数からすると、未提出の請求書が存在する可能性がある。

(四) 必要経費についての原告の主張も、次のとおり、到底実額の立証ができているとはいえない。

(1) 給料賃金について

本件で使用されている給与支払明細書には、交通費欄の記載のないものとあるもの(以下、前者を「甲号明細書」、後者を「乙号明細書」という。)があるが、乙号明細書は、昭和六一年一月二四日から製造販売が開始されたものであり、昭和六〇年中に使用することは不可能であるから、同年中の給与支払明細書のうち、乙号明細書が使用されている角山常忠、島崎正久及び竹中良二分は、後に作成されたものであることが明らかである。したがって、右三名分の支払の事実には疑問がある。また、全従業員の給料の支払について乙号明細書が使用されるようになったのは、昭和六一年一一月分からであるから、それ以前に使用された乙号明細書に係る給与の支払の事実には疑問がある。

また、前記(三)(4)のとおり、作業日報と給与支払明細書及び注文主に対する請求書の記載内容には、それぞれ不一致があり、作業日報の信用性に疑問があるのであって、乙号明細書以外の明細書が使用されている部分の給与の支払の事実も疑わしいものがある。

(2) その他の経費

原告が、本件において実額であると主張するその他の経費についても、領收書のないもの、支出根拠が不明であるもの等があり、これらについては、経費として算入することは許されない。

第三争点に対する判断

一  争点1(本件調査手続の適否)について

1  本件調査手続の違憲性

税務署が調査を行う場合には、調査対象を公平、平等に選定すべきであり、納税者の思想信条、所属団体の特殊性に注目して差別的取扱をすべきでないことはいうまでもない。

ところで、証人関口正司の証言によれば、鹿行民商の会員に対する調査は年々件数が多くなっていることが認められるが、それは鹿行民商の会員数の増加にある程度比例するものともいえ、被告が、何らの合理的理由なく、鹿行民商の特殊性に着目し、その伸張に歯止めをかけるために本件調査を行ったと認めるに足りる証拠はなく、原告のこの点に関する主張は理由がない。

2  本件調査手続の違法性の有無について

(一) 本件調査の経緯

証拠(乙九の1、2、一〇、一一、証人斎藤恒雄及び同関口正司の各証言、原告本人尋問の結果(第一回、一部))によれば、次の事実を認めることができる。

原告の本件各係争年分の所得税確定申告につき、原告提出の確定申告書には、必要経費等の記入がなく、収支の内訳が明らかでなかったため、上司から調査を命ぜられた斉藤係官は、昭和六二年八月七日、原告方へ赴き、調査を行おうとしたが、原告は不在であった。そこで、家人に次回調査予定日を告げておいたところ、原告からその日も都合が悪い旨連絡を受けたため、いずれも調査を行うことができなかった。その後、斉藤係官が連絡をとった結果、同年八月三一日に調査を行う旨の了解を得たため、斎藤係官が、同日原告方へ赴き、申告内容の確認をする旨告げて調査を行おうとしたところ、原告は、鹿行民商の人見会長ほかの会員らを同席させるとともに、テープレコーダーを作動させ、右会員らの立会及び調査理由の開示を求めた。このような原告の要求に対し、斎藤係官は、第三者の同席を理由として調査を打ち切り、具体的な調査は行わなかった。右調査の際、原告は、三年分の領收書、計算ノート等の関係資料を応接間に準備していた。その後、斎藤係官は、電話で原告と話し合ったが、原告は民商の役員の立会が認められなければ、調査には応じない旨述べたため、反面調査に踏み切った。

右認定事実を前提として、個別的争点を検討する。

(二) 調査の必要性について

法二三四条は、質問検査権の行使は「調査について必要があるとき」に認められると規定する。この「調査について必要があるとき」とは、調査目的、事項、申告の体裁・内容、帳簿等の記入・保存状況、相手方の事業形態等諸般の具体的事情に照らし、客観的必要性がある場合であると解されるところ、前記(一)の認定事実によれば、原告提出の確定申告書の内容が不十分であったというのであるから、原告の申告に係る所得税の内容の調査を目的とする本件調査には、調査の必要性を認めることができる。

