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横浜地方裁判所 昭和63年(行ウ)15号 判決 1991年10月30日

原告 大渕響子

被告 横浜南税務署長

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告が原告に対して昭和62年3月12日付でした昭和56年分所得税の決定処分(以下「本件決定」という。)及び無申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定」といい、本件決定とあわせて「本件処分」という。)を取り消す。

第二事案の概要

本件は、原告が遺産分割協議の結果取得した1億5000万円につき、被告が、原告らにおいて共同相続した東京都中央区○○○○町×丁目×番×の宅地197.15平方メ一トルの借地権(以下「本件借地権」という。)を換価分割したことによる所得であると認定して本件処分をしたのに対し、原告は、本件借地権を他の相続人の単独取得としたことに対する代償金に過ぎないと主張し、併せて、決定通知書の送達が除斥期間経過後にされたことも理由に、その取消しを求めたものである。

一  本件処分等の経緯等

原告の昭和56年分(以下「本件係争年分」という。)の所得税について、被告がした本件処分及び原告の異議申立等の経緯等は、別紙のとおりである(争いがない。)。

二  被告の主張

1  本件決定の根拠及び適法性

(一) 譲渡所得の帰属

(1) 被相続人大渕孝夫(以下「孝夫」という。)は、昭和44年12月19日に死亡した。原告は、同人の後妻であり、大渕俊輔、大渕晃子、大渕秀明及び大渕美子(以下それぞれ「俊輔」、「晃子」、「秀明」及び「美子」という。)は、いずれも孝夫と先妻との間の子である(争いがない。以下、これら5名を「共同相続人」という。)。

(2) 昭和56年10月12日には、共同相続人間で、本件借地権を含む相続財産について遺産分割協議(以下「本件分割協議」という。)がなされた。この協議において、俊輔は、本件借地権を5億4000万円で他に売却し、その代金を諸経費(合計9000万円)に充てた上、原告に1億5000万円、晃子に7000万円、秀明に7000万円及び美子に9000万円をそれぞれ支払い、残額7000万円を自ら取得することとなった(争いがない。)。

(3) 本件借地権は、昭和56年10月14日、代金5億4000万円で、俊輔から○○不動産株式会社に売却され(争いがない。)、本件分割協議に従い、代金のうちから1億5000万円が原告に支払われた。

(4) 本件分割協議においては、共同相続した本件借地権を売却してその代金を共同相続人間でほぼ法定相続分に近い割合で分配するという換価分割の合意が成立し、その合意に基づき、俊輔が売却を実行して、その譲渡代金が共同相続人に配分されたものであるから、本件借地権の譲渡による所得は、その配分額に応じて各相続人にそれぞれ帰属するというべきである。

(二) 分離課税の長期譲渡所得の金額

(1) 総収入金額 1億8000万円

本件借地権の譲渡代金5億4000万円に、本件分割協議に基づいて共同相続人に配分されるべき金額の合計額4億5000万円(譲渡代金5億4000万円から後記(3)の譲渡費用の額9000万円を控除した額)に占める原告に配分されるべき金額1億5000万円の割合を乗じて計算したものである。

(2) 取得費の額900万円

租税特別措置法(以下「措置法」という。)31条の4第1項本文の規定に基づき、総収入金額1億8000万円に100分の5の割合を乗じて算出した額である。

(3) 譲渡費用の額3000万円

借地権譲渡承諾料4000万円、不動産仲介手数料1800万円、建物占有者立退料及びその他の費用3200万円の合計9000万円に前記(1)の割合を乗じて計算したものである。

(4) 分離課税の長期譲渡所得金額1億4000万円

前記(1)の総収入金額から、前記(2)の取得費の額、前記(3)の譲渡費用の額及び措置法31条4項に規定する長期譲渡所得の特別控除額100万円を控除したものである。

(三) 本件決定の適法性

被告が本訴において主張する原告の分離課税の長期譲渡所得の金額は、前記(二)(4)のとおり1億4000万円であり、これは、本件決定による分離課税の長期譲渡所得の金額と同額であるから、本件決定は適法である。

2  本件賦課決定の適法性

原告は、本件決定により納付すべき税額について確定申告書を提出せず、かつ、このことについて国税通則法66条1項(昭和62年法律第96号による改正前のもの。以下「通則法」という。)に規定する正当な理由があるとは認められないから、同項の規定に基づき、納付すべき税額(同法118条3項により1万円未満の端数を切捨てた金額)5008万円に100分の10を乗じて500万8000円を賦課決定したものである。したがって、本件賦課決定は適法である。

3  本件通知書の送達時期

本件決定にかかる決定通知書(以下「本件通知書」という。)を原告に送達したのは、昭和62年3月12日である。

(一) 原処分庁資産税第1部門の上席国税調査官米田学及び大蔵事務官金町民夫の両名は、昭和62年3月12日、本件通知書を送達するため、原告の住所地である横浜市磯子区○×丁目×番××号○○○○○○○○○×××号室に赴いたが、原告が不在であったため、同建物1階に設置され原告の氏名が表示されている郵便受函に本件通知書を投函した。

(二) 本件通知書が受送達者たる原告の郵便受函に投函されたことにより、原告は、本件通知書を了知し得る状態におかれたものというべく、これをもって通則法12条5項2号所定の差置送達は完了した。

(三) 右のとおり、本件通知書は、昭和62年3月12日に原処分庁の職員により適法に原告の住所に差し置かれたのであるから、この日に送達の効力が生じたものであり、本件決定が法定の除斥期間経過前に送達されていることは明白である。

