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横浜地方裁判所 昭和49年(ワ)678号 判決 1977年6月21日

原告

永井江理子

ほか一名

被告

横浜市

ほか二名

主文

一  被告清水正昭は、原告永井高子に対し金九九七万〇一〇二円及び内金九五二万〇一〇二円に対する昭和四九年五月一六日より完済まで年五分の割合による金員を、原告永井江理子、同永井真理子に対し各金六八七万〇一〇二円及び各内金六五七万〇一〇二円に対する右同日より完済まで右同割合による金員を支払え。

二  原告らの被告湘南梱包運輸株式会社及び同横浜市に対する請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用中原告らと被告清水正昭との間に生じた分は右被告の負担とし、原告らと被告湘南梱包運輸株式会社及び同横浜市との間に生じた分は原告らの負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、各自、原告永井高子に対し金九九七万〇一〇二円及び内金九五二万〇一〇二円に対する昭和四九年五月一六日より完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告らは、各自、原告永井江理子、同永井真理子に対し各金六八七万〇一〇二円及び各内金六五七万〇一〇二円に対する昭和四九年五月一六日より完済まで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決及び仮執行の宣言を求める。

二  請求の趣旨に対する被告らの答弁

1  原告らの請求をすべて棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

との判決を求める。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  交通事故の発生(以下、本件事故という。)

(一) 日時 昭和四七年一一月二八日午後九時五〇分頃

(二) 場所 横浜市戸塚区上倉田町四四五番地先神奈川県道上(以下、本件道路という。)

(三) 加害者 被告清水正昭

(四) 被害者 永井頼行

(五) 加害車 被告清水所有の普通乗用自動車ニツサンブルーバード一六〇〇(横浜五五―り―七一七三)

(六) 事故態様 被告清水運転の加害車が、前記日時場所において、歩行中の被害者に衝突し、被害者に対し頭蓋骨々折の傷害を負わせ、よつて、同月二九日午前九時五〇分頃、被害者を死亡させた。

2  原告らと被害者との身分関係

原告永井高子は被害者の妻、原告永井江理子、同永井真理子はそれぞれ被害者の長女、二女である。

3  被告清水の責任

(一) 被告清水は、加害車を所有し、自己のため運行の用に供していたものであるから、自賠法三条に基づく損害賠償責任がある。

(二) 被告清水は、前記日時、場所において、加害車を運転して大船方面から戸塚方面に向け進行中、運転開始前に飲んだ酒の酔いのため注意力が散漫となり、前方注視が困難な状態になつたにかかわらず、直ちに運転を中止することなく、漫然、運転を継続した過失により折柄、進路前方の本件道路西側部分を加害車に対面して歩行していた被害者に気付かず、加害車の左側前部を被害者に衝突させ、本件事故を惹起したものであり、民法七〇九条に基く損害賠償責任がある。

4  被告湘南梱包運輸株式会社(以下、被告会社という。)の責任

(一) 被告会社は、その従業員の自動車運転手である被告清水をして、加害車を使用し家庭電化製品の保管、集配送等の会社業務に従事させていた。

(二) 加害車の保管場所は、被告会社の構内である。

(三) 被告会社総務部長岡本庄太郎は、被告清水が加害車を購入した際、同被告のため、購入代金債務を連帯保証した。

(四) 以上の事実からして、被告会社が加害車の運行供用者であることは明らかであり、被告会社は、自賠法三条に基づく損害賠償責任がある。

5  被告横浜市(以下、被告市という。)の責任

(一) 本件道路は神奈川県道で、道路法一七条により被告市がこれを管理している。

(二) 本件事故現場附近において本件道路は幅員が約七・五メートルあつて、(イ)東側、幅員約〇・五メートルの側溝、(ロ)中央部分、幅員約六・五メートルのアスフアルト舗装された車道、(ハ)西側、幅員約〇・五メートルの未舗装の部分(以下、未舗装部分という。)に区分されている。そして、本件道路は、その西側の約二メートル低くなつている幅員約二・五メートルの水路と接している。

(三) 未舗装部分は、本件道路の歩道であり、仮に、歩道でないとしても、本件道路の路肩である。路肩の機能が道路の主要構造部を保護するものであることは勿論であるが、歩、車道の区別のない道路では、歩行部分となるものであつて、本件道路においても未舗装部分が現実に歩行の用に供されていたものであり、そのため、未舗装部分と水路との境界附近にガードレールが設置されていた。