この点で、原告は、特に、昭和五九年分につき、被告の武士克也係官が、原告の持参した書類をもとに算出した総収入金額、経費額等に基づき、申告し、納税したのであるから、過少申告の疑いの余地がなく、調査の必要がなかったと主張するが、右係官の行為は、原告が持参した書類に基づく計算にすぎないのであるから、それをもって過少申告の疑いがなくなり、調査の必要性がなくなるものではなく、この点に関する原告の主張は理由がない。

(三) 調査理由の具体的告知及び第三者の立会について

調査の必要性が認められる場合、質問検査の範囲、程度、時期、場所等実施の細目については、原則として権限ある税務職員の合理的選択に委ねられており、質問検査を行う上で、調査理由・必要性の個別具体的な告知は、法律上の要件とされておらず、また、第三者の立会の許否は、担当職員の裁量事項であると考えるのが相当である。

そして、前記認定の事実関係のもとにおいては、調査理由・必要性の告知をせず、第三者の立会を許容しないことに裁量の逸脱があったとは認められない。

(四) 反面調査の違法性について

法二三四条一項三号に規定する反面調査の範囲・程度等実施の細目についても、権限ある税務職員の合理的選択に委ねられているものと考えられ、納税者の自発的協力が得られない場合に行った反面調査は、適法であるというべきであるところ、前記(一)の認定事実によれば、原告は、第三者の立会がなければ調査に協力しないとの姿勢を示していたのであるから、その後に行われた反面調査は適法であるといえる。

(五) 以上の検討によれば、本件調査の手続自体には何ら違法性はなく、適法である。

二  争点2(推計の必要性)について

前記一2(一)の認定事実によれば、原告は、第三者たる民商役員らの立会なくては調査に応じない姿勢を明らかにしていたのであり、調査を打ち切って推計により原告の所得金額を算出する合理的必要性があったものといえる。

この点につき、原告は、調査のために、三年分の領收書、作業日報及び計算ノートを応接間の机の上に準備して提示し、積極的に調査に応じようとしていたのであり、推計の必要性がないと主張する。しかし、前記12(一)の認定事実のとおり、原告の右姿勢は、あくまでも第三者の立会を条件とするものであり、第三者の立会を拒否した斎藤係官の措置に不合理な点は見られないのであるから、斎藤係官がもはや原告の協力が得られないとして調査を打ち切り、推計によったことについては、合理的根拠があるといえるのであり、原告の右主張は採用できない。

三  争点3(原告の事業所得金額)について

1  原告の総収入金額について

昭和五九年四月分以降の原告の収入金額は、当事者間に争いがない。

証拠(甲一三、乙一三、原告本人尋問の結果(第一回))によれば、原告は、昭和五九年一月まで、有限会社多辺田電設に雇用され、同年一月分の給与として一二万八〇〇〇円を支給されたこと、同年二月から独立して営業を開始し、有限会社房総工業から同年二月分の報酬一六万七〇八四円及び同年三月分の報酬二二万三三一七円を得ていたことが認められる。

昭和五九年一月分の給与所得については、給与所得であり、所得税法六条二項、三項一号により、全額控除されることになるが、同年二月及び三月分の収入については、原告の総収入金額に計上すべきである。したがって、本件各係争年分の原告の総収入金額は、次のとおりである。

昭和五九年分 一三九七万一四六六円

同 六〇年分 二二五八万八二五八円

同 六一年分 二一〇八万〇二五五円

2  本件においては、被告が取引先の反面調査等によって原告の売上を把握し、これに同業者の所得率を適用して所得を推計する方法により所得を算出しているのに対し、原告が現実に支出した経費額は右所得率による経費額より多いとしてその実額を主張する。