三  原告の主張する本件処分の違法事由

1  本件分割協議においては、本件借地権は俊輔が単独で取得する旨の合意が成立し、同人がこれを単独で他に売却したのであるから、右譲渡による所得は、俊輔ひとりに帰属すべきものである。

原告は、本件分割協議において、俊輔から1億5000万円の支払を受けることになったが、これは、本件借地権を同人の単独取得としたことに対する代償金であって、本件借地権を他に売却したことによる譲渡代金の分配金ではない。したがって、本件借地権の売却につき、原告に譲渡所得が発生する余地は全くない。

2  本件通知書の送達は、通則法12条5項2号所定の差置送達によってなされたが、以下のとおり、違法ないし無効な送達である。

(一) 差置送達は例外的な送達方法であり、<1>本来なすべき送達方法を行うべく努力したが、その方法をとり得なかったことに客観的・合理的な理由があり、差置送達をすることについて正当な理由が認められ、<2>差置送達の具体的方法が適正であることが必要であるところ、被告は、郵便による送達を選択する時間的余裕があったにもかかわらず、あえて差置送達を行い、その際、原告の所在確認の努力を怠り、立会人も立てなかった。

(二) 本件通知書の送達は、○○○○○○○○○1階の集合郵便受函になされたにすぎず、原告の住所においてなされていない。

(三) 本件通知書が原告に送達された日は、昭和62年3月21日であり、法定申告期限から5年を経過した後である。本件通知書が法定の除斥期間(通則法70条3項)経過前になされたとする証明はない。

3  本件処分は著しく公平に反するものである。すなわち、被告は、昭和60年12月27日、原告に対して贈与税を課したが、原告の異議申立等を経て、贈与税決定処分を取り消した。被告は、その後、除斥期間間際になって本件処分を行ったが、原告と同じ立場に立つ、秀明、晃子及び美子については除斥期間の経過により何らの処分もされていない。本件処分によって原告に課せられる税額及び延滞税は、合計1億1230万6958円にのぼり、原告が取得した1億5000万円のほとんどが徴収されることになる。共同相続人中、年齢的にも経済的にも最も弱者の立場にある原告に対してこのような処分がなされることは、課税における公平を害し、著しく不当な取り扱いであって、適正な課税処分とはいえない。

四  争点

1  本件の争点は次のとおりである。

(一) 本件通知書の送達が適法にされているか。

(二) 本件分割協議によって原告が取得した1億5000万円は、代償分割によるものか、換価分割によるものか。

2  争点に関する被告の主張は次のとおりである。

(一) 争点1(一)(本件通知書の送達)について

(1) 通則法12条1項は、書類の送達について、郵便による送達と交付送達(差置送達を含む。)を認めており、いずれの方法も適正な送達方法であり、いずれかに優先順位があるというものではない。

また、通則法12条5項2号の規定は、民訴法171条3項と異なり受送達者不在の場合に、書類を差し置くことによる差置送達を認めている。

これは、租税の賦課徴収に関する処分が大量かつ反復して行われることから、簡易迅速にその処分の内容を記載した書類を送達して処分の効力を生じさせる必要があり、また、租税の賦課権についての除斥期間(通則法70、71条)や徴収権についての消滅時効(通則法72条)が極めて短期のものとして規定されているため、受送達者が意図的に、あるいは、偶然にその居宅に不在である場合にも送達を可能にすることが必要だからである。さもないと、除斥期間等の徒過によって、不誠実な納税者をして法定の納税義務や租税の徴収を免れさせる虞があり、その結果、租税の賦課徴収の公平を図る事が困難となり、租税収入を確保することもできなくなる。

(2) 本件においては、通則法70条3項の除斥期間が昭和62年3月15日に迫っており、郵便による送達では右期間を徒過する虞があったこと、郵便による送達の場合には「通常到達すべきであった時」(通則法12条2項)について争いを生ずる可能性があったこと等を考慮し、交付送達を選択したものである。

(3) 原告に対する課税権者は被告であり、その余の相続人に対する課税権者は藤沢税務署長である。原告に対しては差置送達、俊輔を除くその余の相続人らに対しては書留郵便による送達がされたが、被告が原告に対して差置送達をしたのは、除斥期間満了3日前の昭和62年3月12日であり、藤沢税務署長が書留郵便による発送をしたのは、除斥期間満了12日前の同月3日である。各課税権者は、除斥期間までの長短、事務効率等を勘案し、送達方法を選択したのであり、いずれも適切なものである。

(4) 原告が居住する○○○○○○○○○1階所在の集合郵便受函(以下「本件集合郵便受函」という。)は、郵便法55条の2の規定する郵便受箱である。同条の規定する郵便受箱の設置制度は、4半世紀にわたり実施されてきており、高層建築物の増加と共に広くゆきわたり、既に定着している。また、普通郵便による送達は、同条規定の郵便受箱に投函することによって行われており、右は送達すべき場所として社会通念上認識されている。

さらに、本件集合郵便受函は、○○○○○○○○○の共用部分にあり、共用部分は区分所有者の共有とされているから、原告が共有する共用部分に設置されている原告専用の本件集合郵便受函が原告の住居の一部を構成することはいうまでもなく、送達すべき場所であることは明白である。原告宅玄関に設置されているのは、施錠のない牛乳受函と物受函であり、いずれも郵便受函と認められるものではなく、その他に直接原告の居住内に投入できるような差し込み口のようなものはない。したがって、送達の確実性の観点からしても、本件集合郵便受函以外に適当な差置送達の場所はない。

(5) 送達の効力は、送達を受けるべき者が送達書類を現実に受領したかどうかにかかわりなく、送達が適法に行われた時、すなわち、受送達者が書類を客観的に了知し得る状態に置かれた時に発生する。

