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横浜地方裁判所 昭和62年(行ウ)9号 判決 1991年6月12日

川崎市幸区南幸町三丁目九七番地

原告

川崎物産株式会社

右代表者代表取締役

坂本正憲

右訴訟代理人弁護士

若新光紀

川崎市川崎区榎町三丁目一八番地

被告

川崎南税務署長 武田正己

右指定代理人

若狭勝

小野雅也

津久井宏

宮路正子

原敏之

毛利深雪

田中偉嘉

吉田良一

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一原告の請求

被告が昭和五九年一二月二六日付けでした原告の昭和五七年五月一日から昭和五八年四月三〇日までの事業年度分の法人税の更正のうち所得金額七八六万四三二六円、納付すべき法人税額二〇九万四二〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定を取り消す。

第二事案の概要

本件は、原告がその所得金額に加算された土地売却利益の計上もれの額を争い、更正及び過少申告加算税賦課決定の取消を求めた事案である。

一  本件処分等の経緯(争いがない。)

原告の昭和五七年五月一日から昭和五八年四月三〇日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税についての確定申告及び被告の本件処分等の経緯は、別表一のとおりである(以下、被告の更正を「本件更正」、過少申告加算税の賦課決定を「本件賦課決定」といい、両者をあわせて「本件処分」という。)。

審査請求に対する棄却裁決書は、昭和六二年四月一〇日、原告に送達された。

二  本件処分の根拠に関する被告の主張

1  原告の本件事業年度における所得金額 一億六一〇八万三一九四円

原告の申告所得金額七八六万四三二六円に土地売却益計上もれ額一億五三八一万一九九五円を加算し、減価償却費認容額二〇万四八五七円及び一般管理費認容額三八万八二七〇円を控除した額である。

(一) 申告所得金額 七八六万四三二六円(争いがない。)

原告の本件事業年度の確定申告書記載の金額である。

(二) 土地売却益計上もれ額 一億五三八一万一九九五円

(1) 本件において売却益計上もれが問題とされている土地は、横浜市鶴見区東寺尾東台一一二七番の五の宅地(以下「一一二七の五」といい、同所の土地は地番のみを同様の方法で示す。)であり、その分筆の経緯等は以下のとおりである(乙一ないし五)。

<1> 一一二七の五(三〇五七・八三平方メートル)は、昭和五六年一〇月七日、同五(三七六・四〇平方メートル、のちに四二九・一七平方メートルに訂正された。)、同一六(一八〇〇・七八平方メートル)及び同一七(八八〇・六五平方メートル)に分筆された。

<2> 一一二七の一六(一八〇〇・七八平方メートル)は、昭和五七年四月一九日、同一六(一七三〇・二三平方メートル)及び同一八(七〇・五五平方メートル)に分筆された。

<3> 一一二七の五(四二九・一七平方メートル)は、昭和五七年九月一六日、同五(三七三・〇二平方メートル)及び同一九(五六・一四平方メートル)に分筆された。

(2) 原告は、昭和五七年五月一五日、原告代表者坂本正憲から、一一二七の五、同一六、同一七及び同一八の土地三一一〇・六〇平方メートル(いずれも昭和五七年五月一五日当時の地番である。以下「本件土地」という。)を代金二億七八〇〇万円で買入れ(以下「本件土地の取得」あるいは「本件買入れ」という。)、同日、山口岑芳外四名(以下「山口ら」という。)に対し、本件土地のうち一一二七の一六の宅地一七三〇・二三平方メートル(以下「本件売却土地」といい、残りの土地を「本件残土地」という。)を、代金四億四八〇〇万円で売却した(以下「本件売却」という。)(本件買入れの日付の点を除き、争いがない。ただし、原告の主張する本件買入れの日は、昭和四五年七月二〇日であるから、原告主張の本件買入れ対象土地は、分筆前の一一二七の五を意味することになる。)。

(3) 本件売却による利益は、売却収入四億四八〇〇万円(争いがない。)から、譲渡原価二億一五七〇万三三四〇円(本件売却土地の取得費一億六七六七万五二一九円と造成費等四八〇二万八一二一円の合計)を控除した二億三二二九万六六六〇円であり、原告の計上もれ額は一億五三八一万一九九五円である。その内訳等は別表二のとおりである。

<1> 本件売却土地の取得費 一億六七六八万五二一九円

本件売却土地の取得費は、原告が本件土地を取得した昭和五九年当時における相続税評価額を基準として、本件土地の評価額に占める本件売却土地の評価額の割合を、現実の本件土地の取得費に乗じて算出した額である。すなわち、被告は、相続税財産評価に関する基本通達(国税庁長官発遣昭和三九年四月二五日付け直資五六号ほか。以下「評価通達」という。)及びこれに基づき東京国税局長が定めた昭和五七年分相続税財産評価基準評価倍率表(以下「評価基準」という。)により、奥行価格逓減率(評価通達一五)を適用して本件売却土地の取得費を算出したものである(評価通達によって本件売却土地の取得費が算出されたことについては争いがない。なお、評価額算定方法について後記四2(二))。

イ 本件土地の評価額 二億五、五五九万八〇〇二円

九万九〇〇〇円(路線価)×〇・八三(奥行価格逓減率)×三一一〇・六〇平方メートル(面積)=二億五五五九万八〇〇二円

ロ 本件売却土地の評価額 一億五四一六万三四九三円

九万九〇〇〇円(路線価)×〇・九〇(奥行価格逓減率)×一七三〇・二三平方メートル(面積)=一億五四一六万三四九三円

ハ 本件土地の取得費 二億七八〇〇万円(争いがない。)