そこで、原告の必要経費についての実額の主張、立証が被告の推計額の適否を左右するものであるか否かにつき、以下検討する。

(一) 給料等

(1) 証拠(甲五、六ないし八中の給与支払明細書、一六、乙二〇、原告本人尋問の結果(第一、二回、一部のみ))によれば、次のとおりの事実を認めることができる。

原告は、従業員に対する給与の支払を、原則として作業日報に記載された稼働日数、残業時間にそれぞれの単価を乗ずる方法により計算している。原告は、ひと月分をまとめて作業日報に記入し、それをもとにして、元請けに対して請求書を送付し、従業員に対して給与を支払っていた。原告は、従業員に対し給与を支払う際、給与支払明細書を作成して給与袋に同封し、その控を自分で保管した。

本件で使用されている給与支払明細書のうち乙号明細書は、昭和六一年一月二四日から販売されたものであり、それ以前に使用することは不可能であった。原告では、昭和六一年一一月分の給与からすべての明細書が乙号明細書に切り替わっているが、それ以前については、乙号明細書と甲号明細書とが混在しており、乙号明細書の使用状況は、次のとおりである。

従業員氏名 支払年月 証拠

<1> 角山常忠 昭和六〇年三月 甲七の65

同 年 四月 89

同 年 五月 120

同 年 六月 155

同 六一年四月 甲八の64

同 年 五月 80

同 年 六月 94

同 年 七月 125

同 年 八月 149

<2> 島崎正久 昭和六〇年三月 甲七の66

<3> 竹中良二 同 年 九月 260

<4> 平山明 同 六一年六月 甲八の96

同 年 七月 123

同 年 八月 146

同 年 八月 148

また、甲号明細書が使用されている部分についても、別紙「給与支払明細書と作業日報との差異」記載のとおり、両者間の記載内容には、不一致部分が多く、その不一致は、本件各係争年分の全体に広がっている。

原告は、関東信越国税不服審判所長に対し、審査請求を行った際、給与等を算定する基礎資料として、作業日報(甲一六)を提出しなかった。

(2) 右認定事実によれば、原告は、作業日報の記載に基づき、給与の支払を行い、その際、作業日報の記載に基づき、給与の支払を行い、その際、給料支払明細書を交付しているが、昭和六一年一〇月分以前に乙号明細書を使用して給与を支払ったと主張する部分については、次に検討するとおりの疑問点がある。

<1> 乙号明細書の使用状況

乙号明細書は、昭和六一年一月二四日から販売が開始されたものであり、それ以前に使用されたものについては、事後的に作成されたものと考えるのが自然である。また、販売開始から消費者の手元に届くまでには、一定の間隔が空くのが通常であり、原告においては、昭和六一年一一月分から一斉に乙号明細書に切り替わっていることからすると、同年一〇月分以前に使用された乙号明細書も、事後的に作成されたものと推認できる。

<2> 角山常忠関係

同人関係の給与支払明細書は、別紙のとおり、本件各係争年分のうち、合計九か月間について作成されている。原告は、角山常忠(以下「角山」という。)につき、同人は妻の叔父であり、現場へ入らずに、原告方の工具等の整理を主たる作業内容としていた旨供述する。しかし、証拠(甲一六、二〇の93ないし96、100ないし102、109ないし111、116ないし121、乙二一の1ないし6、証人鈴木茂及び同川島一夫の各証言)によれば、角山は二、三か月間しか原告方で稼働していなかったこと、角山の昭和六〇年三月分から同年六月分の給与については、作業日報に記載がないこと、昭和六一年四月分から同年七月分については、作業日報には角山が現場に入った旨の記載がなされており、また、作業日報上の右各月分の角山を含めた各従業員の稼働日数及び時間数の合計が、それに対応する請求書の記載と一致せず、角山の分を除くと概ね一致することが認められ、右認定事実に照らすと、角山に対して実際に給与が支払われたかどうかは極めて疑わしい。

<3> 竹中良二関係

作業日報上、竹中良二が稼働したとされる現場についての昭和六〇年九月分の各従業員の稼働日数及び時間数の合計が、それに対応する請求書(甲二〇の58ないし60)の記載と一致せず、竹中良二の部分を除くと一致する。

<4> 平山明関係

作業日報上、平山明が稼働したとされる現場の昭和六一年八月分の各従業員の稼働日数及び時間数の合計が、それに対応する請求書(甲二〇の122ないし124)の記載と一致せず、平山明の部分を除くと一致する。

