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横浜地方裁判所小田原支部 昭和40年(ワ)240号 判決 1969年3月28日

主文

昭和四十年(ワ)第二四〇号原告ら及び昭和四十三年(ワ)第六五号原告(昭和四十一年(ワ)第一〇八号被告)の請求をいずれも棄却する。

昭和四十一年(ワ)第一〇八号被告(昭和四十三年(ワ)第六五号原告)は、昭和四十一年(ワ)第一〇八号原告(昭和四十年(ワ)第二四〇号被告、昭和四十三年(ワ)第六五号被告)湯川光治に対し、金二十七万五千二百七十円、同永井孝志に対し、金十八万千四百五十円及び右各金員に対する昭和四十一年六月八日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

昭和四十一年(ワ)第一〇八号原告(昭和四十年(ワ)第二四〇号被告、昭和四十三年(ワ)第六五号被告)永井孝志のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は全部昭和四十年(ワ)第二四〇号原告及び昭和四十三年(ワ)第六五号原告(昭和四十一年(ワ)第一〇八号被告)の負担とする。

この判決は主文第二、第四項に限り、仮りに執行することができる。

事実

(以下便宜上、昭和四十年(ワ)第二四〇号損害賠償請求事件を単に第二四〇号事件、昭和四十一年(ワ)第一〇八号損害賠償請求事件を単に第一〇八号事件、昭和四十三年(ワ)第六五号損害賠償請求事件を単に第六五号事件、昭和四十年(ワ)第二四〇号事件原告、昭和四十三年(ワ)第六五号事件原告(昭和四十一年(ワ)第一〇八号事件被告)を単に原告、昭和四十年(ワ)第二四〇号事件、昭和四十三年(ワ)第六五号事件被告(昭和四十一年(ワ)第一〇八号事件原告)を単に被告とそれぞれ略称する。)

第一、第二四〇号事件及び第六五号事件について、

原告ら訴訟代理人は第二四〇号事件につき、「被告らは連帯して、原告斉藤時子に対し、金百八十九万四千三百七十五円、同斉藤登美子、同斉藤智和、同斉藤文江に対し、各金九十二万九千五百八十四円、同松下勝に対し、金二十万円、同岡部ヤヨ子、同高橋久美子、同堀俊子に対し、各金十万円及び右各金員に対する昭和四十一年一月十八日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、第六五号事件につき、「被告らは連帯して原告会社に対し、金七十四万四千九百十五円及びこれに対する昭和四十三年三月十六日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として次のとおり述べた。

一、原告田子ケース有限会社は化粧品用ケース類の製造を目的とする会社であり、原告斉藤時子は原告会社の自動車運転手亡斉藤守正の妻、原告斉藤登美子、同斉藤智和、同斉藤文江は亡守正の子、原告松下勝は原告会社の自動車運転手、原告岡部ヤヨ子、同高橋久美子、同堀俊子はいずれも原告会社の女子工員であり、被告湯川光治は湯川運送店名をもつて貨物の運送業を営むもので、被告永井孝志は被告湯川光治に雇傭されている自動車運転手である。

二、亡守正は、原告会社の用務により同会社の所在地である静岡県加茂郡西伊豆町から東京に出張し、その帰途、昭和四十年三月十四日原告会社所有のトラツク静一せ六九五七号(以下原告車という。)の運転台に原告岡部ヤヨ子、同高橋久美子を、荷台に原告松下勝、同堀俊子をそれぞれ同乗させて運転し、時速四十五粁で湘南遊歩道路を茅ケ崎方面から大磯方面に向つて西進し、同日午後九時二十分頃神奈川県平塚市須賀二千番地先三差路付近に差しかかつた際、被告永井孝志が被告湯川光治所有のトラツク神一え九六八号(以下被告車という。)を運転し、大磯方面から茅ケ崎方面に向つて東進して来たが、時恰かも茅ケ崎方面から西進して来た別の自動車が右三差路を右折すべく、進路の中心線付近において停止していた。かかる場合、両車は必然的に進路を交差するものであるから自動車運転者としては右自動車の動静に注意し、何時でも停車すべき措置をとり、更に交差後における他の車両との関係においても前方注視を怠らず、危険を避けるのに必要な注意をする義務があるのに、被告永井孝志は右注意義務を怠り、右右折車の前方を漫然通過し、対向してくる亡守正運転の原告車に気付かず、道路の中心線付近において、原告車に衝突した。そのため原告車は大破し、原告車の運転手亡守正は頭蓋底骨折、顔面破砕等の重傷を負い平塚市須賀杏雲堂病院に入院したが既に呼吸なく、心臓の動き極めて微弱で強心剤の注射にも全く反応を示さず、同日午後十時五分死亡し、原告松下勝は頭部打撲内出血、胸部、頸部打撲傷を負い、同日から同月二十五日まで平塚市平塚済生会病院に入院して治療を受け、原告堀俊子は頭部打撲、頸部擦過傷を負い同月十四日から同月十八日まで前記済生会病院に入院して治療を受け、原告岡部ヤヨ子は前頭部打撲血腫、右前腕打撲擦過傷、左下肢打撲血腫及び擦過傷、脳震盪症、骨盤皸裂骨折を負い同月十四日から同月二十五日まで平塚市新宿倉田病院に入院して治療を受け、原告高橋久美子は上口唇挫創、胸部打撲、右膝部及び下腿打撲及び挫創、右足擦過傷、脳震盪症を負い同月十四日から同月二十五日まで前記倉田病院に入院して治療を受けた。