ニ 本件売却土地の取得費 一億六七六七万五二一九円

二億七八〇〇万円×一億五四一六万三四九三円÷二億五五五九万八〇〇二円=一億六七六七万五二一九円

<2> 造成費等 四八〇二万八一二一円

イ 佐伯建設工業株式会社に係るもの 四七八〇万八一八〇円

原告は、佐伯建設工業株式会社に対し、造成工事代金八四〇〇万円を支払った(争いがない。)が、右造成工事は本件土地全体に係るものであるから、本件売却土地の造成費は、右支払金額を本件売却土地と本件残土地との面積に応じて按分計算した額である(この本件売却土地面積の本件土地面積に占める割合を「本件売却土地の面積割合」という。)

八四〇〇万×(支払額)×一七三〇・二三平方メートル(本件売却土地の面積)÷{一七三〇・二三平方メートル+一三〇九・八二平方メートル(本件残土地の面積)}=四七八〇万八一八〇円(ただし、本件売却土地の面積割合は、小数点以下第七位を四捨五入し〇・五六九一四五として計算した。)

ロ 創栄建設株式会社等に係るもの 〇円

原告が創栄建設株式会社、株式会社富士鋼材商会及び有限会社斉藤道路工業に支払った三五七万〇六一五円(その内訳、支払日等は別表三のとおりであり、この点について争いはない。)は本件売却土地の売却日(昭和五七年五月一五日)後に行われた、本件残土地の効用を高めるための工事に対するものであるから、本件売却土地の造成費用ではない。

ハ 横浜市水道局に係るもの 〇円

原告は、横浜市水道局に一〇七万九〇〇〇円を支払った(争いがない。)。これは本件土地に係る水道施設を設けるための支出であるが、施設利用権者は原告であるから、法人税法施行令一三条八号カに規定する減価償却資産である水道施設利用権に該当する(水道加入金一五万円を減価償却資産とすることに争いはない。)。したがって、右金額、本件売却土地の造成費等ではなく、うち六万六二六四円が減価償却費として認められるにすぎない(後記(三))。

ニ 山田建築測量事務所に係るもの 二一万九九四一円

原告は、山田建築測量事務所に対し、七二万一七二〇円を別表四記載の日に各支払っている(争いがない。)。

右金額のうち、二六万三四五〇円は、本件土地の地目変更、分筆測量等の代金であり(争いがない。)、本件土地全体に係る支出であることが明らかであるから、右金額に本件売却土地の面積割合を乗じて得た一四万九九四一円が本件売却土地の造成費等である(二六万三四五〇円×〇・五六九一四五=一四万九九四一円)。

七二万一七二〇円のうち、七万円は本件売却土地の造成費等である(争いがない。)。

七二万一七二〇円のうち、三八万八二七〇円は本件残土地の地積更正、分筆登記等の代金と認められるから、本件売却土地の造成費等にあたらず、一般管理費として損金に算入するのが相当である(争いがない。後記(四))。

したがって、山田建築測量事務所に係る本件売却土地の造成費等は一四万九九四一円と七万円の合計二一万九九四一円となる。

ホ 川本工業株式会社に係るもの 〇円(争いがない。)

原告が川本工業株式会社に対して支払った七四万円は、本件残土地に係る給排水管引込工事代であり、本件売却土地の造成費等にあたらず、四万三七八三円が減価償却費となる(後記(三))。

<3> 本件土地の管理費 〇円

原告は、岡武士に対し、昭和五〇年八月から昭和五七年五月までの間、同人のなした本件土地の管理等に対して謝礼金として五〇〇万円を支払ったとするが、原告が本件土地を取得した日は昭和五七年五月一五日であるから、それ以前の謝礼金は、前所有者である原告代表者が負担すべきものであり、五〇〇万円の支払があったとすれば、原告代表者に対する原告からの賞与である。

<4> 東急建設株式会社に対する金額 〇円(争いがない。)

原告は、東急建設株式会社に対する本件土地の造成工事の未払金四一五〇万円のうち、三三六九万八〇〇〇円を造成費として譲渡原価に算入したが、この工事は本件残土地に係るものであり、工事も未着手であるから、右金額は本件売却土地の譲渡原価にあたらない。

<5> 特定の資産の買換えによる圧縮損 〇円

原告は、本件買入れの日を昭和四五年七月二〇日であるとし、本件売却土地について、昭和五九年法律第六号による改正前の租税特別措置法(以下「措置法」という。)六五条の七(特定の資産の買換えの場合の課税の特例)の適用があるとして一四九七万円の圧縮損を計上したが、原告が本件土地を取得した日は昭和五七年五月一五日であるから、本件売却土地は、同条一項の表一四号上欄に掲げられている譲渡資産に該当せず、同条の規定の適用はないから、圧縮損の損金算入は認められない。九万四八一〇円が減価償却費となる(後記(三))。

(三) 減価償却費認容額 二〇万四八五七円

(二)<2>ハの横浜市水道局への支払額(水道施設利用権)一〇七万九〇〇〇円、同ホの川本工業株式会社への給排水管引込工事代金七四万円及び(二)<5>の圧縮損一四九七万円を本件売却土地の譲渡原価から除外し、減価償却資産の取得価額へ振り替えたことによるそれぞれの減価償却費(六万六二六四円、四万三七八三円及び九万四八一〇円)の合計額であり、その内訳及び計算内容は別表五のとおりである(水道施設利用権中四九五〇円および川本工業株式会社に係る四万三七八三円が減価償却費になることについては争いがない。)。

(四) 一般管理費認容額 三八万八二七〇円(争いがない。)

(二)<2>ニの山田建築測量事務所への支払額七二万一七二〇円のうち、三八万八二七〇円は本件残土地の地積更正、分筆登記等の代金であって、本件残土地を事業の用に供するために要した費用ではなく、一種の事後費用ないしは一般管理費と認められるので、これを一般管理費として損金の額に算入する。

2  課税土地譲渡利益金額 二億三〇四九万九一三三円

原告の本件土地の取得の日は、昭和五七年五月一五日であるから、本件売却土地は、措置法五二条二項の「短期所有土地等」に該当し、その課税土地譲渡利益金額は、二億三〇四九万九一三三円である。