(四) 本件道路の本件事故現場附近は、人、車ともに交通量の多い場所であるが、車道部分は幅員が前記のとおり約六・五メートルにすぎず、人が自動車と対面して歩行する場合には危険が伴うし、附近に街路燈がないので、特に夜間には危険が増大する。そのため、歩行者は、危険を未然に避けて未舗装部分を通行していた。

(五) ところが、本件事故発生当時、未舗装部分は本件事故発生現場附近で約二〇メートルに亘つて水路に崩壊していたにもかかわらず、被告市はこれをそのまま放置し何らの処置をとらなかつた。

(六) 被害者は、そのため、夜間、本件事故現場附近において本件道路の車道部分の西側を歩行することを余儀なくされ本件事故に遭遇したものである。

(七) 前記のとおり未舗装部分が崩壊していたことは、未舗装部分が本件道路の歩道ないしは歩行の用に供されていた路肩であることに鑑みると、本件道路が通常備えるべき交通上の安全性を欠いていたことにほかならないのであつて、被告市が未舗装部分の崩壊を放置していたことは、同被告の本件道路の管理につき瑕疵があつたものといわねばならない。

(八) 本件事故は、右のとおりの被告市の本件道路管理の瑕疵と前記のとおり被告清水の過失が競合して発生したものである。未舗装部分が崩壊した状態で放置されてなければ、被害者は未舗装部分を歩行し、本件事故に遭遇することもなかつたのであるから、本件道路の管理につき被告市に瑕疵があつたことと本件事故との間には相当因果関係があることは明らかである。

(九) 従つて、被告市は、国家賠償法二条に基づく損害賠償責任がある。

(一〇) 被告市の自白の撤回に対する異議

被告市は昭和五〇年一〇月七日午前一〇時の口頭弁論期日において、未舗装部分が路肩であることを認めたが、昭和五一年一二月七日午前一〇時の口頭弁論期日において、未舗装部分は水路敷であるとして、未舗装部分が路肩であることを訂正すると主張した。しかしながら、右訂正は自白の撤回に相当するので、原告らは、右自白の撤回に異議がある。

6  損害

(一) 逸失利益 金二〇二一万〇三〇五円(原告ら各自につき金六七三万六七六八円)

被害者は、本件事故当時三二歳で、大和商事株式会社に勤務していた。本件事故により死亡した被害者の逸失利益の損害は別紙逸失利益計算表記載のとおり金二〇二一万〇三〇五円であるが、原告らは、各自の相続分に応じて各三分の一に当る金六七三万六七六八円宛の損害賠償請求権を相続により取得した。

(二) 慰藉料

(1) 原告永井高子につき金四〇〇万円

(2) 原告永井江理子、同永井真理子につき各金一五〇万円

被害者は、夫として、父として、原告らの家庭の支柱であつた。原告らの年齢、境遇等に、本件事故により被害者を失つた悲嘆と原告らが将来経験しなければならない苦難等を考慮すれば、原告らに対する慰藉料額は前記各金額を下るものではない。

(三) 葬儀費用 金三〇万円

原告永井高子は、被害者の葬儀費用としてすくなくも金三〇万円を支出し同額の損害を蒙つた。

(四) 弁護士費用

(1) 原告永井高子につき金六〇万円

(2) 原告永井江理子、同永井真理子につき各金三〇万円

原告らは、本件訴訟を原告ら訴訟代理人らに委任し、原告ら訴訟代理人らに対し、原告永井高子は着手金一五万円を支払い、本件事件終了後、報酬金四五万円を支払うことを約束し、原告永井江理子、同永井真理子は、本件事件終了後各報酬金三〇万円を支払うことを約束した。

(五) 損害の填補

原告らは、本件事故による損害につき自賠責保険金五〇〇万円の支払を受け、各自の相続分に応じ三分の一に当る各金一六六万六六六六円を取得したので、それぞれこれを本件事故による各自の損害の填補として充当する。

(六) 結論

以上のとおり、原告永井高子の損害は逸失利益の損害金六七三万六七六八円、慰藉料金四〇〇万円、葬儀費用金三〇万円、弁護士費用金六〇万円の合計金一一六三万六七六八円から右填補金額を差引いた金九九七万〇一〇二円であり、原告永井江理子、同永井真理子の損害は、それぞれ、逸失利益の損害金六七三万六七六八円、慰藉料金一五〇万円、弁護士費用金三〇万円の合計金八五三万六七六八円から右各填補金額を差引いた金六八七万〇一〇二円である。