本件通知書が本件集合郵便受函に投函されたことにより、原告は、本件通知書を了知し得る状態に置かれたというべきであるから、これをもって差置送達の効力が発生したものである。

(二) 争点1(二)(代償分割か換価分割か)について

(1) 代償分割は、特定の相続財産を複数の相続人に分割することによりもたらされる価値の激減を避けるために特定相続人が相続する場合、あるいは、特定の相続財産について特定の相続人が排他的に利用する便を図る必要があるために当該相続人が相続する場合等において、特定相続人が債務(代償金支払債務)を他の共同相続人に対して負担することにより行われるものである。

本件分割協議において作成された遺産分割協議書(乙2、以下「本件分割協議書」という。)には、俊輔が本件借地権を単独相続する旨の記載があるが、同時に、俊輔は、速やかに本件借地権を売却することを義務付けられており、特定相続人として本件借地権を排他的に利用することが全く予定されていないから、俊輔に取得させたのは代償分割の必要性があったからではないというべきである。

本件借地権を俊輔が単独相続するという形式をとったのは、本件借地権の売却(売却交渉、売買契約の締結、移転登記手続の履行等)を円滑に行うという手続面の便宜あるいは売り渡し先の要請等によるものである。

(2) 本件分割協議書には、「代償金」の支払は、俊輔が取得した本件借地権を売却し、その代金入金後速やかに行う旨及び本件借地権の売却代金から代償金を捻出する旨定められており、また、本件借地権の売却額及び代償金の額が確定額で記載されている。この記載から、俊輔の原告を含む他の共同相続人に対する金銭の支払は、本件借地権を売却換価してその代金を分配する換価分割であることが示されているというべきである。

(3) 遺産分割が代償分割か換価分割かは、相続財産の範囲の確定とは無関係に判断できる問題である。

遺産分割は、経済的な側面のみならず情緒的な側面を多く含んだ種々の事情を考慮して行われるのであるから、原告の法定相続分の割合に比してその取り分が僅少であるということから直ちに遺産分割の性格を決することはできない。すなわち、遺産総額から法定相続分によって算出される各相続人の得べかりし取得総額に比べ、実際の遺産分割によって現実に得られた各相続人の取得総額が僅少であるから代償分割であるという関係はない。

(4) 本件の相続財産は本件分割協議書に記載されたもののみである。原告は、後記のとおり、本件借地権のほかに狛江市○○の土地建物(以下「○○の物件」という。)及び藤沢市△△△△の土地建物(以下「△△の物件」という。)が相続財産に含まれると主張しているが、○○及び△△の物件は、いずれも各名義人が売買等によって取得したものであり、名義人の固有財産と推定される。そして、相続財産がこれだけであるとすると、原告が取得した1億5000万円は、ほぼ法定相続分に等しい3分の1になる。

(5) 本件分割協議によって代償分割がなされたとすれば、俊輔が本件借地権を取得し、その換価を義務付けられることにより、俊輔一人が多額の租税負担を行うことになり、著しい不利益を受ける。よって、俊輔において本件遺産分割を代償分割とする内容の協議を成立させる意思はなかったというべきである。

3  争点に関する原告の主張は次のとおりである。

(一) 争点1(一)(本件通知書の送達)について

(1) 課税徴収権の行使は、国民の財産権の制約を伴うものであるから、徴収手続に不可欠な処分告知の手続は適正になされなければならない。したがって、送達の規定の解釈は、適正手続の原則から厳格に行われるべきであり、受送達者の権利を安易に侵害しないように配慮すべきである。

(2) 送達は、課税処分の効力を発生させ、これを通じて国民の財産権の制約を確定するものであるから、送達によって不利益を受ける納税者側に利益になるような送達方法が要請される。課税処分手続に除斥期間による期間制限が設けられているのは、課税被処分者がいつまでも不安定な地位に置かれることを防止し、法的安定性を図り、国民の財産権を保障する趣旨である。課税処分の確定あるいは除斥期間の経過は、かかる不安定な地位から課税被処分者を解放するものであり、その解放時点は、除斥期間との関係のみならず、財産権の処分可能性の判断において、極めて重要な役割を有している。したがって、課税処分の効力を発生させる送達においては、課税被処分者(納税者)において即時かつ確実に課税処分を了知することが要請される(解放時点と当事者の了知時点との同時性の確保)。

(3) 送達書類が更正通知書、決定通知書等納税者の財産権に制約を加える性質を有する重要な書類である場合には、郵便による送達のときは書留郵便あるいは配達証明郵便によるべきであり、交付送達のときは通則法12条4項の送達方法によるべきである。

そして、右の送達方法のなかでは、迅速、確実で納税者の利益に資する書留郵便、配達証明郵便による送達方法を優先させるべきであり、差置送達は、同条5項が「前項の規定による交付に代え」という文言を用いていることからして、やむにやまれない例外的場合の救済規定と解すべきである。したがって、差置送達が適法であるためには、<1>本来なすべき送達方法を行うべく努力したがその方法をとりえなかったことに客観的・合理的な理由があり、差置送達をすることについて正当な理由が認められることと、<2>差置送達の具体的方法が適正に行われることという要件が必要である。

ア <1>の要件について

本件処分の決定は、昭和62年3月12日午前中に行われており、同月15日の除斥期間までまだ4日間の余裕があった。現在の郵便配達事情や本件が同一市内における配達であることからして、書留郵便あるいは配達証明郵便による送達は十分可能であった。