(一) 譲渡による収益の額(別表二<1>) 四億四八〇〇万円(争いがない。)

(二) 本件売却土地の譲渡原価の額(別表<11>) 二億一五七〇万三三四〇円

(三) 法定の負債利子(措置法施行令三八条の四第六項一号) 一〇七万八五一六円

(四) 法定の販売費及び一般管理費(措置法施行令三八条の四第六項二号)七一万九〇一一円

(五) 課税土地譲渡利益金額((一)-(二)-(三)-(四)) 二億三〇四九万九一三三円

三  本件処分の根拠に関する原告の主張

1  原告の法人税申告の内容の詳細は別表六のとおりであるが、申告内容に一部誤りがあり、それを訂正して再計算したものが別表七である。

2  所得金額について

(一) 土地売却益計上もれ額について

(1) 本件土地の取得の日は、昭和四五年七月二〇日である。また、原告と山口らとの間の本件売却契約は昭和五七年四月五日に締結され、原告は、同日手付金として山口らから五〇〇〇万円を受領し、本件売却代金の残額三億九八〇〇万円は同年五月一五日に受領した(本件売却契約締結の日付、手付金五〇〇〇万円の受領及びその日付については争いがない。)。

(2) 本件売却土地の取得費 二億一五九七万一五七三円

昭和五七年五月一五日における本件売却土地の時価と本件残土地との時価(推定)により按分計算して算出すべきである(ただし、本件売却後に行われた創栄建設株式会社、株式会社富士鋼材商会、有限会社斉藤道路工業の工事終了の時価とする。)。

<1> 本件売却土地の時価 四億四八〇〇万円

<2> 本件残土地の時価 一億二八六六万八四八五円

<3> 本件土地の時価 五億七六六六万八四八五円

<4> 本件売却土地の取得費

一億七八〇〇万×(本件土地の取得費)×四億四八〇〇万÷五億七六六六万八四八五円=二億一五九七万一五七三円

(四億四八〇〇万円÷五億七六六六万八四八五円によって計算される値約〇・七七六八七六を以下「本件売却土地の時価割合」という。)

(3) 造成費等

(2)と同様に時価を基準として按分すべきである。

<1> 佐伯建設工業株式会社に係るもの 六五二五万七五九八円

八四〇〇万円(支払額)×本件売却土地の時価割合=六五二五万七五九八円

<2> 創栄建設株式会社等に係るもの 二七七万三九二六円

イ 創栄建設株式会社 一六三万一四四〇円

二一〇万円×本件売却土地の時価割合=一六三万一四四〇円

ロ 株式会社富士鋼材商会 三〇万四一五九円

三九万一五一五円×本件売却土地の時価割合=三〇万四一五九円

ハ 有限会社斉藤道路工業 八三万八三二七円

一〇七万九一〇〇円×本件売却土地の時価割合=八三万八三二七円

<3> 横浜市水道局に係るもの 七二万一七一八円

これに対する支出一〇七万九〇〇〇円のうち九二万九〇〇〇円は、本件土地から発生する下水を公共下水道に流すために横浜市が行う下水道事業費の負担額であるから、(2)と同様、時価を基準に按分し、本件売却土地に係る金額七二万一七一八円は造成費等に算入し、本件残土地に係る金額二〇万七二八二円は、水道加入金一五万円とあわせて水道施設利用権の金額として原価売却費相当額が損金として認容されるべきである。

イ 本件売却土地に係る金額

九二万九〇〇〇円×本件売却土地の時価割合=七二万一七一八円

ロ 本件残土地に係る金額

九二万九〇〇〇円-七二万一七一八円=二〇万七二八二円

ハ 水道施設利用権の金額

二〇万七二八二円+一五万円=三五万七二八二円

<4> 山田建築測量事務所に係るもの 二七万四六六八円

これに対する七二万一七二〇円の支払金額のうち二六万三四五〇円については、(2)と同様、時価を基準に按分すべきであり、本件売却土地に係る金額二〇万四六六八円が造成費等である(二六万三四五〇円×本件売却土地の時価割合=二〇万四六六八円)。

したがって、山田建築測量事務所に係る本件売却土地の造成費等は二〇万四六六八円と七万円(七万円については争いがない。)の合計二七万四六六八円となる。

(4) 本件土地の管理費 五〇〇万円

原告が岡武士に対して支払った五〇〇万円は、本件土地の保全管理費であり、本件土地の所有権者である原告が負担すべきものである。

(5) 特定の資産の買換えによる圧縮損 一四九七万円

本件土地の取得の日は昭和四五年七月二〇日であるから、措置法六五条の七第一項の規定により、圧縮損一四九七万円の損金算入が認められる。

(二) 減価償却費認容額 六万二四一三円

横浜市水道局への支払額三五万七二八二円、川本工業株式会社への工事代金七四万円を本件売却土地の譲渡原価から除外し、減価償却資産の取得価額へ振り替えたことによるそれぞれの減価償却費(一万八六三〇円、四万三七八三円)の合計額であり、その内訳及び計算内容は別表八のとおりである。

3  課税土地譲渡利益金額 〇円

本件土地の取得の日は、昭和四五年七月二〇日であるから、本件売却土地は、措置法六三条二項の「短期所有土地等」に該当せず、課税土地譲渡利益金額はない。

4  よって、原告の再計算による納付すべき法人税額は、別表九A欄<8>の二六九〇万三六〇〇円であり、本件更正は七三八四万三九〇〇円で過大である。

四  争点

1  本件の争点は、(1)本件土地の取得の日が昭和五七年五月一五日か昭和四五年七月二〇日か、(2)本件売却土地の取得費を本件土地の取得費から按分計算するに当り、本件売却土地の本件土地に占める割合を、相続税評価額を用いて算出するか時価を用いて算出するか、(3)本件売却土地の造成費等の計算に当たり、本件売却土地の面積割合を用いるか本件売却土地の時価割合を用いるかである。