よつて、被告ら各自に対し、原告永井高子は金九九七万〇一〇二円及び弁護士報酬金四五万円を除く内金九五二万〇一〇二円に対する本件訴状送達の日の翌日である昭和四九年五月一六日より完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を、原告永井江理子、同永井真理子は各金六八七万〇一〇二円及び弁護士報酬金三〇万円を除く内金六五七万〇一〇二円に対する右同日より完済まで右同割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する被告清水の認否

1  請求原因1、2項の事実は認める。

2  同3項の(一)の事実中被告清水が加害車を所有していたことは認め、同(二)の事実は否認する。

3  同6項の事実は争う。

三  被告清水の抗弁

仮に、被告清水が本件事故の発生につき責任を負わねばならないとしても、被害者には本件道路の歩道部分を通行できるのに、西側縁石から道路中央寄りに約一メートル離れた車道部分を歩行した過失があり、本件事故は右過失も一因となつて発生したものであるから、本件事故による損害賠償額の算定に当つて過失相殺がなされるべきである。

四  右抗弁に対する原告らの認否

右抗弁事実を否認する。

五  請求原因に対する被告会社の認否

1  請求原因1項の事実は認める。

2  同2項の事実は知らない。

3  同4項の(一)、(二)の事実は否認する。加害車の保管場所が被告会社の構内として届けられているが、実際の保管場所は、被告会社が自動車通勤の従業員のため借受けた他の場所である。同(三)の事実は認めるが、これは、右被告に依頼されて個人的にしたものであつて、同人の職務とは全く関係がない。

4  同(四)の主張は争う。同6項の事実は争う。

六  同被告市の認否

1  請求原因1、2項の事実は知らない。

2  同5項の(一)の事実は認めるが、同項のその余の事実は否認する。本件道路は歩、車道の区別のない幅員約六・五メートルの道路で、もと、農道であつたが急激な市街化による交通量の増大に対応して路肩部分(本件道路の西側縁石より中央部分寄りの幅員約〇・五メートルの部分)までアスフアルト舗装し改良されたものである。そして、未舗装部分は水路敷であつて本件道路の歩道ではない。又、未舗装部分を歩道の用に供してもいない。原告が主張する崩壊箇所は水路敷の土上げ部分であつて、本件道路の歩道又は路肩が崩壊したものではない。従つて、右崩壊について、被告市は本件道路の管理者として何らの責任を負うものではない。本件事故は、被告清水が酒酔い運転によつて、加害車を左右に蛇行進行させ、惹起されたものである。

第三証拠〔略〕

理由

一  まず、被告清水の責任について判断する。請求原因1項の事実については、原告らと被告清水との間において争いがない。又、被告清水が加害車を所有していた事実については、原告らと被告清水との間において争いがないから、特段の事情のない限り、被告清水は加害車を自己のため運行の用に供していたものというべきところ、右特段の事情については何の主張・立証もない。以上によれば、被告清水は、自賠法三条に基く損害賠償責任を負わねばならないものといえる。