三、本件事故は、被告永井孝志が前記のとおり前方注視義務を怠つて漫然と進行したことによつて発生したものであるから、同被告の過失に基くものである。

四、被告湯川光治は前記被告車を所有し、自己のために運行の用に供していたものであり、被告永井孝志は被告湯川光治に自動車運転手として雇れ、被告湯川光治の業務の執行として被告車を運転中本件事故を惹起したものである。

五、従つて被告永井孝志は民法第七百九条により、被告湯川光治は同法第七百十五条、自動車損害賠償保障法第三条により本件事故により生じた後記損害を賠償する義務がある。

六、亡守正は本件事故発生当時三十一年七ケ月の健康な男子であつたから、若し本件事故が発生しなかつたら厚生省昭和四十一年度簡易生命表により統計上明らかなように通常なお三七・九三年の余命を有していたものであり満五十五才までは稼働可能であつた。しかして同人は原告会社に自動車運転手として勤務し、一ケ月平均金三万七千四百円の収入をあげており、同人の一ケ月間の生活費は金一万二千三百円であつたからこれを差引いた金二万五千百円が同人の一ケ月の純益であり、同人の稼動可能期間中の純益は合計金七百二十二万八千八百円となるところ、これをホフマン式計算法により年五分の割合の中間利息を差引くとその額は金三百二十八万三千百二十七円となり、これが亡守正の本件事故により失つた得べかりし利益の現価であるから、亡守正は被告ら各自に対し、右と同額の損害賠償請求権を取得するに至つたのであるが、同人は前記のとおり死亡したので原告斉藤時子は亡守正の妻としてその三分の一の金百九万四千三百七十五円を原告斉藤登美子、同斉藤智和、同斉藤文江はいずれも直系卑属として各九分の二宛の各金七十二万九千五百八十四円をそれぞれ相続し、被告らに対し、各自右と同額の損害賠償請求権を承継取得したものである。更に亡守正は原告斉藤時子、同智和、同登美子、同文江にとつて一家の生計を託していた唯一の支柱であつたが、本件事故によつて生計の方途を断たれ家庭の幸福は一挙にして喪失されたことはもとよりであり、右原告らは無資産であり、原告時子は現在二十七才で幼ない子供三人を養育して行かねばならない。三児を抱えて再婚の見込は事実上期待できず、悲嘆と心身の負担は言語に絶するものがある、よつて原告時子の精神的苦痛に対する慰藉料は金八十万円、その余の原告らについては各金二十万円とそれぞれ算定するのが相当である。

七、原告松下勝、同岡部ヤヨ子、同高橋久美子、同堀俊子は本件事故により前記のとおりそれぞれ傷害を受け、精神的苦痛を蒙むつたのであるが、特に原告松下勝は自動車の運転手をしている関係から、本件事故による精神的打撃は非常に多く、その職業に多大の不安を抱くに至つており、その精神的苦痛に対する慰藉料は金二十万円と算定するのが相当であり、その余の原告らの精神的苦痛に対する慰藉料は各金十万円と算定するのが相当である。