また、被告は、管理人に原告の住居の有無を聞いたほかは、原告方のインタ一ホンを押しただけであり、再度日時を改めて赴いたり、隣人に所在を尋ねたりする等の方法をとっておらず、原告の所在確認の努力を怠っている。

イ <2>の要件について

差置送達を適正に行うためには、最低限立会人を必要とすべきである。本件においては管理人の立ち会いも行われていない。

被告は、原告以外の相続人に対しては書留郵便による送達を行ったが、原告に対してはこれと異なる送達方法をとったものであり、手続に一貫性がなく、公平さを欠いている。

(4) 仮に送達方法選択の適否の点をおくとしても、昭和62年3月12日の送達は未了である。

送達は、これを受けるべき者の住所又は居所にしなければならず(通則法12条1項)、郵便受函に差置送達をする場合は、受送達者の住所又は居所と一体となっている場所の郵便受函への投入によって初めて送達の効力を生ずると解すべきである。原告が居住の用に供していた家屋の玄関入口には郵便受函が設置されていたのであるから、送達はそこでなされるべきであった。

しかるに、被告が本件通知書を差し置いた場所は、本件集合郵便受函である。本件集合郵便受函は、原告居住の場所(横浜市磯子区○×-×-××-×××)とは番地を異にする一階共用部分に便宜的に設置されていたものであり、簡易な郵便物やダイレクトメール等を便宜的に投入する郵便受函として設けられていたものにすぎず、原告の居住場所と実質的に遊離した場所にあり、原告が常時支配し、確実かつ速やかに書類等の取得ができる位置関係にない。したがって、本件通知書は、原告の住所に送達されたものではない。

また、受送達者が送達内容を認識できたとみなしうる客観的に正当と認められる状況があって、初めて本件通知書を客観的に了知しうる状態にあったということができるところ、原告は、昭和62年3月6日から湯河原へでかけ、同月21日以降に帰宅したのであるが、被告は、原告の留守宅へ、郵便局預かりの文書を差し置くこともせず、単に集合郵便受函へ投入したものであり、原告が客観的に了知しうる状態にあったとは言えない。

(5) そもそも、本件通知書が昭和62年3月12日に原告の住所に送達されたとする客観的証拠は存在しない。

(二) 争点1(二)(代償分割か換価分割か)について

(1) 代償分割とは、共同相続人又は包括受遺者のうちの一人又は数人が相続又は包括遺贈により取得した財産の現物を取得し、その現物を取得した者が他の共同相続人又は包括受遺者に対して債務を負担する分割の方法をいい、換価分割とは、共同相続人又は包括受遺者が相続又は包括遺贈により取得した財産の全部又は一部を金銭に換価し、その換価代金を分割する方法をいう。

右定義からすれば、本件分割協議において代償分割がされたことは明らかである。なお、換価分割は、現物分割そのほかの分割方法がとれない極めて例外的な場合にとるべき方法である。

(2) 本件分割協議書の記載内容からして、本件分割協議においては代償分割がされたというべきである。

すなわち、本件分割協議書第2項本文は、代償分割であることを明示し、第3項は俊輔が遺産の現物を取得する旨定めているほか、第1項は、特定の相続人名義になっている遺産を当該名義人以外の相続人が放棄する趣旨の規定であり、第2項但書及び第4項は、代償金債務の速やかな履行を確保し、代償金債権者の地位の保全を図る趣旨の規定である。

(3) 孝夫の遺産には、本件分割協議書に記載された本件借地権のほかにも、○○の物件及び△△の物件がある。○○の物件及び△△の物件のなかには、相続人名義のものがあるが、その取得費用はすべて被相続人が負担し、固定資産税の負担等の管理も被相続人が行ってきたものであり、当該財産取得時における各名義人の年齢も考慮すれば、いずれも被相続人が相続人の名義を借用して登記を経由したことが明らかである。

原告が取得した1億5000万円は、本件分割協議書記載の財産だけが相続財産だとすれば、法定相続分の割合である3分の1に等しいようにみえるが、○○の物件及び△△の物件も相続財産に含まれるとすると、原告の取得した分は、12.5パーセントにすぎない。

本来なら3分の1を取得できる原告が右のような割合で合意したのは、相続人間に生じた争いを防止するためである。すなわち、原告は、金1億5000万円の代償金を受け取ることによって、配偶者としての多額の相続分を断念したのである。

(4) 俊輔は、本件借地権売却のために便宜的に共有財産の代表者になったのではない。当事者が換価分割を考えていたのであれば、単独名義にするのは無用の処理である。

(5) 代償金債務を負担した者が遺産分割後に弁済資金をどのようにして調達するか、あるいは、弁済資金調達のために相続した遺産を処分するか等は、遺産分割の性格そのものとは関係がない。遺産を処分して分配金を捻出したからといって、ただちにそれが換価分割になるわけではない。

(6) 本件分割協議書には、譲渡所得税の負担に関する記載がないが、これは、俊輔が負担することを当然の前提にしていたからである。

俊輔には、租税負担を一手に引き受けてでも本件分割協議を成立させるべき事情があった。すなわち、俊輔は、当時、社長として承継した○○医療器械株式会社及び△△医科機器株式会社が倒産し、その処理に追われ、また、債権者からの追及を受けていた等の事情により、早急に遺産分割協議を成立させ、自由に処分できる財産を確保する必要があった。これによって現金を手にいれることができたし、それ以前にも、相続財産の一部を他に先立って処分して現金を取得していたのであるから、税金を負担しても、それを帳消しにして余りがあるほどの利益を受けていた。