そこで、被告清水の過失相殺の抗弁について判断するにいずれも、右当事者間において、その成立に争いのない甲第四号証の四ないし一〇、同号証の一三及び一九、被告清水正昭本人尋問の結果の一部を総合すれば、本件道路は歩、車道の区別のない幅員約六・五メートルのアスフアルト舗装された道路であること、被告清水は、請求原因1項記載の日時、場所において、加害車を運転して大船方面から戸塚方面に向け、時速約四〇キロメートルの速力で進行中、運転開始前に飲んだ酒の酔いのため、注意力が散漫となり、判断力が低下したにもかかわらず、なおも運転を継続し、本件事故現場手前に差しかかり、進行方向の本件道路左側を加害車に対面して歩行していた女性を約一二メートル前方に認めたので、同女の側方を通過するに際し同女と充分な間隔を保持するため転把して加害車の進路を右方に変え、本件道路の中央部分に進出したところ、その直後に、対向車の前照燈に幻惑され前方注視が困難となつたが、狼狽の余り、突嗟に前記速度のまま転把して加害車の進路を左方に変えたこと、ところが、当時、前記女性に続いて被害者が本件道路西側の縁石から道路中央寄りに約一メートル離れた部分(加害車の進行方向からみて道路左側部分)を加害車に対面して歩行していたのであるが、被告清水は被害者に気付かず、前記のとおり前方注視が困難な状態で左に転把した地点から約五・九メートル進行して加害車の左側前部を被害者に衝突させ、被害者を約七・五メートル左斜前方の水路に転落させて本件事故を発生させたことが認められる。被告清水正昭本人尋問の結果中右認定に反する供述部分は措信することができず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定の事実によれば、本件事故は、被告清水が飲酒により酩酊し、注意力が散漫となり判断力が低下したにもかかわらず、直ちに運転を中止することなく、漫然、運転を継続し、かつ、対向車の前照燈に幻惑され前方注視が困難となつたにもかかわらず、停止、減速することなく、狼狽の余り、同一速度のまま前方注視が因難な状態で転把して進路を左右に変更して進行した過失により発生したものであることは明らかである。

しかしながら、本件道路は前記のとおり歩、車道の区別のない幅員約六・五メートルの道路であつて、被害者が本件事故直前に歩行していた本件道路の前記西側部分は、一般歩行者が右の程度の歩、車道の区別のない道路を歩行すべき部分でないとまではいえないのであるから、歩行方法につき、被害者に過失があつたものとすることはできず、他に、被害者の過失を認めるに足りる証拠はないので、右被告の過失相殺の抗弁は失当である。

二  次に、被告会社の責任について判断する。請求原因1項及び4項の(三)の各事実については、原告らと被告会社との間において争いがないが、被告会社が本件事故当時、加害車を会社業務のために使用する等自己のため運行の用に供していた事実を認めるに足りる的確な証拠はなく請求原因4項の(三)の事実も、被告会社代表者の供述によれば、岡本が被告清水に依頼されて個人的に連帯保証したものにすぎず、同人の被告会社における総務部長の職務遂行としてなされたものではなく被告会社とは何ら関係がないことが認められるのであるから、右事実を以て、被告会社が加害車を自己のため運行の用に供していた証左とすることはできない。かえつて、いずれも、右当事者間において、その成立に争いのない甲第四号証の八ないし一〇、被告清水正昭本人尋問の結果、被告会社代表者の供述を総合すれば、加害車は被告清水の所有で、同被告が自己のため運行の用に供していたものであつて、本件事故は、同被告が被告会社を退勤後友人寺田誠方において飲酒して、一旦帰宅してから右寺田を同乗させ、加害車を運転してボーリング場に行く途中発生したものであることが認められるのであるから、被告会社に対し自賠法三条に基く損害賠償責任を負わせることはできないものといわぬばならない。