2  争点に関する被告の主張

(一) 本件土地の取得の日について

本件土地の取得の日は昭和五七年五月一五日であり、その根拠は以下のとおりである。

(1) 一般的に売買による固定資産取得の日は、当該固定資産の引渡しを受けた日と解されている。そして、引渡しがあったかどうかの判断は、当該固定資産に対する現実の支配が譲受人へ移転したと認められる事実があるかどうかに基づいて行うべきである。そのためには、譲受人から譲渡人に売買代金の全部又は一部が支払われたか、譲渡人から譲受人に対して登記関係書類が交付されたか、譲渡人と譲受人の確定申告の内容などを総合して合理的に判断すべきである。

(2) 本件土地取引の経過は別図一のとおりであるが、原告と原告代表者との間で本件買入れ代金が最終的に確定したのは昭和五七年五月一三日であり、右売買代金は、同年四月五日に五〇〇〇万円、同年五月一五日に二億二八〇〇万円がそれぞれ支払われている。

(3) 原告は、本件買入れの日であると主張する昭和四五年七月二〇日を含む事業年度以降のいずれの事業年度の確定した決算及び確定申告においても、本件土地を資産として計上したことはなく、本件売却があった本件事業年度の確定申告において初めて本件残土地を資産に計上した。

(4) 原告は、昭和五五年五月一日から昭和四五年四月三〇日までの事業年度及び昭和五六年五月一日から昭和五七年四月三〇日までの事業年度の法人税の確定申告書において、本件土地に係る賃借料として、月額一〇万円を原告代表者に支払った旨記載し、これを損金経理している。

他方、原告代表者は、受領した右賃貸料を不動産所得として所得税の確定申告をしている。

(5) 本件土地を原告に譲渡した原告代表者は、右譲渡に係る譲渡所得について、昭和四五年分以降のいずれの年分においても所得税の確定申告をしていない。被告は、右譲渡に関し、原告代表者に対して、昭和五七年分の所得税の更正及び過少申告加算税の賦課決定をしたが、原告代表者は、右各処分につき、異議申立て及び審査請求を行ったものの訴訟では争わず、右各処分は確定している。

(二) 本件売却土地の取得費について

(1) 本件土地等の状況について

本件土地は別図二AないしDであり、本件売却土地はB、本件残土地はA、C及びDである(争いがない。)。

(2) 按分方法に関する基本的な考え方

本件売却土地と本件残土地のように、分割譲渡した土地部分とそれ以外の部分を対比したところ、その奥行、形状等から譲渡時の取引価格に差異が生じると懸念されるような場合、単純に面積割合で按分計算すると、納税者が課税上不利益な扱いを受けたという感情を抱く事態が生じうる。そこで、納税者の利益を図るという観点から、原告が本件土地を取得した時点における評価額を基準とし、右評価額に占める本件売却土地の評価額を本件土地の取得価額に乗ずる方法によって本件売却土地の取得費を算出するのがより妥当である。

また、本件においては面積割合で按分しても不合理ではないが、評価額の割合で按分したほうが原告にとって有利である。

(3) 本件土地等の評価

<1> 評価通達に定める土地の基本的な評価方法は以下のとおりである。

イ 整形地(評価通達一三ないし一五)

路線価(正面路線価)×奥行価格逓減率×土地の面積=評価額

ロ 不整形地(評価通達二〇の(1))

路面価(正面路線価)×奥行価格逓減率×土地の面積×(1-不整形地としての控除割合)=評価額

<2> 本件土地及び本件売却土地はいずれも不整形地であるが、被告は、両土地の評価に際して不整形地補正を行わず、評価通達一五に定める奥行価格逓減率のみを適用して、本件土地等の相続税評価額を算出した。

これは、両土地のそれぞれの形状などからみて、その不整形の程度に明らかな開差があると認められず、本件に用いた相続税評価額の算定が本件土地の取得費を本件売却土地に配分する際の基準とするためのものである点も考慮すれば、両土地の価格差は、両土地の国道との関係におけるその位置の差についてのみ斟酌すれば足りると解されるからである。

本件土地及び本件売却土地の相続税評価額は、二1(二)(3)<1>のとおりである。

<3> 本件売却土地と本件残土地とを不整形地補正をしたうえ個別的に評価し、両者の合計額に占める本件売却土地の評価額の割合によって算出する方法も考えられるが、その場合も本件処分の範囲内である。

(三) 造成費等の計算について

佐伯建設工業株式会社が行った造成工事は、本件土地のうち横浜市から開発許可を受けた二八四二平方メートルについて行われたものであり、その主たる工事内容は、土留よう壁工事及び間知ブロック積工事であり、これらは本件土地を宅地として開発するため、本件売却土地と本件残土地の全体にまたがり施行されたものである。したがって、被告は面積比によって按分したのである。

山田建築測量事務所に係るものについても、地目変更、分筆測量代金が本件土地全体に係る支出であることから、面積比によって計算したものである。

3  争点に関する原告の主張

(一) 本件土地の取得の日について

(1) 原告が昭和五五年五月から昭和五七年四月まで本件土地の賃借料月額一〇万円を原告代表者に支払ったとする点は、原告代表者が立て替えた本件土地の固定資産税と、原告代表者から借りている川崎市幸区南幸町の土地の賃借料と金額が同一だったために生じた事務上のミスである。

原告は、翌昭和五六年度の確定申告に際し、右誤りを訂正した。

(2) 以下の事実によれば、本件土地の取得の日は昭和四五年七月二〇日であるというべきである。

<1> 原告は、昭和四五年七月二〇日に取締役会を開催し、本件土地の取得を承認する決議をした。

<2> 昭和四六年一〇月一三日、原告は、日之出工業株式会社と本件土地の造成工事の請負契約を締結し、大型自動車の出入りのため歩道の切り下げ工事を施行させ、着手金、工事代金を支払った。