また、俊輔自身も税金の負担については納得しており、譲渡所得の課税問題は遺産分割後に生ずることであり、俊輔が負担することが当然の前提になっていたから、当事者間で課税問題が意識されながら進められてきたにもかかわらず、本件分割協議書自体には譲渡所得税についてあえて記載していないのである。

(7) 本件借地権売買の代金は、昭和56年10月14日に1億2000万円、同月30日に4億2000万円が支払われているが、原告は、同月12日、川崎祐介から、代償金に相当する1億5000万円全額を受領している。これは、原告が現金の支払がなされない限り協議書に署名押印をしないと言っていたため、川崎祐介が資金を捻出して支払ったものである。本件借地権の売却代金を俊輔が受領した後にこれを代償金として受領したのではない。

第三争点に対する判断

一  本件通知書の送達について

1  通則法12条1項は、国税に関する法律の規定に基づいて税務署長等が発する書類について、郵便による送達と交付送達(差置送達を含む。)を認めているが、両者間に優先順位があるわけでなく、どの方法を選択するかは、税務所長等の裁量に任されているというべきである。

同条5項2号の定める差置送達も交付送達の一態様であり、同号所定の要件がある場合に、送達すべき場所において送達すべき者に書類を交付するという方法(通則法12条4項)に代えて、送達すべき場所に書類を差し置く方法による送達を認めたにすぎないから、差置送達をもって、やむを得ない場合にのみ認められる例外的送達方法ということはできない。

したがって、本件通知書の送達について、差置送達の方法を採ったこと自体に咎めるべき点は認められない。

2  本件通知書の送達は、<1>昭和62年3月12日、原処分庁資産税第一部門の上席国税調査官米田学及び大蔵事務官金町民夫の両名が本件通知書を送達するため、原告の住所地である横浜市磯子区○×丁目×番××号○○○○○○○○○×××号室に赴いた、<2>右両名は、○○○○○○○○○の管理人清水に原告居住の事実を確認したところ、しばらく顔を見ないが居住している旨の返事を得たので、×××号室のインタ一ホンを何回か押したが、返事がなかった、<3>そこで、原告が不在であると判断し、本件通知書を○○○○○○○○○1階に設置されている本件集合郵便受函に投函した、という経緯でされたものである(乙1、4の1、2、証人米田学)。

3  本件通知書が投函された本件集合郵便受函は、○○○○○○○○○1階の階段及びエレべ一ターに近い場所に設置されており(甲24の2)、原告は、同建物の二階に居住しているのだから(甲24の3)、原告が外出等の際に郵便物等の取り出しをすることは容易である。実際、原告は、本件通知書が送達された当時湯河原に行っていて留守であったが、昭和62年3月22日に帰宅し、その当日に本件通知書を見ている(原告本人)。

また、各郵便受函には、居住者の姓氏ないし氏名が記載されており、×××号室の部分には「大渕」と表示され、施錠もされている(甲24の7、8)から、本件集合郵便受函は、原告の排他的支配が及ぶ場所ということができる。これに対し、原告宅玄関前には、郵便受と認められるものはなく、ドアにも内部に書類等を差し入れられるような部分はない(甲24の4ないし6)。

さらに、○○○○○○○○○は、住宅用高層建築物で、区分所有等に関する法律の適用を受けるいわゆるマンションであって、原告の居住する×××号室は専有部分、本件集合郵便受函等は共用部分であり、共用部分は区分所有者の共有とされている(甲22)から、本件集合郵便受函も原告の共有部分に存在することになる。

右事実によれば、本件集合郵便受函は、原告の住所の一部を構成するということができるから、これが送達すべき場所であることは明らかである。

4  原告は、本件通知書の送達にあたって、被告が原告の所在確認の努力を怠り、立会人も立てていないから、本件通知書の送達方法が適正でないと主張するが、右事実によれば、被告が原告の所在確認の努力を怠ったということはできず、また、立会人を立てないことをもって直ちに本件通知書の送達が不適正なものになるということはできない。

また、原告は、本件通知書送達の日の立証がされていないと主張するが、乙1、4の1、2及び証人米田の証言によれば、本件通知書の送達は、昭和62年3月12日にされたと認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

さらに原告は、本件処分が原告だけにされ、他の共同相続人が処分を免れていることから、本件処分が著しく公平に反する旨主張する。確かに、本件においては、同じ立場にあるのにもかかわらず、原告には課税され、他の共同相続人には課税されないという不公平が生じているが、他の共同相続人は、課税庁の不手際によって本来課税されるべきところを免れ、原告は、本来課税されるべきところを課税されたにすぎないから、右のような不公平が本件処分を違法とするものではないというべきである。

5  よって、本件通知書の送達は適法にされたということができる。

二  本件分割協議の成否及び内容について

1  代償分割とは、遺産の全部又は一部を現物で共同相続人中の一人又は一部の者に取得させ、その代わりに、取得者に対して他の相続人に代償金を支払うべき債務を負担させる分割方法をいう。この場合には、その後当該遺産を処分するか否か、その時期・内容等はすべて取得者の自由に決定しうるところであり、これを譲渡することによって得られる所得は、取得者のみに帰属し、譲渡所得に対する所得税は、同人が負担すべきものである。代償金を支払うために当該遺産を処分する場合も、事情は変らない。

これに対して、換価分割とは、共同相続した遺産を直接分割の対象とせず、まずこれを未分割の状態で換価し、その対価として得られる金銭を共同相続人間で分割する方法をいう。この場合に遺産を処分するのは、形式上は共同相続人中の特定の者が代表してその名で行うこともあろうが、実質的には共同相続人全員であり、したがって、当該譲渡所得は全員に帰属し、これに対する所得税は全員が負担すべきことになる。