八、本件事故により原告会社所有の原告車は事故当時金六十二万六千二百二十五円の価格を有していたが本件事故により大破し、その価格は金八万円に減少したから原告会社はその差額金五十四万六千二百二十五円と同額の損害を蒙むつた外、亡守正の葬儀費金二万五千四十円、葬儀参列バス賃借料金一万円、葬祭料、香料合計金十万円を支出し、本件事故現場へ社長代理をを派遣したハイヤー代金五千八百円、事故車の牽引料金一万四千五百円、事故現場へ被害者の家族を行かせたタクシー代金三万五千三百五十円及び代車料金八千円をそれぞれ支出したから、同額の損害を蒙むつた。

九、よつて被告らに対して連帯して、原告斉藤時子は損害合計金百八十九万四千三百七十五円、原告斉藤登美子、同斉藤智和、同斉藤文江は同じく各金九十二万九千五百八十四円、原告松下勝は慰藉料金二十万円、原告岡部ヤヨ子、同高橋久美子、同堀俊子は慰藉料各金十万円及び右各金員に対する本件事故発生後である昭和四十一年一月十八日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の、原告会社は右損害合計金七十四万四千九百十五円及びこれに対する本件事故発生後である昭和四十三年三月十六日から完済に至るまで右と同率の遅延損害金の各支払を求めるため本訴に及んだ。

次に、被告ら主張の抗弁事実はすべて否認すると述べた。

第二、第一〇八号事件について、

原告ら訴訟代理人は、「被告らの請求をいずれも棄却する。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決を求め、答弁として次のとおり述べた。

被告ら主張の請求原因一の事実中、本件事故が亡守正の過失により惹起されたことは否認する、その余の事実は不知、同二の事実中、原告会社が原告車を所有し、亡守正を運転手として雇傭し、亡守正が原告会社の業務の執行として原告車を運転中本件事故が発生したことは認める。

同三、四の各事実は不知

次に抗弁として、次のとおり述べた。

前記第二四〇号及び第六五号事件の請求原因として述べたとおり本件事は専ら被告永井孝志の過失により発生したもので、亡守正には何らの過失もなかつた。そして、原告車には、構造上の欠陥、機能の障害はなく、又原告会社は原告車の運行に関し注意を怠つたこともなく亡守正の選任監督につき十分注意をなしていたものであるから原告会社は本件事故により被告らが蒙むつた損害を賠償する義務はない。

仮りに、原告会社に損害を賠償する義務があるとしても、本件事故発生については被告永井孝志にも過失があつたから損害額の算定につき斟酌さるべきである。

第三、第二四〇号事件及び第六五号事件について、

被告ら訴訟代理人は、「原告らの請求をいずれも棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決を求め、答弁として次のとおり述べた。

原告ら主張の請求原因一の事実中、被告湯川光治が湯川運送店名をもつて貨物の運送業を営むものであり、被告永井孝志が被告湯川光治に雇傭されている自動車運転手であることは認めるがその余の事実は不知、同二の事実中、原告ら主張の日時、場所において、亡守正運転の原告車と、被告永井孝志運転の被告車とが衝突し、そのため死傷者のあつたこと、原告ら主張の原告らが原告車に同乗していたことは認めるがその余の事実は争う、同三の事実は否認する。同四の事実は認める。同五の主張は争う、同六ないし八の各事実は不知、本件事故の発生については被告永井孝志に過失はなく、専ら亡守正の一方的過失に基くものである。

次に被告ら訴訟代理人は抗弁として次のとおり述べた。

被告永井孝志は被告湯川光治の業務のため昭和四十年三月十四日被告車を運転し、湘南遊歩道路を大磯方面から茅ケ崎方面に向つて東進し、同日午後九時二十分頃本件事故現場である丁字路付近に差しかかつたところ、たまたま反対方向から進行して来た訴外福沢清司の運転する自動車が右丁字路を右折しようとして道路中央線付近において、被告車の通過を待つため停止しているのを認めたので、被告永井孝志は正規の交通方法に従い右停止車を右に見てそのまま通過しようとしたが、反対方向から進行して来た原告車が右停止車の左側を通行しなければならないのにも拘らず、突然右停止車の背後から道路中央線を超えて道路の右側に進行して来たため、被告車に衝突したものであつて、本件事故発生については被告永井孝志には何らの過失はなく、専ら、亡守正の過失に基くものである、しかして、被告車には構造上の欠陥、機能の障害がなく、かつ、被告湯川光治は被告車の運行に関し注意を怠つたことはなく、被告永井孝志の選任監督につき万全を期していたものであるから被告らには本件事故による損害を賠償する義務はない。