また、昭和四七年五月、原告を施工主とする開発行為申請、造成工事申請を行い、同年一〇月一一日付けで横浜市長より許可通知を受けたが、この造成許可通知及び開発許可通知添付の公図写には、土地の所有者として原告の社名の記載がある。

<3> 原告は、当初、本件土地を諸材料、商品等の格納場及び駐車場として使用していたが、昭和四九年一〇月ころから昭和五五年九月ころまで賃貸駐車場(賃貸車庫)を経営し、約四三〇万円の収益をあげ、これをその都度原告の収益として計上した。その際の自動車保管場所(車庫)賃貸借契約書には、本件土地の所有者が原告であることが明記されている。

<4> 昭和四九年七月二〇日、取締役会の決議を経て、本件土地の取得に係る売買契約を更新し、契約書及び取締役会議事録に昭和五〇年一二月二五日の確定日付を得、同年一一月一日、本件土地につき、原告を権利者とする所有権移転請求権仮登記をした。

その後、売買代金の支払が遅延していること及び地価が高騰していることから、昭和五〇年一二月三〇日、取締役会を開催して、売買代金を二億五三〇〇万円に増額変更する決議を行った。

<5> 昭和五〇年一一月ころから昭和五五年九月ころまで、原告は本件土地を川崎物産二反田倉庫として使用し、電気の供給を受け、電気料金を支払っていた。

<6> 昭和五二年九月ころ、原告は、本件土地の国道に面する部分を利用してガソリンスタンドを経営することを計画していた。

<7> 昭和五五年九月八日、原告は、本件土地を造成するために佐伯建設工業株式会社と請負契約を締結し、請負代金、公共下水道事業費の負担金、造成工事に関する一切に支払金などは、本件土地を担保に大和銀行横浜支店から融資を受けて支払った。

大和銀行横浜支店は、本件土地の調査を行い、本件土地が原告の所有である旨の調査報告を行っている。

<8> 被告の主張によると、原告代表者は、昭和五七年四月五に本件売却土地を四億四八〇〇万円で山口らに売却し、その後である同月一五日にこれをより低価の二億七八〇〇万円で原告に売却したことになり、説明がつかない。

(二) 被告による本件売却土地の取得費の算定について

(1) 被告は、本件売却土地の取得費の算定に当たり、評価通達の評価額を基準としているが、評価通達の計算要素自体に正当性が認められない。

すなわち、路線価は時価と大きくかけ離れており、不整形地控除割合には客観的な基準がなく、評価計算を行う者の主観によって大きく変動する。よって、相続財産評価額にしたがって本件売却土地と本件残土地との取得費を按分することは不合理である。法人税法においてこの基準を採用することが認められるのは、課税上弊害がないと認められる場合に限られており(法人税法基本通達九-一-一五)、本件はその場合に当たらないから、当時の時価を基準とすべきである。

(2) また、本件残土地は、建物の建築が不可能であり、有効利用面積の極めて少ない不整形地である。すなわち、本件残土地のうち有効に活用できる土地は、一一二七の一七(別図二C)であり、その余の土地は公道に至る通路となるべきものであるが、その通路となるべき部分も傾斜角度のついた災害予防用の法面であり、通路として使用できないものであるから、一一二七の一七の土地は宅地として使用できず、固定資産課税台帳にも雑種地として評価登録されている。

さらに平成二年度固定資産課税台帳によれば、本件土地の価額は、本件売却土地が一億二七九四万五三一七円、本件残土地の一一二七の五が二六九万四六一六円、同一七が二九〇七万二〇一七円、同一八が五五万四五二三円である。

このように本件残土地の使用目的は極端な制限を受け、その価値は著しく減少している。この点が按分において十分考慮されておらず、課税に弊害を生ずるものである。不整形の程度の差を認めずにされた被告の計算は、評価通達にすら従っていない。

(3) 評価通達に法規性はなく、本件売却土地と本件残土地との価格差を正しく算出できない評価方法であるから、これを採用した被告の計算は誤りである。

4  争点に関する原告の主張に対する被告の反論

(一) 本件土地の取得の日について

(1) 原告の主張によれば、昭和四五年七月二〇付け売買契約に係る売買代金の変更は二度行われ、最終的な確定は昭和五七年五月一三日である。しかし、契約内容の主要部分である売買代金が確定する前に権利の移転があるとは考え難い。したがって、昭和四五年七月二〇日に行われた取締役会の決議、昭和四九年七月二〇日の契約内容の変更、昭和五〇年一二月三〇日の契約金額の変更などは、売買の交渉あるいは予約を行ったものにすぎない。

(2) また、原告の主張に従えば、昭和四五年七月二〇日の契約時には二億〇三〇〇万円だった売買代金が、昭和五七年五月一五日の残代金支払いの時点では二億七八〇〇万円となり、七五〇〇万円も増加している。このような大幅な代金増加は、本件土地に対する現実の支配が昭和四五年七月二〇日の時点では買主に移転していないことを意味する。

(3) 原告は本件土地の造成等を行っていたが、これは、原告が本件土地について造成行為をなすことを、原告代表者が許容していたものにすぎない。

また、原告の昭和四七年五月二八日付け開発行為施工同意書(乙一一)によれば、原告は、岡武士(本件土地の登記簿上の名義人で原告の社員)を所有者と記載している。なお、開発許可申請者や開発行為に関する工事の施行者が土地の所有者であるとは限らない。

(4) 原告が本件土地を駐車場として貸した際の賃貸借契約書に、原告が保管場所の所有者である旨の記載があったとしても、本件のように同族会社とその代表取締役との間では、会社が代表者の固定資産を有償あるいは無償で使用し、あるいは第三者に貸し付けて収益を得ることはありうることであり、第三者との契約書上はどのように表示することも可能な状況にあるというべきであるから、右契約書上の文言から原告が本件土地の所有者であるとはいえない。

(5) 原告が本件土地を担保に差し入れたとしても、会社が金融機関から融資を受ける際、その代表者所有の土地を担保に供することはありうることであるから、これをもって本件土地の所有者が原告であるということにはならない。