2  ところで、原告に有利な事情としては、次の事実が認められる。

(一) 本件分割協議書は、物件目録において分割の対象とすべき遺産を15項目にわたって掲げているが、価値的にみて圧倒的に重要なのは本件借地権のみであり、他は殆んど取るに足りない程度のものに過ぎないところ(甲32、36、乙5)、第3項において、俊輔が本件借地権及びその地上建物等を単独で取得する旨定め、第2項には、原告らその余の相続人は、電話加入権等若干の遺産を取得するほか、遺産に対するすべての権利を放棄するものとし、その代償として、俊輔が響子に1億5000万円、晃子に7000万円、秀明に7000万円、美子に9000万円をそれぞれ支払う旨の規定がある(乙2)。

したがって、これらの規定だけを取り上げ、その文理を重視すれば、本件共同相続人らは、一見代償分割をしたかのように考えられる。

(二) また、本件分割協議に至る経過につき、次の事実を認めることができる。

俊輔は、昭和54年6月12日に、本件遺産分割の家事調停を申し立てた。調停においては遺産の範囲が争点となり、原告が、△△及び○○の物件並びに○○医療機器株式会社及び△△医料器械株式会社名義の財産はすべて遺産であり、相続分に応じて取得する権利があると主張したのに対し、秀明は、同人の名義になっている△△の物件を自分のものであると主張し、俊輔も、○○の物件及び前記各会社名義の財産は遺産でないと主張した。そして、分割方法につき実質的な協議が進まないうちに、知人である川崎春夫及び川崎祐介から解決に尽力する旨の申出があって、昭和56年5月27日、俊輔は右調停を取り下げた。調停取下げ後は、川崎祐介らを中心に話が進められた。俊輔は、孝夫から経営を引き継いだ前記各会社の整理等のため、早急に協議を成立させる必要があり、原告も先行きのことを考え、一定額の金銭を取得することで、これに結着をつける気になった。秀明も、△△の物件を確保できることを前提に、俊輔に協力することになり、本件借地権を売却してその代金を分配することを基本に、話は急速に進んだ。

この間、原告の代理人として○○弁護士、秀明の代理人として○△弁護士、美子の代理人として△○弁護士が協議に関与し、原告が手取りで1億5000万円を確保することができるよう、譲渡所得税についても、抽象的ではあるが一応検討し、○△弁護士において、代償分割の趣旨で文案を考え、本件分割協議書を起案したうえ、川崎祐介らが持ち回りで相続人らから署名押印を得て、本件分割協議に至った(甲18ないし20、25、36、原告本人、証人中川常幸)。

3  しかしながら、他方において次の諸事実を指摘することができる。

(一) 昭和56年10月14日には、本件借地権を代金5億4000万円で○○不動産に譲渡する契約が締結された(争いがない。)。これは、共同相続人が本件分割協議書に署名、押印した日の2日後のことである。そして、売主側の仲介業者は、これより約半年前からこの取引に関与しており、○○不動産との交渉も同年8月から進められ、本件分割協議書が完成した時には、既に契約内容は、細部にわたって確定していた(甲36、乙5、7、8)。

(二) 本件分割協議書も、このような経過を踏まえて、俊輔は速やかに本件借地上の建物を収去したうえ、本件借地権を5億4000万円で他に売却するものとし、その代金を(1)借地権譲渡承諾料 4000万円、(2)不動産仲介手数料 1800万円、(3)建物占有者立退料及びその他の経費 3200万円以上合計9000万円と、原告らに対する代償金合計3億8000万円の支払に当て、残額7000万円は俊輔が取得するものとして(第4項)、譲渡代金5億4000万円の分配方法を定め、原告らに対する支払は、本件借地権を売却して、その代金入金後速やかに持参又は送金して行う(第2項)旨規定している(乙2)。

もっとも、実際には、原告が現金と引換えでなければ本件分割協議書に署名押印をしないと言い出したため、本件分割協議書が完成した同年10月12日に、仲に入った川崎祐介が一時立て替えて右金員を支払ったが、その後、同人は譲渡代金の中から同額の補填を受けている(甲20、21の1.2、25、乙5、原告本人)。

(三) 以上のように、本件借地権については、遺産分割の協議と並行して売買交渉が進められ、協議成立の直後に売却されることが決定されていたのであって、俊輔がこれを実際に利用することは予定されておらず、また、同人にこれを単独で取得しなければならない、ないしは取得するのを相当とするような積極的な理由も見当らない。

(四) 本件分割協議に至るまでの過程において、前記2(二)記載のような側面があったことは事実であるが、他方、本件借地権を5億4000万円で譲渡した場合、これにかかる所得税は概算で2億円であり、これに地方税も合算すると、約2億6000万円にのぼるところ(乙5、6)、俊輔が本件遺産分割で実質的に取得するのは7000万円に過ぎないから、同人が右所得税等を全額負担することになれば、所得税だけを考えても1億3000万円、地方税も含めれば2億円近い持ち出しになる。しかるに、本件分割協議書は、右所得税等の負担につき全く言及するところがない。かかる事実に乙5(大渕俊輔の聴取書)を考え併せれば、本件分割協議書にいうところの代償金を受領する側の代理人らが、右譲渡所得税等を俊輔ひとりに負担させるべく、代償分割を意図していたとしても、これを肝心の後輔に説明し、その納得を得たものとは到底認めることができず、これに反する証拠(乙6、中川証言)は信用できない。

(五) それにもかかわらず、俊輔が本件借地権を単独で取得したことにし、同人ひとりの名義でこれを売却したのは、買主である○○不動産から、売買契約の締結及びその履行の便宜のために、そうすることを要請されたからに過ぎない(甲32、乙5、6、8)。