第四、第一〇八号事件について

被告ら訴訟代理人は、「原告会社は被告湯川光治に対し、金二十七万五千二百七十円、被告永井孝志に対し、金二十八万千四百五十円及び右各金員に対する昭和四十一年六月八日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は原告会社の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として次のとおり述べた。

一、本件事故は前記被告らが第二四〇号事件及び第六五号事件の抗弁として述べたとおり、専ら亡守正の過失に基き惹起されたものであり、本件事故により被告湯川光治所有の被告車は大破し、被告車を運転していた被告永井孝志は全治九日間を要する右上腕刺創、右前腕右下腿打撲擦過創の傷害を受けるに至つた。

二、しかして原告会社は原告車を所有し、亡守正を運転手として雇傭し、亡守正は原告会社の業務の執行として右原告車を運転中本件事故を惹起したものであるから、原告会社は民法第七百十五条、自動車損害賠償保障法第三条により被告らが蒙つた損害を賠償する義務がある。

三、被告湯川光治は被告車が大破したため、その修理費として金六十七万二千三百四十円、被告車は本件事故によりその積荷を運搬することができなくなつたため代車を使用し、その車代として金一万五千円、被告車牽引料として金一万五千円、本件事故による積荷損傷の損害補償として荷主に金四万八千七百五十円をそれぞれ支払つた外、被告車修理期間中被告車を使用することができなかつたため、被告車使用による得べかりし利益金十八万五千五百円を喪失したので、被告湯川光治は以上合計金九十三万六千五百九十円の損害を蒙むり、同額の損害賠償請求権を取得したが同被告は右請求権のうち金六十六万九百二十円を訴外大東京火災海上保険株式会社に譲渡したので、原告会社は残額金二十七万五千六百七十円を支払う義務がある。

四、被告永井孝志は前記傷害の治療費として金二万八千九百五十円を支払い、右傷害のため一日金千五百円の割合による給料の三十五日分合計金五万二千五百円を喪失し、同額の損害を蒙むつた外、本件事故により多大な精神的苦痛を受けたので、右精神的苦痛に対する慰藉料は金二十万円と算定するのが相当である。

五、よつて、原告会社に対し、被告湯川光治は前記損害金のうち金二十七万五千二百七十円、被告永井孝志は前記損害金二十八万千四百五十円及び右各金員に対する本件事故発生後である昭和四十一年六月八日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるため本訴に及んだ。〔証拠関係略〕

理由

昭和四十年三月十四日午後九時二十分頃神奈川県平塚市須賀二千番地先三差路付近道路上において、亡守正運転の原告車と被告永井孝志運転の被告車とが衝突したことは当事者間に争いがない。

〔証拠略〕を総合すれば、本件事件発生現場は茅ケ崎方面から大磯方面に通ずる二級国道一三四号線(通称湘南遊歩道路)と東海道国道方面に通ずる道路とが交る信号機の設置された丁字型交差点入口付近で、右二級国道は幅員十一米のアスフアルト舗装された見透しのよい直線道路で大磯方面に向つてゆるい下り勾配となつていること、本件事故発生当日被告永井孝志は被告車を運転し、大磯方面から茅ケ崎方面に向つて時速約四十五粁で進行し、本件交差点入口付近に差しかかつたが、茅ケ崎方面から進行して来た訴外福沢清司運転の小型四輪自動車が右折するため、道路中央線付近に寄り、かつ交差点の中心付近で停止し方向指示器を点滅し右折の合図をしているのを認め、青色信号に従つて右交差点に進入し、右小型四輪自動車の右側約一米の地点を通過したが、その瞬間前方約十米の地点において反対方向から進行して来た亡守正運転の原告車が道路中央線を約一米超えて進行してくるのを認めたので危険を感じ、ハンドルを左に切るとともにブレーキをかけたが間に合ず、原告車が被告車に衝突したものであることが認められ他に右認定を覆えすに足る証拠はない。右認定の事実から考察すれば、亡守正はその進路前方に、右折するため道路中央線付近に寄り、交差点の中心付近で停止し方向指示器を点滅して右折の合図をしている訴外福沢清司運転の小型自動車があつたのであるから、その左側を通過すべき注意義務があるにもかかわらず被告車が接近して来るや急に右側に寄り道路中央線を超えて進行したため正常に進行していた被告車に衝突したものであるというべく又右の如き状況のもとでは被告永井孝志が如何に前方左右の注視義務を尽くしたとしても事故の発生を回避することができたとは到底考えられない。従つて本件事故は亡守正が前記の如き注意義務を欠いた過失により惹起されたものであること明らかであり、被告永井孝志には被告車の運行について何らの過失も無かつたというべきである。そして本件事故が前記の如き態様で、しかも亡守正の過失のみにより惹起されたものである以上、保有者である被告湯川光治が被告車の運行について注意を怠らなかつたというべきであり、被告永井孝志本人尋問の結果によると、被告車に構造上の欠陥又は機能障害がなかつたことが認められるから、被告らは本件事故の発生により原告らが蒙むつた損害を賠償する義務を負担しないものである。従つて、原告らの請求はその受けた損害の判断をまつまでもなく理由がない。