三  被告市の責任について判断する。請求原因5項の(一)の事実については原告らと被告市との間において争いがなく、いずれも、右当事者間においてその成立に争いのない甲第三号証の一ないし三、第四号証の四ないし一〇、同号証の一三及び一九、第八号証の一ないし四、同乙第一号証及び第二号証の一ないし八、証人金子芳蔵の証言、検証の結果、原告永井高子、被告清水正昭(一部)の各本人尋問の結果を総合すれば、本件道路が歩、車道の区別のない幅員約六・五メートルのアスフアルト舗装された道路であること、本件事故態様の詳細が理由一項に認定したとおりであること、更に、本件道路の西側には道路から水面までの高低差約二メートル、幅員約二・九メートルの水路があつて、本件道路と右水路との間は道路縁石を間に置いて、場所により多小の広狭があるが、本件道路と同一平面をなす幅員約〇・三メートルの未舗装部分(原告らが本件道路の歩道又は路肩と主張する未舗装部分)と水路に向つて低くなる傾斜面とからなる盛土部分があつて、この未舗装部分には、本件道路に沿つて、本件道路との間に約〇・二メートルの余裕を残してガードレールが設置されてあること、本件道路の本件事故現場附近は交通量が人、車とも比較的多いところであつて、本件道路の西側部分を歩行中、自動車が側方を通過する場合等には、未舗装部分を歩行して自動車を避ける歩行者が多いこと、本件事故現場附近の未舗装部分が本件事故発生の二、三カ月前から十数メートルに亘つて水路に崩れ落ちたまま放置されていたことが認められる。ところで、原告らは、未舗装部分が右のとおり水路に崩れ落ちた状態で放置されてなければ、被害者は未舗装部分を歩行し、本件事故に遭遇しなかつたことは明らかであるので、本件道路の管理につき被告市に瑕疵があつたことと本件事故発生との間には相当因果関係があると主張するのであるが、前認定のとおり、被害者が歩行していた部分は、歩、車道の区別のない本件道路の西側の縁石から道路中央寄りに約一メートル離れた部分であつて、右歩行の位置に照らせば、縁石の外側に約〇・二メートルの未舗装部分が崩れ落ちずに残つていれば、被害者がその未舗装部分を通行したであろうとか、又は、少くとも約〇・二メートル縁石寄りを通行したであろうとかと推断することはできず、さらに、被害者の歩行の位置から西側の縁石までは約一メートルの余裕があつたうえ、前掲甲第四号証の四、一三に照らせば、加害車の左前角が被害者と衝突した事実を認めることができるのであるから、右未舗装部分がなくても、被害者が加害車との衝突を避けることは十分可能であつた(但し、これをしないことが被害者の不注意とまでいいえないことは、理由一に説示のとおりである。)のであり、さらに、右認定のとおり、被告清水さえ本件事故発生の直前に被害者とほぼ同じ方法で本件道路の西側部分を歩行していた女性を認めて前記のとおりの事故回避の措置をとつているのであり、これらの諸点に鑑れば、歩、車道の区別のない道路の歩行者一般に存在する交通上の危険は別として、被害者が、右未舗装部分が崩れ落ちていたために、前記位置を歩行して身を交通事故の危険にさらすことを余儀なくされたということはできず、本件交通事故が発生したのは、被告清水が加害者の運転に前記のとおりの過失を犯したからにほかならないことになり、結局、右未舗装部分が崩れ落ちていたことと本件事故発生との間に相当因果関係はないものといえるのであるから、未舗装部分が歩行の用に供されていた本件道路の一部であるか否かの点は兎も角として、被告横浜市に国家賠償法二条に基く損害賠償責任を認める余地はない。

四  原告らの損害について検討する。

(一)  逸失利益金二八三五万六五三七円(原告ら各自につき金九四五万二一七九円)

いずれも原告らと被告清水との間においてその成立に争いのない甲第一号証の一、二、第二号証、原告永井高子本人尋問の結果を総合すれば、被害者が、昭和一五年五月一〇日生で本件事故当時三二歳の健康な男子で、本件事故当時、大和商事株式会社に勤務し、同会社から、本件事故直近三カ月において、昭和四七年九月分、同年一〇月分及び同年一一月分の給与として、それぞれ金一〇万七一六四円、金一一万四五二三円及び金一〇万三〇六四円の支給を受けたほか、同年七月分賞与として金一七万五〇〇〇円、本件事故後に同年一二月分として金一七万一七〇〇円の支給を受けた事実を認めることができる。ところで、原告らは、被害者の生活費がその収入の三分の一であることを自陳するので、これらの事実に照らせば、被害者の本件事故当時の年間の純収入は、右認定の昭和四七年九月分ないし一一月分の給与合計金三二万四七五一円を三カ月で除して一二月を乗じた金一二九万九〇〇四円に右認定の賞与合計金三四万六七〇〇円を加えた総合計金一六四万五七〇四円に三分の二を乗じた金一〇九万七一三六円となる。右認定を左右する証拠はない。又、右事実に照らせば、被害者は、本件事故の後六七歳に達するまで少くとも三四年間稼働し、その間、毎年少くとも右認定の水準による純収入を得ることができたといえるところ、本件事故の後、勤労者の給与の水準が、昭和四八年及び昭和四九年にそれぞれ平均前年比二〇・一パーセント及び三二・九パーセント上昇したことは公知であつて、被害者の収入も右の割合で上昇したものと推認することができるから、以上の事実を基礎にして、被害者が本件事故により喪失した全稼働能力の現在の価額をライプニツツ式計算方法により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると、右年間純収入金一〇九万七一三六円に右給与上昇率一・二〇一及び一・三二九並びに右三四年間のライプニツツ係数一六・一九二九〇四〇一を乗じた金二八三五万六五三七円となり、被害者は、本件事故により死亡し右得べかりし利益金二八三五万六五三七円を喪失し同額の損害を蒙つたものということができる。そして、請求原因2項の事実については右当事者間において争いがないので、原告らは各自相続分に応じ、右逸失利益による損害賠償請求権を各三分の一に当る金九四五万二一七九円宛相続により取得したことが明らかである。