(六) 俊輔は、孝夫死亡による相続につき共同相続人全員の相続税を納付していたから、本件分割協議により、同人が本件借地権譲渡に伴う公租公課を全額負担するのに対し、原告らが手取りで本件分割協議書所定の額の金銭を取得することになれば、当然これに関連して、相続税の負担についても、改めて共同相続人間で協議がなされて然るべきところ、かかる協議がなされた事実はない(乙5、6)。

(七) 原告は、本件分割協議書添付の物件目録に示されたもの以外にも他の相続人名義になっている遺産があったこと、ないしは他の相続人には具体的相続分の算定上持ち戻すべき特別受益があったことが考慮され、それとの関連で、右所得税等は全額俊輔が負担することになった旨主張し、それに沿う証拠もあるが、既に説示したとおり、本件借地権の譲渡にかかる所得税等の負担につき、俊輔との間で実質的協議はなされておらず、また、相続人名義になっていながら実質的には遺産であると争われたものは、俊輔名義のものだけに限らないから、原告の右主張も採用することは困難である。さらには、原告以外の相続人に特別受益があったとしても、分割の対象とすべき遺産の範囲が右物件目録記載のものに限られるとすれば、本件借地権の譲渡代金5億4000万円がら譲渡費用9000万円と譲渡所得税等2億6000万円の合計額を控除すると、共同相続人が実質的に取得しうる財産は、全体で1億9000万円に過ぎないことになるところ、原告と美子の取得額だけでも合計で2億4000万円にのぼり、右金額を超過することになるのであって、この点も看過することはできない。

4  右3の各事実に基づき、俊輔が本件分割協議に際してなした意思表示を合理的に解釈すれば、前記2の各事実の存在にもかかわらず、それは、単に内心的な効果意思のレべルにおいてのみならず、表示行為の客観的な意義においても、俊輔が遺産たる本件借地権を単独で取得し、その代わりに、他の共同相続人に対して代償金支払債務を負担するというものではなく、遺産共有の状態にある本件借地権を換価して、その代金を共同相続人間で分割するという趣旨のものであると解するのが相当である。

そうすると、本件分割協議における原告や秀明及び美子の意思表示が代償分割の趣旨のものであるとすれば、関係者は全員本件分割協議が成立したと認識しているにもかかわらず、結局協議は成立していない(いわゆる無意識の不合意)といわざるをえず、また、同人らの意思表示が客観的には換価分割の趣旨に理解できるのであれば、錯誤による無効が問題になりえよう。

しかしながら、いずれにしても、代償分割の合意が有効に成立していない限り、換価分割の合意が有効に成立した場合は勿論、遺産分割協議が不成立ないし無効の場合においても、本件借地権が遺産共有の状態で譲渡されたことに変りはない。そして、本件借地権の譲渡による所得は、本件分割協議により換価分割の各意が有効に成立したのであれば、それが定める配分額に応じて、遺産分割協議が不成立ないし無効であれば、法定相続分に応じて、それぞれ各相続人に帰属するものというべきである。

第四本件処分の根拠等

一  本件決定の根拠及び適法性

1  本件決定の根拠

(一) 総収入金額 1億8000万円

本件借地権の譲渡代金5億4000万円に、本件分割協議に基づいて共同相続人に配分されるべき金額の合計額4億5000万円(譲渡代金5億4000万円から後記(三)の譲渡費用の額9000万円を控除した額)に占める原告に配分されるべき金額1億5000万円の割合、あるいは、原告の法定相続分の割合を乗じて計算したものである。

(二) 取得費の額 900万円

措置法31条4第1項本文の規定に基づき、総収入金額1億8000万円に100分の5の割合を乗じて算出した額である。

(三) 譲渡費用の額 3000万円

借地権譲渡承諾料4000万円、不動産仲介手数料1800万円、建物占有者立退料及びその他の費用3200万円の合計9000万円(乙2)に前記(一)の割合を乗じて計算したものである。

(四) 分離課税の長期譲渡所得金額 1億4000万円

前記(一)の総収入金額から、前記(二)取得費の額、前記(三)の譲渡費用の額及び措置法31条4項に規定する長期譲渡所得の特別控除額100万円を控除したものである。

(五) 所得控除額 29万円

基礎控除額である。

(六) 課税長期譲渡所得の金額 1億3971万円

右(四)から(五)を控除した金額である。

(七) 算出税額 5008万6500円

措置法31条1項3号(昭和57年法律第8号による改正前のもの)及び措置法施行令20条3項(昭和57年政令第72号による改正前のもの)に基づき計算したものである。

2  本件決定の適法性

被告が本訴において主張する原告の分離課税の長期譲渡所得の金額は、前記1(四)のとおり1億4000万円であり、これは、本件決定による分離課税の長期譲渡所得の金額と同額であるから、本件決定は適法である。

二  本件賦課決定の根拠及び適法性について

原告は、本件決定により納付すべき税額について確定申告書を提出せず(争いがない。)、かつ、このことについて通則法66条1項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同項の規定に基づき、納付すべき税額(同法118条3項により1万円未満の端数を切捨てた金額)5008万円に100分の10を乗じて得た金額である500万8000円を賦課決定したものである。したがって、本件賦課決定は適法である。

(裁判長裁判官 佐久間重吉 裁判官 辻次郎 伊藤敏孝)

別紙 課税の経緯<省略>

〔参考〕 控訴審(東京高 平3(行コ)132号 平4.7.27判決)