(6) 本件土地の取得と本件売却とが同日であるのに売買代金に差があるのは、原告代表者が本件売却による収益の一部及び本件残土地を自己が主宰する法人に配分した結果であると考えられる。

(二) 本件売却土地の取得費の算出等について

(1) 本件売却土地の取得費を算出する方法はいくつかあるが、課税庁がいずれを選択しても裁量権を逸脱したと評価されるほど不合理なものはない。

(2) 本件売却土地の取得費の算定は、本件土地を原告が取得した時点における合理的な評価方法によってなされるべきであるから、佐伯建設工業株式会社、創栄建設株式会社及び有限会社斉藤道路工業の造成工事が行われたのちの土地の時価によって按分すべきであるという原告の主張は失当である。

また、原告が主張する本件残土地の時価は何に基づく価額であるか明らかではない。

(3) 本件土地はもともと一筆の土地であり、これをどのように効率的に分割、売却してより大きな収益を得るかは原告の任意に選択できるところであり、その分割、売却の結果、後日売却土地と残土地とで価格的に著しい開差が生じたとしても、その結果は原告において甘受すべきである。

第三争点に対する判断

一  本件土地の取得の日について(争点(1))

1  本件土地の取得の日がいつかを判断するに当たっては、当該売買契約書記載の日付のみならず、代金の支払や所有権移転登記をすべき時期等契約の内容、実際の代金の支払や移転登記がされた日などの諸事情を考慮すべきは当然である。

2(一)  本件土地の取得に係る売買契約書の日付は昭和四五年七月二〇日であり(甲一)、原告は、昭和四五年七月二〇日、取締役会において、本件土地の取得を承認する決議をした(甲二、原告代表者)。その後、原告は、昭和四九年七月二〇日、取締役会の決議を経て、本件土地の取得に係る売買契約を更新し、契約書及び取締役会議事録に昭和五〇年一二月二五日の確定日付を得、同年一一月一日、本件土地につき、原告を権利者とし、売買予約を原因とする所有権移転請求権仮登記をした(甲九ないし一一、原告代表者)。さらに、原告は、売買代金の支払が遅延していること及び地価が高騰していることから、昭和五〇年一二月三〇日、取締役会において、売買代金を二億五三〇〇万円に増額変更する決議を行った(甲一三、原告代表者)。

(二)  また、原告は、昭和四六年一〇月一三日、日之出工業株式会社と本件土地の造成工事の請負契約を締結し、大型自動車の出入りのため歩道の切り下げ工事を施工させ、着手金、工事代金を支払った(甲三ないし五の一、二、原告代表者)ほか、昭和四七年七月、原告を施工主とする開発行為申請、造成工事申請を行い、同年一〇月一一に付けで横浜市長より許可通知を受けた(甲七の一、原告代表者)。

昭和五五年九月八日、原告は、本件土地を造成するために佐伯建設工業株式会社と請負契約を締結し、請負代金、公共下水道事業費の負担金、造成工事に関する一切の支払金などは、本件土地を担保に大和銀行横浜支店から融資を受けて支払った(甲一五、一六の一ないし四、一八、原告代表者)。

(三)  原告は、当初、本件土地を諸材料、商品等の格納場及び駐車場として使用していたが、昭和四九年一〇月ころから昭和五五年九月ころまで賃貸駐車場(賃貸車庫)を経営し、その際の自動車保管場所(車庫)賃貸借契約書には、本件土地の所有者が原告である旨記載されている(甲八の一ないし六、原告代表者)。

また、原告は、昭和五〇年一一月ころから昭和五五年九月ころまで、本件土地を川崎物産二反田倉庫として使用し、電気の供給を受け、電気料金を支払っていた(甲一二の一ないし一二)。

原告は、昭和五二年九月ころ、本件土地の国道に面する部分を利用してガソリンスタンドを経営することを計画していた(甲一四ないし三、原告代表者)。

3  他方において、以下の事実が認められる。

(一) 本件土地の取得に係る売買契約書においては、売買代金は二億〇三〇〇万円とされ、その支払時期は、原告が本件土地を宅地に造成して第三者に転売した時、仮に転売できなくても昭和四九年七月末日までには全額を支払うものとし、代金が全額支払われたときは、原告の要求あり次第原告又はその指名する者に所有権移転登記をすることとされていた(甲一)。昭和四九年七月二〇日付けの売買契約書(甲九)では、昭和五〇年七月末日までに代金を支払い、それと同時に所有権移転登記をすべきものとされた。それ以後、売買契約書は作成されていないが、昭和五〇年一二月三〇日、取締役会決議において、本件買入れ代金を二億五三〇〇万円に増額する旨の決議がされ(甲一三)、昭和五七年五月一三日、さらに二五〇〇万円増額する旨の決議がされ、本件土地の取得に係る売買代金はこの時点で二億七八〇〇万円となった(甲二〇)。

原告は、原告代表者に対し、本件土地の取得に係る売買代金として、同年四月五日に五〇〇〇万円、同年五月一五日に二億二八〇〇万円を支払っているが(原告代表者)、本件土地の取得に係る売買代金は、本件売却土地を山口らに売却した代金の中から原告代表者に支払われているところ、原告が山口らと本件売却土地の売買契約を締結したのは昭和五七年四月五日であり、原告は、同日、手付金五〇〇〇万円を山口らから受領している(争いがない。)。

(二) 原告は、本件土地の取得がされたと主張する昭和四五年七月二〇日を含む事業年度以降のいずれの事業年度の確定した決算及び確定申告においても、本件土地を資産として計上したことはなく、本件売却があった本件事業年度の確定申告において初めて本件残土地を資産に計上した(証人金澤、原告代表者)。