前記(1)で認定した原告の作業日報作成方法及び給与支払明細書作成方法からすると、乙号明細書と甲号明細書とが混在している部分(昭和六一年一〇月分以前)については、乙号明細書に係る給与が実際に支払われたか極めて疑問であり、原告もこの点については何ら合理的説明ができないのであるから、右混在部分の給料支払明細書及び作業日報の記載の信用性はないといわざるを得ない。

(3) また、甲号明細書が使用されている部分についても、前記(1)で認定したとおり、作業日報と給料支払明細書が使用されている部分についても、前記(1)で認定したとおり、作業日報と給料支払明細書の内容に食い違いが多々生じていて、その食い違いは作業日報全体にわたっているのであり、原告が行っている作業日報作成方法及び給与支払明細書作成方法からは通常考えられないようなものであること及び食い違いが生じている部分が可分ではないこと、それに加えて国税不服審判所に対する審査請求の際も給与等の支払を証明する重要な資料であるはずの作業日報を提出していないことも併せ考えると、結局、作業日報及び給料支払明細書全体の信用性を否定せざるを得ない。

(二) (一)で検討したとおり、給料等の算定基礎となる作業日報及び給料支払明細書の信用性が認められないところ、右給料等は本件各係争年分に係る原告主張経費の約四分の三を占めるものであることから、その余の経費を検討するまでもなく、原告の実額の主張は理由がないことに帰する。

3  推計の合理性について

(一) 証拠(乙一の1ないし4、二の1ないし4、証人苅谷正の証言、原告本人尋問の結果)によれば、次の事実が認められる。

原告は、昭和五九年から、独立して和電設の屋号で電気工事業を営むようになり、主として工事等の電気配線工事を材料は得意先持ちの方法で受注し、現場に入った従業員の頭数に単価を乗ずる方法で算出した報酬を月単位で元請けに請求した上で、支給を受けていた。

関東信越国税局長は、平成元年一一月一〇日付の通達をもって、被告、竜ケ崎、土浦及び水戸の各税務署長に対し、本件各係争年分につき、電気配線工事業を営む個人事業者のうち、<1>歴年を通じて事業を継続して営む者、<2>青色申告の承認を受け、青色決算申告書を提出している者、<3>災害等により経営状態が異常であると認められる以外の者、<4>税務署長から更正処分を受け、これに対し不服申立てを行って係争している者でない者、<5>年間売上金額が、昭和五九年分につき六八五万以上二七四二万円未満、同六〇年分につき一一二九万以上四五一八万円未満及び同六一年分につき一〇五四万円以上四二一七万円未満の者、<6>青色申告決算書上、売上原価が皆無の者であること、以上の各条件をすべて充たす者全員を調査対象として抽出し、収入金額、所得金額及び所得率を調査の上、電機配線工事業の同業者調査表に記入し、報告するよう求めた。これを受け、各該当税務署が右各条件を充たす者を抽出したところ、その調査結果は、別紙「電気配線工事業の同業者調査表」のとおりであり、平均所得率は、昭和五九年分が二九・二三パーセント、同六〇年分が二九・六二パーセント、同六一年分が二六・七三パーセントである。

(二) 右認定事実によれば、原告住所地及びその周辺を管轄する税務署管内で抽出された同業者は、原告と同様の電気配線工事業を営む個人事業者であり、かつ、その総収入金額が原告の二分の一から二倍までの範囲内にある者であるから、業種、営業形態、収入金額の点において、原告と類似性を有する同業者といえ、比準同業者の数(昭和五九年分及び同六〇年分各一四名、同六一年分一六名)も、資料の客観性を担保するに足りるものというべきである。しかも、抽出された同業者は、いずれも帳簿書類の完備した青色申告者で、その申告は税務署長により是認されているものであり、その資料の正確性も担保されている。さらに、調査を担当した各税務署においては、調査対象者を機械的に抽出しているものと推認できるから、その抽出過程に恣意が介在するおそれもない。したがって、調査の結果判明した同業者の平均所得率は、個々の業者の個別的具体的な事情を捨象した客観性・普遍性を有するものということができる。