そこで被告らの請求について判断する。

原告会社が原告車を所有し、亡守正を運転手として雇傭し、亡守正が原告会社の業務の執行として原告車を運転中本件事故が発生したことは当事者間に争いがなく、前記認定のとおり本件事故が亡守正の過失により惹起されたものである以上、原告会社は本件事故により、被告らが蒙むつた損害を賠償する義務がある。

そこで損害の額につき判断する。

〔証拠略〕によれば、被告湯川光治は本件事故によりその所有の被告車が大破し、その修理代として金六十七万二千三百四十円を支出したこと、事故車の牽引料として金一万五千円を支出したこと、本件事故により被告車の積荷の密柑が損傷し、その損害賠償として荷主に対し、金四万八千七百五十円を支出したこと、本件事故により被告車が運行不能となり積荷の密柑を運搬するため代車を借受けその使用料として金一万五千円を支払つたこと、被告車の修理には三十五日間を要したこと、そして、被告車は一日に金五千三百円の純益をあげていたが、右修理期間中被告車は使用不能となり結局合計金十八万五千五百円の得べかりし利益を喪失するに至つたことが認められ他に右認定を覆えすに足る証拠はない。従つて、被告湯川光治は以上の合計金九十三万六千五百九十円と同額の損害を蒙むつたものというべく、原告会社は同被告に対し、右損害を賠償する義務があるところ、同被告は右債権のうち金六十六万九百二十円を訴外大東京火災海上保険株式会社に譲渡しているから結果、原告会社はその差額金二十七万五千六百七十円を被告湯川光治に対し支払う義務がある。

〔証拠略〕によれば、被告永井孝志は本件事故により九日間の安静加療を要する右上腕刺創、右前腕、右下腿打撲擦過創の傷害を受け医療法人永瀬病院において入院治療を受け、その治療費として金二万八千九百五十円を支払つたこと、同被告は被告湯川光治に自動車運転手として雇れ、一日金千五百円の賃金の支払を受けていたが右入院並びに被告車の修理期間中である三十五日間稼動することができず、従つて合計金五万二千五百円の収入を失つたことが認められ、他に右認定を覆えすに足る証拠はない。又同被告が本件事故により精神的苦痛を受けたことは当然であり、本件事故の態様、同被告の傷害の程度その他諸般の事情を考慮し、右精神的苦痛に対する慰藉料の額は金十万円と算定するのが相当である。従つて同被告は以上の合計金十八万千四百五十円と同額の損害を蒙むつたものというべく、原告会社は同被告に対し、右損害を賠償する義務がある。

原告会社は本件事故の発生について、被告永井孝志にも過失があつたから損害額の算定につき斟酌すべきであると主張するけれども、既に認定のとおり、本件事故発生については同被告に何らの過失もなかつたから、原告会社の右主張は採用しない。

以上の次第で原告会社に対し、前記損害のうち金二十七万五千二百七十円及びこれに対する本件事故発生後である昭和四十一年六月八日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める被告湯川光治の請求はすべて理由があり、被告永井孝志の原告会社に対する請求は右金十八万千四百五十円及びこれに対する本件事故発生後である昭和四十一年六月八日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求る限度において理由がある。

よつて、原告らの請求はいずれも失当としてこれを棄却し、被告湯川光治の請求はそのすべてを正当としてこれを認容し、被告永井孝志の請求は右認定の範囲において正当としてこれを認容し、同被告のその余の請求は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、第九十二条、第九十三条を、仮執行の宣言につき同法第百九十六条第一項を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 青山惟通)

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