(三) 原告は、昭和五五年五月一日から昭和五六年四月三〇日までの事業年度及び昭和五六年五月一日から昭和五七年四月三〇日までの事業年度の法人税の確定申告書において、本件土地に係る賃借料として、月額一〇万円を原告代表者に支払った旨記載し、これを損金経理している。他方、原告代表者は、受領した右賃貸料を不動産所得として所得税の確定申告をしている(乙一四の一、二、一五の一、二、一六の一、二、証人金澤)。

(四) 本件土地を原告に譲渡した原告代表者は、右譲渡に係る譲渡所得について、昭和四五年分以降のいずれの年分においても所得税の確定申告をしていない。被告は、右譲渡に関し、原告代表者に対して、昭和五七年分の所得税の更正及び過少申告加算税の賦課決定をしたが、原告代表者は、右各処分につき、異議申立て及び審査請求を行ったものの訴訟では争わず、右各処分は確定している(証人金澤、原告代表者、弁論の全趣旨)。

4  以上の事実を総合すれば、本件土地の取得において、本件土地の所有権移転時期につき明示の合意はなされていないが、代金の支払と同時に所有権移転登記をすべきものとされているから、所有権が原告に移転するのもこの時とみるのが相当であり、また、代金の支払及び移転登記の履行期につき、原告が本件土地を宅地に造成して第三者に転売した時としつつ、昭和四九年七月末日あるいは昭和五〇年七月末日など確定期限を定めたこともあるが、これらの期限を徒過して長年経過していることからみて、結局、原告が本件土地を宅地に造成して第三者に転売した時、代金の支払と移転登記を履行すべく、これと同時に所有権が移転する旨の黙示の合意があるものと考えされられるところ、代金が完済され、原告又はその指名する山口らに所有権移転登記がなされたのは昭和五七年五月一五日であるから、原告が本件土地を取得したのも、昭和五七年五月一五日というべきである。そして、売主たる原告代表者は、既にみたように、所有権の移転前に原告が本件土地を宅地に造成することを認めていたうえ、同族会社が代表者所有の資産を使用収益することは、世上間々あることであるから、契約書その他に本件土地の所有者が原告である旨の記載がなされているなど2において認定した各事実は、いまだ右認定を妨げるものではない。

二  本件売却土地の所得費について(争点(2))

1  被告は、評価通達及び評価基準に従い、原告が本件土地を取得した昭和五七年当時の相続税評価額に基づいて、本件土地に占める本件売却土地の割合を求め、それを用いて本件売却土地の取得費を計算したのであるが、一括して購入した一団の土地の一部を譲渡した場合の取得費の算定については、例えば所得税の場合には、譲渡部分の全体に占める面積の割合を用いる方法のほかに、譲渡時の価額を用いる方法も認められており(乙二四)、このように複数の評価方法が考えられる場合、課税庁がそのいずれを選択するかはその裁量に委ねられているというべきであり、その選択が不合理で裁量権の範囲を逸脱した場合には、初めてその評価方法に基づいた処分が違法になるというべきである。

2  これを本件についてみるに、被告の選択した評価方法につき、その選択が不合理で裁量権の範囲を逸脱したと表すべき事情は認められず、とりわけ本件においては、本件売却土地の取得費を按分計算する際の割合を求めるために相続税評価額を用いるかどうかが問題であって、これを用いて算出した金額自体が直接に本件処分に影響を及ぼす場合ではないことも考慮すれば、本件売却土地の取得費の算定につき違法を云々することはできない。これに引替え、原告の主張する方法は、本件残土地の時価算定の根拠が明確でなく、合理性、認められない。

三  造成費等について(争点(3))

被告は、本件売却土地の造成費等を算出するに当たり、二とは異なり、本件土地の面積割合を用いているが、造成工事等が本件土地全体に係るものであることから右のような算出方法が採られたものであり、ここにおいても被告の選択した評価方法につき、その選択が不合理で裁量権の範囲を逸脱したと表すべき事情は認められない。

第四本件処分の根拠等

一  本件更正の根拠について(特に示していない場合、計算方法は第二の二と同じである。)

1  原告の本件事業年度における所得金額 一億六二一七万〇八六六円

原告の申告所得金額七九六万四三二六円に土地売却益計上もれ額一億五四八九万九六六七円を加算し、減価償却費認容額二〇万四八五七円及び一般管理費認容額三八万八二七〇円を控除した額である。

(一) 申告所得金額 七八六万四三二六円(争いがない。)

(二) 土地売却益計上もれ額 一億五四八九万九六六七円

本件売却による利益は、売却収入四億四八〇〇万円(争いがない。)から、譲渡原価二億一四六一万五六六八円(本件売却土地の取得費一億六七六七万五二一九円と造成費等四六九四万〇四四九円の合計)を控除した二億三三三八万四三三二円であり、原告の計上もれ額は、一億五四八九万九六六七円(二億三三三八万四三三二円-七八四八万四六六五円)である。

(1) 本件売却土地の取得費 一億六七六七万五二一九円

本件売却土地の取得費は、原告が本件土地を取得した昭和五七年当時における相続税評価額を基準として、本件土地の評価額に占める本件売却土地の評価額の割合を、現実の本件土地の取得費に乗じて算出した額である(乙一八ないし二〇、証人金澤)。

<1> 本件土地の評価額 二億五五五九万八〇〇二円

<2> 本件売却土地の評価額 一億五四一六万三四九三円

<3> 本件土地の取得費 二億七八〇〇万円(争いがない。)

<4> 本件売却土地の取得費 一億六七六七万五二一九円

(2) 造成費等 四六九四万〇四四九円

<1> 佐伯建設工業株式会社に係るもの 四六七二万三九〇八円

本件売却土地の造成費は、右支払金額を本件売却土地と本件残土地との面積に応じて按分計算した額である。

八四〇〇万円(支払額)×一七三〇・二三平方メートル(本件売却土地の面積)÷{一七三〇・二三平方メートル+一三八〇・三七平方メートル(本件残土地の面積)}=四六七二万三九〇八円(ただし、本件売却土地の面積割合は、小数点以下第七位を四捨五入し〇・五五六二三七として計算した。)