この点につき、原告は、地域的特性を無視し、青色申告業者に限定し、修正申告をした者を含めた抽出方法は不当であり、かつ「災害等」の基準自体も不明確である旨主張する。しかし、前記説示のとおり、被告が本件で採用した基準は、原告との類似性に配慮し、資料の正確性、客観性が担保されたもので、合理性を有するものといえるものであり、原告の右主張のような点が右合理性を阻害するものではない。特に、地域的特性については、原告所在地の潮来税務署管内では、比準同業者が二件しか抽出できなかったのであり、原告所在地に限定することがかえって普遍性を欠く結果となることは明らかである。

また、原告は、都会地以外で営業し、独立して間もない業者であること及び電気配線工事業者の中でも、家内工事を主とする者と工場等に入る者とで経費率が異なるところ、被告の採用した抽出基準では、同業者の立地条件、業態、規模、事業開始時期が明らかでなく、被告の推計に合理性がないと主張する。

ところで、同業者の平均値による推計の場合には、業者間に通常存在する程度の営業条件の差異は、平均化により捨象されているのであるから、課税庁の行った推計方法に一応合理性が認められる以上、個別的具体的な営業条件等の類似性が明らかでなくても、同業者の類似性は阻害されるものでなく、納税者の個別的な特殊事情は、それが当該平均値による推計自体を著しく不合理ならしめるほど顕著なものでない限り、これを斟酌することを要せず、右特殊事情は、当該納税者において主張する諸事情(立地条件、営業開始時期及び営業形態)が所得率による推計方法を不合理ならしめるほど顕著であることについては、これを認めるに足りる証拠はなく、原告の右主張は、理由がないといわざるを得ない。

さらに、原告は、本件更正処分、これに対する異議棄却決定及び本件訴訟のそれぞれの時点において被告が主張する原告の所得金額が異なり、被告の推計には合理性がない旨主張する。しかし、更正処分後に再調査を行うことが可能であることはいうまでもなく、新たな調査により、推計の基礎となる原告の収入金額等に差異が生じた場合には、推計による所得金額も当然に異なってくる場合も生じ得る。そして、前記一及び二で検討したとおり、本件更正処分時において、原告の所得金額を実額で把握することが困難であって、推計によらざるを得ない状況にあったのであり、現在においても推計を行うことがやむを得ない状況にある以上、当初の調査から本件訴訟に至るまでに行われた調査に基づいた結果として得られた資料により算定された所得金額が、右各時点で異なったとしても、それが直ちに推計の合理性を阻害するということはできず、原告の右主張も理由がない。

(三) 以上のとおり、被告の推計方法は合理的である。

4  所得金額について

原告の本件各係争年分の事業所得金額は、昭和五九年分が、総収入金額一三九七万一四六六円に同業者平均所得率二九・二三パーセントを乗じた四〇八万三八五九円、同六〇年分が、総収入金額二二五八万八二五八円に同業者平均所得率二九・六二パーセントを乗じた六六九万〇六四二円、同六一年分が、総収入金額二一〇八万〇二五五円に同業者平均所得率二六・七三パーセントを乗じた五六三万四七五二円と算定すべきである。

5  そうすると、本件各更正処分は、いずれも所得金額の範囲内でなされたものであるから、適法であり、本件各更正処分を前提としてなされた各賦課決定処分も適法である。

四  結論

以上の次第で、原告の本訴請求は、いずれも理由がない。

(裁判長裁判官 來本笑子 裁判官 山崎まさよ 裁判官 坪井昌造)

昭和59年収入経費一覧

<省略>

昭和60年収入経費一覧

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昭和61年収入経費一覧

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電気配線工事業の同業者調査表

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別表一

昭和五九年分課税処分等の経緯

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別表二

昭和六〇年分課税処分等の経緯

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別表三

昭和六一年分課税処分等の経緯

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給与支払明細書(甲六ないし八中)と作業日報(甲一六)との差異

<省略>

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