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一 控訴の趣旨

1 原判決を取り消す。

2 被控訴人が控訴人に対して昭和62年3月12日付でした昭和56年分所得税の決定処分及び無申告加算税の賦課決定処分を取り消す。

3 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二 控訴の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

当事者の主張は、次のとおり付加するほか、原判決「事実及び理由第二 事案の概要」欄記載のとおりであるから、これを引用する。

一 控訴人

原審において、原判決記載のとおり、被控訴人は本件分割協議は換価分割であると主張し、控訴人は代償分割であると主張した。しかるに、原判決は当事者の主張していない「代償分割の合意の不成立」という事実を認定して判決の基礎としており、右は弁論主義違反である。

二 被控訴人

仮に本件分割協議における控訴人の意思が代償分割であるとすれば、協議は無効または不成立と解すべきこととなって、本件借地権は遺産共有状態で譲渡されたというべきであるから、俊輔単独所有の状態で本件借地権が譲渡されたものでないことは明らかであって、本件決定処分は適法である。

第三証拠

証拠関係は、原審記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一 当裁判所の判断は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決「事実及び理由第三 争点に対する判断」欄の説示と同一であるから、これを引用する。

1 原判決26枚目表7行目の「課税庁の不手際によって」を「課税庁が所得税等の決定通知書を郵便により発送したが、その到達が遅れたため」と訂正する。

2 同21枚目裏11行目から22枚目表1行目及び28枚目表11行目の「医療機器株式会社及び△△医科器械株式会社」を「医療器株式会社及び△△医科器械工業株式会社」と訂正する。

3 同29枚目表11行目の「代償分割の趣旨で」を「俊輔が本件借地権を単独で取得し、控訴人は代償金を取得する旨の」と訂正する。

4 同30枚目表4行目の「このような経過を踏まえて」の次に「俊輔、秀明及び晃子の登記名義になっている○○、△△の各物件は各名義人の所有とし、遺産分割の対象から外し、残った主たる遺産である本件借地権について、」を加える。

5 同31枚目表5行目の「同人にこれを」から同7行目末尾までを次のとおり訂正する。

「当時、同人はその経営していた前記○○医療器や△△医科器械工業が倒産し、多額の負債を抱えており、資金を必要としていたところ(甲36)、次に認定するように、もし同人が本件借地権を単独相続して直ちにこれを売却し、他の相続人に約束の「代償金」を支払うとすれば、びとり多額の税金を支払うだけの結果となるにもかかわらず、あえて同人がこのような方法を選択したことを首肯するに足りるだけの理由も見当たらない。」

6 同枚目裏6行目の「しかるに」から同7行目の「言及するところがない。」までを「秀明に支払われるべき7000万円は、実質上俊補が取得することになっていた(甲32)としても、なおかなりの持ち出しになる。ところが本件分割協議に際し、右俊輔の負担すべき税額がいくらになるかを具体的に話し合ったことはないし(乙6)、もし俊輔に右のような多額の税金を負担させるだけの結果となるような合意をしたのなら、後の争いを防ぐ目的で念のためなんらかの形で書面化するはずのところ、本件分割協議書は、右につき全く言及するところがない。」と訂正し、同10行目の「右譲渡所得税等」から同11行目の「いたとしても」までを「右譲渡所得税等を俊輔一人に負担させようと考えていたとしても」と訂正する。

7 同33枚目表4行目から5行目にかけての「限らない」の次に、「(即ち、俊輔登記名義の○○の物件は時価合計5600万円、晃子登記名義の○○の物件は時価合計9800万円、秀明登記名義の△△の物件は時価合計3億8900万円であるから(甲27ないし29)、秀明らも当然前記所得税を負担するはずである。)」を加え、同枚目裏5行目冒頭から同34枚目裏8行目末尾までを次のとおり訂正する。

「4結局、右各事実を総合すると、本件分割協議においては、○○及び△△の各物件は各登記名義人の所有とし、残った遺産(主たるものは本件借地権のみ)を分割することにしたこと、本件借地権については、本件分割協議が成立した時、既に○○不動産を買主として売却の合意が事実上成立していたものとみられ、○○不動産から譲渡人は単独名義にするよう要望があったので、形式上俊輔が単独相続したことにし、その代金から必要経費等を差し引いた額を代償金の名目で各相続人に分配することにしたこと、控訴人に支払われた1億5000万円は右の売却代金額に基づいて決定され、分割協議書作成と同時に控訴人に支払われていることを考え合わせると、本件分割協議は、分割協議書の文言にかかわらず、既に売却が決定していた本件借地権の代価を分割する趣旨でなされた実質上換価分割であるとするのが相当である。」

8 同35枚目裏9行目の「31条4項」を「31条2項(昭和57年法律第8号による改正前のもの)」と訂正する。

9 (当審における主張に対する判断)

控訴人は、「原判決は、「代償分割の合意が有効に成立していない」という事実を認定して判決の基礎としているが、右事実はいずれの当事者も主張しておらず、原判決の認定は弁論主義違反である。」旨主張する。

しかしながら、原判決は単に代償分割の合意が有効に成立していないことを判決の基礎としたのではなく、俊輔の意思は確定的に換価分割であり、代償分割ではないから、本件遺産分割協議は代償分割ではありえないとし、控訴人、秀明、晃子及び美子の意思が俊輔の意思と合致しているなら換価分割の合意が成立しており、仮に意思の合致がないとしても本件借地権が共有状態で譲渡されたことになり、俊輔が単独取得したうえ譲渡したことにならないとしているのであるから、弁論主義違反はない(なお、被控訴人は当審において右原判決と同趣旨の主張を追加している。)。

二 以上によれば、控訴人の請求を棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法95条、89条を適用して主文のとおり判決する。

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