(二)  慰藉料

(1)  原告永井高子につき金四〇〇万円

(2)  原告永井江理子、同永井真理子につき各金二〇〇万円

本件事故の態様、被害者と原告らの身分関係等に被害者を失つた原告らの悲嘆と原告らが将来経験しなければならない苦難その他諸般の事情を斟酌すれば原告らに対する慰藉料額は、前記金額を以て相当と認める。なお、本件記録によれば、原告らが本件訴状を提出したのが昭和四九年五月一三日であり、本判決言渡しまでの期間が約三年に及んでいる事実が明らかであるが、同時に、右期間の多くが被告市に対する請求の当否のために費されており、この請求が排斥を免れないことは前述のとおりであつて、この点に鑑みれば、右のとおり審理に約三年を要したことにより被告清水に不利益を負わせることができないことは当然であつて、この点も、本件慰藉料額を定める一つの要素とする。さらに、前記逸失利益の算定に当つて、昭和五〇年以降の給与水準の上昇を考慮しないのも、同様の考慮によるものであることを付言する。

(三)  葬儀費用 金三〇万円

原告永井高子本人尋問の結果によれば、同原告が被害者の葬儀費用として金三〇万円をくだらない支出をし同額の損害を蒙つたことが認められる。

(四)  弁護士費用

(1)  原告永井高子につき金六〇万円

(2)  原告永井江理子、同永井真理子につき各金三〇万円

原告永井高子本人尋問の結果によれば、原告らが本件訴訟を原告ら訴訟代理人に委任し、請求原因6項の(四)記載のとおり着手金の支払をし、報酬金の支払を約定したことが認められるところ、本件訴訟に顕われた一切の事情を考慮してその全額を本件事故による損害と認めるのを相当とする。

(五)  損害の填補

原告らが本件事故による損害につき自賠責保険金五〇〇万円の支払を受け、各自の相続分に応じ三分の一に当る各金一六六万六六六六円を取得し、それぞれこれを本件事故による損害の填補として充当したことは、原告らの自陳するところである。

五  以上のとおりであるから、原告永井高子は被告清水に対し前記逸失利益の損害金九四五万二一七九円、慰藉料金四〇〇万円、葬儀費用金三〇万円、弁護士費用金六〇万円の合計金一四三五万二一七九円から右填補金額を差引いた金一二六八万五五一三円及び未払いの弁護士報酬金四五万円を除く内金一二二三万五五一三円に対する本件訴状送達の日の翌日であることが記録上明白な昭和四九年五月一六日より完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を、又、原告永井江理子、同永井真理子は、右被告に対し、各、前記逸失利益の損害金九四五万二一七九円、慰藉料金二〇〇万円、弁護士費用金三〇万円の合計金一一七五万二一七九円から右各填補金額を差引いた金一〇〇八万五五一三円及び弁護士報酬金三〇万円を除く内金九七八万五五一三円に対する右同日より完済まで右同割合による遅延損害金をそれぞれ請求することができることとなるが、原告らの本訴請求は、いずれも、右金額を下廻るのであるから、原告らの被告清水に対する本訴請求をすべて正当として認容し、被告会社及び被告市に対する各請求は、爾余の争点について判断するまでもなく理由がないのでいずれも、これを失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条一項本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 高瀬秀雄 江田五月 清水篤)

逸失利益計算表

<1> 給料 年1,299,000円

(昭和47年9月分給料107,164円+同年10月分給料114,523円+同年11月分給料103,064円)÷3か月×12か月=1,299,000円

<2> 賞与 年346,700円

昭和47年7月分175,000円+同年12月分171,700円=346,700円

<3> 年間総収入 1,645,700円

<1>の給料1,299,000円+<2>の賞与346,700円=1,645,700円

<4> 年間純収入 1,097,134円

<3>の総収入1,645,700円-<3>の総収入

1,645,700円×生活費割合1/3=1,097,134円

<5> 逸失利益 20,210,305円

<4>の純収入1,097,134円×就労可能年数31年のホフマン係数18.421=20,210,305円

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