<2> 創栄建設株式会社等に係るもの 〇円

原告が創栄建設株式会社、株式会社富士鋼材商会及び有限会社斉藤道路工業に支払った三五七万〇六一五円は、いずれも本件売却後に支払われたものであり(争いがない。)、これらは本件残土地の造成工事に係るものであって、本件売却土地の造成費用ではない。

<3> 横浜市水道局に係るもの 〇円

原告は、横浜市水道局に一〇七万九〇〇〇円を支払った(争いがない。)が、右金額は、本件売却土地の造成費等ではなく、うち六万六二六四円が減価償却費として認められるにすぎない(後記(三))。

<4> 山田建築測量事務所に係るもの 二一万六五四一円

原告は、山田建築測量事務所に対し、七二万一七二〇円を別表四記載の日に各支払っている(争いがない。)。

右金額のうち、二六万三四五〇円は、本件土地の地目変更、分筆測量等の代金であり、(争いがない。)、本件土地全体に係る支出であることが明らかであるから、右金額に本件売却土地の面積割合を乗じて得た一四万六五四一円が本件売却土地の造成費等である(二六万三四五〇円×〇・五五六二三七=一四万六五四一円)。

七二万一七二〇円のうち、七万円は本件売却土地の造成費等である(争いがない。)。

七二万一七二〇円のうち、三八万八二七〇円は本件残土地の地積更正、分筆登記等の代金とみとられるから、本件売却土地の造成費等にあたらず、一般管理費として損金に算入するのが相当である(争いがない。)。

したがって、山田建築測量事務所に係る本件売却土地の造成費等は一四万六五四一円と七万円の合計二一万六五四一円となる。

<5> 川本工業株式会社に係るもの 〇円(争いがない。)

(3) 本件土地の管理費 〇円

原告は、岡武士に対し、昭和五〇年八月から昭和五七年五月までの間、同人のなした本件土地の管理等に対して謝礼金として五〇〇万円を支払ったとするが、前記認定のとおり、原告が本件土地を取得した日は昭和五七年五月一五日であるから、それ以前の謝礼金は、前所有者である原告代表者が負担すべきものである。

(4) 東急建設株式会社に対する金額 〇円(争いがない。)

(5) 特定の資産の買換えによる圧縮損 〇円

前記認定のとおり、原告が本件土地を取得した日は昭和五七年五月一五日であるから、本件売却土地は、措置法六五条の七第一項の表一四号上欄に掲げられている譲渡資産に該当せず、同条の規定の適用はないから、圧縮損の損金算入は認められていない。九万四八一〇円が減価償却費となる(後記(三))。

(三) 減価償却費認容額 二〇万四八五七円

(二)(2)<3>の横浜市水道局への支払額(水道施設利用権)一〇七万九〇〇〇円のうち、水道加入金一五万円分は減価償却資産であり、その減価償却費は四九五〇円である(争いがない。)。また、九二万九〇〇〇円は、公共下水道事業費の負担金であり、水道施設利用権に準じて扱われるところ(法人税法基本通達七-一-八)、その施設の利用権者は原告であるから(甲一七、一九)、右は減価償却資産に該当し(法人税法施行令一三条八号カ、証人金澤)、別表五のとおり計算すると、被告主張のとおり六万一三一四円が減価償却費となる。

(二)(2)<5>の川本工業株式会社への給排水管引込工事代金七四万円のうち、四万三七八三円は減価償却費となる(争いがない。)。

(二)(5)の圧縮損一四九七万円は、前記認定のとおり損金算入が認められず、買換資産である鉄筋コンクリート建物の減価償却費は、別表五のとおり計算すると、被告主張のとおり九万四八一〇円となる(乙二二、弁論の全趣旨)。

(四) 一般管理費認容額 三八万八二七〇円(争いがない。)

2  課税土地譲渡利益金額 二億三一五九万五八六八円

前記認定のとおり、原告が本件土地を取得した日は昭和五七年五月一五日であるから、本件売却土地は、措置法六三条二項の「短期所有土地等」に該当し、その課税土地譲渡利益金額は、次のとおり二億三一五九万五八六八円である。

(一) 譲渡による収益の額 四億四八〇〇万円(争いがない。)

(二) 本件売却土地の譲渡減価の額 二億一四六一万五六六八円

前記本件売却土地の取得費一億六七六七万五二一九円と造成費等四六九四万〇四四九円を合計したものである。

(三) 法定の負債利子(措置法施行令三八条の四第六項一号)

二億一四六一万五六六八円÷一二×一〇〇分の六=一〇七万三〇七八円

(四) 法定の販売費及び一般管理費(措置法施行令三八条の四第六項二号)

二億一四六一万五六六八円÷一二×一〇〇分の四=七一万五三八六円

(五) 課税土地譲渡利益金額((一)-(二)-(三)-(四)) 二億三一五九万五八六八円

二  本件更正の適法性

原告の本件事業年度の課税すべき所得金額は一億六二一七万〇八六六円、課税土地譲渡利益金額は二億三一五九万五八六八円であるところ、本件更正に係る課税すべき所得金額及び課税土地譲渡利益金額は、いずれもその範囲内であるから、本件更正は適法である。

三  本件賦課決定の根拠及び適法性

原告は、確定申告の税額を計算するに当たり、本件更正における納付すべき税額の計算の基礎となった事実をその計算の基礎としていないことが明らかであるから、被告は、昭和六二年法律第九六号による改正前の国税通則法六五条一項に基づき過少申告加算税を賦課決定したものであり、本件賦課決定は適法である。

(裁判長裁判官 佐久間重吉 裁判官 辻次郎 裁判官 伊藤敏孝)

別表一

<省略>

別表二

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別表三

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別表四

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別表五

減価償却費認容

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別表六

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別表七

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別表八

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別表九

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別図1

本件土地取引の概要

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別図2

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